●祈年祭●春祭●菜種御供●春日祭●鎮花祭●安良居祭●高山祭●靖国祭●先帝祭●摩耶詣●涅槃会●常楽会●聖霊会●御水取●嵯峨の柱松明●嵯峨大念仏●彼岸会●御影供●六阿弥陀詣●開帳●遍路●仏生会●甘茶●花御堂●吉野の花会式●御身拭●御忌●壬生念仏●峰入
●祈年祭![]()
うみやまの風明るさよ祈年祭 佐藤文正
唐櫃の菊の御紋や祈年祭 原ひろし
暁の雪は美し祈年祭 宮田戉子
祈年祭国原に雪敷きみちて 会田逸平
雪中の焚火の跡や祈年祭 石田勝彦
●春祭![]()
いつも来る金魚売泊め春祭 黒坂紫陽子
からくりに残れる雨や春祭 小川章子
からくりの翁の手振り春祭 石寒太 炎環
からす吊りからすの影の春祭 宮坂静生 山開
けぶる日が一輪峡の春祭 藤田湘子
ごろ寝して笙のきこゆる春祭 森澄雄
しら玉の飯に酢をうつ春祭 水谷晴光
どの家も田を打ちかけて春祭 白井 爽風
ひとり子のひ弱かりけり春祭 山本洋子
ほんだはら幣に仕立てし春祭 茨木和生 倭
みちのくの街道細し春祭 田中由喜子
みづうみのおほかたは暮れ春祭 関戸靖子
ゆふぐれは雲に埋まり春祭 廣瀬直人
よろづ屋に金銀の胡麻春祭 手塚美佐 昔の香
わが生徒笙つかまつる春祭 能村登四郎
オリオンは指蒔きの星春祭 赤松[ケイ]子
一子挙げ餅のうすべに春祭 文挟夫佐恵 雨 月
上げ潮にひとで乗りくる春祭 荒井千佐代
上潮の香に降り出せり春祭 伊藤京子
丸盆に丸餅そなへ春祭 岡田和子
乗鞍岳へ唐子が跳んで春祭 黒田杏子
乙女みな絣似合ひて春祭 古賀まり子 緑の野以後
住めばこの地の松籟も春祭 杉山岳陽 晩婚
倉廃れかたへの宮の春祭 水原秋櫻子
吹矢もて女うたるる春祭 富安風生
呪術師は 陽へ手を振って 春祭 伊丹公子 沿海
四月一日ムルシアの春祭かな 今井杏太郎
垣外に水田かがやく春祭 秋元草日居
塗り替へて古家灯す春祭 山下喜美子
塚の奥かがんでおれば春祭 永末恵子 発色
夕暮は雲に埋まり春祭 廣瀬直人
大幟雪にはためく春祭 相馬遷子 雪嶺
大藁屋幕むらさきに春祭 藤岡筑邨
天窓に飛騨の空あり春祭 小澤満佐子
天竜をさかのぼりゆく春祭 和地清
奈良漬をならべて奈良の春祭 大野紫陽
女童に紐のあそべる春祭 菅原鬨也
寝雪照るや昨日とすぎし春祭 前田普羅 飛騨紬
山下りてもんぺ鮮し春祭 石田波郷
山中の小松みどりに春祭 森 澄雄
山吹の中の二日を春祭 前田普羅 新訂普羅句集
山坂にかかりて唄ふ春祭 大石悦子 百花
山車曳きて田畑を覚ます春祭 馬場移公子
山鳩の睦むうろごゑ春祭 宮坂静生 樹下
春祭あはれ白痴の粧ふも 馬場移公子
春祭かはるがはるに鳥鳴き過ぐ 村越化石 山國抄
春祭すみて幣立つ桑畑 森田公司
春祭ひよどり浜へ出てゐたり 大峯あきら 鳥道
春祭まだ飛び立たぬ竹とんぼ 大串章 朝の舟
春祭り夜空を低くうばひたり 金田咲子 全身
春祭仏間怖がる子を泊めて 守部幸代
春祭宿の障子をあけて見る 大野林火
春祭寝雪につゞく二部落 前田普羅 飛騨紬
春祭岩の潮穴おびただし 友岡子郷 風日
春祭狐の面が畦とんで 細川加賀 生身魂
春祭縁の下より人現れて 綾部仁喜 樸簡
春祭見知らぬ女ばかりなり 杉山岳陽 晩婚
春祭鴉も鳶も山寄りに 藤田湘子
暗がりに刃をやすまする春祭 宮坂静生 山開
望郷の田水うるめば春祭 松村蒼石 雪
木の芽の香する酒注がれ春祭 草間時彦 櫻山
村の灯にわが灯加へて春祭 吉野義子
桑の根のすみれの影や春祭 水原秋桜子
母が家も雁木伝ひや春祭 小林康治 四季貧窮
水槽に貝の活けある春祭 廣江八重櫻
水郷の朝あかねして春祭 石原舟月 山鵲
氷割つて川覚ます子ら春祭 荒井正隆
洗はれて小芋かゞやく春祭 白岩三郎
海坂を斜めのぼりや春祭 沼尻巳津子
潮さきの松に寄りくる春祭 宇佐美魚目 秋収冬蔵
燃えつきしものに土かけ春祭 大木あまり 火球
燕来て山家に鳴けば春祭 水原秋桜子
狂言の奥美濃訛春祭 伊藤いと子
産湯子はこぶしをあげて春祭 只野柯舟
白絹に嬰包み来て春祭 茨木和生 野迫川
白馬の雪なほゆゝし春祭 石橋辰之助 山暦
百姓のみな燈をひくく春祭 飯田蛇笏 雪峡
礁に散る濤の見えゐる春祭 米澤吾亦紅
祝詞すぐ田の風に乗り春祭 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
神の煤はらふ湯たぎり春祭 松村蒼石 雪
神饌所にて鯛捌きゐる春祭 茨木和生 野迫川
秩父路に減りたる桑や春祭 木村蕪城
笛の音に濤が狂ひて春祭 毛塚静枝
笹山に日のさざなみや春祭 草間時彦
綿菓子のかたちをさなき春祭 長谷川双魚 『ひとつとや』
老桑の瑞の芽立や春祭 水原秋櫻子
膨らんで来る春祭日本海 折井紀衣
草川の水の音頭も春祭 藤田湘子 てんてん
蒸しパンに味噌の香ほのと春祭 田中美沙
蜆屋に提燈が出て春祭 綾部仁喜 樸簡
見に行かな飛騨の高山春祭 島田とし子
谷々に乗鞍見えて春祭 前田普羅 飛騨紬
赤飯に早蕨を添ふ春祭 近藤一鴻
通ひ船呉服屋降ろす春祭(飛島(酒田港より航程三時間余の小島海猫の繁殖地として知られる)) 岸田稚魚 『負け犬』
達磨より笊がよく売れ春祭 大熊輝一 土の香
鎌祀る村の鎮守や春祭 矢島渚男 延年
陸奥の海くらく濤たち春祭 柴田白葉女 遠い橋
隧道の上に一字春祭 茨木和生 倭
雨となりやがて夜となる春祭 前田普羅
雪山の鷽が来てをり春祭 加藤岳雄
雲解滝かしこみかゝり春祭 前田普羅 飛騨紬
面つけて戻り来し子や春祭 田村了咲
風の吹く弓張月に春祭 飯田蛇笏 椿花集
飾られて耳立つ馬よ春祭 島谷征良
養蜂の林を裾に春祭 中戸川朝人
鮓つくる母にかしづく春祭 古賀まり子 緑の野
乙女らの小町顔なる春まつり 村松 堅
女男の陰餅にも擬り春まつり 上村占魚 『かのえさる』
春まつり老いては沖を見るばかり 大串章 百鳥
昨日濡れ今日乾く壁春まつり 鍵和田釉子
杣も来つ穂高里宮春まつり 渡辺立男
柴すこし束ねてありぬ春まつり 大串章
注連ながら男の根女の陰春まつり(伊勢國乳房山しあわせの宮三句) 上村占魚 『かのえさる』
白馬の雪なほゆゝし春まつり(信州大町二句) 石橋辰之助
石垣の上に猫の眼春まつり 黛 執
空町はひそと静けし春まつり 原裕 出雲
蔵王見て巡査昼酒春まつり 堀口星眠 青葉木菟
酢の香たて谿の戸毎の春まつり 福田甲子雄
高山に空町がある春まつり 原裕 出雲
鮒鮨の桶の封切る春まつり 羽田岳水
鯉を得てもどる田舟や春まつり 白岩 三郎
●菜種御供![]()
ともしびの洩れくる菜種御供の森 加藤三七子
二上より来しと大声菜種御供 中村若沙
冠に菜種の花や菜種御供 若林 北窗
尼宮に風まださむき菜種御供 高木石子
曇りより雨となりたる菜種御供 森澄雄
本殿に琴運び込む菜種御供 椹木啓子
梅の幹雨に明かるむ菜種御供 畑水明子
菜種御供尼の身内のあつまりて 中村若沙
野守きて端に参じぬ菜種御供 加藤三七子
かたくなに枝垂れぬ柳道真忌 竹下しづの女 [はやて]
よべの雪檜皮にのこり梅花祭 大橋敦子 手 鞠
宮普請少し残りて梅花御供 冨田みのる
枝先へ走る蕾や梅花祭 山田ひろむ
梅の枝剪られて冥利梅花祭 原山 英士
梅花祭舞妓の髪に雪が降る 尼崎たか
西陣の帯の売れゆき梅花祭 星島野風
遠目にも 禰宜の白冴え 梅花祭 伊丹三樹彦
雷神の深紅の破風や梅花御供 奥田可児
●春日祭![]()
懐しき山をかさねて春日祭 田口冬生
春日祭粧ひし馬馬酔木嗅ぐ 清川とみ子
春日祭鹿もつどひて賑はへり 梶原五道
老勅使春日祭をさむがられ 飯田京畔
奈良の春まだ定まらず申祭 平田晄青
水を来る風寒ければ申祭 藤田あけ烏
王朝の絵巻現つや申祭 佐藤 千兵
申祭むべ山風の冷えに冷え 村上麓人
申祭三笠青みてゐたりけり 山之内基
申祭人より多き鹿の群 木下星林
申祭人を乗せざる馬曳いて 猪股洋子
●鎮花祭![]()
はるばると来てまのあたり花鎮 大牧 広
一本の汀の残花鎮花祭 下村梅子
夜は夜の心に鎮む花の雨 稲畑汀子
恋の神えやみの神や花鎮 松瀬青々
溜池に藻の波打てる花鎮 小田切輝雄
真乙女の琴よりはじむ花鎮 宮岡計次
紫野しづかに練れる花鎮め 筑紫磐井 野干
細やかな雨に鎮もる花の闇 安原葉
花人を鎮めの風雨到りけり 西山泊雲 泊雲句集
花鎮めつかさどるなるかほと見し 岡井省二
花鎮め心鎮めの雨一日 斎藤道子
花鎮め祭の円座新らしき 高野素十
花鎮め祭の雨の花に降る 高野素十
花鎮め笑みを交はして舞ひ納む 柏原眠雨
花鎮め花によりゆく水をみる 津根元潮
花鎮め豆ふつくらと煮上がりて 山尾滋子
華やかに花を鎮めて鬼の祈舞 豊田都峰
ぬかるみを子鬼が跳んで鎮花祭 永方裕子
並べ売る三輪の百合根や鎮花祭 新井英子
恋の神えやみの神や鎮花祭 松瀬青々
荷車の消えるまで音鎮花祭 桂信子
鎮花祭我句の力短くも 岡野知十
●安良居祭![]()
あぶり餅食べて安良居祭見て 村尾 梅風
囃されて安良居の花に転びけり 松瀬青々
安良居の厠へゆくも囃されて 閔戸靖子
安良居の地靄こちらこちらへと 飯島晴子
安良居の睡りし子鬼横抱きに 関戸靖子
安良居の花傘の下混み合へり 永方裕子
安良居の花傘花に触れてゆく 若林 かつ子
安良居の落花おちつく黒き土 金子篤子
安良居の鬼待つ花の木蔭かな 名和三幹竹
安良居の鬼飛びあがり羯鼓打つ 宮下翠舟
安良居やあぶり餅屋の朝掃除 中村七三郎
安良居や腹白き蝌斜ひるがへり 金子無患子
安良居や花傘かへる采女村 中川四明
やすらひの花よ踏まれな跡なる子 暁台
やすらゐの膳椀朱き祭かな 曾根けい二
やすらゐの鉦よりも疾く花散るよ 茂里正治
やすらゐや息も微醺の督の殿 能村登四郎
やすらゐや鬼も籠れる若草野 高井几董
初子抱き入るやすらひの花傘に 鳴戸海峡
花散るややすらひの傘まだ来ぬに 大野林火
●高山祭![]()
からくりの翁の手ぶり高山祭 石 寒太
屋台提灯遅々と高山宵祭 高澤良一 素抱 十月-十二月
嶺の雪の照り合ふ高山祭かな 金尾梅の門
日がわたる高山祭の山車の上 三和千秋
棟梁の高山祭に攫はるる 山上寿衣
櫺子窓高山祭の灯を洩らす 関俊雄
海峡荒れ先帝祭へ人の渦 高山幸子
父が語りし高山祭まのあたり 大牧 広
祭膳春慶塗の箸かろし(飛弾高山にて二句) 上村占魚 『橡の木』
雪解の飛騨は高山祭かな 和田碧洞
高山の夜も澄む空に祭笛 高澤良一 素抱 十月-十二月
高山祭一夜に賭けて切なかり 林 朋子
乗鞍岳へ唐子が跳んで春祭 黒田杏子
からくりの翁の手振り春祭 石 寒太
空町はひそと静けし春まつり 原裕 出雲
高山に空町がある春まつり 原裕 出雲
山車囃甘甘棒は飛騨の菓子 上村占魚
あざやけき雪代鱒を祭膳 藤田湘子
●靖国祭![]()
えらき坂の花の靖国神社かな 高澤良一 寒暑 四月-六月
かんばせに靖国神社の花の風 高澤良一 寒暑 四月-六月
こと古りし招魂祭の曲馬団 松本たかし
事古りし招魂祭の曲馬團 松本たかし
先行の不安は消せず招魂祭 浜名礼次郎
刈りかけし草の断層招魂祭 殿村莵絲子 雨 月
大テント招魂祭の椅子並ぶ 小路紫峡
子の命(みこと)孫の命や招魂祭 宮下翠舟
年々の招魂祭の裏の宿 高濱虚子
弥生尽むらさき帯びし招魂祭 近藤 弘
戦死者のうから肩やせ招魂祭 細谷源二 鐵
招魂祭さびし風鹿柱なす 富岡掬池路
招魂祭われ軍籍をもちゐたり 細谷源二 鐵
招魂祭濡れたる雨後の砂利を踏む 磯貝碧蹄館
招魂祭肩で息するもと兵士 きりぶち輝
招魂祭過ぎし山の手線軌る 久米三汀
招魂祭遠く来りし顔と遭ふ 三橋敏雄 まぼろしの鱶
星生れぬ招魂祭の花火のあと 加倉井秋を
春も早や招魂祭のころの雨 富安風生
父と母招魂祭に旅立ちぬ 中村ルツ子
牡丹は招魂祭の雨たたへ 萩原麦草 麦嵐
玉垣に赤き実あまた靖国祭 市川千鶴子
王氏歌ふ招魂祭の花火鳴れば 西東三鬼
蕗の傘まだ稚なしや招魂祭 鳥羽とほる
長きほど薄き「のしいか」招魂祭 北野民夫
雲やはり流れてゆきぬ招魂祭 大牧 広
靖国のさくらにも逢ひ旅つづく 岩崎照子
靖国のまつり宵から夜半へ雨 小橋猟人
靖国の神ぞしづまる花の中 野津無字
靖国祭むかしにもどるそばの味 富岡掬池路
●先帝祭![]()
今日荒るる先帝祭の渡船かな 国友子紅
先導に先帝祭の烏帽子海士 山田緑子
先帝祭墓垣に風避けゐたり(長門赤間宮にて三句) 原裕 『葦牙』
先帝祭流れゆく藻の浮き沈み 岡本庚子
先帝祭過ぎきりきりと髪洗ふ 坂巻純子
先帝祭針千河豚もおちようちん 百合山羽公
天を青水を藍とし先帝祭 丸山海道
家々や先帝祭の客設け 楠目橙黄子 橙圃
春の潮先帝祭も近づきぬ 高濱虚子
朝網の河豚三宝に先帝祭 大坪文子
水底に都先帝祭の雨 川本柳城
波うれふ藻屑いろ屑先帝祭 庄司瓦全
浪音を終始奏上先帝祭 竹腰八柏
海峡を夕日埋むる先帝祭 すずき波浪
海峡荒れ先帝祭へ人の渦 高本幸子
白波や先帝祭はじまりし 細谷定行
紅石の雨となりたる先帝祭 福田 玉函子
舟岸に添うて先帝祭を見に 赤迫雨渓
藤活けて先帝祭の巫女溜 山田緑子
駕籠ぬちに眠き禿や先帝祭 石津柊光
琵琶を聴く一人の盲先帝会 香月 梅邨
●摩耶詣![]()
うらゝかに野曳き山越え摩耶参 松田笠雨
その衣のよきやあしきや摩耶参 森 無黄
たてがみに揺るる簪や摩耶参 伊藤虚舟
古道に水の奏づる摩耶詣 徳村千畝
四つ白の馬のあがきや摩耶詣 前田秋皎
尾をつゝむ馬古めかし摩耶詣 河東碧梧桐
心行く馬のかざりや摩耶参 東洋城千句
摩耶参り馬の薬も買ひにけり 寺野守水老
摩耶参夜道に轡鳴らしけり 吉田笠雨
摩耶参蹄固めて戻りけり 矢野奇遇
摩耶夫人抜きのあひびき摩耶祭 赤松子
摩耶詣仔馬の旅をいとほしむ 矢田插雲
摩耶詣筒の賽米鳴らしけり 吉田冬葉
摩耶詣車の二人夜景待つ 丸岡 忍
汚れなき緑の山気摩耶詣 桑田永子
絹着たる馬の主や摩耶参 岡本松浜
菜の花の夜目に白さや摩耶詣 飯田蛇笏
鞍につけて長々しさや摩耶昆布 松根東洋城
鞍壷に摩耶昆布かけて下山かな 倉田萩郎
鞍につけて長々しさや摩耶昆布 松根東洋城
馬に付く昆布よ椿よ摩耶詣 安井小洒
鬼の出る葛籠を負うて摩耶詣 星野石雀
●涅槃会![]()
あちこちに涅槃間近かの蕗の薹 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
あふのけになりて獅子泣く涅槃かな 野村喜舟
あゆみきし涅槃の雪のくらさかな 田中裕明 花間一壺
いかに嘆く涅槃に貝の来てをれば 茨木和生 往馬
いつ死ぬもよしなどさぶし涅槃寺 中山純子 沙 羅以後
いろいろの藻が流れつき涅槃像 岸本尚毅 舜
えいえいと担ぎ出したる涅槃絵図 伊藤伊那男
おん母の一日過ごす涅槃寺 細川加賀 生身魂
お涅槃に女童の白指ふれたりし 飯田蛇笏
お涅槃に近づいてゆく廊下かな 岸本尚毅 舜
お涅槃のかたきまぶたや雪明り 前田普羅
お涅槃のただ大皿を飾るのみ 岸本尚毅 舜
お涅槃のなほ薄目してゐたまへり 東條素香
お涅槃の山道ながくながくあり 岸本尚毅 舜
お涅槃の日の青空を鳶ながす 高澤良一 随笑 一月-三月
お涅槃の満月寒きお山かな 吉武月二郎句集
お涅槃の甕を覗けば青みどろ 岸本尚毅
お涅槃の長き廊下を走り拭き 百瀬ひろし
お涅槃やぼろぼろの茎ちらばりて 宮坂静生 樹下
お涅槃や大風鳴りつ素湯の味 渡邊水巴
お涅槃や山笹深く日の移り 中島月笠 月笠句集
お涅槃や椿は赤き血を貰ひ 櫛原希伊子
お涅槃や讃むる言葉の悲しくて 尾崎迷堂 孤輪
お障子の人見硝子や涅槃寺 河野静雲 閻魔
お風入れ涅槃図ごわと畳まるる 高澤良一 さざなみやっこ 秋
かけ通す涅槃図のあり冬の寺 阿部みどり女 笹鳴
かなしめば見ゆるかなしみ涅槃像 金田志津枝
かの雛僧成人しをり涅槃像 河野静雲 閻魔
かへりみて涅槃図の月あをかりし 行方克巳
くちびるに雨粒ひとつ花涅槃 白澤良子
こども等に涅槃の絵解きはじまりぬ 島田鶴堂
この堂のうす闇に涅槃し給へり 小林康治 『虚實』
こゝろゆく極彩色や涅槃像 炭 太祇 太祇句選
ざぶざぶと涅槃の空があふれ出す 白澤良子
それぞれの命みて来し涅槃の日 能村登四郎
ちちははを思へと涅槃し給へる 細川加賀 『玉虫』
ともしびの揺れてぐらりと涅槃絵図 片山由美子
どこにでも虻来て涅槃騒がしき 佐々木六戈 百韻反故 初學
なあるほどこれは大きな涅槃像 夏目漱石 明治三十年
なつかしの濁世の雨や涅槃像 阿波野青畝(1899-1992)
なよ竹は風の意のまま涅槃寺 鍵和田[ゆう]子 浮標
はし近く涅槃かけたる野寺かな 附鳳
ひとり来て大勢で見し涅槃の図 加倉井秋を 午後の窓
ぼろぼろに世界なるまで涅槃像 百合山羽公 寒雁
まことにも獅子の愁や涅槃像 野村喜舟 小石川
まだ哭いてゐる涅槃図を巻きにけり 木村淳一郎
まつしろに降りまつくらや涅槃雪 斎藤慎爾
まつ赤なる涅槃日和の墓つばき 飯田蛇笏 春蘭
まなざしと目付の違ひ涅槃像 藤田湘子 てんてん
まひるまの涅槃図へ朱を入れたりき 夏石番矢
ま青なる空に月ある涅槃かな 岸風三楼 往来
みどりごの指萌えてゐる涅槃雪 齋藤玄 『狩眼』
ものの影みな涅槃なる月夜かな 渡邊水巴
ものゝ影みな涅槃なる月夜かな 渡辺水巴 白日
やどかりの半身浸す涅槃かな 進藤一考
わが干支の牛も侍りぬ涅槃像 銀漢 吉岡禅寺洞
わだつみの波も騒げり涅槃像 五十嵐播水 播水句集
ピエタより煌やかなる涅槃圖や 相生垣瓜人
フラスコに指がうつりて涅槃なり 永田耕衣 真風
一の字に遠目に涅槃したまへる 阿波野青畝
一休は何とおよるぞ涅槃の日 高井几董
一日を海見てあそぶ涅槃の日 石嶌岳
一椀のうどん即ち涅槃非時 高濱年尾
一湾の涅槃ぐもりといふべきか 鷹羽狩行
二股のすずしろ涅槃し給へる 高澤良一 ぱらりとせ 春
亡き吾子を背に負ふごときおもひして涅槃の像の前にかがみぬ 木俣修
京野菜とりどり供へ涅槃像 長安悦子
人々の眼のなまなまし涅槃見る 飯田蛇笏 山廬集
人の音ありて飯食ふ涅槃かな 雑草 長谷川零餘子
人体に蝶のあつまる涅槃かな 柿本多映
人獣大きさ違ふ涅槃図絵 能村研三 鷹の木 以後
仏壇の燭消してより涅槃雪 田中英子
仏弟子も口ゆがめ泣く涅槃の図 斎藤道子
伽陀洩るる涅槃明りの寺障子 つじ加代子
何処やらに蒲団を着たる涅槃像 岡井省二
傘立に藍の山河や涅槃寺 辻桃子
傘開く音のどすんと涅槃寺 高澤良一 寒暑 一月-三月
傾城の拝んで笑ふ涅槃哉 松岡青蘿
僧あまた炉辺に眠れる涅槃通夜 森白象
優曇華や涅槃よりどの書に埋もる 河野南畦 湖の森
光明の遍ねかりける涅槃かな 三輪未央
凍る湖かけて涅槃の雪つもる 木村蕪城 寒泉
初鳩や空にひろがる涅槃の手 磯貝碧蹄館
北斎の海に雪降る涅槃かな 春樹
北枕真北に涅槃図絵垂らす 赤松[けい]子 白毫
即仏を夢見る如し涅槃像 塩谷華園
咲くまで知らぬ櫻千本涅槃變 竹中宏
咳一つして涅槃図の中に入る 秋澤猛
哭くものは哭かしめ涅槃し給へり 野中 亮介
哭けるものみな口あけて涅槃像 岸風三樓
善通寺涅槃櫻と知りてのち 黒田杏子 花下草上
土不蹈ゆたかに涅槃し給へり 川端茅舎
土筆煮えて皿に小さし涅槃かな 小檜山繁子
地獄絵のあと涅槃図にひざまづく 石野 冬青
地玉子の血の緒のふとき涅槃かな 佐川広治
坐る余地まだ涅槃図の中にあり 静塔
墨客に大涅槃図の掛かりあり 福井啓子
墨擦つて涅槃の雪となりにけり 永方裕子
声もたぬ涅槃の鯉と遊びけり 斎藤玄 雁道
夕映をほしいままなる涅槃寺 岩田由美 夏安
夕月のとくかかりたり宵涅槃 平松措丈
大いなる人の逝くさま涅槃像 河野静雲
大いなる涅槃の釣瓶落としかな 築田圭子
大欅とりまく雑木涅槃かな 平井照敏 天上大風
大濁りせる涅槃会の河口かな 茨木和生 野迫川
大空に雲を敷き詰め涅槃の日 高澤良一 素抱 一月-三月
天寿とはいへざるお顔涅槃像 茨木和生 往馬
天水に映る天界涅槃寺 毛塚静枝
太柱二本かくれぬ涅槃像 野村喜舟 小石川
女の香のわが香をきいてゐる涅槃 三橋鷹女
姉川も妹川も涅槃雪 山本洋子
嬰児には見えず涅槃の通り雨 徳弘純 非望
寄せものに紅が刷かれぬ涅槃像 宮坂静生 山開
寒さあまりて横むきの涅槃見る 金田咲子 全身
寺を出て涅槃の絵図の鳥に会ふ 岩岡中正
寺町や猫と涅槃の恋無常 横井也有 蘿葉集
小さき鯉集ひ易くて涅槃寺 鍵和田[ゆう]子 浮標
就中月の大きな涅槃図絵 福井圭児
展げゆく涅槃図後へすざりつつ 原田青児
山かひは皆昃り来し涅槃像 萩原麦草 麦嵐
山中の涅槃団子としての色 小林牧羊
山中や泉を寝かせ涅槃雪 村越化石 山國抄
山寺の松のみどりの涅槃かな 野村喜舟 小石川
山寺や涅槃図かけて僧一人 星野立子
山寺や誰も参らぬ涅槃像 三浦樗良 (ちょら)(1729-1780)
山巓よ眠る鯨を涅槃とす 久保純夫 聖樹
山襞を出でくる涅槃詣かな 矢島渚男 梟
山越えてゆく白雲も涅槃かな 岡澤康司
山鳥の嘆く尾曳ける涅槃像 後藤夜半 底紅
岩に臥て まこと涅槃似 花の山 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 磁針彷徨
川が先づ見ゆる涅槃図解きにけり 山本洋子
巻き了へて涅槃図のなか遙かにす 正木ゆう子 静かな水
師の柩囲む涅槃図さながらに 布施玉枝
常磐木の青まさる日の涅槃講 高澤良一 随笑 一月-三月
干支の申ささげし蓮や涅槃像 小原菁々子
幾何を泳がば鯉の涅槃かな 齋藤玄 『雁道』
幾春の絵の具や兀し涅槃像 松岡青蘿
幾許を泳がば鯉の涅槃かな 斎藤玄 雁道
座る余地まだ涅槃図の中にあり 平畑静塔(1905-97)
建長寺ご坊雲集お涅槃会 高澤良一 随笑 一月-三月
御忌よりも多し涅槃の櫁(しきみ)売 京-春澄 元禄百人一句
御手のある方に阿難や涅槃像 京極杞陽
御枕赤きに涅槃し給へる 吉井莫生
御涅槃のあと追ふ魚のいのちかな 鳳 朗
御涅槃のかたきまぶたや雪明り 普羅
御灯のうへした暗し涅槃像 芝不器男
御表具に袈裟の折目や涅槃像 菅原師竹
恋に狂ひゐしか涅槃にゐぬ猫は 羽部洞然
恋猫を涅槃の闇が封じけり 矢野聖峰
悲しさの極みの怒り涅槃絵図 大野崇文
慟哭といふ炎むらあり涅槃像 古市絵未
慟哭の涙は描かず涅槃像 三村純也
慟哭の群像今し涅槃かな 和田悟朗 法隆寺伝承
折りにくき膝を折りけり涅槃図に 波多野爽波 『一筆』
拓本の仏像を見る涅槃かな 松本正一
掌に顔を隠して涅槃泣く 古屋秀雄
掌の窪に在ればあるなり涅槃空 斎藤玄 狩眼
擁きあふわれら涅槃図よりこぼれ 恩田侑布子
斎の火を落せし庫裡の涅槃闇 野澤節子 遠い橋
断崖のごとくに涅槃図を仰ぐ 中岡毅雄
旅人に涅槃会の雨一雫 沢木欣一 赤富士
旅人の笠ぬぎをがむ涅槃像 高橋淡路女 梶の葉
日うしなへるものゝあはれや涅槃像 河野静雲 閻魔
日と月を高きに涅槃したまへる 楠戸まさる
日もあやに釈迦が涅槃に入るところ 相生垣瓜人 明治草抄
日月の高さひとしく涅槃絵図 山崎幻児
日照るとき魚介交り来涅槃像 阿波野青畝
昔から婆なる尼や涅槃寺 菅原師竹句集
春の雪阿修羅ともはた涅槃とも 行方克己 昆虫記
春眠の如くに涅槃したまへる 行方克巳
昨日見せざりし涅槃図今日掛かる 森田峠 避暑散歩
昼めしのことを考へ涅槃像 川崎展宏
昼燭す涅槃の幅や東福寺 露石
景徳院勝頼御廟涅槃雪 池田秀水
晴(めのたま)や陸稲涅槃の雨上り 折笠美秋 虎嘯記
暮れどきの草まつさをに涅槃の日 鷲谷七菜子
月のほかものさわがしき涅槃像 後藤夜半
月よりも明るき雲や涅槃像 牧野春駒
月界にひびきて涅槃後夜の鐘 野澤節子 遠い橋
月雲にかくるゝ世なる涅槃かな 尾崎迷堂 孤輪
朝よりも昼の寒くて涅槃雪 岩田由美 夏安
木の枝に鳥ならび鳴く涅槃かな 雑草 長谷川零餘子
朱の多き涅槃図かかり湖の寺 森澄雄 空艪
来し方の野に雪降れり涅槃寺 野見山朱鳥
東山三十六峰涅槃雪 浅見志津香
枯園に日は和なれや大涅槃 石塚友二 光塵
枯蓮や却て春の仏涅槃 尾崎迷堂 孤輪
柔らかき手もて涅槃の撫されけり 岸風三樓
桜ふぶきのずつと向うに涅槃の犬 林藤尾
梁といふ強きものある涅槃寺 大牧広
梅雨寒の地下に拝がむ涅槃像 大久保太市
榧の木に春の日脚や涅槃寺 末久松城
横たはり給ふまことや涅槃像 尾崎迷堂 孤輪
横たはる様は涅槃の自然生(じねんじょう) 高澤良一 随笑 十月-十二月
歌留多の釈迦坊主揃ひや涅槃講 九石 選集「板東太郎」
正面に落日うけて涅槃像 妻木 松瀬青々
武者先生涅槃し給ひ花の雨 石塚友二
歳旦の砂丘涅槃のごとくにも 中島南北
死慾も生くるあかしや涅槃婆 八幡城太郎
水くだり風のぼりゆく涅槃の日 鳥居おさむ
水よりも雲のつめたき涅槃の日 茨木和生 木の國
水潮の涅槃の海に泳ぎゐる 茨木和生 三輪崎
池底に根を張るものや涅槃寺 丸山景子
沙羅の葉に月の雫す涅槃像 吉富無韻
泉州の潮の香沁みし涅槃絵図 山本いさ夫
泣顔のくしや〜誰や涅槃像 野村喜舟 小石川
泳ぐやうにもがきマラソン涅槃雪 仙田洋子 橋のあなたに
海蜷のぞくぞく上がり来る涅槃 大串章
涅槃したまふ中空を飛び交ふ蜂 中田剛 珠樹以後
涅槃し給いなお説くことばあるごとし 宇咲冬男
涅槃すみ山に一本夕日道 村越化石 山國抄
涅槃なり狐色して山並び 村越化石 山國抄
涅槃に泪もろもろの御弟子かな 椎本才麿
涅槃の図口かげ深きへかがみけり 臼田亜浪 旅人
涅槃の図白きは象の歎けるなり 山口誓子
涅槃の座たまはば吾は寝てしまふ 橋本美代子
涅槃の日蝶も海峡渡るかな 加藤かけい
涅槃の日鰻ぬるりと籠の中 飯田龍太 遅速
涅槃までつひに一花もほころびず 能村登四郎
涅槃より亀も田螺も鳴くらむか 大石悦子 百花
涅槃より今年の朧はじまりし 森澄雄 所生
涅槃より衆生ほとほと死にたる図 皆吉爽雨
涅槃を拝む虫喰へる畳の広き 梅林句屑 喜谷六花
涅槃仏しづかに御手のありどころ 静雲
涅槃仏にともしびを置き僧去れり 松村蒼石 雁
涅槃会に佳人のまじる日の翳り 桂信子 遠い橋
涅槃会に来てもめでたし嵯峨の釈迦 太 祗
涅槃会に蟻の塔見る野寺かな 蕉雨亭
涅槃会のあつまりて齢にぎやかに 長谷川双魚 風形
涅槃会のけふ永らへて父おはす 大石悦子 群萌
涅槃会のこゑの湖とぶゆり鴎 森 澄雄
涅槃会のやさしき雨となりにけり 鈴木栄子
涅槃会の僧を待ちゐる緋毛氈 吉野義子
涅槃会の嘆のさまざま地を叩き 長谷川久々子
涅槃会の子供はもはら食べにけり 細川加賀 生身魂
涅槃会の散華みづみづしき樒 大橋敦子 手 鞠
涅槃会の映りてゐたる堂の床 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
涅槃会の昼過ぎて山瞭らかに 日美清史
涅槃会の松の枝々まろき雪 瀧澤伊代次
涅槃会の椿見てより反逆す 河野多希女 両手は湖
涅槃会の樹を肉桂と思ひをる 岡井省二
涅槃会の毬藻沈めて手水鉢 青木重行
涅槃会の水に穴あく鯉の口 敏雄
涅槃会の沓音巡る御仏殿 高澤良一 随笑 一月-三月
涅槃会の波のもみあふ船溜り 片山由美子 水精
涅槃会の海鵜はしらせ岬暮るる 河野南畦 湖の森
涅槃会の燠白じろと果てにけり 川村祥子
涅槃会の猫の開けたる夜の襖 綾部仁喜 樸簡
涅槃会の腹の底より楞厳神呪(りょうごんしゅう) 高澤良一 随笑 一月-三月
涅槃会の闇に積みあげ皿小鉢 井上 雪
涅槃会の風の峠を越えにけり 山田弘子 懐
涅槃会やあめつちふかく塵とべる 平田繭子
涅槃会やいろはうた説き法を説く 大橋敦子
涅槃会やおくれてひとつ飛ぶ小蝶 蓼太
涅槃会やさながら赤き日の光 言水
涅槃会やされども雁は生別れ 横井也有 蘿葉集
涅槃会やものの重なる影法師 麦水
涅槃会やわが大足の裏白き 大屋達治 龍宮
涅槃会や伏鉦一つあれば足る 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
涅槃会や何処の内儀かもふ日傘 井月の句集 井上井月
涅槃会や嘘を月夜となりにけり 蕪村
涅槃会や囀の音の降れる中 小杉余子 余子句選
涅槃会や大僧上の坐胼胝 山本孝仙
涅槃会や大雄宝殿開放つ 野村喜舟 小石川
涅槃会や寿齢の延びてきし代にて 徳永山冬子
涅槃会や松に雪降る清涼寺 青木月斗
涅槃会や死なねば逢へぬ人の数 小松崎爽青
涅槃会や波のもみあふ船溜り 片山由美子 水精
涅槃会や皺手合する数珠の音 松尾芭蕉
涅槃会や礼いひありく十五日 炭 太祇 太祇句選後篇
涅槃会や花木の精も舞ひ出でし 伊東宏晃
涅槃会や蚯蚓ちぎれし鍬の先 正岡子規
涅槃会や誰が乗り捨ての茜雲 上田五千石(1933-97)
涅槃会や身は寺入の穀つぶし 加舎白雄
涅槃会や雪清浄の法の山 大橋敦子 手 鞠
涅槃会や雲下りくる音羽山 暁台
涅槃会や飛ぶ鳥を見て飛ばぬ鳥 藤田湘子 てんてん
涅槃会を寺ごと拝む野にありて 津田清子
涅槃像あなんの顔のとはに哭く 銀漢 吉岡禅寺洞
涅槃像いばんや人間絹枕 安昌 選集「板東太郎」
涅槃像おろがむ齢いたりけり 柴田白葉女 『月の笛』
涅槃像ぎりぎりに丘断たれたり 鍵和田[ゆう]子 浮標
涅槃像に手合はすことの外知らず 細見綾子
涅槃像バナゝがあげてありにけり 河野静雲 閻魔
涅槃像ブロッコリーを供へある 岸本尚毅 舜
涅槃像上へ上へとやがて雲 川崎展宏
涅槃像勁き視線も罪なるか 河野多希女 両手は湖
涅槃像女人は袖に涙かな 高橋淡路女 梶の葉
涅槃像尼に抱かれて拝みけり 村上蚋魚
涅槃像後は釈迦の立ち仏 左次 二 月 月別句集「韻塞」
涅槃像歎きの色を帯びにけり 牧野春駒
涅槃像水欲りたまふおんけしき 栗生純夫 科野路
涅槃像猫も目つぶり哭きにける 岸風三楼 往来
涅槃像真似てこのまま覚めずとも 沢村越石
涅槃像色刷りなれば児が覗く 川崎展宏
涅槃像見かけて鳴くや山鴉 正岡子規
涅槃像金泥は目にあたたかし 加古宗也
涅槃像鳥獣わらふ如く哭く 川崎展宏
涅槃像黄河の沙の降る日かも 藤田湘子 てんてん
涅槃像鼠の尿もあはれなり 正岡子規
涅槃其時岩は裂け地は凹みたり 松瀬青々
涅槃参らぬ婆は鴉に鳴かれけり 久米正雄 返り花
涅槃哭く尾のあるものは尾を抱へ 檜紀代
涅槃図が死ね死ね我れを責めゐたり 河野多希女 両手は湖
涅槃図にしのびよりしは水明り 野中秋光
涅槃図につかふ天井までの丈 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
涅槃図になき海に出て遊ぶなり 原田喬
涅槃図にならひし手脚縛さるる 加藤知世子 花 季
涅槃図にひくく坐りてをみなわれ 岩崎照子
涅槃図にひとり経あげ沙弥去れり 大橋敦子 手 鞠
涅槃図にまやぶにんとぞ読まれける 後藤夜半 翠黛
涅槃図に一*ちゅう加へ僧去りぬ 山田弘子 こぶし坂
涅槃図に一匹まじる腹の虫 星永文夫
涅槃図に不参の猫よ身を売るな 有馬朗人 母国
涅槃図に五月蠅ひとつの参じたり 大橋敦子 勾 玉以後
涅槃図に今なら細身割り込める 小内春邑子
涅槃図に佇ちて空腹すべもなし 行方克己 昆虫記
涅槃図に侍れるときも鴛鴦の沓 後藤夜半 底紅
涅槃図に充つ泣き声や年の果 宮坂静生 春の鹿
涅槃図に入りて哭きたき日のありぬ 伊東みのり
涅槃図に入り昏昏と眠りたし 倉橋羊村
涅槃図に入れぬ亀の鳴きにけり 山本白雲
涅槃図に加へてみたきあめふらし 大木あまり 火球
涅槃図に嘆きすぎゐるもの賤し 後藤比奈夫
涅槃図に坐り加はる旅を来し 赤松[けい]子 白毫
涅槃図に坐り直して魅入る人 高澤良一 随笑 一月-三月
涅槃図に声満ち裏側の空白よ 成瀬櫻桃子 素心
涅槃図に天人鬼神なくもがな 後藤比奈夫 めんない千鳥
涅槃図に小さき涙描かれず 菅原章風
涅槃図に居ぬ猫鳴きて燭揺るる 田中英子
涅槃図に幼きものは描かれずに 森澄雄 空艪
涅槃図に日本人の顔あらず 茨木和生 野迫川
涅槃図に望の月あり照しけり 鈴木栄子
涅槃図に束の間ありし夕日かな 敦
涅槃図に泣きしねずみと野路に会ふ 野見山朱鳥
涅槃図に泣き声を描き忘れけり 宮坂静生
涅槃図に洩れて障子の外の猫 村越化石
涅槃図に煉炭の香のまぎれなし 辻桃子
涅槃図に猫ゐることを意にするな 鈴木栄子
涅槃図に立てば濁世の遠ざかる 辻本青塔
涅槃図に竹藪の日の動きをり 山本洋子
涅槃図に蚯蚓が泣いてをりにけり 行方克己 昆虫記
涅槃図に蟠(わらぢむし)とも草履とも 小澤實
涅槃図に話しかけゐる嫗かな 高橋玉洋
涅槃図に跳ねて加はる赤蛙 夏井いつき
涅槃図に顔寄せ俳句亡者かな 藤田湘子 てんてん
涅槃図に鵯の鋭声のつきあたり 石嶌岳
涅槃図に鶴すべりをる樹もあらむ 大屋達治 繍鸞
涅槃図のあなうら若き麻耶夫人 細川加賀 『玉虫』
涅槃図のいやしきは口あけて泣く 殿村菟絲子 『晩緑』
涅槃図のごとく集ひて風生忌 松本澄江
涅槃図のそとは驟雨の日本海 原田喬
涅槃図のたるみを見せず増上寺 高澤良一 素抱 一月-三月
涅槃図のふはりとこの世煽りたる 赤松[ケイ]子
涅槃図のみんな出て来い酒を呑め 工藤克巳
涅槃図の一人みづみづしくありぬ 綾部仁喜 寒木
涅槃図の中や向きあふもののなし 小川軽舟
涅槃図の中流れゐる微風かな 鈴木鷹夫
涅槃図の丹のさびしさも尼の寺 肥田埜恵子
涅槃図の人ことごとく大頭 藤田湘子
涅槃図の人参大根なべて哭く 岡田史乃
涅槃図の余白の我を思ふべし 橋本榮治 麦生
涅槃図の余白は風の哭くところ 土生重次
涅槃図の余白を金に埋めつくす 石嶌岳
涅槃図の冷えの伝はる膝がしら 近藤 暁代
涅槃図の前ゆつくりと猫あゆむ 佐藤 木鶏
涅槃図の前をこの世の猫通る 松本澄江
涅槃図の前勿体なの大嚏 大橋敦子 勾 玉以後
涅槃図の剥落も又なげきかな 吉田美佐子
涅槃図の嘆きに燭の揺らぎけり 栗原憲司
涅槃図の嘆きの丈を掛けにけり 山岡 季郷
涅槃図の嘆きの端に加はりし 井田すみ子
涅槃図の嘆きの蟻の高あゆみ 村上梅泉
涅槃図の寺旅人を泊めにけり 黒田杏子 木の椅子
涅槃図の悲しみ褪せてをらざりし 藤崎久を
涅槃図の月が最後に捲かれけり 市堀 玉宗
涅槃図の月たかだかとありしかな 茂里正治
涅槃図の月の暗さのただならず 山田弘子 懐
涅槃図の月は光を失ひぬ 中 憲子
涅槃図の月は無くとも沙羅双樹 阿部慧月
涅槃図の月もまどかに菊月夜 大島民郎
涅槃図の有象無象のやさしさよ 行方克巳
涅槃図の樹かげに小さきははの荷ぞ 関戸靖子
涅槃図の泣くにほどよき暗さかな 平子 公一
涅槃図の泣顔どれもこれも佳き 藤田湘子 てんてん
涅槃図の猫の嘆きのしづかなり 大石悦子 百花
涅槃図の猿も涙をこぼしけり 佐川広治
涅槃図の獣に続き吾等在り 高木石子
涅槃図の獣のなげき子にうつる 佐野良太 樫
涅槃図の白を余して慟哭す 相良哀楽
涅槃図の百足虫の足と毛虫の毛 斎藤朗笛
涅槃図の端に落つこちさうな亀 河内きよし
涅槃図の絵解きなかなか蛇に来ず 茨木和生 野迫川
涅槃図の絵解の竿も伝はりぬ 後藤夜半 底紅
涅槃図の若草色の大地かな 村中[トウ]子
涅槃図の虫魚の歎きとは如何に 大橋敦子 匂 玉
涅槃図の表裏に隙間なかりけり 館岡沙緻
涅槃図の裏に人ゐる気配する 加倉井秋を 午後の窓
涅槃図の裏よりとどく母のこゑ 原裕 新治
涅槃図の裾の巻きぐせ兎泣く 田上さき子
涅槃図の裾人間の塵立ちぬ 丸山景子
涅槃図の貝いかにして来たりけむ 小澤實 砧
涅槃図の釈迦を若しと拝しけり 肥田埜勝美
涅槃図の雲硬しとも柔しとも 藤田湘子 てんてん
涅槃図の頭に敷く肘の痛からむ 木田千女
涅槃図の鬼の金冠粗なりけり 稲荷島人
涅槃図はひろびろと目のとどかざる 山本歩禅
涅槃図は黄金光にひびわれぬ 阿波野青畝
涅槃図へあと一躙寄れば入る 毛塚静枝
涅槃図へ潮の匂ひの手を合はす 斎藤梅子
涅槃図へ鳴る遠州の庭の滝 大島民郎
涅槃図やけむりの如き貌ばかり 関戸靖子
涅槃図やこの世をゆたかなる彩に 手塚美佐 昔の香
涅槃図やしづかにおろす旅鞄 黒田杏子 木の椅子
涅槃図や有情のなかの蚯蚓ン氏 河野静雲 閻魔
涅槃図や横に置かれし油壺 竹内悦子
涅槃図や身を皺にして象泣ける 橋本榮治 麦生
涅槃図や逆髪一人のみならず 森田峠
涅槃図をあふるる月のひかりかな 黒田杏子 花下草上
涅槃図をかけたる寺の閏月 萩原麦草 麦嵐
涅槃図をたたむ一つの棒にして 大郷耕花
涅槃図をはみ出て跳ねる雨蛙 田中水桜
涅槃図を仰げりマスクかけしまま 長谷川かな女 花 季
涅槃図を労作として又見たり 相生垣瓜人 明治草抄
涅槃図を去り直ぐ蜑の頬かむり 石井とし夫
涅槃図を咫尺に拝す仔細かな 大橋敦子 手 鞠
涅槃図を展けばそこにサタンの瞳 古市絵未
涅槃図を巻き慟哭を消してゆく 松村幸一
涅槃図を巻くや短き掌が残る 衣川次郎
涅槃図を抜けし田面のとりけもの 関戸靖子
涅槃図を抜けて一人の鍬を振る 濱本 八郎
涅槃図を抜け恋猫となりゐたる 北見さとる
涅槃図を拝みて婆のひとり言 菖蒲あや あ や
涅槃図を捲くや寝釈迦の捲かるるや 大石悦子 百花
涅槃図を捲ける難儀に来合はせし 大石悦子 百花
涅槃図を見てきたような乳房かな 久保純夫 熊野集 以後
涅槃図を見て幼児が象を指す 浜端順子
涅槃図を見て来し吾も横たへる 杉山岳陽
涅槃図を見にゆけばもう仕舞はれし 辻桃子
涅槃図を見尽してより顔昏るる 畠山譲二
涅槃図を見尽すことの難しや 池田秀水
涅槃図を過ぐしとやかに寺の猫 猪俣千代子 秘 色
涅槃圖にまやぶにんとぞ読まれける 後藤夜半
涅槃圖に花の明かりを足しにけり 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
涅槃圖に象と蛇との泣くを見む 相生垣瓜人
涅槃圖も三月十日に焼きしこと 八木林之介 青霞集
涅槃圖を二人がかりで懸け了へぬ 高澤良一 ももすずめ 平成二年
涅槃圖を出て囀りの外れの木 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
涅槃圖を旅の二人が繰りひろげ 橋本鶏二
涅槃堂出てうつし世の日向あり 鈴木貞雄
涅槃夜の雨にしづみし無明界 河野南畦 湖の森
涅槃寺までの泥濘地獄かな 池田秀水
涅槃寺田螺のねむる田につづく つじ加代子
涅槃寺障子細目に雪の松 星野立子
涅槃嶽のもつとも裾の大瀑布 橋本鶏二
涅槃忌の供米に遊ぶ雀かな 大橋敦子 勾 玉以後
涅槃絵のとりけものらの裾に侍す 上田五千石
涅槃絵の棚曳き雲の悲しさよ 尾崎迷堂 孤輪
涅槃絵の釈迦法外に秀でけり 相生垣瓜人
涅槃絵も恐らく真を写しけむ 相生垣瓜人 明治草抄
涅槃絵や離れて物を煮るにほひ 中山純子 沙羅
涅槃絵や難陀(なんだ)文殊はどの坊主 中村史邦
涅槃絵を覗きし鵙の声ならん 徳弘純 非望
涅槃絵図十大弟子の名は知らず 寺田圭子
涅槃絵図灯りてわが身はみだせり 白澤良子
涅槃衣も衣箪笥や虫払 喜谷六花
涅槃通夜この世の吾に影法師 三好潤子
涅槃鐘鳴る時菜種莢に入る 久米正雄 返り花
涅槃雪ふりかぶりつつ古稀となる 中村敏子
涅槃雪女性ま白き芯に燃ゆ 高澤晶子
涅槃雪日のいろ見えて暮れんとす 永田耕一郎 雪明
涅槃雪渚に蒼くつもりけり 山本洋子
涅槃雪玄奘も筆休めけむ 有馬朗人 耳順
涅槃雪筑紫の涯に父の墓 佐野美智
涅槃雪踏み最澄の山に在り 山田松寿
涅槃風ふもとの自転車ぬすまれし 安井浩司 中止観
涅槃風廃墟にできし砂の類 中村草田男
涅槃餅モザイクのごと供へあり 堀口星眠 樹の雫
涅槃高野に亡母の一灯加へけり 影島智子
涙痕のごと蝶を描き涅槃の図 皆吉爽雨
湖をもて耳をふたぎぬ涅槃像 岡井省二
滑車つけて大涅槃像つり上ぐる 河野静雲 閻魔
火のかたちこゑのかたちや涅槃通夜 黒田杏子 花下草上
火の花を咲かす涅槃の大炉かな 影島智子
火袋に生きて白蛾も涅槃衆 野澤節子 遠い橋
灸寺そびらに涅槃かゝりけり 野村喜舟 小石川
炉に覚めし蛾や涅槃図に入りゆかず 吉野義子
焼寺に全きものは涅槃かな 筝子
照り敷きて雲上のごと涅槃雪 井沢正江 湖の伝説
燈明に草木の色や涅槃像 碧雲居句集 大谷碧雲居
爐の灰をならしてひとり涅槃寺 佐川広治
父の香の沓と涅槃の墨硯 野村雨城
父想ひ和す涅槃経寒けれど 堀口星眠 営巣期
物臭さの屋根に雪積む涅槃かな 市掘玉宗
犬猫に見える涅槃の闇の庭 中山純子 沙羅
獣に青き獅子あり涅槃像 後藤夜半 翠黛
現し世の櫛落ちてをり涅槃寺 木田千女
現代という危うさよ涅槃像 和田悟朗 法隆寺伝承
生みたての玉子の届く涅槃の日 福川悠子
生臭き息を憚る涅槃絵図 浜渦美好
田螺寺げん〜寺の涅槃かな 野村喜舟 小石川
白き糞みどりの糞や涅槃の日 依光陽子
白一衣まとふ雲逝く涅槃空 林昌華
白孔雀涅槃の翅をひらきけり 渡辺恭子
白象の牙上げて哭く涅槃絵図 松本圭二
白象を笑ひ嘆かせ涅槃図絵 赤松子
百獣に白象やさし涅槃像 河野静雲
百草も揃はぬころや涅槃像 乙由
真如堂には月のよき涅槃像 後藤比奈夫 めんない千鳥
神垣やおもひもかけず涅槃像 芭 蕉
童女ゐて頬杖をして涅槃像 後藤夜半(1895-1976)
竹の葉のさしちがひ居る涅槃かな 永田耕衣 真風
竹林に遊ぶ涅槃に遅れをとり 後藤綾子
紅戈の蟹も来て居る涅槃像 河野静雲 閻魔
細筆を買うて戻るや涅槃雪 鷹羽狩行
緋の色の他は薄れて涅槃絵図 田所節子
繕ひもならぬ涅槃図巻きしまゝ 森田峠 避暑散歩
美しきひとの案内や涅槃像 藤田湘子 てんてん
美しき印度の月の涅槃かな 阿波野青畝
美しき涅槃の雪に女ゆく 大峯あきら
翅ぶものを見ず涅槃会の寺を出て 津田清子 二人称
老の眼に仰ぐ高さや涅槃像 河野静雲 閻魔
老婆には聞えて涅槃像のこゑ 鷹羽狩行
老海女のつぶやき潜る涅槃かな 本谷久邇彦
老眼の更にかすみて涅槃像 武井耕天
耆婆が脈とりて思へる涅槃かな 松瀬青々
耕人をはるかに涅槃し給へり 中川欣一
肋あらわ天地傷む涅槃なれ 和田悟朗 法隆寺伝承
胸を地にきゞす鳴くなり涅槃像 松瀬青々
花に啼絵になく鳥や涅槃像 横井也有 蘿葉集
花の蔭およるとばかり涅槃かな 谷口桃園
花涅槃ははのやうなる月出でぬ 白澤良子
草木より人のまぶしき涅槃かな 三森鉄治
萩の芽をいざなふ雨や涅槃像 榎本冬一郎 眼光
葦の間の水をまぶしむ涅槃寺 斉藤夏風
蕎麦殻に風通しやる涅槃かな 宮坂静生 山開
薄暗き野寺に惚れる涅槃かな 秋元不死男
薬師寺の明日の涅槃会遇ひたけれ 赤松[ケイ]子
薺咲く框で涅槃をがまれる 梅林句屑 喜谷六花
藪騒を聴きに来しなり涅槃寺 大石悦子 百花
虫たちの消え入りさうな涅槃の図 宮口喜代子
蛇の円かなる座や涅槃像 後藤夜半 翠黛
蛇を恐れぬ涅槃図の蛙かな 松尾隆信
蝕みし虫も殻なり涅槃像 風来
行人にしばらくは舞ひ雪涅槃 岸田稚魚 『萩供養』
裂く鯉の目には涅槃の見ゆる筈 齋藤玄 『雁道』
見えぬもの波がつなぎて涅槃の日 手塚美佐
見て来たるごとき涅槃の絵解きかな 八染藍子
説き終へて満ちける御ン唇涅槃仏 林昌華
諸鳥の地に嘆かへり涅槃像 秋櫻子
護国寺の涅槃年々拝みけり 野村喜舟 小石川
象よりも大きく涅槃し給へり 有馬籌子
貝殻に溜れる雨も涅槃かな 細見綾子 存問
貧乏はいそいそ涅槃図をひろげ 長谷川双魚 風形
貧相に描かれし蛇涅槃絵図 茨木和生 往馬
赤子が乗りてこはれる箱や涅槃寺 田中裕明 櫻姫譚
越の田のゆるびはじめの涅槃寺 鷲谷七菜子 花寂び
足なへのころびし浄土涅槃雪 井沢正江 以後
足もとに猫のすり寄る涅槃寺 片山由美子 水精
身を出して田螺がゐたり涅槃の日 茨木和生 三輪崎
身投げ哭く僧は阿難よ涅槃像 河野静雲 閻魔
近よれど声なき嘆き涅槃像 佐野良太 樫
近海に鯛睦みゐる涅槃像 永田耕衣
遠目にはひと色なりし涅槃絵図 澤井悠紀子
酩酊に似たり涅槃をひた歎き 誓子
釈迦の国金ンを貴び涅槃像 比奈夫
釈迦銭や涅槃に帰る手向種(たむけぐさ) 椎本才麿
里の子の猫加へけり涅槃像 夏目漱石 明治二十九年
野菜涅槃図葱の高足侍りけり 高澤良一 燕音 二月
金岡の画いて消えたる涅槃かな 野村喜舟 小石川
金色に涅槃し給ふくらさあり 下村非文
金色の失せつつ涅槃し給へり 北澤瑞史
鐘打つて婆ら吐き出す涅槃寺 関戸靖子
門前の花菜の雨や涅槃像 飯田蛇笏 山廬集
階段に泥足乾く涅槃哉 竹冷句鈔 角田竹冷
雪代のあふれあふるる涅槃像 黒田杏子 花下草上
雪歇まず昨日涅槃の晨より 月尚
雪涅槃となりにける身のほとりかな 稚魚
露をのむ瑠璃鳥や涅槃の楢林 永田耕衣
青鬼の背中が泣いて涅槃絵図 規子
頭より大鯉およぐ涅槃かな 山上樹実雄
風入れの涅槃図六畳領しけり 関森勝夫
香焚けば翳のぼりつめ涅槃像 裕
馬鹿長き箱涅槃図を蔵すてふ 能村登四郎 寒九
高張りの一つひとつに涅槃の灯 影島智子
高濤のもんどり打ちし涅槃かな 古舘曹人
魚ねむる涅槃月夜の藻を抱き 秋沢流火
鯉跳ねて昼腥さき涅槃寺 中村祐子
鯛料る只今ばかり涅槃かな 斎藤玄 無畔
鰯雲沖かけて燃ゆ涅槃図絵 柴田白葉女 『月の笛』
鳥型を空の涅槃に押しつけて 齋藤玄 『雁道』
鳥獣にはじめて泪涅槃絵図 井沢正江 一身
鳥獣の我等侍りし涅槃かな 上野泰
鳥雲に入りて涅槃図にめぐりあふ 小檜山繁子
鴨は雫雑木に移す涅槃かな 大木あまり 山の夢
鶴の里涅槃の月を上げにけり 冨田みのる
黙といふもの涅槃図に描かれをり 河内静魚
鼾すなり涅槃の寺の裏門に 子規句集 虚子・碧梧桐選
あくびして目覚め給へよおん寝釈迦 木田千女
あばらもて尊者歎かふ寝釈迦かな 赤松[けい]子 白毫
おん唇のもの言ひのこす寝釈迦かな 鍵和田釉子
おん顔の三十路人なる寝釈迦かな 草田男
かりそめの御手枕の寝釈迦かな 高橋淡路女 淡路女百句
かんばせのゆたかに在す寝釈迦かな 吉武月二郎句集
しろ〜と寝釈迦の顔の胡粉かな 虚子
ながれゆくかたちととのひ寝釈迦(ニルバーナ) 柚木紀子
はりつけにあらず寝釈迦は寝給へり 及川貞 夕焼
ひぢ見せて仮寝し給ふ寝釈迦かな 鈴木栄子
ひとしきり雪の降りたる寝釈迦かな 角川春樹
まんなかにごろりとおはす寝釈迦かな 日野草城
むらさきの寝釈迦の前に薬掘る 池田世津子
一人寄りどつと寝釈迦へにじり寄り 藤田湘子 黒
哀しき象せまく跪坐して寝釈迦かな 及川貞 夕焼
嘆かひのもの樹に倚れる寝釈迦かな 岸風三楼 往来
堂暗く寝釈迦を雲と見たるのみ 依光陽子
夕焼のいよいよ暗き寝釈迦かな 岸本尚毅 舜
大いなる身をはばからず寝釈迦かな 長谷川櫂 虚空
大寝釈迦新涼の松を枕上み 下村ひろし 西陲集
大津絵の蕭条として寝釈迦かな 相生垣瓜人 微茫集
大顔をむけたまふなる寝釈迦かな 後藤夜半 翠黛
天井の闇の降りくる寝釈迦かな 蓼汀
寝釈迦さまの添ひ寝を怖れ戻りけり 嶋野國夫
寝釈迦には見ゆる獣の泪かな 後藤比奈夫
寝釈迦のうえを流れて 紅梅 辛夷の昼 伊丹公子 時間紀行
寝釈迦より小さく象の座りおり 成瀬正とし
寝釈迦見て上半身のまた痩せし 鈴木栄子
寝釈迦見るさきゆく僧の坐りけり 星野立子
小うるさい花が咲とて寝釈迦哉 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
巻きぐせの寝釈迦の上を真一文字 原田青児
彫みある寝釈迦のまとひたまふもの 後藤夜半 翠黛
御素足の幼かりける寝釈迦かな 鈴木貞雄
手まくらの金ことに照る寝釈迦かな 皆吉爽雨 泉声
新月のビルマに在りて寝釈迦かな 久米正雄 返り花
日のさして今おろかなる寝釈迦かな 永田耕衣(1900-97)
日照るとき金を横たふ寝釈迦かな 阿波野青畝
格子より見えて小さき寝釈迦かな 岩田由美
橡の実落つ寝釈迦北枕でありぬ 小堀葵
武蔵野の風の中なる寝釈迦かな 村上 光子
浮世絵のくろき漢の寝釈迦かな 後藤夜半 翠黛
涅槃図を捲くや寝釈迦の捲かるるや 大石悦子 百花
滴りを寝釈迦聴き澄みゐたりけり 鈴木しげを
燭ゆれて寝釈迦まばたきしたまへり 岡本無漏子
白々と寝釈迦の顔の胡粉かな 高浜虚子
白描の寝釈迦をろがむ夕明り 赤松[けい]子 白毫
稜線の寝釈迦にぞ見え母は亡し 大橋敦子
童が目守る大き頭りの寝釈迦さま 松村蒼石 雁
等身の金ンの寝釈迦に燭一つ 近藤一鴻
経師屋に撫でられてゐる寝釈迦かな 阿波野青畝(1899-1992)
美しく爪切られたる寝釈迦かな 木倉フミヱ
葉桜や寝釈迦台座を落ちさうな 宮坂静生 春の鹿
薇がほどけるまでの寝釈迦かな 間石
蟻の居て寝釈迦の如く蝉死して 京極杞陽「但馬住」
蠅たからせてゐるや寝釈迦の如く父 八木三日女 紅 茸
衆生らに香盤廻る寝釈迦かな 吉波泡生
衆目にさらす寝釈迦の扁平足 品川鈴子
豊かなる乳見え給ふ寝釈迦哉 篠原鳳作
象よりも大きく画きし寝釈迦かな 野村喜舟
金堂の櫺子ぞくらき寝釈迦かな 水原秋櫻子
銀杏黄葉寝釈迦を暗く拝しけり 小出文子
雪しぐれ寝釈迦と濁世ともにして 諸角せつ子
雲海に浮いて寝釈迦の在します 円仏 美咲
靴脱いで右繞三匝寝釈迦仏 町田しげき
額押し当て寝釈迦の蹠有難し 町田しげき
馴れし眼になほ昏々と寝釈迦かな 大石悦子 聞香
麦の秋島にも寝釈迦おはしけり 佐野まもる 海郷
●常楽会![]()
人の世の櫛の落ちたる常楽会 八尾 修
大勢の末世の僧の常楽会 三星山彦
山茱萸にことしの花や常楽会 榎本野影
常楽会東国の旅に出て会へり 飯田蛇笏
常楽会比丘尼の咳をまじへけり 野澤節子 遠い橋
常楽会闇に馴れたる眼据ゑ 飯田龍太
年寄の羽打ちつれたり常楽会 森 澄雄
松籠めの大湯屋に鵯常楽会 岡井省二
松風に風鐸かなで常楽会 亀井糸游
煩悩に一日の暇や常楽会 小松月尚
瓔珞の煤紐なびき常楽会 木田一杉
甲羅干す亀仰山や常楽会 大本美沙
百僧のたれかささやく常楽会 黒田杏子 水の扉
纓絡の煤紐なびき常楽会 本田一杉
美しき四簷の雨や常楽会 雛津夢里
衆僧にしらむ障子や常楽会 三星山彦
転法輪各々廻し常楽会 岡本春人
遺教経マイクにかかり常楽会 富安風生
雪もよふ雲に灯し常楽会 稲垣黄雨
●聖霊会![]()
たらたらと華籠の紅紐聖霊会 古舘曹人
光りつつ雲寄り来たり聖霊会 西村和子
内陣の供物はなやぐ聖霊会 岡本まち子
大護摩に播磨野けぶる聖霊会 谷迪子
大阪の戯作者に会ふ聖霊会 玉出雁梓幸
瑞鳥の餅花たるゝ聖霊会 鷹野清子
聖霊会ゆらりと朝の豆腐汁 小田 元
聖霊会フランス総領事席設く 上島清子
聖霊会紐擦り切れし衣装箱 瀧井けい子
難波津の貝の白妙聖霊会 中村子瓶
風すずろ亀の背乾く聖霊会 金子 晉
夕ばえや舞台の隅の貝の華 友梅
太子会やかかげて貝の華真紅 飯田晴子
群れ人と信に生きめや貝の華 高野和山人
花になく燕来たり貝の華 松瀬青々
貝の華吊す燕のひるがへり 山内佗助
●御水取![]()
うち仰ぐ眼鏡に火の粉お水取 池田秀水
お水取すみしばかりに詣でけり 根住竜孫
お水取やさしき奈良の町見ゆる 関戸靖子
お水取りの日の関東の旱かな 鳥居おさむ
お水取ホカロン売り込む茶屋親爺 高澤良一 寒暑 一月-三月
お水取三月堂は闇の中 落合水尾
お水取上堂松明天華とす 高澤良一 寒暑 一月-三月
お水取五体投地の僧修羅に 磯野莞人
お水取五体投地の板の音 安藤香風
お水取今や遅しと茶粥腹 高澤良一 寒暑 一月-三月
お水取底冷え頬に肩に背に 高澤良一 寒暑 一月-三月
お水取待つ間落ちゆく眉の月 小枝秀穂女
お水取恋々として刻を待つ 高澤良一 寒暑 一月-三月
お水取悪僧面の減りにけり 沼等外(1919-)
お水取戸帳の影の僧吹かれ 窪田あさ子
お水取果てし廊下に応と遇ふ 稲増雁来
お水取済みし夜空に星秀づ 高澤良一 寒暑 一月-三月
お水取済みし朝の雨降れり 館岡沙緻
お水取済みし落ち着き奈良の町 高澤良一 寒暑 一月-三月
お水取済みて馬醉木に和む鹿 高澤良一 寒暑 一月-三月
お水取火の曼陀羅の走る闇 山田弘子 こぶし坂
お水取火の絵巻物繰るごとし 西本一都
お水取火屑浄土にわが浮ぶ 青木綾子
お水取矢来を焦がす粗火の粉 高澤良一 寒暑 一月-三月
お水取紙子の僧のひた走り 鹿島艸影
お水取終りし土の匂ひけり 手塚七木
お水取耳で観(み)ること覚えけり 高澤良一 寒暑 一月-三月
お水取肩の火の粉を払ひ呉れ 高澤良一 寒暑 一月-三月
お水取見て来し夜半の雨の音 山田弘子 こぶし坂
お水取見て来し睡き人とをり 後藤比奈夫 初心
お水取諸注意を先づ奈良県警 高澤良一 寒暑 一月-三月
お水取近づく奈良のたたずまひ 野中丈義
お水取近づく空を風の行(ぎょう) 高澤良一 寒暑 一月-三月
くらやみのなかの相伝お水取 高澤良一 寒暑 一月-三月
ささささと火を掃く箒お水取 山田弘子 懐
どくだみや水取口に魚見えず 青野きみ
ばらりと星お水取果て犬も居ず 北野民夫
よもすがら僧のよこがほお水取 柚木紀子
一山に一寺浮き出づお水取 小島千架子
仏都奈良馬醉木が咲けばお水取 高澤良一 寒暑 一月-三月
冴え返る沓音高しお水取 石井桐陰
劫初の火劫初の水のお水取 高澤良一 寒暑 一月-三月
千年の口伝が生きてお水取 高澤良一 寒暑 一月-三月
営むといふこと切やお水取 高澤良一 寒暑 一月-三月
声つぶる僧の声明お水取 高澤良一 寒暑 一月-三月
奈良の水取は鎌倉もさむい灸すえる 荻原井泉水
後夜の燭またたきましぬお水取 山口峰玉
戞々とひそと僧形お水取 井沢正江
戻り寒ありて今日よりお水取 広瀬 みのる
振りこぼす火の粉抱くべしお水取り 高松文月
星空のかたむく下向お水取 井沢正江
松明の今何本目お水取 高澤良一 寒暑 一月-三月
檐裏に火の映えて来しお水取 右城暮石
水取といふ営みのとこしなへ 高澤良一 寒暑 一月-三月
水取のけふを知らねばただ寒し 百合山羽公
水取のそのあくる日の山の晴 角川春樹
水取のはなし海山はなれをり 田中裕明 櫻姫譚
水取の僧の居たまふ解除会(けぢよゑ)かな 大石悦子 百花
水取の僧も毛臑を持ち給ふ 大石悦子 聞香
水取の十一人の僧のうち 高野素十
水取の夜を徹して来し人も 稲畑汀子
水取の女人講の名扉に貼られ 大橋敦子
水取の寒さ掟のごとく来る 大橋敦子 匂 玉
水取の床の火の子を掃く僧等 三浦木二
水取の暗き内陣拝しけり 堀 みのる
水取の桶を覆へる榊かな 中岡 毅雄
水取の樋雫して磴のぼる 辻本斐山
水取の横がほ昏く僧並ぶ 土山紫牛
水取の火の粉ふるふは魂ふるふ 西村和子 かりそめならず
水取の火の粉掃きゆく箒かな 比叡 野村泊月
水取の炬火の上堂間をおかず 皆吉爽雨
水取の異人に草履よろこばれ 阪東春歩
水取の空のあかるむ煙草盆 田中裕明 花間一壺
水取の紙衣の僧の火の粉浴び 粟津松彩子
水取の茶所寛永の大茶釜 木村杏子
水取の走りたいまつ唯一つ 伊藤柏翠
水取の韃靼影の如き動 粟津松彩子
水取は天に星屑地に火屑 今岡碧露
水取も十日の磴に火屑つむ 皆吉爽雨 泉声
水取やどの高張も東大寺 野間紅蓼
水取やほのほをたたき曳きおりて 黒田杏子
水取や一の松明まづのぼる 比叡 野村泊月
水取や五体投地の僧若き 黒沼阿以子
水取や五體投地の堂谺 松瀬青々
水取や仰ぐ随喜の火の粉あび 田畑美穂子
水取や僧のたむろす影法師 山直六村
水取や僧形も見ず詣で去る 皆吉爽雨
水取や夜空張りつめ雨こぼす 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
水取や奈良には古き夜の色 松根東洋城
水取や格子の外の女人講 大橋櫻坡子 雨月
水取や氷の僧の沓の音 芭蕉
水取や磴につきたる火屑みち 皆吉爽雨
水取や脛もあらはのお僧達 田畑比古
水取や良弁杉は天そそり 鈴鹿野風呂
水取や衛士の提灯木の間より 岸風三樓
水取や闇に瞠く鹿の群 大石悦子 聞香
水取りの僧より賜ふ抹茶かな 佐川広治
水取りの戸帳に落ちて山の月 方 水
水取りの甕守(みかも)りのぼる影法師 角川源義 『冬の虹』
水取りの闇ごめ女身押しあひぬ 伊藤敬子
水取りやはるばる来ぬる水の脈 素丸
水取りや井をうち廻る僧の息 大江丸
水取りや大釣鐘の重低音 丘本風彦
水取りや氷の僧の沓の音 芭蕉
水取りや瀬々のぬるみもこの日より 蓼太
水取を待つ奈良ぞ佳き墨老舗 桂 樟蹊子
沓音のときに怒濤やお水取 山田弘子 懐
渓はしる水取り入れて紅葉茶屋(京都・大原路) 河野南畦 『空の貌』
火の始めは宇宙のはじめお水取 塩野谷仁
火の散華雪の散華やお水取 民井とほる
糸瓜水取りて分け合ふ人のあり 室町ひろ子
紅葉見の岩に水取*(ゆはず)かな 蕪村遺稿 秋
行僧のいっしょうけんめいお水取 高澤良一 寒暑 一月-三月
負ひし子も夢のお籠りお水取 赤松[ケイ]子
閼伽井屋を榊で囲む御水取 村潮水螢
闇に飛ぶ火の粉の筋やお水取 酒井 京
雪少しもて来し風やお水取 和田しずえ
青竹の寝かされて待つお水取 美濃部多津子
韃靼の五体投地やお水取 山本柊花
風が火を火が風を呼ぶお水取 杉本艸舟
飛ぶ如き走りの行もお水取 粟津松彩子
鵜の瀬講より誘ひ受く御水取 黒田櫻の園
つまづきて修二会の闇を手につかむ 橋本多佳子
なまぐさし五体投地の修二会僧 川崎展宏
ほむら立つ雪を修二会の散華とす 保田てい
むささびの月夜となりて修二会終ふ 河北斜陽
中空を駈けて修羅なす修二会の火 西村和子 かりそめならず
修二会なる青衣の女人まなうらに 田畑美穂女
修二会には少し間のあり鹿せんべい 高澤良一 寒暑 一月-三月
修二会の奈良に夜来る水のごと 角川源義 『冬の虹』
修二会の柱に寄れば水のこゑ 角川春樹 夢殿
修二会の棧女人とすこしものを云ふ 山口誓子 青銅
修二会の火今生といふいろにして 谷中隆子
修二会の火見し目を星にしばたたき 橋本博
修二会の赤き雪かな火の粉かな 吉川陽子
修二会の闇に犇めく声も闇 角川春樹
修二会の飾り組み居る別火房 遠藤新樹
修二会みる瞼を青く化粧して 品川鈴子
修二会や炎が駆けのぼる巨き闇 伊勢谷紅月女
修二会僧の佳き顔見ゆる又も見ゆ 山田みづえ 木語
修二会僧堂くらがりを出て黒衣 早崎 明
修二会僧大松明をぶん廻し 高澤良一 寒暑 一月-三月
修二会僧女人のわれの前通る 橋本多佳子
修二会僧戸帳に影の大写し 梅谷弥生
修二会僧紙衣の衿のやや汚れ 山田重井
修二会冷えして透明や女の瞳 加藤知世子 花 季
修二会冷え過去帳読上げ聖武より 高澤良一 寒暑 一月-三月
修二会声明地に湧き天に箒星 亀井恭子
修二会女座求めて青衣多佳子居ず 加倉井秋を 『隠愛』
修二会寒とも申すべき外陣かな 多賀ますえ
修二会待つ人の頭(かしら)のぐらぐらと 高澤良一 寒暑 一月-三月
修二会待つ夕三日月の生駒山 伊東宏晃
修二会待つ最前列の竹掴み 館岡沙緻
修二会待つ生駒信貴山薄墨に 岸野不三夫
修二会後夜油も減つてねむたしや 大野林火
修二会果つ僧の紙衣の膝ほつれ 永崎裕子
修二会果て暗し幽しと帰りけり 鷲谷七菜子 天鼓
修二会果て無限の闇に椿落つ 八牧美喜子
修二会果て鬼共僧に還る刻 鳥羽つる江
修二会走る走る女人をおきざりに 橋本多佳子
倶に寡婦修二会の火の粉喜々と浴び 我妻草豊
僧俗の格子隔てし修二会かな 川口 修
参籠の修二会に食ぶ茶粥かな 大橋敦子 匂 玉
堂上に星をいただき修二会果つ 岡崎桂子
堂塔にせまる大闇修二会果つ 深井いづみ
外陣より修二会の僧の影拝む 塚本青曜
多羅葉の実の真つ赤なる修二会かな 細川加賀
大釜に修二会のめしの炊きあがる 辻桃子 ねむ 以後
天平のテンポとリズム修二会行 吉原文音
女座格子掴みをろがむ修二会の行 坪井百合女
女身われ修二会の火の粉いただくや 斎藤芳枝
巨き闇降りて修二会にわれ沈む 藤田湘子
幕透けて揺らぐ修二会の燭なりき ふけとしこ 鎌の刃
廻廊の高さ修二会の火を降らし 岩根冬青
打ち火して火の玉曳くよ修二会僧 加藤知世子 花 季
撥釣瓶修二会気負へる湯屋童子 桂 樟蹊子
星々の俄かに近し修二会果て 加藤耕子
有難く聞く沓音も修二会なる 覚正たけし
末法の修二会の闇に紛れをり 立半青紹
杉の葉の残る修二会の火屑かな 山下美典
松明の舞も名残の修二会かな 北見さとる
板東者一人修二会に参じたり 高澤良一 寒暑 一月-三月
椿の葉挟む注連張る修二会かな 牧野春駒
榾の火にひらく修二会の行事表 大島民郎
樒縄めぐらし修二会参籠所 ふけとしこ 鎌の刃
沓穿きて大兵ぞろひ修二会僧 森田峠 避暑散歩
法螺吹いて修二会の闇を深めけり 上埜是清
法螺貝のあるときむせぶ修二会かな 黒田杏子
火が痩せて痩せて修二会の駆け廻る 山口誓子
火の修二会熾りて月の明奪ふ 加倉井秋を
火の僧の火の粒なだれ修二会かな 加藤知世子 花 季
火の粉浴び修二会警護のおまわりさん 高澤良一 寒暑 一月-三月
火を浴びし修二会椿の一枝享く 黒田杏子 花下草上
燧石修二会の行の火を点す 木村閑流
疾風くる修二会の堂に火を焚けば ふけとしこ 鎌の刃
白帳割れて修二会の僧が見ゆ 大石悦子 聞香
眠れざる鹿そこここに修二会の夜 千手和子
知る僧のこもる修二会に詣りけり 森田峠 三角屋根
突き出され修二会松明火の卍 中久保白露
篝火のいちづにうるみ修二会かな 伊藤敬子
紙を裁ち紙衣繕ふ修二会かな 石河義介
紙衣着て修二会下堂の僧若き 田中七草
絶妙の調べ修二会の僧の経 狹川青史
練行衆隔つ修二会の荒格子 伊東宏晃
群衆も修二会の闇に消されけり 水野久代
胸かばふ修二会の桟に押さへられ 品川鈴子
荒格子顔うつ修二会詣でけり 皆吉爽雨 泉声
荒行の僧に降る火や修二会 水茎春雨
荒行の息さへ静か修二会僧 山田弘子 懐
落ちし火を消す役もゐて修二会かな ふけとしこ 鎌の刃
薄闇に鹿うずくまる修二会冷 谿 昭哉
走らねば身の凍つるなり修二会僧 須賀一恵
雨もまた火屑となりて降る修二会 橋本 博
霰まじへ修二会の火屑匂ひけり 田中英子
頒たむに父亡し修二会御香水(おかうずい) 大石悦子 聞香
飲食の火を絶やさずに修二会寺 高橋謙次郎
餅を搗く男ばかりの修二会かな 細川加賀 『玉虫』
鳥獣の声ひそめをり修二会なる 澤井洋子
お松明の寂光さえて大伽藍 高桑義生
お松明僧を導く灯を高く 吉岡鳴石
お松明堂の両端振り場とす 磯野充伯
お松明招福火の粉撒き散らし 高澤良一 寒暑 一月-三月
お松明拝火教徒にあらねども 高澤良一 寒暑 一月-三月
お松明果てたる二月堂に月 奥 静代
お松明火あぶりめきし竹矢来 磯野充伯
お松明火車となり火滝となり 後藤綾子
お松明火鳴り天と地圧しけり 中島美也
お松明炎炎簷を照らしいづ 浅尾忠治
お松明燃えて人垣あとすざり 田畑三千女
お松明燃えて星空なかりけり 開田華羽
お松明突き出して闇ゆさぶれる 塩川雄三
お松明緊むる藤づる腕ほど 江村ふさ子
お松明若潮迎への繰出しぬ 田口一穂
お松明身を貫いて走りけり 関戸靖子
籠揺られ火の粉だだ洩るお松明 小山都址
水とりや心の闇の流し黐(もち) 黒柳召波 春泥句集
水とりや杉の梢の天狗星 正岡子規
水とりや氷の僧の沓の音 芭蕉
水とりや雪ぐもを日のまろび出づ 角川春樹 夢殿
●嵯峨の柱松明![]()
お松明すみたる鐘や藪を行く 田畑比古
お松明通るや火の粉掃かれつつ 原田しずえ
御松明の寂光きえて大伽藍 高桑義生
山門に見張の僧やお炬火 池尾ながし
御松明とて北嵯峨の人出かな 福田恵二
●嵯峨大念仏![]()
一院の小袖の寄進嵯峨念仏 森孝子
土蜘蛛の吐く糸無尽嵯峨念仏 岡本春人
寂しくて終りまで観し嵯峨念仏 東野礼子
嵯峨念仏また日が射して終りけり 松本旭
嵯峨念仏一幕毎に人散りて 平川名潮
嵯峨念仏松に凭り見る花疲 ながし
嵯峨念仏楽屋にとどく泥の葱 椹木啓子
嵯峨念仏牛若丸は強かりし 高濱年尾 年尾句集
嵯峨念仏鉦と太鼓を一人して 石本かなえ
嵯峨念仏鬼の荒息怺ふなし 西村和子 かりそめならず
嵯峨豆腐さげて見てをり嵯峨念仏 福田恵二
早鉦に鬼踊り出づ嵯峨念仏 西村和子 かりそめならず
松の塵しきり降り来ぬ嵯峨念仏 平松葱籠
松の間の僧の立見や嵯峨念仏 金谷柳青
百僧のなかの沙弥とし嵯峨念仏 毛笠静風
花の間に嵯峨念仏の舞台見え 福井圭児
花の雪ちるを知らずに嵯峨念仏 松瀬青々
見てゐるは里人ばかり嵯峨念仏 五十嵐播水
●彼岸会![]()
乞食仲間にひたうたれ彼岸会の夕 梅林句屑 喜谷六花
仮堂にして彼岸会の燭太し 百合山羽公 寒雁
彼岸会にわが夕厨鯖を煮る 百合山羽公 故園
彼岸会に問いかけの椅子昏れそめて 川崎ふゆき
彼岸会のなほ西方に日暮星 百合山羽公 寒雁
彼岸会の僧の後につつしめり 猪俣千代子 堆 朱
彼岸会の回向鐘たゞわんわんと 右城暮石 上下
彼岸会の心経誦せば母のこゑ 岡田 和子
彼岸会の故山ふかまるところかな 飯田蛇笏 春蘭
彼岸会の昼からの雨濃かりけり 大場白水郎
彼岸会の氷菓正体なくなりぬ 横山白虹
彼岸会の浮雲ひとつのこしけり 吉田鴻司
彼岸会の片頬さむし水飲んで 中拓夫 愛鷹
彼岸会の空にふくらむ火種かな 杉野一博
彼岸会の蝋涙あをく夕寂びぬ 大竹孤悠
彼岸会の雀の腹の暗がりヘ 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
彼岸会の音たててゐる焚火かな 吉田鴻司
彼岸会の風にのりくる牛の声 神坂知恵子
彼岸会の風のちらばる山ばかり 松澤 昭
彼岸会の鵯一羽来て二羽となる 角川照子
彼岸会やお西お東こだはらず 天川物丸
彼岸会やこゑの枯れたる老鸚鵡 松村蒼石 雪
彼岸会やすべて有髪の墓ならで 平畑静塔
彼岸会やふるさと人も背広着て 草村素子
彼岸会や双手について老の杖 助 二郎
彼岸会や妻の煮しめの薄味に 中拓夫 愛鷹
彼岸会や手空きの僧の遅昼餉 静 良夜
彼岸会や浮世話の縁者たち 清水基吉
彼岸会や花吹き入るゝ青畳 泉珀雲
彼岸会や身内の下駄を一纏め 久米幸叢
彼岸会や院家も生けるよろこびに 河野静雲
彼岸会や雨はらはらと通り過ぎ 草間時彦
彼岸会や霙まじりの蘆の雨 庄司圭吾
三井寺の彼岸に詣る湖舟かな 比叡 野村泊月
墓の雪払ひて彼岸詣かな 鈴木 康永
夕ぐれの彼岸詣はなつかしき 深川正一郎
彼岸詣鐘の供養に撞きにけり 岡本松浜
東京の寺に詣づる彼岸かな 永井龍男
梅林に雪積む彼岸詣でかな 浦野栄一
疱瘡の神へ彼岸詣のついでかな 子規句集 虚子・碧梧桐選
誘ひあひ彼岸詣の老姉妹 星野立子
逆か詣のお彼岸舟の浪かぶり 安斎櫻[カイ]子
道端の墓にも彼岸詣かな 宇都木未曾二
彼岸から片手の伸びて草団子 鳴戸奈菜
投げ団子鴉のうける彼岸かな 菅原師竹句集
母のため彼岸団子を買ひにけり 錦織 鞠
茶を点てて彼岸団子を喜ばす 後藤比奈夫 めんない千鳥
預けおく彼岸団子を帰るさに 高澤良一 さざなみやっこ 春
お彼岸や末寺の尼ぜ本山へ 星野立子
こゝにきて 彼岸の入日 額にうける 吉岡禅寺洞
ベカ群るる道にも溢れ彼岸潮 石田あき子 見舞籠
丈六の卒塔婆みちを彼岸婆 原 裕
三井寺の彼岸に詣る湖舟かな 比叡 野村泊月
丘陵の雑木吹鳴る彼岸道 高澤良一 随笑 一月-三月
亡き母のことあれこれと彼岸寺 塩川雄三
人暗き聴法の灯や彼岸寺 会津八一
僧の間に古りし助炭や彼岸寺 冨田みのる
命婦より牡丹餅たばす彼岸かな 蕪村
哀れなる法師も見えつ彼岸寺 会津八一
宝蔵の扉開けある彼岸寺 中島信峯
家々に雨ふりしぶく彼岸道 飯田龍太
寺要日記に滲む墨色彼岸入 殿村莵絲子 牡 丹
山の木のつぶさに見ゆる彼岸かな 大峯あきら 鳥道
山一つかはり雪みち彼岸前 魚目
山門にラジオ放送彼岸寺 岸風三楼 往来
引水に豆腐沈めて彼岸寺 伊沢四子
彼岸の道の年寄の声におくれつつ行くや 梅林句屑 喜谷六花
彼岸入とて萩の餅波郷氏も 及川貞 夕焼
彼岸寺いづこ風船をどり来る 林原耒井 蜩
彼岸寺こぼれるやうに雀ゐて 宇咲冬男
彼岸寺に囀り早く旭の樹頭 青峰集 島田青峰
彼岸寺庫裏に干しある女傘 茂里正治
彼岸牡丹餅木曾義仲の墓前かな 下田稔
彼岸道あまりに草の深きかな 白水郎句集 大場白水郎
彼岸道つきさうもなき立話 河野静雲 閻魔
彼岸道比叡まばゆき行手かな 島村元句集
愚妻ぞと云えど道づれ彼岸東風 富田潮児
手に持ちて線香賣りぬ彼岸道 高濱虚子
日当りて彼岸寺なり白毫寺 外川飼虎
朝市も日和つゞきや彼岸寺 四明句集 中川四明
木履あまた草履も見えて彼岸寺 廣江八重櫻
未亡人と見てうら若し彼岸みち 占魚
東京の寺に詣づる彼岸かな 永井龍男
海に出づ彼岸の餅を平らげて 中拓夫
温泉の里の一つの寺の彼岸かな 楠目橙黄子 橙圃
烏骨鶏の夫婦出歩き彼岸寺 熊谷愛子
無住寺の灯りの見えて彼岸入り 関根昌子
牡丹餅の昼夜を分つ彼岸かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
田螺鳴く夕淋しや彼岸道 癖三酔句集 岡本癖三酔
石段のいま照つてゐる彼岸かな 大峯あきら 鳥道
竹垣の縄のゆるみも彼岸寺 神尾久美子 桐の木
緑の羽根さして彼岸の餅黄なり 百合山羽公 寒雁
義仲寺の水のにごれる彼岸かな 深見けん二
耳遠き婆の餅買ふ彼岸かな 白岩三郎
苔寺の苔の漸く彼岸かな 尾崎迷堂 孤輪
谷戸の道彼岸の鐘がうしろより 町田しげき
遮二無二と婆々が工面の彼岸餅 河野静雲
重箱の牡丹剥げたり彼岸餅 大谷句佛 我は我
鎌倉や松の中なる彼岸寺 青峰集 島田青峰
長谷寺に法鼓轟く彼岸かな 高浜虚子
雲に古る扉の花鳥彼岸寺 飯田蛇笏 春蘭
高札をかついで僧や彼岸道 比叡 野村泊月
●御影供![]()
一族に僧籍多き御影供かな 近藤一鴻
北面の御堂かしこし御影供 召波
夢に見えたまへるままを御影供かな 横山蜃楼
大原女や御影供詣の頬被 柴田只管
島原やどつと御影供のこぼれ人 一茶
師の法衣着て代参や正御影供 森白象
得度して御影供の輿を舁きにけり 田中曉波
御影供が花が人呼び深山寺 荻野信子
御影供こめて十日の雨や苗代田 子規句集 虚子・碧梧桐選
御影供の人出堰きつゝ輿すゝむ 佐藤慈童
御影供の馬のうはさや蕨餅 四明句集 中川四明
御影供やいまも亡びぬいろは歌 近藤一鴻
御影供やさらぬ小寺の花も見る 松瀬青々
御影供やひとの問よる守敏塚 炭 太祇 太祇句選
御影供や一子を僧にせん願ひ 三星山彦
御影供や人に埋もるる壬生朱雀 太祇
御影供や信心深き弟子大工 片桐梧桐
御影供や御衣をろがむ奥の院 田口一穂
御影供や愛染堂はしづかなる 二 蛤
御影供や深使ひせる寺箒 永作火童
御影供や老て見まがふ角力取 田原 毛条 五車反古
御影供や花の浄土に吾も座し 内海弘喜
御影供や顱の青き新比丘尼 許 六
春深く御影供といふ一と日あり 後藤比奈夫
暁を松に月あり御影供 三宅嘯山
法螺の音の雲追ひ払ふ正御影供 吉田美代子
苗さげて御影供詣の帰り道 林 アヤ
蔀みな開かれてあり花御影供 内海世潮
還俗の弟子も来てゐる御影供かな 森白象
こらへゐて雨も大粒空海忌 宇佐美魚目 天地存問
とこしへにいろは歌あり空海忌 兼田英太
わが家系出家の多し空海忌 近藤一鴻
上京や月夜しぐるゝ御影講 九董
僧の声洩るる空海忌の炉端 田中菅子
入定の御和讃聞こゆ空海忌 田近セツ子
四国上空雲をゆたかに空海忌 正木ゆう子 静かな水
堂ぬちの真闇も浄土空海忌 村上梅泉
大師忌の夢のはじめに火色雲 周藤白鳳
妻伴れて亡き子に遭はん空海忌 小畑一天
山吹の黄金とみどり空海忌 森澄雄 空艪
島になほ善根の宿空海忌 伴 縷紅女
御影講の花の主や女形 太祇
御影講や千鳥の跡も波の上 三谷耕村
御影講や顱の青き新比丘尼 許六
御影講戻り谷中の桜咲きにけり 昌夏 選集「板東太郎」
瑠璃蟻の蛹おそろし空海忌 塚本邦雄 甘露
空海忌うからの一人僧籍に 大森紅蔦
空海忌念珠貫く赤き紐 小澤 實
空海忌箒は腐爛しつつ在り 河原枇杷男 流灌頂
空海忌高野の雨の雷支へ 土田祈久男
苗売りの苗に日当る弘法忌 吉田鴻司
草餅の今も摂待空海忌 久垣 大輔
雨降るは伝教大師忌の鴉 鈴木六林男 王国
頭突きくる伝教大師忌の白蛾 宮坂静生 山開
●六阿弥陀詣![]()
亀戸は工区の香して六阿弥陀 内野波間
六阿弥陀あかがねの秋至りけり 岡井省二
六阿弥陀かけて鳴らむ時鳥 榎本其角
六阿弥陀とて坂多き埃路を 安岡浄机子
六阿弥陀居つて拝む人はなし 中村亀玉
六阿弥陀梅見つゝ道はかどらず 佐久間龍花
六阿弥陀詣での婆が地下鉄に 小野 博
野の道や梅から梅へ六阿弥陀 正岡子規
●開帳![]()
*えり壷に仰山の魚出開帳 関戸靖子
ちよんちよんとおじゆず頂戴出開帳 八木林之介 青霞集
はるばると山おり来まし出開帳 高田蝶衣
ひれ伏して歓喜の僧や開帳会 河野静雲
一山を洗ひし雨やお開帳 木内彰志
人混みよりわが身抜き取る出開帳 高澤良一 ぱらりとせ 春
伎芸天開帳の簷を揚羽越ゆ 中村風信子
出開帳力む仁王の脇抜けて 高澤良一 ぱらりとせ 春
出開帳大漁旗の舟集ふ 田上さき子
出開帳憩ひおはすと人出かな 草野駝王
出開帳衆僧綺羅をかざりけり 山口一舞子
出開帳遅日の顔をならべをり 岡本松浜 白菊
出開帳頭(つむり)の間のご本尊 高澤良一 ぱらりとせ 春
半蔀を内側へ揚げお開帳 北野民夫
厨子の箔夕日に古び出開帳 近藤一鴻
地の窪は花びら溜りお開帳 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
天の戸の開帳なれや雪佛 重 供
宝蔵の扉の重たしよ開帳寺 伊藤白潮
小指ほどのみ仏に逢ひ出開帳 大城まさ子
廻す・打つ・撫でるやお開帳にきて 田口彌生
村の子の面輪似通ふ開帳寺 大野世思子
波音の消えて山みち出開帳 大峯あきら 鳥道
浦人に一と日限りの出開帳 小林寂無
炎上をまぬがれたまひ出開帳 清原枴童
無住寺に檀徒の煮炊き出開帳 安倍睦代
百里来し輿を拝めり出開帳 田上石情
稚児加持も大開帳の一行事 爲成菖蒲園
花ちるやとある木陰も開帳仏 一茶 ■文政元年戊寅(五十六歳)
蝶となりし母も見に来ぬ出開帳 高橋睦郎 舊句帖
衆目にいま開帳の春日厨子 江口竹亭
行列の大寺を発つ出開帳 本橋美和
襷せる世話役はしり出開帳 八木林之介 青霞集
遥々と率土の浜や出開帳 寒香梅琴
銭湯へ沙弥の連れ立つ出開帳 静 良夜
開帳といふも閻王塵被り 園田弥生
開帳に逢ふや雀もおや子連 一茶 ■文政元年戊寅(五十六歳)
開帳に逢ふや雀も親子づれ 小林一茶
開帳の仏は焦げて在しけり 村井渓雪
開帳の仏真つ黒みそさざい 菅原鬨也
開帳の千手の四五手ほのと見ゆ 上井正司
開帳の夢殿夢もかい間見ぬ 井沢正江 湖の伝説
開帳の岩屋の秘仏ほのぼのと 高山松男
開帳の幟穂麦の中に立つ 島田芳恵
開帳の庭にほしがるさくらかな 横井也有 蘿葉集
開帳の時は今なり南無阿弥陀 高浜虚子
開帳の破れ鐘つくや深山寺 飯田蛇笏 山廬集
開帳の膝つめ合はす菜種梅雨 斉藤富雄
開帳の過ぎて間もなし今年竹 中村史邦
開帳へ傘のふれ合ふ列に蹤く 橋本青稲
開帳やけふの命のありがたく 清原枴童
開帳や一寸の秘仏大伽藍 魚住玉蝉
開帳や古釘に結ふ善の綱 岡田游子
開帳や唇赤き観世音 簗 夢郷
開帳や夕月ひくくひとあるく 田中裕明
開帳や外陣内陣内々陣 西本一都 景色
開帳や大きな頬の観世音 阿波野青畝
開帳や大き過ぎたる稚児ひとり 広田恵美子
開帳や天意のふらす花すこし 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
開帳や尿桶並ぶ木瓜の中 松瀬青々
開帳や港と共に古りし寺 洞外道子
開帳や秘仏の肩のうすぼこり 有馬くに女
開帳や肩に落ちたる鳶の糞 森 澄雄
開帳や背の子の持つ智恵の餅 早川恵宜
開帳や草の蛇うつ堂の前 松瀬青々
開帳や蒙古の廟の歓喜天 三溝沙美
開帳や護摩の火昼も夜も盛ん 本間白城
開帳や雲居の鳥の声こぼれ 木村蕪城
開帳を晴れがましとて御ン目伏せ 宮下翠舟
開帳仏開扉待ちゐしごと微笑 木田素子
開帳寺門前臨時郵便局 高澤良一 ぱらりとせ 春
開帳待つ最前列の綱つかみ 坂田栄三
電気屋の店に開帳観仏会 金丸トミ
顔に来し雨の一粒出開帳 大峯あきら 鳥道
樫鳥や開龕に置く小賽銭 北野民夫
●遍路![]()
あまりにも波打際を遍路行く 大牧 広
いつの間にか本気となりし遍路かな 根岸ナツ
いわし雲虚子と遍路をしたかりし 藤田湘子 てんてん
お遍路となりたる妻に掌を合はす 藤田左太尾
お遍路となるや松風身にひびき 沢木欣一 遍歴
お遍路にふくろふの子の落ちてくる 黒田杏子 花下草上
お遍路に報謝の米の一ト握り 市川千代
お遍路に路傍の石も仏顔 山本くに子
お遍路の明日は難所の早泊り 浅野かをる
お遍路の美しければあはれなり 高濱年尾
お遍路の静かに去つて行く桜 高浜年尾
お遍路木槿の花をほめる杖つく 尾崎放哉
かなしみはしんじつ白し夕遍路 野見山朱鳥
がじゆまるの岬に至る梅雨遍路 黒田杏子 花下草上
きざはしの高きに這へる遍路かな 井沢正江
くみおきの水に日暮や遍路宿 宮坂静生 樹下
げんげ田に沈みて遍路冥利かな 沢木欣一 遍歴
この山の水美しと夕遍路 神尾久美子
この床几吾も休めど遍路のもの 山口誓子 構橋
この駅も雨の遍路の乗りしのみ 皆吉爽雨
さくら咲く少年遍路ふたりづれ 黒田杏子 花下草上
さへづりや遍路の笠の花結び 吉田未灰
しんじつのらんけんそはか老遍路 佐々木会津
そらまめの黒き目のなか遍路石 沢木欣一 遍歴
にほどりを見てゐる親子遍路かな 岸 風三楼
ははそはの母と歩むや遍路来る 中村草田男
ひろびろと灯を入れて待つ遍路宿 阿波野青畝
ふりかへり面輪やさしき遍路かな 高浜年尾
ふるさとに似し山河かな遍路来る 星野立子
ふるさとや紐の切れたる遍路笠 向山隆峰
ぽつねんと遍路坐しけり遠紅葉 井上論天
みなづきの遍路荷物の減りもせず 黒田杏子 花下草上
むすめ遍路に雪割櫻夕櫻 黒田杏子 花下草上
やうやくにをんな遍路をこころざす 黒田杏子 花下草上
わらぢうつ槌の大きな遍路宿 毛利堤河
ゐこぼれて草藉くもあり遍路茶屋 芝不器男
一つ葉や遍路ふるみち濡れてをり 井上閑子
一人の欠けし極月遍路かな 黒田杏子 花下草上
一人ゆくまだ少年の遍路かな 杉原美代子
一団の来て白うせり遍路宿 川原つう
一戒をさづかるわれも花遍路 三田きえ子
一日の遍路疲れの杖洗ふ 佐藤灯光
一枚はお遍路さんの花筵 南冨美子
一目見て阿波の遍路と見受けたり 酒井酔夢
下駄はいて温泉町の宵の遍路衆 草雲雀 柳原極堂
中二階くだりて炊ぐ遍路かな 芝不器男
人だれも病むところ持ち遍路寺 鍵和田[ゆう]子 未来図
俳小屋の主なき遍路笠ひとつ 山田弘子 こぶし坂以後
俳遍路東風三丁の廻り道 中野三允句集 中野三允
先達の腰鈴やさし遍路坂 村上洋子
八月も果ての没日の遍路道 飯田龍太
出支度やいもせかむりに遍路笠 村尾公羽
初夢のなかをわが身の遍路行 飯田龍太 今昔
咋日より今日汗臭き遍路われ 品川鈴子
喪ごもりの遍路の人の早発ちす 田中好子
四万十の子遍路ねむる渡し船 浜田順子
塩田に遍路の鈴の遠音あり 石原舟月
塩田のゆふぐれとなる遍路かな 山口誓子
塩田を雲とへだてゝ遍路ゆく 阿波野青畝
夕波のひびき戸を打つ遍路宿 田守としを
夕波の見えて淋しき遍路かな 桜木俊晃
夕遍路いづれの堂もとざされぬ 下村梅子
夜のテレビ見て笑う遍路河口近く 福富健男
大風に花蘂降れり夕遍路 大石香代子
天の花降る三日目の遍路かな 駒走鷹志
天明に鈴覚ましては遍路発つ 矢野 聖峰
天明は遍路のわらぢ結ふに足る 佐野まもる
子遍路がちかづけば草戦ぎけり 長谷川双魚
子遍路が泣き出す鳩に囲まれて 尾形千寿
子遍路に山彦のゐる札所かな 山崎一角
子遍路に手習さしてゐたりけり 赤坂藤園
子遍路の叱られてゐる夕蛙 吉野桜午
子遍路の杖に雨泌む結願寺 神谷翠泉
子遍路の真央ちやんといふ残花かな 黒田杏子 花下草上
子遍路の笠の目立ちて行きにけり 池田真介
子遍路の綿菓子母の舌で舐む 佐野まもる
子遍路の鈴がもつとも鳴りて過ぐ 中本 柑風
子遍路も喜捨受く杖を股ばさみ 渡辺 昭
家の前家のうしろの遍路みち 高野素十
宿賃の宵勘定や遍路宿 合田丁字路
山萌ゆる女遍路を一人容れ 沢木欣一 遍歴
島遍路干潟歩きて近道す 芳野正王
左手を折りの手とし遍路立つ 山口誓子 不動
年寄りの足の確かや夕遍路 高野素十
年玉を宿のわらべに老遍路 壺井久子
往き交ひのみな遍路なる白峰寺 上田土筆坊
待宵の伊予に着きたる遍路かな 星野椿
御手洗をかこむ遍路の白脚絆 森田峠 三角屋根
怒濤寄す土佐の荒磯を来る遍路 松永唯道
愛の羽根つけて納むる遍路笠 綿谷ただ志
憩ひつゝ肩うちあへる遍路かな 皆吉爽雨
手を休め遍路を通す溝浚 白澤よし子
手鏡も笠のうちなる遍路かな 野村泊月
拝みつゝ遍路まなこをつむりけり 星野立子
方丈に帷子積んで遍路寺 氷川殉子
方言を違へて次の遍路衆 湯川河南
日つむりて遍路瀧音の中にをり 鷹野 清子
早起きのをんな遍路となりにけり 黒田杏子 花下草上
晩年の母の小振りの遍路鈴 品川鈴子
月の出をうしろにきえし遍路かな 渡邊水巴
木蓮にたどりつきたる遍路かな 岩田由美
朱印濃き遍路衣かむり逝かれけり 中戸川朝人 星辰
杖立てしのみの遍路の墓なりし 成瀬櫻桃子
松頼にまどろむもある遍路かな 芝不器男
柿の渋塗つて干しある遍路笠 津田美代子
桑の実に唇の汚れし遍路かな 水内鬼灯
桑青し秩父遍路も蜂起跡 佐藤佳郷
梟や遍路がさがさ荷をさぐり 黒田杏子 花下草上
椿一輪描きし遍路便りかな 岩切青桃
椿咲く岬遍路の撞く鐘か 田中千恵
櫻の根に心許して遍路眠る 津田清子
歩くこと即ち遍路心とも 高田風人子
水に泛く藁も遍路の見るものに 藤田湘子 春祭
汐げむりあがりし磯に遍路道 川田十雨
汽車著いてひとり遅れて夕遍路 林田探花
泣かむには遍路の袖の袂無し 岡本 眸
浜風や遍路の妻のおくれがち 高橋淡路女
海女の墓遍路の墓とこの国は 後藤比奈夫 めんない千鳥
海草の打ち揚げられし遍路道 山口誓子
溝蕎麦や足摺へ向く遍路みち 中平泰作
片側見せて逆光の遍路海の上 金子兜太
現世の新聞を読む遍路終へ 品川鈴子
甲板に遍路が二人良夜かな 玉置ときわ
病人を残し遍路の発ちにけり 岡本ゆきゑ
白き遍路月の屋島に散りにけり 山田敏子
白く湧き白く動きつ遍路行 斎藤梅子
白峯や今からのぼる夕遍路 奥村霞人
石手寺の縁に荷を置く遍路かな 池内たけし
石段をひろがりのぼる遍路かな 皆吉爽雨
空海のこと云ふわれは似而非(えせ)遍路 品川鈴子
突き減りていよよ頼みの遍路杖 辻本斐山
童顔の残る遍路と道連に 森白象
笈摺もみな手作りと老遍路 久住文子
紅の櫛ふところに阿波遍路 有馬朗人 天為
紅梅の中より遍路来る日和 綿谷ただ志
美しい遍路に逢わないで 松蝉に鳴かれる 吉岡禅寺洞
老遍路寺の厠を心あて 小澤 實
老遍路窶れて空也さながらに 斉部薫風
船おりてからも道づれ島遍路 山本担雪
船降りる身支度しかと遍路かな 岡田一峰
花にむき遍路がひとり言をいふ 西垣 脩
草を打つ雨を遍路のゆきにけり 藤田あけ烏
草餅に河波の遍路の道なかば 山本洋子
荷をおろし仏へ立ちし遍路かな 深川正一郎
落慶にめぐりあひをる遍路かな 阿波野青畝
衆にして孤なりける白遍路 杉本雷造
裏山の遍路径てふ木の実降る 馬場志づ代
負ひしものそれぞれ違ふ夕遍路 笠間照子
足摺の嶮にかゝれる遍路かな 梶野孤菫
足摺の遍路しんじつ鈴の澄む 齊藤美規
逢うて別るる子遍路のこころざし 黒田杏子 花下草上
遍路あはれ花田落ちゆく鳥の影 角川源義
遍路いまは通らぬみちの草に蝶 鷲谷七菜子 天鼓
遍路かも刻なしの鐘鳴りつぐは 日野あや子
遍路の荷おろす床几に花の塵 深川正一郎
遍路の荷中味は知らず落花載る 津田清子
遍路みち白く乾きて胡麻の花 大中誉子
遍路みな悲しみ負へり桐の花 有働 亨
遍路ゆき犬ゆき渚まだ暮れず 白川友幸
遍路ゆくひとりひとりの暗渠を持ち 田川飛旅子
遍路一人落花一幹明星来 黒田杏子 花下草上
遍路一団睡り落つ後の月 黒田杏子 花下草上
遍路婆たそがれ顔に通りけり 村山古郷
遍路宿泥しぶきたる行燈かな 芝不器男
遍路宿海の入日に波斯猫 山本 源
遍路寺担き出でし荷は何ならむ 飯田龍太
遍路杖つけば染まりぬ草の青 沢木欣一 遍歴
遍路殿と室戸別れや花木槿 橋本夢道 無類の妻
遍路石風くたくたと過ぎにけり 古舘曹人
遍路笠沖は黒潮流れをり 益本三知子
遍路笠脱ぎて仰げり山桜 沢木欣一 遍歴
遍路脱ぐ今日のよごれの白足袋を 中村草田男
遍路鈴霧の中より聞こえくる 上田しずゑ
遍路髪たばねつめたる小さゝよ 田畑比古
道のべに阿波の遍路の墓あはれ 高濱虚子
道岐れすなはち遍路しるべかな 上崎暮潮
遠ざかる遍路の鈴や捩花 有馬朗人
野に出でて鈴振るばかり偽遍路 沢木欣一 遍歴
野施行やこゝらも秩父遍路道 荒川あつし
鐘撞いて村の気を締め遍路寺 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
降りさうで降らず真新の遍路杖 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
雨の夜の帳場にも居る遍路かな 森田峠 逆瀬川
雨やどりやがて立ちゆく遍路かな 清原枴童
雨垂に手をすゝぎゐる遍路かな 田村木国
雨風の遍路飛ばされつつ行けり 宮津昭彦
青饅やこの世を遍路通りゐる 森澄雄 鯉素
面影のあとさきに立つ花遍路 角川照子
養花天鏡一面遍路宿 黒田杏子 花下草上
鱸に出て面輪めでたき遍路たち 木津 柳芽
三従の妻の後生に島四国 近藤一鴻
下総の四国巡りやかんこ鳥 一茶 ■文化七年庚午(四十八歳)
囀りの真言を浴び島四国 中戸川朝人 星辰
蒟蒻掘る善根宿の夫婦かな 加倉井秋を
仏さま神さま島の善根宿 相原左義長
●仏生会![]()
あまたるう空暮れゆけり仏生会 高澤良一 随笑 四月-六月
くるぶしに蝿のちひさく仏生会 小島千架子
この山の鴉大ぶり仏生会 影島智子
こんにやくの芽が鉢に伸び仏生会 きくの
つくだ煮の湖のいろくづ仏生会 澄雄
どしや降りに落花ただよふ仏生会 林火
ぬかづけばわれも善女や仏生会 杉田久女
はらはらと真昼の雨や仏生会 中村汀女
ほたる烏賊越よりとどき仏生会 角川春樹 夢殿
ぼうたんの衰へぬ間の仏生会 森 澄雄
またちがふ鳥の来てゐる仏生会 宮澤映子
みづうみのこまかきひかり仏生会 鷲谷七菜子 花寂び
やはらかき雨の降るなり仏生会 竹中福雅
三叉路に立つ小旋風や仏生会 鍵和田[ゆう]子 浮標
仏生会くぬぎは花を懸けつらね 石田波郷
仏生会さくらしべふる日なりけり 角川春樹
仏生会をさなき顔はみな仏 山本輝明
仏生会双眼鏡に潮あをあを 野沢節子 八朶集以後
仏生会城山の鳶海に啼き 宮津昭彦
仏生会川の中途に日が射して 岸田稚魚
仏生会左手の誦経まさりゐる 八木林之助
仏生会母を亡くせしわれに雨 山田冬馬
仏生会淋しき海のありにけり 角川春樹
仏生会猫の器に雨が降る 依光陽子
仏生会玻璃戸に雨の流れけり 岡田理子
仏生会花の梢の見えずなり 岸田稚魚 『萩供養』
仏生会蛇も衆生として来しか 伊藤いと子
仏生会蝌蚪も新たなものの数 野澤節子 黄 炎
仏生会諸子捕りにもゆけぬまま 齋藤玄 『雁道』
仏生会金魚をつれて退院す 阿部みどり女 『雪嶺』
仏生会鎌倉のそら人歩く 川崎展宏
仏生会露生の土にわれの影 三島晩蝉
仏生会鳰には鳰の笛仕え 佐々木栄子
僧の血を曳く母の祖や仏生会 大橋敦子 手 鞠
切株の芯のくれなゐ仏生会 伊藤乃里子
外人のアベツクもゐる仏生会 山根きぬえ
大寺の青き畳や仏生会 佐藤信子
大荒れの海に日差せり仏生会 茨木和生 三輪崎
大雨の降りかくす嵯峨や仏生会 渡辺水巴
天と地のいづれ明るし仏生会 神尾久美子 桐の木
寧楽山の夕影まろし仏生会 長沼恒子
寺に来て日に浴す人仏生会 大橋敦子
小鳥とて血を裹むもの仏生会 友岡子郷 未草
山の木のぞくぞく生えて仏生会 櫛原希伊子
山は山で鳥は鳥なり仏生会 大牧 広
山寺の障子締めあり仏生会 高浜虚子
山門を入り大椿仏生会 大峯あきら 宇宙塵
座布団を並べ直しぬ仏生会 岩淵喜代子 硝子の仲間
庭に来し鳥と目のあふ仏生会 つじ加代子
御本尊どぜう髯もて仏生会 高澤良一 燕音 四月
断崖に海のめくれる仏生会 中尾寿美子
新茶煮る曉起きや仏生会 大 祇
暗渠出て嬉々たる水や仏生会 鍵和田[ゆう]子 浮標
木偶鴨の畦に並びし仏生会 関戸靖子
木菟の洞いまも高きに仏生会 肥田埜勝美
杣径の大昼月や仏生会 大峯あきら 鳥道
枳殻も苅り揃へたり仏生会 山店 芭蕉庵小文庫
桜ねむられぬばかりの仏生会 斎藤玄 雁道
浮雲も浮葉も幼な仏生会 櫛原希伊子
海に鳴く鳶の聞ゆる仏生会 酒井みゆき
濡るる手を濡らしてゐたり仏生会 今村俊三
濡縁のぬくもりに触れ仏生会 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
火事ひとつあり大阪の仏生会 辻田克巳
無憂華の木蔭はいづこ仏生会 杉田久女
焼跡の天の広さよ仏生会 深見けん二
生涯を足袋干す暮らし仏生会 井上雪
白象の糸のまなじり仏生会 長谷川櫂 蓬莱
眉描いて来し白犬や仏生会 川端茅舎
石組に亀の集まる仏生会 森田公司
秩父往還朝から雨の仏生会 曽野 綾
稚児を抱く胸のぬくもり仏生会 市川 和美
稚子はや人のにほひの仏生会 文挟夫佐恵
空青う青うなりゆく仏生会 高澤良一 随笑 四月-六月
美髯僧太鼓強打つ仏生会 館岡沙緻
老僧のエー〜童話仏生会 河野静雲 閻魔
肥柄杓からりと乾く仏生会 辻田克巳
臍峠いづこや雨の仏生会 魚目
花このまゝ仏生会までもたせたし 高澤良一 さざなみやっこ 春
花の中にあまた虫ゐて仏生会 中山鈍子
花よりも柿に親しき仏生会 角川春樹 夢殿
花買ひの中に人買ひ仏生会 齋藤玄 『無畔』
蟻逢うて顔よせ別る仏生会 佐野美智
足拭きて足に日当る仏生会 小島千架子
跣足にて婆が物売る仏生会 阿部みどり女
軒に藤かざして村の仏生会 伊藤いと子
鎌倉の海青き日や仏生会 千手和子
長葱の白こそ真白仏生会 神尾久美子 桐の木
降り足りて夜空むらさき仏生会 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
雨だれのうちの御堂や仏生会 今川白峰
雨だれのしぶくときあり仏生会 中塚黙史
雨垂れの向ふ草山仏生会 村越化石
雨濡れの鳩の微光や仏生会 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
雲のあゆみ水の行くかたや仏生会 白雄
音のみな濤へ出揃ふ仏生会 鳥居おさむ
風のあと月の大きな仏生会 斉藤みちえ
鯉群れて撒餌とり合ふ仏生会 高澤良一 随笑 四月-六月
鳶は老い鴉は若し仏生会 大峯あきら 宇宙塵
麦飯や母にたかせて仏生会 其角
黒人の母娘も善女仏生会 久本 千代喜
どの畦も人が往き来す灌仏会 中野あぐり
よその子を叱る人居て灌仏会 古川充子
佛母たりとも女人は悲し灌仏会 橋本多佳子
俗の身に寺の勤めや灌仏会 鶴田葭春
吹き降りの西より霽れて灌仏会 渡辺 立男
堂前の大山桜灌仏会 星野立子
大雨が地を洗ひたる灌仏会 細見綾子
天つ日は古く新し灌仏会 大峯あきら 宇宙塵
女手のそこそこ揃ひ灌仏会 大石悦子 百花
少年は馬を羨しみ灌仏会 神尾久美子 桐の木
尼たちが少女の起居灌仏会 熊谷愛子
山裾の三椏の花灌仏会 細見綾子 黄 炎
庭に飼ふ鯉の緋衣灌仏会 堀口星眠 樹の雫
灌仏に咲く花散る花みないとし 椎橋清翠
灌仏に大屋根朽ちて落ちんとす 温亭句集 篠原温亭
灌仏に掃きゐる僧や人の中 雑草 長谷川零餘子
灌仏に軽雷山を下りてくる 西村公鳳
灌仏のお寺の庭に手毬つき 阿部みどり女 笹鳴
灌仏のたちまち虚子のあるごとし 岡井省二
灌仏の乾きがてに甘茶流れけり 雑草 長谷川零餘子
灌仏の人の中なる柱かな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
灌仏の如泳ぎ子の立ち上り 上野泰 佐介
灌仏の手に寸鉄の光かな 古館曹人
灌仏の日に生れあふ鹿の子哉 松尾芭蕉
灌仏の日に生れ逢ふ鹿の子哉 芭蕉
灌仏の柄杓やりとり見ず知らず 高澤良一 寒暑 四月-六月
灌仏の横向いてゐる夕日かな 渡邊水巴
灌仏の肩がかわくにいくたびも 篠原梵
灌仏の風吹けば飛ぶ雫かな 岸本尚毅 舜
灌仏の麦の穂活けし手桶かな 萩原麦草 麦嵐
灌仏やぽつんぽつんと石に雨 岸本尚毅 鶏頭
灌仏やもめも漸く収まりて 西山泊雲 泊雲
灌仏や仮リに刻し小刀目 炭 太祇 太祇句選後篇
灌仏や女人の中の女の子 温亭句集 篠原温亭
灌仏や尼の子尼になりにけり 正岡子規
灌仏や影つれて飛ぶ山がらす 大峯あきら 鳥道
灌仏や捨子すなはち寺の沙弥 キ角 四 月 月別句集「韻塞」
灌仏や椿ぽた〜御堂前 小澤碧童 碧童句集
灌仏や沼の子雨に濡れそぼち 木村蕪城
灌仏や皺手合する数珠の音 松尾芭蕉
灌仏や蔦の若葉もあゆみそめ 千代尼
灌仏や釈迦と提婆は従弟どし 之道 芭蕉庵小文庫
灌仏や雨は黒身の蝌蚪に降り 村越化石 山國抄
灌仏会ぬぎし草履はふところに 細見綾子 黄 炎
灌仏会冷たい甘茶詫びながら 瀧 春一
灌仏会御僧ひとり端居ます 軽部烏帽子 [しどみ]の花
灌仏会摘みしれんげはすぐ萎ヘ 細見綾子 黄 炎
灌仏会暮れても街に身を置きて 大島四月草
灌仏会蝌蚪も新たなものの数 野澤節子
白猫の松を降りくる灌仏会 星野恒彦
真紅もて白昼を継ぐ灌仏会 小笠原理
空に海海に空入る灌仏会 藤村克明
藪に日のしばらくかかり灌仏会 永方裕子
身の芯にともる小さき焔灌仏会 鍵和田[ゆう]子 浮標
金色の鯉の浮きくる灌仏会 山城英夫
雲の裏に日は籠りゐて灌仏会 加藤余石
あめつちの濡れてにほへる花祭 市川花庭
はなびらが金属破片花祭 三村凪彦
わらべらに天かがやきて花祭 飯田蛇笏 雪峡
ブリキなる象の耳揺れ花祭 柳原控七郎
仏とはにんべんなりし花祭 松田都青
僧もする稚児の化粧や花祭 石田雨圃子
先生の先生の忌は花祭 山名愛三
公照の泥佛あり花祭 塩川雄三
出番待つ鬼が酔ひをり花祭 山田洋々
地獄図に子の集まりて花祭 星 多希子
塗り剥げし鉞振ふ花祭踊 村上冬燕
婆々の髪お花祭の花かざし 河野静雲
寺の名で僧が呼ばるる花祭 大山 茂
寺の灯の彩を殖やして花祭り 深谷 保
寺町や背中合せに花祭 三溝沙美
山々に鐘こだまして花祭 阿部タミ子
峡空に一白煙の花祭の果て 友岡子郷 遠方
幔幕を鳩の汚せる花祭 高橋勇三
松蝉の声の嗄れたる花祭 吉武月二郎
母の背に眠る稚児あり花祭 柏谷さち子
深酒の寝息も花祭(はな)の笛に通ふ 友岡子郷 遠方
稚児みなの帯は絞りの花祭 成田耕作
胎内に母音のこだま花祭 橋口 等
花祭いつか日傘を忘れし寺 阿部みどり女
花祭のレコード鳴らし作務の僧 石渡ひろし
花祭の白象生死無限にして 長谷川かな女 花 季
花祭までの一ト月定期券 松尾隆信
花祭みづやまの塔そびえたり 飯田蛇笏 春蘭
花祭り三十三間堂もかな 川崎展宏
花祭り舞処に散らす榊の葉 安田建司
花祭後れじと蹤く風の稚子 石塚友二
花祭果てゝまた村口の古き樫 友岡子郷 遠方
花祭済みたる寺の広さかな 和田圭玄
花祭稚児の口みな一文字 明石志園
花祭稚児出てくるはでてくるは 阿部杉風
花祭稚児白象の鼻を撫づ 岸 正儀子
花祭美しき人間喜劇かな 阿部完市 無帽
花祭薄く削がれて女の咳 楠本憲吉
花祭衆生済度の雨はげし 宇佐美叱風
花祭踊る設楽の真闇雪降らす 村上冬燕
花祭近しや宙に嶺が出て 宮坂静生 春の鹿
街の天かもめまぶしく花祭 石原舟月
裏山へ帰る子のあり花祭 小川鴻翔
見まはしてわれは男や花祭 桑原三郎 晝夜 以後
象の綱伸びてすすめり花祭 村尾公羽
象の背をころがる水や花祭 石田由美枝
象の鼻少し不出来や花祭 相原雨稲
通辞われ仏典を繰り花祭 横山山人
道草をしてゐる象や花祭 寺井美津子
陸橋の没日巨きな花祭 石原舟月
青獅子の文殊菩薩や花祭 加藤三七子
*ひびを解く船の出てゐる花まつり 平松良子
おしろひの剥げたる稚児も花まつり 百合山羽公
ほの湿る寺の円柱花まつり 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
みづうみに入る瀬を越えて花まつり 飯田龍太
バスとまる次郎長寺の花まつり 桂樟蹊子
一と雨を大樹に避けて花まつり 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
五六人子供が居りて花まつり 白石峰子
信心の母に雨降る花まつり 西嶋あさ子
土くれのもともろもろや花まつり 池田澄子 たましいの話
旅先へ父の忌めぐる花まつり 桂樟蹊子
河鹿笛競ひて花まつり前夜 樋笠文
田の人の長靴赤し花まつり 今野福子
白象が大橋渡る花まつり 前田圭史
百千のぼんぼり灯し花まつり 佐藤 沙園女
花まつりすでに日焼けて農婦たち 甲斐遊糸
花まつりはてし落花にさまよひぬ 百合山羽公
花まつり人々は影踏みあひて 飯島晴子
花まつり仏のかぎり灯ともして 山田孝子
花まつり印度の大使ひざまづく 川越酔山
花まつり心に祖を祀りけり 影島智子
花まつり戯画のうさぎは地にまろび 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
花まつり樹下のしづくに日が射して 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
花まつり母と相合傘さして 成瀬桜桃子
花まつり母の背ぬくし風甘し 楠本憲吉
花まつり過ぎたる川に沙蚕(ごかい)掘る 森重 昭
花簪挿して婆どち花まつり 小原菁々子
茄子苗の本堂にある花まつり 藤田あけ烏 赤松
行列の巨象は白し花まつり 西田穂村
静かなる山の御堂の花まつり 高木晴子 晴居
鳶は舞ひ鴉は流れ花まつり 大峯あきら 宇宙塵
鹿も居る南円堂の花まつり 河野史朗
鼻筋は紅ひくために花まつり 大牧 広
●甘茶![]()
あかがねの身をしなやかに甘茶仏 檜 紀代
うらうらと杖忘らるる甘茶寺 袴田君子
おん手より鬱金のしづく甘茶仏 佐藤和枝
おん臍のもつとも濡れて甘茶仏 荒井正隆
おん見目の滂沱のやまず甘茶仏 皆吉爽雨 泉声
かくてこそ甘茶仏は莞爾せり 高濱年尾 年尾句集
かわきゐるみ手に甘茶をそゝぎけり 国弘賢治
きのふ甘茶の日なりし寺に詣でけり 村山古郷
くろがねの丹田ひかる甘茶仏 野澤節子 黄 炎
こしごろも今道心の甘茶番 河野静雲 閻魔
この谷戸のもつとも奥の甘茶寺 星野立子
こぼしつつ園児嬉しき甘茶番 都筑智子
さへずりに十余り甘茶茶碗伏せ 高澤良一 ねずみのこまくら 昭和五十九年
しほしほと媼が眼あらふ甘茶かな 松村蒼石 寒鶯抄
そそぐたびまばたきくらみ甘茶佛 松村蒼石 春霰
たのしさや甘茶乞ふ子を待ちもうけ 尾崎迷堂 孤輪
だぶ〜と浴びせかけたる甘茶哉 露月句集 石井露月
ちよぼ口で灌ぐ母と子甘茶仏 平井さち子 鷹日和
てのひらのよう甘茶仏うつうつと 諸角せつ子
ときならぬ雪に甘茶を煮る匂ひ 小倉覚禅
なほ甘茶そゝぎ佛とあそびをり 国弘賢治
ねもごろに老の灌げる甘茶かな 坂本汀郎
まなじりに涙し在はす甘茶仏 中村柘榴子
み佛は甘茶びかりをして在はす 滝口 芳史
やや荒く濁世の甘茶灌ぎけり 羽田貞雄
ゆれ合へる甘茶の杓をとりにけり 高野素十
わらべらに堂塔高き甘茶かな 五十崎古郷句集
ビキニの灰ふると指す甘茶仏 萩原麦草 麦嵐
一杓の甘茶にて足り濡れたまふ 百瀬ひろし
一杓の甘茶分け飲む母と吾 品川鈴子
一杓はひかりに似たり甘茶仏 西川 織子
丈六の見下し給ふ甘茶仏 大野林火
世をすねてわれは甘茶を煮る男 市堀 玉宗
主病みたり漆黒の甘茶仏 小林昭子
乾の手の一指を立てて甘茶仏 野見山朱鳥
人々の顔の映れる甘茶汲む 岸本尚毅 舜
人の世の櫛の落ちたる甘茶かな 有風
人の世を指す手は見えず甘茶仏 高橋悦男
人気なきときの甘茶を灌ぎけり 高澤良一 寒暑 四月-六月
仏身のしんのしんまで甘茶沁む 赤松柳史
体温のあるかに乾く甘茶仏 坂下笑子
児のあとに進みぬかづく甘茶仏 中本柑風
句碑しとど甘茶の雨となりにけり 渡辺恭子
合掌の片手は甘茶かけ申し 大森保子
和尚云ふ甘茶貰ひにまた来たか 高浜虚子
国宝展一隅に置く甘茶仏 有賀玲子
園児らの数だけ濡れて甘茶仏 大東晶子
土足たしかに一とさかづきの甘茶呑む 平畑静塔
地を指せる御手より甘茶おちにけリ 中村草田男
堂縁に甘茶の薬鑵汲めとこそ 高澤良一 寒暑 四月-六月
夕あかりお厨子にかへる甘茶仏 多納有紀
夕風のゆくてに雨の甘茶寺 長谷川双魚 風形
大空に田がひらめけり甘茶仏 永田耕衣
大釜に余りし甘茶捨てちまへ 橋本美代子
大釜の甘茶をのぞく童子かな 松村蒼石 寒鶯抄
女らや甘茶そそぐに声しなひ 綾部仁喜 寒木
娘の髪のお煙草盆や御甘茶 河野静雲 閻魔
嬉しくもなき甘茶佛見てゐたり 田中裕明 山信
子どもらも頭に浴びる甘茶かな 一茶
山寺や花さく竹に甘茶仏 飯田蛇笏 山廬集
山寺や蝶が受取る甘茶水 一茶
山高く登りて小さき甘茶佛 松村蒼石 雁
形なき水ゆるやかに甘茶佛 加藤三七子
御前に濡洋傘や甘茶仏 堀口星眠 営巣期
御槽の鎌倉彫や甘茶仏 河野静雲 閻魔
念珠買ふ甘茶を口に含みゐて 楠崎止子
情なく濡れて金色甘茶佛 清水径子
我甘茶泌みてうれしき仏かな 雑草 長谷川零餘子
手にとりてまこと粗末や甘茶杓 植地芳煌
手際よく傘をあづかる甘茶番 高澤良一 ももすずめ 平成二年
指さして破る宙あり甘茶佛 赤松[ケイ]子
数珠揉んで甘茶の杓を取りにけり 北垣宵一
旅人もまじりてそそぐ甘茶かな 吉武月二郎句集
月出でていよいよ小さき甘茶仏 稲荷島人
木堂の縁に出でます甘茶仏 藤沢典子
杓の下小さくかなしや甘茶仏 松本たかし
柄杓もて柄杓を寄する甘茶かな 岩田由美 夏安
欠け給ふ腕より雫甘茶仏 戸井田 厚
注がれて甘茶のいろの甘茶仏 小林千穂子
浮びをる甘茶の杓をとらへけり 後藤夜半 翠黛
浮浪児の嘗めて離さず甘茶杓 吉屋信子
満山に雨けむらせて甘茶仏 堀口星眠 営巣期
満願となりし甘茶を頂きぬ 新井 恵子
潮騒を背山に蔵し甘茶寺 辻桃子
濡れたまひいよよ金色甘茶仏 野村慧二
濡れてすぐ乾く台座や甘茶仏 磯貝碧蹄館
濡れ給ひ乾き給へり甘茶仏 堀 晴子
灌ぐたび光りたまへり甘茶仏 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
灌ぐ子におん胸ひろげ甘茶仏 下田稔
灌仏の乾きがてに甘茶流れけり 雑草 長谷川零餘子
灌仏会冷たい甘茶詫びながら 瀧 春一
狂女の手甘茶そそぎてきりもなし 長屋秋蝉洞
甘茶かけ仏身厚む不信の徒 川島万千代
甘茶ぬる瞼くぼめる女かな 三宅清三郎
甘茶の朝の皆の子に我が仰がるる 梅林句屑 喜谷六花
甘茶はや飲む彼が帯結びやるべし 梅林句屑 喜谷六花
甘茶もうなしと釜伏せ茶碗伏せ 橋本美代子
甘茶もて恒河の水のごとそそぐ 下村梅子
甘茶仏あめつち花のかをり満つ 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
甘茶仏すぐかわく風いでにけり 加藤覚範
甘茶仏すこしまがりて立ち給ふ 池内たけし
甘茶仏すこし日向に出てをられ 関戸靖子
甘茶仏ほのかに湯気を立ててをり 清崎敏郎
甘茶仏乾き易きを淋しめり 高澤良一 ぱらりとせ 春
甘茶仏去りゆく我の映るべし 依光陽子
甘茶仏天の仏母を指でさす 園部龍子
甘茶仏天指す御手ぬれ給ふ 高見孝子
甘茶仏幾世経にけむ減り給ふ 山口青邨
甘茶仏恍惚として古りにけり 石原舟月 山鵲
甘茶仏指す地に芭蕉遺髪古り 西田 誠
甘茶仏旅人に笑み見せたまふ 森田峠 三角屋根
甘茶仏木々のみどりを帯びたまふ 永田黙泉
甘茶仏杓にぎはしくこけたまふ 川端茅舎
甘茶仏水に打たせて仕舞はれぬ 中山純子
甘茶仏汲むとしはもゆかぬ尼ぜかな 鷲塚立山子
甘茶仏浪華の天を指し給ふ 浅野政夫
甘茶仏濡れててらてら輝やけり 塩川雄三
甘茶仏濡れては虻をさそひけり 堀口星眠 営巣期
甘茶仏甘茶光のやすけしや 大橋敦子
甘茶仏男のしるしをさなくて 草村素子
甘茶仏背すぢ真直ぐ濡れ給ふ 服部高明
甘茶仏若狭の海を見給へる 大石悦子 聞香
甘茶仏虹は海棠より淡く 西島麦南
甘茶佛の小さき魔羅よ合掌す 國島十雨
甘茶佛肌すみずみまでぬぐふ 小澤實 砧
甘茶佛虹は海棠より淡く 西島麥南
甘茶寺手鞠がたきのなつかしや 若林いち子
甘茶寺番野鴨にあひしのみ 堀口星眠 営巣期
甘茶懸く女の肱のすっと伸び 高澤良一 随笑 四月-六月
甘茶杓誰もが同じ箇所にぎる 品川鈴子
甘茶汲む鶏鳴かくも遠きかな 松村蒼石 雪
甘茶番して新発意の嫁美人 河野静雲 閻魔
疣々のおん頭にと甘茶かな 加藤三七子
疾風に甘茶の杓の逆立てる 石田勝彦 秋興
白毫の甘茶にぬれし灯影かな 会津八一
石段を下りる片手に甘茶かな 月舟俳句集 原月舟
石蹴りに負けては甘茶かけに来て 西方石竹
空き瓶の甘茶を帰路に少し飲む 細見綾子 黄 炎
空瓶の甘茶を帰路に少し飲む 細見綾子
紅毛の指透き甘茶灌ぎけり 松村蒼石
紛れ来し鹿と昏れゐる甘茶仏 民井とほる
老の尼甘茶もらひの子にやさし 富安風生
背のびして甘茶注ぐ子仔犬抱き 福田蓼汀 秋風挽歌
胸広に立たしたまへり甘茶仏 下村槐太 天涯
草庵の甘茶の花を誰か知る 尾崎政治
草葺の門を這入りぬ甘茶寺 松藤夏山 夏山句集
葉が出たさくらとんとんとろりこ甘茶のうた 中塚一碧樓
葺き垂れし馬酔木を御簾に甘茶仏 丸田余志子
裏返りては花了ふる甘茶かな 手塚美佐 昔の香 以後
谷渡る風がうがうと甘茶仏 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
進み出て虚子忌と思ふ甘茶仏 古舘曹人
道づれの甘茶もらひの童かな 松藤夏山 夏山句集
里の子の爪先立ちて甘茶佛 高澤良一 鳩信 東帝
里人に蹴きて甘茶を灌ぎけり 永方裕子
銅柄杓ずしりと重き甘茶かな 河野石嶺
鎌倉に京の末寺の甘茶寺 松原地蔵尊
門前に露店の地割り甘茶寺 吉村馬洗
門前の小店うれしや甘茶寺 楠目橙黄子 橙圃
雀らがざぶざぶ浴びる甘茶かな 一茶
雀子がざく〜浴る甘茶哉 一茶 ■文化十二年乙亥(五十三歳)
雨だれも甘茶も楽し増上寺 阿波野青畝
雨にぬれ甘茶の花は眠るごと 田中冬二 若葉雨
雨冷えの甘茶こくりとのみほせり 高澤良一 ももすずめ 平成元年
雨降れば雨金色に甘茶仏 福原紫朗
五香水仏の臍をみつけたり 麦 光
浴仏にただよひうかぶ茶杓かな 飯田蛇笏 山廬集
浴仏に妙なるものを降り注ぐ 高澤良一 随笑 四月-六月
虚子の忌の浴仏の日を長湯かな 秋元不死男
●花御堂![]()
ありとしも思はぬ寺の花御堂 渡辺つゆ女
あると知りて寄る人のあり花御堂 雑草 長谷川零餘子
ある寺の障子ほそめに花御堂 高野素十(1893-1976)
いと小さき萩寺さまの花御堂 石塚友二
うかがひて杓さし入れる花御堂 川端茅舎
うしろよりさす日となりぬ花御堂 斎藤愛女
かしこみて尼僧あはれや花御堂 飯田蛇笏 霊芝
くくくくと鳩も群れ来て花御堂 岩城 梅
ぐんぐんと空は縹に花御堂 黒田杏子 花下草上
げん〜に葺きかためけり花御堂 木下葦塋
ちょこなんとお堂の前の花御堂 高澤良一 寒暑 四月-六月
つつじ多き田舎の寺や花御堂 正岡子規
つゝじ多き田舎の寺や花御堂 正岡子規
なつかしく子につきめぐる花御堂 後藤夜半 翠黛
はるばると詣でて小さき花御堂 鈴木花蓑
むしばめる四本柱や花御堂 河野静雲 閻魔
よき風の吹き抜けるなり花御堂 高澤良一 ももすずめ 平成二年
エリーゼの為に五月蝿し花御堂 佐々木六戈
エリーゼの為に煩き花御堂 佐々木六戈 百韻反故 初學
ビル風の中の一角花御堂 高木聡輔
二僧花御堂を作る古い板の間 梅林句屑 喜谷六花
人絶えて暮るゝを待てり花御堂 相馬遷子 山河
人絶えて風訪ふばかり花御堂 高澤良一 寒暑 四月-六月
仏法の美しさ見よ花御堂 東洋城千句
何色の何が寒きか花御堂 金田咲子
僧林の僧一人なる花御堂 江本 如山
入相の鐘にほどかれ花御堂 清水悦子
四方より杓にぎはしや花御堂 川田十雨
堂しづくいちいち見えて花御堂 飯田蛇笏 山廬集
大仏の前の大きな花御堂 石倉啓補
大佛のおん前小さき花御堂 狹川青史
大空の下あるき来て花御堂 銀漢 吉岡禅寺洞
子供等のゐるばかりなり花御堂 印牧萍花
宵こめてふけるつゝじや花御堂 松瀬青々
寛永寺大玄関に花御堂 池内たけし
寝ねてかの華奢を憶へり花御堂 大石悦子 聞香
寺町に尼寺一つ花御堂 松本たかし
尼寺の畳の上の花御堂 松本たかし
屋根替のさなかの寺の花御堂 奈良鹿郎
山寺や五色にあまる花御堂 蓼太
山寺や人も詣らぬ花御堂 高濱虚子
山門に真向きたまはず花御堂 八木林之介 青霞集
待つ子等にかゝへ出しぬ花御堂 河野静雲 閻魔
律院に花御堂あるばかりなり 京極杞陽
御前に菖蒲の池や花御堂 河野静雲 閻魔
急に人減り花御堂取り去られ 上野泰 佐介
扁額に精舎とありぬ花御堂 関 ただお
抱きかかへ運べさうなる花御堂 右城暮石
振り向けば雨の中なる花御堂 岩田由美 夏安
月まどか夜籠りに葺く花御堂 荒井正隆
東より西より柄杓花御堂 鷹羽狩行
松原を水の果に花御堂 宇佐美魚目 天地存問
松落ちて這へる毛虫や花御堂 河野静雲 閻魔
椿厚く葺けば傾く花御堂 堀口星眠 営巣期
樹下に立ち万朶の花の花御堂 橋本美代子
水仙を四柱に束ね花御堂 高澤良一 随笑 四月-六月
水郷に寺町ありて花御堂 河野静雲 閻魔
池水を床下に引き花御堂 綾部仁喜 樸簡
洋花の香りの高き花御堂 伍賀稚子
浜風に花びら立ちて花御堂 松藤夏山 夏山句集
海女が葺き光たつぷり花御堂 町田しげき
灯ともるは海女つどふなる花御堂 長谷川久代
現世は篠つく雨や花御堂 西井静子
田舎には田舎の花の花御堂 高澤良一 鳩信 東帝
男手になりて掃きをり花御堂 大石悦子 聞香
眠りたる花もありけり花御堂 加藤三七子
糸流す蜘蛛の顔あり花御堂 宇佐美魚目 天地存問
紅がちと黄がちの二寺の花御堂 森田峠
結界に拝して遠き花御堂 有富久恵
絵蝋燭惜しまず尼の花御堂 山田孝子
練稚児の真日浴びて着く花御堂 下田稔
老人に囲まれてゐる花御堂 内田美紗 誕生日
花御堂ありて石階のぼりけり 河野静雲 閻魔
花御堂ありとて古き磴をゆく 水原秋桜子
花御堂ぐるぐる廻りに近所の子 高澤良一 随笑 四月-六月
花御堂しつらへらるゝ虚子忌待つ 池内たけし
花御堂つつみあまねし花の山 中山純子 沙 羅以後
花御堂の下に下足の夫婦かな 高浜虚子
花御堂の花にちりばめ桜んぼ 河野静雲 閻魔
花御堂の花菜種よ木瓜よわけられ 梅林句屑 喜谷六花
花御堂ぽつりぽつりと人の訪ふ 高澤良一 寒暑 四月-六月
花御堂まつかぜわたるばかりかな 西山 誠
花御堂もろびと散りて暮れ給ふ 草城
花御堂わだつみ照れば山つみも 大峯あきら
花御堂仕上げし老婆かたまれり 鈴木好子
花御堂仕上げて子等の畏まる 山崎千枝子
花御堂八瀬のさと人並びけり 蒼[きう]
花御堂参りの男女(なんにょ)ふと途切れ 高澤良一 随笑 四月-六月
花御堂四つの柱の見ゆるなり 後藤夜半 翠黛
花御堂四人葺き居て別意匠 河野静雲 閻魔
花御堂四辺に稚児の寄り着きぬ 高澤良一 鳩信 東帝
花御堂夕日のをはり射してをり 藤田湘子 春祭
花御堂天童稚児のめぐりめぐる 福田蓼汀 山火
花御堂守は檀家の古老にて 高澤良一 随笑 四月-六月
花御堂尚ほのかなる暮の星 石井露月
花御堂巨勢野の花を摘み集め 右城暮石
花御堂幼童の釈迦甘露受く 松井利彦
花御堂据うる畳を拭きゐたり 大石悦子 百花
花御堂新たなる風呼びにけり 高澤良一 ぱらりとせ 春
花御堂日の出日の入相似たる 岸本尚毅
花御堂月さすまでに暮れて居る 内藤鳴雪
花御堂月も上らせ給ひけり 一茶 ■文政元年戊寅(五十六歳)
花御堂杉菜のみどりやはらかく 山田弘子 初期作品
花御堂柱かぼそく塵もなし 堀口星眠 営巣期
花御堂母の延命のみ願ふ 嶋田麻紀
花御堂永き日影のさめにけり 渡辺水巴
花御堂満山いろを見せにけり 古舘曹人 樹下石上
花御堂病みやつれたる顔のぞく 波多野爽波 『湯呑』
花御堂美濃の紫雲英を葺き重ね 近藤一鴻
花御堂花の卍は母子草 河野静雲
花御堂花の甍の屋根四方 河野静雲 閻魔
花御堂花重なりて匂ひけり 及川貞 夕焼
花御堂葺かれしばかり匂ひけり 水上涼子
花御堂葺くげんげ笊つゝじ笊 宇野萩塘
花御堂葺くや刀自もす腰衣 河野静雲 閻魔
花御堂葺く八重椿あつめらるる 川島彷徨子 榛の木
花御堂葺く花籠につみためし 高橋淡路女 梶の葉
花御堂虚子一族の手につくる 山口青邨
花御堂蜂はらひはらひ作りしよ 中山純子
花御堂解くはさびしきことならん 原田一郎
花御堂金銀の蛾の歩きゐる 岸本尚毅 鶏頭
花御堂雨おほぞらに降りにけり 八木林之助
花御堂雨ひろびろと降りにけり 石田勝彦 秋興
花御堂音羽の鐘も雨の中 今泉貞鳳
花散るや昨日はここに花御堂 岩田由美 夏安
菜の花の色こそ濃けれ花御堂 松藤夏山 夏山句集
萎え易き花も混りて花御堂 佐藤美恵子
葺きあげて野の花ばかり花御堂 木村有恒
葺きつめて花のくらさの花御堂 田辺レイ
葺きまつる檜葉のかんばし花御堂 山下文子
葺きまつる芽杉かんばし花御堂 杉田久女
葺き終へて散華の中や花御堂 大網信行
蓬草軒葺き垂れて花御堂 松藤夏山 夏山句集
蓮の花御堂に西の主かな 松瀬青々
蚊屋つりの草もさげてや花御堂 千代尼
蝌蚪の尾のしなやかにして花御堂 岸本尚毅 鶏頭
蝶々も来て乳を吸ふや花御堂 横井也有 蘿葉集
西山の寺といふ寺花御堂 阿波野青畝
西山の日はまだ高し花御堂 大峯あきら 宇宙塵
跫音のあつまつてくる花御堂 つじ加代子
近在の金盞花葺き花御堂 高澤良一 鳩信 東帝
道少し汚れて雨の花御堂 高澤良一 素抱 一月-三月
里の子や烏も交る花御堂 一茶
針子居るまづしき寺や花御堂 有馬草秋
鉄筋の堂に白木の花御堂 秋山暮谷
門前にあをあをと海花御堂 高野素十
門前に瀬戸の青潮花御堂 昭彦
降りつゝむ雨も匂へり花御堂 伊藤 純
雪山はうしろに聳ゆ花御堂 露月句集 石井露月
青木の実卍にくめり花御堂 片岡奈王
静かなる上野の雨や花御堂 中島斌雄
静かにもいつも人ゐる花御堂 岩田由美
首のなき地蔵の列果て花御堂 草田男
咲きのぼり龍舌蘭は花の塔 片山由美子「風待月」
花の塔四方の扉に八天女 近藤一鴻
●吉野の花会式![]()
おぼろ夜を金堂灯る花会式 水原秋櫻子
ししむらの皺む鬼出づ花会式 能村登四郎
ラムネ以外欲しきものなし花会式 右城暮石 上下
仏三尊ぬれいろまさる花会式 恩賀とみ子
仏身にさだかな木目花会式 河合佳代子
内陣の鬼の酔ひぶり花会式 植原抱芽
旅人も燭継ぐ雨の花会式 上村末子
日光月光瑠璃光如来花会式 窪田あさ子
朴の花会式に宝珠解かむとす 大橋敦子 匂 玉
椿さく寺の戸ぼそや花会式 松瀬青々
漆黒の薬師輝く花会式 平尾圭太
燭ふえて献花息づく花会式 水内菊代
稚児よりも僧うつくしき花会式 角川春樹 夢殿
童の居眠る吉野花会式 穂苅富美子
管長の籠揺れて着く花会式 水谷芳子
花会式かへりは国栖に宿らんか 原 石鼎
花会式の散華飛びくる膝の上 矢島暉子
花会式夜空に塔は忘れられ 丸山哲郎
花会式村びとすこしつどひたる 水原秋櫻子
花会式献茶点前の白袱紗 石垣幸子
花会式花散る昼夜わかたずに 金子無患子
花会式蕾のまゝに修しけり 和泉喜代子
花会式薬師如来を眠らせず 菖蒲あや
花会式迎へ提灯僧てらす 田中菅子
花会式造花にいのちありて褪せ 橋本多佳子
花会式造花は匂ひ持たざりき 塩川雄三
花会式進む毛槍の花に触れ 岩鼻笠亥
花会式道中奉行の鯰髭 杉山青風
花会式青年僧の大反身 内川恵
蔵王堂幕をめぐらし花会式 寺崎清子
鬼踊そばへいろ濃く通りけり 永作火童
●御身拭![]()
うす〜と光らせ給ひお身拭 田中王城
お身拭ひいやに大きなマスクして 高澤良一 宿好 十月-十二月
お身拭ふさ中も絶えず詣で人 富岡犀川
お身拭末世の塵のかく多し 園田二狼
この村の牛は人なり御身拭 高浜虚子
ならびゐる尼の生徒や御身拭 田畑三千女
ばゝ嚊の肩ぬぐ空御身拭 高井几董
み仏の塵も金箔御身拭ひ 藤田柊車
乗物で優婆夷も来るや御身拭 召波
伽羅の香の仏臭さよ御身拭 文 武
化をこゝに八百年の御身拭 野島無量子
唱名の沸きたつ中に御身拭 村田橙重
垂れたまふみ手にかくれて御身拭 田中王城
埃たつうき世の嵯峨や御身拭 蝶 夢
大黒天御身拭ひて微笑給ふ 斎藤 栄峰
婆かゝの肩ぬく空や御身拭 几菫
婆嚊の肩ぬぐ空や御身拭 几 董
尼一人加はり給ふ御身拭 岩崎俊子
役僧がマイクで指図御身拭 河野晴雄
御僧のその手嗅ぎたや御身拭 太祗
御堂より人どつと出し御身拭 吉岡悦子
御身拭すませて師家の年用意 野島無量子
御身拭すみて明るきお蝋燭 村田橙重
御身拭といふこと知りぬ朝茜 柴田白葉女 『月の笛』
御身拭ひ拭く湯とりかへとりかへて 北村 光阿弥
御身拭揃ひの袈裟の御僧たち 高木春川
御身拭春風たへに堂の内 松瀬青々
御身拭袖の香急げ京土産 言水
御身拭跪座百僧の青つむり 大橋宵火
御顔に咫尺す顔や御身拭 野村喜舟
百の燭天井を染め御身拭 太田穂酔
花を見し目に勿体なや御身拭 名和三幹竹
花を見てお身拭見ぬ恨かな 河東碧梧桐
菩提樹の芽のつぶらなる御身拭 山中納士
衆生には拝せぬ暗さお身拭 恩地れい子
金魚藻のたばね浸され御身拭 田口彌生
食うては寝牛になりけり御身拭 高濱虚子
香なびく外陣内陣御身拭 大橋とも江
香湯もつ侍僧は美男お身拭 岡部六弥太
●御忌![]()
けふの御忌を妓のいひけり酒半ば 松根東洋城
さむければ一枚重ね御忌詣 関戸靖子
すなどりの手に数珠かけて御忌詣 野島無量子
そらんずる閑窓集や覚如御忌 逐 水
どこまでも畷つゞきや御忌日和 田島一宿
なには女や京を寒がる御忌詣 蕪村 春之部 ■ 早春
一山の花の天蓋御忌の鐘 仁科翁童
三条の宿出急ぐや御忌の鐘 柳 冠子
人妻の老いけり御忌の朝詣 大 魯
傘のうち御忌と短く言ひたまふ 佛原明澄
僧正を賜り花に御忌修す 土屋五倍子
八郡の空の霞や御忌の鐘 召波
冷々と畳広さよ御忌の鐘 清原枴童 枴童句集
初立ちの足もとうれし御忌の庭 樗 良
勅使門開けて本山御忌に入る 野島無量子
大いなる月の尊く御忌詣り 長谷川かな女 雨 月
大原女の餅をひさげる御忌の寺 池内ひろむ
大和より上人迎へ御忌法話 清水礼子
嫁入せし娘も多し御忌詣 炭 太祇 太祇句選後篇
張子の御影女わらべや御忌に逢ふ 昌夏 選集「板東太郎」
御忌にあふや同じはちすの蓮生坊 玉 井
御忌の僧畳に杖を運ばるゝ 田畑比古
御忌の鐘しばらく耳をやさしうす 青野きみ
御忌の鐘ひゞくや谷の氷まで 蕪村 春之部 ■ 早春
御忌の鐘都大路の果までも 北川法雨
御忌の鐘雨はしづかに降るべかり 石川魚子
御忌の雨櫻の上にさんさんと 高澤良一 鳩信 東帝
御忌よりも多し涅槃の櫁(しきみ)売 京-春澄 元禄百人一句
御忌也けり関八州の大廻向(だいえこう) 露沾 選集「板東太郎」
御忌僧一人異端者めきて鬚美事 竹下しづの女 [はやて]
御忌御忌と囃して鳥の枝移り 高澤良一 鳩信 東帝
御忌御忌と鳥啼けるなり増上寺 高澤良一 宿好 四月-六月
御忌戻り小袖たたむや京の宿 水落露石
御忌桜色浅浅と咲きにけり 石井桐陰
御忌詣傀儡の笛に耳ふさぎ 星野石雀
御忌詣潟の入江に舟着けて 濃口鶴仙渓
懈怠恥づる襟もと寒し覚如御忌 魯 牛
拾ひあげて桜に数珠や御忌の場 炭 太祇 太祇句選後篇
指あてて耳のつめたき御忌小袖 古舘曹人
教区旗後生大事と御忌詣 西村和子 かりそめならず
散米に数珠かけ鳩や御忌参 言水
旅鞄さげて出仕や御忌の僧 風間八桂
暖かに着て罪深し御忌小袖 草 阜
木屋町も緑深しや御忌の鐘 畑 伝一郎
東山遊山ぞほとけ御忌まゐり 季 吟
松風に紅裏かへせ御忌詣 松瀬青々
桜葉となりゆく御忌の御寺かな 阿久津笠雪
気にむかばねぶつ申せよ御忌の場 高井几董
涙して僧俗一如御忌法話 横坂みよ子
灯台の坂仏壇も御忌支度 岡本無漏子
無量子の今亡し御忌の僧の中 矢津 羨魚
熊谷笠人がましやな御忌参り 安昌 選集「板東太郎」
燈台の仮仏壇も御忌支度 岡本無漏子
百僧の金襴絵巻御忌法話 中村二雄
着だふれの京を見に出よ御忌詣 高井几董
縫ひあげし御忌の小袖を肩にかけ 櫛橋梅子
群集する人を木の間に御忌の寺 高浜虚子
花曇御忌の供養もそこ〜に 四明句集 中川四明
荷にもたれ眠る媼や御忌詣 小原菁々子
菊咲きぬ御忌のお花もこれでよし 河野静雲 閻魔
菜の花を手に〜御忌へ行く人か 癖三酔句集 岡本癖三酔
蓮如御忌終へし寺垣修理して 大崎とみ子
虚子御忌アメリカに年重ねつゝ 左右木韋城
西山によき日沈みぬ御忌詣 高濱虚子
講中を率て一僧や御忌詣 佐瀬子駿
踏切を越して大きな御忌の札 大黒谷 一
難波女や京を寒がる御忌詣 蕪村
雨土の落英ふみて御忌の路 飯田蛇笏 霊芝
髪剃つて一山の僧御忌支度 野島ひさし
黄昏の山寺よりの御忌の鐘 迫田健路
もろ鳥のこゑのもはらや法然忌 森 澄雄
よそゆきの日がさしてゐし法然忌 関戸靖子
兜煮の眼窩大きく法然忌 片山由美子 風待月
大方は見知りの客や法然忌 林 正之
尼の地位今なほ低し法然忌 穂北燦々
御仏花は大山桜法然忌 堀 葦男
手を入れて底籾ぬくし法然忌 榎本冬一郎 眼光
新発意のかけし赤袈裟法然忌 磯辺芥朗
方丈に「南無」の一軸法然忌 吉川吉之助
日の筋の向うまだ見え法然忌 関戸靖子
日も月もともに在りけり法然忌 石寒太 あるき神
村々に椎の花かな法然忌 永田耕衣
母とゐて心しづかや法然忌 吉永梅子
法然忌なりけり山は雲掲げ 衣川次郎
法然忌なり京の冷ただならず 大橋敦子
法然忌われも仏徒の数珠をもつ 岡野洞之
法然忌夜目利くごとし榧の木も 河原枇杷男 蝶座 以後
百姓の木綿たうとぶ法然忌 榎本冬一郎 眼光
竹林の奥へ蝶ゆく法然忌 加藤かけい
筍を掘りてよこたふ法然忌 村上冬燕
行春の旅にゐたれば法然忌 森澄雄 鯉素
貝の砂椀に残れり法然忌 鈴木鷹夫
貧乏の寺を支へて法然忌 水口秋声
道幅に流るる雨や法然忌 綾部仁喜
野蒜つむ人は野に出て法然忌 有働 亨
鴟尾双つ太陽ふたつ法然忌 田中水桜
●壬生念仏![]()
うながす扇うなづく扇壬生念仏 中村若沙
うらうらと屋根に日あそぶ壬生念仏 猿橋統流子
うらゝかに妻のあくびや壬生念仏 日野草城
おほまかに扇遣ひや壬生念仏 井上洛山人
すぐ乾くあくび泪や壬生念仏 阿波野青畝
ぼてぼてと鳴りゐる太鼓壬生念仏 西堀鵲桜子
午飯をくひに帰るや壬生念仏 野村喜舟
境内につゞく面店壬生念仏 西山泊雲 泊雲句集
墨染のうしろ姿や壬生念仏 太 祇
壬生念仏すみて菜の花月夜哉 四明句集 中川四明
壬生念仏その夜は月に膝立てて 関戸靖子
壬生念仏の笛休む間も鉦は打つ 安住敦
壬生念仏一きり見ては商へり 玄 兎
壬生念仏大原の春を現じけり 安住敦
壬生念仏女に太きのどぼとけ 中井大夢
壬生念仏妻子南京豆かじり 岸風三楼 往来
壬生念仏子供ら柱のぼるあり 岸風三楼 往来
壬生念仏幕引くでなく終りとや 吉田大江
壬生念仏抜かれし舌の風にとび 大橋桜坡子
壬生念仏新樹廂の裏に伸び 岸風三楼 往来
壬生念仏桟敷の谷崎潤一郎 小原菁々子
壬生念仏炮烙木つ端みぢんかな 宮岡計次
壬生念仏美しき子を肩車 高浜虚子
壬生念仏舞台を風の通りけり 西村和子 かりそめならず
壬生念仏身振りの手足語りづめ 橋本多佳子
壬生念仏雨が来さうと泣きにけり 細川加賀
壬生念佛くらしくらしと酒買ひに 関戸靖子
壬生念佛雨が来さうと泣きにけり 細川加賀 生身魂
天に蝶壬生念仏の褪せ衣 橋本多佳子
山陰線壬生念仏に汽笛添へ 中 火臣
幕あげて覗くこどもら壬生念仏 岸風三楼 往来
春惜しむ鉦とこそ聞け壬生念仏 安住 敦
曇り来て舞台古さや壬生念仏 五十嵐播水 播水句集
桶埋めてこゝが便所や壬生念仏 月舟俳句集 原月舟
永き日を云はでくるゝや壬生念仏 与謝蕪村
炮烙の放り出されて壬生念仏 岡村光代
狂言は南無ともいはず壬生念仏 炭 太祇 太祇句選後篇
狩衣の背の願文や壬生念仏 中田余瓶
目つむれば鉦と鼓のみや壬生念仏 橋本多佳子
腹かゝへ身振り笑ひや壬生念仏 大場活刀
舞台暫し空しくありぬ壬生念仏 高浜虚子
著流しの壬生念仏の鉦の役 中山碧城
蝶入りて劇中を飛ぶ壬生念仏 古屋秀雄
行き行くに李や桃や壬生念仏 森澄雄
誰が布施の昔小袖や壬生念仏 召波
足ふまれ泣きゐる子らに壬生念仏 岸風三楼 往来
野にわたり山にわたりぬ壬生念仏 樗 良
鉦番はうしろむきなり壬生念仏 草間時彦 櫻山
面の下咽喉笛太し壬生念仏 鈴鹿野風呂
面よせてうなづきあひぬ壬生念仏 壺 青
鬼が出て泣く子笑ふ子壬生念仏 中田余瓶
鬼面にも大小のあり壬生念仏 中原一樹
鳩雀ありく甍や壬生念仏 名和三幹竹
うららかに妻のあくびや壬生狂言 日野草城
さう言へば壬生寺下ル椿餅 藤田あけ烏 赤松
たんぽぽの絮のしきりに壬生の鉦 大石悦子 群萌
なかなかに役者出てこぬ壬生の鉦 経谷 一二三
やや眠き顔にかんかん壬生の鉦 細川加賀 生身魂
ゆるやかに間なくひまなく壬生の鉦 鈴鹿野風呂
をととひもきのふも壬生の花曇り 古舘曹人
世に疎きさまにも打てる壬生の鉦 後藤比奈夫 祇園守
井戸深き家や聞こえて壬生の鉦 金久美智子
人形を子として抱く壬生狂言 古屋秀雉
僧形のうかれ腰して壬生狂言 大石悦子 群萌
出る月や壬生狂言の指の先 小林一茶 (1763-1827)
前ぶれもなく壬生踊はじまりし 田中久子
双手あげ一睡さめし壬生舞台 矢津 羨魚
商人面平あやまりよ壬生狂言 八牧美喜子
土蜘蛛や被衣の奥の壬生の面 金久美智子
地蔵めぐり壬生に日暮るる門茶かな 村山葵郷
壬生の舞小袖が蝶を放ちけり 山田弘子 こぶし坂
壬生の蝶炮烙割りに驚かず 冨田みのる
壬生の鉦きこえて壬生は染屋町 小原菁々子
壬生の鉦ひねもす鳴りて蝶の昼 光谷一寒子
壬生の鉦クリーニング屋励むなり 波多野爽波 『一筆』
壬生の鉦一歩退くやうに打つ 小林一鳥
壬生の鉦尚耳にあり京を去る 西山泊雲 泊雲
壬生の鉦打てるはいつも向うむき 後藤比奈夫
壬生の鉦聞えてをるや顔に鼻 岡井省二
壬生の鉦雨呼ぶ鉦となりにけり 向笠和子
壬生の鉦雨雲つひに雨こぼす 山田ひろむ
壬生の面したたか泣きて汚れけり 関戸靖子
壬生狂言うなづき合うて別れけり 岸風三樓
壬生狂言こどもが先に笑ひけり 中谷五秋
壬生狂言それを見んとて京に来し 高濱年尾 年尾句集
壬生狂言なげきの肩をゆすりけり 成瀬櫻桃子 風色
壬生狂言に笛が加はり眠くなる 菖蒲あや
壬生狂言をはる口上なかりけり 高橋克郎
壬生狂言亡者抜かるる布の舌 川井玉枝
壬生狂言嘆きの肩をゆすりけり 成瀬櫻桃子
壬生狂言太き饂飩を食うべ来て 草間時彦 櫻山
壬生狂言廂より雨瀧なせり 茨木和生 木の國
壬生狂言日向雀に囃されて 山田弘子 こぶし坂
壬生狂言淫らなことをちとしたり 細川加賀 生身魂
壬生狂言炮烙すべて割られけり 丸山哲郎
壬生狂言笑うてあはれのこりけり 成瀬櫻桃子
壬生狂言老婆くつくと笑ひけり 八木林之助
壬生狂言自が裾踏んで鬼斃る 大石悦子 群萌
壬生狂言舞台と席のこの空間 古屋秀雄
壬生狂言雲退屈な午後となる 山田弘子 こぶし坂
壬生狂言面の楽屋の小暗くて 佐々木清雅
壬生狂言鬼の出に打つ戸板かな 田中英子
壬生狂言鬼をいたくも嬲るなり 大石悦子 百花
壬生狂言鬼女に食はれて歩き消ゆ 右城暮石
壬生鉦や一ト走りして狐雨 椎名書子
大王にひれ伏す餓鬼や壬生狂言 岸風三楼 往来
子を連れてむかしの道や壬生の鉦 柳 俳維摩
小鬼出て壬生狂言は餓鬼角力 細川加賀 生身魂
幕引に代へて壬生鉦連打せり 山崎佳世子
悪玉が出ねば退屈壬生狂言 品川鈴子
摘草や壬生の狐の面かたげ 四明句集 中川四明
数珠繰つて念力を出す壬生狂言 茨木和生 木の國
早鉦となりて鵺出る壬生狂言 右城暮石
春雨や鼻うちくぼむ壬生の面 高井几董
暮れかぬる一町ほどや壬生の鉦 山田みづえ 木語
灯を返す壬生狂言の扇かな 千原叡子
炮烙を割るにも壬生の笛・太鼓 橋本美代子
独楽きそふ子がゐて壬生の袋路地 茂里正治
独楽競ふ子がゐて壬生の袋路地 茂里正治
白き餓鬼こぶし震はせ壬生狂言 田中灯京
盗人をとらへ縄なふ壬生狂言 八牧美喜子
石段を下りて壬生へやをけらの火 松根東洋城
笑ひゐて淋しくなりぬ壬生の鉦 岡田詩音
糸車見えぬ糸繰る壬生狂言 長谷川佐和
綱渡る鵺に早打ち壬生の鉦 松本圭二
著到のすぐ役振られ壬生楽屋 早坂萩居
蝶入りて劇中を飛ぶ壬生狂言 古屋秀雉
起ち上りまこと泣きけり壬生の鬼 小原菁々子
踏切を越え壬生の鉦聞こえくる 橋本美代子
身振りをば手振りで返し壬生踊 奥野曼荼羅
雀らに壬生狂言は鉦打ちぬ 大石悦子 百花
青鬼の皺だるむ腹壬生狂言 山田みづえ
面ンがほの壬生の子供や花枳殻 五十嵐播水 播水句集
面伏せに掛けて暗しや壬生の面 後藤比奈夫 めんない千鳥
願ぎ事はみな打消しぬ壬生の鉦 山田みづえ
高きより見下す鬼や壬生人出 野村しげる
鬼女の出に昼の月あり壬生狂言 山尾玉藻
鼻欠けて長閑に広し壬生の面 菅原師竹句集
●峰入![]()
ちょとかむる峰入笠の涼しさよ 小松 虹路
夜涼みや峰入衆も行き絶えし 大橋櫻坡子 雨月
山ざくら逆の峰入この門より 飯田晴子
峰入のきりりと手甲脚絆かな 富田直治
峰入のしるべ石より坂急に 水上花村
峰入のどやどやと過ぐ雷の下 西村公鳳
峰入のまづは猩々袴かな 矢島渚男
峰入の中の先達若かりし 中島枝葉
峰入の仕度ととのふ夏炉宿 恒川ひさを
峰入の古里衆に合流す 粟賀風因
峰入の吾に権限など顕たず 辻岡紀川
峰入の弓引きしぼる刹那かな 山口草堂
峰入の斧をぬらすや春の雨 妻木 松瀬青々
峰入の杖を滴る急雨かな 水野白川
峰入の泊れる坊の注連すがし 水原秋櫻子
峰入の笠刎ね仰ぐ蔵王堂 山下豊水
峰入の老いてものこる美男眉 及川貞
峰入の貸提灯を炉辺につみ 本田一杉
峰入の道をせばめて箸を干す 森田峠 避暑散歩
峰入の雨吹き上げて来る行場 田中丘子
峰入の霧に冷えきし雨合羽 飯田京畔
峰入は大仰な珠数をかつぎけり 野村喜舟 小石川
峰入や一夜吉野の花にいねし 松根東洋城
峰入や一里をくるる小山伏 芭蕉
峰入や又強力が顔の癖 桑風
峰入や大玄関の坊の紋 阿波野青畝
峰入や山坂花にはぐれ行 松瀬青々
峰入や月夜鴉がひとしきり 藤田湘子
峰入や桜見はやす幾ところ 癖三酔句集 岡本癖三酔
峰入や雷が残れる裏行場 円山夜白
峰入や顔のあたりの山かつら 正岡子規
峰入りのうしろ姿に手をかざす 桂 信子
峰入りの法螺聞えけり秋の山 藤田あけ烏 赤松
峰入りの鈴の音絶えし日向水 宇佐美魚目 天地存問
峰入笠杖にむすびて坊泊り 熊谷伊佐緒
清浄に峰入口の掃かれあり 山崎 朝日子
灯点して峰入宿の三時起 土田紫牛
百人の峰入の列やり過す 松崎亭村
著莪に立ち峰入草鞋なじまする 米澤吾亦紅
蕨はやほどろとなりぬお峰入 楠部南崖
峰行者瀧に真向ふ白露かな 黒田杏子 花下草上
峰行者霞のなかに昼餉食ふ 木内彰志
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