仏具


閼伽井 閼伽閼伽桶閼伽棚閼伽水位牌絵馬●戒杖●戒壇過去帳鬼簿経巻経机経典経櫃経本経文魚鼓魚板供華供物警策袈裟香華香炉護符護摩木護摩札 護摩金剛杖座禅石●三坊●地獄絵(図)錫杖数珠●須弥檀●撞木浄衣厨子墨衣墨染めの衣●禅杖●僧衣卒塔婆点鬼簿塔婆燈明燈籠銅鑼如意宝珠涅槃図念珠仏書仏壇仏典仏燈仏飯遍路杖法会法帖奉燈法鼓払子仏の飯法螺(貝)梵鐘曼陀羅 曼荼羅(図)木魚


●閼伽井 閼伽
いてとけし墓前の閼伽の水かがみ 飯田蛇笏 春蘭
したゝかに閼伽たてまつる秋暑かな 西島麦南 人音
御降りを閼伽とし仏寂びたりや 石塚友二 光塵
桶にして花はたかめに閼伽の水 飯田蛇笏 春蘭
梅いくつ閼伽の折敷に玉霰 榎本其角
比良八荒漁村の閼伽は湖に汲む 友永佳津朗
汲みさげし閼伽に碧落秋彼岸 井沢正江
秋澄むや空映しては閼伽流る 島崎なぎさ
舌うちをしてゐる蝉に閼伽を汲む 後藤夜半 底紅
船底の閼伽に三日月光りけり 大須賀乙字
逆さまに捨てあリ閼伽の厚氷 深見けん二
閼伽さげて塔下のゆきき秋彼岸 皆吉爽雨 泉声
閼伽さげて遠まはりする山の墓 飯田蛇笏 春蘭
閼伽すこし枯野にそそぎ俳諧師 古舘曹人 砂の音
閼伽そそぐしづかなる刻を枯木中 瀧春一 菜園
閼伽に汲む井戸水濁る雪解かな 本野虚静
閼伽の水撒きて匂はす春の土 松倉ゆずる
閼伽を換へ掬ふ手杓の水温む 本浦恵理
閼伽呑みて秋の蛙の力かな 椎本才麿
雪中の閼伽あたゝかく汲まれけり 西島麦南
青竹の樋の閼伽汲めばもみぢ浮く 及川貞 夕焼
じやんがらの鉦の谺す閼伽井嶽 平山節子
一掬の閼伽井の水に涼新た 久保田珠生
夕月の影さす春の閼伽井かな 西島麦南 人音
日溜りの柿のまぶしき閼伽井嶽 川澄祐勝
竹伐りや馬穴で供ふ閼伽井水 鈴木厚子
閼伽井屋を榊で囲む御水取 村潮水螢
閼伽井嶽夜風ゆたかな盆踊 皆川盤水
鬼やらひ果てて鳥来る閼伽井嶽 吉田初江
●閼伽桶
大寒の谷倉閼伽桶乾きをり 北見さとる
晝の蚊の閼伽桶の名の誰々ぞ 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
草市や閼伽桶提げし風雅者 野村喜舟 小石川
閼伽桶に残んの菊を入れしまま 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
閼伽桶に水たつぷりとお中日 長尾光風
閼伽桶に水汲みをれば夕笹子 大原禮子
閼伽桶に泥鮑を飼うていたりけり 本多豊明
閼伽桶に溺るゝ蟻を吾れ見たり 森田峠 避暑散歩
閼伽桶に秋暑の花のしづみけり 飯田蛇笏 山廬集
閼伽桶に若水満たしありにけり 西沢信生
閼伽桶に蟻のただよふ地震の国 友永佳津朗
閼伽桶に遠忌の菜種挿しにけり 銀漢 吉岡禅寺洞
閼伽桶に飛び来て風のいぼむしり 河野静雲 閻魔
閼伽桶の乾きてをりぬ竹の秋 穂坂日出子
閼伽桶の柄杓放さず凍りけり 平井さち子 鷹日和
閼伽桶の水こぼし行く墓参り 小路 清
閼伽桶の水鳴る一人の墓参かな 高澤良一 素抱
閼伽桶はどれも漏るなり百日紅 高田蝶衣
閼伽桶や梅二ン月の水の塵 西島麦南 人音
●閼伽棚
閼伽棚やまだいきて居る紅葉鮒 嵐竹 芭蕉庵小文庫
●閼伽水
櫻もみぢ一片文(あや)の閼伽水に 高澤良一 随笑
仮の世のもの閼伽水の孑孑も 大橋敦子
閼伽水を分ちて注ぐ花樒 平亜子
●位牌
あふひ上ぐ戒名わかぬ古位牌 松藤夏山 夏山句集
お位牌に孕雀のふえてけり 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
お位牌のきんきんきらも春の位置 大木あまり 山の夢
お位牌をふたたび抱くや冬たんぽぽ 大木あまり 火球
お遍路や位牌洩瓶も荷の中に 辻 桃子
こんな小さな位牌になつて雁渡し 有働亨
しづかな金魚字なき位牌へ風が行く 川口重美
ひとり摘み位牌のみんなへ蕗・わらび 平井さち子 紅き栞
ふところの親の位牌や秋出水 三宅応人
へんさんを着けても寒し仮位牌 錦江 俳諧撰集玉藻集
亡き母の位牌の裏のわが指紋さみしくほぐれゆく夜ならむ 寺山修司
仏器みがく婆々共や位牌堂の夏 高濱年尾 年尾句集
仙人の父の位牌に早桃かな 岡本癖三酔
仮位牌焚く線香に黒むまで 夏目漱石 明治二十四年
位牌たゞ日焼畳に置けるのみ 森田峠 避暑散歩
位牌に秋ひそかに山羊の息づかひ 友岡子郷 遠方
位牌の影の濃さ蝋燭がもえしきる 尾崎放哉
位牌の数 涼しくたまる艪の音に 友岡子郷 遠方
位牌の祖母よ草枯土橋揺れますよ 香西照雄 対話
位牌ひしめく仏壇氷の奥が透き 寺田京子 日の鷹
位牌より遺影の親し桜草 塩谷はつ枝
位牌先づ二階に移し出水急 小林魚石
位牌光れり恋猫の鳴いてをり 村上賢一
位牌堂座せばかすかに黴匂ふ 荻原敏夫
冬芒位牌歯みつけて日があそぶ 磯貝碧蹄館 握手
初勤行真小男の位牌古りそめし 永井資水
到来の西瓜に位牌かくれけり 白井爽風
大メロン妻の位牌の隠くれけり 木村一朝
天にただ秋風我におん位牌 栗生純夫 科野路
寒からむ位牌の母に灯しやる 成瀬櫻桃子 風色
山蛭がべたべた位牌おおすぎる 舘岡誠二
年の夜や妻の位牌の下に寝て 岩村牙童
故ありてあづかる位牌秋彼岸 亀田月庭
文廟や西日蒸すなる位牌の金 下村ひろし 西陲集
施餓鬼棚やあるは泪の古位牌 橋水-性桂 俳諧撰集玉藻集
春の闇無銘の金の位牌見ゆ 香西照雄 対話
春光や掌でぬぐひやる父の位牌 村越化石
春霜に素木の箸を位牌とす 友岡子郷 翌
朝餉すみし汗やお位牌光りをり 渡邊水巴
柿の色悪し位牌に見下され 林田紀音夫
沙弥運ぶ位牌のかずや煤払 角谷微尾
満月と位牌の間の母の座よ 原田喬
片腕の位牌になりぬ秋の風 秋風 正岡子規
田を売って残りし位牌田植寒 竹田はるを
盆来ると父の位牌のうしろ拭く 中島双風
相舅の位牌まじはり冬紅葉 鳥居美智子
真ン中に父の位牌や魂祭 羽生 敏子
秋草に倒れずありし位牌かな 雑草 長谷川零餘子
肉声も知らぬ位牌を並べ冬 橋本榮治 越在
葉桜の風の吹き入る位牌かな 鷲谷七菜子 天鼓
薫風に白木の位牌焚きにけり 飯島晴子「寒晴」
蚊遣して畳に立たす位牌かな 吉本伊智朗「墨隈」
行李に秘めし位牌取り出す月見かな 渡辺水巴 白日
討死の位牌新らし瓜の馬 魂祭 正岡子規
連翹や位牌拭ふに白き布れ 松村蒼石 雁
釈一茶位牌堂の辺地梨熟れ 千曲山人
野位牌に空の藍垂る矢車草 文挟夫佐恵 遠い橋
雪の梅位牌の裏に位牌あり 吉本伊智朗
霊棚や位牌の前に酒一升 塩 由造
青りんご位牌「山頭火居士」とのみ 吉野義子
魂棚に母のみ知れる位牌あり 菅原独去
●絵馬
いきほひのある絵馬を買ふ初詣 住田歌子
うすれたる絵馬の歌文字人麿忌 福田蓼汀 山火
おぼろより絵馬のいろどり近づきぬ 石寒太 炎環
かさなりて絵馬三月の風の中 佐久間采一
こつそりと絵馬掛けてきし落葉径 今橋真理子
するすると絵馬の蛇消え昭和消え 寺井谷子
たたら踏む絵馬のにはとり暮の秋 岡田久慧
どんどの火願文古りし絵馬を焼く 伊沢 健存
一斉に絵馬の鳴りだす春疾風 長野啓女
一枚の絵馬あきかぜのゆくへかな 松村蒼石 雪
乳絵馬の胡粉なまめく花の昼 つじ加代子
二三枚絵馬見て晴るしぐれかな 横井也有 蘿葉集
冬ぬくし重なり合ひて恋の絵馬 高橋悦男
冬めくや砥の粉ばかりの残る絵馬 朝妻力
冬刻々絵馬の童の剥げ易し 古舘曹人 能登の蛙
冬木みな言葉を溜めて間引絵馬 町田しげき
初伊勢の絵馬を置きたる机かな 細川加賀
初午の土産の絵馬の二三枚 後藤夜半
初午や女人提げくる白狐絵馬 林 昌華
初天神学問の絵馬恋の絵馬 結城一雄
初天神日当る方に絵馬を吊り 竹田昭子
助六で絵馬を杵屋で餅を買ひ 土屋花峰
勇魚取る絵馬古りにけり雲の峰 高橋睦郎「賚」
十薬を踏みてかける絵馬新しき 月舟俳句集 原月舟
午祭り待たで絵馬師や雪佛 石塚友二
厄除けの絵馬かき鳴らす青嵐 鈴木啓造(青玄)
受験子の絵馬に誤字あり脱字あり 入谷美枝子
受験絵馬よりはみ出して恋の絵馬 松本由美子
受験絵馬中に一つの恋の絵馬 早田輝風
受験絵馬声なき声の迫りくる 村田冨美
古絵馬に四万六千日来る 松本たかし
古絵馬を焚き護摩堂の年用意 北村 周
只ならぬめの字絵馬なり田水沸く 辻桃子
合格祈願絵馬とま闇を恋の猫 諸角せつ子
囀や廻船絵馬は帆満風 宮津昭彦
夕帰雁蔵に安南渡海絵馬 伊藤いと子
大絵馬のすき間なき文字寒気しむ 松本ミツ子
大絵馬の朱のうごくなり牡丹雪 岸田稚魚 筍流し
大絵馬の白駒枯野へ跳り出る 宮坂秋湖
大絵馬の鵺の暑がる砂埃 斎藤梅子
大試験一礼ふかく絵馬納む 藤原三余
天神の絵馬にもいろいろありて東風 高澤良一 素抱
天神の絵馬カラカラと春一番 西前千恵
奉納の手型の絵馬や七五三 佐野たけ子
嬰児昼寝絵馬の金時犬張子 福田蓼汀 秋風挽歌
宇良神社長寿招福絵馬涼し 福井貞子
寛政の絵馬の嘶き夏木立 中村みよ子
干支絵馬の紐をつまみて女正月 長谷川久々子
強風に打ち合ふ絵馬や初天神 沖山政子
思春期の絵馬の横書き青木の実 開高斉
恋の絵馬受験の絵馬にかくれけり 大島民郎
掛け替ふる大絵馬打てり那智しぐれ 坂口 麗峰
掛絵馬の風に鳴るなり寒椿 佐藤郁子
探梅の空まだ硬し絵馬の花 岡本ひろ子
新しき絵馬重なりて日脚伸ぶ 生田経子
日限りに男断つ絵馬明け易し 中村路子
早苗振や絵馬塗替も一話題 清原枴童 枴童句集
明神絵馬木の実に打たれつつ古りぬ 村上しゆら
春残し保母になりたい絵馬揺れる 川崎美知子
月しろのわたりし絵馬の月日かな 村上しゅら
杉に雨降り絵馬を濡らして雨終る 林田紀音夫
杉の木に絵馬掛けて来る日永哉 日永 正岡子規
村人の数ほどの絵馬枯野寺 鍵和田[ゆう]子 未来図
来の宮の楠の香の絵馬小正月 原子岱子
東京やからからと鳴る受験絵馬 福井隆子
東風吹くと青春の絵馬鳴りどほす 西本百合子
板絵馬のごふんはげたり夏木立 夏木立 正岡子規
枯蔦や絵馬は古りたる神の杉 寺田寅彦
桜東風文字いとけなき恋の絵馬 有馬籌子
梅雨畳千住に守る手描き絵馬 町田しげき
橋をもて絵馬堂とせり春の雪 西本一都 景色
正月や望みの高き絵馬あふれ 林 民子
歳暮るるうす灯に烏賊・海老・蛸の絵馬 山本一糸
永き日や絵馬をみてゐる旅の人 不白
流し雛かやとまみえし雛の絵馬 後藤夜半 底紅
浮世絵の女の絵馬や生姜市 加藤三七子
涼しさやどの絵馬も帆に風孕み 伊藤いと子
源氏名の絵馬並びをり蝉丸忌 竹内☆代子
燭あまた灯して涼し絵馬の市 栗田やすし
牛若を懸け絵馬堂の雪しづく 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
畑打に絵馬の女の顔白し 藤田湘子
神の留守絵馬堂裏で恋に逢ふ 北野民夫
祭絵馬より炎天の溢れ出づ 後藤比奈夫 花匂ひ
秋蝉やだるまの絵馬のゆるるほど 瀬間かつ子
秋風やかこかこかこと絵馬の鳴る 南方久賛
秋風や板絵馬さわぐ藪の神 梅室
穂芒や絵馬の兎はこちら向く 鈴木鷹夫 大津絵
空蝉も絵馬にすがりて祈りをり 金原千代子
立春の鶏絵馬堂に歩み入る 佐野美智
立春大吉絵馬堂に墨匂ふ 岡本菊絵
紅紐の絵馬うちならぶ春の月 津森延世
紅葉濃し絵馬に鋭き左鎌 筒木真一
絵馬かけに夜行く竹の都かな 松瀬青々
絵馬が鳴り夏めく磯の流人墓 河野南畦 湖の森
絵馬によき手綱曳かせて春の寺 原裕 『出雲』
絵馬に書くほど願易からず神の留守 鈴木栄子
絵馬に書く家賃と間取りや柳の芽 野沢 雄
絵馬の数祈願の数の梅の宮 山田弘子 こぶし坂
絵馬の文字ひとつひとつに初日かな 佐藤美恵子
絵馬の竜火を吐きて年改まる 友田しげを
絵馬の紅かすかなれども秋の寺 神尾久美子 桐の木
絵馬の絵は葵懸けたる牛童 後藤夜半 底紅
絵馬の蜂牡丹の蜂に混りけり 永田耕衣 真風
絵馬の馬ぬれて跳ねゐしやまざくら 石寒太 翔
絵馬の馬宙にとどまる初詣 藤岡筑邨
絵馬はみな白馬を描きふきのたう 藤田湘子 去来の花
絵馬むすぶ指の先までお降りす 日高華子
絵馬を消す風かとあゆむ芋の葉に 宇佐美魚目 秋収冬蔵
絵馬を見る人顔暗き時雨かな 阿部みどり女
絵馬を買ふ列のなかなる御慶かな 清之介
絵馬兎金眼をきかす月の寺 大木あまり 山の夢
絵馬叩く風より雪の降り出して 角光雄
絵馬堂に涼風遊ぶ島の午後 山田弘子 初期作品
絵馬堂に絵馬のひしめく梅月夜 毛塚静枝
絵馬堂に鉄釜据ゑて御命講 新井徳子
絵馬堂に鳴くや子雀親雀 雀の子 正岡子規
絵馬堂の乾ける土間や秋の雨 池内たけし
絵馬堂の内に舞ひ込む落葉かな 寺田寅彦
絵馬堂の内日のぬくき落葉かな 飯田蛇笏 山廬集
絵馬堂の子守爺婆々冬ぬくし 河野静雲 閻魔
絵馬堂の戦国絵図や蝉時雨 今井誠人「亀山」
絵馬堂の絵馬の薄れし木下闇 上田俊二
絵馬堂は風来る所大揚羽 谷内茂(高志)
絵馬堂や時雨あそびの子守唄 吉武月二郎句集
絵馬幾重いくへに青葉時雨かな 樋口桂紅
絵馬思ふ小彼岸ざくら紅濃にて 大橋敦子
絵馬掛けて野のうす氷厚氷 神尾久美子 桐の木
絵馬焚いて灰納めたり草紅葉 吉田冬葉
絵馬百の願いを濡らし春時雨 乾修平
絵馬落ちて裏返しなる杉菜かな 月舟俳句集 原月舟
船絵馬のまぼろしとをり日蓮忌 宮坂静生 山開
船絵馬の旭真紅に雪解かな 野沢節子 八朶集
船絵馬の海青すぎて厄日前 能村研三
花からすうり加茂社には鴨の絵馬 吉田紫乃
草枯や絵馬落ちてある稲荷道 高田蝶衣
菜の花や絵馬売る店の夕日影 菜の花 正岡子規
落し文舞へる静の絵馬かかり 大岳水一路
葛咲くや成就不成就絵馬襖 北見さとる
蝉涼し絵馬の天人身を横に 松本たかし「野守」
行く春や仕事探しの絵馬ひとつ 藤原さち
裏がへる絵馬一つあり東風の宮 阿部みどり女 笹鳴
評判の是真の絵馬や散る桜 野村喜舟
誤字ひとつぶっきらぼうな受験絵馬 松本三千夫
誰が鳴子絵馬さかさまにかゝりたる 泉鏡花
象山神社絵馬るいるいと蝉時雨 片山桃弓
買うてゆけ神明生姜とめ組絵馬 高澤良一 燕音
辻堂に絵馬のふゑたる弥生哉 正岡子規
道ばたに絵馬売る婆々の日永哉 日永 正岡子規
金比羅に大絵馬あげる日永哉 日永 正岡子規
間引絵馬見て裸木に眼を外らす 町田しげき
雁渡し大絵馬に吹きあたりをり 大峯あきら 宇宙塵
雨乞ひの絵馬に降り来る桜蘂 町田しげき
雪の息雪にうもるる絵馬の息 赤沢正子
露の秋かかげし絵馬の合掌図 松村蒼石 寒鶯抄
音たてて絵馬の打ち合ふ花吹雪 林 久子
願かけの絵馬の古びて枇杷の花 下間ノリ
風に鳴る合格御礼絵馬なりし 浅井清香
鬣の絵馬にあふるる秋収 宮坂静生 樹下
●笈
おろしおく笈に雲おく涼かな 納涼 正岡子規
おろしたる笈に雲おく涼み哉 納涼 正岡子規
おろし置笈に地震(ナヘフル)なつ野哉 蕪村 夏之部 ■ 青飯法師にはじめて逢けるに、舊識のごとくかたり合て
きさらぎの笈摺赤し子順礼 如月 正岡子規
はつ雪や聖小僧の笈の色 芭蕉
みちのくの雲凝る笈や水仙花 前田 鶴子
初雪やひじり小僧の笈の色 ばせを 芭蕉庵小文庫
初雪や聖小僧が笈の色 松尾芭蕉
回国の笈にさし行団かな 炭 太祇 太祇句選後篇
夏山や笈おろしたる大女 夏山 正岡子規
夕朧笈摺堂に白ふやす 杉本寛
山伏の笈に雲おく凉み哉 納涼 正岡子規
巡礼や笈の衾を取り出し 尾崎迷堂 孤輪
弁慶が笈をも飾れ紙幟 松尾芭蕉
旅いまも穂麦に笈を負ひしより 古館曹人
枯原に医笈の赤十字血の綿など 片山桃史 北方兵團
笈あけて仏を拝む清水かな 清水 正岡子規
笈の荷の風に重たき冬遍路 堺 昭治
笈の角梢の蔦に知られけり 其角 (宇都の山の絵に)
笈も太刀も五月にかざれ紙幟 芭蕉「奥の細道」
笈を負ひその後の月日福寿草 深川正一郎
笈を負ふうしろ姿や花のくも 永井荷風
笈摺に札所の朱印薄紅葉 金山貴志子
笈摺の重みになるなちる桜 散桜 正岡子規
笈摺もみな手作りと老遍路 久住文子
笈摺を納むる堂や春深し 田口可明
笈磨れの尊き肩や二日灸 飯田蛇笏 山廬集
笈置くや遠く近くの曼珠沙華 尾崎迷堂 孤輪
笈負ひて出しふるさとや鳥雲に 大久保橙青
笈負ふて夏川渉る朝まだき 夏川 正岡子規
結願の笈摺匂ふ梅雨の堂 和泉千花
花ちるやおもたき笈のうしろより 蕪村 春之部 ■ 吉野
菊人形笈負ふ曽良の裾短か 杉山文緒
鶉野や聖の笈も草がくれ 蕪村
●戒杖
●戒壇
それ〜に邪鬼が目をむき雁渡し(戒壇院) 飴山實 『少長集』
余寒なる戒壇院址何の花弁 橋本榮治 逆旅
戒壇に初蝉の声鑑真忌 内藤恵子
戒壇の暗さをめぐり保己一忌 大野津弥
戒壇の末黒の芒萌えにけり 岩崎照子
戒壇院前に屯す袋角 森孝子(玉藻)
戒壇院裏の崖なる穴施行 茨木和生 往馬
戒壇院霰ひと撒きして雪に 赤松[けい]子 白毫
春惜しむ遠つみかどの戒壇に 伊丹三樹彦
杉花粉とぶ下野の戒壇院 大坪貞子
端居して戒壇院に女あり 高野素十
菩提樹の咲く香に禊ぎ戒壇へ 飯田晴子
銀杏を干して戒壇院の昼 清武夫美子
隈もなき月の戒壇あるばかり 下村梅子
靴音一つ戒壇院の秋の昼 鷲谷七菜子
●過去帳
ぼろぼろの過去帳今日の揚羽蝶 中山純子
人刺指の過去帳がある曼珠沙華 仁平勝 花盗人
修二会冷え過去帳読上げ聖武より 高澤良一 寒暑
写し倦む過去帳や胡瓜見て来よか 河野静雲 閻魔
夜々芽吹く過去帳夫のあと真白 久保 羯鼓
折山の傷む過去帳魂まつり 山崎禎子
涼しさや過去帳閉ぢて夜の雨 渡辺水巴 白日
花の夜や過去帳の紐十文字 井上雪
過去帳に代々のをみなや茎の石 飴山實 『花浴び』
過去帳に卯月の仏殖えにけり 野村喜舟 小石川
過去帳に古りし父の名青葉木菟 研 斎史
過去帳に姑の名記す雪夜かな 影島智子
過去帳に父の筆跡寒灯 伊藤迪代
過去帳に言霊の棲む盆の家 梶浦さだ
過去帳の本家分家や初諷経 中村和子
過去帳の表紙金襴初燈明 中村青径
過去帳を見るのみに訪ふ余花の寺 能村登四郎
過去帳を讀み申さんか魂迎 魂迎え 正岡子規
馘首投獄吾が過去帳や花木槿 橋本夢道 無類の妻
●鉦
あぶり餅嵯峨大念仏の鉦聞こゆ 伊藤あかね
あら涼し鉦の音死ぬ一心院 上島鬼貫
えぶり鉦囃せば海のふぶきだす 宮岡計次
えらばれて盆の施餓鬼の鉦たたく 中川秀司
おくれくるどんどこ舟は鉦迅し 河本和「かつらぎ選集」
かさね打つ鉦皷春愁打ち消しぬ 河野多希女 こころの鷹
からくりの鉦うつ僧や閻魔堂 川端茅舎「川端茅舎句集」
くらがりを鉦うち進む牛祭 桂 樟蹊子
さんしゆゆに思ひ当たるは鉦のいろ 高澤良一 素抱
じやんがらの鉦の谺す閼伽井嶽 平山節子
じやんがらや衆盆道に鉦鳴らすなり 皆川盤水
せめ鉦に耳に手をあて十夜婆 山田耕子
たんぽぽの絮のしきりに壬生の鉦 大石悦子 群萌
ちやんちやん祭畦曲がるたび鉦打つて つじ加代子
ちん〜と黄泉のそこより十夜鉦 河野静雲 閻魔
なかなかに役者出てこぬ壬生の鉦 経谷一二三
ののさまの鉦に怖えぬ夕花菜 後藤綾子
はるの日の禮讃に或るは鉦うち鈴を振り 野村朱鱗洞
ひぐらしや仏に会ひに婆が鉦 岸田稚魚 『雪涅槃』
ひろしま忌艀は小さき鉦を打つ 木田千女
ふるさとの土の底から鉦たたき 種田山頭火(1882-1940)
やすらゐの鉦よりも疾く花散るよ 茂里正治
やや眠き顔にかんかん壬生の鉦 細川加賀 生身魂
ゆるやかに間なくひまなく壬生の鉦 鈴鹿野風呂
チャンココの盆入り告ぐる鉦太鼓 鶴丸白路
一つ家に鉦打ち鳴らす枯野哉 枯野 正岡子規
一列のぢゝばゝたゝく十夜鉦 河野静雲 閻魔
一茶忌や寝しなの鉦を一つ打つ 栗生純夫 科野路
世に疎きさまにも打てる壬生の鉦 後藤比奈夫 祇園守
久に書く夫の俗名迎へ鉦 早渕道子
井戸深き家や聞こえて壬生の鉦 金久美智子
亡者踊り鼓、鉦(すりがね)打鳴らし 高澤良一 素抱
仏壇の鉦の色もて石蕗が咲く 高澤良一 宿好
代田まで踊り念仏の鉦ひびく 田中英子
佗しさの最たり夜念佛の鉦 大橋敦子
元興寺の鉦鳴つてゐる蝸牛 河合照子
先頭は早稲の香に入る葬の鉦 鈴木鷹夫
児が叩く気侭な鉦や地蔵盆 小山徑石
六斎の鉦の一人が夜逃げとか 森田幸夫
六斎の鉦打ち男齢澄む 西川保子
冬田へも打ちて葬りの集ひ鉦 宮田正和
冷え切つて三月の鉦一つ打つ 殿村莵絲子 雨 月
凩や迷ひ子探す鉦の音 凩 正岡子規
凩や道哲の鉦打ちしきる 凩 正岡子規
加賀ぎぬに描く小紋や鉦たたき 吉村君枝
十夜法要囃す鉦方念仏(ねぶつ)方 高澤良一 随笑
十夜法要堂を破らんばかりの鉦 高澤良一 随笑
十夜鉦揃へばかなし澄み通り 滝沢鶯衣
十夜鉦明日の納豆もたたきけり 言水
十夜鉦昼も聞えて真如堂 平川名潮
十夜鉦障子灯るを待ちかねて 草間時彦
参籠の経と鉦奈良朧かな ふけとしこ 鎌の刃
参道の夜更けに響く十夜鉦 幸田宏子
地蔵会の鉦の間遠き夜機織る 太田穂酔
地蔵会の鉦鳴る方へ歩きけり 比叡 野村泊月
地蔵会や鉦の合間に灯のふえて 高木瓔子
地蔵会や高くひびくは母の鉦 中村若沙
地蔵盆鉦を叩けば日暮れきて 関戸靖子
堂抜いて心耳を洗ふ十夜鉦 高澤良一 随笑
壬生の鉦きこえて壬生は染屋町 小原菁々子
壬生の鉦こまかき雨を誘ひけり 肥田埜恵子
壬生の鉦ひねもす鳴りて蝶の昼 光谷一寒子
壬生の鉦クリーニング屋励むなり 波多野爽波 『一筆』
壬生の鉦一歩退くやうに打つ 小林一鳥
壬生の鉦尚耳にあり京を去る 西山泊雲 泊雲
壬生の鉦打てるはいつも向うむき 後藤比奈夫
壬生の鉦聞えてをるや顔に鼻 岡井省二
壬生の鉦雨呼ぶ鉦となりにけり 向笠和子
壬生の鉦雨雲つひに雨こぼす 山田ひろむ
壬生念仏の笛休む間も鉦は打つ 安住敦
壬生鉦や一ト走りして狐雨 椎名書子
夏遠き日中の鉦はちんどん雁 依光陽子
夕星へ打つ左義長の触れの鉦 渡辺 昭
夜念仏山の深さに鉦一打 近藤一鴻
大寒の鉦かんかんと野は平ら 成田千空 地霊
大川にひびく鉦の音梅若忌 長久 彪
天道念仏経の向き変え鉦を打つ 山城やえ
女らし萩の小窓の鉦の聲 会津八一
娘の死まだわが火とならず鉦たたき 熊谷愛子
子が打てば子の鉦の音地蔵盆 中村若沙
子を連れてむかしの道や壬生の鉦 柳 俳維摩
寒念仏鉦の音残し闇に消ゆ 桑島 蟆
山の百合宵庚申の鉦ひびけり 太田鴻村 穂国
山家の法会の鉦の音が青空を刺して冬 人間を彫る 大橋裸木
山茶花に鉦鳴らす庵の尼か僧か 山茶花 正岡子規
山車神楽鉦は痴人(トンチキ)愚鈍(ヘンテコ)と 高澤良一 寒暑
嵯峨念仏鉦と太鼓を一人して 石本かなえ
嵯峨念仏鬼の早鉦山に消ゆ 永方裕子
幕引に代へて壬生鉦連打せり 山崎佳世子
年の夜の吾子に逢はむと鉦を打つ 角川源義 『冬の虹』
彼の世にも摶ちて願化の鉦鼓 高澤良一 素抱
彼岸鉦洩らして波浮の小商 奈良文夫
愛宕火や闇をつんざく鉦の音 高野清風
抱た子や母が来る迚鉦たゝく 一茶 ■文政八年乙酉(六十三歳)
擦鉦の音が消されて来る侫武多 田村了咲
文字読めねど御詠歌暗じ十夜鉦 福田蓼汀
日あたれる方に座を占めえぶり鉦 木内彰志
日ざかりとなりし鉦の音虫送 森 重昭
早苗饗をふれゆく鉦に雨止まず 尾亀清四郎「窓」
早鉦となりて鵺出る壬生狂言 右城暮石
早鉦に石採の山車遅々として 里川水章
早鉦に穂すすき揺らぐ念仏会 堀 文子
早鉦に鬼踊り出づ嵯峨念仏 西村和子 かりそめならず
早鉦の執念き天満祭かな 西村和子「かりそめならず」
春惜しむ鉦とこそ聞け壬生念仏 安住 敦
春潮に対ひ鉦打つ仏舞 新保ふじ子
暮れかぬる一町ほどや壬生の鉦 山田みづえ 木語
月の虫鉦を叩いて穴に居り 渡辺水巴 白日
朝霜や寒竹林の鉦の音 北原白秋
木母寺の鉦の真似してなく水鶏 一茶 ■文化九年壬甲(五十歳)
木食の鉦地よりきく刈田寒 吉田紫乃
杉檜とつぷり暮れて十夜鉦 檜紀代
松上げの灯籠木にとどき鉦太鼓 林田千代
枯れ殘る角寒げ也鉦の聲 寒し 正岡子規
棚経の鉦ちんちんと急ぎ居り 河野靜雲
構はねばしらけて通る鉦たたき 史邦 芭蕉庵小文庫
母を訪いし春夜の鉦は母へ打つ 赤城さかえ句集
沖波や盆の日暮の鉦満ちぬ 岸田稚魚 『雪涅槃』
涅槃会や伏鉦一つあれば足る 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
涅槃吹き満中陰の鉦を打つ 岸本久栄
涼風や余所の鉦鼓(しょうご)になむあみだ 園女 俳諧撰集玉藻集
濁るだけにごりし湖へ盆の鉦 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
火や鉦や遠里小野の虫送 虫送 正岡子規
火山寺の鉦守る秋の沙弥一人 吉武月二郎句集
灯の点りいよよ昂る十夜鉦 三澤治子
炉開のほとけの鉦を一つかな 小原啄葉
炎天にわん〜と鉦鳴らし行く 久米正雄 返り花
炮焙割る音が掻き消す壬生の鉦 馬場修子
煤払囃す鉦鼓や善光寺 西本一都 景色
煤掃ひつつ時をりの鉦たたく 五十嵐播水 埠頭
父や母かぎりなく来る祭鉦 宇多喜代子
片袖に鉦隠し舞ふ空也の忌 安本静子
現世の人が鉦打つ閻魔かな 岩井愁子
病人と鉦木(しゅもく)に寐たる夜さむかな 内藤丈草
登り切りし伴が鉦打つ青嵐 久米正雄 返り花
百万遍鉦を鳴せば鯉跳ぶや 成田千空 地霊
皆踊る笛に鉦っこハギ衣裳 高澤良一 素抱
盆の川越えてとどけり鉦太鼓 根本幸代
盆の月亡者の歸る鉦の音 盆の月 正岡子規
盆の鉦うおんうおんと露を呼ぶ 百合山羽公 寒雁
盆念仏一人違へて鉦たたく 松林朝蒼
盆鉦の音色につつむ鉦の魂 百合山羽公 寒雁
盆鉦の音色をくぐるきりぎりす 百合山羽公 寒雁
盆鉦や武田徳川黍の星 百合山羽公 寒雁
盤鉦二点老師の昼寝醒めたりや 長谷川かな女 花 季
目つむれば鉦と鼓のみや壬生念仏 橋本多佳子
相鉦やくはらりくはらりと寒念仏 斯波園女
看経や鉦はやめたる秋の暮 正岡子規
祭鉦誘ふひよつとこのしやくり舞 平井さち子 鷹日和
秋の山活て居迚うつ鉦か 一茶 ■文化二年乙丑(四十三歳)
秋風や伊勢の平野の葬り鉦 村田治男
稽古鉦黄金光りや祭来る 後藤夜半 底紅
空也忌の鉦も太鼓も寂寂と 和田游眠
空也忌の鉦打ち廻る腰のばね 有馬朗人 耳順
空也念仏身を反らせては鉦を打つ 杉山文緒
立春の鉦や太鼓や峯の寺 斎藤夏風
笑ひゐて淋しくなりぬ壬生の鉦 岡田詩音
精霊船出合ひ頭に鉦連打 下村ひろし 西陲集
紫陽花や尼寺の鉦厭ふ子等 雉子郎句集 石島雉子郎
結願の鉦ふりかぶり十夜婆 吉田あや子
綱渡る鵺に早打ち壬生の鉦 松本圭二
老いてなほ唄声若し十夜鉦 臼井輝雄
胼妻にお講の鉦や誘ひ打つ 皆川白陀
腰かがめ鉦打つ空也和讃かな 山下智子
舟渡御のかたみに聞ゆ囃し鉦 高濱年尾 年尾句集
花すすき寺あればこそ鉦が鳴る 来山
花木槿まひるすみくる鉦の音 金尾梅の門 古志の歌
花野より花野へ抜けし葬り鉦 山崎羅春
著流しの壬生念仏の鉦の役 中山碧城
葛城や夜の念仏の鉦冴ゆる 有馬朗人 知命
蔦の輪の下に鉦うつひがんかな 大江丸
蕣や心にひゞく尼の鉦 朝顔 正岡子規
薄念仏一歩一歩に鉦を打ち 吉川信子
虫追の火の粉に遅れ鉦の音 小林篤子
虫送うしろ歩きに鉦打つて 小笠原和男「遊神」
虫送り竹竿に鉦ぶるさげて 高澤良一 宿好
虫送り酔ひどれ鉦の混ざりけり 浅井青二
蚊柱や鉦の中から鉦の音 黒田杏子 水の扉
蚊火更けてお講の鉦を打ち果てぬ 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
西日遍照鉦を手塩に鳴らす姥 成田千空 地霊
観音講はじめの鉦を雪に打ち 関戸靖子
言はねども父来母来と盆の鉦 栗生純夫 科野路
讃仏の鉦のひびきや春の窓 落合幸代
谷汲踊草萌に置く鉦太鼓 矢田邦子
谷汲踊鉦が早めし雪解かな 冨山俊雄
谷汲踊鉦と太鼓で舞ひ納む 塩川雄三
豆撒くや鉦に当たれば鉦の音 秋田裕弘
賓頭盧を廻す攻め鉦追ひ太鼓 上平はるを
跡の月思へば氷るたたき鉦(かね) 智月 俳諧撰集玉藻集
踊り鉦鳴れば手足の動き出す 水野征男
踊念仏鉦の打ち手の替りけり 原 天明
踏切を越え壬生の鉦聞こえくる 橋本美代子
身じろぎもせで乱れ打つ十夜鉦 成川雅夫
逆縁や鉦鼓に和する春の鳥 鍵和田[ゆう]子 未来図
連打して十夜の鉦を打ち納む 三島晩蝉
遊び鉦打つて憩へる阿波踊 美馬風史
遠寄せに星更けにけり盆の鉦 百合山羽公 寒雁
野辺送る鉦や氷雨の畦とほる 小林泰子
鉦たたき光に翳に薪能 加藤知世子 花 季
鉦たたき弥勒生まるる支度せよ 恩田侑布子
鉦たゝく盲の父や梅若忌 高野素十
鉦の音に唐獅子舞へり蘭盆会 中山蘭水
鉦の音を闇が吸ひゆく千灯会 柊 愁生
鉦も打たで行くや枯野の小順禮 獺祭書屋俳句帖抄上巻 正岡子規
鉦チョキチョキ都踊は今なかば 高浜虚子
鉦唄のそろひかねたる十夜かな 四明句集 中川四明
鉦太妓滅多打ちして鬼やらふ 武田稜子
鉦太鼓なくて仏と踊るなり 佐野美智
鉦太鼓もて相模野に凧を上ぐ 中戸川朝人
鉦太鼓炎となり夜空焦すまで 勝村茂美
鉦太鼓聞こえ万燈まだ見えず 後藤図子
鉦太鼓谺し三日の山部落 福田蓼汀 秋風挽歌
鉦打って半里の道や虫送り 岡本 美恵子
鉦打つて六波羅蜜寺煤払ひ 石鍋みさ代
鉦打つて秋夜仏前賑はすも 猿橋統流子
鉦打の足踏代ふる日永かな 柚味噌(木母遺稿) 安田木母、秋田握月編
鉦打も講の冥伽の十夜哉 名和三幹竹
鉦提げて叩かぬ鬼の朧かな 碧童句集 小澤碧童
鉦提げて村人集ふ雁渡し 篠崎圭介
鉦方のこぼれんばかり鉾すすむ 細川加賀 生身魂
鉦番はうしろむきなり壬生念仏 草間時彦 櫻山
鉦衆はみなうら若し鉾囃子 中田余瓶
鉦講の衆と十夜のコツプ酒 茂里正治
鉦連打薄念仏始まれり 三澤いつ子
鉦音のうつらうつらと大念仏 西村和子 かりそめならず
鉦鳴つて水引草のあるあたり 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
鉦鼓今急なる堂裡鬼やらい 富田うしほ
鉾囃子鉦が感情伝へをり 山下美典
鐘供養鉦打つて買ふ案内書 忠地虚骨
長崎くんちくんちくんちと鉦囃す 高澤良一 燕音
門川へ湯を落としたる十夜鉦 関戸靖子
閻王になじみて子等のたたく鉦 小原菁々子
閻王に時無し鉦の因果物 伊藤柏翠
降る雨の地雨となりぬ鉦たたき 千代田葛彦
雀らに壬生狂言は鉦打ちぬ 大石悦子 百花
雁風呂や蜑がつたへて古き鉦 庄司瓦全
雪冥みする杉谷の鉦の澄み 鷲谷七菜子 花寂び
霜の夜や横丁曲る迷子鉦 小林一茶
青簾垂らし祇園の鉦習ふ 大前貴之
響き合ふ和讃の鉦や彼岸寺 長島 操
願ぎ事はみな打消しぬ壬生の鉦 山田みづえ
風鈴を鉦と聞く日のありにけり 高澤良一 素抱
鬼やらふはじめの壬生の鉦打たる 関戸靖子
魂祭先導をする母の鉦 大石英子
鰒の座に娼家の通夜の鉦きこゆ 西島麦南 人音
鳳仙花葬の鉦に置く鏡 宮武寒々 朱卓
鳴きいでゝ遠くもあらず鉦たゝき 軽部烏帽子 [しどみ]の花
鳴く虫も鉦のやうなり西馬音内 高澤良一 素抱
●鬼簿
点鬼簿に降るにまかせて櫻蘂 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
点鬼簿に降る花かへで花かへで 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
点鬼簿の名がみな朱し螢の夜 恩田侑布子
点鬼簿の夕顔朝顔昼顔よ 高柳重信
秋風や故旧大方点鬼簿に 河野静雲
青五月万太郎また点鬼簿裡 石塚友二
●経巻
玄奘の経巻ほろと落し文 河井安子(けごん)
落し文経巻めけば手につつむ 皆吉爽雨
●経机
うぐひすや君来ぬ宿の経机 太祇
冬ざくら小僧が運ぶ経机 梶山千鶴子
文机は経机かな西行忌 迷堂
白梅の暮色になじむ経机 山本かずえ
相対す呉山の雪や経机 比叡 野村泊月
笹鳴のちらちら赤き経机 鈴木鷹夫 風の祭
経机とは知らざりし蝸牛 小内春邑子
経机に御札切る間の御数珠かな 島本凡狂子
経机のよな膳据ゑぬ夏座敷 冬葉第一句集 吉田冬葉
経机秋の白波かぎりなし 友岡子郷 未草
経机足反り支ふ春草忌 横光利一
絵島忌の江戸へ向きゐる経机 近藤喜代子
西の方よりかなかなや経机 中山純子 沙 羅以後
●経典
経典で背を叩かれ厄落す 土川照恵
月へ経典英典ひろげる 父の背 松本恭子 檸檬の街で
●経櫃
経櫃に虫払ひせし日を誌す 下村梅子
経櫃に蝿虎のとりつきぬ 大石悦子「耶々」
経櫃の参之内参お風入れ 高澤良一 さざなみやつこ
●経本
経本の糸のほつれや生身魂 江見甦虹
経本の耳のささくれ黄砂くる 重田忠雄
経本一巻りんだう絶ゆることなき部屋(九月二十二日かな女師没) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
●経文
一石に経文一字懸巣鳴く 長谷川エミ
唐櫃は紙魚の経文蔵しけり 下村梅子
経文に多き無の字よ春の雪 中尾杏子
経文に紙魚となるまで帰依したり 古橋成光
経文のごとく殖えゆく白蟻や 守谷茂泰
経文の語尾のかげりの青葡萄 鳥居美智子
経文の辞書遺しあり初野分 殿村莵絲子 雨 月
経文を呑みこみし貌はんざきは 大島雄作
経文を唱へ露天の林檎売り 佐川広治
見に入むや石に経文一字づつ 千石 比呂志
雪降るや経文不明ありがたし 相馬遷子 山河
●魚鼓
魚鼓を打つ槌の柄に触れ漂ひぬ 攝津幸彦 未刊句集
●魚板
ひとくさき魚板のへこみ冬隣 河村四響
乱れ打つ魚板に安居果てにけり 岩橋黄坡
佗助の奥なる人へ魚板打つ 加賀美子麓
僧院の魚板ひびける冬牡丹 篠田典子
冬山を叩くが如く魚板打つ 杉浦冷石
叩きたる魚板のぬくき音かへし 藤巻伽岳
大魚板雲を呑まんと半夏生 茂 恵一郎
山峡の短日くれて擲つ魚板 原田青児
山晴に魚板の音や懸大根 皆川盤水
山茶花に魚板もやさし女寺 石川桂郎
思ふほど鳴らぬ魚板や花曇 鈴木 梢
打ちつけてめりこむ魚板紅葉寺 高澤良一 随笑
打ち減りし魚板の腹や冬日さす 大谷句佛 我は我
春窮の魚板は玉を咥へけり 山本三才
春蝉のなかの木だまの魚板打つ 米沢吾亦紅 童顔
椿寺雲ふかぶかと魚板鳴る 飯田蛇笏 山廬集
煤掃きし魚板は玉を大ふくみ 皆吉爽雨
片緒切れて傾く魚板竹の秋 比叡 野村泊月
牛蛙魚板ふたたび打てば止む 川澄祐勝
盆東風の魚板鳴らすや岬寺 島田教夫
禅寺や年賀の魚板鳴るぞ佳き 殿村菟絲子 『菟絲』
空也忌の魚板の月ぞまどかなる 飯田蛇笏 山廬集
空也忌の魚板月白まどかなる 飯田蛇笏
空腹に魚板の響く夏書かな 佐藤紅緑
竹の秋魚板を打てば遠いらへ 工藤妙子
花くれない魚板を叩く風吹く日 和田悟朗
茅舎忌や魚板を叩く雨しきり 磯崎美枝
薬降る魚板の口に玉一つ 長谷川久々子「花香」
行く秋の魚板鰭まで打ち減らす 那須青魚
触れてみる魚板の窪み冴え返る 今井里峰
訪ねきし常照皇寺魚板凍つ 山根邦子
赤寺は魚板も赤し冬紅葉 福田蓼汀
金色の黴をまとへる魚板かな 中本一九三
雨ほそく魚板の魚は瞳をつむる 富澤赤黄男
音にぶき魚板に訪ひぬ余花の寺 河野頼人
風雪の破れ魚板や船溜り 吉田美代子
魚板うてば四山相応ず今朝の秋 西島麥南 金剛纂
魚板なる美男かつらに夕陽ため 北浦幸子
魚板もて来意告げよと雪安居 吾妻青原
魚板より芭蕉へつづく羽蟻かな 飯田蛇笏 山廬集
魚板二打涼風よぎる翁堂 三好たけし
魚板打ち冬の山気の濃くなりぬ 能村研三 鷹の木
魚板打ち巴を覚ます花あやめ 田中水桜
魚板打つていよいよ淋し沙羅の花 駒志津子(響焔)
魚板打つて子が逃げ行くよ涅槃西風 小林清之介
魚板打つ音にも零る萩の白 宮村たかを
魚板打つ音に玉解く芭蕉かな 和田 珠
魚板鳴つて暮れて行きけり蟻地獄 清原枴童 枴童句集
鶯の鳴く中叩く魚板かな 野村喜舟 小石川
黄菖蒲や魚板のかわく翁堂 高井去私
●供華
あしたより供華の水沸く原爆忌 殿村莵絲子 雨 月
いまも聴き澄む耳塚の供華の片耳 高柳重信
かく晴れたれば竜胆を妻へ供華 森澄雄
つゆけさや素手に供華買ふ銭握り 殿村莵絲子 雨 月
てつせんの初花供華に加へけり 神崎忠「大千」
でで虫や天宥の墓供華溢る 皆川盤水
ぬぎ捨つる供華の枯菊にほひけり 河野静雲 閻魔
まつくろに供華のちぢめる春焚火 山西雅子
みな日焼供華を一輪づつ流す 福田蓼汀 秋風挽歌
めくるめく天へ供華とす凌霄花 文挟夫佐恵 雨 月
わが供華のただ千草なるみそなはせ 皆吉爽雨 泉声
コスモスの花を供華とし吉祥天 大橋敦子 手 鞠
七草の供華の芒はゆれ易し 深見けん二
中陰の千草の供華もけふ限り 滝青佳
人影のあと供華清し枇杷の花 中村汀女
供華さびし真葛を剪つて挿しそふる 五十嵐播水 埠頭
供華さびし花なき真葛挿せばなほ 五十嵐播水 埠頭
供華とする花種ばかり買うて来し 日比大石
供華となすべき蝦夷菊の花盛り 福田甲子雄
供華となる花剪り尽す原爆忌 朝倉和江
供華につく蛾のうつくしき静夜かな 石原舟月 山鵲
供華に挿す矢車草の一つかみ 綾部仁喜
供華の春花子の華燭が父の胸に 内藤吐天 鳴海抄
供華の梅あたらし君に母ありぬ 及川貞 夕焼
供華の梅ひらいて居りぬ盧遮那仏 河野静雲 閻魔
供華の百合ちゝはゝ並び居たまへり 及川貞 榧の實
供華の花雪に突き挿し初諷経 安藤章雄
供華はみな白し一八抽きん出て 山口波津女 良人
供華ふゆるままに八千草仏かな 赤松[けい]子 白毫
供華へ北風姉の考え聞き漏らす 相原左義長
供華もちて誘ひ合せて子規忌かな 星野立子
供華をいつどこへ捨てしや五月闇 槐太
供華剪るや蝶の先たつ梅雨晴間 遠藤 はつ
供華匂ふ敦盛塚の淑気かな 小路智壽子
供華売るや髪の根までも日焼婆 細川加賀 生身魂
供華枯れて八月の墓茫とあり 高澤良一 素抱
供華枯れて立ち被爆者の手がまじる 林田紀音夫
供華立ての花屑寒しうしろ堂 大谷句佛 我は我
供華紅き放哉の墓秋時雨 金田武治
供華貧し雨の桔梗を剪る事に 中村波奈
供華近くころりと寝まる天の川 殿村菟絲子 『旅雁』
修忌終ふ供華の吾亦紅いただき来し 松村蒼石 雁
修正会や供華の柳の灯影して 大谷句佛
冬の日のみるみる低き供華挿せる 齋藤玄 『玄』
初凪や供華あたらしき潮仏 畠山譲二
初花の椿を供華に良弁忌 松沢白楊子
劣情のごとくに供華の枯れて立つ 林田紀音夫
化野の仏の供華の花大根 石黒志歩
千屈菜の供華をゆたかに父の墓 横原律子
去来忌の小さき墓に供華あふれ 江戸おさむ
君がひとり祭りし月の供華のこる 林翔 和紙
啓蟄の地が吸ふ供華の余り水 皆川白陀
夏潮の断崖にわが供華は赤 大峯あきら
夏草の蝶供華の朱へとびうつる 原田種茅 径
夕風に紫の供華の持たれけり 太田鴻村 穂国
夜のまに供華のさくらの花ちれる 川島彷徨子 榛の木
夜の舗道ダリヤは供華と滴れり 小池文子 巴里蕭条
夜半の戸を閉ざし縁なる月の供華 高木晴子 花 季
夢拙忌の供華しろ〜と籠の中 飯田蛇笏 霊芝
大仏の供華鎌倉の濃紫陽花 百合山羽公
天界の供華大輪の揚花火 森田千恵子
女人堂供華としつかね男郎花 太田由紀
妃の供華をはじめ薔薇の通夜となる 皆吉爽雨 泉声
妻に供華ぽとんと咲かす水中花 細見しゆこう
子に供華の千萬かなし紅芙蓉 及川貞 夕焼
子へ供華のりんだう浸す山の瀬に 及川 貞
寒中や水なくば供華砂利に埋め 依光陽子
小でまりの供華の仏に娘もをりて 加藤武夫
山国の天へ供華なす大花火 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
島四国都忘れを供華とせり 芳野 円
嵯峨御流なる月の供華大覚寺 竹腰朋子
庭に咲く草こそ月の供華となす 高木晴子 花 季
彼岸会の供華を無縁の仏にも 粕谷容子
心して供華培へば梅雨の喋 及川貞 夕焼
掃苔に夫婦らしきが供華を手に 高濱年尾 年尾句集
提げ歩く供華に虻来る菊日和 大橋敦子 手 鞠
撩乱と秋の仏に供華足りぬ 石原舟月 山鵲
放生の鮎もろともに供華流す 右城暮石
敗戦日戦ひし子に供華せめて 及川貞
春の霜炎のごとき供華を擁く 保谷小竹
春干潟漂ひ寄りし供華見ずや 小林康治 玄霜
春禽や供華の色消す鏡石 古舘曹人 砂の音
春窮の供華売る家も身寄かな 下村槐太 天涯
晩夏湖畔咲く花なべて供華とせん 福田蓼汀 秋風挽歌
晩菊を以て供華とす桜坡子忌 大橋敦子 手 鞠
月の供華活けつつ向ふ庭は雨 皆吉爽雨 泉声
月の供華集むる野辺も殉教地 朝倉和江
月まつる花を供華とす烏頭子忌 水原秋桜子
月斗忌やせめて供華など大どかに 菅 裸馬
朝々に供華とりかふる文月かな 吉武月二郎句集
朴の花高きは黄泉の供華なるか 角川源義 『冬の虹』
梅史忌や百合の要の供華として 辻本斐文
武蔵野の黍を供華とす蘆花の墓 水原秋桜子
残菊を供華としまつり義央忌 兼松蘇南
母の日よ妻の日よ供華に埋づもれて 殿村菟絲子 『旅雁』
母へ供華父へ香煙初参り 丸山けさ乃
永久に若き夏山姿供華に埋れ 福田蓼汀 秋風挽歌
源義忌の供華の賑ひさみしけれ 角川照子
灯かへす供華の白菊椿邸 原裕 葦牙
炎天の砂利に供華挿す広島忌 鈴木厚子
燈籠をともして供華のこぼれかな 太田鴻村 穂国
牡丹の供華ある墓に出会ひけり 蓬田紀枝子
生くる銭供華の銭足り日焦けぬる 殿村莵絲子 花寂び 以後
男郎花手折りて父の供華とせん 本西 満穂子
白き歩み子が持つ供華と捕虫網 磯貝碧蹄館
白は供華赤は書斎に秋薔藪 稲畑汀子 汀子第二句集
白鳳仏供華は白菊三日かな 浜津久子
百合を供華歿後の声誉はゆるやかに 平井さち子 鷹日和
百日紅白きはどこか供華めきて 石塚友二
着ぶくれて大谷廟に供華を売る 中野ひろし
秋草も華やぐ供華となることを 稲畑汀子 春光
秋風やあまたの墓にまれの供華 下村ひろし
立子にも同じく供華の寒黄菊 高澤良一 宿好
芙蓉咲き今朝の供華とす終戦日 及川貞 夕焼
花芽植う供華絶やさじのこゝろより 及川貞 榧の實
花野から今刈りて来し供華ならむ 飯島晴子
蝉時雨供華の花束砂にさし 阿部みどり女
誰か早父の墓前に盆の供華 阿部みどり女 『微風』
買ふ供華に桔梗まじれり職ある日 森川暁水 黴
足形片々雪に紅染む紙の供華 成田千空 地霊
送別会せしもこの室供華の菊 阿部みどり女 笹鳴
送水会の一燈に在り供華椿 佐野美智
遠目には供華のくれなゐ落葉焚く 伊藤京子
野仏に供華分けもして墓参り 山田弘子 初期作品
野牡丹に如く供華はなし桜坡子忌 大橋敦子 匂 玉
野菊添へられ新しき今日の供華 高濱年尾 年尾句集
釣鐘草江口の君の供華として 山口正秋
開けはなち諸仏の供華は青芒 中村若沙
閻王のきのふの供華のいきいきと 亀井糸游
雪かかる供華の一束抱き急ぐ 阿部みどり女
雪山に英霊の供華あたらしき 石橋辰之助 山暦
雪嶺の供華とし銀河懸かりけり 藤田湘子 てんてん
霊前に供華沈丁の夜のかをり 飯田蛇笏 雪峡
霙るるに供華売るそこは船着場 木村蕪城 寒泉
霙打つ天心の墓供華もなし 鈴木トシ子
鶏頭のなくてはならぬ今日の供華 稲畑汀子
麦埃かぶりし供華を切りにけり 松藤夏山 夏山句集
ひらかざり供花の蕾のおほかたは 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
事故あとの供花をぬらして夕時雨 中村きみ子
供花さげて母が遅るる鳥曇 古賀まり子 緑の野
供花にすぐ蝶の飛び来て墓洗ふ 横田和子
供花の水こまめに替へて夏隣 矢口由起枝
供花をいつどこへ捨てしや五月闇 下村槐太
供花をきる盛夏のこころ澄みにけり 飯田蛇笏 春蘭
供花を売る石工の妻や雁の秋 橋本鶏二
供花挿して竹筒濡らす鳥曇 西山睦
供花替へて年改まる仏かな 大木さつき
供花絶えず絶やさず寒ンの巴塚 高澤良一 燕音
冬の鵙供花新しき無縁仏 小林恭子
北風や汁に輪禍の供花一基 森本啓太
大仏の供花のあせびを仰ぎけり 麻田椎花
明るうて供花は大根の花でよし 玉城一香
春くるる供花は黄なりき小督塚 飯田蛇笏 春蘭
春爛漫供花で伝ふ現世や 白山敏子
清明や天安門に供花も無く 林南邨
芯たつる松を供花とし盧遮那仏 江副かなめ
花魁草供花のひとつに加へけり 村本畔秀
芽木あかりこぼさぬように供花の水 井上雪
蒲の穂の供花などなべて堂素朴 下村ひろし 西陲集
雪に挿す造花の供花も初地蔵 進藤芽風
首塚の供花に短き土筆添へ 原口洋子
●供物
お供物に群れたる秋の蠅鈍し 秋の蠅 正岡子規
お供物に隠れて盆の地蔵尊 村手圭子
お供物に電気の球も地蔵盆 茨木和生 往馬
お十夜の供物の甘藷にくる鼠 小原菁々子
七夕のみな冷え冷えと供物かな 飯田蛇笏 山廬集
人堰いて祭の供物始まれり 比叡 野村泊月
供物なる筍太し飛瀧神 下村ひろし 西陲集
内陣の供物はなやぐ聖霊会 岡本まち子
初庚申祠に供物なお絶えず 宇咲冬男
墓の辺にカラスほがらと呼び合いて空へ供物を滴らせゆく まえだたみこ
夜店からも上ぐる供物や十夜寺 高田蝶衣
岩に置く山への供物山始 福山峰花
更けてゆく供物に月のなかりけり 岡本昼虹
月に酔ひ月の供物を盗みけり 福田蓼汀 山火
木に石に供物のありぬ父子草 小沢比呂子
無縁樣の供物すつれば鴉鳴く 魂祭 正岡子規
爆ぜさうな西瓜が供物不動堂 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
田植祭のあまりの供物教卓に 木村蕪城 一位
盆供物腐りて紙にへばりつく 辻田克巳
盆舟の供物こぼして運ばるる 平岩 静
神の留守猿が供物を盗りにくる 山崎秀夫
神苑の供物をあさる冬の鹿 磯野充伯
祭壇や供物のなかの走り薯 河野静雲 閻魔
秩父夜祭供物の繭の大袋 飯島晴子
紙を敷いて墓石へ供物夏の露 菅裸馬
道餐の供物にかゝる埃哉 飯島百合女
鍬初や雪の上なる供物 小野甲子園
雨の月雨戸の中の供物かな 温亭句集 篠原温亭
黍吊るし神楽の供物揃ひけり 枡野雅憲
●警策
着ぶくれて受く警策の鈍き音 尼崎たか
臘八の警策しかと応へたり 田中田吉
臘八の警策ぴしと鳴りにけり 周藤花汀
臘八の警策を受け合掌す 石馬賢州
臘八の警策艶をふかめけり 伊与幽峰
警策に散る木犀の大樹かな 長谷川かな女 雨 月
警策に発止と打たる春薄暮 大口公恵
警策に魂よみがへり夏に籠る 森永杉洞
警策の尼に重たし臘八会 穂北燦々
警策の音にほどける白木蓮 品川鈴子
警策や雪は白州にまぎれゆき 渋谷道
警策を承けざりし悔い臘八会 阿部棠女
警策音飛んで瑞鹿山芽吹き 高澤良一 ももすずめ
達磨忌の日の警策を受けてをり 開田華羽
雪の音警策の音永平寺 阿波野青畝
●袈裟
お彼岸や輪袈裟かけたる渡舟守 山口豊日子
一鐵一袈裟行李安居かな 喜谷六花
六斎の輪舞ばらばら袈裟景色 田中信克
大仏に袈裟掛にある冬日かな 高浜虚子
大幹に袈裟掛けの傷神の留守 藤岡筑邨
寒椿輪袈裟掛ければ一信徒 影島智子
寒行の袈裟一枚に雪狂ふ 中條富子
寒行の袈裟大股にひるがへり 宗像仏手柑
山僧の袈裟繕うて年暮れぬ 尾崎紅葉
山粧ふ日毎峰より袈裟がけに 井口天心
廻廊や袈裟ひるがへし雲衲(そふ)の秋 河野南畦 湖の森
御表具に袈裟の折目や涅槃像 菅原師竹
御身拭揃ひの袈裟の御僧たち 高木春川
御開帳輪袈裟かけたる下足番 佐野克男
数珠輪袈裟はた頭陀袋豆の花 羽原青吟
新発意のかけし赤袈裟法然忌 磯辺芥朗
新発意の黒の輪袈裟や野路の秋 河野静雲 閻魔
春一番霧島山を袈裟切りに 遠井俊二
時頼が露の袈裟ほす焚火哉 露 正岡子規
柿の袈裟ゆすり直すや花の中 立花北枝
梅さむし金襴の袈裟畳まれて 松村蒼石 雪
極暑用袈裟鳳凰図召されけり 赤松[ケイ]子
沙羅咲くや古袈裟買ひに男くる 小倉覚禅
浦人に袈裟掛け松の小春かな 飯田蛇笏 山廬集
澁色の袈裟きた僧の十夜哉 十夜 正岡子規
灌仏や美しと見る僧の袈裟 尾崎放哉
無月なり袈裟透く僧の白き帯 吉野義子
白足袋や大僧正の袈裟の下 野村喜舟 小石川
百舌鳥袈裟がけ岬を返すうしろより 稲垣きくの 黄 瀬
盆の僧袈裟のさざ波被て座る 清水せい子
目に青葉鴨居にかけて袈裟を干す 北野民夫
相承の袈裟重かりし三ヶ日 川澄祐勝
祈雨僧の袈裟を掠めて雲早く 小林寂無
空海の飛錫に裂けし袈裟曝す 駒木逸歩(年輪)
緋の袈裟のずしりと後の更衣 川澄祐勝
肩替ふるお袈裟文庫や霧の中 河野静雲 閻魔
花の香袈裟も衣も腸も 松岡青蘿
蓮如忌の村人に古る輪袈裟かな 三浦葵水
藪蚊打つ袈裟の下なる鎧かな 雉子郎句集 石島雉子郎
虫干や今は用なき袈裟法衣 入江也空
蝉しぐれ袈裟懸けにして三塁打 細田佳道
行秋の一些事袈裟のほころびたり 迷堂
袈裟いろの葛打ち敷ける土牢前 高澤良一 燕音
袈裟かけし夫の声澄む初あらし 井上雪
袈裟がけに来て高鳴ける小鳥かな 飴山實
袈裟がけに神等去出の雷海を裂く 石原八束 『黒凍みの道』
袈裟がけに花魁草に蛇の衣 富安風生
袈裟がけに青山肌に一雪渓 福田蓼汀(山火)
袈裟がけの傷を帆に負ひ水芭蕉 東條素香
袈裟とれば團栗一つこぼれけり 団栗 正岡子規
袈裟まとふ間を待たされし杜若 車谷弘
袈裟叩き肩を叩きて雪払ふ 伊藤敬子
袈裟売の御山泊りや今朝の秋 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
袈裟懸けにされ諸手挙ぐ小六月 攝津幸彦 未刊句集
袈裟掛の松に秋風聴きにけり 清水隆男
袈裟掛の松の切株ひこばゆる 森田 峠
袈裟着せて赤児高抱き引上会 赤松惠子
袈裟脱げば僧も百姓菜虫取る 末森彩雲
袈裟衣とほせる汗や施餓鬼僧 河野静雲 閻魔
見残せし袈裟の恋塚十月野 草村素子
赤い羽根袈裟につけたるお僧かな 獅子谷如是
越冬のでで虫の死は袈裟の下 吉田紫乃
輪袈裟掛け遍路心の深まりし 遠藤いまえ
金剛力士に袈裟がけの罅曼珠沙華 鍵和田[ゆう]子 浮標
金屏に袈裟ちかぢかと燭もゆる 飯田蛇笏 春蘭
金襴の袈裟吹かれ行く花野かな 梅室
雷蔵の墓を袈裟切り鵙のこゑ 高澤良一 随笑
飛騨の袈裟山長夜の深井に坐すみことかな 高柳重信
●香華
あらがへる死臭と香華雪の果 赤松[けい]子 白毫
すとーんと暮れた 香華の水をかえる 毛利ミツコ
仕ふるや香華に秋の立つも知らず 長谷川かな女 雨 月
香華の外の新茶や御仏ヘ 尾崎迷堂 孤輪
●香炉
かの香炉購はむ片蔭かへしけり 西村和子 かりそめならず
レコードかけ春の香炉にバッハ招く 林翔 和紙
中宮寺香炉に木の実焚き添へて 大島民郎
元朝の火神香炉に爆音住み 牧野信子
初虚空蔵祈りが渦となる香炉 大堀春野
十六夜の一客に焚く蔭香炉 佐野美智
呼次や千鳥の香炉浦煙 井原西鶴
夜の定時銀香炉拭く青葉木菟 宮武寒々 朱卓
大仏の膝に香炉に寒雀 河野静雲 閻魔
大燈蛾香炉に貌をおさめたり 下村槐太 光背
大香炉に青海波紋寒潮 中戸川朝人 星辰
大香炉の煙にまみれ四万六千日 佐野寿々
大香炉火を噴きにけり札納 山口青邨
寒明けや鬼の背負ひし大香炉 佐川広治
巣立鳥左千夫生家の吊り香炉 寺崎美江女
惜春や堆朱の香炉艶ふかむ 伊藤敬子
手探りに香炉を擁す夜の雪 古白遺稿 藤野古白
数へ日の香炉に塵もなかりけり 澤村昭代
木犀の昼は醒めたる香炉かな 服部嵐雪
根本中堂香炉の煙も凍らんか 高澤良一 燕音
橘や南圓堂の香爐盤 橘 正岡子規
火事めきて大香炉の初不動 長谷川督江
炎立つ四万六千日の大香炉 水原秋櫻子
煙たえて香炉の冷える霜夜かな 飯田蛇笏 春蘭
猫脚の秋の香炉を焚きにけり 大石悦子 百花
秋の雨香爐の烟つひに絶えぬ 秋雨 正岡子規
秋の香や揺り香炉掌に老司祭 内藤吐天 鳴海抄
秋遍路去りし香炉のひとり燃ゆ 三浦恒礼子
秋風や鬼の支へし大香炉 福田蓼汀 秋風挽歌
立冬の弥陀の香炉の灰均す 大石悦子 百花
置香炉しずかに秋の遠ざかる 長谷川かな女 花 季
花の風香炉に香を足しをれば 伊藤敬子
茶の花に烟絶えたる香爐哉 茶の花 正岡子規
茶香炉の焔つぎたす梅雨の寒 猪股洋子
虫吐きし夢と香炉に明易き 宮武寒々 朱卓
袖を出る香炉も雪の千鳥かな 黒柳召波 春泥句集
鉄鉢を香爐としたり迎盆 綾部仁喜 樸簡
霞*たく富士を香炉や西行忌 素丸
青岸渡寺紅葉ちり込む大香炉 近藤文子
風入や香炉の亀に琥珀の目 石黒幸子
香炉の火落とす室生の夕霧に 早崎明
香爐峯の敵はいかにぞ秋晴れぬ 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
●護符
そぞろ寒護符いちめんの太柱 熊谷佳久子
ふところにかさこそとある牛王護符 大石悦子
み熊野の護符いただきて筏組む 鷹野清子
優曇華や東司の護符の端黄ばみ 三村純也
初寅の護符をかざして貴船へも 中田余瓶
厄日なり護符の真神の尾がふさふさ 飯名陽子
受けし護符帯間にはさみ梅の宮 林昌華
嘶ける馬を護符とし秋山家 宮坂静生 春の鹿
四百四病護符花冷えの石仏 近藤一鴻
大き護符閻魔参りの子の腰に 本間 稔
大寒の護符の白さに牛を飼ふ 木村蕪城 寒泉
子を連れて戻れと護符の供養河豚 浜井六迦
岩魚釣雷除け護符の背にゆれて 白川 節子
弥彦社の護符ふところに杜氏来る 香川はじめ
愛宕護符すぐきの室の入口に 藤本安騎生
方よけの護符苗床の杭に添ひ 高濱年尾 年尾句集
日本の護符もち秋の大陸へ 渋谷道
旧正や戸袋にある鍾馗護符 豊田ふじを
春潮に向けて護符置く海女の小屋 長浜聰子
朝顔や護符に火を打つ鬼子母神 大谷夏木
朝顔市切火の匂ふ護符賜ふ 沢ふみ江
杉の香の高尾の護符や星月夜 水原秋櫻子
梟や社務所賊除け護符祀る 石原栄子
歳徳の護符の舞ひ落つ五日かな 澁谷天眠
海女小屋に年越す護符の釘を打つ 平川とおる
狼の護符を戸口に寒造 勝呂 靖
短日の護符をいただく金閣寺 森田かずや
石手寺の足形護符や蚊遣香 國島十雨
石鎚山の護符を四隅に植田かな 大塚禎子
祈雨の護符またナイターを流しけり 大島民郎
神棚に護符いく重ね夏蚕飼ふ 皆吉爽雨
神無月自在鍵にも護符貼られ 川崎慶子
秋の蚊が火除けの護符に辿りつく 末光美登里
空也忌の護符のひさごの緒の朱く 遠藤みや子
立春大吉護符あたらしく金魚小屋 原 好郎
立春大吉護符新しき料理店 湊 一春
籾種を下して畦に護符をさす 馬越冬芝
腰に護符荒東風の鳶畦に落つ 友岡子郷 遠方
葭蔵に火伏の護符のべたべたと 大石悦子 聞香
蛇除の護符を柱に黴の宿 伊藤柏翠
蟲護符の竹のみ残りおとし水 高田蝶衣
請ひ得てし竃神護符や上元会 田中田士英
護符いくつ貼る階段の途中の空 林田紀音夫
護符のごと目貼を冬の果つるまで 村越化石 山國抄
護符の鈴妻の荷に結ふ山開き 小西 藤満
護符受けて湖艇に戻る冬帽子 宮武寒々 朱卓
護符貼つて牛舎繕ふ厄日前 脇坂啓子
身に沁みてナイルの青の石像護符 高澤良一 燕音
迦具土の護符の厚さよ鍛冶まつり 和田孝子
郭公や久渡寺の護符の練粉餅 広田丘映
重ね貼る鬼除け護符や夏山家 能村登四郎
陶枕に貼られぽつくり寺の護符 六田あき子
隅々や稲虫除の護符 寺田寅彦
離農の護符白く炎えだす凍柏 寺田京子 日の鷹
霜来り護符の白さに野良の富士 百合山羽公 寒雁
露の那智護符にくろぐろ烏文字 宮津昭彦
鬼の護符刷る廬山寺の桔梗かな 飯田はるみ
●護摩木
かなかなや護摩木に記す子の平癒 南光 翠峰
ねむごろに護摩木けづれる老の秋 小原菁々子
初太鼓作務僧護摩木焚きつづく 柴田寛石
火の鳥の護摩木から出て厄落 宮坂静生
節分や護摩木に雨のにじみあと 加藤耕子
護摩木割る事より寺の年用意 斎藤トミ
護摩木書く紅葉明りの大山寺 太田房子
逆の峰山毛欅の護摩木の燃えのこり 高木良多
●護摩札 護摩
初護摩札いのち惜しめと送り呉る 西山 誠
護摩札をいただけり冬の沼を見む 瀧春一 菜園
この寺の解夏の一事や護摩を焚く 原 鬼灯
ひよどりの次々巣立つ護摩太鼓 岡本昭子
むささびに鳴る初護摩の大太鼓 大島民郎
わが焚いて浴びて初護摩大煙 後藤薫風
フラツシユを浴び初護摩の大僧正 中村菊雄
一会なり落花にまかす護摩の跡 伊藤京子
三日月も火照る大護摩水送り 笹川かなめ
丹田にひびく初護摩太鼓かな 豊田喜久子
修験者護摩火渡りの石の涼 石川桂郎 四温
僧正は護摩壇上や蠅の閑 野村喜舟 小石川
優曇華や護摩の香の染む籠堂 高野清風
元朝の護摩焚いてをり滝の前 角川春樹 夢殿
八朔の山へ打ち込む護摩太鼓 升本栄子
八荒の護摩火くすぶる船着場 原田しずえ
初の護摩ゆらりと柱なせりけり 東條素香
初不動護摩火にかざす祈願札 有村節香
初観音護摩火鎮めて渉りけり 中川草楽
初護摩に羽黒の法螺のとどろけり 玉澤幹郎
初護摩のほのほゆらめく杉の幹 羽田岳水
初護摩のほむらに気合い読経僧 澁沢美代子
初護摩の出を待つ僧の焚火かな 岡村羊羽
初護摩の十二神将けぶらしぬ 松本菊子
初護摩の法螺に一天ひきしまり 山口峰玉
初護摩の法螺一山を貫けり 中島ふゆみ
初護摩の法鼓五臓をゆさぶれり 斎藤智恵雄
初護摩の火の粉滅法とどまらず 殿村莵絲子 雨 月
初護摩の火を僧の手のわしづかみ 井沢正江 以後
初護摩の炎に厄を投じけり 歌川雅秋子
初護摩の焔生きたり金色仏 高島筍雄
初護摩の煙の中に滝仰ぐ 中村桑摘
初護摩の煙信者を包みけり 小川立冬
初護摩の爆ず火明りに躬を正す 井桁汀風子
初護摩の猛る炎に合掌す 定形早春
初護摩の菩提寺太鼓とどろけり 寺崎美江女
初護摩の障子明りに合掌す 沢村春子
初護摩やつづれ錦で身を包み 川澄祐勝
初護摩やマイクを通る火のひびき 成田郁子
初護摩や五臓六腑で聞く太鼓 今村 岱
初護摩や我に流るる原始の血 松岡博水
初護摩や衣の塵を吹き飛ばし 古舘曹人
初護摩や親子相打つ大太鼓 山城やえ
初護摩を焚く上堂の太鼓鳴る 立木大泉
初護摩札いのち惜しめと送り呉る 西山 誠
剣もて初護摩の火をなだめたり 塚越志津枝
千灯会護摩火は月を焦がすかに 杉浦光代
古絵馬を焚き護摩堂の年用意 北村 周
合掌に早鳴る護摩の初太鼓 永田しげ
大年を護摩たくひとの黒子から 中田剛 竟日
大護摩に播磨野けぶる聖霊会 谷迪子
大護摩のはじまるしじま初不動 井口蛇渓
大護摩の椨の根焦がす水送り 二宮英子
大護摩の猛る鵜の瀬や水送り 前田時余
大護摩を焚いて冬至を逝かすなり 佐藤一樹
天蓋に結夏の護摩の火の粉かな 稲荷島人
座主の焚く初護摩雪の峰の寺 中尾吸江
御山主の御護摩の修法さやけしや 高木晴子
数珠で嬰撫でて初護摩終りけり 川澄祐勝
春泥に踏み出て護摩火渡りきる 吉田未灰
月山に初護摩太鼓轟けり 菅原庄山子
朝護摩を焚きて始まる煤払 玉手文武
朝護摩供早や群参の初不動 松田空如
杉の花護摩火猛れり砂かまど 脇坂啓子
棚経の僧も戻りて昼の護摩 川澄祐勝
樒くべ護摩の火はぜる涼しさよ 岡田日郎
火取虫あやめてよりの護摩の経 翌桧
牛祭月歪むほど護摩煙 上島清子
瓔珞に護摩火かゞやき初不動 和田花青
療養の馬に護摩焚く初薬師 遠藤アサ子
白梅や火の粉無尽に御滝護摩 小川原嘘帥
白萩のこぼれて悪僧護摩を焚く 会津八一
秋晴や山僧の用日々の護摩 尾崎迷堂 孤輪
節分に焚かる護摩火に吾が運勢 森定南楽
臼杵の玩具土産や初日護摩 高木蒼梧
花の会式の残り護摩の焔旅に暮る 野沢節子
蘇民受く初護摩火の粉天井まで 大野林火
護摩の火と向き合ふ正座眉涼し 森青山
護摩の火に天蓋ゆるゝ暑さかな 野村喜舟 小石川
護摩の火に財布を灸る初不動 登嶋弘信
護摩の火の天をこがして無月なり 中川志げ子
護摩の火の花の会式の場(には)に昏る 大野林火
護摩の火を揺るがす太鼓初不動 長屋秋蝉洞
護摩の灰髪にかざして初詣 市川 良
護摩の炎のさゆらぎもなき大暑かな 川澄祐勝(春耕)
護摩の炎の天へ昇れり呼子鳥 水戸啓子
護摩堂にさしこむ秋の日あし哉 秋の日 正岡子規
護摩堂のつらら彼の世の光もつ 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
護摩壇に供養の扇飾りけり 高須賀得二
護摩壇に金鈴響く春の雨 夏目漱石 明治二十九年
護摩壇の炭の匂ひや虎が雨 升本行洋
護摩壇の神鏡煙る施餓鬼寺 氏家頼一
護摩壇山夏終る夕日さす 友岡子郷 遠方
護摩太鼓*えり挿す湖へひびきけり 石田野武男
護摩札をいただけり冬の沼を見む 瀧春一 菜園
護摩檀の煙細りて鳴く蚊かな 梅沢墨水
護摩焚いてくらがり峠残花なり 山本千之
護摩焚いて孔雀呪法の明けやすし 筑紫磐井 野干
護摩焚きの太鼓の響き紅葉晴れ 木島節子
護摩焚くや北風鳴り渡る那智部落 小川原嘘帥
護摩祈祷待つ日溜や初薬師 富田潮児
護摩終へし僧もいただく大根焚 神谷翠泉
送水会の護摩の火の粉の雪と逢ふ 中戸川朝人 残心
送水会護摩の火に雪光り降る 大橋敦子
送水会護摩の火の粉の瀬にみだれ 神谷遊亀栄
開帳や護摩の火昼も夜も盛ん 本間白城
降る雪に大護摩焚けり初薬師 熊田鹿石
青桧葉の護摩匂ひ立つ送水会 小沢チエ子
須弥壇も焦げんばかりや追儺護摩 上村占魚 球磨
鶏が音は遥かにみだれ日の出護摩 高下容太
●金剛杖
おくれじの金剛杖も寒詣 塩崎 緑
初蛙金剛杖の折りたたみ 宮 沢子
唐辛子干して金剛杖も売る 山本恵美子
炎天の金剛杖の束おそろし 鈴木鷹夫 風の祭
蝌蚪の陣金剛杖ではげませり 沢木欣一 遍歴
遍路病む枕頭金剛杖一本 岡部六弥太
金剛杖立てかけてある大夏炉 水谷敦子(春野)
●座禅石
まくなぎや庭の要の座禅石 加古宗也
坐禅石とも思はれて樹下涼し 森田峠 避暑散歩
坐禅石にねむりふかめて雨蛙 杉本寛
座禅石まづ薄氷を離れそむ 良田美世子
朴葉散る崖にせり出し座禅石 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
花の水堰きとめてゐる坐禅石 梶山千鶴子
蜥蜴出てしばらく坐禅石の上 神野舟城
●三坊
●地獄絵(図)
こはごはと地獄絵のぞく宵閻魔 鈴木胡月
こほろぎや地獄絵花鳥なかりけり 斉藤夏風
冷まじや地獄絵仕置の白女體 高澤良一 素抱
地獄絵ざつと見て ま 何とかなりそう 沙羅冬笛
地獄絵に空白はなし安居寺 松田都青
地獄絵に諭さるる子や地蔵盆 芦澤元子
地獄絵に野萩の風のひとしきり 南光 翠峰
地獄絵に青き山あり蕨餅 野池玉代
地獄絵に風の牡丹を加ふべし 大木あまり 火のいろに
地獄絵のあと涅槃図にひざまづく 石野 冬青
地獄絵のうらの金箔雁のこゑ 三森鉄治
地獄絵の女は白し秋の風 武藤紀子
地獄絵の底で暴れる冬の蝿 井上純郎
地獄絵の朱が目に残り迎鐘 田中驕星
地獄絵の朱色や爪で剥がしたき 池田澄子 たましいの話
地獄絵の水蒼かりし桜かな 有光令子
地獄絵の火にあたたまる十二月 鈴木鷹夫 春の門
地獄絵の破れ繕ふ土用干 高田たみ子
地獄絵の襖開けたる花見かな 福島せいぎ
地獄絵の赤を春着の裾に見し 大山安太郎
地獄絵の赤深谷の茸にも 矢島渚男 船のやうに
地獄絵の飯の炎となるお風入れ 高澤良一 さざなみやつこ
地獄絵の飯は火を噴き盆の寺 長谷川櫂 蓬莱
地獄絵の鬼が溢るる春浅し 榎本愛子
地獄絵の鬼に止れり春の蝿 栗田やすし
地獄絵を媼の拝む彼岸寺 渡辺威人
地獄絵を見て日盛りを戻るなり 佐藤信子
地獄絵を高く掛けゐし大昼寝 石寒太 翔
地獄絵を黒羽に吊る冬田かな 古舘曹人 樹下石上
寒詣一灯地獄絵を照らす 石倉啓補
廻廊に地獄絵並ぶ花祭 佐藤石花
炎天を来て地獄絵に見入るなり 佐藤美恵子
白山茶花地獄絵のごと蜂群るゝ 高木雨路
秋風に赤き地獄絵かかりけり 八木林之介 青霞集
鐘楼のなかの地獄絵うそ寒し 福田甲子雄
雪とける寺地獄絵に朝日射す 中山純子 沙羅
鶏頭花地獄絵の闇たつぷりと 石田阿畏子
●錫杖
あやめより錫杖にしたしき雨の足 安東次男 昨
国東や錫杖めきし山の芋 和田順子
地藏古りて錫杖折れぬ秋の風 秋風 正岡子規
寒の雨錫杖の列峰わたる 寺尾武雄
山谺して錫杖の響き冴ゆ 山崎慈昭
峰入や百の行者の手錫杖 宮下ゆう
棺に添へ樫の錫杖寒雷す 古舘曹人 能登の蛙
秋の暮錫杖無くば水長からん 齋藤愼爾
老僧の錫杖みがく袷哉 袷 正岡子規
錫杖のさはれば熱し一休み 暑 正岡子規
錫杖の地を叩き過ぐ鴨足草 藺草慶子「遠き木」
錫杖の如かまつかの枯れくねり 上野泰 佐介
錫杖の環のぼりくる山ざくら 磯貝碧蹄館
錫杖の笠より高く初大師 菰田三叉
錫杖の音澄みはじむ帰燕かな 小倉覚禅
錫杖は遠き世のおと寒夕焼 三浦秋葉
錫杖を地に突き鳴らすをどりかな 茨木和生 倭
青山中錫杖滝の音なせり 松山足羽
●数珠
いたこ数珠裾にからまる兜虫 加藤憲曠
うすものの袂にけぶる女数珠 山崎冨美子
おこたらぬ月日の数珠や一廻り 高井几董
おでん屋に数珠はづしたる僧と居て 菅原独去
おのおのの数珠に月照り流灯会 皆吉爽雨
かりがねや紐の朱の透く母の数珠 長田等
さる帝蜜柑の数珠を持されけり 相生垣瓜人
しづかさを数珠もおもはず網代守 内藤丈草
すなどりの手に数珠かけて御忌詣 野島無量子
はづし置く水晶の数珠みどりさす 上野さち子
ゴールデンウイークの数珠使ひけり 大木あまり 雲の塔
ポケツトに黒き数珠あり花曇 岸風三楼 往来
上人の数珠のふるゝや松の花 瀧澤伊代次
並べ売る数珠も春夜の街の栄 西村公鳳
人の手に水晶の数珠かいつぶり 磯貝碧蹄館
人参に数珠つながりの朝日かな 五島高資
仲見世のひるの露けき数珠屋かな 龍岡晋
円寂に数珠屋の辻のしぐれけり つじ加代子
冬の流水女人に数珠をすらしめよ 磯貝碧蹄館 握手
冬も終りの外套 数珠とマッチが出て 伊丹三樹彦
冬山に数珠うる尼が栖かな 飯田蛇笏 春蘭
凍道に御朝事の数珠頂けり 前島恵子
南無南無と数珠振つて蛇追へる婆 堤高嶺(裸子)
報恩講覗くつもりの数珠袂 河野静雲
大文字待ちゐる数珠の草にふれ 下村梅子
嫁ぐ娘の数珠を選びし彼岸かな 山田弘子 こぶし坂以後
尼の数珠を犬もくはへし彼岸かな 飯田蛇笏 山廬集
山吹の花の蕾や数珠貰ふ 高濱虚子
山越えの数珠あらたにて蓮如の忌 中西舗土
弔問や数珠と日傘を一緒に持つ 助田素水
強霜へはちはちとせる数珠の音 中田剛 竟日
御戦に敗けし話を数珠つなぎ 高澤良一 寒暑
御来迎人々数珠を揉みにけり 野村泊月
御白砂に数珠の音なしかんこ鳥 浜田酒堂
御開帳ねぢれ柱に数珠売女 西本一都 景色
患者らの春日づたひは数珠のやう 斎藤玄
拾ひあげて桜に数珠や御忌の場 炭 太祇 太祇句選後篇
摂待や茶碗につかる数珠の総 蝶夢
散米に数珠かけ鳩や御忌参 言水
数珠かけた直衣姿や八瀬祭 嘯山「葎亭句集」
数珠さげて訪ふふるさとの山霞 原 和子
数珠で嬰撫でて初護摩終りけり 川澄祐勝
数珠なせる尾灯の先の冬夕焼 ふけとしこ 鎌の刃
数珠のすく袂も秋のかたびらや 成美
数珠の手に花種を蒔く尼ぜかな 飯田蛇笏
数珠の手を合はす地蔵に春の風 清水タミ子
数珠の手を振りて宰領お煤掃 西堀若桜子
数珠の沢異端の秋の夜は澄みつ 林原耒井 蜩
数珠もちて遠き春田の家へゆく 大峯あきら 鳥道
数珠を売る身延の町に銀河濃し 田川飛旅子
数珠下げていよ〜美女の寒さかな 久保田万太郎 流寓抄以後
数珠売女ねぢれ柱にしぐれ待 西本一都 景色
数珠売女銀杏降るとて跼み替ふ 西本一都 景色
数珠屋四郎兵衛いちにち雪解雫たつ つじ加代子
数珠巻く手首火の意が清し日焼けてぞ 磯貝碧蹄館 握手
数珠廻す子らも減りたる地蔵盆 竹田幸子
数珠振つて蛇を追ひやり墓詣り 大橋櫻坡子
数珠揉んで七月はわが生れ月 稲垣きくの
数珠揉んで甘茶の杓を取りにけり 北垣宵一
数珠枯れぬ光をさめし母の鬢 小林康治
数珠繰つて念力を出す壬生狂言 茨木和生 木の國
数珠買ひて伊予路の秋を惜しみけり 竹中しげる
数珠買ひに僧とつれだつ暮春かな 西島麦南 人音
数珠輪袈裟はた頭陀袋豆の花 羽原青吟
文政の数珠箱置かれ十夜寺 安保嘉子
日蓮の血潮つく数珠お虫干し 原田しずえ
日雷百万遍の数珠太し 山中 巌
昼顔に跼みがたりの数珠を垂れ 木村蕪城 寒泉
朝ぐもり三年坂に数珠を買ひ 沢田まさみ
松の芯兜供養の数珠繰れり 岡田小夜
残雪や居間に数珠下げ山暮し 田村愛子
水晶の数珠雪山にかげなき日 柴田白葉女 花寂び 以後
法然の数珠もかかるや松の藤 蕪村 五車反古
法然忌われも仏徒の数珠をもつ 岡野洞之
涅槃会や皺手合する数珠の音 松尾芭蕉
涸滝に遍路数珠揉み経唱ふ 石原栄子
灌仏や皺手合する数珠の音 松尾芭蕉
灼熱観音わが鉛筆を数珠に替ゆ 磯貝碧蹄館
炉火箸へのばしたる手に数珠たれて 入江月凉子
烏賊舟の数珠火かき消す秋驟雨 文挟夫佐恵 黄 瀬
白檀の数珠に触れたる蛍かな 竹内悦子
白露に数珠屋起きゐる詣でかな 森川暁水 黴
白露のごとき燈のあり数珠を売る 近藤一鴻
百万遍数珠やうねりの二月光 田畑はつ枝
百万遍数珠を廻せば花咲くや 成田千空 地霊
百足虫落ち数珠置く音と聞きまがふ 赤松子
眠る山起さぬやうに数珠をもむ 丸山佳子
短日や数珠のきれたるむだづかひ 久保田万太郎 流寓抄以後
硬直の手に数珠握らせる余寒 西谷剛周
秋灯やゆるみ繕ふ瑪瑙数珠 染矢久仁
空也忌や死土産なる玉の数珠 素風郎
紅葉山中にあたまが数珠繋ぎ 中田剛 珠樹以後
経机に御札切る間の御数珠かな 島本凡狂子
繰る数珠の老いには重き地蔵盆 縄本真里
花に露十字架に数珠煌と掛かり 中村草田男
花暮れて葬のもどりの数珠を袂 森川暁水 淀
菩提子を数珠作るほど拾ひけり 尾関弘文
葭切に啼かれ佇ち居り黒い数珠 柴田白葉女 『冬泉』
虫干の中にまぶしく数珠置かれ 岸本尚毅 舜
螢火の数珠のまばゆき行方かな 黒田杏子 花下草上
身に入むや数珠の汚れも母のもの 橋本照子
身辺に数珠ある日々や花いまだ 猿橋統流子
逆縁の数珠の重さや夏蛙 山下 守
達磨忌や浮世の塵を琥珀数珠 才 麿
遠山火数珠手放さず見てゐたり 飯田龍太
鍬胼胝に数珠の手合はす鑑真忌 遠藤勝亮
雛飾る手の数珠しばしはづしおき 瀬戸内寂聴
露曼陀羅ふところ深く父の数珠 櫛原希伊子
首に巻く寒垢離僧の数珠凍り 安田晃子
●須弥檀
●撞木
あの声の撞木は細し寒念仏 支考
すすき野に撞木で踊る念佛なり 筑紫磐井 婆伽梵
両眼は撞木の先や撞木鮫 白井冬青
仕込樽撞木と古りぬ雪明り 石川桂郎 高蘆
冬空に撞木の揺れ残りをり 藤田あけ烏 赤松
大年の罅走りたる撞木かな ふけとしこ 鎌の刃
山蛭の撞木の頭あなうとまし 福田蓼汀 秋風挽歌
年の夜の撞木見据ゑし鐘の臍 澤田一餘
撞木まだ生まの膚して小六月 廣瀬直人
撞木まで雪積む朝となりにけり ふけとしこ 鎌の刃
撞木鮫沖にあらわれ大旱 岩下四十雀「長考」
月光の中へ打ち込む撞木かな 矢島蓼水
松籟や撞木の揺れと秋遍路 飴山 實
松葉降る風に撞木のゆれ通し 岸本尚毅 選集「氷」
水平の撞木のほかは竹の秋 鷹羽狩行
永き日の鐘と撞木の間かな 小笠原和男
細櫂の撞木でわくる柳哉 幸田露伴 江東集
縛されてゐる数え日の撞木かな 藤井圀彦
露けしや撞木の縄の宙とんで 桂信子
●浄衣
寒垢離の浄衣抱かされ抱きけり 三浦京子
お四国へ一番発ちの白浄衣 つじ加代子
たちまちに浄衣の肌に滝あらく 河野静雲 閻魔
●厨子
かな〜や濁世の荷解く厨子の前 米沢吾亦紅 童顔
かまくらの雪のお厨子に燭を上げ 有川淳子
しろがねの露玉虫厨子の中 中田剛 珠樹以後
はつゆめの御仏は厨子出でたまふ 中村堯子
ひとつだにこゑなく木槿ちかき厨子 中田剛 珠樹
ひらきたる厨子の香にふる霰かな 永田耕衣 加古*傲霜
三光鳥鳴き弁天の厨子ひらく 深海利代子「雉俳句集」
人の世に開けてある厨子お元日 中山純子
傀儡の厨子王安寿ものがたり 後藤夜半 翠黛
冬うらら玉虫厨子の明けつ放し 内田美紗 誕生日
冬菫厨子玉虫のひかりあふ 岡部六弥太
初冬や灯明りに拝む厨子の像 滝井孝作 浮寝鳥
厨子に二つ障子円かのあかりとり 石川桂郎 高蘆
厨子の前はばかり通る月の客 後藤夜半 底紅
厨子の前千年の落花くりかへす 水原秋櫻子
厨子の前望のひかりの来てゐたり 秋櫻子
厨子の扉をひらくがごとく初日記 伊藤トキノ
厨子の扉を開けばにはか虎が雨 宮川やすし
厨子の箔夕日に古び出開帳 近藤一鴻
厨子よりも出でまさんとし御開帳 阿波野青畝
厨子を負ひ尼が喜捨乞ふ花蜜柑 原 柯城
厨子像の近松翁の足袋白し 山田弘子 螢川
厨子出たる観音と遇う 秋桜 伊丹三樹彦 花恋句集二部作 花仙人
厨子暗く祖師在します初詣 永井賓水
厨子深くおはし何れも黴仏 大橋敦子 手 鞠
厨子王と呼ばれふりむく春の雨 秋篠光広
厨子王も安寿も秋の運動会 西本一都 景色
厨子甕の獅子立つ四隅春鳳梨 吉田紫乃
囀に玉虫厨子の戸の開く 岩本聡子
塗りたての厨子の匂へり華鬘草 名和政代
夏めくや軋るお厨子の蝶番ひ 久米正雄 返り花
夏点前鑑真まつる厨子あけて 冨山青沂
夕あかりお厨子にかへる甘茶仏 多納有紀
安寿の塔厨子王の塔春の雪 鳥羽とほる
寒牡丹隙間だらけの藁の厨子 川崎展宏 冬
小さき〜厨子に父ます十三夜 篠塚しげる
山路来し秋扇たたむ厨子の前 大島民郎
念入りに厨子を浄めて盆用意 近藤志解成
扇閉づ橘夫人厨子の前 山岸治子
打敷も厨子も濤の絵鑑真忌 広田祝世「かつらぎ選集」
春蚊出づ玉虫厨子の台座より 小谷廣子
松色を変へず玉虫厨子の彩 金子あきゑ
梅咲くと厨子を出でたる仏たち 黛執
母がりの厨子の佛の涼しけれ 筑紫磐井 野干
法師蝉厨子は灯りておはしけり 五十崎古郷句集
波明り厨子にぞ浮御堂小春 皆吉爽雨 泉声
海光におん厨子ひらく百千鳥 斎藤梅子
火祭の厨子といふ厨子皆開き 岩男微笑
玉虫の厨子により見る薄暑かな 松瀬青々
玉虫厨子いずこの山も故郷かな 和田悟朗 法隆寺伝承
白木槿厨子はまなこをかくしけり 中田剛 珠樹
目貼剥ぐみ仏はなほ厨子ごもり 八染藍子
睡蓮や愛染像は厨子の闇 山野上博子
短日の厨子一灯を献じたる 野際泰功
秋寂光臈たき菩薩厨子に在し 石塚友二 方寸虚実
秋茄子へ厨子をはなれてゆきし声 宇佐美魚目 秋収冬蔵
花冷の厨子に触れ鳩おどろかす 殿村莵絲子 牡 丹
荒梅雨や厨子の奥なる潮ぼとけ 佐川広治
落葉して厨子に観音像ひとつ 広瀬直人
衆目にいま開帳の春日厨子 江口竹亭
行春やただ照り給ふ厨子の中 水原秋桜子(1892-1981)
誕生仏百禽啼いて厨子をいづ 秋櫻子
釈尊も厨子出でられよ草の餅 下田稔
野火のごと玉虫厨子の天女飛ぶ 野見山朱鳥
雨の日の厨子は厳封桃あかし 宇佐美魚目 天地存問
雨乞のお厨子を負うて登り行く 和気魯石
青褐雨の千手かがやく厨子びらき 三嶋隆英
餅供ふ手作り厨子の中の主に 下村ひろし 西陲集
●墨衣
落鮎の身の行末や墨衣 元隣
●墨染めの衣
うき人を墨染にせん夏書かな 夏書 正岡子規
うら若き墨染衣玉芍薬 細見綾子
ほのめくや墨染桜夕月夜 夕桜 正岡子規
吉兆の墨染なりし初鴎 青柳志解樹
墨染に故郷の秋の深からめ 中川宋淵 遍界録 古雲抄
墨染に泪のあとの夜寒哉 夜寒 正岡子規
墨染に衣かへたり最明寺 更衣 正岡子規
墨染に鯛彼桜いつかこちけん 榎本其角
墨染のうしろすがたや壬生念仏 炭 太祇 太祇句選
墨染のうしろ姿や壬生念仏 太 祇
墨染のうすしとも見え山茶花に 原石鼎 花影以後
墨染の中のふぐりも暑からむ 鈴木鷹夫 春の門
墨染の僧にとび交ふ螽かな 原石鼎
墨染の名を問へばおはぐろ蜻蛉哉 寺田寅彦
墨染の夜のにしきや鉢たゝき 蕪村遺稿 冬
墨染の我も笑はむはなの春 幸田露伴 谷中集
墨染の葡萄一房皿にあり 田川飛旅子 『薄荷』
墨染の蝶もとぶ也秋の風 一茶 ■文政五年壬午(六十歳)
墨染の袂に入れし蛍かな 大田康夫
墨染の袖吹きあぐる花野哉 花野 正岡子規
墨染めの衣駈けゆく花の雨 澤田律子
墨染を恋ひしき色にうすごろも 手塚美佐
墨染を着て眼前の寒椿 村上賢一
墨染を銀座に見たる鳥曇 新井礼子
末黒野を墨染めの僧来るはよし 森澄雄
見送れば墨染に成り花になり花 千代尼
駢拇の身を墨染や桐火桶 高井几董
高徳の墨染桜散りにけり 散桜 正岡子規
鶺鴒の墨染得度巣立ちけり 堀口星眠 営巣期
●禅杖
●僧衣
うすものの僧衣に透けて揚羽過ぐ 関森勝夫
どくだみの花溝細め僧衣の父 大井雅人 龍岡村
アユタヤのもろこしの黄は僧衣の黄 高澤良一 寒暑
一枚の僧衣にて足る生涼し 野見山ひふみ
修道僧衣 ひらひらと去り 残る羊 伊丹公子 パースの秋
吹はじめ雑木山より僧衣出づ 加藤正子
外套の下は僧衣の足袋白し 青峰集 島田青峰
強霜に僧衣きりゝと夜座支度 豊田泰淳
紫は僧衣に如かずうつぼ草 神尾久美子 桐の木
脱衣場に僧衣かしこき二月の温泉 宮武寒々 朱卓
蔭干しの僧衣にすがり黄金虫 木場田秀俊(狩)
藻の花や僧衣は風の棲みやすく 中尾杏子
衣紋竹に僧衣おかしき風ありぬ 青峰集 島田青峰
被てみたきもの羅の緋の僧衣 正木ゆう子 静かな水
避暑にして僧衣のごときもの纏ひ 石嶌岳
銀漢や僧衣の裾の闇暑し 小林康治 玄霜
雄の蝉はなにか蹴ちらし薄い僧衣 渋谷道
雲の峰より自転車の僧衣くる 中山一路
霜除としたり僧衣のやうなもの 吉本伊智朗
黄昏が舞い降り僧衣ひらひらす 関戸美智子
●卒塔婆
いつしんに卒塔婆ゆらぐ五月晴 柿本多映
うちあげし卒塔婆冬浜人を見ず 福田蓼汀 秋風挽歌
おほかたは卒塔婆小町の盆踊り 七田谷まりうす
かたかたと卒塔婆遊ぶ涅槃西 平野正彦
よろと卒塔婆小町の萩の託言も失せてけり 文挟夫佐恵
丈六の卒塔婆みちを彼岸婆 原 裕
卒塔婆に日矢さす春の氷かな 秋山幹生
卒塔婆に肝を試され唖の蝉 中川杞友
卒塔婆に高脚を懸け蚊の姥は 高澤良一 ぱらりとせ
卒塔婆のつまさきだてる鵙日和 高澤良一 ももすずめ
卒塔婆のみなぱたぱたと夏の海 小澤克己
卒塔婆の生みたる茸凍みにけり 中戸川朝人 星辰
卒塔婆の白きが増えぬ施餓鬼寺 坂井建
卒塔婆はかの世へ倒れ草いきれ 神山冬崖
卒塔婆めく風除を秘所に青みたり 文挟夫佐恵 雨 月
卒塔婆より身におよびたる朧 齋藤愼爾
卒塔婆を押し頂ける山の鵙 高澤良一 燕音
卒塔婆抱き人散りゆけり施餓鬼寺 井上洋子
卒塔婆抱き鳴門を越ゆる帰省かな 紅露泥堂子
囀りや卒塔婆と杉の碧空に 阿部みどり女
四句の偈の卒塔婆を三句時雨けり 幸田露伴 谷中集
墓あれて卒塔婆短き尾花哉 薄 正岡子規
夏足袋の先があまりて卒塔婆殖え 長谷川双魚 『ひとつとや』
徂く春の卒塔婆小町を観し疲れ 松本たかし
振袖に卒塔婆抱き来る桜かげ 川端茅舎
放生の河豚を追ひかけ紙卒塔婆 曽根圭子
新盆の卒塔婆抱へられて過ぐ 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
春の昼ふりむくたびに卒塔婆増え 飯田龍太
時鳥千本卒塔婆宵月夜 時鳥 正岡子規
炎天に抱く卒塔婆の木の香かな 中里 篠
瓶かたむけたウイスキー瞼の卒塔婆 林田紀音夫
秋風や白き卒塔婆の夢に入る 星布尼
花火こぼれて卒塔婆林立するくらがり 紀音夫
蝶舞うや卒塔婆は瑕さらけだす 鎌倉佐弓 天窓から
行秋の波にたゞよふ卒塔婆かな 寺田寅彦
遠郭公一つの卒塔婆湖に立つ 松村蒼石 雁
雪解路弓張る腰に卒塔婆持ち 福田蓼汀 山火
●点鬼簿
点鬼簿に降るにまかせて櫻蘂 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
点鬼簿に降る花かへで花かへで 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
点鬼簿の名がみな朱し螢の夜 恩田侑布子
点鬼簿の夕顔朝顔昼顔よ 高柳重信
秋風や故旧大方点鬼簿に 河野静雲
青五月万太郎また点鬼簿裡 石塚友二
●塔婆
お塔婆を持ちて初音の磴上る 星野 椿
ひるがほの渦巻いてゐる板塔婆 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
ふりむけば塔婆と昃る烏の子 長谷川双魚 『ひとつとや』
何業をして老いしかと 塔婆の眼 伊丹三樹彦 写俳集
倒れゐし塔婆起こして雪解かな 浜 喜久美
僧ひとり塔婆焚きゐる虎が雨 神谷節子
叉木塔婆ゆつくり遊行かたつむり 中戸川朝人 尋声
古塔婆立てかけてあり花の幹 行方克己 知音
土塔婆の罅に雨ふる菫かな 吉田紫乃
塔婆焚き雪解の杉を暗くのばす 桜井博道 海上
塔婆煽つ風に外套脱ぎにけり 渡辺水巴 白日
墨うすき塔婆ながるゝ施餓鬼かな 大橋櫻坡子 雨月
岩船の塔婆襖や雁渡し 落合水尾
彼岸荒れ塔婆に塔婆応へゐて 高澤良一 宿好
接骨木の花新しき塔婆建つ 後藤春翠
春は未だ浅く塔婆の前のめり 高澤良一 素抱
書して劃崩さず盆の枌塔婆 加倉井秋を
眼と精神鯰を塔婆で扼へる手 竹中宏 句集未収録
空蝉や爪立て易き朽塔婆 松岡美代子
竹の子の塔婆の丈に身を正す 古舘曹人 砂の音
花吹雪塔婆の丈のやつれけり 大木あまり 火のいろに
草花やはしりがきする水塔婆 茅舎
角塔婆盆の海より寄す白波 林火
路薙ぎの火に投げ入れる古塔婆 浅川正
逝く年の生木仕立の塔婆かな 茨木和生 往馬
達谷宙遊居士の塔婆を蟻上下 川崎展宏 冬
重ね塔婆白し余寒の眼にのこる 阿部みどり女
●燈明
いつしんに祈るその父にともる燈明 シヤツと雑草 栗林一石路
うかと出て町の灯明し秋の宵 三宅孤軒
お燈明にこもる巒気や日の盛り 佐野青陽人 天の川
お燈明に花暮れてあり庭社 碧雲居句集 大谷碧雲居
かゞまりて千燈明をなつかしむ 銀漢 吉岡禅寺洞
しぐるるや燈明一つ奥の院 星野椿
はかなさは燈明の油が煮える 尾崎放哉
やりくりのともかく灯明し除夜の団地 赤城さかえ句集
よみがへるをみなの面輪初灯明 高澤良一 燕音
わが消す灯母がともす灯明易き 古賀まり子(1924-)
五百羅漢御灯明は松の花なりし 渡辺恭子
仏壇に初灯明の火を捧ぐ 笠間愛子
凩や常灯明のしんかんと 一茶 ■文政七年甲甲(六十二歳)
初午や燈明ゆらぐ鰈の眼 水原秋櫻子
初灯明オルガン古りし本願寺 石川英子
初灯明上ぐ火打石うちにけり 関戸高敬
初燈明けふ生きてある証とも 杉本寛
初燈明こぞりて九体阿弥陀仏 竹中碧水史
初燈明はえていただく翁面 長谷川久代
初燈明ほのと息づく北御堂 中村月三
初燈明商三代を賀しまつる 鈴木弘子
初燈明揺るるを神の吐息とも 山崎千枝子
初燈明父に会ふごと廬遮那仏 杉本寛
初盆や京より花のお灯明 浜野桃華
千燈明をともすわらべの露の秋 銀漢 吉岡禅寺洞
吹雪く夜の我家の神やお燈明 碧雲居句集 大谷碧雲居
夏桑の中の灯明や御山口 長船
夜桜や灯明ゆらり人ゆらり 広戸英二
大学生今年は卒業初燈明 池上京子
大黒の微笑ゆらゆら初灯明 勝村茂美
寒燈明滅小僧すよすよと眠りけり 寒燈 正岡子規
御灯明ここに小川の始まれり 安井浩司(1936-)
御灯明穂長に芭蕉霊位かな 富安風生
御燈明ここに小川の始まれり 安井浩司 阿父学
御降や昼を絶やさぬお灯明 篠塚しげる
手囲ひに灯明ともし雪舟忌 田面浩一郎
手探りの根本中堂初燈明 高澤良一 燕音
手燈明の火の垂るゝなり露の砂 銀漢 吉岡禅寺洞
新月に燈明もして山廬かな 飯田蛇笏 春蘭
新酒上りて燈明あかし庫の奥 比叡 野村泊月
有明の燈明台をかすみけり 霞 正岡子規
木の洞の虚空蔵様へ初灯明 日守むめ
歳徳や土かはらけの御燈明 西山泊雲 泊雲句集
灯明に神発ちませし暗さあり 片岡片々子
灯明に離れて坐る朧かな 斎藤梅子
灯明のあまたを青葉囲ひかな 山西雅子
灯明のすつと立ちたる余寒かな 星野 椿
灯明のぽぽと次郎柿の山河かな 折井紀衣
灯明の夜霧に潤む除夜詣 森 郁代
灯明の灯をかき立て砧かな 許六
灯明の煙となりし牡丹かな 藺草慶子
燈明にさだかな死後のたなごころ 林田紀音夫
燈明に梅雨沁み辻の秋葉さま 西村公鳳
燈明に綿打初のほこりかな 高田蝶衣
燈明に草木の色や涅槃像 碧雲居句集 大谷碧雲居
燈明に虫も寄らぬや比叡の山 蘇葉 俳諧撰集「有磯海」
燈明に離れて坐る朧かな 齋藤梅子
燈明のひとりでに消え雪の昼 桂信子 遠い橋
燈明の数のいよいよ御開帳 松木百枝
燈明の神々しくも蚕屋深く 安田蚊杖
燈明や禽獣虫魚夜の秋 川崎展宏 冬
燈明をつけて無月の供へ物 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
燈明を肩に歳来る土間竈 長谷川素逝 村
真如堂灯明揺れもせず涼し 伊藤和義
短夜を燈明料のかすりかな 短夜 正岡子規
神祀る燈明二つ露時雨 福田蓼汀 山火
祭来る燈明皿に白き芯 下田稔
結願の灯明太く寒に入る 山口幸代
繭玉に燈明の炎を感じけり 飯田蛇笏 霊芝
荒神や燈明皿の火取虫 竹冷句鈔 角田竹冷
虚子句碑に一つ燈明和布刈の夜 寺井谷子
蝙蝠の燈明倒しでてゆきぬ 吉田さかえ
衣更へし母とゐて晝の燈明 内藤吐天
足袋にふれし手をすゝぎ燈明奉る 高田蝶衣
過去帳の表紙金襴初燈明 中村青径
雪の産屋蜜ひとさじの燈明るく 成田千空 地霊
雪の雉子燈明二本点りけり 磯貝碧蹄館
青衣の女人燈明凍てて動かざる 大野林火
鳴いて鳴いて燈明背戸の雪に応ふ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
鴨引くと燈明の焔の立ち直り 波多野爽波
鵜の小屋に燈明一つ年は逝く 松井慶太郎
●燈籠
ああああと大きく暗き冬燈籠 長谷川櫂 古志
あちこちに高燈籠の見ゆる哉 高燈籠 正岡子規
あまた賜ぶ盆燈籠のかなしけれ 角川源義 『冬の虹』
あらびをのはてハやさしき燈籠哉 燈籠 正岡子規
いくさとて数ズの亡き人燈籠かな 尾崎迷堂 孤輪
いでたちの男腰巻灯籠焼 高見岳子
いとゞの聲のあとさきになり明けかゝる 瓜燈籠 西村白雲郷
いと高き揚燈籠や山の前 松瀬青々
いのち延ぶ万灯籠に火を加へ 大野林火
うすいろや燈籠の火に涼のぞく 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
うすうすと裾汚れたる盆燈籠 右城暮石 声と声
うすらひに琴軫(ことぢ)燈籠脚おろす 高濱年尾 年尾句集
うす紙の灯籠にてらす草葉哉 加舎白雄
うつくしき燈籠の猶哀れ也 燈籠 正岡子規
うつくしき燈籠掛けたり竹の奧 燈籠 正岡子規
うつし世のものぼんやりと雪灯籠 石川曲水
うつゝともなき燈籠や松の陰 燈籠 正岡子規
うつ伏して岸より流す燈籠かな 比叡 野村泊月
うらぼんや猟せぬ釣の舟灯籠 貞室
おもざしのほのかに燈籠流しけり 飯田蛇笏 霊芝
かいま見て松葉敷きあり燈籠あり 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
かかる夜の風に燈籠流しかな 富田木歩
かき立てて見てもさびしき燈籠かな 二柳
からくりもよくあや鶴やまひ燈籠 信徳
かりそめに燈籠おくや草の中 飯田蛇笏(1885-1962)
かゝる夜の風に燈籠流しかな 木歩句集 富田木歩
きざはしに長尾垂れたる燈籠かな 大橋櫻坡子 雨月
けもの等のひそめし息や万燈籠 細見綾子 和語
この海の供養にともす燈籠かな 碧梧桐
こゝも亦燈籠店のさわぎ哉 燈籠 正岡子規
ざれ絵ざつと書いてある燈籠かな 田村桃陽
しょんぼりと燈籠白し草の奥 燈籠 正岡子規
しらたまの粥に溶け入る絵燈籠 栗生純夫 科野路
すかし見て土皿入れし燈籠かな 比叡 野村泊月
たくさんの墓燈籠をともすもの 後藤夜半 翠黛
たたむとき盆灯籠の息洩るる 中嶋秀子
たはれ男の遊君祭る燈籠哉 燈籠 正岡子規
たま棚や笹の葉がくれ蓮燈籠 泉鏡花
たをやめの足もと暗き燈籠哉 燈籠 正岡子規
つくばひに廻り灯篭の灯影かな 高浜虚子
とこやらに稻妻はしる燈籠哉 燈籠 正岡子規
ともし去る流人の墓の燈籠かな 松藤夏山 夏山句集
ともりゐぬ燈籠を見し框かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
どの水に灯籠置かうかと思ふ 関戸靖子
ながあめのあがりし燈籠流しかな 久保田万太郎 草の丈
ながれゆくなりわが手はなれし燈籠の 久保田万太郎 流寓抄
ながれゆくなりわが魂のせて燈籠の 久保田万太郎 流寓抄
ながれゆくなり波のくらきに燈籠の 久保田万太郎 流寓抄
なき人もかたさまざまの燈籠哉 燈籠 正岡子規
なんの絮灯籠売のゐしところ 飴山實 辛酉小雪
ぬれ縁をわづかに照らし盆燈籠 今井つる女
はや吊りて夢幻のおもひ高燈籠 飯田蛇笏
ひとつ家の桐の葉がくり盆燈籠 飯田蛇笏
ひとつ残りて燈籠湖をかそけくす 臼田亜浪 旅人
ひとよさの油にじめる燈籠かな 岡本松浜 白菊
ほのぼのと桟敷の巫女や万燈籠 橋本鶏二 年輪
ほんやりと燈籠うつる小窓哉 燈籠 正岡子規
まざまざと仏は壺に燈籠かな 吉武月二郎句集
まひそめし廻り燈籠の百面相 小原菁々子
ま白さのどこより触れむ盆燈籠 加倉井秋を
みぞるゝや茶屋に灯りし吊燈籠 阿部みどり女 笹鳴
みんなして燈籠納め送るなり 長谷川素逝 村
わりなくも宿乞ふ僧や高燈籠 高燈籠 正岡子規
われ死なばどんな燈籠を願ふべし 燈籠 正岡子規
をさな子のつることいそぐ燈籠哉 燈籠 正岡子規
オホツクに臨める家の盆燈籠 比叡 野村泊月
キリコ灯籠くるりと夜空回しけり 後藤軒太郎
ライターの火や燈籠の灯のまへに 百合山羽公 寒雁
一つづつ届きて三つ盆灯籠 杉本零
一つづゝ星はくもりて高燈籠 高燈籠 正岡子規
一つ家の燈籠高くつるしけり 寺田寅彦
一つ消えし燈籠に兄たちにけり 清原枴童 枴童句集
一人居の廻灯籠に灯を入れる 高濱虚子
一種火万灯籠の百灯す 磯野充伯
丁字落ちて暫く暗き燈籠かな 虚子
七月の利久燈籠どこも濡れ 横山白虹
万灯籠うしろの闇に鹿うごく 西脇妙子
万灯籠明日を春の底冷す 森澄雄
万燈籠人の暗さはかたまつて 津田清子 礼 拝
万燈籠心の闇はてらし得ず 鈴木真砂女 夕螢
万燈籠潤ひてとぶ雪の華 西村公鳳
万燈籠点りおくれし二基三基 鈴木真砂女 夕螢
万燈籠点るに間あり離れ鹿 鈴木真砂女 夕螢
三日月や柱にすわる高灯籠 銭正 七 月 月別句集「韻塞」
三鬼亡く北舟子亡き絵灯籠 石田あき子
上げ松明炎ゆる灯籠木は五十尺 内田哀而
中庭の簾見えすく燈籠かな 白雄
中庭や牡丹につるす鉄燈籠 寺田寅彦
二つある白朮燈籠と云ふを見し 小松虹路
亡き妻や燈籠の陰に裾をつかむ 燈籠 正岡子規
亡父喜ばん盆燈籠がみな灯り 相馬遷子
人去りてやがて消えたる燈籠かな 比叡 野村泊月
人呼ぶや燈籠竝べし道の端 燈籠 正岡子規
人寰の外へ燈籠回りけり 加藤三七子
人聲や燈籠見ゆる低き垣 燈籠 正岡子規
何代の燈籠の苔か雪の下 雪の下 正岡子規
何處やらを稻妻走る燈籠哉 燈籠 正岡子規
傾きて蝋燭高き燈籠かな 松藤夏山 夏山句集
傾城の燈籠のぞくや寶巖寺 燈籠 正岡子規
傾城の猶うつくしき燈籠哉 燈籠 正岡子規
先生の切子燈籠ともしけり 星野麥丘人
入る月や松にのこして揚燈籠 由平
冠燈籠ひとときは死を遠ざけて 橋本榮治 越在
冥界に届く火柱灯籠焼 橋本 博
冨士のけぶりしかけで廻り灯籠哉 井原西鶴
冨士はまた暮れぬ内より高燈籠 高燈籠 正岡子規
冬枯や三の臺場の高燈籠 冬枯 正岡子規
切子燈籠うしろが明しまはりて見る 橋本多佳子
切支丹燈籠があり冬仕度 綾部仁喜 樸簡
切支丹燈籠灯すことなき春の凍て 須藤省子
初山祭の宵ぬらす雨絵燈籠 荒井正隆
初時雨キリシタン灯籠うるほせり 坂井建
初風や回り灯籠の人いそぐ 几董
勝文の燈籠一つ供へけり 大場白水郎 散木集
匂ひ白き昼の燈籠吊られけり 太田鴻村 穂国
千燈籠火の動くとき闇動く 中島☆火
卒堵婆傾き骨ばかりなる燈籠かな 寺田寅彦
原中や西に當りて高燈籠 高燈籠 正岡子規
去る人は止めず燈籠に向ひけり 西山泊雲 泊雲句集
去年よりちいさき燈籠吊しけり 燈籠 正岡子規
参道の灯籠すべて雪囲い 高岡昭子
古里の人々老いし燈籠かな 岡本松浜 白菊
吉原の燈籠見による月夜哉 燈籠 正岡子規
吉原の燈籠見による酒の醉 燈籠 正岡子規
吉原や燈籠の花人の花 燈籠 正岡子規
吊り添へてまたゝきしげき燈籠かな 清原枴童 枴童句集
同じ事を廻り燈籠の廻りけり 正岡子規
咲耶馬の火山灰降る燈籠吊りにけり 加倉井秋を
唐盆の燈籠つくり簷深に 小林康治 玄霜
土橋を越して夜深し高灯籠 蒼[きう]
土皿を代へてあかるき燈籠かな 比叡 野村泊月
坐してすぐ燈籠の灯に染まりけり 中嶋秀子
垣ごしに見ゆる隣の燈籠哉 燈籠 正岡子規
堂凍てゝ四隅に鉄の燈籠かな 久米正雄 返り花
塚助弥燈籠高尾魂祭 西本一都 景色
墓の樹の夜雨にぬるる盆燈籠 飯田蛇笏 雪峡
墓原に隣る小家の燈籠哉 燈籠 正岡子規
墓灯籠牡丹描きしは見当らず 三村純也
墓燈籠日のあるうちに消え終んぬ 猿橋統流子
墨水は燈籠もこはくおぼすらん 燈籠 正岡子規
夕暮になりにけるかな高燈籠 酒葉月人
夜に消えし高燈籠朝となりつゝ 安斎櫻[カイ]子
夜更けて施餓鬼の燈籠流しけり 施餓鬼 正岡子規
夜桜や辻燈籠の片うつり 夜桜 正岡子規
夜雨燈籠あやめに残る雫あり 桂樟蹊子
大いなる燈籠の手の影法師 後藤夜半 翠黛
大空やひとり更け行く高灯籠 樗 良
大雨にそれなりきりの燈籠かな 尾崎迷堂 孤輪
天の川高燈籠にかゝりけり 天の川 正岡子規
夫在らずあらずと回り灯籠かな 月岡和子
奥の間の盆灯籠の氷めく 辻桃子
子が寝ねて風の燈籠となりにけり 林原耒井 蜩
子のための盆灯籠は居間に吊る 森 白象
子は母に廻り燈籠果てざらめ 齋藤玄 飛雪
子を負ふてかるた貼り居る燈籠哉 燈籠 正岡子規
孝行のしたい頃には燈籠哉 燈籠 正岡子規
孤つ家の桐葉がくりに盆燈籠 飯田蛇笏 春蘭
家のうちのあはれあらはに盆燈籠 風生
家根の上にどこの哀れぞ揚燈籠 燈籠 正岡子規
家裏は不知火の海絵灯籠 松田雄姿
小舟より灯籠とめどなく流す 佐久間慧子
尺八に終始す由良の灯籠焼 有馬豊子
尼の子の燈籠に遊ぶあはれ也 燈籠 正岡子規
山の端や晝見る寺の高燈籠 高燈籠 正岡子規
山墓の枝につられし盆燈籠 飯田蛇笏 春蘭
山墓や燈籠ひくく賑やかに 原石鼎
山畑を来て燈籠を流しけり 西田栄子
山賤や用意かしこき盆燈籠 飯田蛇笏 山廬集
山霧にしめりて明き燈籠かな 西島麦南 人音
川へ行く灯籠を持ち亡父を持ち 藤原美規男
川床更けて西瓜燈籠流れきし 五十嵐播水 播水句集
年の豆高尾燈籠の灯ぶくろに 西本一都 景色
幼子の小さきねぎごと絵灯篭 斉藤平伍
幽霊のみな美しき絵灯篭 小島左京
幾千の墓燈籠の消えし闇 安原葉
座蒲団のならび燈籠灯くひと間 長谷川素逝 村
廻りそめたる燈籠を地に並ベ 西村和子 夏帽子
廻り灯籠めぐりのはての色世界 小林康治 『華髪』
廻廊に燈籠の星や小夜しくれ 時雨 正岡子規
廻廊や燈籠ゆれる春の風 春風 正岡子規
廻廊や燈籠動く春の風 春風 正岡子規
廻燈籠の下に坐れる傴僂かな 比叡 野村泊月
御会式の御難絵燈籠仰ぎ見る 河野静雲 閻魔
思ひ出て燈籠ともす勘平忌 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
愛宕路のこゝにしぐるゝ燈籠かな 比叡 野村泊月
戸口より見えて淋しき燈籠かな 比叡 野村泊月
扇燈籠(おぎどろ)の紅蓮見送り立ちん棒 高澤良一 寒暑
手より手へ北上川の絵灯籠 橋本幸代
手を添へてさしのぞきたる燈籠かな 比叡 野村泊月
投足に灯籠打ち消すすまひかな 朱廸 七 月 月別句集「韻塞」
提げてゆく燈籠の灯の顔へ来る 太田鴻村 穂国
摂待や深く住む家の晝灯籠 喜谷六花
故人やや遠きはなやぎ絵燈籠 皆吉爽雨 泉声
文月の三十日おどろく灯籠かな 此竹 閏 月 月別句集「韻塞」
新盆の灯籠高し昼の雨 岩田 諒
旅に暮れて高燈籠の村に出づ 高燈籠 正岡子規
日の入や星のあたりの高燈籠 高燈籠 正岡子規
日中の燈籠の尾に立ち添ひぬ 下村槐太 天涯
明日流す灯籠のある仏間かな 棚元花明
星合や暁になる高灯籠 其角
春雨や鴬這入る石灯籠 杉風 正 月 月別句集「韻塞」
昼を廻る燈籠の画や日影さす 大谷句佛 我は我
時化あとの浦曲の燈籠流しかな 大橋櫻坡子 雨月
暁けるより葛の葉がくれ燈籠泛く 飯田蛇笏 春蘭
暗き火に燈籠まはること遅し 高浜虚子
暗さ揃ひて万燈籠揺ぎなし 津田清子 礼 拝
暮れぬよと灯ともす妻や揚燈籠 星野麦人
更けゆくや此の世を離れ雪灯籠 中田のぶ子
月昇り燭に痩せゆく雪灯籠 田中英子
月明にまたゝき暗き燈籠かな 比叡 野村泊月
朝嵐に宵の灯籠のゆられけり 寺田寅彦
朝顏の彩色薄き燈籠かな 朝顔 正岡子規
木に置けば浪たたみ来る灯籠かな 高濱虚子
木影なくあらはに燈籠流しけり 原月舟
木曽さへも人は死ぬとや高燈籠 高燈籠 正岡子規
木蓮花鉄燈籠の黒さかな 木蓮 正岡子規
村どし(同志)に見せてやしのぶ高燈籠 美濃-淵泉 俳諧撰集「有磯海」
松に杉に燈籠高し山の寺 小林臍斎
松の中に燈籠ともして寝ぬ夜かな 雑草 長谷川零餘子
松の闇水の彼方の燈籠かな 吉武月二郎句集
松上げの灯籠木にとどき鉦太鼓 林田千代
松原や黒津の里の高燈籠 草間天葩
松風にかなしき声や高燈籠 高井几董
柿紅葉マリア灯篭苔寂びぬ 水原秋桜子
横顔を見たくてまはす絵燈籠 鳥居美智子
樹立より燈籠に出でし小鳥かな 島村元句集
權助も燈籠になれば哀れ也 燈籠 正岡子規
死が回り生が回れる燈籠かな 加藤三七子
母さまといはれておがむ燈籠哉 燈籠 正岡子規
母しのぶ燈籠に風出でにけり 樋笠文
母に吊る盆燈籠を消さじとぞ 長谷川かな女 雨 月
母を待つ燈籠市のはづれかな 百合山羽公
母を撫でつゝ絵燈籠見るひとりかな 比叡 野村泊月
母樣もいはれて拜む燈籠哉 燈籠 正岡子規
水に置けば浪たたみくる燈籠かな 高浜虚子
水の上に置いて灯せる燈籠かな 比叡 野村泊月
水引を燈籠のふさや秋の風 芥川龍之介 ひとまところ
水門に流れかゝりし燈籠哉 寺田寅彦
氷屋の燈籠揺れて客少な 松藤夏山 夏山句集
汝が為に盆燈籠を買はんとは 高橋一秋
沖にゆく盆燈籠の長き影くやしき生を人は流るる 武川忠一
沖の舟いつきに燈籠流しけり 長谷川湖代
沖はるか舟破るる昼の燈籠かな 宮武寒々 朱卓
泣く子ゐて廻り燈籠に火をいれぬ 上村占魚 鮎
泳ぎながら見る燈籠を焼く焔 田中裕明 山信
流さねばならぬ燈籠なほ抱く 甲斐照子
流したるわが燈籠の灯のみ追ふ 伊藤けい子
流し燈籠水平らかに大曲り 島村元句集
流れけり燈籠闇に押されては 坂本山秀朗
流れつく燈籠を見て安きかな 萩原麦草 麦嵐
流れてゆかぬ灯籠をつっつきぬ 池田澄子
流れゆく燈籠迅し合掌す 福田蓼汀 山火
浜の子は燈籠流すぽつかりと 萩原麦草 麦嵐
浮き沈む舟限りなし影燈籠 長谷川かな女 雨 月
海に出て燈籠高し島の空 宇佐美魚目 秋収冬蔵
海人が家の燈籠暗し盆の月 古白遺稿 藤野古白
海人老いて盆灯籠に灯を点す 芦田一枝
海道をやゝ径す家の燈籠かな 尾崎迷堂 孤輪
消えたるもほのかに流れ燈籠かな 高橋淡路女 梶の葉
消えてゐし灯のもどりくる燈籠かな 後藤夜半 翠黛
消えである燈籠淋し朝ざくら 蘇山人俳句集 羅蘇山人
消さむとしおのが息の香盆燈籠 加倉井秋を
消すまでの一つを売りて盆燈籠 神蔵 器
涼しさやまはり燈籠に灯をともす 涼し 正岡子規
涼しさや石灯籠の穴も海 正岡子規
淋しさは燈籠かけたる二階哉 燈籠 正岡子規
深海の音の通へる燈籠かな 宮武寒々 朱卓
清水や桜の上の鉄燈籠 夜桜 正岡子規
漁火に通ひて峯の燈籠かな 支考 (長崎にて)
濤くらく蜑が上げたる高燈籠 石原舟月
瀬に触れて揺れかはしたる燈籠かな 吉武月二郎句集
火や消えし雲やかゝりし高燈籠 高燈籠 正岡子規
灯さるる大燈籠をとりかこみ 橋本鶏二 年輪
灯してくらさまさりし燈籠かな 宮武寒々 朱卓
灯のいろのしづけき宵ぞ絵燈篭 水原秋桜子
灯の消えて闇路をめぐる灯籠哉 燈籠 正岡子規
灯をともす廻り燈籠や夕凉 納涼 正岡子規
灯を入れて湖の匂ひに絵燈籠 加倉井秋を 『武蔵野抄』
灯を入れて灯籠の絵の花ひらく 原田種茅
灯を入れて紙垂れておく燈籠かな 後藤夜半 翠黛
灯篭の闇を招いて流れゆく 竹内 実
灯籠としらずに来たり灯取虫 正岡子規
灯籠にかくれクルスや葛の花 足立和信
灯籠にざらざら霧がながれけり 萩原麦草
灯籠にしばらくのこる匂ひかな 大野林火
灯籠にはや火を入れよ瀬音満つ 多田裕計
灯籠に盆狂言の灯が入りぬ 水原秋桜子
灯籠のひとりまはるを隣の間 佐々木六戈
灯籠のよるべなき身のながれけり 久保田万太郎
灯籠のわかれては寄る消えつつも 臼田亜浪
灯籠の棹にマリアや右近の忌 加藤三七子
灯籠の火で飯をくふ裸かな 一茶
灯籠の蔭に見えたる根釣かな 岩田由美
灯籠の間に貌を出し孕鹿 鈴間斗史
灯籠の間を杉の間を鹿移る 田中眠子
灯籠の陰にもっとも著莪の花 摂待孝蔵
灯籠や美しかりし母とのみ 河原白朝
灯籠や踊子出づる宵の門 松瀬青々
灯籠をかゝげしまゝに磯ねむる 飴山實 『次の花』
灯籠を吊つてさみしくなりにけり 池田和子
灯籠を吊りて飯くふ一人かな 渡辺水巴
灯籠を板囲ひして多度祭 茨木和生 遠つ川
灯籠を水に置く手をのばしけり 鈴木真砂女
灯籠を流し石ころ道帰る 片山由美子 水精
灯籠消えて芭蕉に風の渡る音 燈籠 正岡子規
灯籠焼き消え幽界の闇もどる 飯田立春
灯籠祭神杉に雨上りたる 本宮哲郎(河)
灯籠舟農民舟と呼ぶがよし 脇本星浪
炎天の田の隅に吊り盆燈籠 小林康治 玄霜
点さねば灯篭の絵の空ろなる 佐藤茂夫
燃え落ちし燈籠舟の燈籠かな 比叡 野村泊月
燈を入れて燈籠の絵の花ひらく 原田種茅 径
燈篭に荷だくさんなる狐かな 阿波野青畝
燈籠が流れて婆娑と消えにけり 萩原麦草 麦嵐
燈籠さげて橋行く人や水の影 燈籠 正岡子規
燈籠としらずに来たり灯取虫 火取虫 正岡子規
燈籠と萩の間に入りみし 京極杞陽 くくたち下巻
燈籠にあかつきの蚊の流れけり 林原耒井 蜩
燈籠にうつろ笑ひしあと淋し 龍胆 長谷川かな女
燈籠にこもり鳴きたる雛雀 瀧澤伊代次
燈籠にさはらんとする芭蕉哉 燈籠 正岡子規
燈籠にざら〜霧がながれけり 麦草
燈籠にしばらくのこる匂ひかな 林火
燈籠にそはで乾きし窓暮るる 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
燈籠にならでめでたし生身魂 支考
燈籠にねびたる稚児やあはれなる 飯田蛇笏 山廬集
燈籠にはや灯を入れよ白栄えす 林原耒井 蜩
燈籠にばばが遺せしちちちんまり 野澤節子 遠い橋
燈籠にふたゝひともす夜半哉 燈籠 正岡子規
燈籠に二十里さきの月夜かな 久保田万太郎 草の丈
燈籠に人一人のかるさかな 燈籠 正岡子規
燈籠に人明るさや野路の茶屋 雑草 長谷川零餘子
燈籠に仕ふる沙禰の目鼻かな 後藤夜半 翠黛
燈籠に夏さだまりて山の墓 飯田蛇笏 雪峡
燈籠に夜半の喧嘩や仲の町 燈籠 正岡子規
燈籠に夜更けて霧の逼るなり 芦田秋窓
燈籠に大地ゆつくりとまるかな 松澤昭
燈籠に大小のある親子哉 燈籠 正岡子規
燈籠に対へる顔や暗きより 大橋櫻坡子 雨月
燈籠に巣ふ鳥あり春の園 銀漢 吉岡禅寺洞
燈籠に当りし虫へ心かな 尾崎迷堂 孤輪
燈籠に書かれある句に二重丸 後藤比奈夫 めんない千鳥
燈籠に母思ふ事しげ〜と 長谷川かな女 雨 月
燈籠に灯ともさぬ家の端居哉 燈籠 正岡子規
燈籠に灯を入れしかば廻りそむ 岸風三樓
燈籠に灯を入れに庭登りゆく 京極杞陽 くくたち下巻
燈籠に盆狂言の灯が入りぬ 水原秋櫻子
燈籠に笠もどりたるみぞれかな 久保田万太郎 流寓抄以後
燈籠に醜老の顔照らさるる 山口誓子
燈籠に隠れ十字や百合ひらく 土肥さだ子
燈籠のあかりの中の草木かな 大橋櫻坡子 雨月
燈籠のおのづからなる長尾かな 後藤夜半 翠黛
燈籠のかげに網すく苫家哉 燈籠 正岡子規
燈籠のかげ這ふ虫の吹かれけり 臼田亜浪 旅人
燈籠のかさの上なる雪二尺 高木晴子 晴居
燈籠のかず〜濡れぬ花の雨 阿部みどり女 笹鳴
燈籠のかぶりし波の見えて消ゆ 後藤夜半 翠黛
燈籠のくらがり出来し畳かな 塩月 能子
燈籠のしだり尾くゞり朝掃除 岡本松浜 白菊
燈籠のとまれる朝の瀬石かな 比叡 野村泊月
燈籠のひとりまはるを隣の間 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
燈籠のぽっと消えけり夜半の窓 燈籠 正岡子規
燈籠のもとにきざはしありにけり 大橋櫻坡子 雨月
燈籠のもとに褥や病虚吼 岸風三楼 往来
燈籠のもとのところに上りけり 後藤夜半 翠黛
燈籠のよるべなき身のながれけり 久保田万太郎(1889-1963)
燈籠のわかれては寄る消えつつも 臼田亞浪 定本亜浪句集
燈籠の一つにはかにさかのぼる 飯田蛇笏
燈籠の下に兄弟久しぶり 清原枴童 枴童句集
燈籠の主が達者で居られたら 燈籠 正岡子規
燈籠の仔細にうつる水に置く 後藤夜半 翠黛
燈籠の何も照らさず流れゆく 岩淵喜代子 朝の椅子
燈籠の千草も消えてしまひけり 古館曹人
燈籠の夜に見初めたる遊女哉 燈籠 正岡子規
燈籠の尾にうすうすと描けるもの 後藤夜半 底紅
燈籠の岐阜提灯と竝ひけり 燈籠 正岡子規
燈籠の影おく水も暑の濁り 文挟夫佐恵 黄 瀬
燈籠の戒名習ふ子供かな 燈籠 正岡子規
燈籠の暗き畳に枕かな 雑草 長谷川零餘子
燈籠の朧に松の月夜かな 燈籠 正岡子規
燈籠の流るゝ果や秋の風 太茂津
燈籠の海となりたる墓淋し 松藤夏山 夏山句集
燈籠の海となりたる安芸の国 吉村馬洗
燈籠の消えたる後を話しけり 楠目橙黄子 橙圃
燈籠の消えてしまひし水に佇つ 林原耒井 蜩
燈籠の消ぬべきいのち流しけり 久保田万太郎 流寓抄
燈籠の消へて泣きだすやも女哉 燈籠 正岡子規
燈籠の火で飯をくふ裸かな 一茶
燈籠の火に音たてゝ秋の風 燈籠 正岡子規
燈籠の火消えなんとす此夕 燈籠 正岡子規
燈籠の灯かげの雨のもつれけり 清原枴童 枴童句集
燈籠の灯の穂の見えて来りけり 後藤夜半 翠黛
燈籠の灯をつくろひて寝るとせん 大橋櫻坡子 雨月
燈籠の灯を入れしかば廻りそむ 岸風三楼 往来
燈籠の点れば霧の匂ひもつ 林原耒井 蜩
燈籠の燃え映りたる玻璃戸かな 中尾白雨 中尾白雨句集
燈籠の燈かげの雨のもつれけり 清原枴童
燈籠の石の荒れざましずかに死ぬ 林田紀音夫
燈籠の竹にうつろふすごさ哉 燈籠 正岡子規
燈籠の笠に笊干し笹鳴ける 遠藤梧逸
燈籠の笠の冬日がまづ消ゆる 阿部みどり女
燈籠の絵にも廻れる夜空あり 後藤夜半 底紅
燈籠の絹すずやかにともりけり 太田鴻村 穂国
燈籠の花にはくらし春の雨 春の雨 正岡子規
燈籠の藍は桔梗紅は萩 下村梅子
燈籠の貧富おのづと弥陀の前 長谷川素逝 村
燈籠の赫と流れて山ばかり 杉山十四男
燈籠の門を叩くや女馬士 燈籠 正岡子規
燈籠の闇滾滾と百千鳥 黒田杏子 花下草上
燈籠の障子も替へて神迎 比叡 野村泊月
燈籠の障子も貼りて宿場寺 西本一都 景色
燈籠の雨に生国問われたり 橋石 和栲
燈籠へ立つ影に寄る影のあり 臼田亞浪 定本亜浪句集
燈籠みなきへて梢の燈籠かな 加舎白雄
燈籠も交喙のはしとかわりけり 燈籠 正岡子規
燈籠やきちがひなすび垣内にも 木津柳芽 白鷺抄
燈籠やそよ吹く風の何とやら 燈籠 正岡子規
燈籠やながれてはやき蒲の川 飯田蛇笏 山廬集
燈籠やみな動きゐる夜の雲 増田龍雨 龍雨句集
燈籠や仏づとめに子のはべる 吉武月二郎句集
燈籠や呉竹よりも揺れ易く 尾崎迷堂 孤輪
燈籠や在家の夕暮寺の昼 山夕 選集「板東太郎」
燈籠や天地しづかに松のつゆ 飯田蛇笏 山廬集
燈籠や小雨ふる夜の窓明り 燈籠 正岡子規
燈籠や愁を語る酒の上 松瀬青々
燈籠や椽を這ひ居る蟋蟀 燈籠 正岡子規
燈籠や瀬杭にとまり〜流る 西山泊雲 泊雲句集
燈籠や灯せし心暫しあり 迷堂
燈籠や美しかりし母とのみ 河原白朝
燈籠や草にすゑたる灯のしめり 寺田寅彦
燈籠や雲を忘れし海の空 大場白水郎 散木集
燈籠をかざして渓の岩づたひ 加藤五光
燈籠をともして供華のこぼれかな 太田鴻村 穂国
燈籠をともして留守の小家哉 燈籠 正岡子規
燈籠をともす揚屋の廊下かな 雑草 長谷川零餘子
燈籠をもつ子に道をたづねけり 田中裕明 先生から手紙
燈籠を二つかけたる小家かな 燈籠 正岡子規
燈籠を吊るや畳に裾曳いて 温亭句集 篠原温亭
燈籠を容れみどりなる榎かな 萩原麦草 麦嵐
燈籠を得ねぎらぬもあはれなり 燈籠 正岡子規
燈籠を捨てに来つるや浪高し 五十嵐播水 播水句集
燈籠を提げて出て来し木の間かな 比叡 野村泊月
燈籠を水に置く手をのばしけり 鈴木真砂女 生簀籠
燈籠を流して沖の冥さいふ 中島知恵子
燈籠を流し戻りてやもめかな 比叡 野村泊月
燈籠を流す河原の燈籠売 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
燈籠を見かけて馬子のたまりけり 燈籠 正岡子規
燈籠二つかけて淋しき大家哉 燈籠 正岡子規
燈籠吊る友を仏と呼びなれず 林原耒井 蜩
燈籠提げて人や穂草を泳ぎ来る 西山泊雲 泊雲句集
燈籠流しの名残り静けき夜は来たり 林原耒井 蜩
燈籠流す水足許に来てをりぬ 久米正雄 返り花
燈籠点るめぐり旱りの葉ざらざら 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
燈籠舟抱へて行きし倉の間 比叡 野村泊月
燈籠船餓鬼の仕業か覆す 柴田奈美
燈籠見えて小徑盡たり八重葎 燈籠 正岡子規
燈籠踊うぶすなの闇揺らし合ひ 橋本榮治 逆旅
父へ買ふ色やはらかき花燈籠 矢口由起枝
牡丹供養とつぷり昏れし絵灯籠 加藤玄勝
犬の名を書き灯籠を流しけり 岡田栄子
献盃式果てゝ白むや菱燈籠 名和三幹竹
獅子灯籠鶴灯籠としぐれけり 蓑谷皐一
玉菊燈籠あはれ一葉の文字あはれ 福田蓼汀 秋風挽歌
生涯にまはり灯籠の句一つ 高野素十(須賀田平吉君を弔ふ)
生者死者癩の名負へる燈籠かな 村越化石
田舟より盆燈籠の下ろさるる 今井杏太郎
町裏の奥へ奥へと絵灯籠 山崎千枝子
疫ありて燈籠多き小村哉 燈籠 正岡子規
病める子の枕に廻り燈籠かな 雑草 長谷川零餘子
痩村やひつそりとして高燈籠 高燈籠 正岡子規
白紙を張りあましある燈籠かな 後藤夜半 翠黛
白髪のうかめる燈籠明りかな 大橋櫻坡子 雨月
盆の月暫し燈籠と重なりぬ 富安風生
盆二日過て出来たる灯籠哉 一差
盆灯籠あるだけ灯しなほ淋し 藤原節子
盆灯籠くぐりじやんがら列正す 鈴木夢亭
盆灯籠ともし佃の路地に老ゆ 久保方子
盆灯籠ともす一事に生き残る 照子
盆灯籠ともせば訪ふ人のあり 柴田白葉女
盆灯籠消して二合の酒を継ぐ 角川源義 『西行の日』
盆灯籠置く墓草のまつ青な 佐野良太
盆灯籠遺影は在の産科医たり 高澤良一 素抱
盆燈籠あやふきいろに点りたる 鷲谷七菜子 花寂び 以後
盆燈籠ずらりと島の雑貨店 清崎敏郎
盆燈籠ともす一事に生き残る 角川照子
盆燈籠ともす母の手漂へり 中尾杏子
盆燈籠ともりて白き裾垂らす 右城暮石
盆燈籠の下ひと夜を過ごし故里立つ 尾崎放哉
盆燈籠の搖れ揃はず搖れ 安斎櫻[カイ]子
盆燈籠よわが酔ひしれて寝るまでなり 小澤碧童 碧童句集
盆燈籠姑の小部屋に姑のこゑ 大石悦子 群萌
盆燈籠師が供へしを真中にし 茂里正治
盆燈籠母在りし日は母の間に 二宮貢作
盆燈籠流す浮世の義理のせて 保坂加津夫
盆燈籠真白き房に風見えて 高橋淡路女 梶の葉
盆燈籠眠りに落ちて坐りゐる 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
盆燈籠花のすかしの昼白く 高井北杜
盆燈籠風立てば人うつろへり 福田甲子雄
盆迄は秋なき門の灯籠かな 服部嵐雪
目じるしや晝は杉夜は高燈籠 高燈籠 正岡子規
眠りえぬ母に燈籠つれば畳光る夜や シヤツと雑草 栗林一石路
短き尾折れ吹かれゐる燈籠かな 後藤夜半 底紅
石積の墓にも一つ燈籠かな 松藤夏山 夏山句集
祖母在ますごと燈籠を吊りにけり 臼田亞浪 定本亜浪句集
秋の哀れ廻り燈籠をかけて見る 赤木格堂
秋草の一つは消えし燈籠かな 長谷川かな女 雨 月
秋草の廻り出したり盆灯籠 平間裕子
秋葉さま高灯籠の夕立かな 山本洋子
秋近き水の関所の燈籠かな 雑草 長谷川零餘子
稚児舞楽遠巻きにして花灯籠 加藤有水(麓)
稻妻に燈籠の火のあばきかな 稲妻 正岡子規
稻妻や廻り燈籠は消えにけり 稲妻 正岡子規
稻妻や高燈籠にふりかゝる 稲妻 正岡子規
突堤や燈籠流す人ゆきゝ 五十嵐播水 播水句集
竹く方に又地蔵会の絵燈籠 比叡 野村泊月
籔陰を誰がさげて行く燈籠哉 燈籠 正岡子規
籔陰を誰がよそ行くや燈籠哉 燈籠 正岡子規
紅染めし燈籠水を廻すかな 長谷川かな女 雨 月
紙燈籠絵の眼つめたくはや朝か 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
紙燈籠雷のひかりにしらみけり 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
絵柄ほぼおなじ燈籠置行燈 後藤夜半 底紅
絵灯籠くらき道来し子の哀れ 富田木歩
絵灯籠並ぶ原爆絵図の下 石川纓子
絵灯籠吊れば秋なり武蔵野は 林原耒井
絵灯籠競ひ流るる友禅祭 古市柊華
絵燈籠くらき道来し子の哀れ 富田木歩
絵燈籠ともして幾夜亡き子亡し 及川貞 夕焼
絵燈籠やくらき道来し子の哀れ 木歩
絵燈籠吊れば秋なり武蔵野は 林原耒井 蜩
絵絹灯籠虫の音近し草の花 調菅子 選集「板東太郎」
緑蔭に智光燈籠朱文字なる 西本一都 景色
置燈籠まづ消す雨の到りけり 石川桂郎 高蘆
美女美男灯籠にてらす迷ひかな 其角
羽後湯沢闇に父母絵灯籠 高嶋藤之助
老の手のふるへて灯す燈籠かな 比叡 野村泊月
肢さげて蜂来る昼の小燈籠 高井北杜
膝頭冷えて更けたり盆燈籠 木歩句集 富田木歩
自安我楽を待つ灯籠に灯を入れて 小関忠彦
舟ばたによりし燈籠を覗きけり 比叡 野村泊月
舷に流れつまづく燈籠かな 軽部烏頭子
花にあかぬ歎きはいつも影灯籠 惟中
花灯籠挿しに子と来る三滝寺 大西八洲雄
苗運び畦燈籠を邪魔とせず 吉本伊智朗
草々を照らしてゆくか灯籠舟 関戸靖子
草の雨燈籠さげて通りけり 燈籠 正岡子規
草ふかき燈籠に灯をつぎ去れる 近藤一鴻
草市や柳の下の燈籠店 草市 正岡子規
草市や燈籠白き夕まぐれ 子規句集 虚子・碧梧桐選
草市や髭題目の小燈籠 野村喜舟 小石川
萩ちるや檐に掛けたる青燈籠 萩 正岡子規
萩の下の水に燈籠の灯影かな 比叡 野村泊月
萩垂れて燈籠かくす風情かな 岸風三楼 往来
萩垣や萩の葉隱れ釣燈籠 燈籠 正岡子規
萩芒縁まで茂る燈籠哉 小澤碧童 碧童句集
落ちそめし雨に立ち去る燈籠かな 比叡 野村泊月
葛水に牡丹燈籠の映りけり 長谷川かな女 雨 月
薄絹に燈籠の火の朧かな 燈籠 正岡子規
藪かげは誰か買ふて行く燈ろう哉 燈籠 正岡子規
虫の鳴隅隅暗し石灯籠 虫の声 正岡子規
蚊帳ごしに仏間の燈籠かんかりと 清原枴童 枴童句集
蝉当りて色動きたる燈籠かな 月舟俳句集 原月舟
行きずりの燈籠の辺の闇つづく 岩淵喜代子 朝の椅子
行くほどに上京淋し高燈籠 召波
行く方に又地蔵会の絵燈籠 野村泊月
袋角春日灯籠の隙間より 岩崎照子
袖にみなとおもひやよりし舟灯籠 季吟
見て通るよその燈籠や籬の内 寺田寅彦
見る人も廻り灯篭に廻りけり 其 角
誰がための白き燈籠ぞ作りゐる 太田鴻村 穂国
谷川を一つ流るる燈籠かな 吉武月二郎句集
買はず帰る廻燈籠の絵は覚え 鈴木鷹夫 渚通り
賤が檐端干魚燈籠蕃椒 燈籠 正岡子規
起し繪を照す西瓜の灯籠哉 西瓜 正岡子規
起も居なか燈籠の灯の深みたり 林原耒井 蜩
踊すみ燈籠納めすみ闇夜 長谷川素逝 村
踊すみ燈籠送りすみ闇夜 長谷川素逝 暦日
身の罪を水に流して流燈會 燈籠流 正岡子規
身の罪を水に流すか流燈會 燈籠流 正岡子規
身延山花冷からかね灯籠に 高澤良一 燕音
軍絵の廻り燈籠売れにけり 臼田亞浪 定本亜浪句集
近々と織部燈籠星笹に 京極杞陽
送らるる鬼灯籠ををとこに持たせ 鈴木栄子
逆汐にたかだかと泛く燈籠かな 飯田蛇笏 山廬集
遠ければ瀬はただの白絵燈籠 魚目
遠浅にむれてあまたの燈籠かな 飯田蛇笏 山廬集
遠里や稲葉の末の高燈籠 蝶夢
遺されし人に燈籠廻りけり 下村梅子
遺されし母子みづいろ盆燈籠 中嶋秀子
酔うことに決め燈籠の露けしや 橋石 和栲
里の燈をちからによれば灯籠哉 炭 太祇 太祇句選後篇
里川や燈籠をさげて渡る人 燈籠 正岡子規
里川や燈籠提けて渉る人 燈籠 正岡子規
野蕪女来よ花鳥かなしき絵燈籠 西本一都 景色
釣燈籠に東風そゞろなる殿づくり 島村元句集
鈴虫の籠に燈籠の月夜哉 鈴虫 正岡子規
錦絵を貼りし床屋が燈籠哉 会津八一
鎌倉に燈籠くらき夕かな 燈籠 正岡子規
長旅の城下へ出れば灯籠かな 黒柳召波 春泥句集
門前の榎に高き燈籠かな 寺野竹湍
雨そぼ〜灯籠の灯の朧なる 寺田寅彦
雨だれのしぶき明かに燈籠かな 西山泊雲 泊雲句集
雨となる嶋がくれゆく燈籠かな 飯田蛇笏 春蘭
雪の暮石灯籠に灯を入れて 長谷川櫂 蓬莱
雪舞へり万灯籠の点るより 巽恵津子
雪院へ行かんとすれば燈籠哉 燈籠 正岡子規
雪院へ通ふ廊下の燈籠哉 燈籠 正岡子規
雫せよ若葉か下の石灯籠 若葉 正岡子規
零落は語らず作る墓灯籠 芥川さとみ
霄闇の気のおとろひや高燈籠 高井几董
霜柱石灯籠は倒れけり 正岡子規
露けしや地震の創ある石灯籠 市川典子
露けしや高灯籠のひかへ綱 加舎白雄
青北風や堅田にのこる高燈籠 山口草堂
青柳や灯をともしたる石灯籠 青柳 正岡子規
頬骨たくましく灯けては燈籠流しけり 月舟俳句集 原月舟
風の日は障子のうちに灯籠かな 高浜虚子
風吹て廻り燈籠の浮世かな 走馬燈 正岡子規
風蘭のほのかに白し鉄燈籠 風蘭 正岡子規
風鈴は鳴りぬ燈籠は廻りけり 青木月兎
首なしのてくてく廻り燈籠哉 会津八一
高波を躍り越えたる燈籠かな 比叡 野村泊月
高灯籠ひるはものうき柱かな 千 那
高灯籠惣検校の舟の宿 蕪村遺稿 秋
高灯籠消なんとするあまたたび 蕪村
高燈篭寺前の池に移りけり 黒柳召波 春泥句集
高燈籠あがり青田を夜が掩ふ 石原舟月
高燈籠しばらくあつて嶺の月 立花北枝
高燈籠暫くあつて嶺の月 北枝
高燈籠枯葉と共に卸しけり 古白遺稿 藤野古白
高燈籠消なんとするあまたゝび 蕪村
高燈籠滅(きえ)なんとするあまたたび 與謝蕪村
高燈籠見まじとすれば目にかゝる 成美
鬼灯籠提げだらだらと帰りけり 天田牽牛子
鬼灯籠玉かんざしの妓が提げて 今泉貞鳳
魁然と金剛峯寺の切子灯籠かな 日野草城
魂送る家紋燈籠ひくく吊り 有働亨 汐路
鴛鴦浮くや燈籠も松も何も冬 尾崎迷堂 孤輪
黍畑に沈める軒の燈籠かな 比叡 野村泊月
黒羽の雨となりけり絵灯籠 土屋秀穂
黒舟と果てて漂ふ灯籠かな 阿波野青畝
黒髪に山鹿灯籠点りけり 岩切貞子
黒髪に結びしを山鹿灯籠と 後藤比奈夫
龍之介忌の灯篭の孔暗し 佐々木いつき
●銅鑼
みんみんに銅鑼を鳴らしてゐるばかり 馬場龍吉(俳句)
ナホトカに帰る霜夜の船の銅鑼 福田甲子雄
出港の銅鑼鳴り夏の神の島 川満苗子
出航の銅鑼に闘ふ熱帯魚 松山足羽
吹雪く扉の銅鑼の音聞きたがへざれ 林原耒井 蜩
壱岐埠頭時雨の銅鑼となりにけり 文挟夫佐恵 遠い橋
夏天より兵力輸送船の銅鑼 片山桃史 北方兵團
夏潮に水葬礼の銅鑼鳴りぬ 丸山哲郎
宝珠追うくんちの竜やドラ響く 太刀川虚無
放生の鵜川に銅鑼を高く打つ 川竹千代子
春立つとカトレヤ丸が銅鑼鳴らす 原田青児
春節や銅鑼の巨濤に呑まる路地 高澤良一 素抱
春陽と銅鑼 港の迷路の隅まで 充ち 伊丹公子 メキシコ貝
朝曇出航の銅鑼湾わたり 蓑和松徑
朝東風や首里城開ける銅鑼の音 坂田静枝
沈丁やまらうどに銅鑼叩かする 野村喜舟 小石川
海に銅鑼蘗もいま葉いつぱい 成田千空 地霊
海明けや石葺屋根に銅鑼を打つ 三国眞澄
海霧深し昼を夜につぐ銅鑼の音 道川源治郎
淋しさにまた銅鑼うつや鹿火屋守 花影(自選句集花影) 原石鼎
淋しさにまた銅鑼打つや鹿火屋守 原石鼎
秋深し銅鑼を掲げて谿の底 林原耒井 蜩
稲雀ぐわらん〜と銅鑼が鳴る 村上鬼城
紙銭燃え盆も終りの銅鑼鳴らす 木屋四風子
落葉きよし名残の銅鑼を打ちて別る 及川貞 榧の實
見殺や/じつに静かに/百鳴る銅鑼 高柳重信
負くまじきペーロン銅鑼を滅多打ち 下村ひろし
銅鑼が鳴り冬がはじまる女郎蜘蛛 和知喜八 同齢
銅鑼の音の一際高き返り花 森 美砂子
銅鑼単調ひそと煙草をふかす胃に 河合凱夫 藤の実
銅鑼縁より緑青を噴き夏の空 中田剛 珠樹以後
青バナナ子に買ひあたふ港のドラ 細見綾子 黄 炎
鬼やらふ大いなる銅鑼打ち鳴らし 山下智子
●如意宝珠
かげろふや破風の瓦の如意宝珠 許六 二 月 月別句集「韻塞」
●涅槃図
えいえいと担ぎ出したる涅槃絵図 伊藤伊那男
お風入れ涅槃図ごわと畳まるる 高澤良一 さざなみやつこ
かけ通す涅槃図のあり冬の寺 阿部みどり女 笹鳴
かたまりて涅槃図の猫探しをり 摂津よしこ
かへりみて涅槃図の月あをかりし 行方克巳
くちやくちやに象の嘆ける涅槃絵図 福神規子
ともしびの揺れてぐらりと涅槃絵図 片山由美子
まだ哭いてゐる涅槃図を巻きにけり 木村淳一郎
まひるまの涅槃図へ朱を入れたりき 夏石番矢
ピエタより煌やかなる涅槃図や 相生垣瓜人 明治草抄
人獣大きさ違ふ涅槃図絵 能村研三 鷹の木 以後
仔細みて仔細は知らず涅槃絵図 塩川雄三
北枕真北に涅槃図絵垂らす 赤松[けい]子 白毫
咳一つして涅槃図の中に入る 秋澤猛
啼き声を巻きて涅槃図ふくらみぬ 近内ひさ子
土までも能登はやさしや涅槃絵図 中山純子
地獄絵のあと涅槃図にひざまづく 石野 冬青
坐る余地まだ涅槃図の中にあり 静塔
墨客に大涅槃図の掛かりあり 福井啓子
大いなる涅槃図にして余白なし 吉原一暁
大涅槃図吊る十人の襷がけ 本多正人
就中月の大きな涅槃図絵 福井圭児
展げゆく涅槃図後へすざりつつ 原田青児
山寺や涅槃図かけて僧一人 星野立子
巻き了へて涅槃図のなか遙かにす 正木ゆう子 静かな水
師の柩囲む涅槃図さながらに 布施玉枝
座る余地また涅槃図の中にあり 平畑静塔
悲しさの極みの怒り涅槃絵図 大野崇文
折りにくき膝を折りけり涅槃図に 波多野爽波 『一筆』
擁きあふわれら涅槃図よりこぼれ 恩田侑布子
断崖のごとくに涅槃図を仰ぐ 中岡毅雄
日月の高さひとしく涅槃絵図 山崎幻児
昨日見せざりし涅槃図今日掛かる 森田峠 避暑散歩
朱の多き涅槃図かかり湖の寺 森澄雄 空艪
極楽の風涅槃図に吹いてをり 小林一鳥
段々と目のなれて来し涅槃絵図 志賀松声
毛深きは嘆きも深く涅槃絵図 大堀柊花
泉州の潮の香沁みし涅槃絵図 山本いさ夫
泣く猿のつむり撫でたき涅槃絵図 木田千女
涅槃図が死ね死ね我れを責めゐたり 河野多希女 両手は湖
涅槃図にしのびよりしは水明り 野中秋光
涅槃図につかふ天井までの丈 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
涅槃図になき海に出て遊ぶなり 原田喬
涅槃図にならひし手脚縛さるる 加藤知世子 花 季
涅槃図にひくく坐りてをみなわれ 岩崎照子
涅槃図にひとり経あげ沙弥去れり 大橋敦子 手 鞠
涅槃図にぽぽつぽぽつと和らうそく 西村和子
涅槃図にまやぶにんとぞ読まれける 後藤夜半 翠黛
涅槃図に一*ちゅう加へ僧去りぬ 山田弘子 こぶし坂
涅槃図に一匹まじる腹の虫 星永文夫
涅槃図に不参の猫よ身を売るな 有馬朗人 母国
涅槃図に五月蠅ひとつの参じたり 大橋敦子 勾 玉以後
涅槃図に今なら細身割り込める 小内春邑子
涅槃図に佇ちて空腹すべもなし 行方克己 昆虫記
涅槃図に侍れるときも鴛鴦の沓 後藤夜半 底紅
涅槃図に充つ泣き声や年の果 宮坂静生 春の鹿
涅槃図に入らず白鳥引きにけり 村上沙央
涅槃図に入らむばかりに拝しけり 伊藤通明
涅槃図に入りきれざる鳥のこゑ 伊藤伊那男
涅槃図に入りたし切に哭かんため 水巻令子
涅槃図に入りて哭きたき日のありぬ 伊東みのり
涅槃図に入り昏昏と眠りたし 倉橋羊村
涅槃図に入れぬ亀の鳴きにけり 山本白雲
涅槃図に加へてみたきあめふらし 大木あまり 火球
涅槃図に嘆きすぎゐるもの賤し 後藤比奈夫
涅槃図に坐り加はる旅を来し 赤松[けい]子 白毫
涅槃図に坐り直して魅入る人 高澤良一 随笑
涅槃図に声満ち裏側の空白よ 成瀬櫻桃子 素心
涅槃図に天人鬼神なくもがな 後藤比奈夫 めんない千鳥
涅槃図に小さき涙描かれず 菅原章風
涅槃図に居ぬ猫鳴きて燭揺るる 田中英子
涅槃図に幼きものは描かれずに 森澄雄 空艪
涅槃図に影を落として燭を継ぐ 澤村秀子
涅槃図に後ずさりしてやがて去る 鈴木鷹夫 大津絵
涅槃図に日も月も出て相照らす 熊口三兄子
涅槃図に日本人の顔あらず 茨木和生 野迫川
涅槃図に望の月あり照しけり 鈴木栄子
涅槃図に束の間ありし夕日かな 敦
涅槃図に母探しゐるうつつかな 鈴木鷹夫 大津絵
涅槃図に泣きしねずみと野路に会ふ 野見山朱鳥
涅槃図に泣き声を描き忘れけり 宮坂静生
涅槃図に洩れて障子の外の猫 村越化石
涅槃図に濁世の燭を奉る 木村幸子
涅槃図に煉炭の香のまぎれなし 辻桃子
涅槃図に猫ゐることを意にするな 鈴木栄子
涅槃図に猫坐りたしうろうろす 中川指月
涅槃図に立てば濁世の遠ざかる 辻本青塔
涅槃図に竹藪の日の動きをり 山本洋子
涅槃図に紛れ込みたるひとの翳 十玉幸男
涅槃図に翡翠の色さがしをり 大島清子
涅槃図に蚯蚓が泣いてをりにけり 行方克己 昆虫記
涅槃図に蟠(わらぢむし)とも草履とも 小澤實
涅槃図に話しかけゐる嫗かな 高橋玉洋
涅槃図に跳ねて加はる赤蛙 夏井いつき
涅槃図に近づきこの世遠くしぬ 北澤瑞史
涅槃図に顔寄せ俳句亡者かな 藤田湘子 てんてん
涅槃図に鵯の鋭声のつきあたり 石嶌岳
涅槃図に鶴すべりをる樹もあらむ 大屋達治 繍鸞
涅槃図のあなうら若き麻耶夫人 細川加賀 『玉虫』
涅槃図のいやしきは口あけて泣く 殿村菟絲子 『晩緑』
涅槃図のごとく集ひて風生忌 松本澄江
涅槃図のそとは驟雨の日本海 原田喬
涅槃図のたるみを見せず増上寺 高澤良一 素抱
涅槃図のふはりとこの世煽りたる 赤松[ケイ]子
涅槃図のみんな出て来い酒を呑め 工藤克巳
涅槃図の一人みづみづしくありぬ 綾部仁喜 寒木
涅槃図の一枚を巻き一本に 鈴木鷹夫 千年
涅槃図の一部始終へ燭を寄す 今井君江
涅槃図の中や向きあふもののなし 小川軽舟
涅槃図の中流れゐる微風かな 鈴木鷹夫 春の門
涅槃図の丹のさびしさも尼の寺 肥田埜恵子
涅槃図の人ことごとく大頭 藤田湘子(1926-)
涅槃図の人参大根なべて哭く 岡田史乃
涅槃図の余白の我を思ふべし 橋本榮治 麦生
涅槃図の余白は風の哭くところ 土生重次
涅槃図の余白を金に埋めつくす 石嶌岳
涅槃図の内外風の吹いてをり 池邨田鶴子
涅槃図の冷えの伝はる膝がしら 近藤 暁代
涅槃図の前ゆつくりと猫あゆむ 佐藤 木鶏
涅槃図の前をこの世の猫通る 松本澄江
涅槃図の前勿体なの大嚏 大橋敦子 勾 玉以後
涅槃図の剥落も又なげきかな 吉田美佐子
涅槃図の嘆きに燭の揺らぎけり 栗原憲司
涅槃図の嘆きのなかに吾も入る 菜畑絹女
涅槃図の嘆きの丈を掛けにけり 山岡 季郷
涅槃図の嘆きの端に加はりし 井田すみ子
涅槃図の嘆きの蟻の高あゆみ 村上梅泉
涅槃図の嘆きは黄ばむ沙羅樹にも 乾 登美子
涅槃図の嘆きを揺らす燭の揺れ 廣瀬裕子
涅槃図の嘆のさまざま地を叩き 長谷川久々子
涅槃図の寺旅人を泊めにけり 黒田杏子 木の椅子
涅槃図の巻き皺三百年の皺 平畑那木
涅槃図の巻皺象の鼻ゆがむ 川原友江
涅槃図の悲しみ褪せてをらざりし 藤崎久を
涅槃図の暮れゆく紺に誘われる 稲葉 直
涅槃図の月が最後に捲かれけり 市堀 玉宗
涅槃図の月たかだかとありしかな 茂里正治
涅槃図の月の暗さのただならず 山田弘子 懐
涅槃図の月は光を失ひぬ 中憲子
涅槃図の月は無くとも沙羅双樹 阿部慧月
涅槃図の月もまどかに菊月夜 大島民郎
涅槃図の有象無象のやさしさよ 行方克巳
涅槃図の樹かげに小さきははの荷ぞ 関戸靖子
涅槃図の泣きゐる人は歯をみせて 浜田きみ子
涅槃図の泣くにほどよき暗さかな 平子 公一
涅槃図の泣顔どれもこれも佳き 藤田湘子 てんてん
涅槃図の猫の嘆きのしづかなり 大石悦子 百花
涅槃図の猫神妙に侍りけり 岩崎眉乃
涅槃図の猿も涙をこぼしけり 佐川広治
涅槃図の獣に続き吾等在り 高木石子
涅槃図の獣のなげき子にうつる 佐野良太 樫
涅槃図の生きとし生けるものに地震 西本一都
涅槃図の白を余して慟哭す 相良哀楽
涅槃図の百足虫の足と毛虫の毛 斎藤朗笛
涅槃図の竜のなげきは火を吹きて 八十嶋祥子
涅槃図の端に落つこちさうな亀 河内きよし
涅槃図の絵解きなかなか蛇に来ず 茨木和生 野迫川
涅槃図の絵解の竿も伝はりぬ 後藤夜半 底紅
涅槃図の若草色の大地かな 村中[トウ]子
涅槃図の虎も泪す釈迦の裾 石井大泉
涅槃図の虫魚の歎きとは如何に 大橋敦子 匂 玉
涅槃図の蟻大啓蟄の蟻こまか 西本一都 景色
涅槃図の表裏に隙間なかりけり 館岡沙緻
涅槃図の裏に人ゐる気配する 加倉井秋を 午後の窓
涅槃図の裏の暗さを覗き見る 島谷ときを
涅槃図の裏よりとどく母のこゑ 原裕 新治
涅槃図の裾に赤子の這うて来し 加治幸福
涅槃図の裾の巻きぐせ兎泣く 田上さき子
涅槃図の裾人間の塵立ちぬ 丸山景子
涅槃図の貝いかにして来たりけむ 小澤實 砧
涅槃図の釈迦の口ひげ濃かりけり 佐藤邦子
涅槃図の釈迦を若しと拝しけり 肥田埜勝美
涅槃図の雲硬しとも柔しとも 藤田湘子 てんてん
涅槃図の頭に敷く肘の痛からむ 木田千女
涅槃図の鬼の金冠粗なりけり 稲荷島人
涅槃図はひろびろと目のとどかざる 山本歩禅
涅槃図は黄金光にひびわれぬ 阿波野青畝
涅槃図へあと一躙寄れば入る 毛塚静枝
涅槃図へいそぐ兎か日向山 木内彰志
涅槃図へ潮の匂ひの手を合はす 斎藤梅子
涅槃図へ鳴る遠州の庭の滝 大島民郎
涅槃図やけむりの如き貌ばかり 関戸靖子
涅槃図やこの世をゆたかなる彩に 手塚美佐 昔の香
涅槃図やしづかにおろす旅鞄 黒田杏子 木の椅子
涅槃図や有情のなかの蚯蚓ン氏 河野静雲 閻魔
涅槃図や横に置かれし油壺 竹内悦子
涅槃図や生きとし生けるものに地震 西本一都 景色
涅槃図や身を皺にして象泣ける 橋本榮治 麦生
涅槃図や逆髪一人のみならず 森田峠
涅槃図や麦生る陰と生らぬ陰 後藤貴子
涅槃図をあふるる月のひかりかな 黒田杏子 花下草上
涅槃図をかけたる寺の閏月 萩原麦草 麦嵐
涅槃図をたたむ一つの棒にして 大郷耕花
涅槃図をはみ出て跳ねる雨蛙 田中水桜
涅槃図を仰げりマスクかけしまま 長谷川かな女 花 季
涅槃図を労作として又見たり 相生垣瓜人 明治草抄
涅槃図を去り直ぐ蜑の頬かむり 石井とし夫
涅槃図を吊るだけにある梁の釘 柳澤草笛
涅槃図を咫尺に拝す仔細かな 大橋敦子 手 鞠
涅槃図を展けばそこにサタンの瞳 古市絵未
涅槃図を巻き慟哭を消してゆく 松村幸一
涅槃図を巻くや短き掌が残る 衣川次郎
涅槃図を御詠歌唱ひ下ろしけり 武田孝子
涅槃図を抜けし田面のとりけもの 関戸靖子
涅槃図を抜けて一人の鍬を振る 濱本 八郎
涅槃図を抜け恋猫となりゐたる 北見さとる
涅槃図を拝みて婆のひとり言 菖蒲あや あ や
涅槃図を捲くや寝釈迦の捲かるるや 大石悦子 百花
涅槃図を捲ける難儀に来合はせし 大石悦子 百花
涅槃図を掛けんとすなる僧五人 高浜虚子
涅槃図を見てきたような乳房かな 久保純夫 熊野集 以後
涅槃図を見て幼児が象を指す 浜端順子
涅槃図を見て来し吾も横たへる 杉山岳陽
涅槃図を見にゆけばもう仕舞はれし 辻桃子
涅槃図を見尽してより顔昏るる 畠山譲二
涅槃図を見尽すことの難しや 池田秀水
涅槃図を解く一斉に樹々騒ぐ 鈴木鷹夫 春の門
涅槃図を過ぐしとやかに寺の猫 猪俣千代子 秘 色
涅槃絵図十大弟子の名は知らず 寺田圭子
涅槃絵図灯りてわが身はみだせり 白澤良子
炉に覚めし蛾や涅槃図に入りゆかず 吉野義子
猫坐る珍の涅槃図龍光寺 野村佳津
生きものの皆色淡き涅槃絵図 福嶋延子
生臭き息を憚る涅槃絵図 浜渦美好
白象の牙上げて哭く涅槃絵図 松本圭二
白象の耳もて哭けり涅槃絵図 安田新参子
白象を笑ひ嘆かせ涅槃図絵 赤松子
緋の色の他は薄れて涅槃絵図 田所節子
繕ひもならぬ涅槃図巻きしまゝ 森田峠 避暑散歩
蛇を恐れぬ涅槃図の蛙かな 松尾隆信
見るたびに見かけぬが居り涅槃図絵 大住日呂姿
貧乏はいそいそ涅槃図をひろげ 長谷川双魚 風形
貧相に描かれし蛇涅槃絵図 茨木和生 往馬
退いて視野に収めし涅槃絵図 古賀幹人
遠目にはひと色なりし涅槃絵図 澤井悠紀子
野菜涅槃図葱の高足侍りけり 高澤良一 燕音
鎌たたみ哭くいぼむしり涅槃絵図 尾崎浅陽
隣り合ふ青年の息涅槃図絵 鈴木鷹夫 春の門
青鬼の背中が泣いて涅槃絵図 規子
風入れの涅槃図六畳領しけり 関森勝夫
馬鹿長き箱涅槃図を蔵すてふ 能村登四郎 寒九
駄句百句捨てに涅槃図見て歩く 中村葉子
鰯雲沖かけて燃ゆ涅槃図絵 柴田白葉女 『月の笛』
鳥獣にはじめて泪涅槃絵図 井沢正江 一身
鳥雲に入りて涅槃図にめぐりあふ 小檜山繁子
黙といふもの涅槃図に描かれをり 河内静魚
●念珠
かくし持つ念珠一連後の月 角川照子
さら〜と琥珀の念珠彼岸僧 河野静雲 閻魔
さわさわと念珠づたいの渚あり 林田紀音夫
つづれさせ念珠一途に繰る如し 荒井正隆
ふところに念珠一連山眠る 鈴木鷹夫 大津絵
体温を越えし念珠や虎落笛 鳥居美智子
信心の懈怠の黴の念珠かな 景山筍吉
刀自の手になまめく念珠蓮見舟 河野静雲 閻魔
囀りの念珠入れたる雑木山 澄雄
土筆摘む胸に念珠のボケ封じ 舘 柳歩
寒禽の念珠つなぎの梢かな 高田秋仁
嶽澄めり死んでゆく日の念珠購ふ つじ加代子
川狩や念珠みえたる爺の腰 綾部仁喜 樸簡
念珠を越え海へ出でゐる鰯雲 関塚康夫
念珠買ふ甘茶を口に含みゐて 楠崎止子
日盛の念珠懸けたる柱かな 松村蒼石 寒鶯抄
月見能僧の押しもむ荒念珠 佐野美智
梅もどき折るや念珠をかけながら 蕪村
母の日の懐中におく念珠かな 原裕 正午
水晶の念珠つめたき大暑かな 日野草城「青芝」
水晶の念珠に映る若葉かな 茅舎
水晶の念珠ふれたる昼寝覚め 中嶋秀子
清明の路ゆく媼が念珠かな 飯田蛇笏 山廬集
百日紅風に散りゐる念珠ヶ関 池内けい吾
空海忌念珠貫く赤き紐 小澤 實
立冬の白波遠く念珠置く 桂信子 緑夜
網干木に念珠掛けあり晝蛙 下村ひろし 西陲集
花摘めばかげろふ袖の念珠かな 西島麦南 人音
芽吹く枝に吊つて念珠の落しもの 大木あまり 火球
菩提子をひろふ念珠に足らざれど 片山由美子
菩提樹の念珠に貰ふパワーかな 豊島靖子
蛭蓆念珠忘れて来たりけり 関戸靖子
蟻の道念珠繰る如つゞくなり 塩田東邨
見残せし梅や莟を念珠とも 尾崎紅葉
雪解雫念珠粒々石ぶみに 成田千空 地霊
青嵐海へせり出す念珠が関 田淵定人
顔ばせに念珠をのせて昼寝僧 菅原独去
●仏書
仏書と置いて青いクロースの菊の此書 梅林句屑 喜谷六花
仏書より好きな俳書や冬籠 月尚
仏書幡く蟻来る明るし 梅林句屑 喜谷六花
手擦れたる仏書繙く親鸞忌 笹部秋江
晩学の寒声嗄らし仏書読む 鈴木鈴風
沙羅咲いて仏書俳書と庫裡の棚 山田弘子 こぶし坂
●仏壇
いつせいに芽ぶきの中や小仏壇 中山純子 沙 羅以後
かまきりを仏壇返ししてあそぶ 飴山實 『花浴び』
けんらんの仏壇を持ち雪囲ひ 吉本伊智朗
こほろぎの佛壇の中に鳴出しぬ 蟋蟀こほろぎ<虫+車> 正岡子規
みなは寝し仏壇とぢてひと夜の蒲団に入る 梅林句屑 喜谷六花
やぶ入の佛壇拜む名殘哉 藪入 正岡子規
一つ荷の仏壇置けり鹿火屋守 茨木和生 三輪崎
仏壇ある家の奥まで秋夕焼 柴田白葉女
仏壇と電話の黒き簾かな 依光陽子
仏壇にかざりてぞあらん古雛 雛 正岡子規
仏壇にしづけさは棲む柿若葉 鍵和田[ゆう]子 浮標
仏壇にちちとははゐて梨ひとつ 櫛原希伊子
仏壇になる木西日にたてかける 柴勇起男
仏壇にのせある手紙散牡丹 山田弘子 螢川
仏壇にひゞき秋夜の汽車通る 梶井枯骨
仏壇にバレンタインのチヨコレート 山根きぬえ
仏壇に一つの柿のあかるさ置く 中山純子 沙羅
仏壇に仏のかずのさくらんぼ 廣瀬直人「矢竹」
仏壇に似し金閣よ水を打つ 岩田由美 夏安
仏壇に供へておのが桃確保 中田みなみ
仏壇に先祖こみあふ涼しさよ 長谷川双魚 風形
仏壇に初灯明の火を捧ぐ 笠間愛子
仏壇に十日の菊のにほひかな 蝶夢 選集古今句集
仏壇に句稿あづくる霜夜かな 佐野青陽人 天の川
仏壇に在す父母冬ごもり 河野静雲 閻魔
仏壇に坐らぬ柿は父の柿 鈴木鷹夫 大津絵
仏壇に実梅の青の十ばかり 毛呂刀太郎
仏壇に尻を向けたる団扇かな 夏目漱石 明治二十九年
仏壇に御難の餅として供ふ 名取文子
仏壇に据ゑられ桃の尻潰ゆ 品川鈴子
仏壇に朝日が当り夏疲れ 桑原三郎 晝夜
仏壇に桃活けてある三日哉 桃の花 正岡子規
仏壇に梨の坐りの全しや 高澤良一 素抱
仏壇に水仙活けし冬至かな 高浜虚子
仏壇に浄瑠璃本の夜寒かな 針 呆介
仏壇に火の気きさらぎ去りにけり 長谷川双魚 風形
仏壇に置く金柑と宝くじ 奥村文洋
仏壇に雛段からの金花糖 中山純子 沙 羅以後
仏壇に電球の買ひ置き花慈姑 宮坂静生
仏壇に顔入れて煤払ひけり 永方裕子
仏壇のある間も泊めて鮎の宿 林 夾山
仏壇のうらがはに鳴り秋出水 座光寺亭人
仏壇のおせんたくてふ涼しき語 杉本寛
仏壇のともりしままや去年今年 下田童観
仏壇のバーゲンセール年の暮 柏原眠雨
仏壇の中のつめたき良夜かな 大森理恵
仏壇の中の暑さを尋ねけり 守屋明俊
仏壇の中の暗きに百合ひらく 菖蒲あや「あや」
仏壇の中も茶ぼこり焙炉どき 大森積翠
仏壇の兄はみどり児小豆粥 深見けん二
仏壇の十字架崩し紋の黴 小原菁々子
仏壇の十日の菊の香かな 蝶夢
仏壇の大きな家の春の暮 藤田湘子
仏壇の夫暑からん扉を開ける 谷脇春子
仏壇の奥のもの見え夕焼どき 鷲谷七菜子 花寂び
仏壇の奥行しらず夏椿 正木ゆう子「正木ゆう子集」
仏壇の妻の写真も日短か 森澄雄
仏壇の妻より貰ふ桜餅 高原喜久郎
仏壇の宙に生きもの春の塵 鷹羽狩行 第九
仏壇の小さき戸じまり枇杷の花 檜紀代
仏壇の山吹散りし茶湯哉 山吹 正岡子規
仏壇の扉開かせくる雪崩 対馬康子 吾亦紅
仏壇の柑子を落す鼠かな 正岡子規
仏壇の梨に経あげ腐らしぬ 円城寺龍
仏壇の水の減りゆく蝶の晝 中尾寿美子
仏壇の水替へてゐる帰省の子 長野啓女
仏壇の灯に遠からず走馬灯 山田弘子 螢川
仏壇の灯りも加へ種選 黛執
仏壇の灰を貰いに藜の杖 樫村栄江
仏壇の煤を払ふや南無阿弥陀 阿部みどり女 笹鳴
仏壇の燭消してより涅槃雪 田中英子
仏壇の白百合二本海に向く 井上雪
仏壇の祖父にはにかむ 日焼姉妹 伊丹公子 メキシコ貝
仏壇の秋暑の扉開けてあり 斉藤美規
仏壇の花の中より鉦叩 吉川信子
仏壇の菊しばらくはかたきかな 金田咲子 全身 以後
仏壇の菓子うつくしき冬至かな 正岡子規
仏壇の華に遊びしかたつむり 加藤抱蘭
仏壇の街というもの寒昴 対馬康子 純情
仏壇の裏を金魚屋通りけり 八百板俊子
仏壇の裏通ひ路や嫁が君 名和三幹竹
仏壇の金をくもらす蒸し藷 檜 紀代
仏壇の鉦の色もて石蕗が咲く 高澤良一 宿好
仏壇の間に朧夜の母ひとり 廣瀬直人
仏壇は要らぬさくらんぼがあれば 小西昭夫
仏壇へ十一月の山の影 鈴木厚子
仏壇へ花の散り込む時を見き 柏 禎
仏壇も仏も春の光り哉 春 正岡子規
仏壇も他宗かぶれや繭の主 大谷句佛 我は我
仏壇も露も大きく芋の秋 大峯あきら 宇宙塵
仏壇や夜寒の香のおとろふる 飯田蛇笏 霊芝
仏壇や春潮を羽つよき鳥 宇佐美魚目 秋収冬蔵
仏壇より借りくる文月のチャッカマン 高澤良一 素抱
仏壇をどこに置いても極暑なる 藤田守啓
仏壇をゆすりに来たり青嵐 原田喬
仏壇を吉野の花に開きあり 沢木欣一 遍歴
仏壇を溢れし水仙昼も夜も 阿部みどり女 月下美人
仏壇を磨く帰郷や春障子 吉川能生
仏壇を空つぽにして盆支度 鈴木たけ
仏壇を負う男炎天の山脈見えぬ 和田悟朗
仏壇を買ひし今年や草の市 白水郎句集 大場白水郎
仏壇を閉ぢて仏間も蚕飼ふ 浜牧
仏壇を閑めて始めし畳替 山村美恵子
仏壇積みしリヤカーが越す冬の橋 館岡沙緻
位牌ひしめく仏壇氷の奥が透き 寺田京子 日の鷹
余呉人の大き仏壇夕蛍 肥田埜勝美
佛壇にちゝはゝ在す蚕飼かな 金子九九
佛壇になにしまひたる雪螢 宮坂静生 樹下
佛壇に引戸多しや朝曇 関戸靖子
佛壇に水仙活けし冬至哉 冬至 正岡子規
佛壇に野分の過ぎし朝の水 川崎展宏
佛壇に電球(たま)の買ひ置き花慈姑 宮坂静生
佛壇に風呂敷かけて煤拂 煤払 正岡子規
佛壇に鷄頭枯るゝ日數哉 鶏頭 正岡子規
佛壇に鼠さわぐや稲光 寺田寅彦
佛壇のともし火暗しきりきりす 蟋蟀 正岡子規
佛壇のともし火消ゆる夜寒哉 夜寒 正岡子規
佛壇のなかを通って月山ヘ 西川徹郎 月光学校
佛壇のひきだしからも種袋 廣江八重櫻
佛壇の前にうたたね蟲時雨 高田風人子
佛壇の柑子を落す鼠かな 正岡子規
佛壇の柘榴花散る晝寝かな 会津八一
佛壇の灯暗く菊の匂ひかな 菊 正岡子規
佛壇の菓子うつくしき冬至哉 冬至 正岡子規
佛壇の萩に何やら虫が鳴く 寺田寅彦
佛壇の葡萄を落す鼠哉 葡萄 正岡子規
佛壇の障子煤けて水仙花 寺田寅彦
佛壇も火燵もあるや四疊半 炬燵 正岡子規
佛壇を抱き蹌めきて春逝かす 中戸川朝人 星辰
佛焚いて佛壇寒し味噌の皿 寒し 正岡子規
僧が来て 仏壇へ蝉はげしくなる 伊丹公子 陶器の天使
光つつ仏壇沈む秋出水 東條素香
八朔や仏壇の中こゑのして 浜明史
冬籠佛壇の花枯れにけり 冬籠 正岡子規
初物の枇杷仏壇にまづ供へ 岡田敬子
塗り替へし仏壇戻る盆の月 浅井敦子
寝るだけがたのしく仏壇の扉をしめる 内田南草
尼寺の佛壇淺き落葉かな 落葉 正岡子規
山梔子や合壁に人形師仏壇師 福田蓼汀 秋風挽歌
帯の文仏壇に映ゆ十二月 宮武寒々 朱卓
彼岸花莟ばかりのお仏壇 高澤良一 燕音
扉のあはぬ仏壇とざし二日灸 亀井糸游
抓み喰ひする仏壇のさくらんぼ 品川鈴子
拝まれて仏壇の柿渋抜ける 武田和郎
日反(ひぞろ)しき西陽に仏壇返しかな 西口昌仲
日持ちよき安房金盞花仏壇に 高澤良一 寒暑
春の夜の仏壇見ゆる燈哉 春の夜 正岡子規
春山を越え佛壇を売りに来し 山本洋子
月祭る燈を仏壇にうつすかな 佐野良太 樫
林檎のみあたらし瞽女のお仏壇 一都
桑括りきて仏壇の灯をともす 菅原鬨也
浅草へ仏壇買ひに秋日傘 岡本眸
燈台の仮仏壇も御忌支度 岡本無漏子
男根担ぎ佛壇峠越えにけり 西川徹郎 無灯艦隊
百年の仏壇洗ふ柿若葉 水谷洋子「花刺繍」
盂蘭盆や参りかむさる小仏壇 皆吉爽雨
神棚に仏壇に燈を月の宿 阿部みどり女 笹鳴
神棚も仏壇もなく神の留守 山内遊糸
秋暑し友が来て仏壇に立つ 松村蒼石 雪
空蝉ばかり仏壇巨大なる村は 林唯夫
立待のライター仏壇に戻す 池田澄子
立春の水仏壇にこぼれけり 原田喬
船が映るまで仏壇磨く島の年寄り 西川徹郎
花樒にほひ仏壇拭き込まれ 矢野都多女
荒梅雨や仏壇吊るす輪中村 澤田正子
虫の宿代々百姓の仏壇よ 成瀬正とし 星月夜
西日さす漁家の佛壇みられけり 西島麥南
雛に訪ひ仏壇あれば経を誦し 牧野春駒
雪の日の仏壇へ水運ぶ母 鈴木鷹夫 渚通り
飯山の仏壇町の捩花 西原田鶴子
鮎茶屋の仏壇見ゆるところかな 大石悦子 聞香
麦打の仏壇の灯のことを言へり 米沢吾亦紅 童顔
●仏典
通辞われ仏典を繰り花祭 横山山人
仏典は暗きに置けり日雷 神尾久美子 桐の木
仏典や身を灯しあふ冬の山 河原枇杷男 定本烏宙論
●仏燈
仏灯のとどくところに冬の虫 箕浦須磨子
仏灯のひとつひとつや秋のさび 上川井梨葉
仏灯を秋思のいろとして消さず 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
仏燈に浮み出でたる冬蚊かな 大橋桜坡子
仏燈や火蛾の翅粉をただよはす 多佳子
仏燈を消しまゐらする白芙蓉 阿部みどり女
佛燈もかなしき春の灯かな 万太郎せん 吉屋信子
冷かや佛燈青く碁の響 冷やか 正岡子規
春燈として仏燈の暈のゆれ 鈴木六林男
母のみとりに仏燈忘る宵の冬 木歩句集 富田木歩
雨夜の燈仏燈めくや蝌蚪の上 秩父
黴の宿仏燈のみぞ新しき 福田蓼汀 山火
●仏飯
あげかへて仏飯しろし虫ゆふべ 大橋櫻坡子 雨月
いただきて父母の仏飯雁渡し 都筑智子
わが炊きし仏飯母の日の母に 澤田緑生「蘆刈」
ペンだこの手もて仏飯初供ふ 井上雪
一合の仏飯を炊き喪正月 中島霞
仏飯として栗飯は盛りにくし 林直入
仏飯と水供へたり原爆忌 漆谷豊信
仏飯におほひかぶさる夏鴉 中嶋秀子
仏飯につきて離れず秋の蝿 田中紅朗
仏飯に大箸立てて日蓮忌 鈴木無肋
仏飯に新涼の火も浅間かな 宮武寒々 朱卓
仏飯に来てそれきりの冬の蜂 林田紀音夫
仏飯に秋の蜂来る日和かな 天谷 敦
仏飯の冱てたるを喰ふ女かな 比叡 野村泊月
仏飯の小さなひと口敗戦忌 平井さち子 鷹日和
仏飯の湯気を二階へ秋日和 鈴木鷹夫 大津絵
仏飯の湯気麦畑に日があたり 桂信子 遠い橋
仏飯の白めでたかり星今宵 石川桂郎 高蘆
仏飯の箸をいぶかる烏の子 長谷川双魚 風形
仏飯の麦めでたさよ初霰 石田波郷
仏飯も同じ土鍋の薺粥 加納千女
仏飯やしぐれの松のさし交せ 齋藤玄 飛雪
仏飯をつらぬく箸や日の盛り 狩行
仏飯をまきて芒種の鳥を呼ぶ 天津善明
仏飯をまとめて糊に草いきれ 茨木和生 三輪崎
仏飯を盛る茶毒蛾を殺めし手 龍山壬生子
別れ雪仏飯ややに尖りたり 柿本多映
半日にからぶ仏飯厄日過ぐ 鷹羽狩行
時雨忌やお仏飯の微光みそなはせ 飯田蛇笏 山廬集
暖かや仏飯につく蠅一つ 飯田蛇笏 山廬集
木の葉髪落としぬ父母の仏飯に 冨田みのる
真木堂の仏飯として栗ごはん 佐藤豊子
秋暑また仏飯の白無惨なり 櫛原希伊子
秋立つや常の如くの仏飯に 尾崎迷堂 孤輪
肌脱ぎを入れて仏飯まゐらする 皆吉爽雨
肌脱を入れて仏飯参らする 皆吉爽雨
膝ついて母へ仏飯遠蛙 西山常好
花冷えの夜や仏飯を粥に炊く 岡田菫也
茶漬して仏飯ほぐす夜の雁 那須 乙郎
蚕あがりの仏飯たかく盛られけり 原与志樹
蜩や仏飯ひと粒づつ乾く 中村堯子
豆めしを仏飯として奉る 深川正一郎
雀来ぬ日は仏飯を洗ひおく 小松崎爽青
零余子めし仏飯にして天こ盛り 奥野桐花
●遍路杖
かんかんと磴転げ落つ遍路杖 鈴木鷹夫 春の門
内子座の木戸に置かれし遍路杖 谷田部栄
大山の沢で浄めし遍路杖 河相瑛子
延命水遍路杖にも一雫 手塚美佐
横風が来て倒しけり遍路杖 伊藤白潮
残生の躬一つ支ふ遍路杖 伊東宏晃
熟睡中身より倒るる遍路杖 佐野まもる
空港のロビー遍路杖突きをさめ 飯島晴子
突き減りていよよ頼みの遍路杖 辻本斐山
立ち止まるとき垂直の遍路杖 柴田佐知子
蜩やてんでに洗ふ遍路杖 稲荷島人
遍路杖こまごまと物固結び 林徹
遍路杖つけば染まりぬ草の青 沢木欣一 遍歴
遍路杖倒れてひびく稲の花 鈴木鷹夫 大津絵
遍路杖倒れて土間の闇ひびく 佐野まもる
遍路杖小脇にあづけ合掌す 山本天留女
遍路杖忘れてありぬ道後の湯 吉川信子
遍路杖抜身のごとく雪に刺す 吉田汀史
降りさうで降らず真新の遍路杖 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
●法会
お法会に影絵あるよし朧かな 飯田蛇笏 山廬集
ただ眠き法会づかれや秋の雨 河野静雲 閻魔
山家の法会の鉦の音が青空を刺して冬 人間を彫る 大橋裸木
替へられし障子のうちの法会かな 大橋櫻坡子 雨月
萩見るや法会の後チの酒の後チ 尾崎迷堂 孤輪
谷底まで晴れし雪見下ろし山家の法会 人間を彫る 大橋裸木
風光り雲も飛天の大法会 狹川青史
●法帖
法帖の古きに臨む衣がへ 子規句集 虚子・碧梧桐選
●奉燈
すでに荒奉灯渚に出でずとも 加倉井秋を
大沢へかけて露天や奉灯会 山中納士
奉灯の火浦の生活の火に加ふ 加倉井秋を
奉灯宿帷がくれに老の海女 加倉井秋を
●法鼓
ばつたんこ法鼓のごとくこだませり 山本洋子
一山を揺るがし解夏の法鼓鳴る 吉富無韻
初法鼓おのれの呼吸かぞへけり 目時行雲
初護摩の法鼓五臓をゆさぶれり 斎藤智恵雄
参道の深き茂りや法鼓鳴る 大室達恵
大いなる法鼓打ち出す淑気かな 山口草堂
大法鼓鼕々立春大吉と 真下喜太郎
威銃法鼓の如し蓮華峰寺 鈴木大林子
打て法鼓朝日雪渓を真つ赤にす 岡田日郎
法鼓いま薫風に明く蔵王堂 加古宗也
法鼓とどろと番ひ蟇番ひ蟇 中戸川朝人 尋声
法鼓鳴り死者も爪伸ぶ今朝の鵙 相葉有流
法鼓鳴る寺に破るる芭蕉かな 大峯あきら
法鼓鳴る祖院の静寂囀れる 宮前はやを
海棠に法鼓とどろく何かある 松本たかし
炎天の市にとゞろと法鼓かな 清原枴童 枴童句集
煤掃くや胡粉剥げとぶ大法鼓 野口一陽
煤掃に出仕の法鼓とう〜と 奥野素径
煤掃のころがり出でし法鼓かな 大橋櫻坡子 雨月
落葉曼陀羅法鼓は力づよく打つ 柴田白葉女 雨 月
賓頭盧を廻す法鼓を滅多打ち 西本一都 景色
賓頭盧を廻せ廻せと責め法鼓 西本一都 景色
長谷寺に法鼓轟く彼岸かな 高浜虚子
●払子
初薬師払子を振れば燭応ふ 今川凍光
古びたる拂子のさきや冬の蠅 寺田寅彦
月芒拂子線香禪坊主 月 正岡子規
瘧落ちてひとり払子に対す秋 子規句集 虚子・碧梧桐選
秋の蚊に払子一とふり大和尚 河野静雲 閻魔
秋の蠅拂子の髭にとまりけり 秋の蠅 正岡子規
秋一室拂子ノ髯ノ動キケリ 秋 正岡子規
秋吹くや鬚と拂子と天蓋と 秋 正岡子規
秋来ぬと柱の払子動きけり 子規句集 虚子・碧梧桐選
老僧が拂子動かず今朝の秋 今朝の秋 正岡子規
虎尾草の風に払子を振るごとし 高澤良一 さざなみやつこ
蝿払ふ払子ふり〜僧漫語 河野静雲
蠅はろふ払子ふり〜僧漫語 河野静雲 閻魔
●仏の飯
二日見る仏の飯やきり〜す 暁台
●法螺(貝)
お水送り鵜の瀬の雪に法螺ひびく 中村芳雪女
さぼてんの花の法螺吹き楽屋裏 星野紗一
それの峯いかに吹くらん法螺の貝 露言 選集「板東太郎」
ぼんでんの法螺山彦のごと吹きあふ 上村占魚
アマリリス法螺吹男爵かくまつたか 丸山嵐人
ミサ寄せの法螺貝に江の鰡も跳ぶ 下村ひろし 西陲集
一山に法螺の響かひ竹伐会 青垣和子
一村に法螺の音ひびき初祈祷 菅野イチ子
三峰山の霧をふるはせ法螺の音 小宮久美
僧兵の法螺の音わたる追儺寺 芋川辛子
八九月風はいづこの法螺の貝 服部嵐雪
八朔祭山伏の法螺はるかより 粕谷容子
八朔祭法螺貝の音遠近に 斎藤喜恵
八講の湖にとどろく法螺供養 片岡青苑
冬の峰谿渡り行く法螺こだま 粕谷容子
出羽三山法螺の音渡る雲の峰 秋田寅生
初寅の法螺の音山を渡りゆく 畠中俊美
初寅や山颪呼ぶ僧の法螺 宮川蔦江
初護摩に羽黒の法螺のとどろけり 玉澤幹郎
初護摩の法螺に一天ひきしまり 山口峰玉
初護摩の法螺一山を貫けり 中島ふゆみ
吹き合す法螺順の峰逆の峰 山口峰玉
喇嘛祭の法螺貝きこゆ丘を越え 田村了咲
天の川法螺吹き男ふとなつかし 加藤楸邨(1905-93)
天高く法螺貝吹けりテロ退治 高澤良一 随笑
山伏の法螺吹き立つる茂り哉 茂 正岡子規
山霧や宮を守護なす法螺の音 炭 太祇 太祇句選
峰入の法螺ひびきあふ岩つばめ 羽田岳水
峰入りの法螺聞えけり秋の山 藤田あけ烏 赤松
強飯の法螺鳴りひびき三仏堂 加藤八汐
松明送りものの芽覚ます法螺響く 田畑幸子
梵天の法螺貝飛雪の天へ吹く 小林輝子
法印の法螺に蟹入る清水かな 夏目漱石 明治四十年
法螺の音にいま若狭井の水送る 長田淑杏子
法螺の音に比良八講の船出づる 田中由子
法螺の音の朝靄ついてお野馬追 石川文子
法螺の音の河処より来る枯野哉 夏目漱石 明治四十年
法螺の音の絶えぬ霊峰山開き 高橋美智子(蘇鉄)
法螺の音の雲追ひ払ふ正御影供 吉田美代子
法螺ひびき出舟の合図河豚供養 長田辰子
法螺ぼうぼう死真似*いもり眼をひらく 加藤知世子 花寂び
法螺吹いて修二会の闇を深めけり 上埜是清
法螺吹いて寒行者出づ聖護院 志賀松声
法螺吹て行者集むる木下闇 木下闇 正岡子規
法螺習ふ学僧ふたり夕桜 岡田日郎
法螺話いつまで続く茸汁 村田軍司
法螺貝のあるときむせぶ修二會かな 黒田杏子 一木一草
法螺貝の吹き口洗う萩の風 山田光子
法螺貝の息を小出しに虫送り 桑山撫子(若竹)
法螺貝の音に春の立ちヤーヤ祭 北村周子
法螺貝の音の中なる落花かな 角川春樹
法螺貝や雪狼煙たつ羽黒山 佐川広治
法螺貝を先頭に列寒施行 住原令子
法螺貝を吹きて始まる針供養 山田弘子 螢川
法螺鳴るや塩蹴つて火を渡り切る 石川英子
深山へと法螺の音渡る解夏の朝 大竹節二
火なき炉の辺に法螺貝と糸車 北野民夫
火渡りの法螺貝ひびく木の芽晴れ 阿部寿雄
火渡りや梵天加持の法螺ひびく 奈良英子
無頼めく法螺の音雪の東山 殿村莵絲子 雨 月
熊まつりはじまる法螺のこだまかな 栗原愛子
祝宴の野馬追法螺のひびくなか 八牧美喜子
神呼びの法螺朗々と御来光 宮田高佑
秋の峰法螺貝ひびく三鈷沢 菅原庄山子
秋風や法螺貝を手に修験道 河野静雲 閻魔
老あはれ時代祭の法螺ふいて 岸風三楼 往来
荒行の法螺貝のどか遠のけば 平井さち子 鷹日和
蓮華会や若き女の法螺吹ける 迫田浩子
蘆刈の人寄せ法螺や堰の上に 西山泊雲 泊雲句集
蛙飛法螺もて首尾を言祝げり 朝妻力(雲の峰)
送水会法螺の高音に雪降り来 岡 淑子
逆の峰入法螺鳴つて奥嶺霧うごく 松林到池
逆峰の法螺吹き納む一の瀧 黒田杏子 花下草上
達陀の法螺貝吼ゆるお水取 高島筍雄
雲海に向つて吹けり法螺の貝 野村泊月
青嵐おお法螺吹きをくつがえす 三宅やよい
鳥居火やことに羨しき法螺の音 宮坂静生 樹下
●梵鐘
わが靴音おもし梵鐘に烏鳴き 河合凱夫 藤の実
入魂の梵鐘ひびく加賀の秋 名部五百子
冬の鯉幽く梵鐘ひゞきけり 渡邊水巴 富士
地に置かる梵鐘八十八夜寒 谷口いつ子
妻の忌の梵鐘一打五月なり 渋谷のぼる
寒潮や梵鐘の旭はソ領より 古館曹人
梵鐘にのこる弾痕鷹渡る 玉城一香
梵鐘にひびき収まる土用葱 宮坂静生 山開
梵鐘に茅花ながしの糸崎寺 中川志帆
梵鐘のうつうつとして椎の花 伊藤通明
梵鐘のかるくなりたる流雛 宮坂静生 山開
梵鐘のくらさはじまる椿の実 笹井愛
梵鐘の一打の韻き冬霞 加藤元子
梵鐘の佐渡へ響けと良寛忌 石川寿美
梵鐘の余韻余寒の中に散る 吉井秀風
梵鐘の余韻透き行く冬木立 小田久恵
梵鐘の鳴れば憩はむ冬ぬくし 坂本和子
梵鐘も高きに凍つる當麻かな 山本洋子
梵鐘や空にくぼみのある弥生 佐川広治
梵鐘をくすぐるごとし煤払 長谷川櫂 蓬莱
梵鐘を冷たく乗せて渓の水 雨宮抱星
梵鐘を爪はじきつつ涼しけれ 上村占魚 球磨
梵鐘を花野におろす男たち 福田甲子雄
秋の蝉梵鐘にあたりてひゞきけり 中川宋淵
立春や梵鐘へ貼る札の数 飯田蛇笏 山廬集
聖鐘に梵鐘和する夕桜 余縄 修
聖鐘は飛び梵鐘は青葉中 野澤節子 『存身』
討ちはたす梵鐘つれ立ちて夏野かな 蕪村
鮎釣れり荒瀬に梵鐘撞く如し 久保筑峯
●曼陀羅 曼荼羅(図)
お曼陀羅供へし蓮の開き居し 河野静雲 閻魔
お水取火の曼陀羅の走る闇 山田弘子 こぶし坂
くらがりに曼荼羅秘戯図蝿生まる 小池かずや
ここよりは信者の歩み雪曼陀羅 大豆生田耕一
さるすべりに夕日曼陀羅師を葬る 伊藤京子
しゃぼん玉曼陀羅孫がその央に 高澤良一 素抱
たたみても熊野曼陀羅露のなか 角川春樹 夢殿
ひろびろと露曼陀羅の芭蕉かな 川端茅舎(1897-1941)
まないたの疵曼陀羅や鰻割く 百合山羽公 寒雁
佛足の曼陀羅匂ふ初櫻 下村ひろし 西陲集
俳碑壁曼陀羅と見て春惜しむ 大橋宵火
俳磚は俳句曼陀羅花は葉に 滝青佳
傾ける野火の曼荼羅紬織る 加倉井秋を 『隠愛』
八百姫の洞や椿の曼陀羅境 富田潮児
冬の暮曼荼羅にある赤地獄 藤田あけ烏 赤松
冬銀河砂曼荼羅を地に描く 山崎祐子
凌霄を纏き曼陀羅となる一樹 福永耕二
勾玉や摩訶曼陀羅華曼珠沙華 鈴木六林男 悪霊
名月や売る曼陀羅を持歩く 野村喜舟 小石川
囀は声の曼陀羅山ノ辺路 加藤知世子 花 季
囀を容れて御堂の曼陀羅図 野見山ひふみ
壁画古り浄土曼陀羅霧のごと 野見山朱鳥
夜の河原かまくらの灯の曼陀羅に 櫻井菜緒
夜廻りに星曼陀羅の山家かな 河村たまの
大根焚く匂ひのとどく曼荼羅図 つじ加代子
天寿国曼陀羅は寺に蝶は野に 三嶋隆英
女曼陀羅人に逢はねば風暑し 河野多希女 納め髪
女曼陀羅牡丹の花芯けむり初む 河野多希女 納め髪
女曼陀羅離れて憑きて花野のなか 河野多希女 納め髪
実石榴を割れば胎蔵曼陀羅図 木内彰志
山蛭や秘して拝せぬ曼陀羅図 上田五千石
師を恋へば花火曼陀羅胸中に 梶山千鶴子
常陸野の梅曼陀羅のなかにをり 佐川広治
年ゆくや星座曼陀羅のごとくあり 八木絵馬
引き裂かる故郷の蝶曼陀羅野 小檜山繁子
彼岸鐘雨の水輪の曼陀羅図 高澤良一 寒暑
散紅葉まぶし板彫曼陀羅図 高橋より子
日は山から柿曼陀羅の母の家 成田千空 地霊
早蕨やあかあかと火の曼荼羅図 長谷川櫂
早蕨や炎のいろを曼荼羅図 長谷川櫂 天球
星曼陀羅いれずみのごと悲哀負ふ 永田耕一郎 氷紋
星曼陀羅かけてぞ悼む岳は雪 福田蓼汀 秋風挽歌
春蝉の律曼荼羅をながれけり 西本一都 景色
暮れはやき灯を曼荼羅にかかげけり 原 柯城
曼荼羅に豆つぶほとけ雪明り 鍵和田[ゆう]子 浮標
曼荼羅の前の畳の寒さかな 山本洋子
曼荼羅の群青涼し芦峅寺 新保ふじ子
曼荼羅を見ず冬山を去りにけり 石脇みはる
曼荼羅図抜けて菩薩の松手入れ 佐川広治
曼荼羅図春の焚火を上げにけり 古舘曹人 樹下石上
曼荼羅図見上げてゐたる跣の子 井上康明
曼荼羅圖喰うとは紙魚のふてえ奴 高澤良一 ぱらりとせ
曼陀羅におよぐ夏鯉祝ひ膳 中山純子 沙 羅以後
曼陀羅に丸餅供へ練供養 武田多津子
曼陀羅に昼明暗の時雨雲 加藤知世子 花寂び
曼陀羅に燭引き寄せり夕朧 脇坂啓子
曼陀羅のかずかずを見て冷し汁 増川
曼陀羅の前の畳の寒さかな 山本洋子
曼陀羅の地獄極楽しぐれたり 細見綾子(1907-97)
曼陀羅の見えてくるなり曼珠沙華 金子皆子
曼陀羅も拝まれてをり大根焚 金子篤子
曼陀羅や手繰りてつなぐ手毬唄 長谷美知子
曼陀羅図干す山寺の蝉時雨 吉澤卯一
曼陀羅図見上げてゐたる跣の子 井上康明「四方」
曼陀羅華一つ吹きたや二度吸ふて 攝津幸彦 未刊句集
曼陀羅華咲けば豆州の妻良おもふ 高澤良一 素抱
曼陀羅華大きな淵と供にあり 攝津幸彦 鹿々集
朝涼や磔曼陀羅の翳踏めば 小林康治 玄霜
浄土曼荼羅見足りて夜の髪洗ふ つじ加代子
浅草の雨の曼陀羅ほほづき買ふ 瀬戸美代子
液晶の虚実被膜の曼荼羅図 田中信克
渦潮に西日照りこむ曼荼羅華 稲垣きくの 牡 丹
満天星の古りて万鈴曼陀羅寺 榊原順子
焼山の焦げ目曼陀羅日表に 高澤良一 ぱらりとせ
燈照らして梵字曼陀羅冷やけき 臼田亞浪 定本亜浪句集
現世の猫に懐(なつ)かれ曼陀羅寺 寺井谷子
白魚汲む灯の曼荼羅に沖の闇 石原義輝
盛りなる花曼陀羅の躑躅かな 高浜虚子
眉つよくひき曼陀羅の中に居る 寺井谷子
短日の曼陀羅の図の点さるる 宮津昭彦
石楠花曼陀羅に会う ヒマラヤの見える村 伊丹公子 山珊瑚
秋の蚊や曼荼羅絵解きながながと 伊佐山春愁
秋蔭の曼陀羅版木朱を遺(のこ)し 高澤良一 宿好
空海展出て冬雲の曼陀羅図 田村一翠
空間が曲がる西日の絵曼陀羅 尾原葛
総門をくぐれば牡丹曼陀羅図 日比野里江
美吉野の曼陀羅埋めよ花の雲 中島斌雄
胎蔵界曼荼羅をがみ年籠 藤原 浩
臘梅の匂ふや金地曼陀羅絵 矢野宗律
芋の葉の露曼陀羅に軍のこゑ 飯田蛇笏 春蘭
花曼陀羅映りて水の隙なくす 毛塚静枝
花蕎麦の白き曼陀羅母は亡き 堀口星眠 青葉木菟
草曼陀羅三人飯を食う音す 伊阪交采子
菊月の曼陀羅山に虹懸かり 瀬戸内寂聴
萩焚いて小さき曼荼羅図を垂らす 関戸靖子
落葉曼陀羅法鼓は力づよく打つ 柴田白葉女 雨 月
落鮎に星曼陀羅の深夜かな 加藤楸邨
虚子眠る曼陀羅やぐら苔の花 鈴木英子
蜥蜴出て女曼陀羅かがやきぬ 河野多希女 納め髪
蜥蜴出る道曼陀羅の遍路道 萩原麦草 麦嵐
螢火や曼陀羅闇の山の音 石原八束 『風霜記』
血曼荼羅蔵し霊峰もみいづる 澤井洋子
逆光の烏賊曼陀羅に秋の風 文挟夫佐恵 黄 瀬
銀河曼陀羅かけ荘厳す聖岳 福田蓼汀
阿片の花白曼陀羅の罌粟畑 橋本夢道 無類の妻
降り積みて雪曼荼羅の大伽藍 つじ加代子
雨林曼荼羅螢火無盡蔵 黒田杏子 花下草上
雪霏々と冥き虚空に曼陀羅見ゆ 三好潤子
露曼陀羅ふところ深く父の数珠 櫛原希伊子
露草の露の曼荼羅地に吸はれ 古市絵未
香水や女曼陀羅るゐるゐと 河野多希女 納め髪
鮎落ちて曼陀羅山のとりけもの 黒田杏子 一木一草
鮪揚ぐ沖曼陀羅に茜雲 水見悠々子
鯛曼荼羅の海をはるかに髪洗ふ 小枝秀穂女
鶏頭の頭に雀乗る吾が曼陀羅 細見綾子 黄 炎
鶯にひらく曼荼羅の雲ひかる 桂樟蹊子
黄砂ふる日を曼荼羅にぬかづきぬ 吉田汀史
うつつなる素子まんだら魂祭 角川源義
しんがりの夜を知ってをるまんだらげ 岡井省二
できあがるいもうとの舟そしてまんだら 阿部完市 純白諸事
まんだらげ見しより湧きぬ旅ごころ 稲垣きくの 牡 丹
まんだらの柿を当麻の宙におく 山本千之
まんだらの里さなぶりの獅子舞はす 岩崎すず
化石にはりつく化石の胴躰 浪まんだら 三橋鷹女
大空は雲のまんだら千草咲く 矢島渚男 梟
木洩れ日のまんだら道や秋彼岸 今井誠人
正面の視野のさざめく霜まんだら 綾部あや
満山の露まんだらや双魚の忌 有馬楚水
菩提樹の実の垂れ日ざしまんだらよ 大野林火
蜜柑山黄のまんだらに大き寺 大野林火
●木魚
お遍路の饌米袋より木魚 千々和恵美子
こうろげの飛ぶや木魚の声の下 夏目漱石 明治二十四年
つらき子に木魚うれしや梅若忌 岸本尚毅
なつかしや梅あちこちにゆふ木魚 一茶 ■享和二年壬戌(四十歳)
ならんたる鐘や木魚や秋の風 秋風 正岡子規
のんのんとひびく木魚や初諷経 美濃部古渓
ぼろ市の木魚と坐る嫗かな 水原春郎
古寺や木魚うつうつ萩のちる 萩 正岡子規
叩かれて昼の蚊を吐く木魚哉 夏目漱石(1867-1916)
品々の蒲団に登る木魚哉 服部嵐雪
夕紅葉寺の木魚ははげにけり 紅葉 正岡子規
婆々達に木魚ぽく〜彼岸来 河野静雲 閻魔
寺やある夕山紅葉木魚打つ 紅葉 正岡子規
川施餓鬼木魚のカスタネットめく 北村和子
師走の木魚たたいて居る 尾崎放哉
幸木魚も小物となりにけり 藤勢津子
春暁や木魚の銜へ暗一線 河野静雲 閻魔
春月や木魚いさめる庵の空 河野静雲 閻魔
昼ふかぶか木魚ふいてやるはげてゐる 尾崎放哉
朝寒や木魚打ちやんで履の音 朝寒 正岡子規
木啄もやめて聞かよ夕木魚 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
木魚にも寒のかはりや耳の底 遊翁
木魚ふとやみたる菊の日和かな 鷲谷七菜子 花寂び 以後
木魚孕んだ青髯の偏頭痛 久保純夫 瑠璃薔薇館
木魚居る畳に坐り夜学かな 松本たかし
木魚打つ座の空いてをり柿若葉 増成栗人
木魚百ぽつくり寺の余寒かな 杉山青風
本堂の木魚あたため初日差 石地尚子
桃落ちて木魚の音が軽くなる 穴井太 穴井太句集
桜ちる此時木魚猶はげし 散桜 正岡子規
梺寺木魚あやなしかんこ鳥 調鶴 選集「板東太郎」
棚経僧小さき木魚を膝元に 亀田やす子
涼しさに転がしておく木魚かな 長谷川櫂 蓬莱
白露や木魚こつ〜草廬より 河野静雲 閻魔
短夜をいそぐ野寺の木魚哉 短夜 正岡子規
禅林に響く木魚や涅槃西風 丹羽すき子
禪寺の木魚にならぶ海鼠哉 海鼠 正岡子規
禿木魚ここに供わる新走り 窪川寿子
籠り音に木魚去来の忌を修す 土田祈久男
老鴬や木魚が一つ考へる 横溝養三
華やかに木魚を叩きたく晩夏 櫂未知子 蒙古斑
螻蛄鳴くや凡愚の木魚口あけて 成瀬桜桃子 風色
衾被て木魚の眠る深雪かな 鈴木貞雄
賣れ殘る木魚一つに秋の行く 行く秋 正岡子規
降れ降れ時雨小さき木魚をわれたたかん 北原白秋
霊山に鴨が来てをり木魚鳴る 山口超心鬼
露けさの晨佳き音を吐く木魚 庵 達雄
頭ふりにげゆく彼岸木魚かな 河野静雲 閻魔
鳴物に木魚を効かせ夏芝居 文挟夫佐恵
鶯や木魚にまじる寛永寺 鶯 正岡子規
鶯や木魚にまじる寺の春 鶯 正岡子規
鶯や木魚ぽく〜おそづとめ 河野静雲 閻魔
黒谷や木魚たゝけば風薫る 大塚甲山