楽器


ギターバ(ヴァ)イオリン(提琴)チェロセロハープトランペットサックスピッコロオカリナフルート(グランド)ピアノチェンバロ(パイプ)オルガンシンセサイザーウクレレオーボエクラリネットサキソホンホルンラッパ 喇叭●ティンパニー●シンバルハープハーモニカ独奏ピアニストチェリスト●ギタリスト●琴(大正 馬頭)木琴尺八太鼓琵琶三味線篳篥バンドネオンカスタネットカリヨンささらオルゴールタンバリンマンドリン●トライアングル ●コンガ ●マラカス ●トロンボーンアコーディオン 手風琴


●ギター
アンダルシアふうの昼過ぐ ギター曲 昇天の 伊丹公子 パースの秋
キャンプの荷一番上にギターのせ 下村梅子
ギターくくりつけてキヤンプの荷を了る 青葉三角草
ギターの音春分の日の寺にかな 藤井寿江子
ギターほろと時雨やどりの辻楽師 桂樟蹊子
ギター工房時に羚羊覗く窓 能谷みつ子
ギター弾くも聴くも店員終戦日 高島茂
ギター弾く南大門の春の暮 高橋幸子
ギター弾く男二つに折れし男 菅野丹吾
ギター持ち帰郷バス待つ大晦日 近藤勇夫
ギター流し口皺深く唄ひけり 八木林之介 青霞集
ギター流し汗の口皺深かりき 八木林之助
ギター鳴るひと間もありぬ雛の宿 山田弘子 懐
リラの夜のギターぽろぽろ窓あかり 吉原文音
乙女等のギターつまびく花氷 伊丹さち子
五月来る運河にギター沈みゐて 皆吉司
寒潮へひとを信じて鳴らすギター 桂信子 花寂び 以後
帰省子を待つ地球儀とギターかな 黛まどか
年暮るゝ白衣楽師のギターの紐 百合山羽公 故園
弾き損じたギター 国境へ散り散りに 伊丹公子 パースの秋
新月の宝前に弾くギターかな 田中由子
星月夜ゴーシユの如くギター弾く 松清まゆこ
春の日がおよぶギターの響き孔 青柳志解樹
月光に掻き鳴らすギターは出鱈目 加倉井秋を 『胡桃』
朧夜を流すギターやサンタ・ルチア 寺田寅彦
死者に抱かすギター全線張りつめて たむらちせい
煤払ギターの弦に触れにけり 本宮鼎三
白鳥消ゆ荒壁の中にギターと星 和田悟朗
薺爪ギター弾く爪のこしけり 平林孝子
遺作展の舟・鳥・ギター鳥曇 中戸川朝人 尋声
隣室のギターやみ日暮の冬の屋根 古沢太穂 古沢太穂句集
青いギター買はされさうな夏はじめ 田中幸雪
高原の秋運転手ギター弾く 木村蕪城 一位
高階にさそり座を飼いギター弾き 八木三日女 落葉期
高音部奏でしギター蟻地獄 栗林千津
●バ(ヴァ)イオリン(提琴)
おかめよヴァイオリンもささらほうさらとえんまこおろぎ 橋本夢道 無類の妻
バイオリンがセ口を追ひ越す春の水 今瀬剛一
バイオリンずいこずいこと颱風ひく 高澤良一 燕音
バイオリン・ソナタ秋思を奏でけり 堀口星眠
ピアノは地ヴァイオリン春の空ながる 八牧美喜子
ヴァイオリン作る小村のクリスマス 京極杞陽
冬が来る袋の中のヴァイオリン 斉藤夏風
天井に吊るヴァイオリン山眠る 磯貝碧蹄館
定型やヴァイオリンにて野菊打つ 攝津幸彦
晩秋や家の何処かでバイオリン 小松原みや子
枯蓮にヴァイオリンは来つつあり 安井浩司 密母集
浮かれヴアイオリンそこら花ござ花ことば 阿部完市 にもつは絵馬
空澄みにけり手づくりのヴァイオリン 白石圭子
竜田姫手すさびに弾くヴァイオリン 多々良敬子
静夜にてかのバイオリン雪降らす 鈴木六林男 桜島
麦穂なせる第一ヴァイオリンの遅れ 加藤郁乎
リラの花弾く提琴の弓白し 村田白峯
提琴に提弓失せし父の日よ 松山足羽
提琴をチェロが守りぬ幸福なるかな 小田武雄
玻璃うちに提琴をはる青あらし 桂樟蹊子
●チェロ
あまき音のチェロが壁越し四月尽 秋元不死男
ふるぼけしチェロ一丁の僕の冬 篠原鳳作
チェロの音にベースを重ね山眠る 吉原文音
チェロ弾きの弓の先より秋深む 小堺美保子
チェロ弾くと竹林を出る盆の月 脇本星浪
チェロ抱いて京を落ちくる卒業子 赤松[ケイ]子
チエロ弾くに似合ふは三十路枇杷の花 和田耕三郎
冬の月チェロを弾く人をまなかひに 蒲生 幸
冬の雷チェロのケースに届くべし 吉田紫乃
夕霰等身のチエロはこばるる 塚本邦雄
夢の中で燃えてゐるチェロ西行忌 皆吉司
幽霊の基礎平面がチェロである 夏石番矢 人体オペラ
提琴をチェロが守りぬ幸福なるかな 小田武雄
春陰といふべきチェロのf学孔 野中 亮介
昼寝人無伴奏チェロ聴きながら 仰木三知子
暖房車爪先触れてチェロ・ケース 鈴木栄子
暖房車青年チエロを立てて坐す 大山さちを
沖縄はチェロのかたちで真夏です 隈元拓夫
真夏の夜チェロのくびれに手を休む 角谷昌子
紅葉かつ散るやチェロから音漏れて 岩淵喜代子 硝子の仲間
花の夜の友の祖父なるチェロ奏者 和田耕三郎
花冷の機内に一つチェロの席 石崎多津子
虫しぐれチエロの全身がらんどう 吉原文音
虫しぐれ童話の虫はチェロを弾き 水木 鈴子
賢治忌やいまに鳴りだすチエロひとつ 道山昭爾
辰雄忌の店頭に坐すチェロ一つ 岡田貞峰
酒蔵のチェロの音夜長を熟成す 千田初江
●セロ
かりがねや老セロ弾きのにほひ立つ 宮坂静生 樹下
その中にセロつかまつる蛙かな 軽部烏頭子
ふるぼけしセロ一丁の僕の冬 篠原鳳作(1905-36)
カサルスのセロ聞えくる処暑の朝 堀島濤平
セロの夜ぞこころ逸れゆく妹の上 伊丹三樹彦 人中
セロ弾きのゴーシユゐるらむ露の夜 上田日差子
セロ弾きのゴーシユ忘るな百千鳥 攝津幸彦 未刊句集
セロ弾きゴーシュ居そうな 木洩れ日珈琲館 中田敏樹
セロ弾けば月の光のうづたかし 篠原鳳作
持ちかへてセロ抱く少女ユッカ咲く 池亀恵美子(*ろうかん)
春愁のセロ抱き弾くは父の影 松山足羽
月の夜のセロ弾きゴーシユくつわ虫 岡部義男
梟はセロのどの弦弾けば鳴く 川代くにを
楽はいまセロの主奏や氷菓子 松尾いはほ
白鳥をセロの函にて運ぶなり 山野みどり
艶生きて鳴り出すセロも夜寒のもの 宮津昭彦
●ハープ
ハープひく漁港の船の夏至白夜 飯田蛇笏 春蘭
ハープひく男の指や地下の夏 皆吉司
ハープよりこぼれし指の冷じき 四ツ谷龍
冬麗の雪吊ハープ鳴るごとし 大串章
教会にハープのつどひ花八つ手 大島民郎
春愁の身を寄せて弾くハープかな 野矢久美子
春浅し奏ではじめしハープ橋 村井杜子
秋の薔薇雲はハープのかたちして 仙田洋子 雲は王冠
雪催ハープ奏者を立たせたく 鳥居美智子
●トランペット
かはたれのトランペットや社会鍋 山本歩禅
そつと吹くトランペツトや終戦忌 椎木十枝緒
トランペットの一音#して芽吹く 浦川 聡子
トランペット凍むや阪神忌のあかり 中野由美
トランペット吹き鰯雲ひろごらす 冨田みのる
トランペット吹けばいよいよ黄沙降る 塩路隆子
トランペット晩夏真赤にまつくらに 小檜山繁子
トランペット音詰まりながら冬川原 児玉けんじ
トランペット鳴き上げて師走大詰め 河野多希女 彫刻の森
トランペツトの一音#して芽吹く 浦川聡子
ニグロのひげトランペツトを吹く月夜 有馬朗人 母国
レモンかじる 今宵も壁越しトランペット 松本恭子 檸檬の街で
ロボツトがトランペツトを吹くうらら 片岡千代子
冬の星トランペットにふりかかる 伊林たか
冬日が磨く骨董市のトランペット 西村和子 かりそめならず
冬木等にトランペットを聴かせゐる 西村和子 かりそめならず
刃物の町来て夕焼のトランペット 中村明子
春の暮トランペツトの足らぬ息 木内怜子
春闘妥結トランペットに吹き込む息 中島斌雄
木槿咲くトランペットの破調音 遠山弘子
桜咲く音を吐きだすトランペット 新城莉一
熊ん蜂トランペットは金ピカに 成田千空
秋麗のトランペツトの一人かな 佐藤朝子
緑蔭にトランペットを吹く少女 三浦辰郎
聖金曜トランペットは転調す 山地春眠子
雲の峰トランペットを提げ戻る 郷田喜久江
●サックス
サックスの泣く夕暮れや冬ざるる 河村華風
サックスの低音が好き冬銀河 下条冬二
●ピッコロ
ピッコロ吹いて夕空がきこえる 田中伸和
●オカリナ
うつぶせの君はオカリナ草いきれ 塩見恵介
オカリナに湖秋色を深めける 木下ふみ子
オカリナのおやすみなさい猫じやらし 甲田夏湖
オカリナの少年雪の夜の地下街 石寒太 翔
オカリナの震える調べ秋の夕 菅原栄子
オカリナの音にはじまる虎落笛 池田祥子
オカリナの音に耳貸して居待月 塩田晴江
オカリナの音は紬色鳥渡る 小泉静子
オカリナや夜店の裏は潮満ちて 西村明
オカリナを吹き二代目の渡り漁夫 小平 湖
オカリナを吹き売る秋のカレル橋 森田公司
オカリナを吹く子冬山光り出す 的矢郁子
オカリナを吹けば 桜が寂しくなる 路清紫
人消えて陶鳩笛(オカリナ)湧けりすすき原 平井さち子 鷹日和
望郷のオカリナ駅に年の暮 沢 聰
桜蘭にオカリナ吹かな秋立ちぬ 菅原鬨也
海風を渡るオカリナ雲涼し 吉原文音
窯場よりオカリナ聞こゆ良夜かな 久米恵子
素通りの風はオカリナ放生会 森本青三呂
●フルート
フルートといふ横笛に秋の風 庄中健吉
フルートになりし男の端居せる 川崎展宏
フルートの指の優しさ春霧氷 文挟夫佐恵 雨 月
フルートの調べやさしき朝曇 高橋 君枝
フルートを吹かずにおれば羽抜鶏 伊達甲女
フルート吹く盲人春は逝くものを 有働亨 汐路
フルート曲杉一本づつ雪ふらす 桜井博道 海上
壁夜寒フルートとならび義手かかり 中戸川朝人 残心
寒き目をしてフルートに息入るる 浦川 聡子
寒昴フルートの音は続きをり 冨田弥生
少年のフルートを吹く十三夜 大高千代
市振の子がフルートを秋の雨 大橋敦子
細い首のわれらフルートと空愛す 宮越京子
風はフルート 砂丘で髪が絶望して 伊丹公子 メキシコ貝
●(グランド)ピアノ
あねはあおさぎ漆黒のピアノに映る 金子弘子
いまここにピアノの音欲し露の庭 山口波津女 良人
うららかや一本指のピアノ音 足立悦子
けだるさやピアノの上の春埃 筑間美江
こがらしをピアノ売りたる部屋にきく 澁谷道
この夏を妻得て家にピアノ鳴る 松本たかし
しぐれ来る弾かぬピアノと肖像画 ながいとおる
はつなつの非常口よりピアノ出す 浦川聡子(炎環)
はつ夏の空からお嫁さんのピアノ 池田澄子
もとの位置にピアノと花瓶あたたかし 伊藤いと子
わがたのむピアノ弾く手や手袋す 田中敬子
クロッカスいきなりピアノ鳴り出しぬ 宮岡計次
セロリ移植学校二学期ピアノ鳴る 大熊輝一 土の香
ダリエンソ手練手管のピアノの涼 高澤良一 鳩信
バレンタインの日なり山妻ピアノ弾く 景山筍吉
ヒアシンス弾かぬピアノの上に置き 稲垣鷹人
ピアノに載す白桃一顆吉男の忌 伊東宏晃
ピアノの奥に湾の広がる帰燕かな 大石雄鬼
ピアノの灯新樹の雨に誕生日 及川貞 夕焼
ピアノの間出荷松茸置き場にす 茨木和生 野迫川
ピアノの音湯宿の萩も刈られたり 桜井博道 海上
ピアノは地ヴァイオリン春の空ながる 八牧美喜子
ピアノソロロビーに流る青葉宿 高澤良一 素抱
ピアノ借りに少女来今日は菊抱きて 林翔 和紙
ピアノ大きく坐り木の芽のかげさせり 太田鴻村 穂国
ピアノ弾き了へし窓辺や大西日 北村照子
ピアノ弾くからだの中の白夜かな 浦川 聡子
ピアノ弾く白い渚の蟹のやうに 大屋達治 繍鸞
ピアノ曲雪はアレグロより速し 辻田克巳
ピアノ止む青蔦の網ひき緊めて 鷹羽狩行
ピアノ涼しうるみて映る室のもの 林翔 和紙
ピアノ疾し夏来る硝子湖にむき 柴田白葉女 牡 丹
ピアノ習ひに寺にくる子よ桃花村 八木林之介 青霞集
ピアノ舁き入る庭に夏蝶の祝福図 林翔 和紙
ピアノ這はされて滑るよ兜虫 品川鈴子
ピアノ連弾大小の瓢箪生る 林翔
ピアノ連弾走り出したる羽抜鶏 佐川広治
ピアノ離れず汗の子は触れ母は拭き 林翔 和紙
ピアノ高音部夜長に倦みて打つ 林翔 和紙
ピアノ鳴りあなた聖なる冬木と日 西東三鬼
ピアノ鳴るうかれ落葉の風に舞ふ 上村占魚 鮎
ピアノ鳴る垣繕ふに隣あり 石川桂郎 四温
一指もて鳴らすピアノや十七夜 丹羽 啓子
一飛燕あり小高きにピアノの音 大野林火
三味線もピアノも弾けて芙蓉咲く 梶山千鶴子
乙女薔薇そのまま凍ててピアノ鳴る 小串歌枝
乱声のピアノとなれり鰯雲 上田五千石 田園
乾きつつピアノ出てゆく石蕗の花 中村文子
五月晴ピアノの横の母の杖 吉野のぶ子
今年竹指しなやかにピアノ弾く 上田五千石 田園
仮に置くピアノの上の雛あられ 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
冬の田に消ゆるピアノの音惜む 誓子
冬館古いピアノが木に返り 西村葉子
処女二十歳に夏痩がなにピアノ弾け 竹下しづの女 [はやて]
分校に新教師来てピアノ鳴る 高橋悦男
初春に知覧のピアノ響きだす 嘉陽 伸
十六夜や自動ピアノが感知せり 鏡 茂子
十指乱舞す千金の夜のピアノ 林 翔
卒業の空のうつれるピアノかな 井上弘美
卒業歌えよ励めよとピアノ鳴り 原裕 『王城句帖』
厚物咲ピアノカバーの裏は緋に 中戸川朝人 星辰
囀やピアノの上の薄埃 島村元句集
国境のよう麦秋にピアノ捨てられて 遠山郁好
奏でゐる自動ピアノや三鬼の忌 三橋敏雄
妻と其の寒気凛々しきピアノの音 中村草田男
子ごろしの山茶花映る淡いピアノ 西川徹郎 家族の肖像
子のピアノ終へて奏でる夜の虫 島崎勇作
実桜やピアノの音は大粒に 中村草田男
寒夜まだピアノ弾く娘と妻起きて 伊東宏晃
小学校の古きピアノに海の蝶 中山純子 沙羅
少しずつピアノが腐爛春の家 西川徹郎(1947-)
山深きところにピアノ秋入日 対馬康子 純情
弾き初めのあともピアノを弾きつづけ 山口波津女
弾き初めのピアノつつかえつつかえす 田川飛旅子
弾つ放して誰そ我がピアノ夏埃 竹下しづの女 [はやて]
恋猫が屋根に居るピアノを叩く 加倉井秋を 『胡桃』
悲しいとき隠れるためにあるピアノ 船山邦子
手をふれてピアノつめたき五月かな 木下夕爾
手鏡にうつるピアノや天の川 皆吉司
折り紙のピアノかたむく花ぐもり 大高 翔
新緑の天にのこれりピアノの音 目迫秩父
日盛りやとぎれがちなるピアノ曲 福見敦子
昇降機降り玩具のピアノ鳴らす梅雨 宮武寒々 朱卓
星月夜ピアノの蓋の開いてゐる 仙田洋子 雲は王冠
春の雪ピアノの蓋に映りては 飴山實 辛酉小雪
春の鬱深きピアノの頭蓋閉づ 馬場駿吉
春愁や自動ピアノの音扁平 須佐薫子
春月の雫ピアノの二重奏 大谷 茂
春遠しピアノの椅子に帽子置き 加倉井秋を 午後の窓
春雷や一音狂ふピアノ曲 東 京子
時雨るゝやピアノの上の孔雀の羽 原コウ子
月明のピアノに降りてくる子猫 柳谷昌
朝のピアノ青桐の幹たたくごと 桜井博道 海上
木の根掘る汗の日雇にピアノ音 岩田昌寿 地の塩
松とれて日ぐれ夜ふけとピアノ弾く 及川貞 夕焼
枯れ斜面雀にピアノ線の足 飴山實 『おりいぶ』
枯芝に置きて再びピアノ運ぶ 今井 聖
柿若葉ピアノの新譜指で読む 吉原文音
梅ひらく階をピアノのように降り 吉田透思朗
武満忌ピアノに東風の鹿幽か 山元志津香
死者らの瞳に指あふれしめ野のピアノ 隈治人
毀れたるピアノは眠りほととぎす 白地恭子
水底にピアノを聴けり五月の夜 文挟夫佐恵 黄 瀬
水無月のピアノを跳ねる月の魚 石原光子
氷上へひびくばかりのピアノ弾く 篠原鳳作 海の旅
流燕や調律ピアノ若返り 林翔 和紙
海へゆくにはまだはやきピアノ鳴つてゐる 川島彷徨子 榛の木
滅びつつピアノ鳴る家蟹赤し 西東三鬼「今日」
滴りの本流となる夜のピアノ 猪股恵美「本流」
漆黒のピアノより生れ春の蝿 本庄登志彦
漆黒のピアノ据ゑたる大暑かも 林翔 和紙
炉開きや漆黒のピアノ次の間に 及川貞
炎天の島にピアノを荷揚げせり 茨木和生 倭
熱し弾くピアノ受験生霰やむ 及川貞 夕焼
燭台を点せるピアノ聖夜奏 品川鈴子
燭陸離ピアノ音をたえ夜の凍て 飯田蛇笏 雪峡
爐開きや漆黒のピアノ次の間に 及川貞 夕焼
片手づつさらふピアノや遊蝶花 岡部名保子
狂ひたるピアノ・エチュード寒茜 仙田洋子 橋のあなたに
狐火やピアノの椅子にフロッピー 守屋典子
白南風や古きジャズ弾くピアノ・バー 角川春樹
白菜きざまむ音階高きピアノ購はむ 藤後左右
睡蓮の明暗たつきのピアノ打つ 中村草田男
磨かれて卒業式を待つピアノ 大谷てるみ
秋は神学ピアノのかげに人さらい 寺山修司 花粉航海
秋日沈むピアノを強く弾きさして 中島斌男
秋来ると五指生き生きとピアノ打つ 台 迪子
秋深しピアノに映る葉鶏頭 松本たかし
秋苑やかんがりとして鳴るピアノ 中川宋淵
秋茄子をもぐやどこかでピアノ鳴る 加倉井秋を 『胡桃』
空蝉を置きてピアノに土こぼる 鷹羽狩行
籾浸す底までピアノ音ひびき 神原栄二
聖夜劇ピアノの裏が楽屋なる 中田無麓
聴きなれしピアノの底の前世かな 田中信克
自動ピアノ弾くはあの夜の雪女 玉木春夫
自動ピアノ鳴りだす鉄板の肉を焦がし 星野昌彦
色鳥やピアノ塾ある浜通り 千田一路
芥子燃えぬピアノの音のたぎつへに 篠原鳳作 海の旅
菊白しピアノにうつる我起居 杉田久女
萱草の花に日暮のピアノ鳴る 秋篠光広
蔦若葉ピアノシヨパンを弾き止みぬ 神谷勝美
蕗の薹のせてピアノの蓋くもる 林 徹
薔薇胸にピアノに向ふひとり哉 薔薇 正岡子規
虫の夜をピアノ小刻みダリエンソ 高澤良一 素抱
裏町よりピアノを運ぶ癌の父 寺山修司(1935-83)
誰も弾かぬピアノの上の夏帽子 山口彩子
調律のピアノヘ花粉運ばれる 林田紀音夫
調律を忘れしピアノ冬日向 小野あゆみ
講堂のピアノ妊娠して鳴り止む 中烏健二
赤ん坊のくさめピアノの手を止むる 石田安雄
遠きピアノ書を閉ぢ外套を着てかへる 中島斌雄
遺影下の遺愛ピアノに輪かざりす 及川貞 榧の實
銀漢といふにはうすしピアノうつ 安東次男 裏山
鏘然と四日のピアノ目覚めたり 林翔 和紙
長女ピアノを欲しがる雨が漏るので困る 中台春嶺
階上にピアノ髭剃り麺麭を焼く 片山桃史 北方兵團
雪の夜はピアノ鳴りいづおのづから 篠原鳳作
雪や子の喜憂はげしくピアノ弾つ 中村明子
雪吊や風出て空のピアノ線 河野南畦 湖の森
雪激しピアノ売りたる夜のごとし 櫂未知子 蒙古斑以後
雪解けの雫が無数ピアノ初歩 堀内薫
青葡萄律を正せしピアノの上 鷹羽狩行
革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ 塚本邦雄
颱風へ固めし家に児のピアノ 松本進
鰯雲使はぬピアノ売りにけり 藤田湘子 去来の花
鳴り出すピアノ忽ち蝉の樹は遠し 林翔 和紙
●チェンバロ
チェンバロのひびき草の実揺りこぼす 三木幸子
チエンバロを弾きつつ野分来て去りぬ 岸本尚毅 舜
金彩のチェンバロの音に年迎ふ 佐藤美恵子
●(パイプ)オルガン
いつの世の誰のオルガン冬座敷 辻田克巳
かまつかやひろしまの詩はオルガンに 倉本萩女
くわくこうの声出すオルガン奏者かな 高澤良一 さざなみやつこ
でうす如来オルガンの上に冴えたまふ 佐野まもる
はるかよりオルガン金魚死なしめし 柚木紀子
オルガンにふと戦前がすり寄りぬ 荻野雅彦
オルガンに繪硝子の夏日灯と紛ふ 殿村菟絲子 『繪硝子』
オルガンのぶぶと始まり日の盛 野上寛子
オルガンの奏者も喪服桐の花 柏原眠雨
オルガンの曲が変はりぬ雪解川 折井紀衣
オルガンの曲療園は麦熟れて 有働亨 汐路
オルガンの踏板に似る秋の暮 土肥幸弘
オルガンの鍵盤におく棗の実 中田剛 珠樹
オルガンの鞴の漏れしクリスマス 正木ゆう子 静かな水
オルガンの鳴る路地深く夜の焚火 木村蕪城 寒泉
オルガンの黒に 粉雪 日本海 伊丹公子 時間紀行
オルガンの黒布ゆゆしや受難節 下村ひろし 西陲集
オルガンや分校とざす梅雨の霧 相馬遷子 山国
オルガンや樅の木蔭の青嵐 寺田寅彦
オルガンを日向に運ぶ花まつり 井上弘美
オルガン奏者首垂れやめりクリスマス 中戸川朝人 残心
ド・ロさまのオルガン露の野にひびき 貞吉 直子
ラベンダー婚のオルガン鳴り渡る 山口超心鬼
一八や朝のオルガン崖を這う 鈴木珠鱗子
冬は切なる保姆の希いのオルガン届く 細谷源二
冬日の枝に鴉も去んでしまつてまたオルガン 三好草一
初弥撒やオルガン弾きの固き襟 辻前冨美枝
初灯明オルガン古りし本願寺 石川英子
土塀に突かひ棒をしてオルガンひいてゐる学校 尾崎放哉
大花野ぼくの臓器(オルガン)鳴りました 安西 篤
太陽が鳴らすオルガン長崎忌 脇本星浪
寅彦のオルガンの鳴る黄沙かな 黒田杏子 花下草上
少女が黒いオルガンであつた日の声を探す 林田紀音夫
崖上のオルガン仰ぎ種まく人 寺山修司 花粉航海
廃オルガン鳴りだす 雨意満つ啄木館 伊丹公子 山珊瑚
放課後のオルガン鳴りて火の恋し 中村草田男
放課後のオルガン鳴れり花八っ手 河合凱夫 藤の実
旅人に古オルガンは鳴らず冬 鈴木栄子
日の丸のようなオルガンの流離譚 山本敏倖
日曜ミサのつましきオルガン浦の百苦 平井さち子 完流
晋平のオルガンに触れ秋思かな 小島千架子
木の実落つ電子オルガン協和音 白地恭子
梅雨空となるオルガンの踏みごたへ 奥坂まや
片手廻しのオルガン秋の陽のまだら 前田保子
破門ずオルガンだーらの蛆拾遺よ 加藤郁乎
磔像下の古きオルガン梅雨夕焼 冨田みのる
秋の夜のオルガン鳴れり受洗堂 下村ひろし 西陲集
笑ひ合ふ春のオルガンひくやうに 大高 翔
聖オルガン暗きに鳴りて春雪崩 有働亨 汐路
聖金曜のオルガン低し辛夷の芽 古賀まり子
芝ざくら保母のオルガン地に出さる 加藤たけし
花草やオルガン停んで笑ひ聲 会津八一
託児所のオルガン田植始まりし 萩原麦草 麦嵐
運ばるるオルガン無韻冬禽らに 友岡子郷 遠方
音階の狂ふオルガン金魚浮く 高橋敦子
驟雨来る拓地オルガン弾き苛む 津田清子 礼 拝
鳴り出でしオルガン時計水仙花 五十嵐播水 播水句集
●シンセサイザー 本堂蓮如の忌 富永晃翠
寒弾や電子音楽器(シンセサイザー)轟轟と 辻桃子 花
●ウクレレ
ウクレレに和音三つの端居かな 田中幸雪
極寒期うまの合ひたる鮫とウクレレ 栗林千津
●オーボエ
なめらかにオーボエ あひる向こう岸 今木登美子
オーボエを抱へて入る秋の山 九鬼あきゑ
オーボエ奏者海藻のごとゆれて夏 堀口星眠 樹の雫
●クラリネット
クラリネット光のごとく南風にきこゆ 川島彷徨子
クラリネット蚊遣火くゆり立つに似て 野中 亮介
クラリネツトひかりのごとく南風にきこゆ 川島彷徨子 榛の木
真夏の夢にクラリネツトがひろひろひろ 岡本政雄
●サキソホン
常夏のウツボカズラのサキソホン 高澤良一 鳩信
薔薇真赤ひたすらサキソホンを吹き 森田ていじ
秋淋し人の声音のサキソホン 杉本零
短日の狂ひ出でたるサクソフォン 石田郷子
●ホルン
ホルンの音屋根突きぬけて銀漢へ 椿 ひかる
ホルン吹く子の目輝く黄水仙 池田ヨシ子
ホルン吹く少年独り黍嵐 石川文子
今朝秋の鹿を寄せゐるホルンの音 寺崎美江女
何といふ涼味ホルンのまあるい音 高澤良一 ぱらりとせ
射し渡る日に白鳥のホルン鳴き 斎田鳳子
放課後の緑蔭の肺ホルン吹く 平井さち子 鷹日和
春なれやホルンの中の息の路 佐怒賀正美
春月へ野獣のごときホルンかな 吉原文音
楽隊のホルンに映り桃の花 矢島渚男 船のやうに
球場を出てくる春のホルンかな 田中裕明 先生から手紙
若葉してこだまを返すホルンの音 佐長 芳子
雪の夜はホルンとビオラ睦むかに 鈴木六林男 桜島
飛火野に鹿呼ぶホルン八一の忌 渡辺守夫
鹿を呼ぶホルンを遠く黄葉散る 北野美樹
鹿寄せのホルンひびけり春の芝 新井悠二
●ラッパ 喇叭
ある日喇叭の如き木枯哀しとす 湘子
さきがけの喇叭水仙より糾す 櫂未知子 蒙古斑
ざらめ残雪喇叭吹かずば若き日来ず 磯貝碧蹄館 握手
ひと死ねり朝食の喇叭黄天に 片山桃史 北方兵團
アポロンのラッパ手喇叭水仙は 高澤良一 ぱらりとせ
トテ馬車の喇叭恋しき鬼城の忌 大野花子
万緑に頬ふくらませ吹く喇叭 福田蓼汀 秋風挽歌
三鬼の墓水仙喇叭純黄なり 立岩利夫
両隣喇叭水仙咲き揃ふ 熊倉 猷
人妻に春の喇叭が遠く鳴る 中村苑子(1913-2001)
人寄せる馬車の喇叭や花樗 楝の花 正岡子規
僕を恋うひとがいて雪に喇叭が遠くふかるる 橋本夢道 無禮なる妻抄
咲く花は 天使の喇叭 暑休大学 伊丹公子 アーギライト
喇叭ふき人ら岩攀づ墜ちては攀づ 片山桃史 北方兵團
喇叭吹けば霧晴れて朝の星一つ 霧 正岡子規
喇叭吹けば鹿かへる春の夕哉 春の夕 正岡子規
喇叭手でありし口皺濁り酒 遠山陽子
喇叭水仙うす日がさすと僧生る 磯貝碧蹄館
喇叭水仙のぞくものではありません 川崎展宏 冬
喇叭水仙希臘の壷に挿し剰り 草間時彦
喇叭水仙田舎の朝の終りけり 藤田湘子
喇叭水仙笑ひ上戸の集ひけり 渡辺恭子
喇叭水仙軍楽隊の楽変はる 平井伊都子
喇叭水仙黄なり少年兵の墓 山崎ひさを
喇叭秘め喇叭水仙莟めるよ 高澤良一 ももすずめ
喇叭鳴り喇叭高まり死は遠く 三谷昭 獣身
喇叭鳴るよ夏潮の紋条相重なり 金子兜太
塾かなし入学の子に喇叭吹き 田村了咲
夏園や雲ゆるう来て遠喇叭 竹下しづの女 [はやて]
夜半の冬山国の子の喇叭かな 飯田蛇笏 山廬集
夜鳴きそば喇叭吹き捨て引き返す 山口耕外子
天使の喇叭咲く日 バンクーバーの四代母子 伊丹公子 アーギライト
天使の喇叭綺麗な嘘を吐いてゐる 丸山嵐人
太陽と烏と喇叭水仙と 川崎展宏
子の喇叭吹くやどこかに春の死者 青木直子
寒月や 兵士も樅も喇叭に寝る 星永文夫
屍らに天の喇叭が鳴りやまず 片山桃史 北方兵團
御柱祭屋根の上なる喇叭隊 柚口 満
日に向かふ喇叭水仙兵の墓 大野津弥
日日いらだたし炎天の一角に喇叭鳴る 金子兜太 少年/生長
日本の端で 春の喇叭の 大巻貝 伊丹公子 山珊瑚
春の夜の喇叭父の訃遠くより 三谷昭 獣身
春風の石にジンタが喇叭置く 高濱年尾 年尾句集
朝寒の喇叭を聞くや城の下 寺田寅彦
桜咲く片山里の喇叭かな 桜 正岡子規
歩きつつ地ビール「独歩」喇叭飲み 高澤良一 寒暑
水仙の喇叭と影の喇叭かな 阿波野青畝
泥濘を馬・人・喇叭の順に行く 攝津幸彦 鹿々集
消燈の喇叭鳴れども野は白夜 田村了咲
清衡忌中尊寺馬車喇叭吹く 田村了咲
点滴も喇叭水仙も声なさず 石田波郷
甲は乙の丙にあらざり遠喇叭 攝津幸彦 未刊句集
白夜来て征露の喇叭寝ぐるしや 筑紫磐井 婆伽梵
白粉花侏儒の喇叭を吹きにけり 高澤良一 燕音
目覚しは喇叭でありし羽根蒲団 橋爪鶴麿
社会鍋に旧師健在喇叭吹く 東野修子
社会鍋の喇叭の唾を道へ振る 田川飛旅子 『邯鄲』
社会鍋古老の兵士喇叭吹く 糸井 昭
社会鍋雪呼びさうな喇叭吹く 林直入
禊酒残りは獅子が喇叭飲み 品川鈴子
秋の水喇叭は死ねと鳴りわたる 磯貝碧蹄館
突堤の喇叭が吃る梅雨晴間 石井保定
腕章につけし喇叭も霙るゝよ 久米正雄 返り花
芝焼を仕切る消防喇叭長 真山 尹
花種用喇叭印の燐寸箱 池田澄子
芽ぶくもと木馬と喇叭月に冷ゆ 原田種茅 径
菊坂に聞きたる父の喇叭かな 齋藤愼爾
菌狩喇叭提げたる男哉 寺田寅彦
菜の花の雨や喇叭のらの羅列 西平信義
蝉の朝喇叭手等吹く電形音 石塚友二 方寸虚実
豆腐屋の喇叭雪ばんば連れて来る 佐藤軒三
起床喇叭鳴るはずもなし雪の朝 坂崎嶺男
長き夜の鷄や太鼓や喇叭哉 夜長 正岡子規
霜きびし山のわらべの喇叭鳴る 飯田蛇笏 春蘭
青野に吹く鹿寄せ喇叭貸し給え 西東三鬼
鹿寄せの喇叭みだりに吹かぬなり 後藤比奈夫
鹿寄せの喇叭夕べは長く吹く 後藤比奈夫
麻刈るや喇叭吹き過ぐ鹿沼馬車 小林臍斎
おもちやのラッパ雨に鳴らして苗木市 高井北杜
こうして終ってゆく人生で豆腐屋の朝のラツパ 二俣沈魚子
アポロンのラッパ手喇叭水仙は 高澤良一 ぱらりとせ
ラツパ水仙かしげた首がしゃべり出す 小林久子
分校のラツパは秋の海へふく 高村満子
吸盤よりラッパによきによき乳首を呼ぶ 八木三日女 赤い地図
天使のラツパみな鳴つて魚干場 和知喜八 同齢
子はラツパぼろの作業衣の父出て行く 細谷源二 砂金帯
川が鳴る不意のラッパの冷害田 寺田京子 日の鷹
時間湯のラッパ雪舞ふ空へ吹く(草津温泉即事) 上村占魚 『一火』
正月やラツパのごとき耳を持ち 皆吉 司
母がふく天使のラツパの花光り 和知喜八 同齢
炎天淋しラッパの金の輪を向けて 友岡子郷 未草
目刺のような兵隊が生きていたラッパが鳴りだした 栗林一石路
社会鍋ラツパ鳴らすは美少年 堀古蝶
社会鍋古きラッパにやや勇む 百合山羽公 寒雁
終末論きみのラッパを高らかに 稲葉百穂
美少女がラツパ吹きをり社会鍋 土井利一
老いたるラツパ天対き吹けり社会鍋 山田みづえ 忘
色鳥やラッパぴかぴか行進す 吉原文音
蒲公英暮れ豆腐屋ラツパを吹かぬ区間 宮坂静生 青胡桃
降臨を知らせむラッパ水仙よ 柴田奈美
●ティンパニー
●シンバル
シンバルの出番の一打晩夏光 下田静子
爽やかにシンバルはただ一打のみ 中根美保
シンバルの音溝蕎麦にとどきけり 安藤綾子
●ハープ
ハープひく漁港の船の夏至白夜 飯田蛇笏 春蘭
ハープひく男の指や地下の夏 皆吉司
ハープよりこぼれし指の冷じき 四ツ谷龍
冬麗の雪吊ハープ鳴るごとし 大串章
教会にハープのつどひ花八つ手 大島民郎
春愁の身を寄せて弾くハープかな 野矢久美子
春浅し奏ではじめしハープ橋 村井杜子
秋の薔薇雲はハープのかたちして 仙田洋子 雲は王冠
雪催ハープ奏者を立たせたく 鳥居美智子
●ハーモニカ
ハーモニカ吹けば寄り来る羽抜鶏 岸本尚毅 舜
卒業や一音つまるハーモニカ 山田征司
啓蟄や工具箱よりハーモニカ 岡昌子
夏たのし尻ポケツトにハーモニカ 原田青児
夏休み果つよ音痴のハーモニカ 中谷朔風
山畑の日ぐれを閉じるハーモニカ 穴井太 穴井太句集
思ひ出でたる夏ゆふぐれとハーモニカ 高柳重信
春風邪の癒えて一音ハーモニカ 和田八重子
水郷の夜涼の子等のハーモニカ 高濱年尾 年尾句集
終戦忌母買ひくれしハーモニカ 阿部敬子
葉桜や校舎に響くハーモニカ 浅野明慧
葬送に吹くハーモニカ花蜜柑 望月史子
身の丈の蘆原に来てハーモニカ 対馬康子 純情
霜凪ぎの夜や抽出しのハーモニカ 長谷川満紀
青い葡萄が風生む夕べのハーモニカ 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
青芦やハーモニカののる風走り 松山足羽
風入のはづれに兄のハーモニカ 鳥居美智子
麦秋や誰か故郷をハーモニカ すずき波浪
●独奏
独奏や雷雨を厚き壁に絶ち 津田清子 礼 拝
●ピアニスト
ピアニストからの葉書や額の花 仙田洋子 雲は王冠
ピアニスト黄金の手に胼薬 小島左京
遠く咲く真冬の花火ピアニスト 高橋謙次郎
銀漢や喝采黒人ピアニスト 仙田洋子 橋のあなたに
鳥雲に入り渾身のピアニスト 対馬康子 純情
●チェリスト
チエリストの足早に行く街師走 手塚 梓
チェリストの指先つよし室の花 弥永信子
●ギタリスト
●琴(大正 馬頭)
あかあかと琴落ちているみち落ちている 阿部完市 にもつは絵馬
いにしへの琴柱小さし秋の風 中村明子
いま欲しきものに竪琴枯るる中 加倉井秋を
うぐいすや琴抱かれて門を出づ 加畑吉男
うすらひに琴軫(ことぢ)燈籠脚おろす 高濱年尾 年尾句集
うるしせぬ琴や作らぬ菊の友 山口素堂
おもかげやよき琴菊の三代目 日夏耿之介 婆羅門俳諧
こほろぎの老いし一つは神の琴 石塚友二 光塵
さねかづら昔男に琴の音 伊藤三十四
さみたれやいつもの窓に琴もなし 五月雨 正岡子規
しぐるゝや鼠のわたる琴の上 蕪村 冬之部
しろがねの湖に真向ふ琴始 白柳淑子
たはれ男の琴の音すなり門の月 月 正岡子規
なぐさめし琴も名残りや冬の月 万里 俳諧撰集玉藻集
ひかりいでし雨の竪琴祭果つ 木下夕爾
ひるね醒む音のなき琴を弾きゐたる 稲垣きくの 黄 瀬
ふきのたう雨に光れり琴よ鳴れ 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
ほうたるの行方は琴座あたりかな 阿波岐 滋
まくは瓜戸口に冷す琴糸師 荏原京子
みちのくの素風に晒す琴の木地 松本喜久江
やぶ入や琴かき鳴す親の前 炭 太祇 太祇句選
よこたへる琴の長さや寒復習 辻桃子
わが楽器一鼓一琴鳥雲に 後藤綾子
アカシヤは花ひろがりに琴そろふ 古舘曹人 能登の蛙
セーヌ川航く 竪琴と 歳月と 伊丹公子 機内楽
ハワイヘ卸す荷に交りおり日本の琴 田川飛旅子 花文字
ペーチカや洋琴次の間に黒き 山口誓子
リハビリの夫琴鳴らす春の昼 細井喜美江
リラの花弾く提琴の弓白し 村田白峯
一弦琴ロビーに飾り避暑の宿 上溝かつら
一葉忌今年は母の琴聞かず 古賀まり子 緑の野
七夕や川のごとくに琴を置き 高橋さえ子
三伏の琴きんきんと鳴らしけり 長谷川かな女
三日月に琴の音こぼれ〜消ゆ 沢木欣一
世は紅葉盗人上戸や琴の松 自鶴 選集「板東太郎」
並べ置く控への琴や延寿祭 中山万沙美
主婦のひま松過ぎし夜の琴鳴らす 及川貞 榧の實
乾鮭や琴に斧うつひびきあり 蕪村
五月鬱琴高音で走り出す 河野多希女 こころの鷹
亡き人となり花冷えの琴の丈 八牧美喜子
亡き人の琴のそら音や夜半の春 中勘助
亡妻の琴撫して見る秋の雨 寺田寅彦
人の家に醒め蟻が攀れる琴袋 田川飛旅子 花文字
人日のはつしはつしと琴高音 河野多希女 月沙漠
余寒なほ指になじまぬ琴の爪 山本登茂子
余花の雨琴糸収む桐箪笥 内山美智子
俺に似る風琴ころがる滝の方に 阿部完市 絵本の空
元日の人や無弦の琴のをと 大江丸
先の世の琴の音色が雪ちらす 松崎豊
冬の日や臥して見あぐる琴の丈 野澤節子(1920-95)
冬の月琴を背負つて帰りけり 如月真菜
冬日たかし乙女らがいて琴ひく家 古沢太穂 古沢太穂句集
冬星座地のオルフェウス琴持たず 文挟夫佐恵 黄 瀬
冬籠り琴に鼠の足のあと 正岡子規
冴ゆる夜の琴の一弦ぴしと切れ 恩田千恵子
冷やかに抱いて琴の古きかな 夏目漱石 明治四十三年
凍りゆく水琴窟の音なりけり 黒田杏子 花下草上
凍解の水琴の音は恋死ねと 菅谷豊治
凩の琴立てられて木に還る 渋谷道
初午や和琴を掻きて神遊 後藤夜半 底紅
初弾の琴爪ゆるくなつてをり 永川絢子
初神楽ぼろんぼろんと琴奏で 山口波津女
初雪や琴弾きカーネーシヨン花束を 江副真理
別家して盆なき家や琴の聲 盆 正岡子規
北山の杉は竪琴小夜時雨 堀口星眠 青葉木菟
十六夜やちひさくなりし琴の爪 鷲谷七菜子 黄 炎
十月や二夜の琴を聞くことも 葛田きみ女
千代尼忌の琴の音洩るるみ寺かな 林徹
卯の花や夕べ琴の音おとろへず 原コウ子
古胼やひとり琴ひく松のひま 及川貞 榧の實
合奏の琴にくづれし牡丹哉 牡丹 正岡子規
名月や琴柱(ことぢ)にさはる栗の皮 斯波園女
名月や隣の琴に笛吹かん 名月 正岡子規
君が琴塵を払へば鳴る秋か 夏目漱石 明治四十三年
君琴弾け我は落花に肘枕 芥川龍之介 我鬼窟句抄
吹降りや琴の胴越す蟻の顔 内田百間
和琴島湖畔に焚くは白樺 野見山ひふみ
囀りや水を渡れば水に琴 金箱戈止夫
夏の日のしづしづ暮れし馬頭琴(内蒙古二句) 上村占魚 『かのえさる』
夏の月此横町も琴の音 夏の月 正岡子規
夏の月隣の琴の引きやみぬ 夏の月 正岡子規
夏椿水琴窟に水使ふ 乾 節子
夏行僧一日琴を弾じけり 妻木 松瀬青々
夕さくら冷ゆ琴爪も指のうち 神尾久美子 桐の木
夕月や梅ちりかゝる琴の上 梅散る 正岡子規
夕桜あの家この家に琴鳴りて 中村草田男(1901-83)
夕霧忌その琴爪の黝みて 品川鈴子
夕顔にとられて琴の糸もなし 夕顔 正岡子規
夕顔に取られて琴のつるもなし 夕顔 正岡子規
夕顔やあら壁落ちて琴の腹 夕顔 正岡子規
夜の古典琴は伏せたる船ならむ 長岡裕一郎
夜桜に琴の音ひびく松本城 松橋昭夫
大旦琴歌は海讃へをり 永島靖子
大正史なかに大正琴涼し 百合山羽公 寒雁
大洪水孔子は琴や敲きけん 飯島晴子
天地の竪琴の如春の雨 上野泰 春潮
妻の琴ときには睡く松の内 二木汀骨
妾宅や牡丹に会す琴の弟子 夏目漱石 明治三十年
姫宮の琴あそばすやおぼろ月 幸田露伴 谷中集
婚礼の荷の琴はこぶ雲の秋 長田等
嫁ぐ子の琴を包みて秋惜しむ 広瀬千鶴
子が嫁さば春昼琴の音も断たむ 安住敦
子等は夜学琴座の星は老梅に 佐野青陽人 天の川
学校へ琴運び込む文化祭 小西瑞穂
寒の水胃の水琴の鳴るごとし 目迫のりを
寒弾の筥を出でたる琴の爪 後藤比奈夫 めんない千鳥
寒梅や焚き物盡きて琴一つ 寒梅 正岡子規
寝かせある琴柱をさます小春かな 柴田雪路
小春日の月琴の絃ゆるびたる 吉原文音
尺八吹けば琴のよくなる秋の風 龍胆 長谷川かな女
山水、一面の巌を立琴とする 荻原井泉水
山茶花や病みて琴ひく思ひ者 山茶花 正岡子規
岬の木々立琴なせり枯蟷螂 進藤一考
工場バンド汚れて重き手風琴 細谷源二 鐵
師走何ぢや我酒飲まむ君琴弾け 幸田露伴 江東集
干鮭や琴に斧うつ響あり 蕪村
年くれてせかする物よ琴の音 京-風子 元禄百人一句
弾き終へし琴抱き去る野菊晴 小枝秀穂女
弾初の琴三面を並べけり 星野麦人
弾初めや琴爪遠き指の冷え 内田百間 百鬼園俳句
形見にもよき琴一つ豊の秋 神尾久美子
思ひあり琴をかゝへて春暮れぬ 春の暮 正岡子規
提琴に提弓失せし父の日よ 松山足羽
提琴をチェロが守りぬ幸福なるかな 小田武雄
揚羽来て水琴窟の音を乱す 蛯原喜荘
揚雲雀胸中の琴応ふなり 徳永山冬子
敗荷田木琴の音立てゐたり 小林貴子
散る花や鳥も驚く琴の塵 松尾芭蕉
文月や立てて使はぬ琴二面 若林一童
新緑やたへにも白き琴弾く像 山口青邨
新藁が立琴めくよ夜となれり 栗林千津
日曜の朝の琴きく漱石忌 新井英子
日盛りの畳きよらか琴を置く 長谷川かな女 雨 月
早起きの鷽が琴弾く父の山 黒田杏子
星空に琴をあずけて花野ゆく 高澤晶子
星飛んで星座の琴を鳴らしけり 河合 清
春せせらぐごとき木理に琴一面 野澤節子 遠い橋
春に夜や下京更けて琴の音 春の夜 正岡子規
春の暮頭の何処か琴鳴りて 昌寿
春宵の無聊の母に琴を置く 山岸治子
春昼の指とどまれば琴も止む 野澤節子 黄 瀬
春昼や水琴窟の余韻聞く 加藤元子
春晝や琴の緒絶えし胸さわぎ 筑紫磐井 野干
春水の水琴窟の音となる 山下美典
春浅く指に琴爪はめし像 友岡子郷 翌
春灯を暗くし馬頭琴奏で 迫田郁子
春雨のこまかきゆふべ琴を売る 鷲谷七菜子 黄 炎
春雨や京は町並琴の声 古白遺稿 藤野古白
春雷やくらがりに琴置かれをる 竹田登代子
時ぞ医師女子の琴引く郭公 材種 選集「板東太郎」
晩涼や琴ひく母のほとり書き 古賀まり子 降誕歌
晩涼や琴柱に似たる波がしら 神尾久美子(雲母)
暮るるまで母が琴ひく一葉忌 古賀まり子 降誕歌
暮色てふ色たをやかに琴始 杉村 惇
更けし川越ゆる琴の音星まつり 昇子
更衣無絃の琴を抱えけり 更衣 正岡子規
月こごし霜夜の琴のるんと鳴り 太田鴻村 穂国
月やあらぬ無絃の琴を弾ずべく 会津八一
月琴にさびしき夏の月見哉 夏の月 正岡子規
月琴の音締めきりきり夜の秋 高澤良一 ぱらりとせ
月琴をちよと抱へたる浴衣哉 松田枯蝉
木の芽起しの夜となる大気琴の楽 河野多希女 両手は湖
木の葉髪琴が襖を洩れゐたり 佐野まもる
木下闇水琴窟の音幽か 西島美代子
木枯や市に業(たづき)の琴をきく 白雄
木犀や母が教ふる二絃琴 木犀 正岡子規
木琴に日が射しをりて敲くなり 林田紀音夫
木琴の撥もて垂氷打ちおとす 津田清子
末伏の琴きん〜と鳴りにけり 長谷川かな女 雨 月
本殿に琴運び込む菜種御供 椹木啓子
松かぜや琴とりまはす煤払 臥高 極 月 月別句集「韻塞」
松琴亭ゆがみてもどる春の水 小室善弘
松風や吾を涼ませて琴に落つ 納涼 正岡子規
枕木は鳥の木琴大夏野 石井紀美子
枯山を水のぬけゆく琴柱かな 吉田汀史
柚の花や琴かきならす医者の妻 柚の花 正岡子規
根岸かな琴にもたれて端涼ミ 納涼 正岡子規
桐火桶無絃の琴の撫でごころ 蕪村
桐老いて琴にもならず花咲きぬ 桐の花 正岡子規
梅の花琴を抱いてあちこちす 夏目漱石 明治三十二年
梅ほつほつ立てかけて琴のような坂 乾鉄片子
槇垣のうちより琴や松も過ぎ 岸風三樓
権妻の琴の稽古や梅の花 梅 正岡子規
此隣きくに琴弾ク門徒寺 高井几董
母せしごと琴糸替ふる春支度 斉藤敬子
母弾きし琴の音知らず谷崎忌 大里葉子
毛氈に水平の琴鳥曇り 神尾久美子 桐の木以後
水澄んですんで遺品の琴の爪 大木あまり 火球
水琴の音を譜面にほしき冬 坂元幸子
水琴窟夜もきさらぎの音色かな 永島理江子
水琴窟打ちて秋風俄なり 松山足羽
水琴窟聴くか黄蝶は水平に 針ヶ谷隆一
水琴窟調べは江戸の早春譜 伊藤 升
泣き砂の黙りて梅雨の琴の浦 西村公鳳
流るる軍歌梅の香を被て手風琴 河野南畦 湖の森
涅槃西風琴の聞こゆる余呉の湖 佐川広治
涼しさや糸はづしたるつくし琴 涼し 正岡子規
清明の琴鳴り花火天に爆づ 岸風三樓
温もらぬ楓琴亭の煤の湯に(嵐山) 波多野爽波 『骰子』
湖に鴨琴糸作り見も知らず 石川桂郎 高蘆
満開の櫻のために琴を弾く 品川鈴子
漆せぬ琴や作らぬ菊の友 素堂
炎天の遠目にしかと琴抱へ 木村蕪城 寒泉
無月なれば琴きき橋の灯に集ふ 梶山千鶴子
煌煌トシテ識閾ニ鳴ル廻転琴 夏石番矢 真空律
煤掃や琴もて居る梅の蔭 一茶 ■寛政九年丁巳(三十五歳)
爪ありて琴なきうらみ十三夜 八染藍子
爪琴の下手を上手にしぐれけり 時雨 正岡子規
片寄する琴に落ちけり朧月 夏目漱石 明治三十一年
片蔭に入るや琴弾く母の声 永田耕衣 奪鈔
片見月音もせで縒る琴の糸 田中英子
玻璃うちに提琴をはる青あらし 桂樟蹊子
琴うたに合の手多し花あふち 歌津紘子
琴ながれ帝都偸安の晝酣は 筑紫磐井 花鳥諷詠
琴に乗りて吹るるさまや藻苅舟 秋来 選集古今句集
琴に身を倒して弾くも春の昼 野見山朱鳥
琴のおほひに玉虫のゐて朝の幸 八牧美喜子
琴のはる三線の夏となりけらし 大江丸「俳懺悔」
琴の塵掃へば遠きこてふ哉 松瀬青々
琴の尾や螺鈿に梅のちらし咲 梅 正岡子規
琴の手は横に流るるすずみかな 麦水「葛箒」
琴の爪揃ふ涼しくおそろしく 石田勝彦 秋興
琴の糸さらすや湖へ春の水 幕内千恵
琴の糸切れて久しや昼の虫 久屋三秋
琴の糸干して比叡の初霰 野上智恵子
琴の糸煮てゐる比良の春の雪 大川真智子
琴の糸紡ぐ雁木の湖の村 大岳水一路
琴の緒に足繋がれつうかれ猫 高井几董
琴の裏なんにもなくて秋はじめ 神尾久美子 桐の木
琴の音にあやめの雨といふべかり 阿部みどり女
琴の音に鶴の歩の長閑さよ 田村西男
琴の音のいつか止みゐて星月夜 広本 俊枝
琴の音のしづかなりけり震災忌 山口青邨
琴の音のなくて淋しき月夜哉 月夜 正岡子規
琴の音の我にかよふや今朝のあき 千代尼
琴の音の松風さそふ二日かな 川上梨屋
琴の音の洩れくる寺や丈山忌 上埜チエ
琴の音の聞えてゆかし冬籠 冬籠 正岡子規
琴の音の雨に木深き若葉哉 若葉 正岡子規
琴の音もそふや手越の茶つみ唄 中勘助
琴の音や七月羚羊の雌と 宮坂静生 樹下
琴の音や人垣間見る夏の月 夏の月 正岡子規
琴の音や水田わたりに夏鴉 石川桂郎 含羞
琴の音や片蔭に犬は睡りつつ 藤田湘子
琴の音や芭蕉すなはち初嵐 飯田蛇笏 山廬集
琴の音や花開かむとして揺るる 菖蒲あや
琴の音梅の立枝は見えにけり 梅 正岡子規
琴は六段七瀬八峰の紅葉どき 文挟夫佐恵
琴は語る菊はうなづく籬かな 服部嵐雪
琴は離れ連珠は二階夏の月 蘇山人俳句集 羅蘇山人
琴ひいてまひるしづかに雛まつり 素逝
琴ほどの島のなだれて千鳥かな 錦屑 俳諧撰集玉藻集
琴やみて胡弓の音のみいま月に 久保田万太郎 流寓抄
琴やめて殿へ使ひのすもじ哉 鮓 正岡子規
琴やめて鶯聞くや下屋敷 鶯 正岡子規
琴を取つて彈ずれば月山を出づ 月の出 正岡子規
琴を弾き終へたるひとり米こぼす 茨木和生 往馬
琴を弾くはにわ人にもある遅日 野澤節子
琴を弾く初伏の畳冷たしと 長谷川かな女 雨 月
琴を弾く春満月を二日すぎ 阿部みどり女 『雪嶺』
琴を抱きて蜀の僧行く芒かな 蘇山人俳句集 羅蘇山人
琴を負うて師に従ふや夏木立 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
琴三味線胡弓を弾きて初芝居 大串章
琴伝の留守の床几や鉾囃子 細川加賀 生身魂
琴作る桐の香や春の雨 夏目漱石 大正元年
琴冴えてのこる虫の音冴えにけり 水原秋櫻子
琴取つて彈ずれば月山を出づ 月の出 正岡子規
琴唄の八重の潮路に初日さす 綾子
琴唄の恋を燈して風知草 河野多希女
琴唄の裏声多感なつばくらめ 河野多希女 月沙漠
琴唄の雪降るよりもさびしかり 文挟夫佐恵 雨 月
琴奏で千代尼忌修す聖興寺 高村俊子
琴始くやし涙にくれたるが 辻桃子
琴屋来て琴鳴らし見る穀雨かな 長谷川かな女
琴引きて老拝ませよ夕すごみ 智月 芭蕉庵小文庫
琴弾けば緑蔭深くむせぶ声 水原秋櫻子
琴弾て老を噛ませよ夕涼 智月 俳諧撰集玉藻集
琴弾の祠の上や今日の月 寺田寅彦
琴抱いて無名の神が漂着せり 高柳重信
琴星はさだかに市の雷雨かな 宮武寒々 朱卓
琴柱にふるる音かな嫁が君 垣上鶯池
琴棋書画のかたわきに我れ煤を避く 四明句集 中川四明
琴歌や蜻蛉池を羽摶きつ 永井龍男
琴爪が生きて出す音雪狂はす 河野多希女 両手は湖
琴爪に映る篝火秋思祭 山田弘子 螢川
琴爪のしまひ忘れてある寒さ 鈴木鷹夫 大津絵
琴爪の三つづつなる春の暮 神尾久美子 桐の木
琴爪の白きがさみし冬椿 長谷川かな女 花寂び
琴瑟に阿蘇の霞に遊ばれよ 桑田青虎
琴瑟のたへにも春の雲井哉 尾崎紅葉
琴碁書畫生きて聲あり寒夜の灯 村上鬼城
琴立てしままの子育て百千鳥 塙 義子
琴立ててうすむらさきに風の秋 加藤耕子
琴立てて八十八夜雨に過ぐ 神尾久美子 桐の木
琴箱のうらは藪也さゝ鳴す 笹鳴 正岡子規
琴箱の蓋がずりゐて神の留守 後藤夜半
琴箱や古物店の背戸の菊 松尾芭蕉
琴糸に白繭の冷こもるなり 吉野義子
琴糸の里にて釣瓶落しかな 神蔵 器
琴糸の里を抱きて山眠る 豊田ふじを
琴糸を縒る灯も消えて虎落笛 細井みち
琴聞え紅梅見えて屋根見えて 紅梅 正岡子規
琴覆赤きがかなし冬灯 五十嵐播水 埠頭
琴責めの琴よこたへぬ初芝居 水原秋櫻子
琴逃けし青酸漿の垣根かな 尾崎紅葉
琴鳴らす会は後刻に秋の蓮 百合山羽公 寒雁
琴鳴れる家をつばくろ出づるなり 耕衣
琴鼓ならべかけたる睦月哉 正月 正岡子規
甚平やおもはぬ函に琴の爪 石川桂郎 四温
男らや真冬の琴をかき鳴らし 飯島晴子
病む君に春行く宿や琴の塵 行く春 正岡子規
病めばかそけき琴のそら鳴り 荻原桂子
白梅やさりげなくとも琴高音 河野多希女 彫刻の森
白酒にほのかに酔ひて琴弾ける 田中冬二 俳句拾遺
白髪は美の冠よ琴始め 財津立枝
皹や遊女の恋を琴に弾き 熊丸淑子
真乙女の琴よりはじむ花鎮 宮岡計次
真間山の一院深く琴始 安陪青人
眠りいる琴に連れ弾く霧の指 高澤晶子
眼つむりて琴の音を聞く花供養 中島秀子
碁盤あり琴あり窓の竹の春 竹の春 正岡子規
祇園会のことし鰥の琴屋かな 大石悦子 百花
神の琴べろん〜と延寿祭 鳩十
秋の琴いきいき山の水通す 藤井冨美子
秋風の琴鳴つてゐる八束逝く 石井 保
秋風やいくさのはての手風琴 磯貝碧蹄館 握手
秋風を聞く須磨琴を聞きし耳 後藤比奈夫 花びら柚子
空港に流す琴の音三日かな 直野秀子
窓あつて琴立てかけつ竹の春 竹の春 正岡子規
立てかくる琴に音して一葉忌 井上あい
立てかけし琴に火のつく寒夕焼 大石悦子
立琴にから鳴絶えぬ野分哉 野分 正岡子規
立琴にしだるゝ床の柳哉 柳 正岡子規
立琴に瀧こしらへて月見哉 月見 正岡子規
立琴に羽を磨る白き蝶々かな 高田蝶衣
立琴に鴉の糞の夜明かな 野崎紫兮
立琴や弾かば恨の数添はん 麦宇
立秋や朝のラヂオに琴鳴りて 菖蒲あや 路 地
竜の玉水琴窟に耳すます 上野英子
竪琴のごとく糸張り絵茣蓙織る 田村了咲
竪琴の糸の如くに滴れり 須麻
端午過ぐ琴と柱とならび立ち 神尾久美子 桐の木
竹林は風の竪琴寒に入る 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
筋違に琴しらべ居る炬燵かな 路習 選集古今句集
筍の育つ庭闇琴流れ 河野南畦 湖の森
箒さはる琴のそら音や冬籠り 冬籠 正岡子規
簔笠や馬琴もしらぬ山の景 正岡子規
簔笠や馬琴もしらぬ雨の景 正岡子規
籠居の暑きを言はず文琴忌 深谷雄大
糸とんぼすいと水琴窟鳴れり 荒井正隆
紅梅にあはれ琴ひく妹もがな 夏目漱石 明治二十九年
紅梅に琴の音きほふ根岸哉 紅梅 正岡子規
紅梅のかなた爪琴こなた笛 紅梅 正岡子規
紅梅の家より洩るる琴古曲 田中冬二 俳句拾遺
紗の窓や官女琴ひく春の月 春の月 正岡子規
素琴忌のはや暮れかかる月夜なる 村山古郷
組曲を弾ず琴あり冬もみぢ 長谷川かな女 花寂び
綿摘みて夜は一絃琴を弾く 市川つね子
緑蔭やグレコローマの琴に紋 加藤耕子
緑蔭やラジオながらも琴もれて 波郷
締めなほすわが古琴や星むかへ 高橋淡路女 梶の葉
縁立つ琴の一音張りつめし 河野多希女 両手は湖
縫初の母のききゐる琴を弾く 斎藤耕子
脊雨の隣の琴は六段か 夏目漱石 明治三十一年
舞ひ下りて小琴を撫でし紅葉哉 寺田寅彦
良夜かな琴の音揃ふ百花園 佳藤木まさ女
色鳥や琴糸紡ぐ余呉の里 杉阪大和
花かへで水琴窟の和音かな 山本秋穂
花の宴琴弾かさりし不興かな 花見 正岡子規
花三分琴の覆ひをはづしけり 船越淑子
花十八門松琴を含むかな 西鶴
花十八門松琴を含哉 井原西鶴
花散るや演奏を待つ琴二つ 小島國夫
花曇りはこばれながら鳴る琴よ 沼尻巳津子
花木瓜の地にこぼしてぞ琴を抱く 河野多希女 両手は湖
花桐の琴屋を待てば下駄屋哉 桐の花 正岡子規
芽吹く街路樹子に木琴を購ひ帰る 伊東宏晃
若き日の母の琴爪一葉忌 古賀まり子 降誕歌
茅野(ちの)雄琴(をごと)雲雀にとどく煙かな 内藤丈草
草の香の夕風の竪琴(リラ)聴き給え 楠本憲吉
葭すだれ今年かぎりと母の琴 古賀まり子 緑の野以後
蓑笠や馬琴もしらぬ旅の味 正岡子規
蓮の花検校の墓琴を置く 佐藤フクエ
蔦の葉や無絃の琴に這ひかゝる 蔦 正岡子規
蕪村忌やきんの琴かふおんみやうじ 日夏耿之介 婆羅門俳諧
薔薇に風琴柱にふれしままにあり 野澤節子 黄 瀬
蘭の香に一絃琴の音じめ哉 蘭 正岡子規
蘭の香に琴ひく人の聲ねびたり 蘭 正岡子規
蘭の香や糸なき琴のしらべより 松岡青蘿
蘭の香や蘭の詩を書く琴の裏 蘭 正岡子規
蜘蛛が弾く囲の琴の音の微かなる 上野泰 春潮
蝶とぶや神が奏での無絃琴 東洋城千句
蝶飛て琴ひく局々かな 蝶 正岡子規
行春を琴掻き鳴らし掻き乱す 夏目漱石(1867-1916)
西祭琴きゝ茶屋の献酒あり 森孝子(玉藻)
賎が家の琴立ち聞くや夏の月 夏の月 正岡子規
身を律す夜の雪琴は袋の中 河野多希女 両手は湖
追悼のひぐらしづたひ琴抱いて 神尾久美子 桐の木
酒濁れり蘭の詩を書く琴の裏 蘭 正岡子規
酒部屋に琴の音せよ窓の花 広瀬惟然
重陽の日や琴出して妻老いぬ 岸風三樓
野ざらしの琴となる木や春の月 歌津紘子
金杉や琴かしましき夏の月 夏の月 正岡子規
鈴虫の昼は琴きいて居たりけり 星野麦人
鉦叩水琴窟は地下に鳴る 吉年虹二
雁わたし琴に怒濤の木目かな 石川サト子
雉子羽うつて琴の緒きれし夕哉 星布女
雛の琴さくらさくらとだけ弾けて 上田明子
雛静か琴は袂楽を波立てつ 河野多希女 両手は湖
雪催ふ琴になる木となれぬ木と 神尾久美子(1923-)
雪原を琴唄まろびゆく夕べ 文挟夫佐恵 雨 月
雪吊の綱の竪琴聞かせてよ 坂本宮尾
雪吊の繩の竪琴弾くは風 本岡歌子
雪吊は禽の竪琴くぐり鳴く 原柯城
雪国や洩るる琴の音夜の泡 平井さち子 完流
雪澄みの湖しんしんと琴かなづ 加藤知世子 花寂び
雪焼の洋琴拙きもよけれ 楠本憲吉
雲秋意琴を売らんと横抱きに 中島斌雄
露けしや琴売ってのこる琴の爪 及川貞 夕焼
露なめて木琴たたけ子よ生きむ 北原白秋
青羊歯の雫を語とし水琴窟 吉田紫乃
須磨の笛明石の琴と春暮るゝ 春の暮 正岡子規
須磨寺の一弦琴に春惜しむ 中田千恵子
須磨琴に惹かるるときや鐘かすむ 中村節子
頬白は竪琴かなで聖五月 古賀まり子
風の音やがて瀬の音琴始 木内怜子
風吹けり凍湖に琴糸はるように 対馬康子 愛国
風吹て門松琴をしらべけり 門松 正岡子規
風花や弘法市に琴売られ 獅子倉一彦
餅花に 琴爪嵌める指の反り 伊丹三樹彦
高牧の雪解竪琴鳴るごとし 長崎玲子
髪梳けば琴書のちりや浅き春 飯田蛇笏 霊芝
鳥居をば朱の琴柱とし初松籟 林昌華
鶯や琴柱はつれて逃て行 鶯 正岡子規
麗らかや和琴の濱のさざら波 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
黄昏は枯木が抱いてゐる竪琴 富澤赤黄男
龍天に昇る黄ばみし琴の爪 辻桃子
●木琴
敗荷田木琴の音立てゐたり 小林貴子
木琴に日が射しをりて敲くなり 林田紀音夫
木琴の撥もて垂氷打ちおとす 津田清子
枕木は鳥の木琴大夏野 石井紀美子
芽吹く街路樹子に木琴を購ひ帰る 伊東宏晃
露なめて木琴たたけ子よ生きむ 北原白秋
●尺八
へうへうと尺八寸に月を待つ 加藤耕子
ぼろぼろと尺八吹くや春の月 春の月 正岡子規
一としきり尺八吹いて石鼎忌 山口素基
夏誰か尺八(たけ)一管を壁に立て 金子兜太 少年/生長
尺八に終始す由良の灯籠焼 有馬豊子
尺八の息真つ直ぐや夏座敷 大和田栄治
尺八の手に持ちそふるもみち哉 紅葉 正岡子規
尺八の水面にしみて春の池 岩瀬鴻水
尺八の調子覚えし涼みかな 井上井月
尺八もけんくわ道具の彌生かな 久保田万太郎 流寓抄以後
尺八吹く雪嶺に窓開け放ち 伊藤いと子
尺八吹けば琴のよくなる秋の風 龍胆 長谷川かな女
春の夜を尺八吹いて通りけり 春の夜 正岡子規
普化僧の修法の尺八秋風裡 飯田蛇笏 雪峡
浪人の尺八淋し田面の日 八朔 正岡子規
石鼎の尺八二管月祭る 原裕 新治
稲妻や二尺八寸そりやこそ抜いた 尾崎紅葉
虚無僧の尺八を聞け法師蝉 山口超心鬼
誰家の月見ぞや雨もり来る尺八 椎本才麿
還り来し尺八に笹鳴おこりけり 原石鼎 花影以後
鳥の巣に尺八を吹き続けをり 吉本伊智朗
●笛
0を生む万波息笛(ばんばそくてき)くさまくら 夏石番矢 神々のフーガ
CDからこぼれ落ちた夕餉の笛吹童子 松岡月虹舎
MARUZENに笛の音流れ日枝祭 文挟夫佐恵
「万歳」を強ひられ巨童桐の笛 香西照雄 対話
あおい謄本ちがう音色の工笛鳴る 穴井太 穴井太集
あはび舟海女笛は空深くせり 藤木倶子
あらたまの空さびしもよ鳶の笛 市堀 玉宗
ある晴れた日に工笛が鳴り燕来る 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
あれは芦笛 漂着譚の 父祖呼びの 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 神戸・長崎・欧羅巴
いつか寒暁吹く笛に涎ひかり 友岡子郷 遠方
いづこより笙の笛の音はや三日 高澤晶子
いもうとを泣かせしむかし草の笛 山上樹実雄「四時抄」
うかれ女の螢這はすや笛の穴 松瀬青々
うぐひすの笛方雀の囃子方 高澤良一 ぱらりとせ
うす雪に小鳥笛澄む雑木山 塚原麦生
うつし世へ戻る一笛薪能 長谷川翠
うなゐ児の草笛ならす片思ひ 筑紫磐井 野干
うぶすなの剽軽て空を神楽笛 猪俣千代子 秘 色
うらさびし麦笛ふかん山の畑 中勘助
えんぶりの笛いきいきと雪降らす 村上しゆら
えんぶりの笛恍惚と農夫が吹く 草間時彦
えんぶり笛山より春を引き連るる 苫米地優子
おしぼりの湯気の彼方に祭笛 鈴木鷹夫 大津絵
お田植の揃はぬ笛も目出度けれ 堀古蝶
お能始の一笛澄めるお幕ぬち 原田岐水
かじか笛月がうす眼をあけにけり(きくちつねこさん宅) 野澤節子 『八朶集』
かすむ日や夕山かげの飴の笛 一茶 ■文化二年乙丑(四十三歳)
からたちに来て草笛の曲変る 中戸川朝人 尋声
からつぽの巣箱に届く祭笛 徳田すゞ江
かんばせに笛を横たへ神楽かな 尾崎迷堂 孤輪
きさらぎの杜しづかなる神楽笛 石原舟月 山鵲
きさらぎや指笛で鳥呼んでゐる 廣瀬町子
きつつきの穴秋風の笛となる 板谷芳浄
くさむらに坐して草笛作りけり 橋岡恵子
くちびるに粗き石笛遅ざくら 高橋白晶女
くちびるのやさしくなりぬ茅花笛 片山由美子 風待月
くづれ簗笛吹川の水澄めり 寺島とし重
くひな笛ふく息ほそし老の病み 中勘助
くらしにこまる人が笛ふく梅雨の日ごと 細谷源二 砂金帯
くれなゐの笛の袋を冬乙女 鈴木鷹夫 大津絵
けいこ笛田はこと〜く青みけり 一茶 ■文化七年庚午(四十八歳)
けふの夜の秋思を吹ける笛一ツ 松瀬青々
この寺の子規も吹きたる瓢の笛 池内けい吾
しくるゝや岬をめぐる船の笛 時雨 正岡子規
しぐるるや横笛庵は苑の奥 石原舟月 山鵲
しぐるゝや笛のごとくに火吹竹 川端茅舎
しの笛の六管揃ふ黍嵐 伊藤いと子
しんしんと雪降る空に鳶の笛 川端茅舎(1897-1941)
すぐ鳴りてすぐ捨てらるる草の笛 大石悦子 聞香
せがまれて吹く麦笛の鳴らざりし 佐藤由比古
せがまれて鳴らす草笛かすれけり 吉江八千代
そこまでと人の傘借る祭笛 上田千恵子
そのなかに笛つかまつる十三夜 青木敏彦
その人の稽古始の笛の音や 黒田杏子 花下草上
たかぶれば悲しさばかり祭笛 江口千樹「鶴俳句選集」
たましひの音色に出づる祭笛 栗生純夫 科野路
たんぽぽに工場の閉づる笛鳴らす 今泉貞鳳
だんじりの休む間を笛一人吹く 高木石子
ちちははの圏外にいて草笛澄む 吉岡満寿美
つばな笛かなしきまでに音のひとつ 下村ひろし
つばな笛海の碧さをいかにせむ 佐野まもる 海郷
つばな笛父の嘆きは音とならず 上田五千石
とびの笛聞く爆心地初御空 石田民生
ともに吹きし麦笛の音のちがひたる 加倉井秋を
どうしても悲しく吹けぬ瓢の笛 後藤比奈夫
どの路地も海の風吹く祭笛 古賀まり子 緑の野
にぎりめし屍焼く間の雪の笛 寺田京子 日の鷹
ねぶた笛村に家継ぐ父似の子 菊池シュン
のぼり竜けふ目がなごみ祭笛 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
はげしさを優しさに継ぎ神楽笛 加倉井秋を
はるかなる磯笛の間の聲なども 八木林之介 青霞集
ひきしぼりたる笛の音や初神楽 上田春比古
ひぐらしや祭の笛や時流る 百合山羽公 故園
ひそやかに雉笛と云ふものを吹く 城谷すぎ
ひとりゐに銀漢たわむ祭笛 相馬遷子 山國
ひびかせて鹹き指笛雲の峯 子郷
ひょんの笛力を抜きて吹けば鳴る 植松千英子
ひょんの笛林芙美子はどこにゐる 伊東達夫
ひよんどり笛の男の腕の節 井村経郷
ひよんの笛ことばにしては愛逃ぐる 池冨芳子
ひよんの笛さびしくなれば吹きにけり 安住敦
ひよんの笛わが姓にある?偏 猪口節子
ひよんの笛一茶嫌ひを通しけり 福島 勲
ひよんの笛力まかせに吹かずとも 茨木和生 丹生
ひよんの笛吹いて母の音まさりけり 杉山文緒
ひよんの笛吹けて草笛は吹けず 茨木和生 三輪崎
ひよんの笛左右の柩が開いてゐる 白澤良子
ひよんの笛穴大きなと小さなと 茨木和生 丹生
ひよんの笛鳴らす傘寿の同窓会 中山杲
ひよんの笛鳴るも鳴らぬも手より手へ 相原利生
ひよん笛を吹いたでしようね山頭火 三富みきえ
ひよん笛を吹く背男の魔と滋味と 熊谷愛子
ひるの日となりつつ獅子の笛ながれ 長谷川素逝 村
ふりむけばただ麦笛の出生地 対馬康子 愛国
ふるへ声して夕鳶の笛すゞし 鈴木花蓑句集
ふんどしに笛つゝさして星迎 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
ほほづき縁日笛ひゃらひゃらとひゃらひゃらと 高澤良一 鳩信
ほほ笑みて笛休まする雛かな 上田五千石 森林
ぼうたんの花びら笛も佳かりけり 茨木和生
まくなぎや笛と太鼓がほしくなる 喜多陶子
まだ覚めぬ脳裏に刺さる河鹿笛 横嶋一茶夢
まつり笛とほくは月の出の街に 細谷源二 砂金帯
まつり笛指がおぼへてゐたりけり 勝山栄泉
まつり笛皿のゆつくり沈みけり 鳥居真里子「鼬の姉妹」
みづに浮く月のまぼろし蕭蕭と胡笛は母の界を透かせり 大滝貞一
みなぎつてケトルの笛となり朧 鳥居おさむ
むら雀麦わら笛にをどるなり 一茶「七番日記」
やみ祭神輿鎮めの笛を吹く 鈴木太郎
やや寒の笛に唇あて能役者 角川春樹
ゆく春の笛に妻恋ふ盲あり 飯田蛇笏 山廬集
わが街の笛の音と聴く祭酒 佐藤美恵子
わが鳴らす麦笛びびと手にこたへ 中村汀女
われら逐はる//胡笛の森に/祭来て 高柳重信
アカシヤの花散る里や船の笛 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
アパートに水の乏しや祭笛 藤田湘子「途上」
エイサーの指笛基地へ飛びに飛ぶ 北さとり
コスモスや一笛長く入港す 中拓夫
ビール冷ゆ渓流さやに笛となり 原裕 葦牙
フルートといふ横笛に秋の風 庄中健吉
ポケットの鶯笛に手の触れぬ 佐藤和枝
ラグビーの今終りたる笛高し 井桁蒼水
ラグビーの泥んこ地獄断てり笛 あかぎ倦鳥
ラーメンの笛途切れては北風の路地 高橋幾代
一つ一つ吹く風涼し笛の孔 涼し 正岡子規
一吹きは法蓮華経瓢の笛 後藤比奈夫 めんない千鳥
一生や鶯笛の遠き音も 高橋謙次郎
一笛で変る人文字秋高し 吉田花宰相
一笛に幽谷の冷え能舞台 佐野美智
一笛に月の芝能はじまりぬ 大橋宵火
一笛に秋気澄みゆく野外能 平賀扶人
一笛に蝉鳴きをさむ薪能 石倉美津子
一笛に集ふ花野に散りし子が 田邉富子
一笛の凝り澄みゆくや薪能 永井正子
一笛の堰を切つたる薪能 西川織子
一管の笛で鎮めし荒神輿 秋山紅葉
一管の笛にもむすぶ飾りかな 飯田蛇笏 霊芝
一管の笛に父恋ふ黄門祭 富永浄子
一管の笛に耳立て獅子の舞 西山五百枝
一管の笛を保持せりたかしの忌 上村占魚
一管の笛を携へ除隊兵 松村蒼石 寒鶯抄
一管の笛国栖奏を司る 舘野翔鶴
一管の麦笛光る真昼の野 有馬朗人(夏草)
七夕や暮露よび入て笛をきく 其角
万緑やバスの後退笛ひとつ 那須淳男
三つ星真向追手に虚落笛ありて 及川貞 夕焼
三味も引き笛も吹く梅の主哉 梅 正岡子規
三日月に強く吹くなり神楽笛 阿波野青畝
上半身陽のいろに麦笛を吹く 櫛原希伊子
下校児が渡舟待つ間のつばな笛 中村 翠湖
両神山中駒鳥笛の聞こえけり 鈴木五鈴
人や住む梅に戸ざして笛の音 梅 正岡子規
人消えて陶鳩笛(オカリナ)湧けりすすき原 平井さち子 鷹日和
今日は鳴らず昨日鳴りたる瓢の笛 後藤比奈夫 めんない千鳥
仏生会鳰には鳰の笛仕え 佐々木栄子
仕る手に笛もなし古雛 松本たかし
仲春や小闇をつねに笛の中 今井 勲
仲見世に鳩笛を買ふ傘雨の忌 恒松英子
伊勢神楽植田へ朝の笛流す 三島玉絵(白魚火)
佃煮のこんぶの照りや祭笛 鈴木鷹夫 風の祭
何もかも光りて雨の祭笛 町田しげき
何沈み青淵といふ祭笛 田中裕明 花間一壺
余花の佐久草笛の佐久鯉の佐久 西本一都 景色
佞武多笛うまし津軽に嫁ぎきて 三浦恵子
佞武多笛かなしき音色余韻とし 増田手古奈
例幣使街道麦笛も横切らず 平畑静塔
係累に加はる赤子祭笛 蓬田紀枝子
修羅能の一管の笛涼しかり 石原君代「半仙戯」
俳諧に伴奏あらばひよんの笛 成瀬櫻桃子
兄のふく草笛にやゝ憂あり 美野田ひろ
兄事して低唱に付す麦の笛 中戸川朝人 残心
先達は笛の翁よ国栖の奏 野崎ゆり香
先頭の草笛すでに湖に着く 中戸川朝人 尋声
光悦の笛筒凜と能始 玉川悠
兎の耳吹雪を笛と聞くことも 新谷ひろし
公達の悲しきまでに寒の笛 佐藤けい子
六斎笛山々霧をふりはらひ 下田稔
冬曙岩戸開きの終の笛 甲斐すず江
冬霧ゆく船笛やわが在るところ 橋本多佳子
凩のはじめは笙の笛に似て 鳥居美智子
出港か月界がこたう夜の巨笛 赤城さかえ句集
切支丹寺のさくらに船の笛 石原八束 空の渚
初伊勢や松籟に和す笛太鼓 伊藤いと子
初午の笛太鼓パン焦がしたり 石川桂郎 含羞
初大師歌口赤き笛を買ひ 青木文恵
初恋のひとの麦笛聞きし頃 石川文子
初暦ひらく牧神笛を吹く 野見山朱鳥
初神楽吹かねば氷る笛を吹く 加藤かけい
初能や帰還兵大五郎笛の座に 佐野青陽人 天の川
初花の芙蓉に澄めり稽古笛 能村登四郎
初荷船島へ合図の笛鳴らす 木内彰志
初蛙笛吹峠の真下より 山口素基
初買の鶯笛もその一つ 伊藤柏翠
削氷や顔かたむけて吹く笛に 中田剛 珠樹以後
前山にひびく龍笛御田植祭 松本幸子
力あまつてささなき笛に似て終る 安東次男 裏山
匂い立つ樹々の朧に笛木霊 長谷川かな女 牡 丹
北限の海女の磯笛雲へ吹く 小畑柚流
北風暗く笛も鳴らさず船出でぬ 五十嵐播水 埠頭
十二橋の一つの橋を獅子の笛 町田しげき
十六夜や結び目褪せし笛袋 藤井寿江子
十勝野の牛呼ぶ笛や花なんば 御子柴光子
十夜法会はじまる笛の越天楽 江尻真沙子
十本の冷たき指の笛を吹く 射場秀太郎
午笛鳴る空ふり仰ぐ雪眼かな 宮武寒々 朱卓
卒業の城山へ笛携へし 山本洋子
卒業期紅葉裡に並む檜笛 香西照雄 対話
友だちのなき麦笛を鳴らしけり 富安風生
口重き蜑も笛とる午まつり 前田鶴子
古雛の唇と笛とのあはひかな 奥坂まや
台風一過まづ豆腐屋の笛が来る 長田等
合格を決めて主審の笛を吹く 中田尚子
名月や笛になるべき竹伐らん 正岡子規
吹きつのる鶯笛や梅もどり 麻田椎花
吹き終へし笛冷やかに膝の上 高室有子
吹き習ふ麦笛の音はおもしろや 杉田久女
吹く笛の林へ向ひ寒復習 高田青圃
吹初の高笛雪を降らすかと 山口誓子
吾子ほどに息の続かず草の笛 山田弘子 螢川
呼びかはす船笛涼し国若し 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
咽喉笛を女面の下に薪能 橋本多佳子
唇のしやくりあげたる祭笛 嶋田麻紀「自註・嶋田麻紀集」
唇舐めて□笛試す返り花 鈴木鷹夫 渚通り
唐人も見よや田植の笛太鼓 一茶「八番日記」
喉笛を掻き切つたるか曼珠沙華 齋藤愼爾
嘗て吾佞武多の笛を吹きしこと 目時色許男
囀やうしろ歩きの保母の笛 神山由紀子
団扇風もらひ遺影に献笛す 斎藤新一郎
国柄奏や白水の笛の高しらべ 大橋敦子
国栖の野に翁の笛や梅三分 中川晴美
国栖奏の笛涸谿にひびきたり 塩川雄三
国栖奏や白木の笛の高しらべ 大橋敦子
国栖笛や梅も柳も舞の袖 一峨
土笛を喉より吹いて雪くるか 吉田紫乃
地虫釣り上げて午笛の鳴り終る 内藤吐天 鳴海抄
墓山にひよん笛高くまた低く 渡辺白蓉
壬生念仏の笛休む間も鉦は打つ 安住敦
壬生狂言に笛が加はり眠くなる 菖蒲あや
夏川やどこかで笛を吹いて居る 幸田露伴 拾遺
夏神楽笛の少女はふはと座す 鍵和田?子(ゆうこ)
夏祭水田々々を笛ころび 石川桂郎 含羞
夕明りの山襞のどこ神楽笛 加倉井秋を 『欸乃』
夕明り麦笛既に朧めき 河合凱夫 藤の実
夕雲へ目を遣るころの祭笛 鈴木鷹夫 風の祭
夕顔や牛を尋ぬる笛の声 夕顔 正岡子規
外宮さんの春あかつきの鳶の笛 山田みづえ
夜の湖に秋の祭の笛ひゞき 小林七歩
夜神楽の笛に澄みゆく高嶺星 西村博子
夜神楽の笛哭くやうに高嶺村 橋本和子
夜神楽や荒ぶる神を笛鎮め 岩渕英子
夜鷹蕎麦客の附かざる笛長く 佐藤うた子
大夕焼牛に指笛ゆきわたる 太田土男
大寒の壺の中から笛の音 大西昇月
大岩のひびの深さへ海女の笛 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
大年の雨の間に聞く鳰の笛 松村蒼石 雪
大竿灯乙女の笛にあやつられ 田中敦子
天たかく樹のまつらるる笛ひびき 細谷源二 鐵
天づたふおはら祭の笛太鼓 白澤良子
天上も春遠からず鳶の笛 杓谷多見夫
天人の笛の払ひし煤ならん 川崎展宏 冬
太郎には鳴らぬ麦笛鳴らしけり 野中 亮介
夫と吹く麦笛とちりとちりては 満田玲子
失せものに思はずも出で水鶏笛 宇佐美魚目 天地存問
奥四万の月にいつまで祭笛 前田普羅 春寒浅間山
女来よまだ足らぬぞと踊笛 軽部烏頭子
女生徒の麦笛そろふ牧の道 三谷喜与史
姉らしくなりて蘆笛つくりやり 石井とし夫
子に伝ふ笛の秘曲や梅の月 梅 正岡子規
子に聞かすつもりが鳴らずひよんの笛 西本瑠璃子
子のくれし麦笛つひに鳴らざりし 川村たか女
子の呼吸(いき)の笛のおさらい鳳仙花 工藤眞智子
子の笛を借りて吹くなり十二月 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
安中や登子喪笛を吹き熄めず 橋本夢道 無類の妻
宵々や按摩の笛も蚊喰鳥 蓼太「蓼太句集三編」
宵宮の間遠の笛の音それも消ゆ 松本佳子
宿定め荷をおろしたり祭笛 鍵和田[ゆう]子 未来図
寒鮒を堕して鳶の笛虚空 竹下しづの女句文集 昭和十二年
寝返りてみてもはるけき河鹿笛 橋本榮治 逆旅
導くや草笛の子の時に駆け 上野泰 春潮
小半時ほど人遊ばせてひよんの笛 ふけとしこ 鎌の刃
小諸なる草笛は身を透くごとし 岸原清行
小鳥笛水のころがる音すなり 長谷川櫂 蓬莱
小鳥網笛調子出て山の寒さかな 中島月笠 月笠句集
少年が犬に笛聴かせをる月夜 富田木歩
少年の唇小さし祭笛 上和田哲夫
少年の夏の終りのガラス笛 対馬康子 愛国
少年は老い草笛は鳴らざりき 玖保律子
就中母の草笛高く鳴る 相河美智子
山の子に獅子の遠笛やるせなや 長谷川素逝
山は蚋多しや笛を手にのぼる 森ちづる
山垣は天竜美林盆の笛 百合山羽公 寒雁
山宮の笛きこえくる汐干かな 佐々木有風
山越えて笛借りにくる早苗月 能村登四郎
山風に笛ひょろひょろと夏神楽 木村蕪城 寒泉
島に枯れ海女の磯笛沖へ逃ぐ 河野南畦 湖の森
嶋原や笛も太鼓も冬の音 正岡子規
工場のふえる町ゆく獅子の笛 相河美智子
左右の手の草笛の音を吹き分けぬ 三宅清三郎
己が吹く己が笛の音寒稽古 成瀬雄達
帯巻くとからだ廻しぬ祭笛 鈴木鷹夫「渚通り」
年の夜にこの人の笛持つわたし 朝倉晴美
年行くと吹き納めたる笛袋 長谷川櫂 古志
序の舞の笛喨々と芒野に 香月梅邨
座を移るときも吹きをり祭笛 深見けん二
引獅子や昏れをうながす笛と風 加倉井秋を 『隠愛』
御会式のこどもの笛にふりむきぬ 星野麥丘人
御座船の笛のなげきの沖くらし 宮下翠舟
御忌詣傀儡の笛に耳ふさぎ 星野石雀
御火焚の笛の吹き手の交替す 川島典虎
心豊かにせんと鳴らせし笛ほそし 細谷源二 砂金帯
思ひまた先師に返る河鹿笛 山崎千枝子
息ゆたかにて草笛のつたなさよ 渡辺千枝子
息笛で終る草笛遠野童衆 加倉井秋を
息継ぎて音の寂しき麦笛や 内藤吐天 鳴海抄
愛鳥日笛とし抜けば穂立ある 依光陽子
我が笛の谺聞きゐる月の森 雑草 長谷川零餘子
戸を叩く音の出したき水鶏笛 後藤比奈夫 めんない千鳥
手に触るる麦を笛にし過去を絶つ 原田種茅 径
拾ひあてし石笛を吹く枯野かな 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
指笛に下りてくる空いぬふぐり 高橋邦夫
指笛を鳴らし八月踊りかな 橋元コト
捨て仔犬を鶯笛もて慰めん 北野民夫
捨雛傾ぎて笛を手離さず 大串章 百鳥 以後
掌にしばらく置けり雛の笛 鈴木鷹夫 風の祭
故志あはれ机上の笛をとらむかな 細谷源二 砂金帯
教へたる草笛を即試みよ 大石悦子 百花
敦盛の笛聞こえけり朧月 朧月 正岡子規
敦盛草風音笛の音色めく 小島鈴世
文弱の舌つ足らずを麦笛に 大石悦子 群萌
斧あてしごとき一笛初神楽 伊藤敬子
新月に牧笛を吹くわらべかな 飯田蛇笏 霊芝
新涼の笛の音色にシテ現るる 牧野秋生
旅のこころにひとすぢの河鹿笛 松村蒼石 雪
旅の途中を草笛のよくひびく 黛まどか
日曜日子の草笛の育ちけり 中井澄子
日本の横笛にだるい枯木群 阿部完市 証
早池峰の五月闇濃し神楽笛 文挟夫佐恵
明月に船笛怺へきれず鳴る 田島明志
星月夜笛のをんなの白き指 曽根田幸子
春あさきまま川浪と笛の音と 中田剛 珠樹
春の夜のしば笛を吹く書生哉 夏目漱石 明治三十一年
春の灯に笛ならひ吾が愛しづか 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
春の風佐久の草笛聞えけり 下田栄子
春を惜む姿や笛を吹く老妓 渡邊水巴 富士
春宵や笛の仕ふる能移し 都筑智子
春愁やプピープピーと千鳥笛 阿部みどり女
春愁や遠き記憶の笛を吹く 町春草
春愁や駅の坩堝を笛流れ 松山足羽
春意とよ横笛なればなほのこと 北光星
春昼や子が笛鳴らす遺族席 福田甲子雄
春空に笛や補陀落山の鳶 川崎展宏
春雨や楼上の人笛を吹く 春の雨 正岡子規
春雪やたたみてうすき笛袋 大西淳二
時の日の笛歇む運河鳩飛べり 宮武寒々 朱卓
暮れゆけば一笛いれたし紅葉山 藤沢紗智子
暮れ残る豆腐屋の笛冴え〜と 中村草田男
曇天のまぶしくなりぬ雲雀笛 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
曳山祭少女もまじる迎へ笛 伊藤いと子
月に吹く姨捨の子の笛かなし 西本一都 景色
月の名の夜ごとにかはる習ひ笛 藤井寿江子
月一つ聞く人多勢笛なけり 細谷源二 砂金帯
月今宵刀自のすさびの能の笛 塩谷はつ枝
月冴えて夜鳴そば笛また通る 渋谷一重
月夜を滑る男ほしがる笛太鼓 阿部完市 絵本の空
月天心笛吹て阪を上りけり 月 正岡子規
月山へ笛師のいそぐ辛夷かな 黒田杏子 水の扉
望の夜を吹かねば笛の横たはる 朔多恭
朝寒の笛がうながす里神楽 廣瀬直人
朝涼やわり前髪の笛の役 井上井月
朧夜や百姓の子の笛を吹く 前田普羅
朧夜を笛吹いて出よ池の主 中村史邦
木の匂ふ秋の祭の笛の箱 吉原文音
木の根にも聞耳ありて神楽笛 百合山羽公
木の芽晴風の笛生む屏風岩 雨宮抱星
木枯の笛資金カンパの売れ残る飴 田川飛旅子 花文字
木枯先生鞄よりひよんの笛 黒田杏子 花下草上
朽舟の空を広げし水鶏笛 木山杏理(京鹿子)
村獅子の笛遠離るかづら橋 麻植悦子
杣の子が雉子笛ならす暮春かな 飯田蛇笏 春蘭
来む年の笛の袋を新しく 大石悦子 百花
東風さむく海女が去りゆく息の笛 橋本多佳子
杳かなる霧や鳩笛唇にあつ 横山白虹
杵柄に覚え草笛子に負けず 河野友人
松笛を寝ても匂ひの此手かな 松瀬青々
松籟をさそふ笛の音薪能 吉田節子
松蔭に笛吹いて海涼しゅうす 高澤良一 素抱
枯山に見比べて買ふ鳩の笛 桂信子 黄 瀬
枯桑に汽車の短き笛一つ 松本たかし
枯草に午笛のながき尾が隠る 山口誓子
枯野の如く人等午笛の中歩む 榎本冬一郎 眼光
柿の木の夜空をあるく祭笛 桜井博道 海上
桃の花笛吹川は奔りたる 八木林之介 青霞集
桃咲くや故園の笛吹川青し 石原八束
桃咲くや笛吹川の矢の流れ 沢木欣一 遍歴
案内子の合図の笛や洞の秋 鈴鹿野風呂 浜木綿
梅かゝや二階の窓に笛を吹く 梅が香 正岡子規
梅が香に更ゆく笛や御曹司 椎本才麿
梅どきの笛寄せたまふ朱唇佛 角光雄
梅にうぐいす笛よく鳴かせている買う人なくて 荻原井泉水
梅ひらく羅宇屋の笛の二タ音色 不死男
梅林広し人を集むる馬車の笛 五十嵐播水 埠頭
梅雨寒の蔵にをさまる笛太鼓 佐川広治
梟が土笛を吹く千年杉 大塚健一郎
梟の笛吹いて梟より淋し 矢島渚男 船のやうに
梨きりし鋏のそばに盆の笛 百合山羽公 寒雁
椎大樹夜のこもれり祭笛 長谷川かな女 花 季
業平忌修しごころの草笛か 大橋敦子 匂 玉
楽隊のどこか哀しき春の笛 豊田眞佐子
横笛のこゑの尾赭し薪能 ほんだゆき
横笛のごと波光り螢籠 田川飛旅子
横笛の一節余す秋思かな 津々楽朋世
横笛の秘事をつたへしほととぎす 筑紫磐井 野干
横笛の音(ね)取りをぬすみ聞きし木莵 筑紫磐井 野干
横笛の高音凍る夜なりけり 菅原鬨也
横笛をおもひ染めたる色もみぢ 高澤良一 宿好
横笛を吹く白息の一呼吸 井上雪
横笛を斜にかまへて涼しけれ 片山由美子 水精
横笛を置く月の座のしまひかな 上田日差子
横笛を袋にしまふ君子蘭 伊藤敬子
横笛冴けりな寒梅開く二三輪 寒梅 正岡子規
横笛庵落し文手に訪はむかな 山岸治子
横笛庵障子明りの納め句座 清藤徳子
橋すゞみ他の一人は笛を吹く 清原枴童 枴童句集
櫓いま故老笛とる踊らめや 皆吉爽雨 泉声
歌口の美しかりしひよんの笛 後藤夜半 底紅
正月の山の指笛童子かな 皆川白陀
残寒の山辺なりけり鳶の笛 高澤良一 素抱
残菊の白きへつなぐ湖の笛 平野摩周子
残菊や一管の笛に執着し 長谷川かな女 牡 丹
殿も草笛をもて答へけり 上西左兌子
母ありしいたどり笛を吹きくれし 谷口里江
母と別れしあとも祭の笛通る 寺山修司 未刊行初期作品
母に応へて草笛の草ことば 長田等
母の忌や野に草笛の輪があふれ 若つき輝
母の日も母の磯笛聞こえけり 荻原芳堂
母も吹く鶯笛や旅の春 岸風三楼 往来
母病むや虎落の笛の水を吹く 原裕 青垣
母舞はせつつ早苗饗の父の笛 町田しげき
水の秋村の阿呆の葦の笛 小池文子 巴里蕭条
水の秋笛吹いてゐる男の子 柴田白葉女 花寂び 以後
水上や風にしたがふ鴨の笛 松村蒼石 寒鶯抄
水加減きまらぬままに水鶏笛 後藤比奈夫 めんない千鳥
水無月の吹かぬ笛聞く夜もすがら 中川宋淵 命篇
水笛の音を買ふ千日詣かな 青野富美子
水笛の鳥にみづ差す夜店守 篠遠良子(岳)
水郷に生れ草笛みんな吹く 古賀雁来紅
水際まで山落ちてゐる河鹿笛 矢島渚男「翼の上に」
水鶏笛きつと芭蕉を呼び寄せる 松田ひろむ
水鶏笛ひようと鳴りたるあと寒し 殿村莵絲子 牡 丹
水鶏笛宝石箱にしまひ置く 石脇みはる
水鶏笛聞かばやとゆく湖月夜 小野百合子
水鶏笛郷愁の口すぼめ吹く 玉置かよ子(雨月)
汐錆びし青葉の笛も初夕焼 堀 古蝶
汝が母の磯笛を聴くおぼろかな 黒田杏子 花下草上
沖止めの船笛長し牡丹雪 増田富子
河口ものうし鴨の喉笛どこにゐても 加倉井秋を 『真名井』
河鹿笛うつし世遠きみささぎに 村松紅花「夕日ぶら下がり」
河鹿笛夢の貴公子舟でゆく 新部烈人
河鹿笛村は小さきほどよかり 齋藤美規
河鹿笛枕に旅の耳二つ 小笠原和男「方寸」
河鹿笛田植の雨が重くなり 中拓夫 愛鷹
河鹿笛白日を水急ぎつつ 猪俣千代子 秘 色
河鹿笛競ひて花まつり前夜 樋笠文
河鹿笛聞かんと闇に顔さらす 池上浩山人
河鹿笛調子はずめばホーイホイ 小原菁々子
河鹿笛鞍馬は水の走りけり 鈴木榮子(春燈)
泣けと如くに風の津軽の祭笛 鈴木鷹夫 風の祭
泪のごと川が流るる祭笛 鈴木鷹夫 春の門
流し雛佐久の草笛添へ流す 西本一都 景色
流灯会女人の笛にはじまれり 中戸川朝人
浪のりは鋭きロ笛をならしたり 横山白虹
浮くたびに磯笛はげし海中暗し 西東三鬼
浮桶下げて海女も鳴らすよ茅花笛 町田しげき
浴衣だけ着てみる遠き笛の音 林 翔
海の日の正午を告げる船の笛 伊藤いと子
海冥く断崖峙てり祭笛 内藤吐天 鳴海抄
海女の子の吹く水笛に風光る ひふみ
海女の笛熄みし卯の花曇りかな 岡田貞峰
海女笛のうねりがくれに秋の蝶 臼田亜浪 旅人
海女笛の遠くなりけり春の潮 竹久みなみ
海神の没後高鳴る祭笛 宇多喜代子
海鞘膾□中にあり祭笛 鈴木鷹夫 千年
消えのこる流燈一つ船の笛 猿橋統流子
消え易きものに船笛西東忌 中尾寿美子
深川や敗戦の日も祭笛 伊藤いと子
深酒の寝息も花祭(はな)の笛に通ふ 友岡子郷 遠方
清明の唇につめたき笛習ふ 飯田綾子
湖の津に入る船笛柳散る 中戸川朝人 星辰
湖艇去る笛こだまして山眠る 宮武寒々 朱卓
湯沸しの笛に呼ばるる端居かな 八染藍子
湯豆腐や鶯笛を子に鳴らし 渡邊水巴
漏刻祭船笛つねにはるかより 津田仙子
潮吹きの岩鳴りよどむ青葉笛 原裕 葦牙
瀬に寄れば却つて遠し河鹿笛 馬場移公子
灌仏や鳶の子笛を吹きならふ 茅舎
火蛾はやもあしべ踊の笛の妓に 木田南子
灯の色の赤き一戸や笛の秋 加藤三七子
炉塞ぎて笛の稽古を思ひ立つ 大石悦子
炎天の船笛何ぞ荒涼たる 榎本冬一郎 眼光
炭の香のして草笛を吹く寺よ 田中裕明 櫻姫譚
炮烙を割るにも壬生の笛・太鼓 橋本美代子
烏羽海女の磯笛かなし卯浪荒れ 久保節代(椎の実)
無口なる父の草笛よくひびき 二村陽子
焼かるるとさざえが細き笛を吹く 秋沢猛
焼芋の笛が星座を低くせり 半沢房枝
焼藷の笛鳴る都大路かな 小路智壽子
焼藷や歌劇の町に笛高く 森田峠
焼藷屋一の鳥居で笛鳴らす 塩川雄三
熊のため笛が泣くなり熊まつり 堀口星眠
熊祭アイヌの笛が星降らす 松本しげる
熱きものもつやうな指祭笛 斎藤朝比古
熱燗にして鹿笛を聞くばかり 飴山實 辛酉小雪
燐光のくらげや号笛弔一声 平井さち子 紅き栞
父と吹く麦笛のまだ曲なさず 増田 富子
片蔭へ沈む祭の笛の声 秋元不死男
片陰へ沈む祭りの笛の声 秋元不死男
牛も笛もなき草刈のあつさ哉 横井也有 蘿葉集
牛飼の夜はつかまつる神楽笛 林 加寸美
牧童は麦笛よくし夢もてり 河野南畦 『花と流氷』
牧笛の陂下るや花茨 茨の花 正岡子規
狛氏の裔笛の名手と読始 辻桃子
猟犬を呼ぶ指笛のこだまかな 渥美三江
獅子の出をうながす笛や初芝居 清水萬里子
獅子の笛夕づく山河恋ふるかに 小路紫峡
獅子笛や山河眩しき父のくに 佐川広治
獅子舞に暇乞唄暇笛 加倉井秋を
獅子舞の笛がまづ来る磯の径 利根川妙子
獅子舞の笛に蹤きゆく遊び鶏 藤井亘
獅子舞の笛のきこえてこゝへは来ず 敦
獅子舞の道中笛に和す蝉時雨 町田しげき
獅子舞や撥ね上げて吹く横笛に 長谷川櫂 虚空
獅子舞や笛の少年戸に凭れ 橋本鶏二 年輪
獅子頭笛の音澄めば眠りけり 山田恵子
瓢の笛あやしき空となりゐたり 百瀬美津
瓢の笛五つに音色五つかな 山田弘子 こぶし坂以後
瓢の笛夜汽車のやうに響きけり 山田東海子
瓢の笛愁ひの胸にこたへけり 小路紫峡
瓢の笛隣で吹いてゐて遠し 後藤立夫
田あそびや鶏鳴のぼる笛の間 飯塚樹美子
田へひびく秋の祭の笛合せ 古市枯声
町ぐるみ除夜船笛の太柱 野沢節子 存身
畦青む見ては心に笛を吹く 千代田葛彦 旅人木
白日に瞑り吹くなり祭笛 井沢正江 一身
白磧より草笛か麦笛か 神尾久美子 桐の木以後
白籏に顕つ秋風や笛まつり 伊藤いと子
白鳥の笛のしらべも聞きたまへ 中田みづほ
百蕾の梅や神楽の笛に侍す 神尾季羊
皆踊る笛に鉦っこハギ衣裳 高澤良一 素抱
目が合ひて鶯笛を吹かれけり 内田美紗 誕生日
眉はねて今日の馬追ひ祭笛 細谷源二 砂金帯
看取る手を休めて聞けり祭り笛 中島美都里
睡る獅子ぴひよろぴひよろと笛起す 福田蓼汀
短夜をさぶらふ笛に戀をして 筑紫磐井 野干
短日や杉山透る竹の笛 青柳志解樹
石の世の石吹く笛のさびしさよ 乾 裕幸
石笛を以て挨拶春の山 正木ゆう子 静かな水
磯笛に譜はなく鮑捧げ浮く 千田一路
磯笛のするどき海女は若かりし 岡本春人
磯笛の聞えず今日は海女の葬 金子ユリオ
磯笛は命の叫び鮑海女 伊東宏晃
磯笛は放愁の音色海月浮く 石田厚子
磯笛や高き卯浪に途切れつつ 神田しのぶ
磯釣に笛の音とどく浦まつり 三谷喜与史
神のまへ神楽太鼓に一管の笛添ふ音色 二本の楽 長沢美津
神楽ばやしの笛一管を持ち離農 小林道夫
神楽笛ここ涼し音の佃堀 古沢太穂
神楽笛ひよろひよろいへば人急ぐ 阿波野青畝(1899-1992)
神楽笛ピと強吹くや吹き了る 辻桃子
神楽笛月を細めてゐたりけり 山下道子
神楽笛空より降つて茅の輪かな 中村祐子
神楽笛飄と天ゆく鷽守り 野沢節子
祭の子笛を吹いては馬のかげ 細谷源二 砂金帯
祭の笛野に快楽の蛇しずみ 北原志満子
祭り笛蒙古班めく紋所 八木三日女 落葉期
祭り笛遠し遠しと空の丈 寺田京子
祭笛うしろ姿のひた吹ける 橋本多佳子
祭笛うつとり老の後頭に 中山純子 茜
祭笛かき消す葭のあらしかな 小島千架子
祭笛ひびくところに手足醒め 福永耕二
祭笛ひゆるんと胸に落ちて来し 矢崎良子
祭笛よこたへ吹いてかほさびし 橋本鶏二 年輪
祭笛上手は風となりにけり 武田和郎
祭笛主客稲田を巡りをり 松倉ゆずる
祭笛今宵ゆふべの洗ひ髪 攝津幸彦 未刊句集
祭笛四万のさぎりに人遊ぶ 前田普羅 春寒浅間山
祭笛堆肥の跡に箒の目 香西照雄 対話
祭笛夕星力増しにけり 石田邦子
祭笛夜と昼となく酔ひし目で 橋本榮治 越在
祭笛子ら遠ければ遠く聞く 島田まつ子
祭笛小指立ちたるとき高音 鈴木鷹夫 風の祭
祭笛幾夜きこへて今宵なし 渡邊千枝子
祭笛悲鳴のごとし雨を衝き 遷子
祭笛情におぼれしこと多し 岩田昌寿 地の塩
祭笛暗き流れの彼方より 石寒太 炎環
祭笛木目のしるき御堂かな 服部茂俊
祭笛浜西風荒くなり来り 臼田亜浪 旅人
祭笛獅子頭めきバスが来る 香西照雄 対話
祭笛町なかは昼過ぎにけり 桂信子 緑夜
祭笛疫病のごと出稼ぐ坑夫 穴井太 穴井太集
祭笛空ひるがへる能衣裳 佐川広治
祭笛老のみがきし喉かな 増山いつ子
祭笛足の先より浮かれ出す 加藤憲曠
祭笛遠し焦げパン縁ではたく 平井さち子 完流
祭笛釜の湯立に浄め吹く 羽部洞然
祭笛高杉に星こぞりけり 内藤吐天 鳴海抄
祭笛高音の時は小指あげ 蓼汀
禅寺をわし掴みして鳶の笛 前田吐実男
秋あかね海女の笛聞く崖の上 大川鶴園
秋の七草指笛の遠くより 針呆介
秋の夜やせうじの穴が笛を吹 一茶 ■文化八年辛未(四十九歳)
秋の夜や泣くよに来る按摩笛 中島月笠 月笠句集
秋の日の笛吹川も一見す 高野素十
秋は山國の川は笛吹川 その音をきく 荻原井泉水
秋灯に笛持てば妻に遠ざかる 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
秋祭ひびかぬ笛をもてはじまる 寺山修司 未刊行初期作品
秋祭笛一管に星欠くも 古舘曹人 能登の蛙
秋空や子をかずつれし鳶の笛 飯田蛇笏 霊芝
秋草の紫立つは笛の道 長谷川かな女 花寂び
秋草や笛の音ほどに身を立つる 対馬康子 愛国
秋風に眉ひりひりと笛の衆 鈴木鷹夫 大津絵
秩父嶺の真闇に習ふ祭笛 猪俣千代子 堆 朱
稽古笛糊まだ固き浴衣着て 松岡英士
穴子食む船笛近き子の住所 田中芙美
空が酔ふ笛の一節くんち来る 中尾杏子
空も酔ふ笛の一節くんち来る 中尾杏子
空瓶を吹いて笛とす春の岬 朔多恭
突拍子なき笛続きをり梅若忌 山田みづえ 忘
立枯れて芙蓉も鳴るや虚落笛 石川桂郎 含羞
竜笛の森の白息ひそかな一夜 木村孝子
竹秋の笛が聞えて何かある 鈴木鷹夫 春の門
竿燈をしまひ行くにも笛吹いて 有馬朗人
笛いつか失せし手付きの古雛 三浦小雀子
笛きこゆ海霧の津軽の星祭 町田しげき
笛しばし遅れ思案の獅子頭 谷口桂子
笛そへば祭太鼓の高くなる 中村汀女
笛つくることの遊びや冬菜屑 古館曹人
笛による矢たけ心か雉子のこゑ 浜田酒堂
笛に名をとどめし老妓大石忌 大橋櫻坡子
笛に湧く夜霧藤色踊りに入る 加藤知世子 花寂び
笛のこゑ鉾を解体せし後も 山口誓子
笛のごと風音聞こゆ梅林 大長林
笛のみはさみしからずや盆踊 西本一都 景色
笛のよく売れる祭よ津軽富士 町田しげき
笛のよな顔して鹿の鳴きにけり 鈴木鵬于
笛のよに啼くは子猿よ秋の滝 高井北杜
笛の尾の白装束の行方かな 八木三日女 落葉期
笛の音が山やましずめ初神楽 長島八千代
笛の音が脳裏かすめる雪の昼 大井雅人 龍岡村
笛の音にこもりし春のうれひかな 久保田万太郎 流寓抄
笛の音に月落ちかゝる砦哉 月 正岡子規
笛の音に波もより來る須磨の秋 蕪村 秋之部 ■ 須磨寺にて
笛の音に濤が狂ひて春祭 毛塚静枝
笛の音のあはれ遠音や盆の夜々 馬場移公子
笛の音のいつからやみて冬の月 也有
笛の音のしみこんで山眠るかな 小島健 木の実
笛の音のすこし狂へる寒さかな 長谷川櫂 天球
笛の音のやうな名前のピサロの絵 高澤良一 燕音
笛の音のやさしき念力梅ひらく 竹内まり
笛の音の一トきはたかきときの秋 久保田万太郎 流寓抄以後
笛の音の一気に春を呼びにけり 沢木欣一 往還以後
笛の音の涼しう更くる野道哉 涼し 正岡子規
笛の音の美しかりし無月かな 高野素十
笛の音の身に入む旅も終らんと 高濱年尾
笛の音の霜結ばする神楽かな 松根東洋城
笛の音は森より遠野大神楽 高澤良一 寒暑
笛の音は風の軽さでくる祭り 山岡千枝子
笛の音も佐渡も遠しや薪能 文挾夫佐恵
笛の音や泣きみ怒りみ祭獅子 高橋淡路女 梶の葉
笛の音や蛍出てちる水の上 立花北枝
笛の音や誰とも知らす秋の人 尾崎紅葉
笛の音や遠くに見ゆる月の人 月 正岡子規
笛の音を曳きて歩めり木守柿 吉本伊智朗
笛は泣き音か挿頭鳳凰舞ひ冴ゆる 加藤知世子 花寂び
笛ふいて夜涼にたへぬ盲かな 飯田蛇笏 霊芝
笛ふいて長蛇みちびき運動会 赤松子
笛ふけや日日に祭は来ぬものを 細谷源二
笛もなく激しく舞ヘり旅の獅子 殿村莵絲子 牡 丹
笛も鈴も身ほとりになし雁わたる 藤田湘子 てんてん
笛やんで籠にをさまるコブラかな 山本歩禅
笛を吹き切つて羞ふ祭の子 佐藤美恵子
笛を吹き鷽と競り合ふ春の山 井出利江
笛を吹く妻は良かりし桐の花 白川 仁
笛を吹く少年の隣は秋か 丸山嵐人
笛を吹く頬の産毛や風光る 角谷昌子
笛一つ釘にかけたり冬籠 冬籠 正岡子規
笛合す囮なか〜高音かな 中島月笠 月笠句集
笛合はす祭の若き男たち 福田甲子雄
笛吹いてくれろと粽そへらるる 田中裕明 櫻姫譚
笛吹いてすぐにやめけりチユーリップ 川崎展宏
笛吹いてすぐ終るわが秋祭 小泉八重子
笛吹いてむかしむかしの日向ぼこ 中川宗淵
笛吹いて了る童話よ遠嶺に雪 大嶽青児
笛吹いて古ェめかせ春の月 尾崎迷堂 孤輪
笛吹いて女濃くなる花篝 宮本由太加
笛吹いて山の風よぶ秋祭 豊長和風
笛吹いて涼し壁画の飛天仏 木暮剛平「飛天」
笛吹いて神を寝かさぬ雪祭 稲垣陶石
笛吹いて落第坊主暇あり 石塚友二
笛吹いて重き頭や弥生尽 原 月舟
笛吹く隣家遠祭笛病快し 石川桂郎 含羞
笛吹のながれをひきて田を植ゑぬ 石橋辰之助 山暦
笛吹のひとりが銀河より降りる 佐野鬼人
笛吹のみなかみ奏で桃花村 皆吉爽雨 泉声
笛吹の学舎のさくら見つゝ過ぐ 石橋辰之助 山暦
笛吹の川の音色も半夏かな 本宮鼎三
笛吹川に紋白蝶のおびただし 斉藤夏風
笛吹川のくだつ出水に朗人立つ 小林宗一
笛吹川の中州の尾花日和かな 高澤良一 さざなみやつこ
笛吹川一筋あをく獅子舞来 橋本榮治 麦生
笛吹川今朝刈りたらん萩流る 伊藤京子
笛吹川幾曲りして枯れ急ぐ 金堂信子
笛吹川秋さるを寂かなりといふ 千代田葛彦 旅人木
笛吹川金色に秋うかびゆく 千代田葛彦 旅人木
笛吹川雨の彼方の桃の花 青柳志解樹
笛吹川雲間の割るる秋の風 石原八束 空の渚
笛吹童子時雨の夜は何をなす 鈴木六林男 王国
笛売と再会 十年後の音色 伊丹三樹彦 写俳集
笛太鼓大山祗の田を植うる 小林客水
笛太鼓木の実の階をかけあがる 吉原文音
笛太鼓沼に響かせ祭来し 石井とし夫
笛失せし雛の指の笛を吹く 猪俣千代子 秘 色
笛少女網戸より風漉き入るる 原裕 青垣
笛急に霰もおろす燎火かな 島田五空
笛方に徹する家系秋祭 内田二三子
笛方のかくれ貌なり薪能 河東碧梧桐
笛方のしづ〜と出や能始 鈴木芳如
笛方の涼しき袖を水鏡 小原芳子
笛方の灯に遠き座や薪能 福井まつえ
笛方の遠まなざしの涼しさよ 片山由美子 天弓
笛方は一人にて足る里神楽 松井恭子
笛方は女なりけり嵯峨念仏 野上智恵子
笛方は真顔なりけり里神楽 木内彰志
笛洗ひ水切つてねぶた囃子衆 細谷喨々
笛稽古畳すれすれ蚊が飛んで 岸本尚毅 鶏頭
笛笛の昔の二人にはあらず 海輪久子
笛籐のよく撓ひたる弓始 福田甲子雄
笛置きし影生れにけり遅桜 金久美智子
笛賣の笛吹く月の夜店哉 月 正岡子規
笛鳴らす玩具の汽車に枯木の情 長谷川かな女 牡 丹
算数は苦手草笛得意なり 石塚春美
篝り燃え涼薙ぎ打つや能の笛 文挟夫佐恵 黄 瀬
籟初や座附に名ある笛の家 小沢碧童
紅梅のかなた爪琴こなた笛 紅梅 正岡子規
紡績の笛が鳴るなり冬の雨 夏目漱石 明治二十九年
紫陽花の闇の重なる稽古笛 永峰久比古
羅宇屋笛を止め日暮の橋ことこと戻る 人間を彫る 大橋裸木
群鶸や甲斐路笛吹川の春 及川貞 夕焼
義経の笛吹峠花野かな 岡本英夫
羽の国の笛をあつめて虎鶫 荻原都美子
翁草銀の絮かな祭笛 飯田龍太「百戸の谿」
習ひ吹く笛冬萌の雨の中 友岡子郷
老いて尚笛を一途に里神楽 橋本一水
老の妓の笛をゆづらず大石忌 橋本多佳子
老の妓の笛座ゆづらず大石忌 橋本多佳子
老の指鶯笛にあてがひて 後藤夜半 底紅
老木に蛇あそばせて笛稽古 藤田湘子 てんてん
聴衆の壁の中にて盆の笛 百合山羽公 寒雁
肘張って秩父夜祭笛を吹く 猪俣千代子 堆 朱
能の出の笛のごとくに蜘蛛の糸 宇佐美魚目「草心」
能の笛湿す野分の真直中 林十九楼
能の面のような少女の顔 麦笛吹いて 吉岡禅寺洞
能楽堂の笛が聞こゆる杜若 蔵巨水「雄神川」
脇役に徹し鶯笛鳴らす 佐野鬼人
腰に笛差して来てをる鎌祝 茨木和生 倭
腹いせに吹く麦笛も鳴るには鳴る 島津城子
膠かけ鳩笛つくる夏炉かな 西本一都 景色
臘梅の香の絶頂の一笛師 吉田紫乃
舞殿の裏にて祭笛町より 長谷川かな女 花 季
舞笛に火の粉飛び散る薪能 鈴木朗月
舞茸の舞をひきだす能の笛 小枝秀徳女
舟端に手折りし葭の笛とこそ 山田弘子 こぶし坂
舟笛のくぐもる雪のみなと町 箕輪昭子
船に組む櫓より吹く津島笛 久保武(白絣)
船の笛南風の中にて洲本呼ぶ 山口誓子
船の笛寒し男も炊がねば 小林康治 玄霜
船渡御の曳き船船の笛鳴らす 右城暮石 上下
船笛が巣立うながす浜離宮 鷹羽狩行
船笛に遅るる谺氷河より 品川鈴子
船笛に青嶺引寄せ接岸す 袴田君子
船笛のむかしは鞴きんぽうげ 正木ゆう子 悠
船笛の告ぐるは別れ鍬始 中尾杏子
船笛の大きく近く石蕗の花 長島衣伊子
船笛を吹き合ふ湾や松の内 脇田絹子
船笛を寒き焦土へ吹き放す 榎本冬一郎 眼光
船酔ひの残りし枕祭笛 稲垣きくの 牡 丹
芦の笛吹いて少年橋わたる 苗代 碧
芦の花かがみて男笛習ふ 大野林火
芦の葉も笛仕る神の旅 高浜虚子
芦焼の合図指笛鋭けれ 柏木志浪
芦笛を鳴らすどの子も淀育ち 森田峠 避暑散歩
花ぐもり鶯笛をふいてゐる 久保田万太郎 草の丈
花下に吹く笛や十指に穴七つ 岡崎光魚
花会式鳶奉賛の笛奏す 落合由季女
花冷えの夜を去る船の笛短か 高井北杜
苗代に水張って夜のけいこ笛 数馬あさじ
若竹を酔はす月夜の祭笛 鈴木鷹夫 渚通り
若草のえにし囃すや笛太鼓 中川宋淵 詩龕
茄子笛や童女も土をひとすくひ 和田祥子
茅花笛みじかき音をたてにけり 加藤三七子
茎石洗ふ笛吹川の白水泡 中拓夫 愛鷹
茹菱によき笛つくらんとする童 尾崎紅葉
草の笛一と日ゆたかに仏見て つじ加代子
草刈の手に残りけり祭笛 横井也有 蘿葉集
草刈の笛暮はてゝ虫の声 也有
草摘むや午笛鳴りあふ淀のそら 爽雨
草笛が家に入つて来たりけり 千葉皓史
草笛で呼べり草笛にて応ふ 辻田克巳
草笛にぼんやり地平むきあへる 松澤雅世
草笛に口笛合はせをりにけり 小林律子
草笛に古墳めぐりの始まりぬ 山田弘子 螢川
草笛に吹くよ別子の銅山節 品川鈴子
草笛に応へて鈴は土の音 品川鈴子
草笛に思ひのたけをこめて吹く 内藤ゆたか
草笛に息の足りざる病後かな 徳永玄子
草笛に神津牧場境無し 久米正雄 返り花
草笛に聞耳たてし牧の牛 大橋敦子 匂 玉
草笛に藤村遠し虚子遠し 村松紅花
草笛のきこゆるごとき手紙かな 加藤三七子
草笛のしのび音となりはるかより 加藤三七子「無言詣」
草笛のしばらく行きて捨てにけり 岩垣子鹿
草笛のつまりし音色末弟に 新谷ひろし
草笛のやうやう鳴りて歩き出す 池田ちや子
草笛の上手な兄の後を追う 大頭美代子
草笛の低音は業の深さかな 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
草笛の力ゆるめしとき鳴れり 戸田禾年
草笛の力抜くとき鳴り始む 家里泰寛
草笛の吹けぬ子従いて行きにけり 白根純子
草笛の哀れひと音をもて古るぶ 八染藍子
草笛の子が近づいて遠くにも 稲畑汀子 春光
草笛の子や吾を見て又吹ける 星野立子
草笛の客鬼灯を鳴らす娘に 中戸川朝人 尋声
草笛の少年いまだ海を知らず 長田等
草笛の息のかぎりのかく細音 赤松[けい]子 白毫
草笛の息尽きるとき鳴りにけり 石崎宏子
草笛の日照雨を呼んでしまひけり 甲斐遊糸
草笛の童謡とぎれとぎれては 楢原清子
草笛の船霊さまを呼びにけり 中岡毅雄
草笛の葉つぱ一曲ごと替ふる 清野祥竹
草笛の葉は幾千枚もありかなし 山口青邨
草笛の逐によき音となりにけり 浅田千賀子
草笛の遠音はすでに暮れてをり 寺井満穂
草笛の青の中なり最上川 松山足羽
草笛の音に余りたるこころかな 加藤三七子
草笛の音をかさねて深き空 明隅礼子
草笛の音色に秋の生まれけり 鈴木真砂女
草笛の頼りなき音ばかりなり 中田尚子
草笛はメコンデルタの風となる 黒山敏恵
草笛は也良の防人呼ぶごとし 瓜生和子
草笛は夢売るひとが吹くならむ 鈴木榮子(春燈)
草笛は草のいろして鳴りにけり 小野寺敏子
草笛も口笛も吹く旅の夫 橋本美代子
草笛も吹けず本音もまだ云へず 引田芳枝
草笛やいつも太郎に追ひこさる 諏訪洋子
草笛やどこかに水田鏡なす 村越化石 山國抄
草笛や丘の穂に立ち羊守 左右木韋城
草笛や人は水辺に帰るなり 遠藤秀子「海程句集」
草笛や人棲みてこそ山河濃し 市場えつ子
草笛や低頭の日々終りたる 皆川白陀
草笛や嘆きの息が音に出でて 大石悦子
草笛や夫少年の顔となる 佐藤キミ
草笛や子が留守の家吹きあるく 加藤知世子
草笛や子らの背丈をさだかには 山田みづえ
草笛や子供はみんな雲が好き 村田近子
草笛や少年恋を知り初めし 原田稀世
草笛や少年牧の戸にもたれ 生島宿雨
草笛や巫女を姉とし吹き習ふ 阿波野青畝
草笛や愛憎愛の方へ吹く 本多静江
草笛や星のひとつが地に墜ちて 金久美智子
草笛や毛見が小者のさがしらに 雉子郎句集 石島雉子郎
草笛や水軍の墓みな小さし 友岡子郷 翌
草笛や泣く母の顔子にふしぎ 伊藤みちこ
草笛や泳ぎ子野路をなだれゆく 木歩句集 富田木歩
草笛や流れ急なるいくさ跡 脇坂啓子
草笛や海の彼方をイルカ行く 各務雅憲
草笛や熱中のときはや過ぎて 大石悦子 百花
草笛や物差余すランドセル 石井花紅
草笛や白鳥陵の水こだま 石田勝彦
草笛や目つむれば山河迫りくる 嶋西うたた
草笛や真正面に好きな人 内川伝夫
草笛や眼を遠き雲に据ゑ 宮原山水
草笛や老いても未だ息ゆたか 森田青霞
草笛や野面に吾と友二人 市野沢弘子
草笛や雲の流れはほしいまま 楠本憲吉
草笛をことばのごとく吹き合へる 山田弘子 螢川
草笛をふいて神田の生れかな 久保田万太郎 草の丈
草笛をふき万福寺附近かな 長谷川双魚 風形
草笛をふく川幅の老詩人 橋石 和栲
草笛を久にきく日は雲多き 近藤巨松
草笛を合図としたる間がら 高浜年尾
草笛を吹いてみようか上州路 片山けん一
草笛を吹いて何かに耐へてゐる 山田弘子
草笛を吹いて青春呼びもどす 貴舩恒夫
草笛を吹きたくなりぬ独りだから 山田弘子 螢川
草笛を吹きつつサニの娘の案内 岩崎照子
草笛を吹きて嘆きを悟らるる 遠藤若狭男
草笛を吹きて風上記の丘巡る 水野繁勝
草笛を吹きて齢を惜しみけり 岡野洞之(早春)
草笛を吹き一年生担任す 林直入
草笛を吹き少年となりゐたる 山中弘通
草笛を吹き水際を妻とゆく 長田等
草笛を吹き甦る山河あり 山田弘子 こぶし坂
草笛を吹き銀髪となりにけり 市村究一郎
草笛を吹き鳴らしつつ下校の子 渡辺宇免江
草笛を吹くときいつも過客なる 山崎みのる(諷詠)
草笛を吹くとき父に似し顔に 田辺虹志
草笛を吹くとき肩の丸くなる 望月一美
草笛を吹くやゴドーを待ちながら 鈴木栄子
草笛を吹く四五人に加はりぬ 山西雅子
草笛を吹けと古城の草萌ゆる 桜木俊晃
草笛を吹けば誰かが吹きかへす 野崎静子
草笛を吹けり遠くへゆくなよと 黛 まどか
草笛を子と吹くこころちぐはぐに 吉田未灰
草笛を子どもが吹いてくれにけり 小島健 木の実
草笛を子に吹く息の短さよ 馬場移公子
草笛を真似て吹く子の上手下手 高橋利雄
草笛を静かに吹いて高音かな 高浜年尾
草笛を鳴らして帰る南都かな 沖みさ
草笛を鳴らし喇吼手気玖りけり 阿波野青畝
草笛吹いて北国街道曲ることなし 長谷川かな女 花寂び
荒れ濁る海へ草笛鳴りそろう 西東三鬼
菜の花は古来しなう身笛太鼓 板垣好樹
菜の花や奥州通ふ汽車の笛 菜の花 正岡子規
葉桜や待ちてはのがす豆腐笛 小島千架子
葛の空笛吹川の音と知る 森田峠 避暑散歩
葬の笛この身重たき秋の雨 加藤知世子 花寂び
葬の酒まはりたる河鹿笛 宮坂静生 山開
葭切の熱きのど笛昼下り 櫛原希伊子
蔵王堂鶯笛を吹いてくる 石田勝彦
薪能笛一管が夜気呼べり 佐藤まさ子
薫風や鹿笛吹いて旅うれし 阿部みどり女
藪越しに獅子の笛聞く長やまひ 星野石雀
蘆の葉も笛仕る神の旅 高浜虚子
蛸壺に腰かけ復習ふ神楽笛 米澤吾亦紅
蜥蜴の眼乾く広場の 祭笛 伊丹公子 メキシコ貝
蟲の夜へ笛吹ケトル割込みぬ 都筑智子
行きすぎし猟夫の笛やあらぬ方 楠目橙黄子 橙圃
行く春を笛吹川は水増して 細見綾子
行く末は笛になるかも今年竹 福島裕峰
行春の道に佇めば海女の笛 銀漢 吉岡禅寺洞
街空に来て笛を吹く冬の鳶 原コウ子
表笛にかゞやく路のあるばかり 軽部烏頭子
袋掛笛吹川の鳴るなべに 滝 春一
裏切って麦笛を吹く弟は 坪内稔典
褌のゆるきにも似て祭笛 筑紫磐井 花鳥諷詠
襖の奥の長崎喉笛敷きつめる 八木原祐計
襟に笛差して氏子の懐手 清水弓月
観潮の底渦笛を吹くところ 阿波野青畝
訣れ舞ふ笛も鼓も冷まじや 谷中隆子
試し吹く祇園小唄や祭笛 河内きよし
試みに案山子の口に笛入れん 正岡子規
誰がために吹く麦笛かすぐに彦 加倉井秋を 『隠愛』
誰が笛なりとも夏を黙しをり 稲本池雪
誰も買はぬ寒笛吹いて吹き止まず 細谷源二 砂金帯
誰も踊らぬ草笛吹いてアイヌ墓地 加倉井秋を 『真名井』
講習の草笛ならずじまひかな 泉田克子
谷木の鬼なおそれそともし笛 其角「虚栗」
豆腐やの笛来てとまる花八手 高崎小雨城
豆腐屋の笛あと戻り金魚玉 本宮鼎三
豆腐屋の笛のうしろを冬の雷 宮坂静生 雹
豆腐屋の笛のなかまで夕焼けす 宮坂静生 青胡桃
豆腐屋の笛のぴーぽー日脚伸ぶ 花熊 桂
豆腐屋の笛もて建国の日の暮るる 岡崎光魚
赤ん坊の目がぱつちりと祭笛 細川加賀 『玉虫』
赤星の笛吹川に徒歩鵜かな 綾部仁喜 樸簡
路地曲る獅子舞の笛風に乗り 面地 豊子
跼みをり草笛を子に教へむと 伊藤通明
身を細うして吹きつづく祭笛 片山由美子 水精
転生の因果図古りし祭笛 石塚友二 方寸虚実
農を継ぎ笛を継ぎたる秋祭 平林青雲
追儺寺をりをり船の笛きこゆ 木村 蠻
造船所春の夕の笛ながく 五十嵐播水 埠頭
道遠し子の葦笛の息長し 成田千空 地霊
遠ければ遠き日に似し祭笛 隈元いさむ
遮断機の向う遠のく祭笛 赤尾恵以「春意」
郵便夫麦笛吹いて帰りゆく 田中冬二 麦ほこり
郷愁もなく 麦笛をきいている 吉岡禅寺洞
都をどり笛を吹く妓の幼な顔 高林とよ子
酒臭き小笛の息や里神楽 会津八一
里の子の麦藁笛や青葉山 椎本才麿
里の子や蚯蚓の唄に笛を吹く 一茶
里の子や麦藁笛の青葉山 才麿「誹枕」
里神楽父の笛の音聞きわけし 安井やすお
里祭笛太鼓どのあたり曳く 石川桂郎 四温
野のいろの草笛の音に呼ばれたる 柏井幸子
野も笛を失ひつつや鰯雲 熊谷愛子
野分してちかくなりたる笛の家 猪俣千代子 秘 色
野猿とぶ月夜の谿の神楽笛 福田甲子雄
野猿よぶ指笛ならす秋の暮 山形理
金雀枝をくゞることかな祭笛 齋藤玄 飛雪
釜の神猫やかぐらの笛の役 言水 選集「板東太郎」
針山の針に赤糸まつり笛 鈴木鷹夫 大津絵
鉢のもの間引かれをるや祭笛 大木あまり 火球
銀の笛ほし滝しぶき虹となり 桂信子 黄 瀬
銀竜草鵺の忘れし笛かとも 堀口星眠 青葉木菟
鍬だこの手に釈奠の笛を吹く 香月梅邨
長天を突く船笛にこころ崩る 榎本冬一郎 眼光
長老の笛 若者の神楽の足 伊丹公子 沿海
闇を裂く笛に夜神楽はじまりぬ 押川歌子
闇を裂く笛に始まる薪能 高田智子
闇を裂く笛の高音や薪能 遠藤芳郎
闇深くして船笛の去年今年 中嶋藁火
阿波路晴れ傀儡一笛添へにけり 宇野犂子
阿蘇谷や霧の夜汽車の笛いちど 児玉南草
降り暗む湖へ吸はるる祭笛 山田弘子 螢川
隔りて少年獅子の笛を吹く 鳴金洞
集金できぬ日汽罐車の笛に呑まる 古沢太穂 古沢太穂句集
雉子笛に山湖の波は盲縞 北野民夫
雉子笛に霊峰谺かへしけり 小森都之雨
雉子笛や幾谷越えて来る雉子に 金子伊昔紅
雉子笛や邑川光る雲の下 角川源義
雉子笛を吹き森を見る空を見る 辻田克巳
雉笛の上手は雉の声となる 猪俣千代子
雉笛は雉よりさみし山よりも 守屋明俊
雉笛やアトリエの窓あいてゐる 津高里永子
雉笛や丹波一国竹の湧く 小島千架子
雉笛や目近になりし雨後の雉 椎橋清翠
雉笛や邑川光る雲の下 角川源義
雑木林年賀一言笛となる 寒々
雛かなし指のはなれぬ手に笛を 大橋櫻坡子 雨月
雛まつり薬罐も笛の音色して 成田千空
雛流し船笛路地へ引きにけり 中村石秋
雨風のあとの瓜笛立ち直る 広瀬峰雄
雪しろの門川鳴るに鳶の笛 松崎鉄之介
雪を吐き白鳥笛をたえだえに 古舘曹人 能登の蛙
雪来るか一山笛の鬼女の里 丸山美沙夫
雪田原能のはじめの笛透る 野澤節子
雪祀る問答の笛もどきの笛 西本一都 景色
雲なくば神話なからむ瓢の笛 布施伊夜子
雲に透く秋空見れば笛欲しや 湘子
雲は眼に溢れ麦笛の口しびれ 千代田葛彦 旅人木
雲を透く秋空見れば笛欲しや 藤田湘子(1926-)
雲間よりインカの笛や成人日 あかぎ倦鳥
雲雀笛ひた吹く狂院暮れゐるも 野澤節子
雲雀笛子がひとり吹く野に来たり 竹中古村
霙せり蝉折といふ笛ありて 中田剛 珠樹以後
霞む野に鶯笛を籟すかな 松瀬青々
露天湯に星の近づく河鹿笛 岩谷天津子
露寒の笛塚といふ停留所 老川敏彦
青啄木鳥の笛の谺や朝雲 木村コウ
青楓祭の笛をさらひをり 片山由美子 風待月
青芦の笛で送らる花嫁舟 中山フジ江
青芦や暮れて佐原の稽古笛 金子きくえ
青葉潮磯笛ちらし暮れなずむ 鈴木三伸
面の下咽喉笛太し壬生念仏 鈴鹿野風呂
須磨の笛明石の琴と春暮るゝ 春の暮 正岡子規
須磨寺や吹かぬ笛きく木下闇 芭蕉
顎割つて魚ひらきをり祭笛 長谷川櫂 天球
風笛に呼ばるるここは狐みち 平子 公一
風邪を引くことも大切鳶の笛 黒田杏子 花下草上
風音のやうに届きぬ瓢の笛 山田弘子 懐
風音をつらぬく笛ぞかいつぶり 佐藤瑠璃
風音を耳に淋しむひよんの笛 山田弘子 螢川
飴うりが飴うりに炎天に笛をふく 橋本夢道 無禮なる妻抄
養子して秋の祭の笛ならふ 百合山羽公 故園
香具山の刈田の雀笛ひびく 平峰美恵子
馭者若し麦笛噛んで来りけり 水原秋櫻子
駅員の笛進学の子を発たす 矢倉雪子
駒鳥笛になごりの月を雲の端 飯田蛇笏 霊芝
高々と鳶の笛ある余寒かな 大峯あきら 宇宙塵
高価の靴かにかく買ヘリ祭笛 中村草田男
高吹いて麦笛青し美少年 日野草城
高山の夜も澄む空に祭笛 高澤良一 素抱
高笛の春天ひようと下るべし 平井照敏 天上大風
高鉾に揺れつつ笛を吹きやめず 誓子
高音吹いて麦笛青し美少年 日野草城
鬼女の笛ながれそむなり初紅葉 湯本道生
鬼火ゆれ闇の草笛西よりす 後藤綾子
鮎の竿横笛ほどにたたまれし 佐久間慧子「文字盤」
鯛網や山陽線の笛かすむ 佐野まもる 海郷
鳥寄笛にすでに寄らずも慈悲心鳥 石田波郷「春嵐」
鳥帰る未完の笛を掌に残し 藤沢紗智子
鳥渡る鳥よりほそき貨車の笛 高杉杜詩花
鳥笛は息のなきがら春隣 長谷川櫂 古志
鳩を吹く笛かと鳩を吹き返す 茨木和生 三輪崎
鳩笛でス#ートホームを吹く暮春 福田蓼汀 秋風挽歌
鳩笛に俄かにゆらぐ北の樹々 石崎素秋
鳩笛に鳩の横顔文化の日 石川文子
鳩笛の古墳に吹き寄す秋気配 山下一冬
鳩笛の胸ふくらます小春かな 黒瀧昭一
鳩笛や昼のひかりの忘れ潮 倉橋羊村
鳩笛や辻の地蔵に鍵かけて 夏秋明子
鳩笛や駄菓子屋にも春来てゐたり 坂本米子
鳩逃げて老いし笛売冬ひとり 細谷源二
鳰の息ほど長からず鳰の笛 後藤比奈夫 めんない千鳥
鳰の笛ありたるところまで歩く 武石花汀
鳰の笛交し合ひゐて相寄らず 石川多歌司
鳰の笛比良八講の舟行きて 田上さき子
鳰の笛湖北の旅のはじまりし 井上たか女
鳰の笛風のつらしと韻きけり 比奈夫
鳴つたかといへばさうかもひよんの笛 村上喜代子
鳴らざりし草笛の茎やわらかき 松本夜詩夫(ぬかるみ)
鳴らずなり麦笛の管甘きかな 中拓夫
鳶が笛吹いてゐたりし茅の輪かな 岸田稚魚 『萩供養』
鳶の笛きく料峭の展望台 武田光子
鳶の笛するどくなりし露の崖 柴田白葉女 花寂び 以後
鳶の笛冬天汚れなかりけり 稲荷島人
鳶の笛囃せ菁々たる柳(山廬先生の還暦を祝ぎまつる五句、雲母支社より乞はれて) 『定本石橋秀野句文集』
鳶の笛島おだやかに春暁くる 阿部みどり女
鳶の笛朝月いつか空にまぎれ 金子兜太
鳶の笛東尋坊に卯波立つ 橋元信子
鳶の笛独活新しき墓標の丈 古舘曹人 能登の蛙
鳶の笛讃へて涼し岬泊り 鈴木鷹夫 渚通り
鳶の笛谺とならず冬の山 佐藤灯光
鳶の笛雲ふきちつて紀元節 石橋秀野
鳶笛の一管澄める初御空 勝村茂美
鳶笛を草に落して天高し 上野泰 佐介
鴨渡る月下蘆笛の音もなし 水原秋桜子
鴨笛の一番星も誘ひけり 百合山羽公
鴨群るるさびしき笛を吹き鳴らし 百瀬美津
鴬笛嬰の眼こちら向きにけり 田口俊子
鵯の笛木曾川迅く逝きにけり 古舘曹人 砂の音
鵯の笛燕の舞も御田植 大橋敦子 匂 玉
鵺の笛むささび等いま出動す 矢島渚男 延年
鶯笛うるさくなつてポケツトヘ 長谷川かな女
鶯笛ここより瀞へ茶店あり 佐藤輝城
鶯笛冷えて日向のありにけり ながさく清江
鶯笛十国峠に吹きて売る 石鍋みさ代
鶯笛嘴うごく見て一つ買ふ 野沢節子
鶯笛波郷の墓に聞えくる 池内けい吾
鶯笛紅き吹口ありにけり 千葉皓史
鹿寄せの笛がきこえて寝鹿立つ 鈴木芳如
鹿寄せの笛まだ鳴らず秋の暮 長谷川かな女 雨 月
鹿笛と山刀とを吊したる 寺田寅彦
鹿笛に鹿たちあがる峰の月 柳原極堂
鹿笛に鹿応へ鳴く余花の雨 平野芳子
鹿笛の一つは谷に下るらし 大谷繞石
鹿笛の峰に世をふる男かな 竹冷句鈔 角田竹冷
鹿笛の谿渡り来る湯西川 古澤活水
鹿笛の近づきやがて遠ざかる 坂本四方太
鹿笛はどこか暗しや木曾路また 成瀬正俊
鹿笛は天与の音色奈良小春 倉田しげる
鹿笛やいにしへびとの縹の縷 堀江かつみ
鹿笛や下手が吹いても夜の声 一茶
鹿笛や山又山のたゝずまゐ 島村元句集
鹿笛や糸切るほどに口ひらき 河隅恵子
鹿聞きに來て鹿笛をあはれがる 鹿 正岡子規
麥笛に草矢を飛ばそ 子を盗も うしみつまでも水に追はれて 筑紫磐井 未定稿Σ
麥笛を吹けば誰やら合せ吹く 松本たかし
麦秀や籬落の中の笛何処 楠目橙黄子 橙圃
麦笛にかゞやく路のあるばかり 軽部烏頭子
麦笛につきくる牛のおとなしき 吉松木長
麦笛にをさなき息のかぎりあり 米沢吾亦紅 童顔
麦笛に一事ありたる家閉ざす 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
麦笛に吹くこの国の恋のうた 山内年日子「ホ誌雑詠選集」
麦笛に天馬駈けりし記憶あり 徳永山冬子
麦笛に暗がりの麦伸びにけり 山根立鳥
麦笛に畠の中より上げし貌 原田種茅 径
麦笛に麦笛答へゐたりけり 国松ゆたか
麦笛に黄昏れてゆく岬かな 中村白楊
麦笛のしらべむかしの夢かへり 石塚友二 方寸虚実
麦笛のするどくて愁ひふくむなり 柴田白葉女 花寂び 以後
麦笛のそれたる径とおもほゆる 軽部烏帽子 [しどみ]の花
麦笛のとぎれとぎれや泣きをるらし 下村梅子
麦笛のなかなか合はぬたのしさよ 相馬 黄枝
麦笛の中の笛吹峠かな 秦 夕美
麦笛の吃々として鳴りそむる 新津香芽代
麦笛の吃音昼の父得し子 神田斐文
麦笛の吹きやう忘れてはをらぬ 猿橋統流子
麦笛の吹けばよく鳴るさびしさよ 中村汀女「汀女句集」
麦笛の天を裂く音もありて吹く 井沢正江
麦笛の甘みほのかにのこる唇 中村孝一(狩)
麦笛の真昼きこえて地をする燕 内藤吐天 鳴海抄
麦笛の近江は昏き水の中 柿本多映
麦笛の途絶えて耳を意識する 青木千秋
麦笛の遂に姿を見せざりし 高尾方子
麦笛の音色の先の夕茜 佐土井智津子(惜春)
麦笛の鳴らぬは引率教師らし 上木彙葉
麦笛の鳴らねば少し噛んでみる 早川翠楓
麦笛の鳴りたる日より大人びて 高橋たか子
麦笛はかなし一生過ぎやすく 道菅三峡
麦笛は太郎か次郎か鶏入れよ 田中冬二 俳句拾遺
麦笛は鬼の手にありかくれんぼ 西山竹比古
麦笛やあかがねいろに甲斐の空 青木重行
麦笛やおのが吹きつゝ遠音とも 皆吉爽雨「雪解」
麦笛やかく開拓の子も育ち 米谷孝
麦笛やふいて見による獅子がしら 伊賀-魚日 俳諧撰集「有磯海」
麦笛や一つ年上女の子 高浜虚子「句日記」
麦笛や三十路の齢といふもひととき 福田蓼汀 山火
麦笛や傷痕友の頬に消えず 原田種茅 径
麦笛や呼び捨ての名のあまた減り 鷹羽狩行 七草
麦笛や嘆きの息が音に出でて 大石悦子
麦笛や四十の恋の合図吹く 高濱虚子
麦笛や基地の紅燈はやともる 澤田 緑生
麦笛や夫にもありし少年期 西村和子 窓
麦笛や少年と父父が吹く 森澄雄
麦笛や少年の日の思はるゝ 上村占魚 鮎
麦笛や少年ひとり赤毛なる 鈴木栄子
麦笛や川の向うにわが母校 伊藤正子
麦笛や師の山見えてゐてはろけし 小松崎爽青
麦笛や日を載せをどる遠瀬波 金子 潮
麦笛や未来より吹く風ありぬ 嶋田麻紀
麦笛や畑のどこかに母がゐて 芝山喜久子
麦笛や藤村詩集誦みし日も 福田清人
麦笛や迎ひに来る姉のあと 五十嵐播水 播水句集
麦笛や雨あがりたる垣のそと 水原秋桜子
麦笛や雲のふところ何棲める 鷲谷七菜子 雨 月
麦笛をさびしきときは海へ吹く 小川双々子
麦笛をひとつづつ鳴らし茂の忌 石塚富美
麦笛を吹きつつ思ひはろかなる 福田蓼汀 山火
麦笛を吹きて墓参のしんがりに 柴田寛石
麦笛を吹くには暗し日本海 秋沢猛
麦笛を吹くや中年うべなひつ 藤原たかを
麦笛を吹くや拙き父として 福永耕二「鳥語」
麦笛を吹く子が居りぬ麦の中 高橋淡路女 梶の葉
麦笛を吹く子に雲の美しき 原石鼎
麦笛を吹けど竹馬の友のゐず 遠藤若狭男
麦笛を吹けぬ子ずつとついてくる 田中裕明 先生から手紙
麦笛を吹けばむかしの空の青 菊池ふじ子
麦笛を捨て工場の塀黒し 萩原麦草 麦嵐
麦笛を馬柵に凭れて吹きにけり 篠原鳳作
麦笛を鳴らして見せて渡しけり 岡本樹子
麦笛吹いている 少女の 恋の日が遠い 吉岡禅寺洞
黄華鬘や能奉納の笛ひびく 山下智子
黒川の春告笛を聞きたがる 長谷川櫂 天球
龍笛の由激したる落花かな 河野多希女 こころの鷹
●笙
いづこより笙の笛の音はや三日 高澤晶子
おもむろに月に吹く笙かまへけり 下村梅子
ごろ寝して笙のきこゆる春祭 森澄雄
わが生徒笙つかまつる春祭 能村登四郎
一夜にて淑気をみたす笙の笛 澁谷道
体内に螺鈿のうねり笙吹きぞめ 熊谷愛子
凍て雲に笙放つなり万燈会 角川春樹 夢殿
凩のはじめは笙の笛に似て 鳥居美智子
初神楽火桶に笙を焙りては 河野石嶺
初紅葉山伏笙を習ひをり 阿部月山子
北風たゆむ神葬の笙火に温む 宮武寒々 朱卓
夜ざくらやひねものひとり笙を吹く 幸田露伴 谷中集
小桜の笙一管に緑射す 野澤節子
山茱萸咲く笙・篳篥の樂あらな 高澤良一 素抱
岩戸神楽とどめの笙に青葉照る 木下ふみ子
廻廊を戻るに笙の南風かな 田中柳水
月明の篝火に笙あたたむる 佐野美智
殿の時代祭の笙の笛 菖蒲あや
灯ともして笙吹く春の社かな 春 正岡子規
真裸に笙聴く飢ゑてはならぬなり 斎藤玄
神を呼ぶ笙篳篥や著莪の花 岸田雨童
笙のよに竹束立つや去ぬ燕 内田百間
笙の譜のうす紙たたむ晩夏かな 山本洋子
笙の音にいま若狭井の水を取る 多田裕計
笙の音に星降る御嶽神楽かな 中村能子
笙の音に誘はれ出でし月ならむ 下村梅子
笙の音に闇あらたまるお水取 高野清風
笙の音に雨音まじる去来の忌 浜崎晃子
笙の音に鳥影よぎる針供養 山田弘子 こぶし坂以後
笙の音の水面にひびく御田祭 升本行洋(春耕)
笙の音の湧きて御田植はじまりぬ 森下清子
笙の音の鋭きがかなしき魂祭 清治法子
笙の音やほのぼのと枯れ桃畠 加倉井秋を
笙の音や根津権現の目借時 金子静子
笙ふく人留主とは薫る蓮哉 井原西鶴
笙合はす殿のおぼろに神泉苑 宮田兆子
笙吹かれ伏見稲荷の煤払 金久美智子
笙涼し遥かに蓮の葉分船 蓼太「蓼太句集三編」
笙鳴るや「林歌」に連るゝ春の宵 長谷川かな女 雨 月
花鎮め笙をぬくめる楽士どち 桜井つばな
行き行きて朧に笙を吹く別れ 夏目漱石 明治三十一年
貝寄や海の底より笙篳篥 松根東洋城
釈奠や笙もてあそぶ老博士 小田島艸于
鎮魂の笙あたたむる春火桶 宮下翠舟
閣涼し金碧はげて笙の声 涼し 正岡子規
雲海を呼ぶ旋律の笙に舞ふ 河野多希女 こころの鷹
露空に笙のしらべのひゞくなり 岡本松浜 白菊
風花や笙にあはせし隼人舞 筑紫磐井 野干
鳥風の白湯のんで笙吹けるなり 岡井省二
鳳笙にみどりご眠り初ざくら 藤田直子
鳳笙の吹き口あぶる火桶かな 石嶌岳
鳴く鹿に笙しらべゐぬ厳島 長谷川かな女 雨 月
●太鼓
*えりに鳴る祭太鼓や北の庄 大島民郎
*だ太鼓を打つ狩衣に月散らし 松本旭
あかるさに太鼓打ちあふ蓼の花 田中裕明 花間一壺
あけぼのの天に打ち込む初太鼓 中里美恵
いわし雲太鼓打ちたし旅したし 藤田湘子 てんてん
うしろ手に結ぶ御太鼓着衣始 保坂リエ
うち過ぎぬ団扇太鼓の二波三波 高澤良一 随笑
お会式の団扇太鼓に浮足立つ 高澤良一 燕音
お会式の太鼓に雨の飛沫とぶ 小林勇二
お会式太鼓むかしべか舟着けし路地 中戸川朝人 星辰
お会式太鼓夜の運河に打ち連ね 加藤望子
けふよりの踊けいこの遠太鼓 長谷川素逝 村
ここより坂会式太鼓の息整え 高澤良一 燕音
こなゆきこゆき雪のでんでん太鼓かな 間石
ころがれる破れ太鼓や草紅葉 比叡 野村泊月
しんがりの寒行太鼓乱れ勝ち 藤田光子
すきとおるそこは太鼓をたたいてとおる 阿部完市 にもつは絵馬
たはむれの廓太鼓や勇の忌 敷波澄衣
つばくらや御堂の太鼓かへり打 也好
とうとうと太鼓の響く若葉かな 若葉 正岡子規
とどろける祈願太鼓や漁始 田中敦子
どかんと鳴る祭太鼓も持たぬ町 櫂未知子 蒙古斑
ねぶた太鼓一打一打に夏果てる 八牧美喜子
ねぶた太鼓打つ峯雲にとどくまで 椎名書子
はこばるる太鼓青葉に触れて鳴る 今瀬剛一
はたゝ神微々と響くや吊太鼓 乙字俳句集 大須賀乙字
ひよどりの次々巣立つ護摩太鼓 岡本昭子
ふと爪を噛む秋冷の触れ太鼓 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
ふるさとにエイサー太鼓響きけり 平 千花子
へたる腰お会式太鼓打ち抜いて 高澤良一 燕音
ぼてぼてと鳴りゐる太鼓壬生念仏 西堀鵲桜子
まくなぎや笛と太鼓がほしくなる 喜多陶子
まくなぎや迷子をはやす鐘太鼓 二村典子
また違ふ祭太鼓の近づき来 如月真菜
まだだれも叩かぬ太鼓初稽古 赤塚五行
まなうらに清瀬が風の盆太鼓 古賀まり子
ゆく夏の火照り引き連れ遠太鼓 長久保恵美
ゆふだちにはりあふ宮の太鼓哉 夕立 正岡子規
われら金婚遠き太鼓や虫の音や 谷内茂
チャンココの盆入り告ぐる鉦太鼓 鶴丸白路
デカメンが割り込み御神乗夏太鼓 高澤良一 ぱらりとせ
パン売の太鼓も鳴らず日の永き 正岡子規
一つ子の太箸握る太鼓哉 太箸 正岡子規
一合の米磨ぐ祭太鼓かな 片山依子
一打ちは盆墓に撥ね鬼太鼓 岸田稚魚 『雪涅槃』
万燈がゆく花笠がゆく遠太鼓 三橋鷹女
万緑へ大山太鼓とどろけり 三澤治子
三味太鼓花見の舟の花も見ず 花見 正岡子規
三峰の追儺の太鼓とどろけり 大野朋之助
三面鏡お太鼓帯は母が締め 東 和歌子
不揃ひの太鼓が揃ふ寒念仏 安田汀四郎
丹田にひびく初護摩太鼓かな 豊田喜久子
乱れ咲く花に未の太鼓かな 花 正岡子規
乱れ打つ火焔太鼓の冷まじき 伊東宏晃
事務室に神田祭りの遠太鼓 松藤夏山 夏山句集
二の替太鼓の音が雪降らす 太田壽子
人は寝て雛がはやしの太鼓哉 正岡子規
会式太鼓が土手になる高い音 梅林句屑 喜谷六花
会式太鼓聞えず野川流れたり 臼田亜浪
何講の太鼓練りゆく十六夜 富田木歩
俎始火炎太鼓の鳴り響く 松本澄江
信玄忌太鼓どよもす花の寺 岡村 實
元日の太鼓聞かばや法華寺 元日 正岡子規
先んじて会式太鼓の一打かな 磯野キヨ子
八丈太鼓教師の打てる盆休 高澤良一 ねずみのこまくら
八朔の山へ打ち込む護摩太鼓 升本栄子
八朔や太鼓うながす巫女の鈴 小川軽舟
八重潮へ太鼓打ち込む初泳ぎ 岩崎芳子
六斎の太鼓打つ子に父の笛 岸本久栄
六斎の序の四つ太鼓をどり打ち 藤井秀生
六斎の念仏太鼓打ちてやむ 中田余瓶
六斎の手だれに代はる四つ太鼓 西村和子 かりそめならず
六斎は太鼓を抛りあげにけり 田中告天子
六斎や身を逆しまに打つ太鼓 高崎雨城
冬山や太鼓叩いて登りくる 比叡 野村泊月
冬日濃し山羊の毛残る土器太鼓 都筑智子
冬空へ内輪太鼓の音響く 清原眞治
冷まじや異界より現れ太鼓打つ 稲岡長
凩も負けて太鼓の木魂かな 正岡子規
凩も負て太鼓の會式かな 凩 正岡子規
凩や胴の破れし太鼓橋 凩 正岡子規
出羽三山まつりの太鼓雨上る 阿部月山子
分校に太鼓の響く黄落期 中澤さつき
列島冬ざれありとあらゆる太鼓を打てよ 工藤克巳
初伊勢や松籟に和す笛太鼓 伊藤いと子
初午の太鼓立木に括られし 岡野スミ子
初午の笛太鼓パン焦がしたり 石川桂郎 含羞
初午や世話人の来て打つ太鼓 河野静雲 閻魔
初午や太鼓にまじるをさな笛 橋本冬樹
初場所の太鼓の触れを壁越しに 斎藤驥多男
初天神太鼓橋より通りやんせ 百瀬ひろし
初太鼓一打とどろく腑のあり処 平井さち子 鷹日和
初太鼓作務僧護摩木焚きつづく 柴田寛石
初庚申猿を太鼓ではげませり 福島せいぎ
初温泉太鼓打ち栄えて宿の御師めくも 野村朱燐洞
初牛は思はぬ森の太鼓かな 初午 正岡子規
初神楽巌に太鼓の谺して 阿部ふみを
初詣雪見事なる太鼓橋 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
初護摩の菩提寺太鼓とどろけり 寺崎美江女
初護摩や五臓六腑で聞く太鼓 今村 岱
初護摩を焚く上堂の太鼓鳴る 立木大泉
刻太鼓響く湯の街初明かり 三並恵津子
加賀太鼓乱れ打つなり鰤起し 溝口青於
北斗星連らなる空へ初太鼓 上埜チエ
医王晴れ新嘗祭の太鼓鳴る 前田時余
十六夜の火の島太鼓うしろより 白澤良子
友禅忌祭りといふて三味太鼓 山科杏亭
反り橋は朱の太鼓橋破魔矢買ふ 田中水桜
合掌に早鳴る護摩の初太鼓 永田しげ
吉原の太鼓更けたりきりぎりす 正岡子規
吉原の太鼓聞ゆる夜寒哉 夜寒 正岡子規
名古屋場所堀川沿いに触れ太鼓 横矢 寛
唐人も見よや田植の笛太鼓 一茶「八番日記」
啓蟄の土へ太鼓を滅多打ち 沢木欣一 地聲
喧嘩祭隣村より触れ太鼓 品川鈴子
噴煙も遠のく空や初太鼓 中田たみ
四ツ太鼓六斎念仏終るなり 内藤十夜
四万六千日太鼓に合はせ子を揺する 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
四囲の山踊太鼓を跳ね返す 山下美典
団扇太鼓びりびり渡り水の秋 平井さち子 鷹日和
団扇太鼓止めば足音続き居る 温亭句集 篠原温亭
団扇太鼓紺の腹掛けして摶てる 高澤良一 随笑
図体をぶつけて祭太鼓かな 大島雄作
国引の海へとどろく盆太鼓 河野照子
土産買ふ祭太鼓に誘はれて 角田サチ
土用波断崖はからつぽの太鼓 白田喜代子
地鳴りしてお会式太鼓近づけり 伊藤伊那男
夏の夜や鬼剣舞の早太鼓 木村春江
夏場所のはねし太鼓や川向ふ 松本たかし
夏場所のはねの太鼓に端居かな 富安風生
夏深き神の太鼓を打てばこそ 田中裕明 花間一壺
夏祓薩摩太鼓にはじまれり 田中政子「水標」
夕づつや出穂をはげます盆太鼓 松倉ゆずる
夕立をくぐりて盆の太鼓打つ 百合山羽公 寒雁
夜も打ちて大厦響もす初太鼓 森脇古堤子
夜神楽を触れて太鼓の昼間より 竹森登美恵
大凧を引き揚ぐ一の太鼓鳴る 浅井仁水
大念仏踊る太鼓を軸として 稲葉光堂
大根焚堂の太鼓の鳴りやまず 柴田立代
大綱曳き琉球太鼓の那覇祭 野原培子
大雪を囃す太鼓や鱈祭 荻原映☆
天づたふおはら祭の笛太鼓 白澤良子
天にゐて角力太鼓を叩きをり 上野泰 佐介
天突いて祭太鼓の打ち終はる 早稲田良子
太鼓うつ山の学校の霰かな 龍岡晋
太鼓うつ御難の餅の腹へらし 島田五空
太鼓こそなき人の形見鰒の皮 笑水 選集「板東太郎」
太鼓たたき春寒き子に飴を売る 阿部みどり女
太鼓にてほいろを返す葉選りかな 中村史邦
太鼓にて培炉を返す葉撰りかな 史邦 芭蕉庵小文庫
太鼓のように障子を張って山を出ず 石田三省
太鼓の緒締め雨乞ひの輪にもどる 清水弓月「夕河鹿」
太鼓より神輿小さし秋祭 遠藤はつ
太鼓台くり出して行く神の留守 中谷厚子
太鼓小鼓の音式部の実 前田政子
太鼓懸くれば秋燕軒にあらざりき 前田普羅
太鼓打ち法主現る御命講 柏崎青波
太鼓打ち襷外して夏終る 中村英史
太鼓打つて煎餅を売る義士まつり 小菅高雪
太鼓打つ妓の眦も神無月 瀬戸内寂聴
太鼓打つ月に鬼面をのけぞらせ 大星たかし
太鼓打つ男の反り身秋高し たかはしのぼる
太鼓材ヴビンガの木は滝の直 高澤良一 素抱
太鼓橋の裾の猿曳人だかり 星野立子
太鼓橋われらが占拠初写真 山口青邨
太鼓鳴り継ぐ杣道も黄落す 田中裕明 山信
奉納太鼓宮の淑気を揺さぶりぬ 畑中良子
奥飛騨の起こし太鼓に遅き春 森 冬夜
妙法の太鼓聞こゆる夜寒哉 夜寒 正岡子規
嬰は川捨姥は山捨盆太鼓 鳥居美智子
安楽死ねがおうべしや鬼太鼓 塩崎 緑
客入りを告げる太鼓や夏座敷 小宮山青衣
宮相撲触れつつ太鼓畦を来ぬ 山野邊としを
宵山に生まれて二歳太鼓打つ 伊藤いと子
家五百秋の芝居の太鼓鳴る 秋 正岡子規
富嶽太鼓雨に打ち出す山開 平賀扶人
寒垢離に高鳴る団扇太鼓かな 東 妙子
寒念仏太鼓の上に銭もらふ 畑中とほる
寒怒濤身ぬちつらぬく止め太鼓 甲斐すず江
寒行のうちわ太鼓の過ぎ行けり 舟橋光子
寒行の会式太鼓の夜更けまで 田淵定人
寒行の日蓮太鼓海へ打つ 木内彰志
寒行太鼓時にみだるる月吹く夜 臼田亞浪 定本亜浪句集
小さき人鳴らぬ太鼓をもて踊る 如月真菜
小城下や辰の太鼓の冴え返る 冴返る 正岡子規
山々にお会式太鼓谺して 中里之妍
山また山太鼓を打ちに盆帰省 太田土男
山瀬吹くな吹くなと祭太鼓かな 鈴木鷹夫「千年」
山焼や火焔太鼓の響きせり 武井与始子
山王祭太鼓に湖は白みゆく 大矢東篁
山百合や旅の一座のふれ太鼓 池上守人
山背吹くな吹くなと祭太鼓かな 鈴木鷹夫 千年
山開き太鼓で雲の封を切る 本宮鼎三
岬まで鬼太鼓とどく島開き 岩野ちづ
島どこも太鼓の稽古月の秋 岡本静子
嵯峨念仏鉦と太鼓を一人して 石本かなえ
嶋原や笛も太鼓も冬の音 正岡子規
川へ火の出たがる施餓鬼太鼓かな 関戸靖子
川風に一月場所の太鼓かな 島田五空
川風に夏場所近きふれ太鼓 羽生大雪
布袋草火焔太鼓を花ごとに 堀 葦男
帝釈の昼の太鼓や芋を掘る 松本たかし
帯解や雨の中打つ宮太鼓 石橋秀野
帰りねぷたらしや太鼓の名残り打ち 奈良文夫
帰省子の声の加はる太鼓打 岡部名保子
年神の素戔嗚尊に似て荒太鼓 我妻草豊
広前に朝顔展や斎太鼓 中戸川朝人 尋声
強拍の*だ太鼓春を急がする 河野多希女 こころの鷹
強東風に櫓太鼓の踏んばれる 西村和子 かりそめならず
御田植の太鼓の泥もめでたしや 高野素十
御田植の香取の太鼓とどろけり 高木良多
御陣乗太鼓沖の鯖雲縞粗く 奈良文夫
心いたく弱りてあればこの朝の夏行太鼓の音にもおののく 前川佐美雄
息合ひて六斎太鼓乱れ打ち つじ加代子
息合ひて六斎太鼓躍り打ち つじ加代子
打ちいだす弓矢始の太鼓かな 野村泊月
打ちに打つ花見太鼓や韓の唄 大石悦子 群萌
打ち打つて日和崩るゝ祭太鼓 右城暮石 声と声
打ち止めの自安我楽太鼓弛みたり 富岡伸子
打水の火焔太鼓の如空に 上野泰 春潮
押へ込む太鼓の余韻霜夜かな ふけとしこ 鎌の刃
掛け声と太鼓ひびかせ競渡ゆく 川島典虎
探梅や太鼓饅頭ふところに 小田 元
故郷あり祇園太鼓の胴張って 百合山羽公 寒雁
数方庭祭一番太鼓へ浄め塩 堀青研子
新藁の上にでんでん太鼓かな 延広禎一
施餓鬼寺法華太鼓に堂揺らぐ 加藤サヨ子
日の障子太鼓の如し福寿草 松本たかし(1906-56)
日盛りを朱の薄れゆく太鼓橋 高澤良一 素抱
早乙女に早起の太鼓鳴りにけり 西山泊雲 泊雲句集
早打ちの太鼓ひびけり報恩講 木村トミ子
早春をいつぱいに太鼓うたれたり 柴田白葉女 雨 月
昔提樹の花に勤行太鼓かな 猪鼻純枝
春の山太鼓たたけば皮ふるへ 辻 桃子
春の昼小佐渡にひびく鬼太鼓 持田良枝
春の雪ふり子が叩くかがり緒の赤い太鼓 橋本夢道 無禮なる妻抄
春場所の太鼓に運河光るなり 渡辺亀齢
春場所や櫓太鼓に揺るる天 町田一雄
春場所や水の浪速に触れ太鼓 酒井 武
春場所を明日に高鳴るふれ太鼓 佐藤信子
春日野に鳴る角切の早太鼓 梅田 葵
春星や阿波は夜の国太鼓鳴り 原田喬
時満ちて義経太鼓祭笛 大西岩夫
時雨来る習ひ太鼓を打つ子らに 新井太四郎
晩涼の橋の向うの寄せ太鼓 高澤良一 素抱
月上げて荒くれ太鼓龍馬の忌 橋本幸明
月夜なり酔うて太鼓を打つことも 細川加賀 生身魂
月夜を滑る男ほしがる笛太鼓 阿部完市 絵本の空
月山に初護摩太鼓轟けり 菅原庄山子
朔風の反りを加えて打つ太鼓 源鬼彦
朝寒や太鼓に痛き五十棒 夏目漱石 明治四十三年
朝涼や打出て法華太鼓百 堤高嶺(裸子)
朝霧や兵船に太鼓鳴る 蘇山人俳句集 羅蘇山人
木の芽晴八丈太鼓打ちに打つ 道村治江
本門寺野分に太鼓打ちやめず 川端茅舎
杁や揺すりて馴染む背の太鼓 藤田千恵子
杉の黙解かれ社の初太鼓 川本春美
村あげて太鼓合図のどんどかな 三宅 桧沢
村祭還御の太鼓負ひもどる 大橋敦子 匂 玉
松上げの灯籠木にとどき鉦太鼓 林田千代
松蝉や太鼓しづかに岬神社 大峯あきら 鳥道
梅雨寒の蔵にをさまる笛太鼓 佐川広治
梅雨晴や太鼓打ち出す芝居小屋 梅雨晴 正岡子規
楼門に打たぬ太鼓や初鴉 河野静雲 閻魔
欅老樹に瘤わだかまる蜘蛛太鼓 角川源義「秋燕」
正月の海原太鼓の響きもつ 上村占魚 『玄妙』
水さして水からくりの太鼓急 成瀬虚林
永き日や太鼓のうらの虻の音 浪化 (1671-1703)
永き日を太鼓打つ手のゆるむ也 夏目漱石 明治三十一年
永日の刻み太鼓に道後の湯 高澤良一 寒暑
江の島に太鼓とどろく七五三 阿部悦子
沼風に祭太鼓の乗つてくる 石井とし夫
法師蝉日蓮太鼓いま無音 鈴木鷹夫 風の祭
法華太鼓打ち出す雨の朝顔市 三枝正子
波の花舞ひて曽々木の陣太鼓 村本畔秀
浜松に太鼓かけたる踊かな 比叡 野村泊月
浦祭伊予水軍の太鼓打つ 池内けい吾
浮かれ足団扇太鼓を打ちに打つ 高澤良一 随笑
海彦となりたる会式太鼓かな 黒澤赤鈴子
湯かけ太鼓寒村つんざき注連揺れる 海野梅香
湯涌路に氷室行事の太鼓鳴る 中村美代子
湯立神事天地天地と太鼓打つ 久保 武
潮騒に乗りてとんどの触れ太鼓 関口祥子
濤音に太鼓ぽと〜一の午 河野静雲 閻魔
火明かりに汗のをとこの舞太鼓 高田衣子
火渡りの太鼓打ち込む芽木の山 中川幸子
火焔太鼓据ゑたちまちに飛花せめぐ 佐野美智
火祭の太鼓叩きの飛ぶごとし 桑島啓司
火祭の太鼓鳴りをり春の雪 金尾梅の門 古志の歌
火祭太鼓富士へひれ伏す炬火一里 羽部洞然
灯の渦へ太鼓打込む秩父祭 都筑智子
炎天に乱打されをる太鼓かな 相生垣瓜人 明治草抄
炎天下島に尉ゐて太鼓打つ 佐川広治
炮烙を割るにも壬生の笛・太鼓 橋本美代子
煤払でんでん太鼓捨てきれず 半崎墨縄子
熊祀るコタンの太鼓月に打ち 門みのる
父祖の血を騒がしねぶた太鼓打つ 新谷ひろし
獅子舞の太鼓松風ぐもりかな 久保田万太郎 流寓抄
獅子舞やちやらけはちまき太鼓方 久保田万太郎 流寓抄
玄海へとどろく追儺太鼓かな 井山幸子
現山寺会式太鼓の押し昇る 高澤良一 燕音
産土の火屑飛びをり初太鼓 植竹政一
田々太鼓菠薐草の根が太り 森田智子
田遊の太鼓大地に打込めり 関森勝夫
田遊の田となる太鼓打ちにけり 伊藤伊那男
由布岳へ打つ九面太鼓や苗代田 平子 公一
白山の雪解うながす夜の太鼓 藤田湘子
百竿の炎練り出す本太鼓 結柴蕗山
盆の島月にどうどう太鼓打つ 橋本美代子
盆の川越えてとどけり鉦太鼓 根本幸代
盆太鼓ためし打ちしてわかれけり 清水みつる
盆太鼓山に当つて戻りけり 阿部静雄
盆太鼓打ついなせなる少女たち 山崎赤秋
盆太鼓摩文仁の丘の御霊道 野原培子
盆太鼓遠くきこゆる佃路地 藤武由美子
盆太鼓雷雲かづく壱岐暮れて 山崎冨美子
盆踊の太鼓に遠し浜別墅 五十嵐播水 播水句集
盆踊太鼓一打に始まりぬ 西尾玲子
着ぶくれて神楽太鼓を敲きけり 佐川広治
短夜や法華太鼓に宗旨がヘ 野村喜舟 小石川
砂押太鼓たかぶる浦の植樹祭 松岡嶺波
砂漠近き夜の太鼓や春寒し 小池文子 巴里蕭条
破れ太鼓そのまゝつかひ午祭 高浜年尾
磯遊び寺の太鼓をたたきもし 辻桃子
神のまへ神楽太鼓に一管の笛添ふ音色 二本の楽 長沢美津
神の扉の今ぞ開かる初太鼓 平松三平
神主の行きて太鼓やかたつむり 田中裕明 山信
神太鼓ひびき納めし夏木立 高嶋富子
神楽太鼓女が打ちて女の音 橋本美代子
神楽太鼓打つや地酒の力もて 大橋敦子 勾 玉以後
神輿太鼓雨に跳ね打つ鍋祭 三木蒼生
神送りお諏訪太鼓の黒光り 野田豊子
神還りたまへと海人の太鼓打つ 山岸 治子
祭すみ太鼓ころがしゆきにけり 細見綾子 黄 炎
祭太鼓うてば坂なす男の背 細谷源二
祭太鼓とろとろ水の音を出す 正木ゆう子 悠
祭太鼓打ちて男の盛り過ぐ 鈴木貞雄
祭太鼓昂るための静の刻 大川ゆかり
祭太鼓空地々々に打ちひびく 榎本冬一郎 眼光
祭太鼓終のひと振り天に打つ 大谷史子
祭好し他郷の太鼓も叩きたく 鍵和田[ゆう]子 未来図
祭来て太鼓のごとし紅空木 金箱戈止夫
祭済みし太鼓担いで門を過ぐ 正雄
祭礼の太鼓大輪児が挑む 平井さち子 鷹日和
祭禮の太鼓は遠し黍の畑 会津八一
秀吉のやうに花見る太鼓橋 高澤良一 寒暑
秋の夜井川太鼓の乱れ打ち 黒柳春江
秋天を仰ぎ打ち出す獅子太鼓 宮田富昭
秋晴や太鼓抱へに濯ぎもの 上野 泰
秋草の野原ぞ馬も太鼓うて 広瀬惟然
秋風やいつの世よりの鬼太鼓 久保田万太郎 流寓抄以後
秩父囃子汗の太鼓の面見えず 桜井博道 海上
稲の出穂そろひて豊前太鼓かな 鈴木厚子
稲妻へ六斎太鼓躍り打ち 赤堀五百里
空也忌のやれ瓢打つ太鼓打つ 前田比呂志
空也忌の鉦も太鼓も寂寂と 和田游眠
立春の鉦や太鼓や峯の寺 斎藤夏風
競渡舟卸す打込み太鼓かな 林 かつみ
竹林にひびきて施餓鬼太鼓かな 阪本謙二
笛そへば祭太鼓の高くなる 中村汀女
笛太鼓大山祗の田を植うる 小林客水
笛太鼓木の実の階をかけあがる 吉原文音
笛太鼓沼に響かせ祭来し 石井とし夫
節分や太鼓に明ける神の森 菅沢泰子
紅葉照る女人高野の太鼓橋 北川 修
細腕の女の禰宜の除夜太鼓 樫村陽子
綿の出し踊太鼓の赤き帯 西本一都
美髯僧太鼓強打つ仏生会 館岡沙緻
義士祭の太鼓玩具として打たる 岸風三樓
羽衣の太鼓聞えぬ春の月 春の月 正岡子規
老いの存在太鼓打ち打つて春蝉湧く 加藤知世子 花寂び
老禰宜の太鼓打居る祭かな 高浜虚子
胸に太鼓吊りゆき春の使者たらむ 磯貝碧蹄館 握手
胸板に祭太鼓を打ちこまれ 山口誓子
能登太鼓身を貫きて春の闇 馬場光子
脚長のいらくさの香に太鼓叩く 長谷川かな女 花 季
膾にも響くまつりの太鼓かな 樗良
舞ふ鈿女神楽太鼓を狂はせて 羽田 岳水
芋堀るや夜宮の太鼓月に鳴る 芋 正岡子規
芝の花くもが太鼓を持ち歩き 市村究一郎「土」
芥子坊主ブリキの太鼓鳴らしけり 角川春樹
花あやめ刻あやまたぬ宮太鼓 雨宮抱星
花ちるや法華の太鼓禅の鐘 散桜 正岡子規
花なき冬主婦が首出すわが太鼓へ 磯貝碧蹄館 握手
花の雨帯の太鼓に風呂敷を 西山泊雲 泊雲
花ほつほつ怠けものめく太鼓橋 鍵和田[ゆう]子 浮標
花曇り延年舞の紙太鼓 棚山波朗
花楓太鼓吊りある世阿弥寺 徳野正枝
芸なしと太鼓のちがひすてゝこに 加藤郁乎 江戸桜
若草のえにし囃すや笛太鼓 中川宋淵 詩龕
茶碗酒波打つ鳥追太鼓かな 鈴木吾亦紅
荒地野菊祷りの太鼓暮るるまで 成田千空 地霊
荒行太鼓ひびく椎茸榾黒し 加賀美子麓
菅原やみこし太鼓の夜の音 鬼貫
菅原や御輿太鼓の夜の音 鬼貫「仏の兄」
菜の花は古来しなう身笛太鼓 板垣好樹
菜の花や田舎相撲の触れ太鼓 今泉貞鳳
葉桜に時の太鼓や午の雨 西山泊雲 泊雲句集
葉桜や武道館より太鼓鳴る 土井三乙
葛城の秋澄む一番太鼓かな 石田玄祥
蓬萌え太鼓の胴のやうな道 高澤良一 ぱらりとせ
薪能太鼓早打ちして鬼女に 吉田紫乃
虫干家に子供なくて打たれざる太鼓も 安斎櫻[カイ]子
虫送り太鼓叩いて海へ出る 陣場孝子
蚊の声や太鼓櫓のくづれ口 許六
蚊柱に救世軍の太鼓かな 巌谷小波
蚰蜒に鳴らぬ太鼓をかつぎゆく 長谷川かな女 雨 月
蜘掃けば太鼓落して悲しけれ 高濱虚子
蜘蛛掃けば太鼓落して悲しけれ 高浜虚子「虚子全集」
街日永太鼓たたきて婚輿来る 原田青児
街暮れて踊太鼓に歩き出す 河田青嵐
裏皮の裂けし太鼓や虫送 菅原師竹句集
裏神田どこかで太鼓うつ師走 長谷川かな女 牡 丹
角切や杜にとどろく攻め太鼓 阿波野和子
触れ太鼓とどろきひびく牛合 佐々木豊實
触太鼓薄暑の川を渡りけり 兼藤光「鶴俳句選集」
討入の日の陣太鼓展じたる 山崎芳堂
諏訪町の天地展けり初太鼓 松本夜詩夫
護摩の火を揺るがす太鼓初不動 長屋秋蝉洞
護摩太鼓*えり挿す湖へひびきけり 石田野武男
護摩焚きの太鼓の響き紅葉晴れ 木島節子
谷の湯の太鼓湧きして初午ぞ 堀口星眠 青葉木菟
谷汲踊草萌に置く鉦太鼓 矢田邦子
谷汲踊鉦と太鼓で舞ひ納む 塩川雄三
豊年や綺羅流しゆく太鼓台 冨田みのる
豊年太鼓打つて秩父に星殖やす 引地冬樹
賓頭盧を廻す攻め鉦追ひ太鼓 上平はるを
足袋はくやはじめを強く喪の太鼓 長谷川双魚 『ひとつとや』
跨りてねぶた太鼓を打つ女 加藤射水
路地溜り太鼓ひとつの盆踊 柚口 満
踊たけなは片肌脱ぎの太鼓打ち 福田蓼汀 秋風挽歌
踊り太鼓ひびく旱の池の底 榎本冬一郎 眼光
踊太鼓地酒ぶつかけ滅多打ち 岸田稚魚 筍流し
踊太鼓家庭教師はさみしきよ 宮坂静生 雹
踊太鼓打ちて二の腕までが撥 品川鈴子
躍り出て祭太鼓の桴代り 関圭草
輪を高む鳶鳥追の触太鼓 宮津昭彦
過ぎゆくもの侫武多太鼓を臍に聞く 成田千空 地霊
道に寝る石取太鼓打ち疲れ 長田白日夢
遠太鼓菖蒲は夢をこぼしたり 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
遠景の六斎太鼓響くかな 大井恒行
遠泳の列を太鼓の撥で押す 田中春生(狩)
遠野郷踊り太鼓を地に叩く 斉藤敬子
郭公や太鼓造ると顔入れて 中戸川朝人 残心
酋長の太鼓かなし火の踊 千葉 仁
酢のものの貝のちぢまる盆太鼓 大木あまり 火球
里祭笛太鼓どのあたり曳く 石川桂郎 四温
野社に太鼓うちけり雲の峰 北枝
野馬追や風の辻より陣太鼓 飯田春紅
鉢巻の子が攀ぢ祭太鼓打つ 福田蓼汀 秋風挽歌
鉦太鼓なくて仏と踊るなり 佐野美智
鉦太鼓もて相模野に凧を上ぐ 中戸川朝人
鉦太鼓炎となり夜空焦すまで 勝村茂美
鉦太鼓聞こえ万燈まだ見えず 後藤図子
鉦太鼓谺し三日の山部落 福田蓼汀 秋風挽歌
長き夜の鷄や太鼓や喇叭哉 夜長 正岡子規
長篠や黴の血染の陣太鼓 小菅高雪
闘牛のはじまる宵の触れ太鼓 手島樟風
降神の太鼓一打や夏祓 白井新一
陣太鼓ひそかに打つは夜の雪 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
隣村の相撲太鼓や稲の花 会津八一
雨の日のこどもとあそぶ太鼓を打ち太鼓ころばし 中塚一碧樓
雨乞の太鼓しばらく打止みぬ 寺田寅彦
雨乞の太鼓とほくに野は月夜 長谷川素逝 村
雨乞の太鼓よわりし夕日かな 蝶夢「草根発句集」
雨乞の太鼓打つなり薬師堂 寺田寅彦
雨乞太鼓昂る終りの一打まで 加倉井秋を
雨垂れに打たれ渡るや太鼓蜘蛛 池田義朗
雨来るか打ち手変りし盆太鼓 檜 紀代
雨漏太鼓冬の夜の足温め合う 田川飛旅子 花文字
雨降つてたもれやと鳴る太鼓かな 長谷川素逝 村
雲の峰千の太鼓の揃ひ打ち 沢木欣一
雲海にとどろく太鼓禰宜が打つ 望月たかし
雷公の所持品太鼓古ぼけて 高澤良一 鳩信
雷神太鼓その夜の湖のざんざ降り 野澤節子 黄 炎
露の屋根乗り越え乗り越え踊り太鼓 榎本冬一郎 眼光
青嵐太鼓を叩きゐる全身 石井公子
青海や太鼓ゆるまる春の声 素堂
飛ぶ雪やえんぶり太鼓のけぞり打つ 草間時彦
飴屋の太鼓鳴る町尾長群れて来る 長谷川かな女 花寂び
馬具櫓太鼓櫓と落葉掃く 相原左義長
馬穴太鼓夜すがら野分風流か 石塚友二 光塵
駅すでに会式太鼓の渦中たり 岩波清子
高千穂の霧にひびける神太鼓 野川サダ子
高千穂は霜の降る夜の遠太鼓 斎藤梅子
鬼呼ぶと神楽太鼓の荒ぶかな ふけとしこ 鎌の刃
鬼太鼓に夜蝉ぶつかる見付浜 橋本珠見
鬼太鼓に秋が来てゐる沖の紺 野澤節子
鬼太鼓の来る日は沖に稲びかり(外海府にて) 岸田稚魚 『雪涅槃』
鬼太鼓の済みたる闇のきんひばり 佐怒賀正美
鬼太鼓の能登打ちならす鰤起し 関井わたる
鬼太鼓の面の四五人待ちゐたり 小林京子
鬼太鼓の音の冴えくる冬怒濤 吉田未灰
鬼太鼓の鬼が泣かせし春著の子 小林影三
鬼太鼓の鬼暴れ込む駐在所 山田春生
鬼太鼓や海を離るる盆の月 町田しげき
鬼太鼓わらじ替へ舞ふ島開き 山城やえ
鬼太鼓を打ちこむ鬼の息荒し 柏原眠雨
鬼太鼓を遠くに一ト日草むしる 倉若つま
鬼太鼓夜涼の人を集めけり 小川濤美子
鯛・鮃昇れや虹の太鼓橋 高澤良一 ぱらりとせ
鱠にも響くまつり太鼓かな 樗良「樗良発句集」
鵙日和太鼓打つごと書をかきて 柳澤和子
鶏頭に太鼓叩くや本門寺 夏目漱石
鷽替に親子で渡る太鼓橋 白木サダ子
鷽替ふる大き太鼓を一つ打ち 栗田せつ子
鷽替へてあをき空ある太鼓橋 喜多みき子
鹿島立つ太鼓が散らす稲雀 大坪景章
黄鶲や勤行の太鼓峰に鳴り 水原秋櫻子
鼓膜さぞ分厚き会式太鼓衆 高澤良一 燕音
鼬罠妙見太鼓鳴つてをり 吉本伊智朗
龍宮へ太鼓がひびく浦祭 品川鈴子
●鈴
あしもとに猫の小鈴や萩の宿 中尾白雨 中尾白雨句集
あぢさゐ寺土鈴ころころ水の音 野田勇泉
あふひ忌に人来る門の鈴が鳴る 上村占魚 球磨
いちはつや押せば鈴鳴る木戸ありて 橋本青稲
いとけなき巫女の鈴振る山開き 小林 客水
うまや路の鈴のにぎはふ蚕飼かな 大橋櫻坡子 雨月
おぼろ夜の鬼か仏か鈴鳴れり 石寒太 炎環
おもちや箱寄せれば鈴の音涼し 高濱年尾 年尾句集
お遍路の鈴よく響く阿波の浜 久重サヨ子
かたまつて鈴振り翔けり河原鶸 長谷川草洲
かなかなの鈴振るごとし黒木御所 菊地サトミ
かな〜の鈴ふる雨となりにけり 久保田万太郎 流寓抄以後
きのえねの子の土鈴より春の音 下田稔
くぐり戸へ鈴付くる音夜の秋 羽部洞然
けふ毎に枇杷も鈴ふるいさめかな 上島鬼貫
さいはての町の馬橇に鈴もなし 上村占魚
しくるゝや松原通る馬の鈴 時雨 正岡子規
しんしんと鈴を振り込む初神楽 山口草堂
しんしんと鈴振るごとし清水湧く 村越化石 山國抄
すずらんの鈴の一つが落ちにけり 牧 一男
すずらんの鈴鳴るまひる粥を煮る 設楽清子
すゞしさの鈴や岩戸の鶏の舞 川崎展宏
それ鷹の鈴振り廻る雪雨(霙)かな 正秀 俳諧撰集「藤の実」
たちばな色の鈴縫ひ込まむ夏布団 鳥居美智子
ちはやふる破魔矢の鈴に初の闇 原裕 青垣
つけてやりし鈴ふりならす子猫かな 久保田万太郎 流寓抄
どうだんの白鈴の花日を振りて 猿山木魂
どんど火の火掻捧より鈴の音 小畑柚流
なつかしむ衾に聞くや馬の鈴 夏目漱石 明治三十二年
ねむる子の手に暗涙の鈴冷える 林田紀音夫
はしきよし鈴の鳴りそふ夜光羽子 高橋淡路女 梶の葉
はねと跳ねはねて落せし鈴の数 菅原鬨也
はるの日の禮讃に或るは鉦うち鈴を振り 野村朱鱗洞
ひぐらしが鳴けり神代の鈴振つて 山口誓子
ひぐらしの天鈴や伽藍荒れまかせ 鍵和田[ゆう]子 未来図
ひぐらしの打振る鈴の善意かな 飯田龍太
ひとりゐて鈴鳴らす子や雪の暮 渡邊水巴 富士
ひもじさをまぎらす鈴か秋遍路 鷹羽狩行 第九
ひよいと出て雨の佞武多の鈴拾ふ 阿部由紀子
ひよんの実とくるみと英彦山土鈴出す 中戸川朝人 尋声
ふるさとは千万の鈴降る如し蛙の声 橋本夢道 無類の妻
ほたるぶくろ頒つ鈴振るしぐさにて 紺野佐智子
まづ出でし猫の鈴鳴るふくさ藁 森澄雄
みな過ぎて鈴の奥より花のこゑ 黒田杏子 花下草上
み神楽の鈴や御幣や風光る 中勘助
ものうりの鈴の絶えまに積る雪 『定本石橋秀野句文集』
もののねの秋はひときは猫の鈴 高橋睦郎 稽古飲食
やまんばを横に鈴振る山王祭 春田淳子
ゆらぐ鈴大人ばかりの椿山 永末恵子 発色
よい世とや虫が鈴ふり鳶がまふ 一茶
よき鈴の音りん〜と飾馬 立子
わびて誰鳴子に鈴の音すなり 鳴子 正岡子規
われ顔を鈴にして坐す椿樹下 阿部完市 軽のやまめ
スキー行天に行者の鈴鳴れる 澤田緑生
チャグチャグ鈴清水にひびき橋渡る 八牧美喜子
チヤルメラに鈴掛玉をゆりあへり 飯田蛇笏 春蘭
チリと鳴る鋏の小鈴薺爪 小西須麻
ヂギタリスのぼりつめたる鈴小さく 豊田君仙子(曲水)
バス揺れるたびに破魔矢の鈴が鳴り 松本穣葉子
パリの呼鈴土雛を目覚まする 石川桂郎 高蘆
フランネルの上に鈴鳴る裁鋏 中山純子 沙羅
ヨセミテに五十鈴の河鹿鳴くといふ 宋淵
リラの香や押せば鈴鳴る茶房の扉 原柯城
リラ冷えの茶房に鈴の鳴る扉 本庄登志彦
一対の京の福鈴庵の春 渡辺桂子
一時晦冥の駅鈴明り秋夕 河東碧梧桐
一行のみな鈴を振る勤行蝉 中戸川朝人 尋声
万緑や鈴の緒いたむ弁天堂 中村冨美子
三椏の花鈴ふるふ夕疾風 根岸善雄
不倫もつれつつ輪廻の呼び鈴を押す 江里昭彦 ラディカル・マザー・コンプレックス
世がよしや虫も鈴ふり機を織る 一茶
世の外で音こぼしをり土鈴雛 小泉八重子
両の手にあまる鈴の緒初詣 五十嵐播水 埠頭
乞食僧の鈴の音たるむ暑さかな 幸田露伴 谷中集
五月闇「耳を掩うて人民の鈴盗む」か 橋本夢道 良妻愚母
五鈷鈴の臍皆笑める神の留守 磯野充伯
人の秋こそ堪へられぬ鈴が森 秋 正岡子規
今朝秋の童女の声が鈴のやう 菖蒲あや 路 地
佐保姫の声は鈴振るごとくかな 岡崎桂子
佐保姫の鈴鳴る水の斑雪山 山上樹実雄
何時か鳴る満天星の鈴星の下 高澤良一 寒暑
佞武多まだ跳ねざる鈴のひびき合ふ 林 苑女
傀儡の上げたる鈴の鳴りにけり 中森皎月
僕を売るごくごくごくと鈴飲んで 阿部完市 絵本の空
先ぶれは遍路の鈴や仏舞 林 和子
先達の腰鈴やさし遍路坂 村上洋子
児の握る破魔矢の鈴の鳴りどほし 藤田郁子
入り会いの原野 鈴ふる雪ばかり 穴井太 土語
入湯の振鈴とどく夜の蛙 中戸川朝人 星辰
八十八夜鈴振つて神呼びにけり 田中 翠
其中に金鈴をふる虫一つ 高濱虚子
冬の蝶人さがすよう鈴ふるよう 伊藤 和
冬晴の音を立てたる英彦の鈴 後藤比奈夫 花びら柚子
冬晴や馬車の鈴鳴る厳美渓 古市文子
冬暗き渚は鈴をひとつ秘む 河原枇杷男 定本烏宙論
冬渚懐中の鈴鳴りにけり 大石悦子 聞香
冬空へくぐり戸の鈴鳴り終る 波多野爽波 鋪道の花
冬蝶を鈴のみちびく虚空かな 河原枇杷男 密
冬青空胸中の鈴鳴りはじむ 江中真弓
冬麗や身ぬちに鈴の音かすか 片山由美子 天弓
冷まじや身のうちの鈴鳴り続け 久保純夫 熊野集
冷ゆる森遥かに馬の鈴休む 飯田龍太
凍ての限りへ橇の鈴の音この夜を泊つ 古沢太穂
凍瀧や根付の鈴を鳴らしみる 野口光江
出でしより一歩一鈴巫女神楽 田村了咲
分校の子等熊よけの鈴つけて 吉田未灰
初伊勢や福鈴をどる小風呂敷 川村不二
初夢の土鈴に波の音すなり 水野恒彦
初天神良き音でるまで鈴振れり 波戸岡旭
初弁天女神の鈴は水の中 野竹雨城
初御空どこより何の鈴の音 村沢夏風
初春の竜の土鈴の 謎の紋 伊丹公子
初糶の落札鈴を鳴らしけり 向久保貞文
初詣今年の鈴のよくひびき 町 春草
初詣傘寿の鈴を高鳴らす 宮下秀昌
勧進の鈴きゝぬ春も遠からじ 前田普羅 新訂普羅句集
十二支の土鈴そろうて初明り 高室有子
十六夜の辞書にのせある土鈴かな 高木知子
千鳥の声鈴振るやうに子のマラソン 加藤知世子 花寂び
半玉の根付の鈴の花曇 高田好子
厨口鈴鳴つてゐる豊の秋 田中裕明 櫻姫譚
厨芥薄暑の街に鈴鳴らす 西島麦南
厨芥車薄暑の辻に鈴鳴らす 西島麥南
古き世の投扇興に鈴ふたつ 角川照子
号外の鈴ふり立る時雨哉 夏目漱石 明治二十八年
吹きすさぶ白き闇より橇の鈴 白旗喜知子
吹き亂す吹雪の鷹の鈴暮れたり 吹雪 正岡子規
吹雪く夜は十二支土鈴寄りあへり 下田稔
吾子が手に寝ねし夜寒の小鈴鳴る 千代田葛彦 旅人木
呼び鈴に明るい返事アマリリス 信太 清
呼び鈴を押すに猫出づ麦の秋 船越淑子「追羽根」
呼べば子の鈴の返事や麦の秋 上田日差子
呼鈴の応へなきまゝ月涼し 『定本石橋秀野句文集』
呼鈴は空耳なりし春一番 田中湖葉
呼鈴を押してしばらく合歓の花 西村和子 夏帽子
呼鈴を押せばのぞきに裸の子 丹波美代子
呼鈴不通帰燕の雨が肩にしむ 友岡子郷 遠方
和鋏の鈴耳につく多佳子の忌 鳥居美智子
哀しさを手足鈴攻め阿眉踊 加倉井秋を
嚏して天神の鈴鳴らしけり 林原和枝
国栖奏の鈴川へ振り崖に振る 米田ゆき子
土ふるや神の若菜に鈴女 上島鬼貫
土橋あり柳かくれの馬の鈴 柳 正岡子規
土鈴の音聞き比べゐる小春かな ふけとしこ 鎌の刃
土鈴振りふればひろがる鰯雲 千代田葛彦 旅人木
土鈴振る春そこまでの月橇型 中戸川朝人 残心
土鈴買ふ信濃の寒き夕焼に 鈴木鷹夫 渚通り
型抜きし土鈴濡色余花明り 伊藤京子
埴の鈴振れば音して春の暮 神尾久美子 桐の木以後
堅田泊りや鴨の鈴音を夜更けまで 摂津よしこ
塩田に遍路の鈴の遠音あり 舟月
夏の夜へ鈴振れば鈴存在す 鴻巣又四郎
夏山に鈴落とし来つ馬病めり 冬の土宮林菫哉
夏木立鳥啼き絶えて神子の鈴 夏木立 正岡子規
夏神楽空を打ちつつ鈴鳴らす 菅原鬨也
夏茱萸や葬列鈴を鳴らしゆく 田口風子(若竹)
夕さくら鈴の家の塀は濃かりけり 久米正雄 返り花
夕刊の鈴より都霧のわくごとき 篠原鳳作 海の旅
夕映ゆる遍路に鈴の音の高し 稲垣みのる
夕汽笛馬橇の鈴の音の奥に 池上樵人
夕茜してさむ空や金鈴子 千代田葛彦 旅人木
夜の秋土鈴いづこの音ならむ 保坂敏子
大空は紺青に枇杷は鈴をなす 鈴鹿野風呂 浜木綿
大鈴を下げて稲荷の茂りかな 猪股清吉
天明に鈴覚ましては遍路発つ 矢野聖峰
夫に蹤く帯に鈴鳴る初詣 山田弘子 初期作品
奥信濃熊穴出づと鈴を売る 池尾テル子
奥山や鈴がら振つて呼子鳥 古白遺稿 藤野古白
奥深く鈴鳴る宮の若葉哉 若葉 正岡子規
女人堂山の鈴ふる花ぎぼし 谷口とし子
如月のいづこに鈴を置きたるや 栗林千津
妻の振る鈴か通りて寒念仏 松耕朝蒼
妻詣る鈴を泉にゐて待てり 中戸川朝人 星辰
嫁入りの馬橇の鈴をなつかしむ 佐藤木実
子が持ちし破魔矢の鈴を探しけり 角川春樹 夢殿
子の持ちて破魔矢の小鈴昂りぬ 星 多希子
子遍路に夜のちかづく鈴の音 森田正実
子遍路の鈴がもつとも鳴りて過ぐ 中本 柑風
子遍路の鈴走りゆく沈下橋 菊池妙子
家の奥に咳払ひあり鈴の屋忌 藤村克明
家の鍵換えて朧の鈴の音 中里行雄
寒の雨鈴売りうどん来てかへす 小林康治 玄霜
寒垢離や両國渡る鈴の音 寒垢離 正岡子規
寒夜覚め葬りし猫の鈴鳴ると 松本巨草
寒晴や神楽の鈴を高鳴らし 石嶌岳
寒林へ鈴と消えたる遍路かな 大城きせの
寒行の鈴に昭和の遠ざかる 岡林博茂
寒行の鈴の音の糸引くごとく 木内怜子
寝仕度に触れて鈴鳴る雪夜かな 村越化石
寵愛の子猫の鈴の鳴り通し 高浜虚子
寺にゐて千の鈴音涼しけれ 間中恵美子
対の鈴つけて姉妹の茶摘籠 長田等
小綬鶏や鈴の緒切れし古祠 栃木光歩
小鈴みな鳴り出しさうな花馬酔木 馬詰 敏恵
小鋏の付根の鈴や薺爪 山田梅屋
少女来て鈴ひびかせる濃山吹 柴田白葉女 雨 月
少年の鈴を振る声冬はじめ 川崎展宏 冬
尾鈴嶺に絹雲かかり牧水忌 日高泰子
屋根をとぶ猫の鈴澄む十三夜 増田 富子
山中に子あやす鈴をもらす家 安川貞夫
山口につくる生駒の鈴菜かな 言水
山国の土鈴氷柱をくぐり買ふ 大串章
山女釣るかつて中馬の鈴の道 早川俊久
山桑黄葉藁雀の鈴が届いた 金子皆子
山眠る石仏無韻の鈴を振り 福田蓼汀
山羊の鈴鳴るタホ川の蛙かな 仙田洋子 橋のあなたに
山茶花や鳴らし呆けし神の鈴 久米正雄 返り花
山襞にあり巡礼の鈴恐し 金子皆子
山風に鈴の空鳴り神の旅 芝田教子
岩鏡霧の中より講の鈴 柚口満「夜振火」
峰入りの鈴の音絶えし日向水 宇佐美魚目 天地存問
島山の鈴なす枇杷の皆熟るゝ 鈴鹿野風呂 浜木綿
島栄ゆ鈴なる鴎白珊瑚 横光利一
川音は鈴のやうなる小六月 澤村昭代
巡り辿れる花冷の夜の鈴 黒田杏子 花下草上
巡礼の振る鈴霧に遠ざかる 岡安仁義
巡礼の鈴に桃畠空気揺れ 沢木欣一 遍歴
巫女の振る鈴に白露の闇動く 江田居半
巫女の舞ふ鈴の音とほる青茅の輪 池田博子
巫女の舞ふ鈴より春の寒さかな 石山民谷
巫女の鈴こだまとなりて杜小春 石川規矩子
巫女の鈴りりちりち砂灼けにける 伊藤敬子
布綱の手脂の冷え鈴かすむ 内田百間
師の影に満天星千の鈴振れり 石田あき子 見舞籠
帯の鈴聞こえ鮟鱇鍋来たる 藤田直子
年迎ふ鈴を惜まず三番叟 飯島晴子(1921-2000)
幻氷や貝の鈴鳴る紙鋏 坂井とみ子
廚芥車薄暑の辻に鈴鳴らす 西島麥南
引く鈴に山籟つのる初不動 北光丘
待宵や飛騨の木鈴かさこそと 羽部洞然
御嶽講凍れる滝に鈴鳴らす 堀内 薫
御鏡に振る鈴うつり初天神 中田余瓶
心中に鳴らす金鈴凍てずあれ 岡本差知子
恋の猫鈴をなくして戻りけり 西嶋あさ子
恋猫の鈴の遠音や姥子宿 井上久枝
戦傷兵うつる卓鈴夏逝けり 宮武寒々 朱卓
戸の鈴もよく鳴るやうに年用意 中田みづほ
戻り来し猫の鈴の音クリスマス 片山由美子 天弓
手に享けて天の英彦鈴風露湧く 文挟夫佐恵 雨 月
手に抱き古羽子板の鈴鳴らす 後藤夜半 底紅
手のとどくところに鈴や大旦 村越化石
手毬つくはこせこの鈴下駄の鈴 松藤夏山 夏山句集
手重りの鈴とおぼろの夜に沈む 小檜山繁子
托鉢の清明の鈴振りゆける きちせ・あや
投扇興胡蝶の鈴のゆれやまず 伊藤瓔子
抜け道に鈴落ちてゐて竹の秋 川崎展宏
拝殿に花吹き込むや鈴の音 夏目漱石 明治三十年
振つてみるアフガンの鈴鳥曇 川崎展宏
振りて買ふ鈴よ青嶺に雲生まる 宮坂静生 雹
掌に享けて鈴の止みたる破魔矢かな 加倉井秋を
摘草の童女の籠に鈴の音 大串 章
放鷹の鈴の音天を翔りけり 鞠絵由布子
料峭や鍵取り出せば鈴が鳴り 道廣敬子
日あらば鈴も鳴るべし春の道 柿本多映
日をはじく実は銀鈴のあふちかな 若林いち子
日盛や杖の鈴鳴る盲僧 小川軽舟
日記買ふ銭入れにつく鈴鳴りぬ 宮武寒々 朱卓
早々と鈴を貰ひし子猫かな 高田風人子
早乙女の小鈴をならす財布かな 飯田蛇笏 春蘭
早立の短夜明けぬ鈴が森 短夜 正岡子規
明らかに二つの橇の鈴となり 佐藤多太子
星と呼鈴胸にちりばめ人参きざむ 八木三日女 落葉期
春の宵鋏の小鈴よくひびき 吉屋信子
春の星歩めば鈴の鳴る女 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
春待つや鈴ともならず松ぼくり 小川軽舟
春愁のはさみ使へば鳴る小鈴 上村占魚 鮎
春泥をとんで財布の鈴が鳴る 角光雄
春深き音をみちのくの土鈴かな 菅原鬨也
春灯のとどかぬ神事御鈴鳴る 工藤茶亭
春燈の鈴ふるふごと点る路地 成田千空 地霊
春眠やタクラマカンの鈴の中 吉本みよ子
春着の児所作に小鈴の音が添ひ 田所節子
春闌けてきて鈴を振る音すなり 中田剛 珠樹
春雨や投扇興の鈴の音 蘇山人俳句集 羅蘇山人
春風や土手は水音馬の鈴 春風 正岡子規
春風や惟然が耳に馬の鈴 夏目漱石 明治三十九年
春駒の鈴の音澄めり湖に来て 皆川盤水
春駒の鴎を翔たす鈴の音 皆川盤水
晩年に鈴付けておく秋の暮 中尾寿美子
晩涼や遺品の鈴を大切に 村越化石 山國抄
智恵貰英彦山鈴は藁の紐 服部百合子
暁近く馬橇の鈴のすきとほる 小清水幸子
曼珠沙華どのしべ引けば鈴が鳴る 田中呂果
月の出やはねとの鈴の鳴り急ぐ 吉田鴻司
月代や巫女のこぼせる鈴の音 小島健 木の実
月明の耳門の鈴が鳴つてゐる 加倉井秋を 午後の窓
朝寒や手提袋の鈴が鳴る 槇田清子
朝涼や山羊の鈴にて目を覚ます 林 緑丘
朝涼を歩みて胸の鈴鳴らす 平田節子
朝鈴の鳴きゐる横川恵心堂 森澄雄
朝鈴や母屋へ赤子抱きゆく 井上弘美
朝顏や新聞くばる鈴の音 朝顔 正岡子規
朝顔よ一番馬の鈴の音 北空 古句を観る(柴田宵曲)
朝顔を咲かせ呼鈴なき暮し 小野田明子
朧めき妻子の干支の土鈴購ふ 中戸川朝人 残心
木犀や昂の鈴は天のもの 山本歩禅
札幌の春や馬橇の鈴の音 渡辺白泉
村営バス揺るたび熊除け鈴鳴れり 高澤良一 寒暑
東京湾フェリー破魔矢の鈴が鳴り 宮腰秀子
枇杷の鈴四五枚の葉に立据はり 西山泊雲 泊雲句集
林檎咲きアルプの牛の鈴ひびく 石原舟月
枯園でなくした鈴よ永久に鈴 池田澄子 たましいの話
枯草に鳴り行く影や馬の鈴 安斎櫻[カイ]子
枯蔓引くと天のどこかで鈴鳴らむ 宇咲冬男
枯野の家の呼鈴が鳴りゐたり 直人
柳蔭出舟の鈴を鳴らしけり 栄昌
根付鈴かすかに鳴れる初句会 古賀まり子
格子戸に鈴音ひゞき花柘榴 飯田蛇笏 霊芝
桃菜の花千ケ寺まゐり鈴の音 中勘助
桐の実の空へ鳴らすや巫女の鈴 工藤眞智子
桐は実に巫女の舞ひ振る鈴のごと 河野頼人
梅は実になりて机の狛土鈴 藤田あけ烏 赤松
梅咲くや瑞光殿の鈴の音 梅 正岡子規
梅雨に入る大事なものに鈴をつけ 森田智子
樹氷いま鳴れば一山鈴の音に 長沼三津夫
橇の鈴きこえしのみの今宵かな 柏崎夢香
橇去りてより鈴きこゆ木魂とも 石原八束
橇馬の鈴うち鳴らし歩みいづ 阿部みどり女
橘は黄を深めつつ天の鈴 長谷川秋子
橿鳥や浄らにゆがむ鈴ケ岳 堀口星眠 営巣期
歩きへんろの鈴過ぎし梅雨葎 黒田杏子 花下草上
歩にあひて鈴のよく鳴る破魔矢かな 山口峰玉
死 ね な い 手 が ふ る 鈴 ふ る 山頭火
母の夢見し朝風鈴吊しけり 前橋春菜
比古土鈴単彩に売り神の留守 野見山ひふみ
毛越寺へ馬車の鈴鳴る花桜桃 中田幸子
水韻く河骨の鈴ひとつづつ 都筑智子
氷柱噛み馬橇の鈴をゆかしめき 小林康治 玄霜
氷河見て独りの鈴は掌に転ぶ 古舘曹人 砂の音
汐風に鈴の音響き島四国 岡本メ一
河骨の金鈴ふるふ流れかな 川端茅舎(1897-1941)
河骨の鈴をふるはす星揃ふ 中嶋秀子
泥足を洗ひたればうらら鈴が鳴る 冬の土宮林菫哉
注連飾る山小屋鈴の鳴る扉 道場信子
洪水をたのしむ堤鈴が鳴る 和田悟朗
海棠や縁を往き来す狆の鈴 飯田蛇笏 山廬集
海沿ひに破魔矢の鈴の行くことよ 川崎展宏
海鳴りの跳人の鈴を拾ひけり 西澤ひろこ
涼しさの鈴振るごとき鳰のこゑ 石田郷子
涼しさやみどりごの振る鈴の音 上田圭子
涼しさや脈鈴ひゞく水の闇 幸田露伴 拾遺
涼やかに鈴なつてゐる宿直かな 筑紫磐井 野干
渡り鳥幾千の鈴ふらし過ぐ 赤城さかえ
湖畔落葉の金銀童謡馬車の鈴 柴田白葉女 雨 月
湧水を鈴の音と聞く麓神 伊藤京子
満天星の古りて万鈴曼陀羅寺 榊原順子
満月のたらひ舟より鈴の猫 佐々木稔
火の中に鈴の見えたるとんどかな 岸本尚毅 舜
火の中の鈴が音持つ初戎 野見山ひふみ
炉辺に把る巫女の鈴鳴りにけり 飯田蛇笏 霊芝
炎天に神の土鈴の乾く島 山田弘子 初期作品
炎昼の小鈴拭へばほろと鳴る 鍵和田[ゆう]子 浮標
炭売女にもカナリヤの鈴ひそか 飯田龍太
熊よけの鈴を響かせ登山帽 安部恵子
熊を追ふ大鈴一つ炉柱に 矢津羨魚
熊除けのよく鳴る鈴を子等につけ 河合絹代
熊除けの鈴につきゆき水芭蕉 平野無石
熊除けの鈴のきてゆく吾亦紅 和知喜八 同齢
熊除けの鈴は夫かも榾火足す 塚越秋琴
熊除けの鈴を鞄に霧の朝 松原幸子
熊除けの鈴高らかに登校児 和田 和子
熊除けの鈴鳴らしゆく北の旅 安岡みちこ
熊除けの鈴鳴らし入る八甲田 原 竹木
熊除けの鈴鳴る霧の軽井沢 泉 貞子
熊除の鈴のかがやく通草山 福田甲子雄
熊除の鈴打ち鳴らし下校の子 大島鋸山
父母よりのこの家風鈴よく鳴つて きくちつねこ
父鈴ならし狼のはたらきのはなし 阿部完市 春日朝歌
爽やかな浴び日の巫女や鈴の舞 梁瀬英子
片耳に破魔矢の鈴をあそばせる 関洋子
牛の鈴音耳をはなれぬ橡拾ひ 林原耒井 蜩
牛歩む土にひびきて古風鈴 飯田蛇笏 椿花集
猫に買ふ銀の小鈴も盆支度 桑原立生
猫のすずわが鍵の鈴夜のおぼろ 神保一龍
猫の鈴つけかへてゐし生身魂 大木あまり 雲の塔
猫の鈴塀に移りし十日月 古橋芳
猫の鈴日にけに草を萌えしむる 林原耒井 蜩
玉砂利の音に五十鈴の水温む 入江 量子
班雪眩しと遍路鈴鳴らす 藤田ひろむ
病み猫の鈴はづしやる日向ぼこ 木田千女
病室へ入り来破魔矢の鈴鳴らし 右城暮石
白萩に駅路の鈴の夜明かな 古白遺稿 藤野古白
白露の瞳はかなしみの鈴をふる 石原八束 『雪稜線』
百鈴の秋のこころに鎮まらず 黒田杏子 花下草上
的玉の落ちる鈴音投扇興 岡本幸枝
目張り青き浅香光代に銀杏の鈴 長谷川かな女 花 季
盲導鈴に老いし蟷螂しがみつき 菖蒲あや 路 地
盲導鈴雪の匂ひの風立ちぬ 影島智子
盲導鈴鳥の鳴きごゑ雪間殖ゆ 荒井正隆
眼ひらいて睡るや秋風鈴天に 石原八束 空の渚
短夜のつひに明けたり鈴か森 短夜 正岡子規
短夜の鱈はこぶ馬車鈴ならし 福田甲子雄
短夜や駅路の鈴の耳につく 芭蕉
短日や猫の小鈴の鳴ることも 矢崎硯水
破魔矢に揺れる小鈴や女性やさしかれ 中村草田男
破魔矢の鈴師の星父母の星呼べり 奈良文夫
破魔矢の鈴暗闇にまた海の音 川崎展宏
破魔矢の鈴路ゆづるとき鳴りにけり 山部栄子
破魔矢より鈴をはづして弄びけり 原裕 青垣
神の鈴振り秋冷を払いけり 杉本美寿津
神鈴のけふ新しき露の山 鷲谷七菜子 花寂び 以後
神鈴のしかと分けたり去年今年 武田日出夫
神鈴の三つはせはしお酉さま 高澤良一 燕音
神鈴の手綱暑きをたれも知らぬ 渋谷道
神鈴の綱にすがりし冬の蝿 南雲愁子
神鈴の綱のささくれ笹鳴けり 藤井 昭
神鈴の緒の春雪になほ足らず 古舘曹人 砂の音
神鈴の緒の滝じめり竜王峡 檜 紀代
神鈴やゆつくりおどろく寒の鯉 平井さち子 鷹日和
神鈴を一つがらんと年歩ます 高澤良一 燕音
祭の子ふぐりの位置で鈴鳴るよ 香西照雄 対話
禽寝ねしあとを夜釣の鈴鳴りて 原 柯城
秋の声末社の鈴の紐ひけば 川崎展宏 冬
秋の夜の触れねば音をもたぬ鈴 野見山ひふみ
秋の暮引出しの鈴鳴りたがる 小檜山繁子
秋の蝶磐石に鈴振る如し 小川軽舟
秋の野に鈴鳴らしゆく人見えず 川端康成
秋の闇富嶽も鈴も封じたり 中田剛 珠樹
秋冷の土鈴のごろりごろりかな 照敏
秋燕や船の中より遍路鈴 松園真沙子
秋猫乎地階の護謨樹に鈴鳴れる 飯田蛇笏 霊芝
秋立つと耳に鈴振る海の店 中拓夫
秋蝉の鈴一千の振りをさめ 阿部栄子
秋近き天領のまち土鈴買ふ 田中芙美
秋遍路日暮れの鈴をしまひけり 石川みのる
秋閑かなり桃太郎の土鈴買ふ 柴田白葉女 花寂び 以後
秋風や集めし土鈴がらがらり 野村喜舟
稲荷祭お山めぐりの鈴連ね 木田千女
空耳とおもふ鈴の音十三夜 千田徳子
立居して鈴の音を張る夏の霧 栗林千津
竹林に隠さるる鈴雪降れり 磯貝碧蹄館
竹馬に括りし鈴の鳴りにけり 飯島芳村
竿先の鈴闇に鳴る穴子釣 松本幹雄
笛も鈴も身ほとりになし雁わたる 藤田湘子 てんてん
笹山に入りて破魔矢の鈴さわぐ 宮岡計次
筬の音を聞きつつ鈴ふる秋遍路 佐藤希世
篭に鈴ラジオを腰に茸とり 中野信夫
籔ごしやはだか參りの鈴冴る 冴 正岡子規
糸引く眼鈴を張る眼や観月会 櫛原希伊子
紅葉まつり遥けき雲も鈴振るや 町田しげき
紐引けば鈴なる門や葉鶏頭 龍胆 長谷川かな女
紫蘇の実を鋏の鈴の鳴りて摘む 高濱虚子
終章の橇の鈴かと外へ出る 杉野一博
終鈴を待てる瞑目大試験 河野頼人
綺羅星に鈴を鳴らして橇の馬 山田無月
綿菓子を秋の遍路の鈴過る 橋本千代乃
縫初の小鋏に鳴る金の鈴 穂坂日出子
縫初の鋏の鈴のりんと鳴り 鷺くら
羚羊の子五十鈴ちやんとぞ岳の町 工藤智子
羽すててこおろこおろとねむり鈴 阿部完市 春日朝歌
翔け翔くる蝶の頭は鈴ならむ 三橋敏雄 畳の上
老人につけし鈴鳴り秋桜 長谷川櫂 蓬莱
耳につく童女の鈴の野辺送り 林田紀音夫
耳掻きの鈴がちりちり春の風邪 三村純也
耳許に猫の鈴鳴り初寝覚 木田千女
聖鈴浴びこころ寄せあふクリスマス 村越化石 山國抄
聖鐘と聖鈴内外降誕祭 村越化石 山國抄
肩冷えて昴に鈴の音ありぬ 鎌倉佐弓
胸もとに鍵の鈴鳴る花衣 井上雪
舞ひ立ちて巫女爽涼の鈴を振る 大木格次郎
船ゆれて手の鈴鳴れり秋遍路 別府一柚
船上に破魔矢の鈴の鳴りにけり 大木あまり 火球
船室に鈴つつしむよ秋遍路 綾部仁喜 寒木
艦に眠れば/砲手に/銀河/鈴のごとし 林桂 銀の蝉
色変へぬ松や刑場鈴ヶ森 島田高行
芋茎葺く神輿の鈴は加茂茄子 森 孝子
花くるみ土鈴は蒼き音を出す 伊藤敬子
花の鈴稀に音しぬ太政官 松瀬青々
花の雲鈴を鳴らすは耕馬なり 金箱戈止夫
花ひらくべし暁闇の鈴の音に 黒田杏子 花下草上
花大根黒猫鈴をみてあそぶ 川端茅舎(1897-1941)
花大根黒猫鈴をもてあそぶ 茅舎
花房の鈴きんきんと藤の波 石原八束 空の渚
花種を鈴振るように振って買う 山科智恵子
花野にて鈴振りおとす哀れさよ 苑子
花馬酔木鈴を鳴らして明日は明日 佐々木千代恵
芽木明り鈴つけて犬匂ひなし 原裕 青垣
若葉寺小さき鈴がよくひびく 柴田白葉女 花寂び 以後
茅舎旧居露の呼鈴押したしよ 小澤實(1956-)
草もみじ行けるとこまで鈴ふって 瀬戸青天城
草木瓜や猫ならば鈴のイヤリング 岩田昌寿 地の塩
菩提樹の実に母恋の土鈴鳴らす 角川源義
落葉松に千の実の鈴祈るごと 堀口星眠 営巣期
落葉松の径ゆき馬橇の鈴透る 池田風信子
落鰻落鮎人は鈴鳴らし 黒田杏子 花下草上
葬る時むくろの猫の鈴鳴りぬ 日野草城
蓮・牡牛・鈴・簑経てまた心臓(ヘルツ)の象 竹中宏 饕餮
薫風の瀬音染みたる土鈴買ふ 小澤克己
藪をゆく破魔矢の鈴の鳴り通し 岸本尚毅 舜
虫魂或は鈴の如からん 室生犀星
蛍降る巫女舞の鈴振るたびに 江川邑節「鴎座合同句集翔」
蜆汁朝のカナリヤ鈴を振る 小原菁々子
蜩に覚め仏鈴を鳴らしもす 林原耒井 蜩
蝶生れて水売り綺麗の鈴鳴らす 澤田緑生
蟻地獄富士講の鈴ひびき来る 堤信彦(玉藻)
行く秋のとある夜更けの鈴の音 中村苑子
街はパリー祭夜のピーマンの鈴を割る 萩原洋灯
街は初夏竝び走れる馬車の鈴 福田蓼汀 山火
街路樹の鈴掛に巣をつくりたる雉鳩よおまへは東京が好きか 山田富士郎
触れて響く馬橇の鈴や掃納 鳥羽とほる
触れ合ひて小鈴鳴る花換へにけり 山口霞村
言祝ぎて馬酔木も万の鈴鳴らす 渡辺恭子
護摩壇に金鈴響く春の雨 夏目漱石 明治二十九年
護符の鈴妻の荷に結ふ山開き 小西 藤満
貯炭痩せ鈴張りしごと霜の声 小林康治 玄霜
足摺の遍路しんじつ鈴の澄む 齊藤美規
跳ねるたび鈴振り落す侫武多かな 戸恒東人
身のうちに鈴あらば鳴れ初御空 黒崎かずこ
身の奥の鈴鳴りいづるさくらかな 黒田杏子 花下草上
身心に鈴一個在り枯葎 枇杷男
身近に鈴の音満つるごとく冬 岡本眸
逝く秋の鈴振るごとき遺句集なり 中山純子 沙 羅以後
遍路鈴 廃れ分校へも寄つて 伊丹三樹彦
遍路鈴ラジオで聞ききつねむりけり 長束範子
遍路鈴父よ夫よと振るならむ 神尾久美子
遍路鈴遠く近くに讃岐富士 武田禅次
遍路鈴霧の中より聞こえくる 上田しずゑ
遠ざかる遍路の鈴や捩花 有馬朗人
還暦に破魔矢の鈴の殊に鳴る 森田智子
郁子の実の小鈴のごとき梅雨入かな 石田あき子 見舞籠
野に出でて鈴振るばかり偽遍路 沢木欣一 遍歴
野の秋へ鈴ふるやうに花の咲き 岩津厚子
野菊には小さき鈴をつけてやる 夏井いつき
金色の鈴ころげ出す初電車 富士原拓
金鈴の声をふるはせ水仙花 今井誠人
金鈴子残る句碑路讃岐路 磯野充伯
金鈴子食べて賢くなりたき鳥 後藤比奈夫 めんない千鳥
金鈴子鳴き澄みて夜をゆたかにす 白井常雄
釘箱に小鈴がまぎれ天高し 神尾久美子 桐の木
釣舟や鈴の光の秋涼し 渡辺水巴 白日
鈴おとのかすかにひゞく日傘かな 飯田蛇笏
鈴かけの鈴賑やかに年を越す 田中南耕
鈴が鳴るいつも日暮れの水の中 中村苑子
鈴つけて櫻の聲をきく夜かな 泉鏡花
鈴つけて歩む童や仏舞 井上 雪
鈴となつても怨霊の貌平家蟹 下村ひろし 西陲集
鈴となり風となりゆく秋遍路 佐土井智津子
鈴に入る玉こそよけれ春のくれ 敏雄
鈴のおとかすかにひびく日傘かな 飯田蛇笏
鈴のごと一輪の花苗ざくら 関森勝夫
鈴のごと星鳴る買物籠に柚子 岡本眸
鈴のごと瀬音いくつも橡枯れぬ 和知喜八 同齢
鈴のみが仔犬の春装白柔毛 香西照雄 素心
鈴の冷たさ小さい足裏の冷たさ猫 金子皆子
鈴の家の鈴ちろと鳴り暮るゝ春 久米正雄 返り花
鈴の屋の厨に白き助炭かな 青木月斗
鈴の緒に沼の日を縒る花の山 古舘曹人 砂の音
鈴の音がしきりに降りぬ恵方道 鈴木鷹夫 大津絵
鈴の音が濡れておんなに春とどく 鎌倉佐弓 天窓から
鈴の音して人見えず秋遍路 龍神悠紀子
鈴の音して玄関に礼者かな 豊長みのる
鈴の音のかすかにひゞく日傘かな 飯田蛇笏「山廬集」
鈴の音のしてゐる雛の髪かざり 山佐良幸
鈴の音の一度きりなる桜かな 岸本尚毅 鶏頭
鈴の音の南部蒼前祭あをし 黒田杏子 花下草上
鈴の音の綺羅を恐れて山楝蛇 保坂敏子
鈴の音の胸深きより春着かな 片山由美子 風待月
鈴の音は与作が馬か夕霞 谷活東
鈴の音は驢馬の曳く馬車サルビヤ緋 竹尾夜畔
鈴の音ひびき合ひゐる茸狩 山本紅童
鈴の音も休ませてゐる秋遍路 吉金絹枝
鈴の音や真近に湧いて雲の峯 中川宋淵 詩龕
鈴の音を指先に聴く秋遍路 瀬戸内敬舟
鈴の鳴る方へ傾く蓬かな 柿本多映
鈴の鳴る春は三橋敏雄かな 藤田湘子 てんてん
鈴は己れに涼しく振つて塵芥車 加藤知世子 花寂び
鈴ふりてプールさみしき刻もどす 宮坂静生 山開
鈴ほろと鳴る極月の夜の柱 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
鈴をふりふりお四国の土になるべく 山頭火
鈴をふるごとくに竹の落葉せり 上田五千石「琥珀」
鈴を振る紐のささくれ雪解富士 米山源雄(白露)
鈴を落さず海上わたる渡り鳥 磯貝碧蹄館
鈴一つ拾ふ初寅神楽坂 肥田埜恵子
鈴付けし子犬に昼寝起こさるる 井上きぬゑ
鈴割のさまにはじけて花あけび 片山由美子 天弓
鈴振つてひとりの夜涼たのしめり 大石悦子 聞香
鈴振つて下り来る暁けの登山口 原三猿子(ホトトギス)
鈴振つて内侍来ぬ間の涼しさよ 筑紫磐井 野干
鈴振つて古道涼しむその錆音 加藤知世子 花寂び
鈴振つて搖髪より老い露の馬 文挟夫佐恵 雨 月
鈴振つて母が呼びをり柿の花 坂口良子
鈴振つて湖わたり来る秋遍路 中山純子
鈴振つて神を覚まさん花すみれ 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
鈴振りて神をあゆます祭かな 奥坂まや
鈴振りて農夫足踏み仏舞ひ 高橋美智子
鈴振るやうに間引菜の土落とす 津川絵理子
鈴振れば紅梅の香となりて来よ 平井照敏 天上大風
鈴掛の揺るる小春や紀尾井坂 坂井建
鈴掛の鈴よ落ちるな聖母祭 陽美保子
鈴掛を着ぬばかりなる暑さかな 中村史邦
鈴河鹿鳴く一枚の橋のうら 裕
鈴買つて春夕焼の肩ぐるま 菅原鬨也
鈴雛の音色も包み納めけり 河野美奇
鈴音のして春着の子帰り来る 遠藤喜久女
鈴音の谺しみ入る秋遍路 黒木幸子
鈴鳴つて姫鱒釣れぬ湖は秋 市ノ瀬尺水
鈴鳴つて秋草を剪る鋏かな 大峯あきら 宇宙塵
鈴鳴つて鞍馬を越ゆる破魔矢かな 鈴木鷹夫 大津絵
鈴鳴らし馬喰む峡の良夜かな 玉城 周
鈴鳴らすごとく鳴き交ふ初燕 羽部洞然
鈴鳴らす馬よ枯野は海に尽き 金箱戈止夫
鈴麦も麦のたぐひか螢の子 北原白秋
銀の鈴鳴らして冬の鴎呼ぶ 仙田洋子 雲は王冠
銀の鈴鳴るよ晩夏の空とほく 仙田洋子 橋のあなたに
銭洗ふたびに破摩矢の鈴鳴れり 相川やす志
錆び古りて馬橇の鈴の結ばるる 石川桂郎 高蘆
録音のはじめ盲導鈴梅雨に入る 中戸川朝人 残心
鎌倉や音かろやかな土鈴雛 三澤たき
鐘を撞き鈴を鳴らして去年今年 船平晩秋
陽のミモザ海へ海へと鈴鳴らし 男谷卯女
雨の電車破魔矢の鈴の鳴りにけり 星野すま子
雨乞や月の鈴の緒ふとぶとと 橋本鶏二 年輪
雨止みて尾鈴の山の冬霞 三好菊枝
雪かゝる聖樹の憲に驢馬の鈴 飯田蛇笏 霊芝
雪しんしん聴きたきものに橇の鈴 小川田鶴子
雪つけし音盤を抱き呼鈴を押す 宮武寒々 朱卓
雪となる日暮の幹に鈴をかけ 橋石 和栲
雪どけさかる街の新聞売の鈴がよく鳴る 人間を彫る 大橋裸木
雪の八ッ手もしづかな呼鈴 シヤツと雑草 栗林一石路
雪原の水音鈴ふるごと暮るる 鷲谷七菜子 雨 月
雪嶺夕焼鈴高鳴らす供米車 加藤知世子 花寂び
雪解風わが身を鈴となしゐたる 岡本眸
雲辺の寺へ遍路の鈴二つ 岡崎伸
霧のダム花提げくれば鈴鳴りぬ 宮武寒々 朱卓
霧去るや雲路鈴ゆく神の森 飯田蛇笏 椿花集
霧満ちてつひに独りや神の鈴 鍵和田[ゆう]子 未来図
霧襖より富士講の鈴の音 山田弘子 螢川
霰降る大地に鈴の音満つごとく 柴田白葉女 花寂び 以後
青き津や鈴振るごとき春楽浪 櫛原希伊子
青桐は莢振り鈴の雪降りくる 川崎展宏
青田風癩者ちかづく鈴の音 江里昭彦 ロマンチック・ラブ・イデオ口ギー
青空に金鈴子とはよき名なり 森田かずを
青葉光あつめて鈴が静止せり 柴田白葉女 花寂び 以後
青虫の天下に鈴は響くなり 夏石番矢 神々のフーガ
靖鈴のつつとぬけたる廊下かな ミノ-斜嶺 七 月 月別句集「韻塞」
靴みがくや春風に鳴る門の鈴 碧雲居句集 大谷碧雲居
音もせずなりぬ吹雪の馬の鈴 吹雪 正岡子規
頬赤の鈴割れごゑや秋立つ日 堀口星眠 営巣期
風の中銀鈴となる山椒喰 きくちつねこ
風の梢にねむる幼女の鈴かかる 林田紀音夫
風吹いて鬼灯市の鈴のなる 上田芳子
風邪秘めて耳輪に金の鈴二つ 赤松[けい]子 白毫
飛ばしたり落したりねぶたの小鈴 後藤比奈夫 めんない千鳥
首の鈴鳴らし馬車ゆく大花野 力丸 智
香*たいて土鈴売りをり沈丁花 青木重行
馬の背のまよけの鈴は霜に鳴る 石原八束 空の渚
馬の背の阿蘇寒し背に鈴鳴らし 石原八束 空の渚
馬の鈴吊りたる窓の春嵐 石川桂郎 四温
馬の鈴近くて遠き山路かな 正岡子規
馬の鈴近くて遠し山の道 正岡子規
馬の鈴近く聞えてつゝら折 正岡子規
馬は未明の泉のむ鈴りんりんと 加藤知世子「朱鷺」
駅鈴や蜜柑の一顆匂ひ出づ 進藤一考
駅鈴をしば聞く日なり炉塞ぎぬ 河東碧梧桐
駅馬路や夕立はるゝ鈴の音 西島麦南 人音
驢馬の鈴過ぎたる風の秋桜 山田弘子 こぶし坂
骨壷を抱けば鈴ふるごとく雪 中村堯子
髪置の鈴聞えぬは抱かれをり 江川虹村
鮭網の鈴がなるなりゆめうつゝ 軽部烏帽子 [しどみ]の花
鳰鳴くや春著の鈴も夕急ぎ 香西照雄 対話
鳴りしきる電話の鈴の暑哉 暑 正岡子規
鶯や左の耳は馬の鈴 鶯 正岡子規
鶯や新聞売りの鈴の音 鶯 正岡子規
鶯や表通りは馬の鈴 鶯 正岡子規
鷹狩に使ひし鈴を家宝とす 瀧澤伊代次
鷹狩の闇の底より鷹の鈴 松井慶太郎
齢とは秋風鈴の高鳴れり 吉田紫乃
●琵琶
くらやみに なおも花散る 平家琵琶 伊丹三樹彦 花恋句集二部作 夢見沙羅
どんたくの琵琶かきならす風塵裡 林十九楼
どんたくや琵琶弾き歩む稚児の列 白髭葉子
ふきいれし木の葉に琵琶のそら音かな 加舎白雄
ゆく春やおもたき琵琶の抱心 蕪村遺稿 春
一つ葉や琵琶の音洩るる五家荘 岡山裕美
三光鳥すめらぎみ子の琵琶法師 林日圓(京鹿子)
九輪草いづかたよりか平安琵琶 後藤真佐子
人ありて琵琶にや作る長瓢 松岡青蘿
冬されて淋しき顏や琵琶法師 冬ざれ 正岡子規
冬凪や比枝の杉間の琵琶巨細 東洋城千句
冬濤は鬼の奏でる平家琵琶 出井哲朗
冴返る灯や半顔の琵琶法師 雉子郎句集 石島雉子郎
凩やいづこを鳴らす琵琶の海 牧童
十六夜や海の底より平家琵琶 成瀬櫻桃子
名月の空に江嶋の琵琶聞ん 名月 正岡子規
名月や誰れ忍ばるる琵琶の家 車庸 俳諧撰集「藤の実」
吹きいれし木の葉に琵琶のそら音かな 白雄
夏椿ことりと置ける琵琶の撥 ふけとしこ 鎌の刃
夜の秋書架に声なき琵琶法師 阿部みどり女
大銀杏散り敷き琵琶の仮舞台 辻村勅代
奥琵琶の鴨の波乗り上手かな 岩崎照子
寒猿に谷の琵琶滝ねむりけり 大島民郎
屠蘇機嫌荘裡の琵琶を抱かんかな 牧野暁行
川止やつれ〜に呼ぶ琵琶法師 伊藤松宇「松宇家集」
帛を裂く琵琶の流れや秋の声 蕪村
平家琵琶目に不知火も燃えるころ 高部雅堂
平家琵琶聴く夜は荒るる春の海 北畑阿紗子
弁天の琵琶の卯波に打ち消され 木村紀美子
弾初の吾は琵琶法師弱法師 加藤蛙水子
御題菓子いま捧げたき琵琶法師 小枝秀穂女
抱く琵琶に燈明ゆらぐ初弁天 森田旅舟
新樹光上段の間の蒔絵琵琶 小岩浩子
新涼や三井の寺より琵琶の波 東洋城千句
春の夜の琵琶聞えけり天女の祠(し) 夏目漱石 明治二十九年
春の燭ほとけと分ち平家琵琶 新保ふじ子
春風や淀川下る琵琶法師 春風 正岡子規
時雨かな耳なし法師の琵琶思う 伊達甲女
時雨ふる磐城ぞ琵琶の弾き語り 佐藤鬼房
暖や聴くに堪えさる昼の琵琶 尾崎紅葉
月に聴く平家哀史の琵琶の音 岩田つねゑ
月の琵琶壁のやもりも出でゝ聽け 月 正岡子規
月氏国おもへと月に琵琶弾ず 高澤良一 ぱらりとせ
柱を立てし琵琶を置きたる河社 茨木和生 丹生
梨番の茣蓙の上なる筑紫琵琶 石鼎
楽琵琶の黄楊鳴りつくる海春陰 河野多希女 こころの鷹
槇の戸や月さしまねく琵琶の撥 幸田露伴 江東集
永き日や湛へ始めの琵琶の湖 東洋城千句
油断せぬかほや時雨るる琵琶法師 立花北枝
深秋や硝子ケースの琵琶の丈 藤井尚子
無花果や家運かたむけど琵琶抱く 宮武寒々 朱卓
照り込んで琵琶潮は見えず夏燕 佐野青陽人 天の川
片脚は琵琶の湖中に時雨虹 田畑美穂女
玄上の琵琶据ゑ厳島おぼろ 尾野恵美
玉霰放下が琵琶をはしるなり 几董
琵琶の名は青山とこそ時鳥 夏目漱石 明治二十九年
琵琶の撥にのせてたたする蛍かな 広瀬惟然
琵琶の撥畳におかれ南吹く 旭
琵琶の滝一人静の花ぬるる 宮下歌梯
琵琶の音にさそひ出しけり小夜しくれ 時雨 正岡子規
琵琶の音は月の鼠のかぶりけり 上島鬼貫
琵琶の音は蓮華と凝りて降りにけり 幸田露伴 谷中集
琵琶の音や葛の裏葉を吹返す 滝川愚仏
琵琶の音を心耳に舞ふや蝉丸忌 時田悠々「古城」
琵琶やめて何が聞こゆる秋の暮 秋の暮 正岡子規
琵琶やめて真桑をむかん宵月夜 甜瓜 正岡子規
琵琶やんで小窓に春の夜更けたり 春の夜 正岡子規
琵琶を聴く一人の盲先帝会 香月梅邨
琵琶一曲月は鴨居に隠れけり 月 正岡子規
琵琶亭に一座の客や洗ひ鯉 洗膾 正岡子規
琵琶冴えて星落来る台かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
琵琶冴て蝉丸月を聞く夜哉 月 正岡子規
琵琶冴ゆや桂の花の散る匂ひ 月 正岡子規
琵琶唄の低唱は誰ぞ南洲忌 辺見京子
琵琶師の墓探す肥後路の草茂る 森田深淵
琵琶弾いて誰ぞ秋惜しむ瀞ホテル 高橋淡路女 梶の葉
琵琶悲し一夜に寒き鬢の霜 霜 正岡子規
琵琶抱いて弁財天も発たれしか 平松三平
琵琶抱て千手泣く夜や春の雨 春の雨 正岡子規
琵琶持つてかまどを清む慈悲心鳥 林 日圓
琵琶法師ロレンソの忌の春立てり 島 すが子
琵琶置きし壁の傷見る二月かな 冬葉第一句集 吉田冬葉
琵琶聽くや芋をくふたる顔もせず 芋 正岡子規
琵琶迫れば凩さつと燭を吹く 凩 正岡子規
琵琶鳴りをしつつ七夕竹さやぐ 鈴木しどみ
瓶花露をこぼす琵琶三両曲 子規句集 虚子・碧梧桐選
白れんの成れの果也平家琵琶 津田将也
白藤やいく世音を断つ琵琶一つ 桂樟蹊子
白鳥の川の底より琵琶の音 西脇はま子
秋の夜の琵琶に更けたる燈哉 断烟郎
秋冷の琵琶かき鳴らす回向かな 稲田眸子
秋潮の満ちくるときに平家琵琶 佐川広治
立ち聞くや琵琶の祕曲を門の月 月 正岡子規
紅梅に琵琶を調ぜし小宰相 筑紫磐井 野干
綿弓や琵琶になぐさむ竹の奥 芭蕉
胸張つて琵琶弾く路地の簾越し 北野民夫
腹に琵琶ひびく筍流しかな ひろおかいつか(童子)
舟渡御や琵琶横抱きに月の禰宜 吉野義子
航路冬忠君の琵琶船室に 宮武寒々 朱卓
船室に琵琶弾く盲神送り 宮武寒々 朱卓
薩摩琵琶七曲月の春臨閣 高澤良一 宿好
薩摩琵琶叩き鳴らして南洲忌 岩切貞子
薩摩琵琶待月軒に徹りけり 高澤良一 燕音
薩摩琵琶雨月湿りの撥捌き 高澤良一 燕音
蝉丸が琵琶を所望の花明り 筑紫磐井 野干
螢火や女人の語る平家琵琶 石井 保
行く春やおもたき琵琶の抱きごころ 蕪村
観月会琵琶の音締めを襖越し 高澤良一 宿好
辛夷咲く寺に伝へて平家琵琶 山本隆一
重衡を弾ず無月の薩摩琵琶 高澤良一 燕音
金亀虫琵琶のおもてを打擲す 佐野まもる「天赦」
雑水に琵琶聴く軒の霰かな 松尾芭蕉
雨を呼ぶ琵琶の相見し五月かな 長谷川かな女 雨 月
青梅雨や呂の音はねる平家琵琶 浅野岳詩
飾り馬遠く晴れたる琵琶の湖 大月一草子
驟雨やむ屋形にはやき琵琶の浪 飯田蛇笏 雪峡
鮎汲みの焚火にぎやか琵琶の湖 沢崎ゆきえ
鱧食べて後の祇園の涼み琵琶 伊藤いと子
麦哥の声まね行や琵琶法師 高井几董
●三味線
でんでんと太三味線や近松忌 下村梅子
一挺の三味線ありぬ露の宿 増田龍雨 龍雨句集
一挺の三味線供へ魂迎 伊藤柏翠
三味線で鴫を立たする潮来哉 一茶
三味線に乗つて開きぬ花瓢 鈴木鷹夫 春の門
三味線に千鳥鳴く夜や先斗町 千鳥 正岡子規
三味線に樽をかけたる花見哉 花見 正岡子規
三味線の稽古にはげみ夏祓 深見けん二
三味線の静かに夏の夜は明けぬ 夏の夜 正岡子規
三味線の音にはり合はぬ牡丹かな 木導 四 月 月別句集「韻塞」
三味線の音に枯れ急ぐ芒かな 増田龍雨 龍雨句集
三味線の音の澄みぬける無月かな 久保田万太郎 流寓抄以後
三味線もピアノも弾けて芙蓉咲く 梶山千鶴子
三味線も器用に弾きて芙蓉かな 久保田万太郎 草の丈
三味線や寝巻にくるむ五月雨 其角「句兄弟」
三味線や桜月夜の小料理屋 河東碧梧桐
三味線や里ゆたかなる冬籠 冬籠 正岡子規
三味線をはなせば眠しほとゝぎす 道芝 久保田万太郎
三味線をひくも淋しや蚯蚓鳴く 高濱虚子
三味線を引く忌日なるしぐれ哉 増田龍雨 龍雨句集
三味線を弾いて供養の葉ざくらや 久保田万太郎 流寓抄
三味線を弾く二階ある泳ぎかな 増田龍雨 龍雨句集
三味線を掛けたる春の野茶屋哉 春野 正岡子規
三味線を掛けて留守也春の宿 春 正岡子規
三味線抱き聖樹の下を通りけり 仲里八州子
三絃(三味線)の拍子にかかるさくらかな 斯波園女
五月雨や三味線かちるすまひ取 太祇
五月雨や三味線をひく隣哉 五月雨 正岡子規
五月雨三味線を引く隣哉 五月雨 正岡子規
冬籠り三味線折て爐にくべん 冬籠 正岡子規
十六夜や稽古三味線覚束な 徳地美枝
叱られて三味線さらふ浴衣かな 久保田万太郎 草の丈
吹雪く町門付三味線剥げるまで 高澤良一 燕音
外人墓地風の三味線ぐさの撥 中尾寿美子
姉妹の弾く三味線も月見かな 増田龍雨 龍雨句集
巌蔭の廬の三味線や竹の秋 飯田蛇笏 山廬集
春の夜の三味線に倚る男かな 春の夜 正岡子規
春の夜の三味線箱を枕かな 春の夜 正岡子規
春の夜や三味線引いて下り舟 春の夜 正岡子規
春の夜を三味線引いて遊びけり 春の夜 正岡子規
春の雨三味線かゝる柱哉 妻木 松瀬青々
春古りし三味線箱の題詩哉 春 正岡子規
春風や三味線堀のささら波 正岡子規
是ほどの三味線暑し膝の上 来山
晩涼の津軽じょんがら哭き三味線 高澤良一 寒暑
村時雨口三味線の越後獅子 長尾きよし
枯柳三味線の音更けにけり 枯柳 正岡子規
柊を挿し三味線を習ひをり 大西八洲雄
水からくり猫が三味線ひきにけり 龍岡晋
水澄みて三味線ひびく祝島 大前幸子
琴三味線胡弓を弾きて初芝居 大串章
琵琶行の夜や三味線の音霰 松尾芭蕉
生も死も口三味線の傀儡師 辻 のぶ子
花の夜三味線いたく泣きにけり 赤間白石
茸筵三味線に日のあたるなり 岡本松浜 白菊
誰が弾く三味線かかる夜なべ小屋 木村蕪城 一位
長崎や三味線提げて墓參 墓参 正岡子規
阿波踊ぼろ三味線を弾く女 高濱年尾 年尾句集
露ふるも三味線弾けぬ月夜かな 渡邊水巴 富士
露女忌の三味線ふりぬ河東節 萩原麦草 麦嵐
音色凍むほんに三味線授けもの 高澤良一 燕音
鶯や椽に捨てたる小三味線 鶯 正岡子規
●篳篥
古き古き篳篥を観ぬ短き日 田村了咲
山茱萸咲く笙・篳篥の樂あらな 高澤良一 素抱
神を呼ぶ笙篳篥や著莪の花 岸田雨童
篳篥に力ありけり青嵐 満田光生
篳篥に白髪太郎も出て參れ 佐々木六戈 百韻反故 初學
篳篥のポップスポインセチア燃ゆ 吉原文音
篳篥の春曙はこころの譜 河野多希女 こころの鷹
篳篥の舌なほからぶ二月哉 四明句集 中川四明
篳篥や道士がゝどの春のあの 蘇山人俳句集 羅蘇山人
貝寄や海の底より笙篳篥 松根東洋城
関東ローム層より篳篥の音きこゆ 遠藤進夫
*ひちりきの後れがちなる桃の花 大石悦子 百花
*ひちりきや山の芒の括られて 宮坂静生 樹下
ひちりきのごとくひとすぢ秋の風 水内 鬼灯
ひちりきのはじめ月夜の奈良太郎 水原春郎
ひちりきの舌なほからぶ二月かな 中川四明
●バンドネオン
バンドネオン晩涼刻むダリエンソ 高澤良一 素抱
バンドネオンに翼枯木の宙を舞ふ 高澤良一 燕音
時の日の刻つぐバンドネオンかな 笹寿子(梛)
●カスタネット
カスタネツトなほ耳にあり霜夜なる 文挟夫佐恵 黄 瀬
川施餓鬼木魚のカスタネットめく 北村和子
春夜泣くカスタネットの白腕 文挟夫佐恵 雨 月
緑陰にカスタネットを鳴らし売る 岩崎照子
陽炎やカスタネットの石畳 仙田洋子 橋のあなたに
鵲のカスタネットや明易し 山田みづえ
●カリヨン
カリヨンの色なき風に鳴る夕べ 水原 春郎
カリヨンの音色に背伸びチユーリップ 勢島れい子
カリヨンの鳴る塔の空雁渡る 齊藤久義
春塵にカリヨン光り歌ひだす 市村究一郎
●ささら
ささら買ふうしろに待てりすもも祭 中戸川朝人 尋声
もてなしに正月舞ひの擦りささら 高澤良一 随笑
初蝉は雑賀踊りのささらかな 春耕「糸切歯」
山国や霧蹴つて舞ふささら獅子 宮田富昭
御田植に囃子鎮めのささら摺 桂樟蹊子
早稲の香におぼるるばかりささら獅子 落合水尾
雨乞のささら踊のゆうらゆら 甲斐遊糸
雨乞や狂ふばかりにささら獅子 梅澤和記男
●オルゴール
ねぢ巻いて雛の歌もオルゴール 今泉貞鳳
ひり辛き夏大根とオルゴール 小島千架子「糸車」
むしかりの白花白花オルゴール 金子皆子
オルゴールさびたる後白河院の喉 渋谷道
オルゴールのやうに滴りをりにけり 本井英
オルゴールの円盤の穴蝉時雨 高澤良一 宿好
オルゴール一音欠けて暖かし 籌子
オルゴール切れて人形悴みぬ 吉原文音
オルゴール廻る速さに芽吹き山 多賀啓子
オルゴール手廻しの音の暖かし 水原春郎
オルゴール短きうたを永病みに 小田武雄
ラ・パロマ汗し手動のオルゴール 高澤良一 宿好
三伏や音の狂ひしオルゴール 石川みさを
元日のつぶやき寒しオルゴール 久保田万太郎 流寓抄以後
元朝のオルゴール「信濃の国」のうた 木村蕪城 寒泉
北窓を開きねぢ巻くオルゴール 浦川聡子
噴水の虹鉄神のオルゴール 八木三日女 落葉期
婚期 婚期 オルゴールが鳴りやみぬ 松本恭子 檸檬の街で
強霜や一音欠けてオルゴール 長岐靖朗
日脚伸ぶ埃払ひしオルゴール 小林綾子
春愁や緩みて眠きオルゴール 都筑智子
春昼のすぐに鳴りやむオルゴール 木下夕爾(1914-65)
時計塔より春昼のオルゴール 高橋一東
暑くてねぢ巻いただけ鳴るオルゴール 品川鈴子
月の光が部屋いっぱいにオルゴール 平松星童
月明の病棟もるるオルゴール 松尾隆信
木の実降る辻の手廻しオルゴール 堤 京子
木洩れ日はぎこちなく止むオルゴール 吉川真実
枝豆や手毬の中にオルゴール 藤岡筑邨
案山子みな風に泳がせオルゴール 鈴木蚊都夫
梨の木に生死がまわるオルゴール 松本恭子 二つのレモン 以後
涼奏でオルゴール函シンフォニオン 高澤良一 宿好
淡雪やうたふガラスのオルゴール 仙田洋子 雲は王冠
眠らんと除夜の子が捲くオルゴール 石田 波郷
花野ただよふ音は遺品のオルゴール 仙田洋子 雲は王冠
鉄線花歌錆びし亡母のオルゴール 榎本愛子
開くまで秋思の無音オルゴール 鈴木まゆ
魚は氷に上り鳴り出すオルゴール 吉田鴻司
●タンバリン
初泣をさせてしまひしタンバリン 牧 一男
タンバリンもって木の葉は舞はすべし 高澤良一 ぱらりとせ
子のタンバリン降誕祭の星ふやす 成瀬櫻桃子 素心
月の路地唯信ぜよとタンバリン 田川飛旅子
●マンドリン
きさらぎや小夜のくだちのマンドリン 日野草城
新涼や女に習ふマンドリン 日野草城(1901-56)
夏の昼のマンドリン弾きは理髪師よ 長谷川かな女 雨 月
新涼や女に習ふマンドリン 日野草城
●トライアングル
●コンガ
●マラカス
●トロンボーン
秋寂ぶとわれに伸びくるトロンボーン 内田美紗 魚眼石
トロンボーン吹けば蝮の来てゐたり 仙田洋子 雲は王冠
●アコーディオン 手風琴
春の猫アコーディオンのごと背伸び 今井嘉子
車椅子一瞬アコーディオンになる 遠藤寛子
スキーの夜幾膝渡る手風琴 岡田 貞峰
工場バンド汚れて重き手風琴 細谷源二 鐵
教会の辻に落葉の手風琴 加藤耕子
春潮へ身を延ばしきる手風琴 浅井文子
流るる軍歌梅の香を被て手風琴 河野南畦 湖の森
秋風やいくさのはての手風琴 磯貝碧蹄館 握手
立春大吉神田の町に手風琴 加古宗也