季語の動物 新年


嫁が君初鶏初声初鶯初雀初鳩初鴉伊勢海老


●嫁が君
あめつちの音のはじめの嫁が君 上田五千石
どこからか日のさす閨や嫁が君 村上鬼城
ぬば玉の閨かいまみぬ嫁が君 芝不器男
ほの暗き忍び姿や嫁が君 河東碧梧桐
一人起きてゐるとも知らず嫁が君 皆川白陀
一夜明け嫁が君とは呼ばれけり 清水基吉
三寳に登りて追はれ嫁が君 高浜虚子
世紀末よき子を産めよ嫁が君 前澤宏光
仏壇の裏通ひ路や嫁が君 名和三幹竹
何くはぬ顔して覗け嫁が君 井月の句集 井上井月
内陣を御馬駈けして嫁が君 小松月尚
噛じられし写楽の顔や嫁が君 阿波野青畝
大梁にのぞきて飛騨の嫁が君 橋本榮治
嫁が君おでばりなされ夜も更けし 桔梗恵子
嫁が君この家の勝手知りつくし 轡田 進
嫁が君しきりに騒ぐポオを読む 神谷九品
嫁が君ひとり住ひの親しさに 白岩てい子
嫁が君ゐるにまかせて書屋かな 石川桂郎 高蘆
嫁が君一匹ならずとも思ふ 皆川白陀
嫁が君全き姿見られけり 野口里井
嫁が君冠おいたる枕もと 四明句集 中川四明
嫁が君几帳の裾にかくれ顔 四明句集 中川四明
嫁が君出番深夜の時計鳴る 神保奈美子
嫁が君天守閣より下り来しか 福田甲子雄
嫁が君妹が手鞠をかくしけり 大谷句佛 我は我
嫁が君家中を緑が走る 堀之内長一
嫁が君富士の夢など見たことなし 木戸渥子
嫁が君引きゆくものに闇緊る 松本寒江
嫁が君戦知るひと減りにけり 根岸善雄
嫁が君父の家いま兄の家 辻田克巳
嫁が君窯場の火照りなほ残り 安達実生子
嫁が君連なり渡る地下線路 癸生川昭
嫁が君飢ゑの記憶の遠くあり 澤木欣一
小蔀を下せば夜や嫁が君 岩谷山梔子
屋根裏に別な所帯の嫁が君 田湯岬
年に一度はものに臆すな嫁が君 中村草田男
往診の途上にあへり嫁が君 瀧澤伊代次
捕はれし嫁が君てふ目と合ひし 成嶋いはほ
明る夜の仄に嬉し嫁が君 其角
桶に浮く豆腐に通ひ嫁が君 谷口小糸
橙を嘗めて去にけり嫁が君 田中二星
機ぼこり被きて現れぬ嫁が君 白澤良子
浄闇の厨の音や嫁が君 池松昌子
父祖の代の梁ゆるぎなし嫁が君 倉田一粒子
琴柱にふるる音かな嫁が君 垣上鶯池
窯神の餅引く山の嫁が君 岸川松韻
美しき障子明りや嫁が君 加古宗也
貧しさの想ひ出ばかり嫁が君 橋本 逍月
貧厨に何を獲んとて嫁が君 吉井莫生
足音に姿かくしぬ嫁が君 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
餅花やかざしに插せる嫁が君 松尾芭蕉
齧じられし写楽の顔や嫁が君 阿波野青畝
●初鶏
「人の人たれ」初鶏鳥の鳥たるに 磯貝碧蹄館 握手
したたかに初鶏に餌を与へけり 会津八一
まつしろい初鶏のこえであろう 暁闇のうごき 吉岡禅寺洞
アパートの初鶏声をはりにけり 川上梨屋
人波へ初鶏とほく声張れり 石川かづ子
初鶏となりそこなひし鶏あるく 楸邨
初鶏にこたふる鶏も遠からぬ 阿部みどり女 笹鳴
初鶏に先立つ隣家の母の声 草田男
初鶏に北の底よりの鬨の声 平井照敏
初鶏に天地大きく明け初めし 熊谷 秋月
初鶏に孟甞君の竃かな 安藤十歩老
初鶏に応ふ鶏ゐる小学校 松岡博水
初鶏に海のくらさや耳が冷え 中拓夫 愛鷹
初鶏に海暗くあり耳が冷え 中拓夫
初鶏に目覚めて父母の家なりし 松本みどり
初鶏に神代の臼と申すべし 一茶
初鶏に糞ひり落せ初からす 会津八一
初鶏に覚めつゝありしとも思ふ 高濱年尾 年尾句集
初鶏に鋤鍬ばらの控へたり 露月句集 石井露月
初鶏のあとは松吹く嵐かな 筏井竹の門
初鶏のあとを雪折ひびきけり 岸田稚魚
初鶏のなほ眠る山従へて 原裕 新治
初鶏ののんどしきりにうごかせり 鷺風
初鶏のはばたき降りし秣飛ぶ 工藤節朗
初鶏のひと声闇を動かせり 伊藤芙美子
初鶏のめでたき声を夢うつゝ 高橋淡路女 梶の葉
初鶏の一声夢の向こうから 柳田芽衣
初鶏の入江を渡りきこえ来る 田中冬二 俳句拾遺
初鶏の刻つげてなほ風にあり 豊長みのる
初鶏の吾にあつまる戸口かな 会津八一
初鶏の吾を見てなく畑かな 会津八一
初鶏の声さやかなり宮の馬場 上村占魚 鮎
初鶏の声を遠くに火を使ふ 柿本多映
初鶏の声山光の空はしる 亜浪
初鶏の姿正して鳴きにけり 吉川よしえ
初鶏の家通り越す声に覚む 五十嵐研三
初鶏の更に遠きは浦隔つ 児玉小秋
初鶏の次の声待つ山河かな 遠藤若狭男
初鶏の次までの闇緊りをり 加藤楸邨
初鶏の百羽の鶏の主かな 池内たけし
初鶏の籠込の声と思はれず 鷹羽狩行
初鶏の薄目してまた鳴きにけり 石崎素秋
初鶏の言挙げぞする三輪の杜 原 柯城
初鶏の身近に啼けばおろかしく 加倉井秋を
初鶏の銘酒の里に谺して 木内彰志
初鶏の長鳴き地声出でにけり 池元 道雄
初鶏の長鳴けば風出でにけり 脇 祥一
初鶏の闇の彼方を透し見る 市川百杭
初鶏の面目かけて胸反らし 貫井爽水
初鶏の鳴いて展ける海の青 阿部美恵子
初鶏はいつも遠くの方で鳴く 秋を
初鶏は灯の見ゆる家か否か 会津八一
初鶏は若紫の声ひけり 平井照敏 天上大風
初鶏は遠くの方でばかり鳴く 加倉井秋を 『胡桃』
初鶏は鳴きぬ竃は焚きつけぬ 笠井歎水
初鶏やうごきそめたる山かづら 虚子
初鶏やしづかに長き老の息 風生
初鶏やはや御師町の高きより 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
初鶏やひそかにたかき波の音 久保田万太郎 流寓抄
初鶏やまだつごもりの人の顔 梨葉
初鶏やものぐさ太郎の碑をつつき 辻桃子
初鶏やカアテン垂れて冬薔藪 竹下しづの女
初鶏や上海ねむる闇の底 久保田万太郎(1889-1963)
初鶏や丘に登りて人が泣く 桑原三郎 晝夜
初鶏や動きそめたる山かづら 高浜虚子
初鶏や又市に住む甲斐ひとつ 蓼太
初鶏や大仏前の古き家 妻木 松瀬青々
初鶏や天地の凍に朗々と 月斗
初鶏や子連れの旅の靴履けば 皆川白陀
初鶏や宇陀の古道神ながら 鈴鹿野風呂
初鶏や家中柱ひきしまり 加藤楸邨
初鶏や富士白々と明心 友之
初鶏や庫裡の大炉の火明りに 臼田亞浪 定本亜浪句集
初鶏や彩羽躍つて臼の上 野村喜舟 小石川
初鶏や応へるこゑも闇の中 河野友人
初鶏や怒りほとほと酔に似る 加藤楸邨
初鶏や手にとるからに火うち石 星野麦人
初鶏や明けあを〜と谿千戸 諏訪
初鶏や昔神達東ヘ 東洋城千句
初鶏や暁闇の星わかわかし 小西藤満
初鶏や津守の君が薄化粧 半自
初鶏や漸く静なる厨 浅井歌村
初鶏や皆潔斎の湯を了へつ 高田蝶衣
初鶏や稚児がいふこと皆新らし 加藤知世子 黄 炎
初鶏や背戸の海鳴りしづまりぬ 村山たか女
初鶏や蒸籠重ねの宵のまゝ 乙字俳句集 大須賀乙字
初鶏や農継ぐ家の深庇 塩田晴江
初鶏や野の八方に道通ず 鴻村
初鶏や頂上一戸谿十戸 近藤一鴻
地平の涯からも 初鶏のこえが きこえてくる 吉岡禅寺洞
大船の中に初鶏うたひけり 川村鳥黒
對岸の初鶏きくや泊り船 会津八一
放たれてより初鶏となりにけり 山口鉄石
放浪の厠にて聴く初鶏よ 堀井春一郎
木曽に来て初鶏のこの勁き声 所 山花
梁近き初鶏亡父の世も凍てし 栗生純夫 科野路
歩を止めて初鶏に声合せみる 江藤 ひで
浄闇のまだ初鶏を聞かずゐる 下村ひろし 西陲集
瓏々と初鶏謳ひつゞけけり 高橋淡路女 梶の葉
谷深く雪の初鶏きく十戸 京極高忠
間をおかずして初鶏につづきけり 澄雄
●初声
くくくくと鳩の初声をこぼしけり 田中午次郎
くくくくと鳩初声をこぼしけり 徳永山冬子
みやうみやうと海はるかより初声す 高澤良一 ももすずめ 平成三年
フェリー接岸初声の飛び交へる中 高澤良一 寒暑 一月-三月
先導の鶴の初声ひびきけり 米森えいじ
初声のあと只眠き青蛙 原田喬
初声の千鳥を故郷に来て聞ける 石橋海人
初声の山雀小雀温泉の窓辺 上林白草居
初声の雀に如くはなかりけり 藤勢津子
初声の雀の中の四十雀 青柳志解樹
初声は初恋よりもささやきぬ 富安風生
初声は常の雀や目が覚めて 青木綾子
初声やきのふは人を弔ひし 勝又一透
初声やちひさく神のゐるあたり 水野真由美
初声や子の身空なるわが御空 赤尾兜子
初声や闇を離るる羽音して 梓沢あづさ
初声を聴きわけてまだ床を出ず 鷹羽狩行
初声を鶴ともきかめ松の花 上島鬼貫
己(おんどれ)といふ初声の通りけり 茨木和生 倭
帆柱に来て初声を高めけり 茨木和生
我が家の百羽の鶏の初声裡 成瀬正俊
手をひろげ初声という男の子 松田ひろむ
春めくはその馨しき初声よ 青峰集 島田青峰
白露や傀儡女の名は初声と 辻桃子
身をはしるものあり鵙の初声に 相馬遷子 山河
鵯の声初声にして透りけり 富安風生
鶯の初声潮騒とききにけり 遠藤千鶴
●初鶯
まだ甘し初鶯の舌のネヂ 沢木欣一
わが映像初鴬の踏み渡る 長谷川かな女 牡 丹
初うぐひす父が遠くに眼をひらく 野澤節子 『飛泉』
初鶯旅は豊かに大切に 加藤知世子
初鶯秒針ひたに進みをり 多田裕計
城の方に初鴬の鳴きにけり 徳永山冬子
朝酒や初うぐひすを遠く置き 佐野鬼人
朝風に初鶯の声稚し 渡辺七三郎
東より忽と夜明の初鴬 殿村菟絲子
荷造りに掛ける体重初うぐひす ふけとしこ
●初雀
あさくさの雷門の初雀 今井杏太郎
いつ来ても嵯峨野は青し初雀 黒瀬としゑ
お手玉のごとくにあそぶ初雀 下村梅子
そこらぢゆう子供遊びて初雀 石橋秀野
つくばいに走る青竹初雀 高橋より子
ひとり遊びせむと生れて初雀 野中亮介
みささぎの帚目乱す初雀 木阪 登
やうやくに来たる一羽よ初雀 平子 公一
やつぱり来ましたと妻の初雀 加藤楸邨
やや寝すぎ雨戸を繰れば初雀 田中冬二 俳句拾遺
ゆりあぐるみどり児のあり初雀 長谷川かな女 牡 丹
をさな児の口まねでいふ初雀 川崎展宏
プランコに父と子揺れて初雀 川崎俊子
リハビリの呂律やや良し初雀 京谷圭仙
一の鳥居の高さが好きで初雀 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
一羽にて羽音も生まる初雀 齋藤玄 『狩眼』
一羽翔ち遅れつゝ翔ち初雀 上田春水
万葉の歌のみなとの初雀 岡部六弥太
不機嫌な一羽も居りて初雀 宮原双馨
初すずめ一合の酒冷ますまじ 古沢太穂
初雀かさこそ使ふ厠紙 高澤良一 宿好 一月-三月
初雀こぼれ七曜廻りだす 館 さくら
初雀そこまで我を近づくる 長野 豊子
初雀つひに翔たせてしまひけり 宮田春童
初雀ひとつあそべる青木かな 長谷川春草
初雀ふくら雀になりゐたり 石川文子
初雀ふくれて樹よりこぼれけり 堀部 守
初雀みみづく頭巾もて聞かん 吉田藤治
初雀みるみるふえてさくらの木 園田夢蒼花
初雀むさし野の寒気ふりしぼり 渡辺桂子
初雀やぶうぐひすのゆくへ哉 万太郎
初雀われらは耳をあかくして 知久芳子
初雀トコトコトッと石畳 高澤良一 宿好 一月-三月
初雀三つほど東本願寺 廣江八重櫻
初雀三ッ指ついて霜を来る 河合未光
初雀円ひろがりて五羽こぼれ 汀女
初雀厨のもの音より鋭し 原田種茅 径
初雀嘴よりひかりこぼしけり 稚魚
初雀地に口づけをくり返す 朝倉和江
初雀待ちて暮れたる狭庭かな 土屋 啓
初雀掠め庭木も輝ける 石塚友二
初雀方三寸をついばめり 島谷征良
初雀日輪いまだつばさなし 葛彦
初雀来てをり玉の水浴びに 島谷征良
初雀波切の路地をひゅんと抜け 高澤良一 燕音 一月
初雀湧くや浦上の鐘鳴りて 朝倉和江
初雀湧く大仏の影法師 龍太
初雀羽音を残し消えてをり 高澤良一 随笑 一月-三月
初雀翅ひろげて降りにけり 鬼城
初雀飛び翔つことをすこしする 秋を
初雀鴟尾澄む簷に弾みをり 石野冬青
十字架の横木にとまれ初雀 田川飛旅子 『山法師』
南国のこの痩せぎすの初雀 日原傳
坂多き七味処の初雀 松本澄江
坪庭のかわらぬよしみ初雀 根岸たけを
塀弾み甍が弾み初雀 上野泰
墨竹の風しかと見ゆ初雀 十王
外流しに静かに下りて初雀 かな女
夜明から熱き炬燵や初雀 龍雨
夢殿の救世の御前や初雀 青々
妻の髪なほ睡りをり初雀 石田波郷
子宝の塚に日のあり初雀 富田潮児
寝埃がついてをるらん初雀 廣江八重櫻
小さき藁引つぱり合うて初雀 薪 豊子
屋敷田に光りこぼして初雀 影島智子
平凡に五十頭上の初雀 石田波郷
幸福に初雀より着ぶくれて 富安風生
廂より垂れたる松の初雀 風生
明けそめて熱き炬燵や初雀 増田龍雨 龍雨句集
晴れやかに酒色をおびし初雀 高木みつ子
晴着無き子どちも集へ初雀 香西照雄 素心
束の間のつぶらの永さ初雀 斎藤玄 雁道
枝移りやがて木移り初雀 高澤良一 随笑 一月-三月
校倉に膨れ相寄る初雀 黒田櫻の園
毛氈に初雀飛ぶ影を踏む 廣江八重櫻
泣きべその向うひそひそ初雀 松澤 昭
湯のまちの廂触れあひ初雀 阿部月山子
炭坑の煤を粧ひ初雀 有働 清一郎
燦々と光りを抱き初雀 長谷川秋子
畑隅を跳ねて大路へ初雀 高梨忠一
着殺しの作務衣一着初雀 赤松子
神杉に礫のごとし初雀 安川幸里
禅寺の砂を浴びゐる初雀 鈴間斗史
窮巷に影さへ見えず初雀 松浜
竹藪はまだ日のささず初雀 田中冬二 俳句拾遺
箒目をしめらす雨や初雀 白水郎
箒目を湿らす雨や初雀 白水郎句集 大場白水郎
米まきに来し天神や初雀 野村喜舟 小石川
米嚥んで胸すんなりと初雀 林 翔
紅跡の吸がら仄か初雀 小坂順子
累代に割り込む寿蔵初雀 斎藤一骨
肩あげの赤糸屑や初すずめ 中山純子
花蕊のごとき足跡初雀 金箱戈止夫
蓬莱の宮にこぼれて初雀 加藤耕子
藪へ来し日に初雀微光せり 福島小蕾
街の中藪一つもつ初雀 山口青邨
走り根と一問一答初雀 高澤良一 随笑 一月-三月
除々に明け一気にあけて初雀 那須乙郎
雪ならぬ霜の真白や初雀 尾崎迷堂 孤輪
霜除けの笹の小揺れに初雀 田中冬二 俳句拾遺
青籬の霜ほろほろと初雀 松本たかし
飛んでゐるときは初雀と思はず 加倉井秋を 午後の窓
首まげて石にのりけり初雀 田村了咲
●初鳩
初鳩に希望を言へり翔んでをり 松浦敬親
初鳩に日高くなりし野の社 坂田ゆきを
初鳩のくぐもり鳴くや塔の中 浅野草人
初鳩の光となりて飛び立ちぬ 小俣由とり
初鳩の番ひ庭木に来て睦む 菱田トクエ
初鳩の群れの大きな影走る 廣瀬直人
初鳩や創口かばふ懐手 吉田鴻司
初鳩や水平飛行して千木に 村山古郷
初鳩や真蒼に晴れし大欅 篠原一男
初鳩や空にひろがる涅槃の手 磯貝碧蹄館
初鳩を聴きたる障子あけにけり 野沢純
初鳩を開き撒きたる巨き掌よ 柳田芽衣
口笛に初鳩もどり声きざむ 寺田木公
由比ケ浜の風が初鳩ちらしけり 西 宇内
英霊よ白装束の初鳩よ 築城百々平
●初鴉
いさゝかの水仕のこすや初鴉 石橋秀野
お篝を杉にあなどり初鴉 原石鼎
かんばせを見せてとまりし初烏 静塔
つかつかと来ぬ開墾田の初鴉 金子のぼる
ばらばらに飛んで向うへ初鴉 高野素十
ばら〜に飛んで向うへ初鴉 素十
ひむがしの豊旗雲へ初鴉 梅子
ふるさとの夜具の重さよ初鴉 青陽人
わが自治の朝酒に影初がらす 原子公平
一夜にて呆けし街や初鴉 中里 結
三熊野の神の使の初鴉 滝川如人
今日は起きて聞くものにせん初鴉 竹冷句鈔 角田竹冷
初からす一筋の川東より 上村占魚
初烏一山雪に明くるかな 忍月
初烏三ツ四ツからは見えにけり 馬明
初烏我が家に声を落し行 南鴎
初烏松笠一つ落しけり 渡辺恭子
初烏足迹を洲にこぼしそめ 西本一都 景色
初烏雪と見えよとひるならん 会津八一
初鴉いつもの山より常の声 阿部みどり女 月下美人
初鴉どこ目指しゆく迅さかな 中島月笠 月笠句集
初鴉の声切れぎれのまま終り 岬雪夫
初鴉はや山の夜を蹴つて来し 中島月笠 月笠句集
初鴉はや氷上に奪ふもの 原田柿青
初鴉はや相摶てる卍かな 肥田埜勝美
初鴉ばさりばさりと飛び立てり 金子恵美
初鴉ゆくへあるこゑ落しけり 野澤節子
初鴉よべより明き月へ飛び 池内友次郎
初鴉らしく品よく啼きにけり 成瀬桜桃子 風色
初鴉わが散策を待ちゐたり 相生垣瓜人(1898-1985)
初鴉わたる向ふに男山 田上鯨波
初鴉一羽離れて鳩の天 上野澄江
初鴉人にぶつかり病具購う 田川飛旅子 花文字
初鴉佃大橋砥のごとく 永井龍男
初鴉吹雪うすれに続くなり 西本一都
初鴉声ごと吹かれ森を越ゆ 本宮哲郎
初鴉大虚鳥(おほをそどり)の声限り 草田男(俳人自照)
初鴉太嘴に啼く声のよし 新津香芽代
初鴉安土の田んぼをとんとんと 高澤良一 燕音 一月
初鴉寺の内より人の聲 田中裕明 山信
初鴉屋根を離るゝ縁起哉 内田百間
初鴉山また山に声伸ばす 村越化石
初鴉廓の夜明もただならず 高浜虚子
初鴉暫く空に遊びけり 岸田稚魚 『萩供養』
初鴉波を恐るる気配なし 鈴木真砂女
初鴉波高ければ高く飛び 鈴木真砂女
初鴉熊野のしじま破りけり 朝木芳子
初鴉父母とゐる畳かな 上田操
初鴉白玉椿活ける手の凍え 渡邊水巴
初鴉百羽の鶴をいざなひぬ 吉野義子
初鴉砂利場の水に羽おろす 羽公
初鴉茜の空をほしいまま 五十島典子
初鴉詣でし上をわたりけり 宮津昭彦
初鴉起きよ起てよと啼きにけり 細川加賀
初鴉遥けき友を呼び得たり 春兆
初鴉雪原低くとびつづけ 小野池水
初鴉面を上げて鳴きにけり 皆川盤水
初鴉高きを縺れあひながら 鈴木恵美子
初鴉鳴けり鴉も数減りて 右城暮石 声と声
初鴉黒をおのれの色として 加藤有水
初鶏に糞ひり落せ初からす 会津八一
十年は咋日のことよ初鴉 永井龍男
吹雪きゐる四万の天より初烏 宮崎三木
吾がこころわれにある時初がらす 梅室
噴煙のあたりを去らず初がらす 米谷静二
地に降りて声つつしめる初鴉 宮岡計次
塔頭に稚き妻あり初鴉 龍男
塔頭に若き妻あり初鴉 永井龍男
夜をはなれゆく麦の芽と初鴉 龍太
夜を脱ける黒の真澄や初鴉 知世子
大屋根に啼かず飛ばずの初鴉 高橋絹代
大樟の風にあふられ初鴉 小島 健
天の原和田の原より初鴉 青畝
天平の甍より明け初鴉 鎌倉博史
妹よ二人の朝の初鴉 渡辺水巴 白日
寺鞍馬社口貴船や初鴉 尾崎迷堂 孤輪
山中の初烏とてなまぐさし 清水衣子
岬の浪覚めてをるなり初鴉 佐野まもる
川が瀬まで青うなりきぬ初鴉 薄多久雄
工場に老当直や初鴉 岡田日郎
己が羽の文字もよめたり初烏 蕪村
帰りにもクルスの塔に初鴉 中野道子
往診へ声やはらかき初鴉 高島筍雄
悪党のけふ瑞鳥や初鴉 金沢富水
我庵は上野に近く初鴉 内藤鳴雪
明け動く宮裏山や初烏 三幹竹
明渡る年のきげんや初鴉 壷仙
智恵伊豆の墓所はばからず初鴉 山岸 治子
木屋町に声つぶれたる初鴉 三嶋隆英
東雲や声の限りを初鴉 滝川愚仏
松江とは城より明くる初鴉 藤原杏池
楼門に打たぬ太鼓や初鴉 河野静雲 閻魔
浴みして伊豆に旅人や初鴉 竹冷句鈔 角田竹冷
潟翔けて風切青し初鴉 橋本義憲
瀬の石に乗り放心の初烏 西本一都 景色
熱湯を噴く巌天に初鴉 三鬼
目が合うて黄檗山の初鴉 古舘曹人
石人の三頭身や初鴉 黒米満男
程好き樹ありて止まりぬ初鴉 梶田竹外
老もまた耳の冥加や初鴉 又花坊 (古稀をこえし齢ながら)
落葉焚くやずん〜と来る初鴉 中島月笠 月笠句集
葛城山を越へし羽音に初鴉 佐野美智
藍つよく初烏待つ丘の線 原裕 青垣
誰も云ふ鴉山より初鴉 三ツ谷謡村
赤ん坊おどろき易し初鴉 瀧澤伊代次
足もとにおよぶ波きて初鴉 稲垣きくの 黄 瀬
踏みはづし片羽根をつく初鴉 不死男
道に出て人のごとくに初鴉 山田みづえ 手甲
門前にこの松ありて初鴉 阿部みどり女 笹鳴
除夜の灯の峰に残りて初烏 四明
雪けつて屋根うつりせり初鴉 婆羅
雪山の大白妙に初烏 田村木国
雲のうら金泥ならむ初鴉 小枝秀穂女
顔洗ふ水しまりゆく初鴉 水谷文子
飛ぶといふこと美しき初鴉 倉田紘文
飯入れて櫃あたゝかし初鴉 廣江八重櫻
馬柵の戸に雲銜へをり初鴉 堀口星眠 営巣期
高き樹の高きにありて初鴉 北 羚羊
黒きもの又常盤なり初がらす 蓼太
黒潮の荒磯狭しと初鴉 楓巌濤
●伊勢海老
おもむろに伊勢海老髭ふり分けし 檜 紀代
伊勢海老のしんそこの紅の夜ぞ 岡井省二
伊勢海老のびくんとたかが二千年 櫂未知子 蒙古斑
伊勢海老の不思議のこゑを秋の暮 宇佐美魚目 天地存問
伊勢海老の伊勢を向うに島泊り 高澤良一 鳩信 玄帝
伊勢海老の全き髭もめでたけれ 高木蒼梧
伊勢海老の月にふる髭煮らるると 加藤楸邨
伊勢海老の群恐しと海女あがる 土屋美津二
伊勢海老の跳ねて木屑を飛ばしたる 伊藤通明
伊勢海老の跳ねて秤目定まらず 青木秀穂
伊勢海老の髭につつかる年の市 那須野房子
伊勢海老の髭を雲ゆく遠嶺晴 小澤克己
伊勢海老の髯はみ出せる初荷かな 小田実希次
伊勢海老の鬚の見事や生きて着く 宮下翠舟
伊勢海老や佃の渡しいまもあり 志摩芳次郎
伊勢海老や写真の祖父の父を抱く 藤村克明
伊勢海老を取りあはせけり衣くばり 中村史邦
大伊勢海老たのしきらしき髭を立つ 和知喜八 同齢
掴み上ぐ伊勢海老のこの大鎧 佐藤美恵子
春海の伊勢海老やトロリ葡萄酒煮 松根東洋城
浜木綿の島伊勢海老の網を干す 中島花楠
生きて着く伊勢海老に灯をともすべし 清水径子
禁解けぬ伊勢海老料理夜の膳に 小原菁々子
糶符の浮いて伊勢海老片寄れり 石關洋子