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●恋 ![]()
*ひつじ田に誰はばからず犬の恋 星川陽石
あぢさゐにをかしき恋のくひ違ひ 稲垣きくの 牡 丹
あぢさゐは紅にふたたび恋ねがふ 仙田洋子 橋のあなたに
あづまやに恋の落書梅匂ふ 渡辺玉樹
あの時が恋の始まり床涼み 近衛節子
あの窓に恋始まりし冬薔薇 田口風子
あはれめや霙にぬれし恋衣 尾崎紅葉
あはれ啼く水恋鳥といふからに 風三楼
あやまちて吾にこぼれ来し恋雀 大石悦子 群萌
あやめ咲きぬ父母を結びし明治の恋 赤城さかえ句集
あるときはたたかふごとし恋雀 津川絵理子
いい恋をしてます スニーカーは白 久保典子
いきものゝ恋のしな〜水温む 石井露月
いくさに得し恋息ながし星祭る 中村明子
いちだんと高きは死出の恋蛍 小島健 木の実
いちはやき恋もするかなあめんぼう 行方克巳
いちめんの雪に曝され 恋終わる 大西泰世 椿事
いつの日の恋の始まり毛糸編む 石田仁子
いぬふぐり昔の恋を問はれけり 谷口摩耶
いのち得て恋に死にゆく傀儡かな 眞鍋呉夫
いまになほ恋を習うて歌かるた 大石悦子 群萌
いろ恋に邪魔なふんべつ鳥雲に 稲垣きくの 黄 瀬
うかつにも蚊帳に入るとき恋の唄 萩原麦草 麦嵐
うき恋に似し暁やとしわすれ 青蘿
うき恋や狐つらるる雉の美目 浜田酒堂
うすゆき草恋のはじめの息づかひ 加藤知世子 花 季
うたかたの恋にも似たり雪蛍 市川弥栄乃
うたかたの恋も終りし秋扇 渡辺美千代
うたかたの海辺の恋や八月盡 吉屋信子
うちあけて恋の白桃わかつべし 清水基吉 寒蕭々
うち曇る空のいづこに星の恋 杉田久女
うららかや恋の季節の動物園 波多野惇子
うるはしき神々の恋建国日 水野朱堂
うろ覚えの皆恋の唄手毬つく 長谷川かな女 雨 月
おいくらですか恋の手ほどきバルザツク 城門次人
おそろしくて恋などできず秋扇 関戸靖子
おほかたはひとに取られし恋かるた 高橋克郎
お手つきに恋のかるたを繰り返す 稲畑汀子 汀子第三句集
お水取恋々として刻を待つ 高澤良一 寒暑
かき氷恋をせし頃古稀のころ 小島宇人
かたかごやむかしむかしの母の恋 深沢暁子
かなかなや師弟の道は恋に似て 瀧 春一
かなかなや師弟の道も恋に似る 瀧春一
かなかなや昔の恋をまた恋ふる 倉田 紘文
かなかなや耳を澄ませて恋の庵 室伏光子
かぶと虫甲冑恋にゆるびけり 白岩 三郎
かまつかの形骸黝き恋の果 成瀬桜桃子 風色
かまつかの形骸黝し恋の果 成瀬櫻桃子 風色
かりそめの恋紅型に春ふかし 津村留々夫
かるた取る恋の行方を知ればこそ 岡野弥保
きさらぎの橋十五尺なすな恋 秦 夕美
きちきちの跳ね過ぎし恋失なひし 松林央子
くだものにけだものになれ壁打つ恋 島津 亮
くるしさや恋の下萌ほの緑 下萌 正岡子規
くるぶしを野菊に埋め恋岬 手塚美佐 昔の香
けんげ田の恋と云ふには幼なかり 新井恵子
こいさんの恋の愚かに梅雨出水 赤尾恵以
こしかたに恋やいくさや青き踏む 山本歩禅
こだまして赤翡翠の炎ゆる恋 堀口星眠(橡)
このおもひ恋にはあらず龍の玉 加藤三七子
この丘に恋失ひし返り花 岡安仁義
この国に恋の茂兵衛やほととぎす 松瀬青々(1869-1937)
この恋に生きなば麦の金の禾 林桂 銅の時代
この恋のうちどめならむソーダ水 真野桐子
この恋の邪魔はさせない根切虫 永原 朱
この恋も金木犀のせゐにせむ 仙田洋子 雲は王冠以後
この森に恋の想ひ出落し文 阿部夕礁
この視野に育つ寒月恋たしか 山本つぼみ
こほろぎが呟く遠き恋の唄 内藤吐天 鳴海抄
こぼれさうに恋の断片石榴笑む 古市絵未
これよりは恋や事業や水温む 高濱虚子
さくら色尽くして恋のうぐひかな 片桐久恵
さく〜と林檎剥きをり恋終る 久米正雄 返り花
さすらふや恋にも古き奈良の京 中勘助
さぼてんの名の老いらくの恋といふ 富安風生
さまざまな恋の果なる子猫かな 長谷川櫂 虚空
さま〜に恋つくしたる蛙かな 石井露月
しがみつく風船虫も恋力 成瀬櫻桃子
しがらみと言へば恋なり冷し葛 八田木枯「夜さり」
しぐるるや恋占ひの値段表 小林 稔
しぐれ忌の恋の芭蕉をたふとみぬ 森川暁水
したゝかに草の実恋の戻りなる 飴山實 『次の花』
しづかにもひれふる恋や熱帯魚 富安風生(若葉)
しなやかな指にとばされ恋かるた 伊藤節子
しのぶ恋こがるる恋や歌留多よむ 杉山喜代子
しばらくは恋めくこころ蜃気楼 岡本 眸
しもつけや男に恋の句を教へ 井上信子(鴫)
すがれ葦塩田跡の恋の椅子 加藤房子
そのかみの恋のはじめの歌留多かな 細川加賀 『玉虫』以後
そのむかし恋の髪いま木の葉髪 鈴木真砂女
その因は恋情にあり春の風邪 池田澄子 たましいの話
その恋を葬るためのオーデコロン 松本恭子 二つのレモン 以後
ただ遠くわが泣くのみぞうけがたきそのやごとなき恋をまことを 原阿佐緒
たはやすき恋のごとくに梅雨茸 小林康治 『存念』
たまゆらの恋か枯木に触れし雲か 稲垣きくの 黄 瀬
たらちねのゆるさぬ恋の夏書かな 几董「晋明集五稿」
ちがや噛むを教えられいて恋なるや 寺井谷子
つがひとも恋とも見えて梅雨の鳩 福屋千穂美
つらぬきし恋の伝説一輪草 三宅 桂
とほき恋ぷつんと線香花火落つ 岐志津子「駆けてきて花野」
とほり雨みみづく恋になく夜なり 中勘助
ともしびを露と数へて姉の恋 齋藤愼爾
ともに居て梨剥けば足る恋ごゝろ 日野草城
ともる窓下に恋忍びよる朧かな 青峰集 島田青峰
とも寝して鍼立(はりたて)寒し恋の丸 秋色 俳諧撰集玉藻集
どう聞いてみても恋なし除夜の鐘 乙二
どくだみや母の恋ものがたりきく 仙田洋子 橋のあなたに
どこまでも湖は平らに星の恋 長田等
なすな恋波止場のケーキ評論家 徳重千恵子
なやらふや今宵しのぶの恋もあらむ 暁台
ならぬ恋小筥に封じ一葉忌 中村喜美子
ねんごろに恋のいのちの髪洗ふ 上村占魚(1920-96)
のどふくれ恋の奴の蛙麻呂 高橋睦郎
はたゝがみ恋の日雇アブらすな 岩田昌寿 地の塩
はつ雁も泊るや恋の軽井沢 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
はは恋の風ぬけやすき女郎花 上原多香子
はや恋の雀か声の屋つつむ 石川桂郎 高蘆
ひた歩く雪原恋の罠あらずや 仙田洋子 雲は王冠
ひとつ咲く酒中花はわが恋椿 石田波郷(1913-69)
ひとの恋に知恵をかしをり春の夜の 稲垣きくの 黄 瀬
ひとの恋の電話とりつぐクリスマス 金子 潮
ひとの恋知れども触れず啄木忌 安住敦
ひとり身は老も恋めく白絣 能村登四郎 寒九
ふたたびの恋燃ゆるなり木の葉髪 加藤三七子
ふらこゝや少し汗出る恋衣 松瀬青々
ぼうぼうと霧笛はこもる恋やまい 穴井太 土語
まこと恋を贏ち得し月の面かな 宮武寒々 朱卓
まこと恋知らぬ顔なり鍋乙女 大橋淳一(雨月)
また忍ぶ恋寒鮒のひかるとき 小川双々子
まだ恋が出来そうな夜月見草 中鉢陽子
まだ角があり恋があり雄鹿駈く 金子無患子
まつ恋に捨る夜明を郭公 横井也有 蘿葉集
まなざしや機械の笑う恋を知る 木村聰雄
まひあがりたる一つ火は恋蛍 原裕 正午
まひまひや恋の水輪の三つ巴 小元 洋子
ままならぬ恋もありけり夕霧忌 角川春樹
まゆ玉にをんな捨て身の恋と知れ 稲垣きくの 黄 瀬
みちのくに恋ゆゑ細る滝もがな 筑紫磐井「筑紫磐井集」
みづうみに漣立てて星の恋 黛まどか
むかしせし恋の重荷や紙子夜着 其角
むかし恋結びせし木の紅葉かな 森田公司
めくるめく恋を秘めたり寒牡丹 水野公子
めはじきや恋のいろはの目をつくる 麻田椎花
めんめんと梅雨霧らふなり恋瀬川 小松崎爽青
もう舞へぬ蝶恋々と地に喘ぐ 植村通草
ものの芽に一つ一つの恋の歌 下村梅子
やどかりの恋や火山灰降る潮だまり 中井美佐子
やまももや恋死なむには齢とりぬ 大石悦子 百花
ゆく螢宿場のやみを恋塚へ 泉鏡花
よく光る敗者もあらむ恋蛍 次井義泰(苑)
よれよれになりたる恋のペルシヤ猫 藤井明子
わが一泊の島の大地よ蟇の恋 久保田ナホ
わが恋や秋風渡る中に在り 鈴木真砂女
わらはずに恋囁くか菊の前 石川桂郎 含羞
われ男の子意気の子名の子つるぎの子詩の子恋の子あゝもだえの子 与謝野鉄幹
をだまきの三輪にはひめし恋の酒 中勘助
アイスクリーム娘見舞ふは恋に似て 杉山倭文(天為)
アカシアの花房とばし恋雀 石川寿美
アネモネや恋育てゐる子の電話 深澤 厚子
アメジスト染まれば恋も終わりかな 筑紫磐井
カナリアの恋籠吊し漆職 鳥居美智子
カメラマンの恋のまま夫梅雨の蝶 石田あき子 見舞籠
カンナ燃ゆ今一途なる恋をして 渡邉紅華
ガラス器にゼリーの揺れて恋育つ 福川悠子
ガーベラや鴎外漁史に恋一つ 矢島渚男「梟」
クリスマスカクタス苦き恋もして 大石悦子
クリップに止めてしまへばすべて恋 妹尾 健
コルト撃ち恋冬天にひるがえる 三谷昭 獣身
ゴーギャンの海の景恋をすてに行く 三谷昭 獣身
サフランや印度の神は恋多き 正木ゆう子
シクラメンをみなの恋の篝とも 小元 洋子
シラノめく恋もありけむ懸想文 西野白水
ソーダ水沙翁の恋の話など 須川洋子
テニスライン侵さぬ緑蔭恋も可憐 香西照雄 対話
ドラマの恋遂げて安堵や三の酉 長谷川かな女 花寂び
バレンタインデー恋なんか恋なんて 鈴木陽子
ヘリコプターに揺らぎし空や恋雀 住谷不未夫
ベゴニアや恋の舗道のプランター 阪尻勢津子
ボートからボートヘ移るやうな恋 小林貴子
ボート漕ぐ恋のさ揺れをくり近し 飯田綾子
マッチ擦るごとき恋の冬帽子 寺田京子 日の鷹
マヌカンに恋のまなざし春隣 土生重次
マントひるがへす大正の恋に雪 村上冬燕
ラベンダーいっぽんの香や恋を得て 窪田和子
一つ咲く恋椿連れ逝きにけり(十一月二十一日波郷師忽と逝く三句) 殿村菟絲子 『旅雁』
一つ咲く酒中花はわが恋椿 石田波郷
一人静坂越し山越す誰が恋も 中村草田男
一夜さの恋もあるべし雪女郎 原田咲子
一弁の恋々として牡丹果つ 稲垣きくの 牡 丹
一念の恋遂げし猫うづくまる 柴田奈美
一息に十貫坂上姉の恋 斎藤冬海
一握の残雪其の上の恋 秋元不死男
一燭のわなわなゆらぐ雛の恋 阿波野青畝
七十の恋姥月の出逢より 茨木和生 往馬
七十路の恋めく夕べ梅酒のむ 久常多喜子
七夕の恋の願いは筆太に 石川定子
七夕やいにしへびとは恋に痩せ 樫尾桂子
七夕や波乱もありし恋のこと 矢野弌子
七草に鼠が恋もわかれけり 高井几董
万緑やわが恋川をへめぐれる 角川源義「ロダンの首」
万緑や溢れせしもの水と恋 河野多希女 納め髪
万葉の恋の碑春の雨 吉田喜美子
万葉の恋の草摘む託言なり 稲垣きくの 牡 丹
万葉の恋の蓬野電車ゆく 三嶋隆英
万葉の恋説く青田にかこまれて 豊田都峰「野の唄」
万葉の秋の田の歌恋の歌 筑紫磐井
万葉の草摘まぬわれに恋遠し 稲垣きくの 黄 瀬
下宿子の恋成らずゐて金魚飼ふ 黒坂紫陽子
下野に標たつ春べ恋も顕つ 高柳重信
不意に吹く風に煽られ恋蛍 綱頭久子
中年の恋か黄蝶がこちらにくる 宇多喜代子
中年の恋のだんだら日覆かな 星野石雀「薔薇館」
中年の恋の暗さよ草泉 三谷昭 獣身
中年の恋占いに椿餅 倉本 岬
中海は恋の通ひ路白鳥来 中村苑子
九十の恋かや白き曼珠沙華 文挾夫佐恵
乾草は愚かに揺るる恋か狐か 中村苑子
亀鳴けり恋に恋して老いぬれば 山司英子
二の酉や恋の火種をもみ消して 大森三保子
二十の恋五十の恋や花大根 石塚友二
二日はや酸茎を噛んで恋もなし 嶋田麻紀
五月を歩く恋とは別の話して 河草之介
五月雨やしとゞ濡れたる恋衣 五月雨 正岡子規
亡き人の恋をうべなふ遅ざくら 橋本 榮治
亡母恋の傾き進む蓴舟 姉崎 昭
人の恋きき手にまはる遠蛙 鈴木真砂女
人の恋のいたちごつこやどぜう汁 稲垣きくの 黄 瀬
人の恋林檎を噛りながら聴く 潮原みつる
人の恋見てゐる美男葛かな 赤尾恵以
人の恋見て来て薔薇に立ちすくむ 菖蒲あや
人恋の匂ひ放てり沈丁花 田淵宏子
人恋の氷樹よ人の形して 津田清子 二人称
人恋の白鳥一羽置きざりに 木村敏男
人日や掌篇ほどの恋もして 鈴木栄子
今の世は恋も自由よ近松忌 高浜朋子
今もある恋の棚橋鳴く蛙 蛙 正岡子規
仏の前恋の揚羽となりて消ゆ 佐野美智
伽藍の屋根大日わたる恋雀 橋本多佳子
佐保姫の海を渡りしのちの恋 栗田恭子
佐保姫を恋に都のそめ物屋 佐保姫 正岡子規
佐渡恋の竹人形や春を待つ 古島恒子
何となく暗くて恋の祭なる 岡本 眸
何年の恋や果して畑打つ 寺田寅彦
何食はぬ貌で通せし蟇の恋 藤本輝紫
余恋なく紫雲英を滴むとひとは見む 大島民郎
俄かなる光がはじけ恋雀 都筑智子
俳諧に虚の恋ばかり雛飾る 品川鈴子
借りて来し猫なり恋も付いて来し 中原道夫
傘さして相模の恋をつらぬけり 攝津幸彦
傷だらけの屋根あり生涯恋をして 寺田京子 日の鷹
僧正の恋高らかにかるた会 黒田康子
先生に恋の相談蛍の夜 池端よりこ
光琳忌水すれすれに錦恋 波戸岡旭「天頂」
入彼岸恋のこゑするかいつむり 森 澄雄
全身を煌と灯して恋螢(椿山荘四句) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
八十のゲーテに恋の花石榴 妹尾亮山
八十の恋や俳句や年の花 細見しゆこう
八千草を恋とも違ふ目で探す 田中水桜
六十に近くて恋や葉鶏頭 藤田あけ烏 赤松
冬ざれの断つは恋情のみならず 咲間 匡
冬ぬくし重なり合ひて恋の絵馬 高橋悦男
冬の薔薇さだかならねど恋ならむ 成瀬桜桃子 風色
冬の街戞々とゆき恋もなし 藤田湘子
冬凪の表面張力妻の恋 高橋彩子
冬日さす寝部屋恋部屋人待つも 岩田昌寿 地の塩
冬星座恋のシグナル瞬けり 古市絵未
冬晴や恋のこだまに耳すます 仙田洋子 雲は王冠
冬河原のつぴきならぬ恋ならめ 行方克己 昆虫記
冬涛に思ひやまざる恋といふか 稲垣きくの
冬濤に思ひやまざる恋といふか 稲垣きくの 黄 瀬
冬田千枚越ゆ旅恋に似たるかな 小林康治 玄霜
冬雨や恋を包める黄八丈 長谷川かな女 花寂び
冴返るすまじきものの中に恋 鈴木真砂女
冴返る夜も恋故の通ひ猫 石塚友二 光塵
凍解の水琴の音は恋死ねと 菅谷豊治
出女が恋持つ桃に花が咲く 桃の花 正岡子規
刈麻やどの小娘の恋衣 麻 正岡子規
初便りとは淡々の恋ごころ 山口青邨
初天神学問の絵馬恋の絵馬 結城一雄
初旅にすぐ艶歌師の恋の唄 殿村菟絲子
初日の出待つときめきは恋に似て 鈴木真砂女
初月夜門にて逢ふは恋にも似て 植田棲雨
初東風や帽子も恋も飛ばされて 深田雅敏
初桜とびかふ恋の噂かな 仙田洋子 雲は王冠
初桜男同志も恋に似て 目迫秩父
初芝居浪速の恋をうつくしく 岩崎照子
初蝶に恋の力をもらひけり 落合惑水
初螢恋のみづみづしき狂気 吉原文音
初鏡恋と云ふには古りにけり きくちつねこ
初雁やかりそめならぬ湯女が恋 雉子郎句集 石島雉子郎
初鰹恋にも旬のあるような 高木一惠
別れなど告げてみたくて恋をする 大西泰世 椿事
別れ雪恋の女になりて舞ふ 出口美佐子
勿忘草人は恋にも死ににけり 林翔
十五夜の水門古りぬ恋古りぬ 木村蕪城 寒泉
十代の恋つつぬけや花辣韮 西村青雨
十歳の少女の身丈星の恋 二村典子
卒業す片恋のまま ま、いいか 福地泡介
卒業す片恋少女鮮烈に 加藤楸邨
卯の花や雀は恋に痩る頃 蓑立 俳諧撰集「藤の実」
却つて稚拙四十路の恋の雪模様 石川桂郎 含羞
友が恋語り得まじき秋袷 石塚友二 方寸虚実
双六や恋の修羅場を逃げてばかり 鈴木栄子
受験絵馬よりはみ出して恋の絵馬 松本由美子
受験絵馬中に一つの恋の絵馬 早田輝風
古塚に恋のさめたる柳散る 柳散る 正岡子規
叶はざる恋に玉虫似て光る 加藤三七子
叶わざる恋かも春夫忌を修す 新井秋芳
向き合ひて恋めく卓やレモネード 本間尚子
向日葵のうしろの恋と知らるべし(女流某夫人を) 石原八束 『秋風琴』
君が恋柿のへたとも思はれず 佐藤紅緑
君たちの恋句ばかりの夜の萩 石田波郷(1913-69)
含羞草恋を知る目をなごませる 海藤道子
吹き荒れて海辺の雀恋もなし 大島民郎
吹雪く野に恋鶴は息交しけり とよなが水木
吾が前の恋の歌留多を又取らる 大谷帰山
吾恋の久しさありぬ常陸帯 松根東洋城
咲き満ちし椿の中の恋雀 草間時彦 櫻山
咲く韮の畑のふくらみ遠き恋 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
啄木鳥鳴けり芝水平に恋三組 飯田龍太
商ひも恋もたのみて宵戎 島谷征良
啓蟄や鎖の犬に恋めざめ 石川桂郎 高蘆
啼きとほす潜りても恋やまぬ鳰 佐野美智
囀に恋の音律ありにけり 山下美典
四月馬鹿ならず子に恋告げらるる 山田弘子 こぶし坂
回転ドアー出るは恋捨つ春手套 山本長子
団扇風さりげなく聞く人の恋 増山 登
囲はれの恋の絵島か水中花 渡辺恭子
土手の上土手の下恋青みけり 椎橋清翠
土手一里依々恋々と柳哉 柳 正岡子規
土蜂の恋の唸りの青鞍馬 殿村菟絲子 『樹下』
土間闇寸前紫紺の飛燕訪はぬ恋 香西照雄 対話
地にかがみ若者の恋遠花火 大熊輝一 土の香
垂直に崖下る猫恋果し 橋本多佳子
埋火やありし故人の恋の文 小沢碧童
埋火や恋句あはれの七部集 草間時彦
城址よりころげ落ちきし恋雀 石戸良和
墓にきて揚羽の恋のゆらゆらと 大木あまり 火のいろに
墓原に咲く曼珠沙華誰が「死後の恋」突き抜けて天上は紺 小川太郎
墓洗ふ恋の余韻のなくはなし 藤原照子
墨豆腐や妻が居ぬ夜の恋衣 尾崎紅葉
売文や恋果てし猫うづくまり 細川加賀 『傷痕』
夏むかふたちまち恋の滑川 清水基吉 寒蕭々
夏布団あさきゆめみし恋もせず 永田青嵐
夏帯の数に昔の恋の数 武居國子
夏帯を解き放ちしは恋の夢 下硲紀子
夏帽に眼の黒耀や恋がたき 飯田蛇笏 山廬集
夏引の糸のもつれや妹が恋 伊藤松宇「松宇家集」
夏怒涛飛沫に恋の傷いくつ 石 寒太
夏星のやう夫恋の火を胸に 仙田洋子 雲は王冠
夏痩や詩も恋もなき吾なれば 会津八一
夏痩をすなはち恋のはじめ哉 夏痩 正岡子規
夏風邪や誰にも言へぬ恋をして 長谷川寛子
夕焼くる大和よ恋も死もあまた 沼尻巳津子(1927-)
夕立の匂ひに恋の予感して 脇本聡美
夕螢恋の始めを点滅す 赤尾恵以
夕顔は恋のをはりかはじまりか 渡辺恭子
夕顔や恋の遊びも終りとす 加藤三七子
夕鷹の恋の高舞ひ段々墓地 平井さち子 鷹日和
夜が来れば藁塚にも恋の刻はあるか 猿橋統流子
夜の青田ひそかに恋をはらみゐる 河合凱夫 藤の実
夜光虫恋には恋のあかし欲し 仙田洋子 橋のあなたに
夜桜ににぎはふ恋の神籤かな 大橋櫻坡子 雨月
夢殿の甍にもつれ恋雀 井上雅子
大正の恋のいろして凌霄花 原田咲子(アカシヤ)
大空に草矢放ちて恋もなし 高浜虚子「虚子全集」
大蝙蝠さかり兵らに恋なき夜々 藤後左右
大鷲の制空圏下犬の恋 平井さち子 紅き栞
天上にありし奈落や恋螢 行方克己 昆虫記
天上の恋をうらやみ星祭 高橋淡路女 淡路女百句
天地の在りてけぶれる蟇の恋 柿本多映
天平の塔よりこぼれ恋雀 政木紫野
天無限恋も無限や濃はまなす 仙田洋子 雲は王冠
天皇誕生日その恋もまた語らるる 林 翔
天皇誕生日その恋も亦語らるる 林翔
夫には夫の恋の札あり歌かるた 市川紫苑
夫恋のこころきりなし百千鳥 仙田洋子 雲は王冠
夫恋の日より空白日記果つ 高見澤郁恵
夫恋の爪立ちに吊り走馬燈 赤松子
夫恋は恋にはあらずアマリリス 森田桂子
奇稲田姫の須勢理姫の恋の秋峠 伊藤いと子
奉る中に恋の句翁の忌 斎藤由美子
奪ひ得ぬ夫婦の恋や水仙花 草田男
妻籠雛へなへな坐せり恋古りぬ 平井さち子 紅き栞
姉の恋ならず水引草こぼる 峯 信恵
姫君の恋に待つ夜を蚕飼哉 蚕飼 正岡子規
姫君は恋に待つ夜の蚕飼哉 蚕飼 正岡子規
娘の恋に横槍も入れ梨をむく 山田弘子 懐
子に恋びとありキャラメル紙の折鶴 上月章
子に遅き恋の訪れ蛍とぶ 中島秀子
子の恋につひに触れつつ雛あられ 渡辺 立男
子の恋に気づかぬふりや水草生ふ 毛塚静枝
子の恋の成就を願ふ螢の夜 福田甲子雄
子の恋の終り見守る白芙蓉 毛塚静枝
子の恋の行方にも春立ちにけり 山田弘子 懐
子の恋の行方ほぼ見え夕端居 山田弘子 こぶし坂以後
子の部屋に恋の予感のシクラメン 氏家さち子
子叱れば夫恋どつと星月夜 上野さち子
宇治秋思恋に今昔なかりけり 若江千萱
宝引の霄は過つゝあはぬ恋 高井几董
実ほほづき過去形の恋鳴り出しぬ 水口佳子
実むらさきほどの恋ならこのさきも 仙田洋子 雲は王冠以後
実験猫茫々吹かれ恋啼きす 加藤知世子 花 季
寄りてまた離れて恋の蛍とぶ 梅田男
寒に入る鷺の真白き恋を見て 堀口星眠 青葉木菟
寒の水飲んで子恋の月日たつ 木村敏男
寒月下の恋双頭の犬となりぬ 西東三鬼
寒木が枝打ち鳴らす犬の恋 西東三鬼
寒釣や次なる恋を胸中に 岸本尚毅 選集「氷」
寝ぬ恋の眠たき節や茶摘歌 茶摘唄 正岡子規
寝ねがての淡海や恋のかいつむり 森澄雄 游方
寝られぬを恋ときかるゝ弥生哉 弥生 正岡子規
寝られぬを恋ときかれん弥生哉 弥生 正岡子規
寺町や猫と涅槃の恋無常 横井也有 蘿葉集
小当たりに恋の告白四月馬鹿 中村ふじ子
小綬鶏や湖をはなれて恋の宿 堀口星眠 営巣期
小鰺らが寄る道の辺の恋の漁夫 藤田湘子
少年の恋花氷痩せてあり 岸田稚魚
屋上園涼しき恋をみて涼し 藤木清子
山すみれ諸鳥は恋ためらはず 藤田湘子 てんてん
山の恋朴咲くころは朴の下 木村蕪城 寒泉
山万苣の万葉かなは恋と読む 鷲田 環
山恋の雲眩しみつ溲瓶手に 河野南畦 『黒い夏』
山恋をかるき恙に年の内 上田五千石
山桜恋をはなれて哀れ也 山桜 正岡子規
山眠る恋の終りを見届けて 黛まどか
山茱萸の咲きつづる谷猿の恋 堀口星眠 営巣期
山里に恋をはなれし桜哉 桜 正岡子規
岡惚で終りし恋や玉子酒 日野草城
岩頭の孤独な恋ぞ鵜のもてり 田原俊夫
島の郁子人が住むなら恋がある やしま季晴
島ゆ島へ渡る夜涼の恋もあらむ 臼田亞浪 定本亜浪句集
島唄は待つ恋ばかり夜光虫 益本三知子
巫女の秘む幼き恋や龍の玉 中山輝鈴
帛紗捌きて余恋を払ふ日雷 近藤園子
師走某日壺の酒欲る恋ごころ 萩原麦草 麦嵐
常闇のわが目にも来よ恋蛍 木村風師
年々に古りゆく恋や歌かるた 久保田万太郎
年の瀬の厠を洗ふ恋捨てゝ 小林康治 玄霜
底冷えの片耳ピアス恋に言葉 高安久美子
康治忌の恋の梅とはどの梅ぞ 石田勝彦
引板曳いて子恋に母は盲ひけむ 金箱戈止夫
弟へ恋と湯婆ゆづります 攝津幸彦 鹿々集
弟や恋の傘さす百日紅 清水基吉 寒蕭々
待つ恋の心を花に覚えけり 花 正岡子規
待宵の身にしむ恋や絹袷 定雅 五車反古
待恋の夢に逢うたる炬燵かな 尾崎紅葉
待恋やうきに堪えぬは秋の雨 尾崎紅葉
徐々に憂し夕日の牡丹恋に似て 殿村菟絲子 『晩緑』
必殺の恋の草矢を放ちけり 小島健 木の実
思ひ出でぬ二日灸を恋の種 言水
恋/\て田に蹈かふる男鹿哉 高井几董
恋々として古都に住みたき柳かな 大谷句佛 我は我
恋々として柳遠のく舟路哉 高井几董
恋々とをみなの筆や初日記 飯田蛇笏 霊芝
恋々と春惜しむ歌や局人 飯田蛇笏 山廬集
恋かあらぬ妹かあらぬ春深み 春深し 正岡子規
恋かあらぬ春の山ぶみ酔ひ心 春の山 正岡子規
恋がうむちから髪にものぼりゆく 江里昭彦 ロマンチック・ラブ・イデオ口ギー
恋が窪駅出て十歩虫しぐれ 鈴木しげを
恋くらくたたみて秋の扇かな 関戸靖子
恋こそは神話のはじめ百千鳥 山田麦城
恋こめて妹が手伝ふ粽かな 青白
恋ごころより情こもる菊枕 飯田蛇笏
恋ごころわが子にありや初雲雀 日野草城
恋ごころ混ぜて林檎をすりおろす 仙田洋子 雲は王冠
恋ざめか砂丘のとんぼ横流れ 樋笠文
恋ざめし猫の毛なみのざらざらす 和田不一
恋ざめの詩文つづりて弥生人 飯田蛇笏 山廬集
恋しても恋に窶るる猫は嫌 後藤比奈夫 めんない千鳥
恋せしひと恋なきひととビール汲む 辻桃子 童子
恋とげて尼寺の猫太りをり 越桐三枝子
恋とならざりき大年の髪洗ふ きくちつねこ
恋となる日数に足らぬ祭かな いのうえかつこ「奉納」
恋ともちがふ紅葉の岸をともにして 飯島晴子(1921-2000)
恋なき日々うまごやし咲きはびこりぬ 藤田湘子
恋なくて幾日すぎけむ献立に茄子の忘れ煮ひとつ加へむ 山中智恵子
恋などはまつぴらと猫太りけり 茨木和生 往馬
恋ならぬ逢瀬もありぬ酔芙蓉 松永静雨
恋ならめ秋煙浮み雲の状 香西照雄 対話
恋なりしほうたるの火を小さうする 鈴木貞雄
恋にうとき身は冬枯るる許りなり 正岡子規
恋にしてわざと敗けたるかるた哉 蘇山人俳句集 羅蘇山人
恋にせし新酒呑けりかづら結 炭 太祇 太祇句選
恋に似し苦さどこかに蕗の薹 今泉貞鳳
恋に似て消炭の火のはかなくて 上村占魚
恋に倦みメロンの網を撫でゐたり 小林貴子
恋に怯づは才なきあらず隙間風 石塚友二 方寸虚実
恋に恋せし昔なつかし冷奴 天川悦子(自鳴鐘)
恋に狂ひゐしか涅槃にゐぬ猫は 羽部洞然
恋に跳ね戦ひに跳ねあめんぼう 村松紅花「破れ寺や」
恋に齢などなし田螺田を這へり 山口いさを
恋のCD聞いているエプロンはずせない 大島文世
恋のころ来し花野にて子を抱けり 辻美奈子
恋のごとくに赤蕪を籠に容れ 友岡子郷 日の径
恋のない身にさへ嬉し衣がへ 上島鬼貫
恋のない身にも嬉しや衣がへ 鬼貫「鬼貫句選」
恋のなやみもちメーデーの赤旗を見まもる 橋本夢道 無禮なる妻抄
恋のはしもかくるやあらむあやめうり 松岡青蘿
恋のボート父子のボート漕ぎかはし 富安風生
恋の刻急げ アリスの兎もぐもぐもぐ 中村憲子
恋の句に笑ひ崩るる日永かな 大野鵠士
恋の句の一つとてなき葛湯かな 岩田由美
恋の句の少なかりける子規忌かな 岸本尚毅
恋の句の芭蕉に多し紅の花 加藤羝羊子
恋の句をさらりと書きて単帯 松下信子(ホトトギス)
恋の句を消してしまえば露葎 原裕 『王城句帖』
恋の唄なれど哀しき風の盆 塩川雄三
恋の唄水洟すすり花筵織る 小原菁々子
恋の声出しそめて猫道の上 岡井省二
恋の子に新の浴衣を着せて出す 毛塚静枝
恋の尾長の幾組渡る欅の秀 山田みづえ 忘
恋の山羊をり牧場の一景に 佐藤雅彦
恋の島佐渡の卯木は紅濃ゆく 永田きみ枝
恋の座の狼籍となる初懐紙 草間時彦
恋の日は愛し蒜の根をふとく 赤尾兜子
恋の映画見て来て汗疹の子を抱くも 清水基吉 寒蕭々
恋の札撫切りにとる歌留多かな 能村研三 鷹の木
恋の果曳船汽罐天に鳴り 三谷昭 獣身
恋の椋鳥駆けて田植のすみし畦 石川桂郎 四温
恋の歌留多一枚輝き遠くにあり 安達美那子
恋の水てふ水飲めり藤村忌 片山浮葉
恋の清算春たつまきに捲かるる紙片 鈴木しづ子
恋の灯を消してひそめり朝螢 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
恋の矢はくれなゐ破魔矢白妙に 青邨
恋の神えやみの神や花鎮 松瀬青々
恋の神えやみの神や鎮花祭 松瀬青々
恋の絵馬受験の絵馬にかくれけり 大島民郎
恋の肝 枯木に忘れて帰りましよう 松本恭子
恋の胸みだれ果なし火蛾を前 石塚友二 方寸虚実
恋の血の高鳴つていま月凍る 仙田洋子 橋のあなたに
恋の記憶藪へいざなふ松虫草 加藤知世子 花寂び
恋の身の如く煖炉に耳ほてらせ 内藤吐天 鳴海抄
恋の身をしなやかに階下りて猫 鷹羽狩行
恋の邪魔して目まとひの払はるる 長尾 雄
恋の鬼泣けば冴えゆき我も冴ゆ 加藤知世子 黄 炎
恋の鳥舞へ舞へ空はスクリーン 吉原文音
恋の鳶空失つて墜ちにけり 仁尾正文
恋の鷺満ちては青き雫産む 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
恋びとは土龍のやうにぬれてゐる 富澤赤黄男
恋びとよ砂糖断ちたる月夜なり 原子公平
恋ぼたる乱れて水面あきらかに 河野多希女「戀句流麗」
恋みくじ三方に盛り年用意 福島せいぎ
恋みくじ売られ長谷寺小春かな 椎野数子
恋めきて絨毯をふむ湯ざめかな 飯田蛇笏 雪峡
恋めくや雪見障子を閉めてより 星野椿
恋もがな手花火に膝突き合はせ 内藤桂子
恋もした勤めも引いた冬の蝿 名護靖弘
恋もなき時雨の貯炭むらさきに 小林康治 玄霜
恋もなき草刈共や虎が雨 石井露月「露月句集」
恋もなし花冷の膚擁けば 小林康治 玄霜
恋も死も地上を出でず木木芽吹く 三橋敏雄
恋やあらぬ我や昔の朧月 朧月 正岡子規
恋やみなかりそめならぬ歌かるた 上田五千石
恋ゆゑや花見の場の色紙売り 涼菟
恋よびの一句や桃の酒注がれ 加藤三七子
恋よ夢よ橋のたもとの真赤な実 林原耒井 蜩
恋をしてわが家の猫と思はれず 小圷健水
恋をして伊勢の寒さは鼻にくる 大木あまり 火球
恋をして悩んでいても赤痢の検査 しまかわひとし
恋をする顔となりけり福笑ひ 江口ひろし
恋をせしことなし爪を深く剪る 浅野四郎
恋をせぬ顔のやつるる葭簀かな 大木あまり 雲の塔
恋をせば滋賀のあたりや朧月 松岡青蘿
恋をせよ煙草を吸ふな初便 野上寛子
恋を得しテニスラケット卒業す 山田弘子 こぶし坂
恋を得し子のやうな紅みぞそばは 北川美枝子
恋を得し韓女比礼(からめひれ)振る雁来紅 角川源義
恋を得て螢は草に沈みけり 鈴木真砂女
恋ボートならぬに岩のかげに入る 山口波津女(天狼)
恋一つ螢袋の深さかな 山村恵子
恋仇川泥暑き路上たり 三谷昭 獣身
恋古し螢の匂ふ夜の雨 内藤吐天 鳴海抄
恋地獄草矢で胸を狙い打ち 寺山修司(1935-83)
恋塚に踏まれ十薬花を持つ 桂樟蹊子
恋塚の碑文を写し春惜しむ 安成三郎 山魯俳句集
恋多きころの端切れや春袋 檜紀代
恋失くせしと耳袋(イヤーマフ)赤きかな 辻桃子
恋始まるごとき雪暁わがバス発つ 寺田京子 日の鷹
恋娘べつたら市をあるきけり 野村喜舟 小石川
恋嬬のごとくおもへる数日の過ぎてひらきしあんずの花唇 伊藤一彦
恋情が河馬になるころ桜散る 坪内稔典
恋情も劣情もいてさくらんぼ 坪内稔典
恋情禁ず真面目に莢隠元茹でよ 池田澄子 たましいの話
恋成就して大輪のアマリリス 佐藤信子
恋持たぬ帰省子あはれ芸妓あはれ 池内友次郎 結婚まで
恋捨つるごと金亀子窓より捨つ 安住敦
恋捨つるごと餅の耳切り落す 小林康治 玄霜
恋捨てに雪山に来しが笑ひ凍る 小林康治 玄霜
恋捨てゝ餅焦がすことに執着す 小林康治 玄霜
恋描の恋する猫で押し通す 永田耕衣 驢鳴集
恋放れ柚味噌の附句したりけり 前川素泉
恋故にしうねき猫となりにけり 京極杞陽
恋星や老いてはならじと老いゆくも 平井さち子 紅き栞
恋果てし猫の佗寝よ光沢よ 加藤知世子 花 季
恋此頃秋の螢に句多かり 寺田寅彦
恋死なば我が塚でなけ郭公 遊女-奥州 俳諧撰集玉藻集
恋死にし松井須磨子の花筐 西本一都 景色
恋死の墓も涼しき一つにて 加藤三七子
恋沢の竹一管の青しぐれ 落合水尾
恋瀬川とは枯野ゆく細き川 吉岡桂六
恋瀬川女郎花また男郎花 町田しげき
恋無常蛇形に偃へる枯桜 富安風生
恋畢る二月の日記はたと閉ぢ 稲垣きくの 黄 瀬
恋痩の果を徴兵検査哉 片水
恋痴れのをんなの宵寝濃あぢさゐ 稲垣きくの 牡 丹
恋白鳥つらら垂る胸反らしけり 鷲谷七菜子
恋知らず唄ふや恋の手毬唄 相川紫芥子
恋知らぬわが家の猫をさそふ猫 根岸義雄
恋知らぬ子よ思ひ羽の色深む 長谷川久々子
恋知らぬ雛も流してしまひけり 木村敏男
恋知りてより瑞の声母喰鳥 平井さち子 鷹日和
恋破れたり冬の日のスタジアム 和田耕三郎
恋終へし螢火一つ一つ飛ぶ 吉野義子
恋終りアスパラガスの青すぎる 神保千恵子
恋経て亡し枝の林檎のくもりやう 平井さち子 完流
恋草の若むらさきも萌えにけり 星野麦人
恋草や女舜挙が菊の花 井原西鶴
恋落ちてひらたき猫となりにけり 染谷佳之子
恋薬とぞ這ふ*いもり踏みて啼かす 加藤知世子「朱鷺」
恋蛍とぶ万葉の歌碑の径 太田万壽子
恋蛍ひとつ乳房の間に入れ 仙田洋子 雲は王冠
恋蛍光を重ね合ひにけり 石河義介
恋蛍火遊びといふ遊びせむ 宮本美津江
恋蛙だまりしあとのつづく闇 和知喜八 同齢
恋螢YESもNOも色変へず 吉原文音
恋螢こゑあらば修羅現じけむ 鈴木貞雄
恋螢その道行の短かけれ 藤山八江
恋螢ふたつの瀬音合ふところ 椎橋清翠
恋螢一つ火となり落ちにけり 五十嵐春男
恋螢大き火となりゆき違ひ 岸田稚魚
恋螢瀧のてつぺんより堕ちぬ 渡辺恭子
恋螢見て来し夫と家点す 上尾ヤス子
恋螢追はるるは女よ炎の小さし 吉野義子
恋衣抱きしめけり二日灸 滝川愚仏
恋衣紅白彼岸の青芝に 香西照雄 素心
恋衣起きては蚤を振ひけり 尾崎紅葉
恋要らぬ齢怖し菊人形 文挟夫佐恵 遠い橋
恋見られ軽打し合ふよ穂草にて 香西照雄 素心
恋訥と語る教師や花袋の忌 高野邦夫
恋語る魚もあるべし春の海 佐藤春夫(1892-1964)
恋負けの一肢を浮かせもどる猫 赤松[ケイ]子
恋辞せず敵否まんや冬籠 島村元句集
恋遂げし斑猫の斑の燦燦と 我妻草豊
恋遂げて猫しなやかに戻りくる 田中九青
恋過ぎし猫よとかげを食い太れ 西東三鬼
恋過ぎて盗みの猫と叩かるゝ 石塚友二 光塵
恋遠しきりりと白き帯とんぼ 的野 雄
恋重荷今日もひねもす爪を研ぐ 山本掌
恋雀けふの暮六つわれら撞く 篠田悌二郎
恋雀マリアは両手ひろげ立つ 朝倉和江
恋雀割られし薪も尺とびて 西谷孝
恋雀墓は日だまり風だまり 古賀まり子 緑の野
恋雀婚約のこと父母知らず 品川鈴子
恋雀恋や遂げむと地蹴つて 大石悦子 群萌
恋雀教会の屋根古りにけり 古賀まり子 緑の野以後
恋雀敦盛塚にこぼれけり 池上果山
恋雀潜りて遅き花散らす 和田ゑい子
恋雀神宿る木をまろび落つ 倉料紫光
恋雀頭に円光をひとつづつ 橋本多佳子
恋雀高きより陥つ躬を細め 岸風三樓
恋風と聞く秋風の入尾かな 小島由美子
恋風や藤千条の騒立てり 藤本悦子
恋飛脚大和路の寒牡丹かな 安住敦
恋餓鬼となりぬ茨の芽も炎えよ 齋藤玄 『玄』
恋鳥や十日も空の一輪挿し 手塚美佐 昔の香
恋鹿のぬた場にあれば餌を乞はず 中村須賀子
惚れ役の恋にしほれし菊人形 山上樹実雄
愛恋や外套おもき春と思ヘ 齋藤玄 飛雪
憂き人と組む恋もあり歌かるた 会津八一
我が恋の松島もさぞはつ霞 西鶴
我が胸の火を尋ね来よ恋螢 林 翔
我恋の松嶋も嘸はつ霞 井原西鶴
我恋や口もすはれぬ青鬼燈 嵐 雪
戯れに触れ手袋に恋をさす 三好潤子
扇風機吹き消す恋のささめ言 岡本綺堂
手に触れてくだける恋や縷紅草 牧 冬流
手花火や子恋の色にしたたれる 増田 富子
手花火をよろこびてまだ恋知らず 猪俣千代子 堆 朱
手袋は落とすもの恋拾ふもの 柳沢桂子
手鏡の背中恐ろし夏の恋 対馬康子 愛国
持つ壺のひとつを恋ヘり光琳忌 朝倉和江
指環凍つみづから破る恋の果 鈴木しづ子
捨鉢な恋かもしれぬ葭雀 北村敬子
掌の深みに落ちて恋蛍 行方 克巳
掛大根にも恋のものがたり 若佐歌子
接点となる萼恋を意識下に 河野多希女 こころの鷹
揚花火その名隅田の恋ごころ 高澤良一 素抱
撥ねとばす一枚恋の歌がるた 加古宗也
撫子や恋知りそめし稽古海女 野中亮介
政安が女か星も恋瀬川 調和 選集「板東太郎」
敗戦記恋日の蝙蝠のどれがどれやら 池田澄子
料峭の雲湧く谷や雉子の恋 長谷川かな女 花 季
新松子わが恋ごとは青くさし 高桑弘夫
新緑や水恋鳥が啼きしと云ふ 渡辺水巴 白日
旅の果子恋の鷽の鳴きにけり 杉山岳陽
旅恋の鎮西の空時雨るゝや 小林康治 玄霜
旅衣はた花衣恋衣 落合水尾
日に梅よ思はず恋の筆はじめ そめ 俳諧撰集玉藻集
日を散らし恋の雀の卍かな 小林康治 『虚實』
日傘の影うすく恋をしている 住宅顕信 未完成
日脚のぶ蓮田の果の恋瀬川 角川源義 『神々の宴』
日脚伸ぶとも戻り来ぬ恋ならめ 京極高忠
星あをく恋の狐火走りけり 堀口星眠
星の恋押絵細工の花に露 長谷川かな女
星の恋空に任して老いにけり 阿部次郎
星恋のまたひととせのはじめの夜 山口誓子
星恋の夜は僧たちの行方かな 中川宋淵 命篇
星恋の晩年という闇に立ち 津根元潮
星飛んで未来氷劫ひとに恋 稲垣きくの 牡 丹
映画では恋を囁く露台かな 守屋明俊
春の夜や心の隅に恋つくる 吉川五明 (1731-1803)
春の暮忍恋てふ題を得たり 春の暮 正岡子規
春の暮恋を失くせし子の背中 荒井佳代
春の虹突然に恋崩れゆく 田中昭子
春の雁うすうす果てし旅の恋 小林康治 玄霜
春の風邪恋患ひと言ふてみる 吉木クミエ
春や昔恋も俳句もおぼえし街 西本一都 景色
春シヨール靡きやすくて恋ごこち 檜 紀代
春南の衣桁に重し恋衣 高浜虚子
春寒の阿修羅は夫の恋仏 大石悦子 群萌
春山の濡るゝ見てをり恋もはや 小林康治 玄霜
春恋や枯野斜めに抜け来り 安住敦
春愁や虚構の恋の捨てがたく 山口青邨(1892-1988)
春泉かそけき飢ゑは恋に似て 鍵和田釉子
春泥のそのごちやごちやを恋と呼ぶ 櫂未知子 貴族
春深し余生の恋を大切に 松本あや子
春潮や働き蜂は余恋なく 永井龍男
春燈膝下に病めば恋もなし 野澤節子 黄 瀬
春落葉恋の木椅子に降りしきり 斎藤 節子
春著きて恋の傷あと無きごとく 山田弘子 こぶし坂
春雨に濡れてこそ来れ恋衣 春の雨 正岡子規
春雨の衣桁に重し恋衣 高浜虚子(1874-1959)
春雨や簑の下なる恋衣 几董
春雨や蓑の下なる恋ごろも 高井几董
昼の虫手紙はみんな恋に似て 細川加賀 『玉虫』以後
昼皃にあはぬ恋草や夜るの殿 井原西鶴
昼蛙恋蛙森は浮くごとし 松本旭
時雨るゝ日甘藷切干の恋甘し 萩原麦草 麦嵐
普賢象咲くや恋仏の花盛 翠 室
晴のちめまい風邪ですか恋ですか 鷲田 環
晴天や恋をはりたる猫とゐる 柿本多映
晴明の頭の上や星の恋 夏目漱石
晶子忌の蛍も恋の火を育て 井沢正江 湖の伝説以後
晶子忌やはげしき恋も才のうち 青木綾子
暦売恋の二人を見送れる 轡田進
暮るるまで恋のまことを黒鶫 市村究一郎
暮れ早し一人芝居の恋果てて 工藤沙奈子
曙や恋捨て行猫の声 魚赤
書き初めは恋の場面となりにけり 吉屋信子
書初は恋の場面となりにけり 吉屋信子(1898-1973)
曼珠沙華人を悼むは恋に似て 田部谷紫
曼珠沙華恋に免疫といふはなし 鈴木栄子
曼珠沙華恋の字並ぶごとくあり 成瀬正とし 星月夜
曼珠沙華恋の火花に火傷して 鈴木真砂女
月と成闇となりつゝ鹿の恋 高井几董
月を見て恋をしてゐぬこと気付く 後藤立夫
月下美人咲くを恋待つごとく待つ 吉野義子
月南中せり恋影をなさめやも 折笠美秋 死出の衣は
月更けて恋の部に入る踊かな 内藤鳴雪
月食の極むやほのと恋蛍 丸山美沙夫
有あけに聞くひぐらしや恋の果 清水基吉 寒蕭々
朝の雷一夜の恋に鬚のびて 吉野義子
朝より恋の雀や軒曇り 石塚友二 光塵
朝夕や恋る清水の蜷むすび 加舎白雄
朝霧やあとより恋の千松島 蓼太
朧夜の昼来て恋をさましけり 尾崎紅葉
朧夜や顔に似合ぬ恋もあらん 夏目漱石
木がらしに恋の黒猫眼ぎら〜 松瀬青々
木の実落つ恋と愛とは違ふもの 星野椿
木の振の恋痩がまし帰花 尾崎紅葉
木の葉髪恋の嘆きの酒下げ来 清水基吉 寒蕭々
木瓜の実や片恋なれば断ち難し 大石悦子 群萌
末遂ゲヌ恋ノ始ヤオボロナル 朧 正岡子規
朴や白恋の山霧しげきかな(湯殿山) 河野南畦 『広場』
杖に顎のせて雀の恋見をり 鈴木鷹夫 大津絵
杜鵑草遠流は恋の咎として 谷中隆子
杳き日の恋の日焼の肩の雀斑 鈴木栄子
松蝉の恋に破れし如鳴ける 金井綺羅
枇杷の花健羨に堪へぬ恋観たし 中村草田男
果敢なる師走の恋や頬に熱 山口珠央
枝づたひに寄りて炎重ぬ恋螢 吉野義子
枝揺れて青鷺の恋荒々し 塩出佐代子
枝横に伝ひ寄る脛恋雀 麓 晨平
枯木坂ある日ある時人の恋 菖蒲あや 路 地
枯蓮揺れて遠きに恋ごころ 仙田洋子 橋のあなたに
枸杞の芽を摘む恋や村の教師過ぐ 河東碧梧桐
某日は胡桃を拾ふ恋冷まし 星野石雀
柘榴が口あけたたはけた恋だ 尾崎放哉
柚みそを堅めに練りて恋にも飽き 鈴木真砂女 夕螢
柿剥くや恋よりほかになきがごと 仙田洋子 橋のあなたに
柿食ひて恋の噂を聞き流す 仙田洋子 雲は王冠
栗剥くや食はすや恋も古びたり 清水基吉 寒蕭々
桐の実や五つ六つほど恋のあり 辻 男行
桑の実はむかしの恋のままの味 仙田洋子 雲は王冠
桑実る恋のほめきの一夜きり 宮坂静生 春の鹿
桜の幹に恋といふ字を一列に(姉再婚) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
桜東風文字いとけなき恋の絵馬 有馬籌子
桜貝恋の座おもひ拾ひけり 加藤三七子
梅の神に如何なる恋や祈るらん 夏目漱石 明治三十二年
梅干して恋を忘るゝかに似たり 清水基吉 寒蕭々
梅熟れて水恋鳥を鳴かせけり 長谷川かな女 雨 月
梅雨しとゞつのりて果つる旅の恋 小林康治 四季貧窮
梅雨ふかし戦没の子や恋もせで 及川貞「夕焼」
梅雨冷えや恋の兆しの二人乗り 平島かよ子
梨の花園丁の恋知つてをり 林克己
梨花月夜遠き子の恋育ちをり 影島智子
梶の葉や法師の恋の歌あはれ 上田五千石 風景
森五月恋のはじまり素手素顔 保科その子
椎咲くや恋芽ぐみゐる英語塾 野村喜舟
椿落ち恋の如くに汚れたる 成瀬正俊
楡に夏日けものの恋も終りたり 角田独峰
業平が恋も尋ん狩使 井原西鶴
橋いくつ渡らば逢はぬ恋蛍 岡田真澄
橋までを夏鴨の恋ながさるる 南 典二
機関音恋めき遡る冬銀河 平井さち子 完流
櫛作る水恋鳥の鳴く峡に 太田嗟(俳句年鑑)
櫻しべ浴ぶ埋火のやうな恋 塚原いま乃
櫻貝恋の座おもひ拾ひけり 加藤三七子
歌かるた掠め取られし恋の札 辻田克巳
歌かるた昔むかしの母の恋 鷹羽狩行
歌がるた覚えて恋の苦を知らず 上田五子石
歌留多とる中の一人は恋狂ひ 鈴木鷹夫 春の門
歌留多取りみかども恋も跳ねとばす 柏原眠雨
歌舞島の夏草がくり恋の漁夫 皆川白陀
武者ねぶた瞋恚も恋も真赤ぞよ 行方克巳
歳暮ともつかず贈りて恋に似る 上村占魚
死なでわれむかしの恋を魂祭 高井几董
死の灰や恋のボートの尻沈み 西東三鬼
死も恋も無しハードルの刃に冬蝶 大沼正明
死も生も恋も一字よ杏好き 角田夕花
殻の中透かして恋の蝸牛 滝 佳枝
母の日といふ母恋の日なりけり 奥澤朋子
母恋のこみちのぼりに遅蕨 松村蒼石 春霰
母恋のどしやぶりとなり雷走る 杉山岳陽 晩婚
母恋のひそかにつのる歌かるた みづき瑛子
母恋の列車のりつぎ秋の雲 古川喜代子
母恋の長子長身帰省せり 脇本星浪
母恋や暮れてより来し獅子舞も 小林康治 玄霜
毛皮着て恋占師が夜の街へ 坂本宮尾
気まぐれな恋に夜長をかきたてる 古市絵未
気管支を痛める恋や竹の秋 寺井谷子
気管支を痛める恋や麦の秋 寺井谷子
水くぐり来し火とおもふ恋蛍 鷹羽狩行「十四事」
水中花ときどき水を替へる恋 照井 翠
水中花恋に散りたきときもあり 栗山チヨコ(鯱)
水仙の香りほのかに古き恋 沖山政子
水仙を二茎切りたり恋となす 萩原麦草 麦嵐
水兵も語らふ恋や頼朝忌 久米正雄 返り花
水呑んで恋に勝ちたる猫ならん 篠塚しげる
水喧嘩恋のもつれも加はりて 相島虚吼「虚吼句集」
水底に日のゆきわたる蜷の恋 佐藤くにを
水恋鳥聞きふるさとの一日目 茨木和生 倭
水恋鳥肌さびしくなりにけり 千代田葛彦 旅人木
水打つや恋なきバケツ鳴らしては 大串章「朝の舟」
水木咲いて中宮門主の恋古りし 渡辺水巴
水洟や鈍の恋など捨てむまで 小林康治 玄霜
水潜りくぐりて恋の川烏 大石悦子 聞香
水澄みて恋をする瞳がよくのぞく 加藤知世子 黄 炎
水澄めりほろびぬ恋を胸に抱く 仙田洋子 雲は王冠
水澄めり鳰水中の恋見えて 堀口星眠
水無月の灯に七歳の恋語る 長谷川かな女 牡 丹
水甕の端にももつれ恋雀 鈴木しげを
水音に恋の夢醒む天の川 石田ふじ乃
水馬頻りに飛ぶも恋の事 石井露月
氷河期を離れて恋におちやすし 鎌倉佐弓 天窓から
汝が恋のおぼつかなき朱酸漿に 猪俣千代子 堆 朱
汝が映る水に墜ちけり恋蛍 池之小町
汝と剥いて恋白眼み足る林檎かな 飯田蛇笏 山廬集
沖塩のはやせを恋や蓼の雨 高井几董
河鹿宿恋の座詠み手多きかな 成瀬櫻桃子 素心
沼底の濁りは知らず恋雀 大木あまり 山の夢
泡一つ吐きて果てにし蜷の恋 小川匠太郎
波を呼び松に語るや想夫恋 小田原禮二
波郷忌の家にここだの恋椿 角川源義 『西行の日』
泥けむり恋の田螺の蠢きて 辻田克巳
泥棒と恋に落ちたるボートかな 永野シン(小熊座)
泥棒の恋や月より吊る洋燈(ラムプ) 大屋達治 繍鸞
洗ひ髪梳くほの昏れの恋ごころ 中村多喜子
流星や恋恋として喰むいちじく 鈴木しづ子
流氷の恋の如くに接岸す 南雲愁子
浄瑠璃に初老の恋や切山椒 七田谷まりうす
浜撫子恋知り頃の海女にして 臼田亜浪
浮き沈みするも恋かや風船虫 福島里津城
浮草や洗へば軽ろき恋の櫛 月舟俳句集 原月舟
海の子の恋知りそめし桜貝 美津口たけお
海女の恋木槿は花を捨てにけり 小笠原和男
海恋は母恋ならむ春の旅 天休翼
海紅豆恋の雀をちりばめて 白澤良子
海鼠噛む汝や恋を失いて 西東三鬼
消し忘れのビデオテープと寒き恋 櫂未知子 貴族
淡雪の消なば消ぬがに恋もせし 蛭子ふじ子
淡雪や仏にありし恋の色 伊藤通明
淡雪や恋遂げ来しか魚青き 望月百代
深淵や恋螢とて痩せて消ゆ 河野多希女 月沙漠
清姫の恋に燃えつき櫨紅葉 林 博子
清少納言に白花菖蒲ほどな恋 草深昌子
湖畔はや燈火ちりばめスワンの恋 鍵和田[ゆう]子 未来図
湯ざめして恋の焉りにゐるごとし 大石悦子 百花
湯豆腐の暁寒し恋ころも 尾崎紅葉
湯豆腐やほのと老母の恋がたり 久保千鶴子
源平にかかはりもなし恋蛍 本岡歌子
溝浚ふ恋亡びしは死なすべし 小林康治 『玄霜』
溶けてゆく恋もありけり花氷 島信子(菜の花)
漱石忌歌仙の中の恋不倫 阿片瓢郎
潮浴の御手をとるも恋なれや 尾崎紅葉
澄む秋のかなしき音に恋瀬川 小松崎爽青
火の如き恋秘め通す寒椿 古市絵未
火の恋の人形遣ふ秋しぐれ 吉田汀史
火の番のかちと打ちけり逢はぬ恋 野崎紫兮
火を埋むごと埋む恋の行方かな 吉野義子
火を焚いて母に秘密の恋をする 佐藤清美
火事美しや一代の恋遂げしさま 嶋田麻紀
火桶して式部の恋を噂かな 筑紫磐井
火蛾打つて通り魔のごと覚めし恋 稲垣きくの 牡 丹
灯のボート働き終へし恋ならむ 雨宮昌吉
灯蛾羽蟻恋の寮生失せやすし 金子 潮
炎のやうな蟷螂の恋喰はれゆく 鈴木正治
炎天や恋ゆき死なばよかるらむ 小林康治 玄霜
炬燵に顎のせ友恋か山恋か 矢島渚男(1935-)
炬燵膳夫も子恋の箸を措く 村上 光子
炭酸の喉に弾け星の恋 遠藤千鶴羽
点すとき消すときずれて恋螢 津田清子 二人称
点す火にいのちを懸くる恋螢 三好潤子
点滅は胸の鼓動よ恋蛍 大野利江
烏瓜仏ごころも恋もあかし 大峯あきら 鳥道
焼芋の懐ぬくめ恋めきぬ 阿波野青畝
焼鳥や恋や記憶と古りにけり 石塚友二
熱燗に思ひもよらぬ恋ざんげ 森口千恵子
熱燗の酔が言はせし恋のこと 岐志津子
熱燗や恋に不慣れでありしころ 行方克巳
燕の恋蒼空の毬と逐ぐ 石塚友二 方寸虚実
爪ぐれに指そめ交はし恋稚く 杉田久女
爪切つてほのと血の気や星の恋 山上樹実雄
父の恋翡翆飛んで母の恋 仙田洋子
父恋が母恋なりき梅白し 永田耕衣 陸沈考
父恋の空へくちなは抛りけり 柿本多映
片恋のどくだみを持ち歩きたし 対馬康子 吾亦紅
片恋の兄猛烈に黄落す こしのゆみこ
片恋の歌の主や鍋祭 妻木 松瀬青々
片恋の歌留多に負けてしまひけり 鈴木真砂女
片恋も風船虫の浮き沈み 大橋晃
片恋や夕冷え冷えと竹婦人 芥川龍之介
片恋や風船虫の浮き沈み 大橋晃
片恋をいくつ吊してりんごの木 高山雍子
片虹や恋塚寺の軒しづく 小島賀寿
牛の尾に追はるる恋のサングラス 白岩 三郎
牛牽て恋草かりや天の川 横井也有 蘿葉集
牡丹焚恋の終始を見終えしごと 八牧美喜子
牡丹雪繚乱たるに恋雀 相馬遷子 山河
犀星の母恋のごと栃嫩葉 宮坂静生 春の鹿
狂はねば恋とは言はず寒牡丹 西嶋あさ子
狐は一夫一婦わが恋知らるるな 鈴木榮子
狐火も蕪村の恋もとはの闇 矢島渚男 天衣
狐鳴く夜も村の恋行はる 菅裸馬
独りする恋にうるみし炭俵 齋藤玄 飛雪
独活の色万葉女人の恋のごと 田中冬二 冬霞
猫とても老いたる恋のわづらはし 山本歩禅
猫にして恋の王者のひとゆすり 中尾杏子
猫の妻昨日の恋の名残り見せ 綿利信子
猫の姫猫のごんたと恋をして 京極杞陽
猫の耳のぼろぼろなるは恋の傷 田川飛旅子
猫皿に飯乾びけり恋の時 石塚友二 光塵
猿の恋見るにあらねど山路ゆく 氷由頼寿
猿酒やむささびの恋夜もすがら 西山千賀子
獅子舞やしばらく恋の二つ面 久保田万太郎 流寓抄
獺の祭恋に終りがありとせば 河野多希女
玉の緒よラクダのシャツの様な恋 鈴木令子
玉虫や朽木の洞に恋もあらん 寺田寅彦
玉虫をつつみて渡す恋のごと 神尾久美子 桐の木
玉霰人の恋聞く聞き流す 清水基吉 寒蕭々
琴唄の恋を燈して風知草 河野多希女
生きものに恋の季節の遠辛夷 篠田悌二郎
生と死のあはひに恋や懸想文 後藤比奈夫 めんない千鳥
生涯の恋の数ほど曼珠沙華 大西泰世(1949-)
生涯を一人への恋白地着て 長谷川櫂 蓬莱
生涯を恋にかけたる桜かな 鈴木真砂女
由布姫の墓やぐるまは恋の花 西本一都 景色
町の名は一分(いちぶ)雀の恋の下 友岡子郷 春隣
町中へよごれて出ぬ恋の鹿 松岡青蘿
畑打やゆふべの恋も忘れ顔 畑打 正岡子規
病む人が老いての恋や秋茄子 正岡子規
病室に子恋つのらす十三夜 福永耕二
病歴に夫恋とありアマリリス 千原草之
病歴に未必の恋を足しますか 中村浩治
病葉やあながちの恋紅の照り 松根東洋城
発心の書初古今恋の歌 大石悦子 群萌
白地着て夜の橋に恋待つごとし 川村紫陽
白地耀り出づ恋に賭けたるごとくにも 野澤節子 花 季
白昼のききょうかるかや恋がたき 大西泰世
白猫へ恋の一瞥野良の猫 大脇良子
白玉の出て恋の座となりにけり 清水基吉(日矢)
白萩の浄土すなはち恋地獄 手塚美佐 昔の香
白鳥の腋の純白恋兆す 平井さち子
白鳥の長首もつれあふは恋 今瀬剛一
白鳥も恋もあらなく降りしきる 文挟夫佐恵 遠い橋
百人一首恋札ばかりとりゐたり 永川絢子
百代の恋どろどろとパリの猫 マブソン青眼
百合鴎ちりぢりに恋きれぎれに 仙田洋子 雲は王冠
皹や遊女の恋を琴に弾き 熊丸淑子
盆踊恋の仕種をはばからず 井沢正江
盗み見ることの愉しき恋雀 遠藤梧逸
目にうれし恋君の扇真白なる 蕪村
目に嬉し恋君の扇真白なる 蕪村
目に流す人の恋かな夜の桃 小林康治 四季貧窮
目刺し焼く恋のねた刃を胸に研ぎ 稲垣きくの
目刺やく恋のねた刃を胸に研ぎ 稲垣きくの 黄 瀬
目刺食ふや儚なき恋もあらざりし 青池秀二
直情にして恋螢いれられず 行方克己 昆虫記
相触れしとき火をけして恋螢 柴田多鶴子
看護婦の恋育て来よ小正月 八木林之助
眷恋の妻にはありや更衣 齋藤玄 飛雪
睨み合うて背縞動かさず恋蜥蜴 月舟俳句集 原月舟
短夜の恋にはかなき寝さめ哉 短夜 正岡子規
短夜や壁にペイネの恋かけて 上田日差子
短夜や恋泣きに似てきしむ汽車 稲垣きくの 黄 瀬
短夜や蓬が宿の恋車 短夜 正岡子規
短日の望遠鏡の中の恋 寺山修司 未刊行初期作品
短編の恋がちまたにイースター 南絵莉花
石の秋式部が恋を綴りしも 八木三日女 赤い地図
石鹸玉吾子にも恋の敵ゐる 田中裕明 先生から手紙
砂あぶる雀見てゐて蝉の恋 宮坂静生 樹下
砂浜へ恋の身投の蛍烏賊 船平晩秋
硝子戸の夜ごとの守宮とほき恋 鍵和田[ゆう]子「風月」
碧き目に猫もかなしむ恋の頃 赤松[けい]子 白毫
碧揚羽見えて去らざる遠き恋 沼尻巳津子
神かけて祈る恋なし宇佐の春 夏目漱石 明治三十二年
神とても恋仇あり黒椿 渡部昌石
神の留守絵馬堂裏で恋に逢ふ 北野民夫
神等去出の闇ゆく恋の奴かな 長田染水
神農の虎の恋には弱さうな 下橋潤子
禁断の恋水洟に破れけり 稲畑廣太郎
禅堂の軒をこぼるる恋雀 塩谷はつ枝
福引きのひとつひとつの恋ごころ 犬塚楚江
禰宜このごろ蓑虫ほどの恋をして 豊口陽子
秋の波恋に終りもあるといふ 村野正樹
秋の芽やみづみづしきは恋の顔 鈴木真砂女 夕螢
秋めくや焼鳥を食ふひとの恋 石田波郷
秋情花恋といい鳥愛しといい 安西 篤
秋扇といふ恋の果てめく言葉あり 能村登四郎
秋扇に恋知らず来て五十路なり 森川暁水
秋扇恋の名残りを折りたたむ 島原仁代
秋晴の湖上に鳶の恋の笛 長田等
秋渇く峯の祠は恋の神 宇咲冬男
秋近う鬼灯の恋色に出づる 会津八一
秋霖や遺稿写せば恋に似る 上野さち子
秋風や師弟の情の恋かとも 安住敦
稲架襖恋の襖となることも 斎田鳳子
積み上げし麦藁陰や里の恋 麦藁 正岡子規
空にもぎんぎら水にもぎんぎら恋の星 人間を彫る 大橋裸木
空中に海をおもへり恋の冥(うみ) 大屋達治 繍鸞
空蝉の身の透くばかり恋着す 稲垣きくの
空蝉を恋の言葉のごとく置く 関戸靖子
空言の恋の坩堝にゐて涼し 西川良子
立ち尿る老女のごとく恋こがる 山崎愛子
竜胆の色濃山窩の恋怖ろし 岡本圭岳
端然と恋をしてゐる雛かな 夏目漱石 明治二十九年
竹の子やむかしさだかに恋の言 齋藤玄 飛雪
竹の秋旅の束の間子をぞ恋ヘ 清水基吉 寒蕭々
竹原や二匹あれ込ねこの恋 向井去来
笊干してある空飛んで恋雀 茨木和生 遠つ川
筆塚にかなはぬ恋の草紅葉 土信田みち子
筑波晴れ加波が澄みゆく恋瀬川 小松崎爽青
籐椅子にならびて掛けて恋ならず 富安風生「松籟」
粉雪や恋の煮つまる村芝居 中山純子 沙 羅以後
紅梅のあなた清十郎の恋 加藤三七子
紅梅の二月は恋の鹿子哉 紅梅 正岡子規
紅梅の花の数ほど恋をせし 平間真木子
紅梅や声の出てくる恋みくじ 藤田 昭
紅梅や見ぬ恋つくる玉すだれ 芭蕉
紅涙をしぼりし恋や縷紅草 大井恒行
紅葉且つ散る万葉の恋のみち 竹村竹聲
紅葉忌金がかたきの恋今も 渋沢渋亭
納能恋のあはれをのこしけり 阿波野青畝
紫の頭巾に恋をせし昔 阿部みどり女
紫陽花や恋の幾組溺れゆく 皆川白陀
紫陽花や恋知らぬ間のうすみどり 林翔
紫雲英編むなるほど恋に後れたる 大石悦子 百花
絵団扇に恋様々の似顔かな 田山耕村
絵日傘の徒渉りをり恋瀬川 細田 静
網干場の夜露にぬれる恋がある 佐野まもる 海郷
綿虫の恋の修羅場を見たきもの 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
緋桃咲く恋風もそのあたりより 友岡子郷
緋牡丹や蕪村にありし老の恋 北野民夫
緑蔭の恋のベンチは見ぬがよし 稲垣きくの 黄 瀬
羅や人かなします恋をして 鈴木真砂女「生簀籠」
羅針盤は確かに東北だ 水臭い恋との別れ 大坂秋霖子
群来鰊海染めて恋果てにけり 河合未光
羽抜鳥ウエルテル悩む恋もあり 篠原良司
羽拍子よどむ茶畑や雉子の恋 水田正秀
翡翆の恋の始まり水面打ち 小島健 木の実
翳りある恋をしてゐた日のざくろ 櫂未知子 貴族
老いそめて恋も切なれ秋夕べ 几董
老いらくの恋と愛撫す桐火桶 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
老いらくの恋の哀しき野分かな 中村昭子
老そめて恋も切なれ秋夕 高井几董
老の恋春の時雨はすぐやみて 草間時彦
老はものの恋にもうとし置火燵 正岡子規
老らくの恋かな春の雪積る 津田清子
老らくの恋より紅き梅もどき 平林春子
老人の恋などとざれし秋もありき 野上豊一郎 能百句
老懶の胸をかするる星の恋 福島清恵
老猫や茨からたち恋の関 調古 選集「板東太郎」
聖五月邪険な恋をしていたり 寺井谷子
聳え立つ恋の峠や業平忌 京極杞陽
肌寒の内にうごきし恋かとも 松瀬青々
肌寒の日記や恋を知りゐし子よ 国政十方城
背を向けて真つ直ぐに来る恋ボート 新井章有
胸には恋の廃墟ばかりで蚊喰鳥 楠本憲吉
胸中の恋の欠けらや青葉木菟 中野きみ
脊戸若葉廚夫の恋に晝凪げり 中塚一碧樓
腓かたく恋仇みる野のあそび 渋谷道
腕白に恋らしきもの水鉄砲 小沢昭一
舌の根やときに薄氷ときに恋 池田澄子 たましいの話
舞初や年端もゆかず恋の所作 中火臣
舷側に恋の水母の仔細見る 田中水桜
良寛のほのかな恋を読み初め 正野房代
良寛の手麹は芯に恋の反古 宮坂静生
色鳥や山に恋々生丸太 百合山羽公 寒雁
色鳥を見し眼を恋の書に戻す 藤田 夢
芥子ゆれて恋らしきもの蒸発す 稲垣きくの 黄 瀬
芦刈らむ恋万日を経し果は 稲垣きくの 黄 瀬
花いくさ実の無き恋の匍匐前進 仁平勝 花盗人
花は恋をまいた種也初芝居 井原西鶴
花も恋も行方のなきを行方とし 筑紫磐井
花吹雪恋も大河へ散りぬべし 仙田洋子 雲は王冠
花咲きし闇に揺れやまざるも恋 仙田洋子 橋のあなたに
花散るや断簡に見る恋の文字 松崎鉄之介
花水木明日なき恋といふに遠し 西村和子 窓
花火散り実らぬ恋に似たるかな 安済久美子
花衣ぬぐやみだるゝ恋に似て 千原叡子
花衣は恋の衣ぞ脱ぎ捨てむ 山本一歩
芳草や椋鳥の白斑は恋がらみ 藤田湘子 てんてん
苑の恋眄る薬瓶手に提げて 三谷昭 獣身
苗札を恋名のごとく書いてをり 阪田昭風
苜蓿は丘となりゆく恋の丘 山口誓子
若党に内證きかする恋もあり 史邦 芭蕉庵小文庫
若者の恋の氷菓の溶けやすし 小俣由とり
若者ら恋に朽ちをりすもも咲く 北野民夫
若菜摘むや乙女心は恋を知り 桑原百合子
茅花散り徒然草に恋の段 西村和子 かりそめならず
茎漬のこの手に恋の日もありし 片桐久恵
茨の実忘れし恋のありにけり 小泉良子
茶を点てて遊べば軒の恋雀 草間時彦
茶立虫手管は恋にあらずとも 伊藤通明
草の香に恋知りそめし雀かな 林原耒井 蜩
草入水晶如月恋が婚約ヘ 中村草田男
草合恋の中なるすさびかな 松根東洋城「国民俳句」
草笛や少年恋を知り初めし 原田稀世
草紅葉恋もおほかたしまひなり 仙田洋子 雲は王冠
草茂み恋の細道隠れけり 草茂る 正岡子規
草虱まだ海道に恋着す 百合山羽公 寒雁
菊人形無骨さ恋をかなします 河野多希女 納め髪
菊挿しつ恋に溺るゝ恥やある 石塚友二 方寸虚実
菩提樹の実に母恋の土鈴鳴らす 角川源義
落し文恋の文など参らせむ 谷中隆子
落葉の夜歌仙これより恋の部へ 飯田龍太 遅速
葉牡丹に恋が渦巻く金曜日 浜明史
葵朱に世やゆゝしきを人に恋 石塚友二 方寸虚実
葺替の縄するすると人の恋 山本英子
蕉門に恋なかりけりほとゝぎす 加藤郁乎「初昔」
薄着して柾目の恋の二月かな 橋石 和栲
薄雪の恋寐かなひて花の春 松岡青蘿
薬掘るふもとは恋の歌枕 津森延世
薺打つて浮名まうけの恋も果つ 稲垣きくの
藍微塵遠き師の恋歌の恋 石原八束 断腸花
藪入の恋まで連れて来し噂 勝尾艸央
藻の花にうす〜の恋なりしかな 龍胆 長谷川かな女
蘇東坡の恋読む*さより焼きし夜は 日原 傅
虎が雨恋知り初めし娘の濡れて 小林厚子
虚子の恋芭蕉の恋や虹かかる 村上喜代子「つくづくし」
蚊遣火や父母にそむきし恋も古り 横山柳汀
蛇見しより恋の話の宙ぶらりん 寺井谷子
蛍火や恋の宇野千代果てたまふ 吉田清子
蛸の恋かたみに足を網目より 小澤實 砧
蜉蝣と遊子は恋に死ぬるもの 熊谷一彦
蜑が子の恋や穂に出て蘆の花 西村渚山
蜜豆や三人寄れば恋ばなし 村上梔子
蝶の恋まぶしきまでに昇りつめ 野見山朱鳥
蝶の恋空の窪んでゐるところ 川嶋一美
蝶もつれ恋の絵島の墓小さし 菖蒲あや
螢火の消えて走れる恋ごころ 和知喜八 同齢
蟇の恋庭の草むら残し置く 加藤元子
蟇鳴いて醜男恋を詩にて告ぐ 加藤知世子 黄 炎
蟇鳴くは恋かも雨のけぶる方 石嶌岳
行く秋や草臥れのつく鹿の恋 水田正秀
行春や忍ぶ恋てふ題を得たり 行く春 正岡子規
行春や畳んで古き恋衣 高浜虚子(1874-1959)
裔ありて嚏りとばす恋一つ 小林康治 玄霜
裸婦像の仰ぐ大樹に恋鴉 大島民郎
裸木に倚り佇つゆゑに恋と見し 岸風三楼 往来
西瓜食べながら語れるほどの恋 長山あや
見ぬ恋や夜のあらしの荻をうつ 大江丸
見残せし袈裟の恋塚十月野 草村素子
角巻の瞳のかゞやくは恋ならむ 小林康治 玄霜
角落とす鹿の狂ひや恋のごとし 樗良
記紀の神恋争ふや寒茜 伊藤てい子
語尾少しあげて小鳥は恋の季節 清水径子
読み返す文は恋めく夜を長み 林原耒井 蜩
読初は恋のくだりの和歌一首 野島美津子
誰が恋ぞ田毎にみつる初日かげ 青蘿
誰恋ぞ田毎にみつる初日かげ 松岡青蘿
谿の空鶺鴒の恋切りむすび 福永耕二
豆飯や息子の恋を励まして 小田切輝雄(杉)
貸間あり器量のわるき猫も恋 仁平勝 東京物語
賤が恋南瓜畑の月更けぬ 梅沢墨水
賤が恋干瓢剥くや綿々と 尾崎紅葉
赤とんぼまだ恋とげぬ朱さやか 佐野青陽人 天の川
赤啄木鳥の歯切れよき音や恋狂ひ 今村庸浩
赤椿田舎の恋のあからさま 椿 正岡子規
赤腹をちらりと見する*いもりの恋 橋詰沙尋
足摺の夜は星恋の辛夷抽き 河野南畦 湖の森
踊唄恋の口説を受けつぎて 秦 光枝
踏青や心まどへる恋二つ 日野草城
身につかぬ秋風そして恋の歌 寺島麻里
身の内に恋の一枚歌加留多 藤沢紗智子
躬都良(みつら)の恋隠岐水仙は崖なせり 佐怒賀正美
転び落し音してやみぬねこの恋 高井几董
農夫婦かつての恋の藁塚を組む 千賀静子
返り花恋に今昔なかりけり 吉永 榮
返り花現つも恋もうしろ影 石原八束
逃水やむかしむかしの稚恋 山口青邨
途中まで臭し臭しと海鞘の恋 攝津幸彦 未刊句集
通り雨どれも実らぬ恋ばかり 大城佳乃子
逢ふ恋や松菜見ゆなる桶の中 松瀬青々
逢へば泣く明治の恋や初芝居 中島順子
逢恋の背戸を水鶏に叩かれし 寺田寅彦
道逸れてゆきしは恋の狐火か 大野崇文
遠き日の恋の日にとんでゐしつばめ 中山純子 沙羅
遠き遠き恋が見ゆるよ冬の波 鈴木真砂女
遠花火ひとりよがりの恋をして 黒河内多鶴子
遠蛙恋のシーンの煌々たり 瀧春一 菜園
遣羽根や恋知り貌に打返し 野村喜舟
郭公の恋の尾羽をひろひけり 堀口星眠 青葉木菟
郭公の恋むすぶ朴咲きにけり 堀口星眠 営巣期
郭公や恋のラケット重ね置く 原 ふみ江
都鳥舞ふや子恋の句碑の辺に 佐藤いね子
酋長が娘の恋や熊祭 荻原井泉水
醒めざれば朝は骸よ恋の火蛾 小坂灯村(燕巣)
里神楽恋の仕草の今昔 高井良秋
重ね着て恋の句すこし修飾す 鈴木栄子
野の宮の別や旅と恋の外 井原西鶴
野萓草もつてのほかの恋をして 大石悦子 群萌
金魚の水替ふるも楽し恋の娘は 山田弘子 懐
鉄線花につちもさつちもいかぬ恋 彦坂寿子
鉄線花に恋をあらそふ如く寄る 赤松[ケイ]子
銀懐炉恋たんのうす奴かな 飯田蛇笏 霊芝
銀杏降る坐せば身を灼く恋生れむ 山本つぼみ
銀河濃し恋めく話避けながら 高田風人子
門小さき恋塚寺の星まつり 田下宮子
開き見る恋の文箱や春のあめ 蘇山人俳句集 羅蘇山人
阿波の鳶淡路の鳶に恋をせり 細川加賀 『玉虫』
降りぐせの多摩の横山恋雀 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
陽炎やいづれ恋草おもひ草 白水郎句集 大場白水郎
雀の鉄砲揺るるは恋のはじめとも 雨宮抱星
雉鳩の恋の座があり花辛夷 鈴木しげを
離々たるや恋々たるや天の川 小杉余子 余子句選
雨がふる恋をうちあけようと思ふ 片山桃史 北方兵團
雨にあふ恋もあるべし花大根 大竹孤悠
雪うさぎ恋生れし日のよみがへる 仙田洋子 雲は王冠
雪に暮れ恋など吊るす釘うたん 橋石 和栲
雪の水疾し小暗し恋映る 小林康治 玄霜
雪は花と舞ふ恋雛の誕生日 石原八束 仮幻の花
雪を来て恋の躯となりにけり 眞鍋呉夫
雪合戦わざと転ぶも恋ならめ 高濱虚子
雪合戦わざと転ぶ恋ならめ 高浜虚子
雪女郎おそろし父の恋恐ろし 中村草田男(1901-83)
雪嶺を負ふ映画館恋やぶれ 堀口星眠 火山灰の道
雪泥に捨つ恋一つ曳きあるく 小林康治 玄霜
雪礫光り掠めし恋の中 成田千空 地霊
雪虫の恋一寸にして一途 鷹羽狩行 七草
雲雀鳴く天に地の恋とどくべし 仙田洋子 橋のあなたに
霧ほつれゆく雷鳥の子恋かな 橋本榮治
露草の花うたかたの恋の彩 岐志津子
青い薔薇わたくし恋のペシミスト 高澤晶子 純愛
青き踏む昭和の恋の微熱めく 宮下裕大
青月夜無柳殖やして恋封じ 河野多希女 こころの鷹
青柳や思ふ事皆恋に近し 青柳 正岡子規
青簾ちよと恋草の透模様 尾崎紅葉
青胡桃賢治に恋の文ありき 岸原清行
青芝に自転車寝かせおく恋よ 正木ゆう子
青葉木菟呼ばれて応ふ恋もなし 石塚友二 光塵
青饅に恋の勝利者とは言へず 鈴木真砂女 夕螢
青饅に酢の乏しはた恋遠し 大石悦子 聞香
青首大根畑にそろひ恋ごころ 柿本多映
革命も恋も遠き日巴里祭 河波青丘
須佐之男の山河とよもす星の恋 永井由紀子
領事館裏恋のシャム猫呼び込まる 殿村菟絲子 『路傍』
頬にとぶ激しき恋の歌かるた 工藤節朗
頬白の恋川風に押されつつ 友岡子郷 翌
頭巾きて恋の外なる遊びかな 高田蝶衣
顔見ねば恋にぞ似たる茶摘歌 茶摘唄 正岡子規
風の盆恋を唄いて俗ならず 福永鳴風
風の萩黄蝶の恋をとり結び 橋本榮治 麦生
風葬の恋などあめり落ち林檎 平井さち子 完流
風車まわしておわる風の恋 高澤晶子
風邪寝して恋におちたるごとくなり 野本 京
風鐸を鳴らし地に墜つ恋雀 細井光男
飛鳥人と恋をせん奈良の朧月 中勘助
飼うさぎ恋遂げ卯の花腐しかな 平井さち子 鷹日和
餓鬼のしりへにぬかづく恋か放屁虫 稲垣きくの 黄 瀬
香具山の神代の恋や春しぐれ 谷中弘子
香水の壜に閉ぢこめられし恋 金藤大祐
香水の空瓶恋もやつれけり 石田 厚子
香水はシヤネルと決めし遠き恋 高垣かず子
香水を買ふ客の恋知りてをり 八牧美喜子
馬方や恋を罵る年忘 竹冷句鈔 角田竹冷
馬鈴署の花の匂ひの中の恋 林桂 銅の時代
高啼いて雨の銀座の恋鴉 伊藤いと子
髪切虫母恋童女負ひなだめ 堀口星眠 営巣期
鬼灯市や子規に恋の句あればなあ 松田ひろむ
魔のごとき早瀬のこゑや恋螢 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
魚は氷に上るや恋の扉開く 青柳 飛
鮨の出前待つ間の恋の話かな 舘岡沙緻
鰭酒の椀を据ゑたり恋生れよ 仙田洋子 橋のあなたに
鰯雲恋の丸ビル消えにけり 北見さとる
鱧食ふやまたもかるがるしき恋を 仙田洋子 雲は王冠
鳥交る恋といふには淡すぎし 福田甲子雄
鳥雲ににはかにかげる恋のあり 仙田洋子 雲は王冠
鳩の恋烏の恋や春の雨 一茶
鳳梨(あななす)や恋越といふ母の郷 林桂 ことのはひらひら 抄
鳴きとよむ水の暗さの恋河鹿 原裕 青垣
鴛鴦や恋々として顔を寄せ 喜谷六花
鴟すべり落つ天平の恋雀 田中水桜
鴟尾すべり落つ天平の恋雀 田中水桜
鴨のこゑ恋をはりたるひとのこゑ 大石悦子 聞香
鷹鳩と化してただちに恋を得し 関口あつ子
鷺草の恋を持たねば飛び翔てぬ 河野南畦 『硝子の船』
鷽替や幾たび恋の径を来し 進藤紫
麦めしにやつるる恋か猫の妻 芭蕉
麦秋の百畝越えて恋得ねば 小林康治 玄霜
麦笛に吹くこの国の恋のうた 山内年日子「ホ誌雑詠選集」
麦笛や四十の恋の合図吹く 高濱虚子
麦笛吹いている 少女の 恋の日が遠い 吉岡禅寺洞
麦飯にやつるる恋か猫の妻 芭蕉
黒南風や見飼きて戻る飯匙倩の恋 鈴木寿恵
黒猫にして界隈の恋の主 藤田湘子
黒蜻蛉の恋濁流をかけのぼり 百合山羽公 寒雁
黴の宿いくとせ恋の宿として 鈴木真砂女(1906-)
●恋する ![]()
かりそめの恋することも明易き 齋藤愼爾
かんなぎに狐恋する夜寒かな 蕪村
たえ〜に扇つかひつ恋すてふ 久米正雄 返り花
むつみゐし二羽が三羽に恋すずめ 幡野淳子
出女が恋する桃に花が咲く 桃の花 正岡子規
卯の花や恋する医師の同い年 二村典子
吾輩は恋する猫でありにけり 菅原ひろし
夏の虫恋する隙はありにけり 一茶 ■文化十三年丙子(五十四歳)
夏嶺ゆき恋する力かぎりなし 仙田洋子 雲は王冠
夕空に恋する猫の天守かな 高山れおな
太刀佩て恋する雛ぞむつかしき 夏目漱石 明治三十年
巫女(かんなぎ)に狐恋する夜寒かな 與謝蕪村
市中に恋する馬や春の風 守屋青楓
恋すてふこと古りにけり単帯 高濱年尾 年尾句集
恋すてふをみなの猫の富士額 高澤良一 寒暑
恋すてふ一刀彫の立雛 加藤三七子
恋すてふ仔と古りにけり単帯 高浜年尾
恋すてふ浮名もたゝじ船の猫 久宝
恋すてふ猫の影さす障子かな 井月の句集 井上井月
恋すてふ落暉追ひ落つ寒椿 渡辺恭子
恋すてふ角切られけり奈良の鹿 小林一茶
恋すてふ顔の踊りの下駄鳴らす(郡上踊) 殿村菟絲子 『菟絲』
恋すてゝ妻にかへりし人の秋 宮野小提灯
恋すでに遠きものとし単帯 鈴木真砂女 夕螢
恋すべし相寄る息の白きまま 仙田洋子 橋のあなたに
恋すみし猫ゐて画集黄に溢れ 野澤節子 牡 丹
恋するも恋はるるも葦枯れてのち 柿本多映
恋するや風花肩に膝に咲かせ 原裕 投影
恋すればきさらぎ柳行李かな 鳴戸奈菜
恋すれば心とぶべし鷺しろく 中山純子 茜
恋すれば言葉少しソーダ水 吉屋信子 吉屋信子句集
恋描の恋する猫で押し通す 永田耕衣 驢鳴集
恋猫が恋す復元穴居にて 茨木和生 野迫川
恋猫の恋する猫で押し通す 耕衣
挿木して恋する人に逢ふごとく 藤澤清子
早乙女の恋するひまもなかりけり 早乙女 正岡子規
星屑の恋する秋となりにけり 長谷川櫂 虚空
春の月恋する人を照しけり 春の月 正岡子規
枯々の野辺に恋する蝗哉 一茶 ■文化七年庚午(四十八歳)
枯れ枯れの野辺に恋する螽かな 一茶
栗は実に育つへらへら恋すまじ 清水基吉 寒蕭々
水澄みて恋する瞳がよくのぞく 加藤知世子
河童(かわたろ)の恋する宿や夏の月 蕪村
河童の恋する宿や夏の月 蕪村
漆黒の野良猫にして恋すなり 松村蒼石 雪
熱砂駆け行くは恋する者ならん 三好曲「空港」
田植水夜昼流れ夜は恋す 榎本冬一郎 眼光
白桃に羽が生えたり恋すれば 佐藤成之
目貼りして恋する娘かくまひぬ 御代田寿美子
磐座の神に恋すか猫の妻 角川源義
磯巾着高校生の恋すすむ 武田伸一
穂すすきや恋する人は離れゆく 三宅未夏
窓の月恋する猫の影ぼうし 石友
篝火や鵜にも恋する暇なき 横井理恵
老いの恋すゞめかくれに通ひけり 加藤郁乎
花林檎遠嶺恋する彩にかな 高山まどか
読初の書物の中の人恋す 藤原輝子
象谷に恋する蝶として生まれ 山本洋子
赤松は冬も恋するや青くして 細谷源二 砂金帯
過ぎし世を恋するに似て雛飾る 橋本榮治 越在
郭公恋する人の寒きとは 服部嵐雪
銭なくて恋する春の旅籠哉 春 正岡子規
門川に恋する蜷や種俵 原本神桜
雨が雨を恋する銀座資生堂 山崎十死生
雨音に掻き立てられつ猫恋す 羽部洞然
雲海の上に恋する深山蝶 羽部洞然
須らく恋する顔の猫であり 高澤良一 ぱらりとせ
鮟鱇がふぐに恋する小泥海 中勘助
にほん恋しや絵葉書売りに海泣く今 金子兜太
あやめ吹く風淡路女のひた恋し 阿部みどり女
あららぎの甘き実食めば山恋し 福田蓼汀 山火
あら恋し木曾の桑の実くふ君は 正岡子規
いかなごにまづ箸おろし母恋し 高濱虚子
いまだ恋しらぬ指もて雛納め 土生重次
うつぼ草いさぎよき恋したきかな 加藤三七子
うれしさに涼しさに須磨の恋しさに 涼し 正岡子規
おほき空生涯恋しき濃竜胆 新谷ひろし
おんおんと人の恋しき秋の風 岡田詩音
かがみ餅母在して猶父恋し 暁台
かくてあることよりも萩の人恋し 長谷川かな女 雨 月
かくばかり父の恋しさ夜の青嶺 寺井谷子
かにかくに明治は恋し菊膾 富安風生
くちなしの実の朱くなり母恋し 赤堀秋荷
こおろぎを蜘蛛と見誤るは恋し 永田耕衣 殺祖
こけし買ふ数の恋しき四月尽 石田波郷
さくら貝黙うつくしく恋しあふ 仙田洋子 橋のあなたに
さ月音に我蓑虫や母恋し 服部嵐雪
たんぽぽよ太陽よ父恋しかり 岡田順子
たゞ恋し青田のはての石切場 渡辺白泉
つまと居て夫恋しさや若葉窓 原コウ子
なにかが恋し茄子の面に山羊映りつつ 中村草田男
はせを忌の手紙みじかきほど恋し 黒田杏子 一木一草
ふと人の恋しく星の香が満つる夜に出る 人間を彫る 大橋裸木
ふるさとがやたら恋しきひばりかな 細川加賀 『玉虫』
ふるさとの伊勢なほ恋し初日かげ 樗良
ふるさとの筑紫恋しとつくつくし 須藤サワエ
ふる里の蝦夷の恋しき冬支度 多胡一蚪
まだ会えぬことば恋しく春の海 鳴戸奈菜
まのあたり瑞穂恋しき涙かな 永田耕衣 奪鈔
まんさくや水飲むさへも人恋し 湯浅康右
みどりさす大和恋しき八一の書 斎藤典子「大山蓮華」
み佛と住めど寒けば人恋し 清水一翁
ゆびさして乳を晩霞に恋しがる 下村槐太 天涯
ガス展の火の美しく火恋し 古賀まり子
シベリアも正月ならむ父恋し 寺山修司 未刊行初期作品
セルを着て母の膝押しまた恋し 百合山羽公 寒雁
トテ馬車の喇叭恋しき鬼城の忌 大野花子
パン食の恋しくなつて三ケ日 松木つやの
ブラウンシチュウ灯と火恋しき頃となり 高澤良一 随笑
マグダラのマリア恋しや芥子の花 有馬朗人 天為
リラ冷えの人恋しくて街に出る 赤尾茶香
ルーペで見る英英辞典火の恋し 浦川聡子
一杖や土恋しさもありて行く 村越化石
三山の一つに恋し雪蛍 小島健 木の実
亀鳴けり恋に恋して老いぬれば 山司英子
二日はや雀色時人恋し 志摩芳次郎
五月音(さつきね)に我が蓑虫や母恋し 服部嵐雪
亡き師恋し片足立ちて足袋履けば 肥田埜勝美
亡母恋ひし火恋し寝に入るのみの部屋 平井さち子 紅き栞
亡父より波郷が恋し竜の玉 北野 登
人といふ人皆恋し梅雨曇 高橋馬相 秋山越
人とゐてひとの恋しき冬牡丹 環 順子
人よりも土恋しさよ暮の春 島村元句集
人恋しかりをなもみもめなもみも 後藤比奈夫 めんない千鳥
人恋しがる山姥に栗もらふ 田中水桜
人恋しき大寒の夜を訪はれけり 長谷川かな女 雨 月
人恋しくば隣人を訪へ遅桜 中村草田男
人恋しければ芹摘む外になし 山崎十生
人恋しさらば詩を書き温め酒 岡崎正宏
人恋し人疎しや野の薊 小熊佳津子
人恋し崖の縁まで芒原 花尻 万博
人恋し掛菜の窓の夕嵐 尾崎紅葉
人恋し春の七種数ふれば 秋を
人恋し春の霙の桐火桶 奇淵
人恋し杉の嬬手に霧しぐれ 白雄
人恋し灯ともしころをさくらちる 加舎白雄
人恋し灯ともしごろを桜散る 白雄
人恋し美男葛に風吹けば 大野温子
人恋し都忘れが庭に咲き 高橋淡路女
今聞て直に恋しや時鳥 風状
会はぬ娘のひたに恋しき星月夜 田中あかね
何か恋しいり胡麻匂う蜩に 長谷川かな女 花 季
偲ぶとは恋しきことよ夕端居 星野椿
働くとき車輪のようなかげり恋し 八木三日女 落葉期
元日に田毎の日こそ恋しけれ 芭蕉
元日の畳恋しや肘と膝 敏雄
元日は田毎の日こそ恋しけれ 松尾芭蕉
兄恋し椎の実ひとつひとつかな 中原梓
冬の海や里恋しさは安針も 清水基吉
冬鵙が恋しや咽喉に湿布して 三橋鷹女
切り絵幣風通るたび火が恋し 戸塚時不知
初蝉仰ぐ恋しきものへ寄るごとく 野澤節子 黄 瀬
初霞舗装の街に土恋し 香西照雄 素心
勾玉のみどり恋しきなづな粥 野見山朱鳥
十三夜二夜訪はねば母恋し 沖元薫
卒業処女恋して後に母となれ 楠節子
厚底の靴に恋した犬ふぐり 三宅李佳
厨戸を一日あけおく土恋し 松原地蔵尊
友恋し雑木紅葉の夕冷えは 広谷樵人
取り落す炭がちやりんと母恋し 林原耒井 蜩
古き名の角鹿や恋し秋の月 松尾芭蕉
啼けや啼け汝も昔を恋し鳥 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
国ぶりの雑煮祝へば国恋し 宮田重雄
土恋し恋しと歩く影法師 村越化石
夏の雨二人つきりの夜恋し 横山千夏
夏大根ぴりつと辛し父恋し 樋口栄子
夕月に誰やら恋し萩の原 美角
夕月や家路となれば家恋し 松尾静子
夕焼けの彼方が恋し暑気あたり 阿部みどり女
夕空心に焼けかかりしみじみ陸の恋しき 人間を彫る 大橋裸木
夕虹や息吸へば人恋しくて 村松知香(甘藍)
夜の秋の安寿恋しと文弥節 伊藤京子
大まかに巴里たつ雀蛤恋し 小池文子 巴里蕭条
大隅に湧く夏雲ぞ目に恋し 篠原鳳作
妻が言へり杏咲き満ち恋したしと 草間時彦
妻と菊恋しく艦をあがりけり 野村喜舟 小石川
妻のみ恋し紅き蟹など歎かめや 中村草田男
妻のみ恋し赤き蟹など歎かめや 中村草田男
字干草窪に/青空/匂ふ/父恋し 林 桂
守宮鳴く人の恋しき夜となり 下地 鉄
宝物殿めぐりにはかに火の恋し 片山由美子 水精
寒ければ着重ね恋しければ逢う 池田澄子
寒の星立身出世の明治恋し 岩田昌寿 地の塩
寒晴や恋しきものは雲ならず 菅野匡夫
山が山恋してをりぬ柞かな 小島健 木の実
山中に歩みをとどめ火の恋し 檜紀代
岩かこむ枯生に聴けば洋恋し 香西照雄 対話
巫女に恋したりままこのしりぬぐひ 加藤三七子
師恋しとひとりが呟き朴葉落つ 平井さち子 鷹日和
帰省子のみやこ恋しき麒麟草 森澄雄
年々歳々人の恋しく年忘 酒井土子
年の瀬に佗助ゑみて恋しけり 中勘助
廃屋の春は恋しき空気かな 柿本多映
恋しきはちちははいづれ切山椒 石原八束
恋しくて訪ねて来たる吊忍 岩田由美
恋しさに人は人呼ぶ芋の花 玉城一香「魚垣」
恋しさのつのりしところ鳰現るる 柴田佐知子
恋しさも暑さもつのれば口開けて 草田男
恋したや苺一粒口に入れ 鈴木真砂女
恋しても恋に窶るる猫は嫌 後藤比奈夫 めんない千鳥
恋しらぬ女の粽不形なり 鬼貫「大悟物狂」
恋しらぬ猫や鶉を取らんとす 猫の恋 正岡子規
手に触るる木賊に秋の人恋し 田中冬二 冬霞
指染めて恋し恋しと初舞へる 屋舗信子
指貫をはづしにはかに火の恋し 吉田静子
捨てし世も時には恋し若かへで 永井荷風
放課後のオルガン鳴りて火の恋し 中村草田男
敗戦の前後の綺羅の米恋し 三橋敏雄
新刊書繰る手ひやつき火恋し 高澤良一 寒暑
旅十日家の恋しく火恋し 勝又一透
旅恋し掛けし衣に草虱 米沢吾亦紅
昔は恋し手毬をつき唄ふ 高木晴子 花 季
昔日は恋し手毬をつき唄ふ 高木晴子
春の夜や寝れば恋しき観世音 川端茅舎(1897-1941)
春宵や人の屋根さへみな恋し 原石鼎
春愁や日本恋しと書きし文 下村梅子
昼の鉾めぐりて恋し宵ばやし 清水忠彦
暮に出でゝ萩咲けるあたり人恋し 石井露月
曳舟や人の恋しき松七日 館岡沙緻
曼珠沙華抱くほどとれど母恋し 中村汀女(1900-88)
木の影も笹鳴も午後人恋し 石田波郷
木の葉髪梳りつゝ恋しけれ 星野立子
木枯や酒恋しくて巷へ出る 成瀬正とし 星月夜
松虫に恋しき人の書斎かな 高濱虚子
枯木星家遠く来て家恋し 佐野奈津子
枯蟷螂人間なべて火が恋し 竹村文一
梅咲て奈良の朝こそ恋しけれ 夏目漱石 明治二十九年
歓呼まばら暑きナイター恋しかり 安井信朗
母子草母となりても母恋し 宮尾寿子
母恋しければ落葉をかむり掃く 龍胆 長谷川かな女
母恋しければ落葉を被り掃く 長谷川かな女
母恋しはまなすの実の首飾り 山本祐三
母恋し冬あかつきの汽車ひゞき 渡辺白泉
母恋し壁にかこまれ風邪に寝て 菖蒲あや 路 地
母恋し日永きころのさしもぐさ 白雄
母恋し早苗に星のともる夜は 稲垣敏勝
母恋し灯ともし頃の里若葉 田中冬二 俳句拾遺
母恋し百万の木にかれられて 細谷源二 砂金帯
母恋し背筋乾いて汐虫たち 成田千空 地霊
母恋し花冷の句碑めぐりつつ 伊東宏晃
母恋し赤き小切れの鳥威し 秋元不死男
母恋し逝きし子恋し冬銀河 清水きよ子
母恋し鍛冶屋にあかき鉄仮面 寺山修司 花粉航海
母恋し首を伸して落し水 秋元不死男
水打つや生きる父より亡母恋し 寺田京子
汲み溜めて噴井の桶や火の恋し 石川桂郎 四温
浜っ子の澄生のガス燈火の恋し 高澤良一 燕音
海の香の恋しき日なり白地着て 梶原 宇良
消息の聞えて恋し梅若葉 中村汀女
淋しめば灯取虫より灯の恋し 脇収子
渡り来てまだ恋しらぬ大白鳥 相馬沙緻
温め酒みなふるさとを恋しがり 山本節子
湯気籠るパンの玻璃棚母恋し 香西照雄 対話
火が恋し窓に樹海の迫る夜は 大島民郎
火が恋し薪能見て来たる夜は 古屋秀雄
火の恋しとて戦争を始めけり 高澤良一 随笑
火の恋し人の秘密を聞きし夜は 八牧美喜子
火の恋し猫を探してをりにけり 前田静江
火の恋し知床怒濤つのれる夜 根岸善雄
火恋しや独り死なねばならぬとは 神尾久美子
火恋しわが靴音をわが聞けば 佐々木六戈
火恋し仏ひとゆれふたゆれす 松澤雅世
火恋し妻を邪険にしてをりぬ 吉田未灰
火恋し病みても父の酒欲りき 平賀扶人
火恋し雨の宿りも宇陀の奥 上田五千石
火恋し鰊御殿に波を聴き 愛澤豊嗣
火箸の頭まるくあたたか祖母恋し 大串章
灯ともして何か思へる花恋し 雑草 長谷川零餘子
炎天や一重瞼が恋しくて 錦織 鞠
焚火して焚火恋しき面持に 後藤夜半 底紅
無患子のぬばたまは火恋しかり 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
煤けても不動明王火恋し 高澤良一 宿好
照雄恋し讃岐の冬山ぽこりぽこり 奈良文夫
熱帯魚紺碧の海恋しからむ 福永鳴風
父の声知らねど恋し青葉木莵 田中英子
父恋し十月の空ある限り 鈴木万里子
父恋し夏さむざむと裘 川端茅舎
父恋し春の雪ちる有馬山 松瀬青々
父恋し氷の旗の浪千鳥 横澤放川
父恋し舳が砕く夏太陽 野澤節子 花 季
父母のしきりに恋し雉子の声 芭蕉
球体の地球恋しやな春の暮 斎藤愼爾 冬の智慧
生きて恋して流星の曳く微光年 原子公平
生者火の恋し死者には柿供ふ 村越化石
男憎しされども恋し柳散る 鈴木真砂女(1906-)
留主にするぞ恋して遊べ菴の蠅 一茶 ■文化十二年乙亥(五十三歳)
病みゐればなべて恋しき秋の暮 阿部みどり女
病み臥すや蟇の恋してゐるときを 大石悦子 聞香
白梅や子よりはげしき恋したき 田代キミ子
相ともに昔恋しきかるたかな 高濱年尾 年尾句集
相共に昔恋しきかるたかな 高浜年尾
着ぶくれて西国せつに恋しけれ 中尾寿美子
石焼芋母恋しくて買ひにけり 松永登志
砂村の能登恋しさよ蚊の日暮 松瀬青々
硝子屋の来てゐるつくし恋し哉 中尾寿美子
祖母恋し正月の海帆掛船 中村草田男
祗園恋しや一力の実むらさき 辻田克巳
福鍋や田舎に住めば瓦斯恋し 高浜虚子
秋の夜や病めば一途に人恋し 菖蒲あや
秋分の酒杯の微塵親し恋し 原子公平
秋草の多きにつれて人恋し 中村草田男
竜胆や恋しき人のそのままに 岡村 里人
竹の葉さやさや人恋しくて居る 尾崎放哉
竹立てよ都恋しき歌結び 林原耒井 蜩
筍や蕗好かれたる母恋し 野村喜舟 小石川
紅梅に薄紅梅に人恋し 中村芳子
紐雛や恋したさうな顔ばかり 正岡子規
紫蘇の実の鳴るや母居て母恋し 宮坂静生 雹
累代の母恋しやな昼寝覚 三橋敏雄 畳の上
綿虫のとぶ夕ぐれは人恋し 大里快子
繍線菊の咲けばほのかに兄恋し 黒田杏子 木の椅子
老いけらし昔恋しき飾羽子 富安風生
聴き写す古謡一曲火の恋し 丹羽啓子
職恋し春の疾風を纒き佇てば 小林康治 玄霜
能登恋し雪ふる音のあすなろう 沢木欣一 二上挽歌
舌焼いて母ぞ恋しき大根焚 岸田稚魚 筍流し
舟虫は桶ごと乾けり母恋し 寺山修司
花の春まだ見ぬかたの国恋し 麦水
花の闇稲妻たちし森恋し 阿部みどり女
若葉よなあゝら花恋し人恋し 若葉 正岡子規
草餅の柔かければ母恋し 川端茅舎
草餅や老いぬるほどに母恋し 米田双葉子
萱傷にしみる渓水父恋し 山内遊糸
葛飾の水の暮れたる火の恋し 名和未知
葦の葉摺れ日本恋しく歩み寄る 田川飛旅子 花文字
葱折つて人の恋しさわが淋しさ 阿部完市 無帽
蓑虫の妹恋しとは鳴かぬ也 正岡子規
蓬摘めば今に恋しき母のこと 藤松遊子
蕗を煮るこの齢にして母恋し 植松文子
蘆の刈跡母の恋しさ処置なしや 草田男
蜩の遠音に人の恋しかり 鹿野周治
蝉時雨ちちはは恋し死ぬるまで 中村昭子
蝦夷菊の花咲く頃は祖母恋し 良藤き代
血を採られゐて鯛焼の餡恋し 大木あまり 火球
許されぬ外が恋しく明日立春 阿部みどり女
貧乏の昔恋しや三ヶ日 高浜虚子
踏みはづす径恋しけれ水鶏鳴く 矢島渚男 船のやうに
身ほとりの片付きてより火の恋し 武田澄江
迎春花故郷恋しくありし日々 三木朱城
近くより遠くが恋し揚雲雀 鳴戸奈菜
途中から虻に恋しき方のある 清水径子
遠山にして人恋し薄霞 涼袋
遠雷や不意に他人の死が恋し 大西泰世 椿事
遣羽子や恋しり貌に打返し 野村喜舟 小石川
避寒宿三日もあれば家恋し 千本木早苗
都塵濃し緑恋しと鯉幟 竹下しづの女句文集 昭和十一年
酒恋しつばめ巣立ちし夜はさらに 増田河郎子
酪農の娘が恋しりて初日記 飯田蛇笏
野火恋し十国峠越ゆる夜を 加藤かけい
金箔のひらと現し世火の恋し 斎藤梅子
鉢叩惟然丈草恋しさよ 尾崎迷堂 孤輪
鑓もちや雛のかほも恋しらず 千代尼
長き夜やほうと鳴き去る鳥恋し 青峰集 島田青峰
門火焚く我も人の子母恋し 粟津福子
関の清水古里恋し生鰹 青雲 選集「板東太郎」
防人の妹恋し野に若菜摘む 久野行人
雉子鳴くや子よりも妻の恋しき日 大串章 百鳥
雛芥子は美しけれど妹恋し 雑草 長谷川零餘子
雨降れよと言うに日が照る伯(つま)恋し 金子兜太 詩經國風
雪つぶて樹に当り爆ず吾子恋し 田川飛旅子 花文字
雪ふると百済恋しき観世音 野見山朱鳥
雪吊りにひと撥入れて人恋し 能美澄江
雪女母にも見えて母恋し 高橋秋郊
雪積むや恋しくて猫背ひどくなりぬ 池田澄子
雪空にじむ火事の火の遠く恋しく 尾崎放哉
零余子飯つやつやと炊け母恋し 栗間耿史
雷(いなづま)も恋しき二百十日かな 水田正秀
霜夜てふ言葉のありて恋しけれ 細見綾子 花寂び
霧ふかし刈干切唄恋しき夜 古賀まり子 緑の野以後
青い夜雨に籠り都恋しい若者の創作 人間を彫る 大橋裸木
青梅にうはの空なる人恋し 立花北枝
風流の昔恋しき紙衣かな 夏目漱石 明治四十三年
風聴くと風のつまづき火恋し 河野多希女
飲馴れし井水の恋し夏の旅 幸田露伴
餅恋しあんこ力士の居りし世も 高澤良一 燕音
餅焼くや雪が恋しき額寄せ 林原耒井 蜩
馬券はずれ続ければ妻や子が恋しい 渚 龍之介
馬市に酔つて誰彼恋しさう 成田千空 地霊
髪洗ふや身の透くほどの恋しらず 武田玄女(渋柿)
魯迅忌や古希となりても母恋し 綱田酔雨
鯉の背に初蝶来れば父恋し 沢木欣一
鳥の恋峰より落つるこそ恋し 清水径子
鳰啼ける湖見てをれば火の恋し 椎橋清翠
黄鶲の胸毛恋しき枝移り 椎橋清翠
いつの世に恋せし人ぞ菖蒲刈 松岡青蘿
たなばたや恋せよとての生れあひ 季吟
まばたきて人を恋せる傀儡かな 加藤三七子
山が山を恋せし昔初霞 長谷川櫂 虚空
山が山恋せし神代初手斧 大庭紫逢(1947-)
山が山恋せし神代実紫 藤岡紫水
岩倉の狂女恋せよ子規 與謝蕪村
恋せしひと恋なきひととビール汲む 辻桃子 童子
恋せし君や君ずぶ濡れの水中花 折笠美秋 死出の衣は
恋せし日遠く露けき夜を覚めて 稲畑汀子 汀子第二句集
恋せむには疲れてゐたり夕蜩 草間時彦 櫻山
恋せよと夏うぐひすに囃されし 仙田洋子 雲は王冠
恋せよ乙女塗りたてボート待つている 石井和子(響焔)
恋に恋せし昔なつかし冷奴 天川悦子(自鳴鐘)
柚子の香の吾子の掌こぼる恋せしか 小林康治 玄霜
浜風露胸に飾りて恋せんか 小林康治 『虚實』
花衣たたむ恋せし日のごとく 中村初枝
若桃に恋せじものと思ひける 高浜虚子
面八句神恋せじ御祓川 井原西鶴
須勢理毘売恋せし色か冬紅葉 加藤三七子
●恋う ![]()
まへうしろ靄が火恋うて寄ると見ゆ 林原耒井 蜩
むらさきに佇てば白恋う菖蒲園 花谷和子
万愚節に恋うちあけしあはれさよ 安住敦
世を恋うて人を恐るる余寒かな 鬼城
人と灯を恋うて戻るや野に遊び 森澄雄
人恋うてからたちの実を隠し持つ 北村菜々子
人恋うて日がな海見る蓮如の忌 中村初枝
人恋うて湖の藻揺れの涼しさよ 河野南畦 湖の森
信濃の山の冬のとがりを目に恋うる 栗林一石路
僕を恋うひとがいて雪に喇叭が遠くふかるる 橋本夢道 無禮なる妻抄
優しすぎる忍冬のべに人恋うる 浦木やす子
兎唇に秋草噛んで恋うさぎ 鈴木栄子
初燕日田の古町恋うて来し 稲畑汀子
北窓を開き故郷を恋う話 浦川哲子
十二月火の神恋うて火の用心 中山純子 沙 羅以後
友を恋う水薙鳥の低き日は 塩野谷仁
夏山恋う陰毛に白まじりても 見学玄
夕明り恋うて高きへ枯野虫 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
夜は街の灯を恋うてありく日焼人 青峰集 島田青峰
女恋う自嘲悔恨春雨急 土師清二 水母集
妻を恋うしずかに夜雲旱りたり 石橋辰之助
子を恋うて人魚は泣けり月の雨 成瀬櫻桃子 素心
山鳩は山恋う胸をふくらます 三谷昭 獣身
市人恋うて街歩くなり絹袷 長谷川かな女 雨 月
恋うたのこゑともならず狐火は 斎藤梅子
恋うて来し冬の池見ゆかけらほど 林翔
恋うときは神の名をもつ星動き 大西泰世 椿事
恋う寒し鼻黒犬と生まれ来て 三谷昭 獣身
故国恋うて家毎に高しさるすべり 金箱戈止夫
日影恋うて歩けば犬に戯れられし 林原耒井 蜩
春鮑船乗り夫恋うかあさん海女 橋本夢道 『無類の妻』以後
死ぬほどに恋う人もなく近松忌 石井カレン
母恋うて帰り来る子や*みんみんぜみ 長谷川かな女 雨 月
水ぬるむ日を恋うて浮く色の鯉 豊長秋郊
泡盛に島の恋うた日焼翁 大東晶子
湖昏れて月を恋うるや残る鴨 磯 喜代子
灰皿に小さな焚火して人恋う 原子公平
狂ふほど人恋うてをり曼珠沙華 成瀬櫻桃子
生ままくの子を恋うまみも秋めきぬ 三谷昭 獣身
疎みいし母恋う夜明蓮の花 榎本愛子
石庭の日を恋う鳩や初凪げる 富田潮児
神田川流れ流れていまはもうカルチェラタンを恋うことも無き 道浦母都子
秋めくよ雲に人恋う匂ひあり 吉沢太志
秋草の地平の雲をつまよ恋う 三谷昭 獣身
緑蔭の恋うつくしと見て過ぎぬ 岸風三楼 往来
芋虫やすがめ程よきダリを恋う 上原勝子
藍玉の沸(た)つが如きか人恋うは 折笠美秋 君なら蝶に
蛾のまなこ赤光なれば海を恋う 金子兜太「少年」
蝿打ちしあとの静かさ夫恋う 早坂澄子
襞深き水煙を恋う春の下車 小泉八重子
野ぶだうの暗き青さよ人恋うる 石川文子
闇恋うて蟇の漂流始まれり 手塚美佐
霜焼のかゆきにつけて母恋うて 成瀬櫻桃子 素心
露の村恋うても友のすくなしや 飯田龍太 百戸の谿
*はまなすを噛めば酸かりし何を恋ふ 加藤楸邨
あづかりし子の母を恋ふちやん〜こ 副島いみ子
うなだれて花恋ふ花よ秋海棠 渡辺水巴
おもひあまり恋ふる名をうつ碪かな 鬼貫
かがやかに我が行く方も恋ふる子のある方もさせ黄金向日葵 与謝野鉄幹
かく小さきものの灯を恋ふ浮塵子かな 三宅清三郎
かなかなにマタギ皮足袋雪恋ふや 石川桂郎 高蘆
かなかなや昔の恋をまた恋ふる 倉田 紘文
かな〜や句碑を洗ひて父を恋ふ 柴原保佳
かまつかの燃えて母恋ふ父の日々 飯田弘子
ぎこちなき良寛の恋ふきのたう 永井一見
ここにして日蔭ただ恋ふ異邦人 稲垣きくの 黄 瀬
このたびも師を恋ふ野分の野面かな 岩田昌寿 地の塩
このをとこ入日にぬれてひとを恋ふ 富澤赤黄男
この娘恋ふとにあらねども炉辺たのし 木村蕪城 一位
しきりに恋ふけふ太宰忌の友誰彼 石川 桂郎
しぐれ恋ふ死を急ぐごと旅つづけ 林火
しんしんと雪割草を恋ふるかな 青柳志解樹
すでに恋ふたつありたる雪崩かな 鈴木しづ子
すみれ咲き一列に咲き本土恋ふ 原裕 葦牙
そのかみの東京恋ふる銀河かな 鈴木しづ子
たゆたへば岸辺恋ふかに流し雛 稲垣きくの 牡 丹
なくなりし吊橋を恋ふ帰省かな 吉水能子
ななかまど熟れて乱世の男恋ふ 仙田洋子 雲は王冠
にぶかりし蠅の触れやう友恋ふに 香西照雄 対話
はったいにむせつゝ人を恋ふるなり 羽野蕗村
ふるさとの野山日々恋ふ脚気かな 藤田桐泉
ふるさとを恋ふこともなく障子貼る 阿部みどり女 笹鳴
まゆだまに母恋ふ心生まれけり 片山知子
まんさくにみちのくを恋ふ師弟かな 森田峠 避暑散歩
みちのくに逃れ信濃恋ふ雪の果 福田蓼汀 秋風挽歌
もう落つる木の実地を恋ふ明日は旅へ 玉城一香
もがり笛真綿はほそき首を恋ふ 鳥居真里子
もの恋ふる身を落葉に染めんとす 林原耒井 蜩
ゆうがたは水音恋ふる雪ばんば 池田琴線女
ゆきやなぎ人をいとひつ人を恋ふ 篠田悌二郎
ゆく春や海恋ふものは海で死ね 鈴木真砂女(1906-)
ゆふぐれの鶴はをみなにて胸さむし胸さむければひと恋ふならむ 今野寿美
ゆるゆると水恋ふ色に藍の花 長谷川久々子
わが酔へるさまあさましも猫恋ふ夜 森川暁水 黴
コスモスのゆるるは人を恋ふるなり 井上けい子
シクラメン人を恋ふ夜の眉蒼し 鈴木真砂女
シクラメン何処に置いても人恋ふる 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
マラルメの靴音を恋ふ枕木よ 荻原久美子
一管の笛に父恋ふ黄門祭 富永浄子
七谷の花たばこ人恋ふる色 角川源義
三つ栗の三つ合へば毬恋ふと見ゆ 林原耒井 蜩
三月は我が生れ月父母を恋ふ 川口咲子
世を恋ふて人を恐るる余寒かな 村上鬼城(1865-1938)
九段の滝九段かぞへて人恋ふも 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
亡き師恋ふことも電波の日なりけり 館岡沙緻
亡母恋ふや夜風の中の鳥威 皆川白陀
人は人恋ひ秋の蛍は水を恋ふ 鈴木真砂女
人を恋ふごと雪道を踏み淋し 谷地海紅
人を恋ふゆゑの白息かと思ふ 石川仁木
人を恋ふ五月の青に溺れけり 豊田康子
人を恋ふ日にめぐり逢ひ日向ぼこ 後藤夜半 底紅
人を恋ふ榧の実なれば植ゑにけり 橋本鶏二
人を恋ふ牛の瞳と合ふお元日 保坂加津夫
人を恋ふ色見つけたり桜貝 関 雄峯
人を恋ふ鹿に見られて札納 大島民郎
人を恋ふ鹿の声ききまどろめり 保坂加津夫
人恋ふは蓑虫に日の当たるとき 高荒真樹
人恋ふや胸に灯せるバラは黄に 石橋未どり
人恋ふる刻を鰈の宙にあり 柿本多映
人恋ふる捨猫のゐて冬木立 坂本登美子
人恋ふる歌に雪積む林檎の木 原裕 青垣
住み捨てし家恋ふ夜々の天の川 村越化石
兄のこと書いて母恋ふ七日粥 古舘曹人
六月の木の暗に棲みひとを恋ふ 文挾夫佐恵「黄瀬」
冬山を恋ふ目*かんじき壁に吊り 小林康治 『虚實』
冬潮の巻く波白しいたく恋ふ 川崎展宏
冬砂丘母恋ふ一歩父恋ふ二歩 成瀬桜桃子 風色
冬稲妻髪の根にても人恋ふる 齋藤玄 『玄』
冬菊に母恋ふ一日暮れにけり 加藤 春子
凌霄花は日ざし恋ふ花うつむかず 森土秋
初凪や生簀の魚が海を恋ふ 大竹多可志
初扇転じたる目の花を恋ふ 菅原鬨也
初旅に恋ふ山のあり湖のあり 山田弘子 螢川
初雪の雌阿寒岳は噴きて恋ふ 野見山ひふみ
初雷や一人さめゐて仏恋ふ 阿部みどり女
前掛のははの膝恋ふ梅若忌 津幡龍峰
北を恋ふ鶴唳に雪俄かなり 徳留末雄
十六夜やこけし人恋ふ瞳をもてり 近藤北郷
千条の日矢の海恋ふ宝船 河本沙美子
卓に白墨立て教へ子と夏嶺恋ふ 友岡子郷 遠方
単帯きりきり巻いて人を恋ふ 川口重美
古書さらし我が生ひ立ちの明治恋ふ 立木大泉
古簾吊りて昔の風を恋ふ 北垣宵一
吉野恋ふ佛に散れり寒ざくら 青木重行
和田金の肉しきり恋ふ雪二日 石川桂郎 高蘆
咲き満つる花へ手を入れ乳房恋ふ 川口重美
国境に立てば故郷恋ふ冬茜 加藤一水
国訛まねて母恋ふ茂吉の忌 新倉和子
国讃めのやがて人恋ふ手毬唄 奥坂まや
塔なす緑樹母恋ふこの場がまる見えぞ 磯貝碧蹄館 握手
壺の花温室恋ふと見ゆ夜半の冬 林原耒井 蜩
夏日恋ふ人の心を知るも旅 高木晴子 花 季
夏深く我れは火星を恋ふをんな 三橋鷹女
夏潮の沖恋ふ句碑をなつかしむ 高木晴子 花 季
夏潮や遠き一鵜を恋ふ目して 小林康治 『華髪』
夕べ紫蘇に長跼みして母を恋ふ 村越化石 山國抄
夜の湯槽に裾野を恋ふる霧時雨 宮武寒々 朱卓
夜の雨と聞きさだめつつ花を恋ふ 永井龍男
夢に来し祖母恋ふ八十八夜かな 馬場移公子
天牛や人恋ふる日は雨が降る 横尾孝子(白球)
太陽を恋ふわたくしも夏帽も 山田弘子 螢川
夫も母を恋ふらし黴を拭ひゐる 岩瀬 典子
夫恋ふや紫苑の空の夕焼けて 川崎展宏
夫恋ふる詞のありし謡初 荒川優子
妻とゐて別のこゝろが紅葉恋ふ 立花一孔
妻を恋ふしづかに夜雲旱りたり 石橋辰之助
妻恋ふも旅恋ふも薄霞かな 小林康治 玄霜
嫁菜摘む昔のまゝの畦を恋ふ 甲斐田久子
子を恋ふや荒東風に押まくられて 安東次男 裏山
家を恋ふ鼻梁となりて暖房車 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
寒三日月うすうすまろし父を恋ふ 堀口星眠 営巣期
寒椿人恋ふて咲く館跡 篠田恵衣子
寒紅や過ぎし世を恋ふ古簪 高橋淡路女 梶の葉
寝姿の夫恋ふ鹿か後肢抱き 橋本多佳子
射干に母となりても母を恋ふ 北原みち子
少女恋ふ碧きものみな月の下 磯貝碧蹄館 握手
屠蘇うけてゐてもそゞろに旅を恋ふ 宇田零雨
山にゐて山恋ふ美男かづらかな 三田きえ子
山の宿瓜坊の鼻人恋ふる 二田紀子
山の蕗煮て遊学の子を恋ふる 佐野美智
山下りてすぐ山を恋ふ十三夜 福田蓼汀 秋風挽歌
山中に人恋ふごとく火を恋へり 檜紀代
山寮の煙突恋ふるむささびか 堀口星眠 営巣期
山恋ふ日母の墓石の灼けゐるか 石橋辰之助 山暦
山降りてすぐ山を恋ふ十三夜 福田蓼汀
川水を恋ふとはあはれ螢烏賊 高野素十
師の軒を恋ふ徳利蜂来たらずや 石川桂郎 四温
師恋ふるはあやまちや蜥蜴息つめて 平井さち子 完流
帰り花ありしことにも吉野恋ふ 石井とし夫
平戸恋ふ文を更紗に鳥雲に 野見山ひふみ
幼き日の母の唾恋ふ蟆子の跡 池上樵人(萬緑)
彦星を恋ふに憚りなかりけり 渡辺恭子
後の世も山を恋ふらむ葛の花 坂本坂水
恋ふたつ レモンはうまく切れません 松本恭子 檸檬の街で
恋ふといふしづけき思念、枕べに夜もすがらなるこほろぎのこゑ 成瀬有
恋ふるひと皆遥かなり桑苺 安達哲路(蘭)
恋ふるものなき世酸模の紅を見て 堀口星眠 営巣期
恋ふるものに袂のまろみ・春の雁 櫛原希伊子
恋ふるゆゑ紫の丈を妻の墓 森澄雄
恋ふる夜は瞳のごとく月ぬれて 成瀬正とし 星月夜
恋ふ寒し身は雪嶺の天に浮き 西東三鬼
恋ふ心悔ゆる心や置炬燵 上村占魚 鮎
恋ふ猫も妻を叱りし夜もわびし 森川暁水 黴
恋ふ雉の畑駆けて鳴き飛びて鳴き 森山英子
恋猫の恋ふ声何もはばからず 原絹江
惜春の酒一二杯虚子を恋ふ 成瀬正とし 星月夜
我恋ふる月毛のきみや競馬 素丸「素丸発句集」
手毬唄日暮は亡き父恋ふ唄に 加藤知世子
抱かれてもかのひとを恋ふ夜の菊 谷口桂子
敗戦忌海恋ふ貝を身につけて 山本つぼみ
斑の鹿に指かませゐて女体恋ふ 川口重美
新松子父を恋ふ日としたりけり 石田波郷
日ざし恋ふ擬宝珠の丈や大樹海 大津希水
日を恋ふてゐて日を厭ひ寒牡丹 加古 宗也
日を恋ふて已に星ある霞かな 原 石鼎
日を恋ふるこれからか茶の花を挿し 細見綾子
日展をふたたび訪ひて恋ふ絵あり 河野紀代乃
日曜の春昼なれば父恋ふる 齋藤玄 飛雪
日短か牛舎の牛は人を恋ふ 福田蓼汀 山火
明王の忿怒を前に火を恋ふる 鈴木鷹夫 千年
昔恋ふこと許るされよ梅椿 高木晴子
春の雲見て佇つなにを恋ふならむ 成瀬桜桃子 風色
春の駒柵にすり寄り人を恋ふ 熊倉 猷
春愁に似て旅を恋ふ心かな 稲畑汀子
春暁のもつとも遠き音を恋ふ 能村登四郎
春暖炉恋ふは人待つこころとも 加藤佳鶴子
春泥の靴脱ぐひまもほとけ恋ふ 伊丹三樹彦
春窮や山越えて師を恋ふるなり きだただす
時雨るるや手あげて埴輪夫を恋ふ 野見山朱鳥
更衣人恋ふ心あてもなく 竹田小時
月明の卯波は女恋ふ如し 保坂嶺明
朝顔の実取り袋に人恋ふ句 北川かをり
木洩れ日を恋ふごと熟れり冬苺 青木重行
木苺の花白ければ妻を恋ふ 河野南畦
杖先や光の中のすみれ恋ふ 村越化石
杜鵑草人恋ふ色に咲きいでし 轡田幸子
杞陽恋ふことのしきりに雪山河 伊田和風
来し友を放さず酌めり猫恋ふ夜 森川暁水 黴
松葉蟹海恋ふ色に届きけり 田中美彦
桔梗遠目会へざりし石野兌恋ふ 岩田昌寿 地の塩
桜漬人恋ふいろにひらきけり 塚本久子
梅雨蝶の谷倉に寄らず日を恋ふる 高木晴子 花 季
梵妻を恋ふ乞食ありからすうり 飯田蛇笏
椿手に本土恋ふ子らわれを追ふ 原裕 葦牙
檻の鷲アンデスの山恋ふる目に 千才治子
櫨紅葉人嫌ふ日も恋ふる日も 田中ひろし
母のまへ夏山恋ふるつぶやきを 石橋辰之助 山暦
母の日や母恋ふことに終りなし 山崎泰世(苑)
母の辺にゐて夫恋ふや遠蛙 宍戸富美子
母の顔春蘭(ほくり)に重ね家郷恋ふ 原田孵子
母を恋ふ故人の句あり銀杏散る 岸風三楼 往来
母恋ふや一日春雪動乱す 小林康治 玄霜
母恋ふや手にあたたまる新胡桃 黒木 野雨
母恋ふや箸の穴あるふかし藷 湯下量園
母恋ふる茂吉うたいし翁草 時田貞子
母恋ふを誰に憚る夜のちちろ 飛島蘭
母恋ふ夜黄菊しびるるほど濃ゆし 小檜山繁子
母恩恋ふ訃の一枝に冬日集め 岩田昌寿 地の塩
水槽のをこぜが恋ふる土用波 和田祥子
水面よりたまゆら跳ねて陸封魚海の匂ひを恋ふる日あらむ 寺井淳
浅草のべったら市の夜店恋ふ 内田 愛子
海の夫を女恋ふなり走馬燈 羽部洞然
海を恋ふ夜の帳簿に夏柑のせ 桜井博道 海上
海を恋ふ貝風鈴の鳴りやまず 高橋悦男
海人を恋ふ人魚伝説磯竃 稲岡達子
海底の貝が貝恋ふ稲光り 白田喜代子
潮香恋ふ良夜は魚にもどりけり 玉城一香
灌火屋守老いていよいよ鹿火を恋ふ 近藤一鴻
火を恋ふはひと恋ふことか霧積み来 文挟夫佐恵 雨 月
火を恋ふは焔恋ふなり落葉焚き 橋本多佳子
火を恋ふや独逸腸詰薄く切り 宮下恵美子
火を恋ふや隠岐紺青の潮鳴りに 永井由紀子
火を恋ふるともがら集め石鼎忌 原 和子
灯の色も人恋ふ色や地蔵盆 藤原文子
灯を恋ふるいとどと顔をあわせけり 伊藤無限子
炎天の空へ吾妻の女体恋ふ 中村草田男(1901-83)
炎天や別れてすぐに人恋ふる 稲田眸子
燕の喉赤し母恋ふことも倦む 寺山修司 未刊行初期作品
父を恋ふ心小春の日に似たる 高浜虚子
父を恋ふ虚子の一軸年忘れ 成瀬正とし 星月夜
父恋ふは何時も此の頃河鹿鳴く 辻口静夫
父恋ふや門灯とどく限り稲架 影島智子
父恋ふる我を包みて露時雨 高浜虚子
父恋ふる日が父の忌や桃啜る 折井眞琴
父母を恋ふ翼燈銀河に溺る夜は 齊藤美規
牡丹園父恋ふほどの日和にて 原裕 新治
獅子の笛夕づく山河恋ふるかに 小路紫峡
現場技師文学を恋ふ野菊濃し 遠藤梧逸
畦火守りゐし若き日の父を恋ふ 山田弘子 螢川
病みて恋ふ花野はいよゝ遥かなり 相馬遷子 山河
病ら葉よかくまで恋ふと知られけり 鈴木しづ子
痩身の冬日向恋ふことしきり 高木晴子 花 季
白亜紀を恋ふる貌して蜥蜴かな 徳田秀昭
白山は火を恋ふ寒さ夏はじめ 不破幸夫(燕巣)
白雄忌の人恋ふ雨となりにけり 島田洋子
白露や恋ふべく生きて空邃し 河野多希女 こころの鷹
百八燈すなはち人を恋ふ火かな いのうえかつこ
目刺焼き枯野に恋ふる海の色 藤原たかを
眼前の妻子を恋ふる天の川 高橋馬相 秋山越
着ぶくれてをりて母恋ふことばかり 塩川雄三
短日の犬忘られて人を恋ふ 吉屋信子
石庭にしきり人恋ふ秋の聲 石川桂郎
砂ずりの藤を見ずして奈良を恋ふ 青木重行
祖母を恋ふ匂ひ袋の古代裂 梅本悦子
秋の海秋の山恋ふひたぶるに 阿部みどり女 月下美人
秋夕焼胸に受けとめ母を恋ふ 加藤憲曠
秋渓し神馬も恋ふる五十鈴川(伊勢謹詠二句) 石井露月
秋近し七夕恋ふる小傾城 秋近し 正岡子規
窓枠に十指しっかと野火を恋ふ 川口重美
窯に寄り沈氏愛猫火を恋ふか 大島民郎
立葵海恋ふる日の風強し 小林貴子「北斗七星」
端居して明治大正昭和恋ふ 村上ちづの
竹植うや旅恋ふ心ひそめては 清水基吉 寒蕭々
糸尽きてなほ天上を恋ふる凧 鈴木貞雄
紫蘇濃ゆき一途に母を恋ふ日かな 石田波郷(1913-69)
紫陽花の毬より碧きうみを恋ふ 中尾白雨 中尾白雨句集
細雪遠干潟かけ人恋ふも 小林康治 玄霜
経師屋の恋ふは人妻紙風船 曽根富久恵
緑牡丹年年小さく故園恋ふ 黄川田美千穂
美穂女恋ふ卯月曇の三回忌 千原叡子
老海女の片肌脱ぎて海を恋ふ 竹中弘明
肌脱をはゞからざりし母を恋ふ 山本杜城
花びらの一つを恋ふる静電気 石田郷子
花薔薇ショパン恋ふるも旅の情 高木晴子 花 季
花追ふは人恋ふること吉野山 戸恒東人
花過ぎてゆふべ人恋ふ新茶かな 渡邊水巴
花鳥を恋ふや娘のきそはじめ 元夢
若狭なるお水送りの神事恋ふ 京極昭子
茂吉忌や最上川恋ふ母は亡き 石渡穂子
草いろ〜我恋ふ野菊しほらしや 角田竹冷
萩植ゑてふとしもひとを恋ふるかな 安住敦
落汐や月になほ恋ふ船の猫 飯田蛇笏 霊芝
落葉急堂守とても人を恋ふ 北見さとる
葉げいとう燃ゆるかぎりはひとを恋ふ 柴田白葉女
葛飾や氷沼の葦の日を恋ふる 角川源義 『口ダンの首』
蒸饅頭浪曲なれど母恋ふ声 中村草田男
蕾はや人恋ふ都忘れかな 倉田絋文
藍の花紅きがままに人を恋ふ 野沢 純
蘆花日和なるときいつも父を恋ふ 石井とし夫
蟇は蟇人は人恋ふ夜なりけり 小澤實「瞬間」
蟇鳴いて夫恋ふ夜をかさねつつ 丸山麻子
蟷螂の已れもみぢて人を恋ふ 松瀬青々
蠧魚の虫三年見ざれば恋ふ如く 石川桂郎 含羞
袷着て母より父を恋ふるかな 安住敦
裸木のはるかに雲を恋ふるかな 青柳志解樹
西方に峡ひらけて夕あかし吾が恋ふる人の国の入日か 土屋文明
見つつゐて都踊の昔恋ふ 奈良鹿郎
誓子恋ふ芦屋の街の初景色 塩川雄三
読初の出雲風土記に国を恋ふ 木村蕪城 寒泉
誰恋ふとなく庭にあり春夕焼 勝又一透
諸葛菜ひと恋ふいろに咲きいでぬ 石田あき子 見舞籠
走る走る修二会わが恋ふ御僧も 大石悦子
足冷えて不動明王の火焔恋ふ 福永耕二
軽鳧の子の親恋ふ水を叩きけり 成瀬櫻桃子 素心
辻堂の浜に父恋ふ松露かな 今泉貞鳳
遠き日の埋火を恋ふしきりなり 石川桂郎 高蘆
遠ざけし人恋ふ枇杷の咲きてより 鷲谷七菜子 黄 炎
遠のいてゆくもの恋ふる紅葉谿 松村多美
遠吠えや始祖オオカミを寒夜恋ふ 馬庭克己
遠野火や老いて子を恋ふ妻あはれ 伊澤秋家
酔ひて恋ふ老母の眉霞みけり 小林康治 玄霜
野生馬に山陰を恋ふ妻子あり 藤後左右
針供養都を恋ふる淡さかな 阿部みどり女
長月の今日のひと日の紅を恋ふ 池内友次郎
闊歩して去りし人恋ふ夜半の冬 木歩句集 富田木歩
防人の雲恋ふ歌や磯菜つむ 杉田久女
限りなう山を恋ふれば時雨かな 尾崎迷堂 孤輪
障子貼り終へたる白に母を恋ふ 三輪満子
雁渡し自ら捨てし教師恋ふ 茂里正治
雛あられ母恋ふ齢ならねども 九島登利
雛恋ふる親のこゝろや夜の鶴 松岡青蘿
雛罌粟の日を恋ひ海を恋ふ赤さ 鷹羽狩行
雪の果はるかに火噴く山を恋ふ 高田蝶衣
雪目して女恋ふまで肥えにけり 小林康治 玄霜
雪解けの五丁ばかりを恋ふるかな 岸田稚魚 『負け犬』
雲恋ふは鶴待つことや樓二月 松根東洋城
電気毛布恋ふ古里へ荷造りす 吉良蘇月
霧ごめの白山を恋ふ蕎麦湯かな 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
霧らふゆゑ緬羊とゐて母恋ふも 杉山岳陽 晩婚
露さむき甲板に恋ふ日本の燈 近藤一鴻
露草を面影にして恋ふるかな 高浜虚子
青芝に坐して紺碧の海を恋ふ 阿部みどり女
静すぎてものゝ声恋ふ宵の秋 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
風邪の熱混濁すれば妻し恋ふ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
飾られて天を恋ふなり武者絵凧 矢野 聖峰
首のべて啼く丹頂は雪恋ふか 古賀まり子 緑の野以後
馬車駆るも港の夜恋ふ曼珠沙華 宮武寒々 朱卓
鳥も人も母恋ふ桔梗咲きにけり 堀口星眠 営巣期
鶯や人遠ければ窓に恋ふ 飯田蛇笏 山廬集
鶺鴒の胸毛の黄なる見つつ恋ふる 成田千空 地霊
鹿火屋守老いていよいよ鹿火を恋ふ 近藤一鴻
麦秋の猫も人恋ふ産期かな 富田木歩
黒猫を恋ふ白猫に梅月夜 矢島渚男 船のやうに
黴に臥す人妻を見て恋ふ夜なり 萩原麦草 麦嵐
●純愛 ![]()
冷房とまる高階純愛の男女残し 金子兜太「金子兜太句集」
椿の木みえてゴリラの純愛かな 松本恭子 世紀末の竟宴 テーマによる競詠集
秘してこそ永久の純愛鳥渡る 佐藤鬼房
純愛の友よ下宿にシャツを吊る 林桂 銅の時代
純愛や十字十字の冬木立 対馬康子 愛国
薄水に書いた名を消し書く純愛 高澤晶子 純愛
●恋人 ![]()
その日より恋人の消え鎌鼬 窪田英治
わが恋人涼しチョークの粉がこぼれ 友岡子郷 遠方
わが指と恋人の指ゆきかへるかたつむり見るだけの夕暮 荻原裕幸
シャガールの恋人たちの冬木立 石原八束 『仮幻』
シャガールの月恋人に夜が白む 橋本榮治 麦生
デモすすむ恋人たちは落葉に佇ち 宮坂静生 雹
フリージア子に恋人のできたるらし 宇咲冬男
ポプラ並木枯葉と踊る恋人たち 千葉ちひろ
一掬の水をダリアに恋人に 小林貴子
三歳に恋人がゐて水遊び 都築智子
働いてきて恋人ら薔薇公園 和知喜八 同齢
兄以上恋人未満掻氷 黛まどか(1965-)
初電車子の恋人と乗り合はす 安住敦
千万年後の恋人ヘダリヤ剪る 三橋鷹女「白骨」
古き古き恋人に逢ふ春の夢 草村素子
右側に恋人の居る冬景色 ともたけりつ子
妻は恋人一人静の深山口 原子公平
恋人が去り部屋中に恋そだつ 高柳重信
恋人たちにレモン月夜の飛行船 草薙朱砂郎
恋人たちに海猫はふと沖の絵の具 吉田透思朗
恋人たち言葉ヨットのように過ぎ 前川弘明
恋人となるにふたとせ薄紅葉 満田春日
恋人とひとり間ををく踊りかな 清水 浩
恋人と別の水汲む夕ぐれは 久保純夫 熊野集
恋人と書院に語る雪解かな 泉鏡花
恋人と骨のかけらを取り換える 中田美子
恋人に近づく冬の象の鼻 皆吉司(1962-)
恋人のああ何の瞳ぞ薔薇映し 高柳重信
恋人のいつか後に立て居る 山店 芭蕉庵小文庫
恋人のからだの丘も春の暮 正岡 豊
恋人のスミレは只に菫色 攝津幸彦 未刊句集
恋人の乳守出来ぬ御田うヘ 井原西鶴
恋人の大きな臍を守りけり 岡田秀則
恋人の肌はつかしきひるね哉 昼寝 正岡子規
恋人の肌覗きけり二日灸 川合仙子
恋人の舌重き満水の禁猟区 安西篤
恋人の踊りの帯を直しやる 伊藤通明
恋人の顔して待てりさくらどき 柴田奈美
恋人はおいてけぼりや鱒を釣る 如月真菜
恋人はめんどうな人さくらんぼ 畑耕一 蜘蛛うごく
恋人はアネモネに似て喘ぐかな 三池 泉
恋人は見ざりしといふ流れ星 遠藤若狭男
恋人は飛魚のような靴で来る 瀬間 陽子
恋人へ小さな滝を与えたり 鳴戸奈菜
恋人も仮眠の蝶も指で突く 新庄佳以
恋人も枯木も抱いて揺さぶりぬ 対馬康子 純情
恋人も海市も待つは幸ならむ 橋本榮治 越在
恋人や額にあおい木がしげり 津沢マサ子 楕円の昼
恋人よ有る時をこそ木賊立つ 安井浩司 氾人
恋人よ椿の落ちる湖がある 柿本多映
恋人よ雪が時間が降りつもる 鳴戸奈菜
恋人よ電信柱はしづかに晴れ 桑原三郎
恋人よ鴨の頭をさげてゆく 宇多喜代子
恋人よ麦分け行けば岸がある 安井浩司(1936-)
恋人をかくした芒かれにけり 一茶
恋人を待たせて拾ふ木の実かな 黛まどか(1965-)
恋人を待つマフラーをゆるく巻き 柴原保佳
恋人奪いの旅だ 菜の花 菜の花 海 坪内稔典
成人の日は恋人の恋人と 如月真菜
折りたたむ音楽 隙間に恋人たち 伊丹公子 ドリアンの棘
抹香くぢらの裏から帰る恋人よ 攝津幸彦 鹿々集
春の雪吾子の恋人餉に加へ 田中純子
春水の影も手を組む恋人ら 林翔
月はまだレモンのかたち恋人たち 川崎展宏 冬
椿いくつも嗅ぐ恋人のなき旅は 宮坂静生 雹
水の流れる方へ道凍て恋人よ 鈴木六林男 桜島
泪羅の渕に夕べ逢いたる恋人よ 寺井谷子
火を噴くは檜の墓標恋人よ 鈴木六林男 悪霊
熟すまま来世紀まで寝かしおく葡萄酒千本そして恋人 松平盟子
犬掻きよ十年後の恋人よ 土肥幸弘「梟夢」
猫の恋人目なんぞにおかまいなく 高澤良一 素抱
白芙蓉今日一日は恋人で 宮田朗風
秋風や背に恋人のうすあぶら 江里昭彦 ロマンチック・ラブ・イデオ口ギー
空中に虻とどまれり恋人来 小澤實(1956-)
立冬や体温高き恋人よ 三池 泉
綿虫を見ずや森ゆく恋人ら 堀口星眠 営巣期
老いてゆく恋人よ葡萄棚の下 今井杏太郎
落日はげしくて黙る 廃礦村の恋人 伊丹公子 メキシコ貝
薄紅葉恋人ならば烏帽子で来 三橋鷹女(1899-1972)
虎の尾を一本持つて恋人来 小林貴子「北斗七星」
透明な温泉壺に沈ませている裸形の恋人も 橋本夢道 無禮なる妻抄
雑喉ねせし其の恋人のよぶ声か 蝶夢
鳰見てゐるは母子その他は恋人達 鈴木栄子
鴨濡れて恋人の傘細かりし 瀬間陽子
麦秋の耳に陰もち恋人よ 久保純夫 聖樹
●失恋 ![]()
失恋に三光鳥がホイと言ふ 小林貴子「北斗七星」
失恋に髪切る古さ牡丹の芽 田口風子
失恋の夜の真白きハンカチーフ 成瀬正とし 星月夜
失恋の後無花果を買い戻る 寺井谷子
失恋や片頬赤き青林檎 中尾寿美子(氷海)
失恋をさらりと言ひてスキー駆る 野坂 民子
失恋同士焼鳥もう一本 菅野奈都子
●不倫 ![]()
漱石忌歌仙の中の恋不倫 阿片瓢郎
肩並めて海見る不倫つづきをり 江上壱弥
引出しのボタンが知つている不倫 船山邦子
望遠鏡不倫の屋根に狙はるる 一田玄之介
秋茄子の漬け色不倫めけるかな 岸田稚魚
不倫もつれつつ輪廻の呼び鈴を押す 江里昭彦 ラディカル・マザー・コンプレックス
秋茄子の漬け色不倫めけるかな 岸田稚魚 筍流し
喪の家も不倫の家も若布干す 坪内稔典
まくなぎに入れたる手この不倫の手 川口重美
寒鯉仮死の如く潜むも不倫めき 楠本憲吉
●惚れ ![]()
きき惚れる蝉のだみ声石垣島 中山純子 沙 羅以後
くくくくと蛙に蛙惚れて鳴く 辻田克巳
くろぐろと闇たぐりこみそそり立つ大樟おとこならば惚れむに 久々湊盈子
ほんの少し自惚鏡小鳥来る 中村明子
もの涼し春日の巫の眼に惚れた 涼し 正岡子規
サフランの花の馬鹿馬鹿しさに惚れ 高澤良一 素抱
八十八夜水音を聞き惚れもして 中山純子 沙 羅以後
冬木立己惚れ屋さん膝かかえ しらいししずみ
十六夜や間違ひ電話の声に惚れ 内田美紗 誕生日
団体テレホンカードに同感惚れていたんだ 宮崎二健
夢殿を惚と見て過ぐ無月かな 関戸靖子
天の戸の明く手毬唄聞き惚るる 依田明倫
嫁が君夜の赤目に惚れぼれす 安西 篤
小説の女に惚れて春炬燵 原 赤松子
岡惚で終りし恋や玉子酒 日野草城
己惚れ鏡といふがありけり花菖蒲 井桁白陶
帽子屋の自惚れ鏡木の葉髪 大野伊都子
惚れつぽく飽きつぽく雛あられ噛む 仙田洋子 雲は王冠
惚れること惚れられること今年竹 秋元不死男
惚れ役の恋にしほれし菊人形 山上樹実雄
惚れ惚れと若人の句読む息涼し 殿村莵絲子 牡 丹
春の夜や岡惚帳をふところに 竹田小時
春暁を粧いし婦長に少し惚れる 赤城さかえ
朝貌や惚れた女も二三日 夏目漱石 明治四十年
植木屋の松に惚れつつ手入かな 京極杞陽
殿さまに高尾は惚るる案山子かな 龍岡晋
無愛想な大雪渓に惚れにけり 川端豊子
猫の足に惚るる如きは風邪心地 永田耕衣 驢鳴集
紅葉狩地蔵峠の名に惚るる 藤田湘子
線路際の椿工夫が惚れちよるばい 磯貝碧蹄館 握手
胡弓弾く男に惚るる風の盆 結城美津女
自惚も少しあらねば初郭公 須田奈津子
茫と山惚と沼あり藤の花 小川昇一
薄暗き野寺に惚れる涅槃かな 秋元不死男
行水の女に惚れる鴉かな 高浜虚子
長寿眉自惚れてゐる初鏡 小嶋昭風
雛祭姉の娘に惚れて見ん 雛祭 正岡子規
鶯に聞き惚れて世に遅れだす 篠崎圭介
●ほの字
●愛情 ![]()
グラジオラス妻は愛情鮮烈に 日野草城
同情を愛情として毛糸編む 岩崎照子
妻の愛情の如苔寺の苔やわらかにビロードに 橋本夢道 無礼なる妻
妻ヘシュプレヒコール降る愛情の冬菜畑 山岡敬典
愛情のことば短かし冬帽子 柴田白葉女 遠い橋
愛情のほのぼのとある銀懐炉 飯田蛇笏 雪峡
愛情のレモンをしぼる砂糖水 瀧春一「燭」
愛情は泉のごとし毛絲編む 山口波津女 良人
愛情は秘むべし柳の裏葉銀 香西照雄 対話
愛情もアイスクリームも喉通る 横須賀洋子
愛情を形にしたく毛糸編む 西塔松月
断つべきの愛情は断つ利鎌(とがま)月 竹下しづの女句文集 昭和二十五年
父の忌母の忌愛情一つづゝ杳し 細谷源二 砂金帯
空蝉や愛情の機微埋めたくなる 河野多希女 彫刻の森
籠の苺愛情せめぎあふごとく 橋本鶏二
馬酔木咲く降りつもる死愛情に 松本恭子 二つのレモン 以後
●恋愛 ![]()
岩山に恋愛の胸夏の終り 鈴木六林男 後座
恋愛と全く無縁落し文 阿波野青畝(1899-1992)
恋愛に暑き夕ぐれきておりし 鈴木六林男 国境
恋愛のふとをかしきは赤茄子 増田まさみ
恋愛の漠たる探り炭火掻く 石塚友二 方寸虚実
恋愛詩ふところ手して口ずさむ 仙田洋子 橋のあなたに
秋、恋愛のあいだとてすこしはなれてあるく 大越吾亦紅
芋煮ゆる恋愛せよと大声で 辻桃子
虹二重神も恋愛したまへり 津田清子「礼拝」
飛火野に恋愛の木の残りけり 久保純夫 熊野集 以後
●求愛 ![]()
*むつ五郎の求愛ジャンプ夕映ゆる 山口清子
ほたるぶくろ求愛の語を吐き尽し 河野多希女 月沙漠
崖からの求愛孔雀の羽で受ける 八木三日女 落葉期
求愛の孔雀絢爛たる盛夏 岡田久慧
求愛の羽の凍てをる孔雀かな 大木あまり 雲の塔
白鳥の白を限りに求愛す 照井 翠
鶴の求愛ダンス 無重力ってこんな 松本恭子 檸檬の街で
●恋情 ![]()
その因は恋情にあり春の風邪 池田澄子 たましいの話
冬ざれの断つは恋情のみならず 咲間 匡
恋情が河馬になるころ桜散る 坪内稔典
恋情も劣情もいてさくらんぼ 坪内稔典
恋情禁ず真面目に莢隠元茹でよ 池田澄子 たましいの話
●恋慕 ![]()
ふらここのすれ違ふとき恋慕して 赤尾恵以
喰ひ臥して暮春や額に恋慕角 三橋鷹女
妻に似て子も紅梅に黒い眼差し恋慕型 橋本夢道 無禮なる妻抄
白菜をまふたつに割る恋慕なり 永島靖子
膝かけの下にかくすは恋慕の手 長谷川かな女 花 季
花冷えのイカリソースに恋慕せよ 坪内稔典
●ラブ ![]()
ラブと彫る青き*かりんや二十歳 対馬康子 愛国
●初恋 ![]()
エリカには初恋草を近寄せず 後藤比奈夫 めんない千鳥
コスモスや初恋の日の風と会ふ 中村真由美
内気なる子の初恋や思草 仲澤輝子
出代やまだ初恋のきのふけふ 出代 正岡子規
切手正確に貼つて初恋のあつたことも 橋本あさみどり
初声は初恋よりもささやきぬ 富安風生
初恋のあとの永生き春満月 池田澄子
初恋のひとの麦笛聞きし頃 石川文子
初恋のホップステツプ四月馬鹿 神戸京子
初恋のモールス信号雲の峰 仙田洋子 雲は王冠
初恋の乱れ易さよ青芒 青薄 正岡子規
初恋の人にされたり河豚の鍋 内田美紗 浦島草
初恋の人住む街や初夏の雨 大橋靖子
初恋の君の名呼べば天道虫 森 今日子
初恋の心を猫に尋ねばや 猫の恋 正岡子規
初恋の来た道な・い・しよ花三分 有田裕子
初恋の背合せけり涼み台 納涼 正岡子規
初恋の野菊のごとき腰なりき 林桂 ことのはひらひら 抄
初恋は色水を飲む役どころ 仁平勝 東京物語
初恋は貘の餌となり明け易し 佃 藤尾
初恋は遠し唐黍の葉が赤し 永井龍男
初恋もカンブリア紀も遠くなる 林桂(1953-)
初恋や/常陰の/雪の/斎笹姫 林桂 銀の蝉
初恋や燈籠に寄する顔と顔 蕪村
初恋を秘めて女の出代りぬ 岡本綺堂
寒紅をさして初恋草とゐる 後藤比奈夫 めんない千鳥
手袋にキップの硬さ初恋です 藤本とみ子
明け易き夜を初恋のもどかしき 明け易し 正岡子規
肝油噛みし頃が初恋黄水仙 守屋明俊
芍薬や初恋前髪の詩掲げ 及川貞 夕焼
茫々と初恋遠し春を待つ 稲畑汀子 汀子第二句集
藤村の初恋を聞く春炉かな 林 周作
裏は初恋/待兼の小糠雨 仁平勝 東京物語
青林檎初恋日記ひらきけり 仙田洋子 雲は王冠
鳥たちの初恋女人高野かな 能村登四郎
麦鶉子の初恋は妻が知る 小島健 木の実
●恋路 ![]()
のら猫の罠にまたるゝ恋路かな 松岡青蘿
わが屋根を恋路に猫のかよふなり 白岩三郎
傀儡の宙を駆けゆく恋路かな 橋本鶏二
初凪の伊良湖恋路という真砂 山田亀城
大年の闇と恋路の闇ちがふ 成瀬櫻桃子 素心
御神渡り神の恋路と聞く哀れ 轡田幸子
御神渡神の恋路に幣を振る 川瀬清子
恋路しかすがに末黒の薄かな 岩城久治
我事とうらやむ猫の恋路哉 猫の恋 正岡子規
樋つたふ恋路のすずめ雛の昼 皆吉爽雨 泉声
河童の恋路に月の薔薇ちれる 飯田蛇笏 霊芝
深吉野の花へ恋路のごとくあり 山田弘子 懐
父母のたどりし恋路梅椿 成瀬正とし 星月夜
碁に負けて忍ぶ恋路や春の雨 春の雨 正岡子規
竜舌蘭猫の恋路の月明り 小原菁々子
菫踏で石垣のぼる恋路かな 高井几董
逢ひに来よ蜷の恋路の照りをれば 大石悦子 聞香
●恋心 ![]()
すひかづらすすればほのと恋心 赤沼淑子(たかんな)
ダイビングひといきに断つ恋心 垣迫俊子
初雪も降りぬに猫の恋心 中村史邦
天水に息つぐ猫の恋心 水田正秀
山焼の火の連れ来たる恋心 藤田弥生
恋心なく春の蛾の舞ひゆけり 神山果泉
恋心はるかになりて野菊かな 浅香ヒサ子
恋心四十にして穂芒 尾崎放哉
恋心姫もぢ〜す初芝居 森田峠
恋心白き芙蓉とうつろへり 青峰集 島田青峰
打ち明けてしまへば涼し恋心 須藤常央
歌留多とる忘れたはずの恋心 片山暁子
白ばらやピアニッシモの恋心 千田知都子
賀状書く時いささかの恋心 池田啓三
雪礫かはされ不意に恋心 小口洋子
ともに居て梨剥けば足る恋ごころ 日野草城
初便りとは淡々の恋ごころ 山口青邨
師走某日壺の酒欲る恋ごころ 萩原麦草 麦嵐
恋ごころ混ぜて林檎をすりおろす 仙田洋子 雲は王冠
揚花火その名隅田の恋ごころ 高澤良一 素抱
枯蓮揺れて遠きに恋ごころ 仙田洋子 橋のあなたに
洗ひ髪梳くほの昏れの恋ごころ 中村多喜子
福引きのひとつひとつの恋ごころ 犬塚楚江
螢火の消えて走れる恋ごころ 和知喜八 同齢
青首大根畑にそろひ恋ごころ 柿本多映
●懸想 ![]()
むさしのの憶良に懸想あかとんぼ 高岡すみ子
家鼠懸想ばみたる雛かな 小澤實
文楽の頭に懸想水草生ふ 小澤實(1956-)
星月夜神に懸想をしてゐたり 仙田洋子 雲は王冠以後
燕や懸想して見る牛車 長谷川かな女 雨 月
萩・露にまみれてをかし懸想(けさう)びと 筑紫磐井 野干
落し文大病懸想相似たり 斉藤夏風
落し文懸想は白をつくしけり 河野多希女
酒酌みて月の兎に懸想せる 若林小文
●片思い ![]()
うなゐ児の草笛ならす片思ひ 筑紫磐井 野干
君の瞳のおくの銀河に片思い 鎌倉佐弓 天窓から
水貝やいづこに捨てし片思ひ 渡辺純
片思いさせて逃水逃げにけり 藤原りくを
片思ひならば簡単オキザリス 津高里永子
絵手紙のでんでん虫に片思い 佐々木洋子
葵懸け神仕へとは片思ひ 高木晶子(京鹿子)
名月のこんなぬくみの片想ひ 平松彌榮子
百里余も地を擦るわれの片想い 江里昭彦 ロマンチック・ラブ・イデオ口ギー
片想い今はピンクの椿が好き 大高翔
●悲恋 ![]()
下闇のふかくつつみし悲恋の碑 渋沢渋亭
むかし清瀬にあまたの悲恋花水木 七田谷まりうす
伝説は悲恋もて閉づとりかぶと 松倉ゆずる
昭和とは雪降る夜の悲恋に似て 七田谷まりうす
●岡惚れ ![]()
春の夜や岡惚帳をふところに 竹田小時
岡惚で終りし恋や玉子酒 日野草城
●相思 ![]()
その小鳥相思鳥とて濃き眸 後藤夜半 底紅
マヌカンとすでに相思の燕去る 中嶋秀子
一人静静の里の相思仏 佐崎和子
環礁の島に相思樹若芽ふく 矢島渚男 延年
相思ふ枕の下や宝船 妻木 松瀬青々
羅や相思てふ字を金で剌す 松瀬青々
駅へ送る相思旅ゆく露の夜を 石塚友二 方寸虚実
黄八丈織る相思樹の花ぐもり 羽田岳水
●相愛 ![]()
老松相愛するを見つ虚空没 永田耕衣 自人
●恋い焦れ ![]()
恋い焦がれ来し北岳のお花畑 山乃好子
祭あはれ奇術をとめを恋ひ焦れ 山口誓子「黄旗」
●胸を焦がす ![]()
胸焦がすほどの詩欲し実むらさき 小澤克己
白酒の酔といへども胸焦す 後藤比奈夫 めんない千鳥
胸焦がす柄長や坂井出羽の墓 堀口星眠
わが焚火胸焦がしきと記しおく 北登猛
●色事
●色恋 ![]()
つくし伸び過ぎて色恋沙汰もなし 飯田正盛
色恋が雪見障子の向うがは 筑紫 磐井
色恋の所作して出雲神楽かな 津田昭子
色恋の話も上手十夜僧 堤 魄黎
色恋は嘘がつきもの七日爪 平谷破葉
●情事 ![]()
剃刀に蝿来て止まる情事かな 寺山修司(1935-83)
女らは中庭(パティオ)につどひ風に告ぐ鳥籠のなかの情事のことなど 栗木京子
女郎花宮人の情事旅にあり 楠目橙黄子 橙圃
情事がやわらか過ぎてひたすら海 長瀬甘吐
情事に似たりこもりて鯨煮ることよ 草間時彦
情事サンドは川端やなぎこの水を見よ 加藤郁乎 形而情学
情事話頭に兵塵想ふこの柳 河東碧梧桐
暗室より水の音する母の情事 寺山修司(1935-83)
海霧の陸橋抛物線の情事経て 八木三日女 落葉期
焚火すやふと情事の胸騒ぎ 石塚友二 光塵
葱坊主ひとの情事は見て見ぬふり 安住敦
蜂の巣の千の暗室母の情事 齋藤愼爾
遠い情事水面ひりひりと昏れる 森川木ノ芽
風鈴の音忍び込む情事の間 星野光二
●濡れ事 ![]()
濡れごとの中へ割りこみ老菊師 檜 紀代
●色道
●女色 ![]()
鶴ケ岡や元朝の女色らみな舞はむ 日夏耿之介 婆羅門俳諧
●男色 ![]()
濃あぢさゐ男色の粋尽しけり 高澤良一 さざなみやつこ
●エロチシズム ![]()
太陽はエロス枯野に島の頭 金子兜太
春星さんざめくエローラの神々へ 宇咲冬男
炎天の七里ケ浜のエロスたち 今泉貞鳳
盆踊り爆笑もののエロ音頭 高澤良一 素抱
秋雲に二の矢を持たぬエロスの像 横山白虹
駅暮雪エロ写真売にささやかる 有働亨 汐路
鬼灯や方寸になほエロスあり 田川飛旅子 『薄荷』
●恋情 ![]()
その因は恋情にあり春の風邪 池田澄子 たましいの話
冬ざれの断つは恋情のみならず 咲間 匡
恋情が河馬になるころ桜散る 坪内稔典
恋情も劣情もいてさくらんぼ 坪内稔典
恋情禁ず真面目に莢隠元茹でよ 池田澄子 たましいの話
●思慕 ![]()
シヨールしかとこの思慕育ててはならず 稲垣きくの
亡き人に思慕の杖曳き梅日和 高濱年尾 年尾句集
人に蹤き思慕としもなき蛍籠 岩坂満寿枝
冬濤の激つりズムに疼く思慕 稲垣きくの 黄 瀬
冷麦に思慕のごとくの一縷の朱 能村研三
吹雪ねむり夜の餅ねむり思慕の刻 寺田京子 日の鷹
夫への思慕をさえぎる塵あくた 鎌倉佐弓
復帰デモ祖国の春を思慕に踏む 玉城一香
思慕の火か病馬ぬくめる藁の火か 細谷源二
思慕仏となりたり風のねこじやらし 小島千架子
春日傘思慕の仏と逢ふ日かな 櫛原希伊子
樹を叩くとき満満と思慕つのる 大西泰世 世紀末の小町
流れ星岸辺の牛を思慕しつゝ 攝津幸彦
瀬のかなた墓も澄み思慕のびやかに 友岡子郷 遠方
炎天を附き蹤きゆく思慕の象かな 大山芙美子
花篝思想は思慕に似てをりぬ 新海あぐり
顔に出る思慕月光がこそばゆし 楠節子
黒潮へ揺るる思慕かも島桜 渡辺恭子
●愛慕 ![]()
夏草に愛慕濃く踏む道ありぬ 久女
胸痛く愛慕佇む虫の露次 石塚友二 方寸虚実
●愛人 ![]()
まひる梅の咲くさえ朧愛人あり 末永有紀
一匹は愛人のいるきりぎりす 川崎ふゆき
十二月あひると愛人疾走す 攝津幸彦
愛人でいいのとうたう歌手がいて言ってくれるじゃないのと思う 俵万智
愛人の麦のひがしを刈りのこす 摂津幸彦
愛人を水鳥にして帰るかな あざ 蓉子
霊人も愛人に似る夜の秋 攝津幸彦
●彼氏
●彼の人 ![]()
ひびきけり彼の人の持つ桐一葉 小檜山繁子
彼の人と替へたる鷽は取替へず 綿谷吉男
彼の人もいまは媼やひなあられ 関 成美
彼の人も同じ暑さに歩きをり 星野立子
書初めや先づ彼の人に文書かな 野見山ひふみ
賀状見てあれば彼の山彼の人等 上村占魚
●情夫 ![]()
情夫待つ勿忘草の風の中 高橋彩子
枯萩や忙しき針に情夫無し 飯田蛇笏
ぼうたんや妍を競へば情夫(いろ)妬し 筑紫磐井 婆伽梵
●情婦 ![]()
蛇打つや情婦の頬は濡れやすく 対馬康子 愛国
情婦を訪ふ途次勝ちさるや草相撲 飯田蛇笏 山廬集
●色男 ![]()
色男金はなくとも吉葉山 仁平勝 東京物語
裸押し弾き出さるる色男 檜 紀代
●許婚 ![]()
肉に月ありといへ許婚者 大屋達治 繍鸞
螢烏賊ともる許婚者の健啖 塚本邦雄 甘露
肉に月ありといへ許婚者 大屋 達治
●妾 ![]()
お妾といはれて住むや秋近し 白水郎句集 大場白水郎
みせばやを咲かす妾宅 灯がともる 山本和子
よしありて卯の花垣の妾(おもひもの) 泉鏡花
一本の牡丹を庵の妾かな 牡丹 正岡子規
初夢の其角が妾をいたぶりぬ 鈴木鷹夫 春の門
唐芥子酒飲む妾老いんとす 森鴎外
妻よりは妾の多し門涼み 正岡子規(1867-1903)
妾が家は江の西にあり菰粽 炭 太祇 太祇句選
妾人にくれし夜ほとゝぎす 炭 太祇 太祇句選
妾宅や牡丹に会す琴の弟子 夏目漱石 明治三十年
年忘妾宅といふ恥るもの 野村喜舟 小石川
弥生 ここに白紙春のあなたに『妾薄命』 宇多喜代子
抱籠や妾かゝえてきのふけふ 榎本其角
斜めに町を抜けて男妾より惨め 楠本憲吉
枯萩に僧の奢や妾など 雑草 長谷川零餘子
殿は狩妾餅うる桜茶屋 服部嵐雪
洋妾や障子洗ふに来てかごみ 河野静雲 閻魔
独活の香の手を嗅せたる妾かな 尾崎紅葉
碁は妾にくづされて聞くちどりかな 言水
秋の夜の洋妾往けり肩低く 日野草城
簟妾の帯びだる微醺哉 篠崎霞山
素袷や黒三郎が妾 子規句集 虚子・碧梧桐選
花に妾世に一日の閑を得たり 花 正岡子規
●囲い者 ![]()
囲ひ者めきて自炊す丑湯治 森田峠 避暑散歩
●側室 ![]()
桐の実の側室ばかりつらなりぬ 峯尾文世
●間男 ![]()
藁灰を踏んで間男帰りけり 仁平勝 東京物語
●猫の恋 ![]()
あたらしき廊下をとほる恋の猫 仙田洋子 雲は王冠
あの声は何いふ事ぞ猫の恋 猫の恋 正岡子規
あひびきのわが世とばかり恋の猫 高澤良一 随笑
あまり鳴て石になるなよ猫の恋 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
あらすぢも仔細もあらぬ猫の恋 三田きえ子
いたく汚れしわが恋猫とすれちがふ 黒木 夜雨
うき人に石投げらるゝ猫の恋 猫の恋 正岡子規
うき猫をくどく声音や屋根の上 猫の恋 正岡子規
うつゝなに泣く児あやすや猫の恋 高橋淡路女 梶の葉
うらやましおもひ切る時猫の恋 越智越人 (1656-?)
おそろしや石垣崩す猫の恋 猫の恋 正岡子規
おもひ寐の耳に動くや猫の恋 炭 太祇 太祇句選
かもめ食堂本日休業猫の恋 浪山克彦
きけばやさし見れはこはらし猫の恋 猫の恋 正岡子規
きぬきぬの猫を見てやる夜明哉 猫の恋 正岡子規
くぐり行く土椽の音や猫の恋 会津八一
げんげ田に恋猫がゐて神宿る 三谷昭
この度は恋の猫とて膝に来ず 篠田悌二郎
こひ猫や何の思ひを忍びあし 猫の恋 正岡子規
そそくさと水飲んで去る猫の恋 原裕 正午
たづねくる声のやさしき恋の猫 港 澄子
たんざくの数にやさしや猫の恋 浜田酒堂
どら猫に恋の名もあり祇園町 猫の恋 正岡子規
なれも恋猫に伽羅(きゃら)焼いてうかれけり 服部嵐雪
ぬかるみに来て恋猫に見入らるる 太田鴻村 穂国
のら猫も女の声はやさしとや 猫の恋 正岡子規
のら猫や思ふがまゝに恋ひわたる 猫の恋 正岡子規
はこべらを薬に食べし恋の猫 太田土男
はるかなる地上を駆けぬ猫の恋 石田波郷
ふみ分けて雪にまよふや猫の恋 千代尼
またうどな犬ふみつけて猫の恋 松尾芭蕉
み仏の半眼となる猫の恋 都竹禎子
よもすがら簀の子の下や猫の恋 猫の恋 正岡子規
わが屋根をゆく恋猫は恋死ねよ 藤田湘子(1926-)
われわれが案ずるときに猫の恋 下村槐太 天涯
をんなわれを風呂に沈めて恋の猫 加藤直子
イマシカナイイマシカナイと恋の猫 辻桃子 ねむ 以後
エジプトの恋猫の闇青からむ 布施伊夜子
コインテレビはたと像消ゆ猫の恋 奈良文夫
バツハ死して今日まで猫の恋つづく 皆吉司
ランボーを五行とびこす恋猫や 寺山修司(1935-83)
一字だけつかぬネオンや猫の恋 栗林明弘
一座黙し迎う汚れし恋猫なり 赤城さかえ
一水を杼のごとく飛び恋の猫 三田きえ子
三つ並ぶ真中が鳴けり猫の恋 小野恵美子
三匹になりて喧嘩す猫の恋 猫の恋 正岡子規
不法駐車あたりはいつも恋の猫 鈴木六林男
両方で睨みあひけり猫の恋 猫の恋 正岡子規
中垣や行きあふ猫のいどみ顔 猫の恋 正岡子規
乳のみ子は恋猫程になきにけり 猫の恋 正岡子規
二つ来てしばしはよらず猫の恋 猫の恋 正岡子規
五器の飯ほとびる猫の思ひかや 猫の恋 正岡子規
京都御所よぎりてゆけり恋の猫 岡島溢愛
人の恋見下ろしてゐる猫の恋 吉年虹二
位牌光れり恋猫の鳴いてをり 村上賢一
俳句にも修羅場がありし猫の恋 森田かずや
俳諧の昼のふかみに猫の恋 下村槐太 光背
傾きし家の闇より恋の猫 小泉八重子
光明寺境内にして猫の恋 森 澄雄
八車線渡り切つたる猫の恋 出口善子
六道の辻を駈け抜く恋の猫 尾関佳子
内でなけば外でもなくやうかれ猫 猫の恋 正岡子規
内のチヨマが隣のタマを待つ夜かな 猫の恋 正岡子規
円覚寺料峭として猫の恋 青木重行
凍え死ぬ人さへあるに猫の恋 正岡子規
初恋の心を猫に尋ねばや 猫の恋 正岡子規
化粧(けはひ)する果やなき出す猫の恋 中村史邦
合格祈願絵馬とま闇を恋の猫 諸角せつ子
吾が前に梅雨の恋猫身をなめる 八牧美喜子
吾が妻に身をする恋の猫怖ろし しかい良通
啼きやめて糞したりけり猫の恋 古白遺稿 藤野古白
喧嘩とも恋とも知らず猫の声 猫の恋 正岡子規
嗅で見てよしにする也猫の恋 一茶 ■文化十二年乙亥(五十三歳)
嘴に菜の花くはえ海猫の恋 福田甲子雄
嚏して恋猫と同じ眼の光り 河野多希女 納め髪
地震して恋猫屋根をころげけり 猫の恋 正岡子規
地震やみしあとのしじまや猫の恋 深見けん二
坐禅僧またたきひとつ猫の恋 加藤知世子 花 季
埋葬や恋猫の四肢やわらかく 岡村知昭
城山のまた颪しをり猫の恋 大峯あきら
墓番となりて恋猫傷癒す 毛塚静枝
墨色の夜のむかうの猫の恋 木栓恵美
声たてぬ時がわかれぞ猫の恋 千代尼
声真似る小者おかしや猫の恋 炭 太祇 太祇句選
売家のいせが軒ばや猫の恋 高井几董
夕月の楔打つたり猫の恋 行方克巳
夜潮満つ香や舟小屋に恋の猫 慶伊邦子
夜空染め遠火事消ゆる猫の恋 宮武寒々 朱卓
大仏にもつてのほかの猫の恋 角川春樹 夢殿
大彗星近づく恋の猫の耳 綾野道江
大比叡の表月夜や猫の恋 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
大猫の恋にやつるゝあはれさよ 猫の恋 正岡子規
大阪や水路づたひに恋の猫 深川知子
天窓の低き家並や猫の恋 松本美簾
太陽も恋猫ふとるにまかせたり 桜井博道 海上
奈良町は宵庚申や猫の恋 飴山實
好き嫌ひありてかなしき猫の恋 帖地津木
始まりも終りもなくて猫の恋 桑原信子
姥捨の野へ遠出して恋の猫 小原啄葉
学問の灯をゆるがして猫の恋 五十嵐播水
宝徳寺庫裏駆け抜けし恋の猫 佐々木典子
宝石の瞳をもちにけり猫の恋 廣田松枝
宵の間や小猫が恋のあわたゞし 猫の恋 正岡子規
寝て起て大欠〔伸〕して猫の恋 一茶 ■文化十四年丁丑(五十五歳)
対岸の日向を歩く猫の恋 大木あまり 火球
対峙してゐし猫の恋追はれたる 稲畑汀子
尾を水平に猫の恋了はりけり 小澤實
山中に恋猫のわが猫のこゑ 橋本多佳子
山國の暗すさまじや猫の恋 原石鼎
山峨々としてその麓猫の恋 岸本尚毅
山形訛り恋猫をわしづかみ 今井 聖
山門を出て恋猫に豹変す 町田しげき
巨燵の山流しの川や猫の恋 猫の恋 正岡子規
己が傷を舐めて終りぬ猫の恋 清水基吉
待つ恋にこがれて泣くや臼の猫 猫の恋 正岡子規
微震ある日本列島猫の恋 大木あまり 火球
心臓がぴくんと恋の猫飛んだ 大井 実
忍びあへず男猫泣くなり塀の上 猫の恋 正岡子規
忍ぶれど猫に出でにけり我恋は 猫の恋 正岡子規
恋しらぬ猫や鶉を取らんとす 猫の恋 正岡子規
恋の猫お初天神よぎりけり 山内星水
恋の猫どたりどたりと二つ落つ 辻田克巳
恋の猫わがホ句小屋をのぞき鳴く 小原菁々子
恋の猫ブリキの罐を倒し過ぐ 館岡沙緻
恋の猫一力茶屋の門くぐる 南 恵子
恋の猫一途に川を渡りけり 朝倉和江
恋の猫別誂えの声を出す 高澤良一 燕音
恋の猫島の階段踏み外す 生川春枝
恋の猫暗夜行路を跳び交し 鷹羽狩行 遠岸
恋の猫眼の月光をもて争へり 加藤知世子
恋の猫神父の膝を嫌ひけり 柴田佐知子
恋の猫遠くへ去つてゆくところ 日原傳
恋の猫鈴をなくして戻りけり 西嶋あさ子
恋は皆やせるならひか猫の五器 猫の恋 正岡子規
恋猫がうしろ忘れているうしろ 池田澄子
恋猫がよぎるうつろの蚕卵氷室 堀口星眠 営巣期
恋猫が佃島より逃げてくる 大石雄鬼
恋猫が啼く考えてゐるわれに 加倉井秋を 『午後の窓』
恋猫が屋根にゐるピアノを叩く 加倉井秋を
恋猫が恋す復元穴居にて 茨木和生 野迫川
恋猫が貯炭地獄を賑はすも 小林康治 玄霜
恋猫が過ぎてあをあを青畳 加藤秋邨 吹越
恋猫が闇のすべてを負ひもどる 山本つぼみ
恋猫といふ厄介を抱きとりぬ ふけとしこ 鎌の刃
恋猫として愛嬌を忘れたる 後藤比奈夫 めんない千鳥
恋猫となりきれずはや戻り来し 一ノ木文子
恋猫となりげんげ田を彷徨す 三谷昭 獣身
恋猫となりしにはかの汚れかな 遠藤若狭男
恋猫となりたり昼は寝てばかり 大塚友治
恋猫となりぬそれより素つ気なし 長谷川久美
恋猫となりミー子ではなくなりし 橋本佐智
恋猫とはやなりにけり鈴に泥 青畝
恋猫とゐて身辺を乱さるる 赤尾恵以
恋猫と未だ至らず人恋へり 石塚友二 光塵
恋猫と獏を戦列に入れる 瀬戸美代子
恋猫と語る女は憎むべし 西東三鬼(1900-62)
恋猫にうって変はれる日も近し 高澤良一 随笑
恋猫にそそのかされて告白す 竹間祥子
恋猫にたつきの水を落しけり 辻桃子
恋猫にとりまかれてゐる無重力 八木荘一
恋猫にとり囲まれて早寝せり 古賀まり子 緑の野
恋猫にまだ北風荒き三崎かな 久米正雄 返り花
恋猫にまつくらがりの浮御堂 大峯あきら
恋猫に夜の闇の渦なすところ 山田弘子 螢川
恋猫に夜闇の火の気いつまでも 飯田龍太
恋猫に大きなドアを開けもする 中村汀女
恋猫に大きな月ののぼりけり 稲田眸子
恋猫に大学の垣長くあり 田村了咲
恋猫に小石浮き出る峡の畑 鍵和田[ゆう]子 浮標
恋猫に屋根貨してをる悉皆屋 大石悦子 聞香
恋猫に思ひのほかの月夜かな 中村汀女(1900-88)
恋猫に憎まれながら路地抜ける 佐野美智
恋猫に戸をあけてやる森の星 及川貞 夕焼
恋猫に手振る病師の爪が鳴りし 森川暁水 淀
恋猫に投げたる石の見えて弾む 波多野爽波 鋪道の花
恋猫に月の荒磯は照りにけり 大峯あきら
恋猫に柔らかき尾の戻る朝 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
恋猫に水ぶつかけて路地に老ゆ 菖蒲あや
恋猫に留守あづけるや桃の花 桃の花 正岡子規
恋猫に給水塔のただ高し 池田秀水
恋猫に豹変したる月夜かな 山田弘子 懐
恋猫に身ほとり揺らぐ神詣 鍵和田[ゆう]子 浮標
恋猫に音叉を一つ打ちやりぬ 大石悦子
恋猫に颯とたてがみのやうなもの いのうえかつこ
恋猫に魚とられる島の店 島原徳栄
恋猫のあはれやある夜泣寝入 猫の恋 正岡子規
恋猫のあらはれ出たる戸棚かな 古白遺稿 藤野古白
恋猫のいぎたなく寝て昼のバラ 久米正雄 返り花
恋猫のうかがひ走り蜑の路地 行方克巳
恋猫のうかれて塀を踏み外す 稲畑廣太郎
恋猫のかへる野の星沼の星 橋本多佳子
恋猫のがう〜として藪の月 原石鼎
恋猫のこゑの百態聞きて癒ゆ 橋本榮治 麦生
恋猫のこゑを真似して通りけり 高澤良一 さざなみやつこ
恋猫のごう〜として藪の月 石鼎
恋猫のつきくる初瀬詣かな 堀 文子
恋猫のひそみて闇の艶あける 能村登四郎
恋猫のふくろふ貌の難儀かな 藤田湘子 てんてん
恋猫のふんはりと垣を越えゆけり 小沢みき代
恋猫のやおらふりむく夜の坂 石崎素秋
恋猫のゐどころせまし湖の村 堀口星眠 青葉木菟
恋猫の一心あの距離をとびし 角光雄
恋猫の一方的に鳴き通す 岬雪夫
恋猫の中のわが猫うひうひし 殿村菟絲子 『繪硝子』
恋猫の丹下左膳よ哭く勿れ 阿波野青畝(1899-1992)
恋猫の乾ける舌や水を飲む 篠原温亭
恋猫の二つの声のうらがへる 安田晃子
恋猫の二三疋なる姿かな 楠目橙黄子 橙圃
恋猫の人になつきて舟に居る 岸本尚毅 舜
恋猫の人を怖れず人目避け 西村和子 窓
恋猫の人語に似たるゆゑ憎む 金子伊昔紅
恋猫の今日は抱かれて通りけり 高尾方子
恋猫の何にのぼれる爪の音 高澤良一 さざなみやつこ
恋猫の別れを惜む戸口かな 猫の恋 正岡子規
恋猫の別れ見てやる夜明哉 猫の恋 正岡子規
恋猫の和声荒声たゞ睡し 岸風三樓
恋猫の声しづまりて月上る 佐藤のぶ女
恋猫の声と分りて気ぬけせり 右城暮石
恋猫の声のまじれる夜風かな 長谷川櫂 蓬莱
恋猫の声ひたすらに闇の中 関根喜美
恋猫の声まねてゐよ泣いてゐよ 仙田洋子 橋のあなたに
恋猫の夜の隣りの壁をまぢかに見た シヤツと雑草 栗林一石路
恋猫の夜毎泥置く小縁かな 本田あふひ
恋猫の夜闇の火の気いつまでも 飯田龍太
恋猫の姿態月蝕赤茶け来る 河野多希女 彫刻の森
恋猫の季節と云ふか黙らっしゃい 高澤良一 燕音
恋猫の屋根を揺るがすまくらがり 妹尾 健
恋猫の帰る野の星海の星 加倉井秋を 『風祝』
恋猫の彼奴此奴が庭通る 高澤良一 ももすずめ
恋猫の往き来にそぞろ心かな 高澤良一 ぱらりとせ
恋猫の思ひのほかの月夜かな 中村汀女
恋猫の思想の胴の伸び縮み 須藤 徹
恋猫の恋する猫で押し通す 耕衣
恋猫の恋の果てなる勾玉寝 大石悦子 群萌
恋猫の恋ふ声何もはばからず 原絹江
恋猫の恋励ますか猿田彦 大石悦子 聞香
恋猫の恋若ければ空をとぶ 荻野杏子
恋猫の恨みがましきこゑ収め 高澤良一 寒暑
恋猫の手足手荒に拭いてやる 永野照子
恋猫の抜け毛を風に持たせけり 大沼きみ
恋猫の昼は寝ている椅子の上 大木正子
恋猫の昼は紙干し場に眠り 星野恒彦
恋猫の書斎の人を慕ひつつ 岸本尚毅 舜
恋猫の水だけ飲んで出てゆきぬ 木田千女
恋猫の水をぶつかけられ戻る 木田千女
恋猫の水呑むかげの日は白き 原田種茅 径
恋猫の汚れきつたる寧けさよ 行方克巳
恋猫の泰らかに過ぐ栗咲く夜 中拓夫 愛鷹
恋猫の火の玉となり失せ去んぬ 石塚友二
恋猫の片一方は知つてをり 仙入麻紀江
恋猫の犬より強くなりにけり 國廣美奈子
恋猫の瓦一枚ずらし跳ぶ 石垣青☆子
恋猫の留守あづかるや桃の花 桃の花 正岡子規
恋猫の皿なめてすぐ鳴きにゆく 加藤楸邨
恋猫の皿舐めてすぐ鳴きにゆく 楸邨
恋猫の目にものぼりし月ならん 原田喬
恋猫の眸のなかの縦の闇 佐藤恭子
恋猫の眼ばかりに瘠せにけり 夏目漱石 明治四十年
恋猫の眼四つとなり光る 山田節子
恋猫の老嬢坐り直しけり 高澤良一 ぱらりとせ
恋猫の耳の手触り和紙のごと 三森鉄治
恋猫の脱糞の瞳の古色かな 永田耕衣 悪霊
恋猫の薄き褥をうらがへす 岩田昌寿 地の塩
恋猫の試し鳴きして消え去りぬ 牧石剛明
恋猫の足の跡あり化粧部屋 猫の恋 正岡子規
恋猫の足冷えきつて戻りけり 多摩茜
恋猫の足噛まれたる不首尾哉 射水庵
恋猫の足萎え猫の艶やかに 三谷昭 獣身
恋猫の身も世もあらず啼きにけり 敦
恋猫の近くにゐるは洒煽る 石川桂郎 高蘆
恋猫の通ふ深雪の紅殻戸 佐野美智
恋猫の酒樽を飛び跳ねてゆく 高橋とも子
恋猫の鈴の遠音や姥子宿 井上久枝
恋猫の闇に連なる動きかな 真鍋蟻十
恋猫の闇も会陽の寺にあり 宮津昭彦
恋猫の闇やかすかに光立つ 小池文子 巴里蕭条
恋猫の闇よりも濃く走りけり 藤松遊子
恋猫の陥ちたる音の闇ふかし 菖蒲あや あ や
恋猫の雄叫び星驚けり 殿村莵絲子 花寂び 以後
恋猫の雲に隠れぬ塔の屋根 猫の恋 正岡子規
恋猫の顔の大きが来たりけり 辻桃子
恋猫の香油のやうなこゑを曳き 高澤良一 ぱらりとせ
恋猫の馬柵渡りたる疾さかな 藤木倶子
恋猫の驚くほどのふぐりかな 二村恵子
恋猫の鼻に患ひしたりけり 菅原師竹
恋猫はあらきこゑさへあはれなり 猫の恋 正岡子規
恋猫は日に膨らめる瞑想家 高澤良一 ぱらりとせ
恋猫やからくれなゐの紐をひき 松本たかし(1906-56)
恋猫やたしかにやねをとんだ音 猫の恋 正岡子規
恋猫やラジオは風邪を警しめつ 岸風三樓
恋猫や世界を敵にまはしても 大木あまり 火球
恋猫や仮寓常より厚ふすま 皆吉爽雨
恋猫や城の石垣かけのぼる 猫の恋 正岡子規
恋猫や屋根ばかりなる桑名港 永井龍男
恋猫や椎の木にある夕木霊 古舘曹人 樹下石上
恋猫や横浜中華街通り 長谷川久々子
恋猫や物干竿の丸木橋 猫の恋 正岡子規
恋猫や蕎麦屋に酒と木遣節 春樹 (木場)
恋猫や表札小さく荷風遺居 村上 光子
恋猫を一歩も入れぬ夜の襖 杉田久女
恋猫を俵の中に入れにけり 廣江八重櫻
恋猫を唐天竺へ遣はしぬ 瀬戸美代子
恋猫を墓ある闇の方へ追ふ 不死男
恋猫を涅槃の闇が封じけり 矢野聖峰
恋猫を追へば打たるる身構へす 加藤知世子 黄 炎
恋知らぬ猫のふり也球あそび 猫の恋 正岡子規
恨みわびニヤニヤと泣く也猫の妻 猫の恋 正岡子規
我事とうらやむ猫の恋路哉 猫の恋 正岡子規
我事となくてものうし猫の恋 猫の恋 正岡子規
我心猫にうつりてうかるゝか 猫の恋 正岡子規
我恋のかくても猫に劣りけん 猫の恋 正岡子規
我恋のそれにも猫のうらみ哉 猫の恋 正岡子規
拾はれてここ迄育ち恋の猫 坂下内恵
振袖を着せてやりたや猫の妻 猫の恋 正岡子規
文章に閊へてをれば猫の恋 猪俣千代子 秘 色
日の入やはや屋根に出る猫の恋 猫の恋 正岡子規
日はけふの月はきのふの猫の恋 藤村克明
明家やところところに猫の恋 猫の恋 正岡子規
昏睡の母にひびきて猫の恋 堀口星眠 営巣期
星はみな西へ下りゆく猫の恋 山口誓子
春動く雀環に飛び地に恋猫 石塚友二 光塵
月が出て月がまんまる恋猫広場 横山白虹
月もなく恋猫ばかり跳梁す 菖蒲あや
月恍と恋猫の声地をくぐる 柴田白葉女 遠い橋
望楼に星座さだまる猫の恋 平沢陽子
朧夜になりても久し猫の恋 朧夜 正岡子規
本の山また崩れたり猫の恋 鈴木鷹夫 春の門
松の木の闇にかけこむ猫の恋 猫の恋 正岡子規
枕頭の歳時記更へむ猫の恋 相馬遷子 雪嶺
梅二三輪簪のごとし猫の恋 原石鼎 花影以後
梅寿忌や不謹慎なる猫の恋 岸風三樓
椎茸がうまるゝ夜の猫の恋 萩原麦草 麦嵐
橋一つ渡つて来たる恋の猫 長谷川春
檜葉垣に満月のれる猫の恋 遠藤梧逸
欄間より忍び出でけり猫の恋 蘇山人俳句集 羅蘇山人
歌よまばやさしかるべきに猫の恋 猫の恋 正岡子規
武蔵より相模へ通ふ猫の恋 有馬朗人 耳順
水鉢の水呑む猫のこがれかな 猫の恋 正岡子規
水飲んで恋猫全身癒しけり 稲垣暁星子
法善寺横町往き来恋の猫 田辺富子
法要の座を駈け抜けて恋の猫 上山本一興
泣くことをおぼえて哭けり恋猫は 大西泰世 『こいびとになつてくださいますか』
浅ましやもらふた日より猫の恋 猫の恋 正岡子規
涅槃図を抜け恋猫となりゐたる 北見さとる
淡雪や通ひ路細き猫の恋 寺田寅彦
温室に水したたるや猫の恋 日原傳
源氏山風に恋猫の声すなり 篠田悌二郎
濡れ縁に弾(だん)と音して恋の猫 澁谷道
火の山へ荒星帰る猫の恋 橋本榮治 麦生
炭斗にとぼしき炭や猫の恋 原石鼎 花影以後
父の墓あたりがさかん猫の恋 櫂未知子 蒙古斑以後
猫のこひ巨燵をふんで忍ひけり 猫の恋 正岡子規
猫の恋お堀をこえて通ひけり 猫の恋 正岡子規
猫の恋がらす障子に無分別 猫の恋 正岡子規
猫の恋やむとき閨の朧月 芭蕉
猫の恋やんだ其夜や春の雨 猫の恋 正岡子規
猫の恋やんだ其夜や雨の音 猫の恋 正岡子規
猫の恋クリーニングに出しちゃうぞ 中原幸子
猫の恋シヤワー激しく使ひけり 中西夕紀(1953-)
猫の恋パリの月下でありにけり 山田弘子
猫の恋五百羅漢をはばからず 山本歩禅
猫の恋六日とし越ふけにけり 加舎白雄
猫の恋円きはものゝうとましき 尾崎紅葉
猫の恋初手から鳴きて哀れなり 野坡
猫の恋地下鉄郡部まで延びて 前山松花
猫の恋声まねをれば切なくなる 加藤楸邨
猫の恋大長刀をわたりけり 猫の恋 正岡子規
猫の恋巴里の月下でありにけり 山田弘子 懐
猫の恋後夜かけて父の墓標書く 中村草田男
猫の恋打切棒(ぶつきらぼう)に別れけり 一茶
猫の恋新撰組の屯所跡 内海良太
猫の恋昴は天にのぼりつめ 山口誓子
猫の恋暗夜行路を跳び交し 狩行
猫の恋月に嘯くとはいへど 川端茅舎
猫の恋止むとき閨の朧月 芭蕉
猫の恋漢方薬を煮てをれば 大竹準芳
猫の恋片割月のあはれなり 竹冷句鈔 角田竹冷
猫の恋犬が通つてゆきにけり 塙告冬
猫の恋猫の口真似したりけり 久保田万太郎 流寓抄
猫の恋稲荷に修羅をはばからず 古田悦子
猫の恋老松町も更けにけり 草城
猫の恋老梅幹を横ふる 楠目橙黄子 橙圃
猫の恋隣の屋根へ移りけり 猫の恋 正岡子規
猫の恋風のおこらぬ斗(ばかり)なり 風国 俳諧撰集「有磯海」
猫の恋風呂まつくろに沸きにけり 原田喬
猫居らず一夜やもめの泣きにけり 猫の恋 正岡子規
猫迷ふ恋の闇路や牛の角 猫の恋 正岡子規
瓜人忌の恋猫にして憚らず 堀井爪紅
白猫の恋のはじめの闇夜かな 藤本始子
目も見えぬやうなふり也猫の恋 猫の恋 正岡子規
目薬は夜も空色猫の恋 宮脇白夜
眠り薬利く夜利かぬ夜猫の恋 松本たかし
眼中に人間なくて恋の猫 加藤瑠璃子
知命とや恋猫ほどの度胸なし 福田純子
石垣をひた登りゆく猫の恋 ジャンポール絹子
石塊の山あるきゆく恋の猫 和知喜八 同齢
破垣や行きあふ猫のいどみ顔 猫の恋 正岡子規
磯伝ひ来し恋の猫足濡れて 品川鈴子
神代より誰か教へて猫の恋 猫の恋 正岡子規
稚児が描く恋猫の貌人間に 加藤知世子 黄 炎
窓に干す満艦飾や猫の恋 白石多稔
竹椽をふみ折る猫の思ひかな 猫の恋 正岡子規
竹椽を踏みわる猫の思ひ哉 猫の恋 正岡子規
第一の恋猫以後の乱世かな 小内春邑子
筑波嶺の歌垣(かがひ)遥かや猫の恋 角川源義 『神々の宴』
紅梅や秘蔵の娘猫の恋 紅梅 正岡子規
紙たたむ音にあおられ猫の恋 二村典子
総身に夜の色保ちて恋の猫 野沢節子
老残の恋猫として啼けるかな 安住敦
老猫の恋のまとゐに居りにけり 虚子
膝にくる恋猫にして眇かな 大木あまり 火球
色町や真昼しづかに猫の恋 永井荷風(1879-1959)
花嫁の声とも聞かじ猫の恋 猫の恋 正岡子規
草をはむ胸安からじ猫の恋 炭 太祇 太祇句選
荒行の法華経寺裏猫の恋 中江月鈴子
蒲公〔英〕の天窓はりつゝ猫の恋 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
蕗かげにひそむ泥眼猫の恋 平井さち子 鷹日和
虎といふ仇名の猫ぞ恋の邪魔 猫の恋 正岡子規
蜑の路地すでに夜深く猫の恋 行方克己 知音
行先はもう決めている恋の猫 犬山京子
裏地図のもうすぐ出来る猫の恋 中川順子
裏木戸をすり抜け恋の猫となる 小池きく江
西鶴の墓にかしまし恋の猫 倉持嘉博
西鶴の墓を離れず恋の猫 小笠原里子
親鸞の九十の春や猫の恋 野村喜舟 小石川
角はゆる迄啼つらん猫の恋 松岡青蘿
諌めつゝ繋ぎ居にけり猫の恋 炭 太祇 太祇句選
貝の飯食へぬうき身や猫の恋 尾崎紅葉
赤い実くらがりを恋猫通す 栗林一石路
越えられぬ壁などなくて恋の猫 木付千登子
越して来て早や恋猫として鳴けり 奈良文夫
路地裏に路地裏があり猫の恋 関口篠山
身を低く来て恋猫に加はれる 長沼利恵子
身を舐めてゐて恋猫に加はらず 能村登四郎
身贔屓に加担しゐるや猫の恋 松山足羽
転居の荷に加はる恋猫ともならで 田中英子
追はれたる恋猫鳴くや塀の外 五十嵐播水 播水句集
退勤の夕闇明り猫の恋 深見けん二
道よぎる恋猫の尾のいそがざる 皆吉爽雨 泉声
道よぎる猫を恋の猫といふ 加倉井秋を 午後の窓
酒蔵の表も裏も猫の恋 三木多美子
野の宮や垣の内外に猫の恋 猫の恋 正岡子規
釜滾りをり恋猫の通る頃 九鬼あきゑ
鉄板に余熱の効いて猫の恋 内田美紗 魚眼石 以降
鉄槌を跳びそこねたる猫の恋 須藤 徹
鉄瓶に湯玉のはしる恋の猫 鳥居真里子
鉄門に爪の思ひや廓の猫 猫の恋 正岡子規
銀座生れ銀座育ちの猫の恋 大久保白村
鎌倉も別のことなし猫の恋 南隣 芭蕉庵小文庫
鏡台に男が座り猫の恋 富安風生
鐘塔に糸月かかり猫の恋 柏原口出子
闇の庭目のきらめくや猫の恋 野村きよみ
階段を恋猫追つて登るかな 長谷川かな女 牡 丹
雨に濡れままならぬまま猫の恋 榎本眞千
雨足の激しくなりぬ猫の恋 田原幹一郎
雪どころにも恋猫の恋のころ 茨木和生 丹生
雪の陰恋猫の眼にひたと遇ふ 良太
雪解風恋猫のこゑぼろぼろに 中拓夫 愛鷹
震災の闇の地つづき猫の恋 白井房夫
青芒より現れぬ猫の恋 平井照敏
顔大き飛鳥仏や猫の恋 森澄雄
風呂けむり火の粉まじれる猫の恋 宮武寒々 朱卓
飼猫や思ひのたけを鳴あかし 猫の恋 正岡子規
首筋を吹かれて恋の猫となる 高澤良一 随笑
鳴き通る雪間雪の上猫の恋 皆吉爽雨 泉声
鳴けば恋猫遠江国府跡 折井紀衣
鼻先に飯粒つけて猫の恋 小林一茶
●鳥の恋 ![]()
この雨に双眸濡らす鳥の恋 折井紀衣
ぴよと鳴きぴよぴよと鳴き鳥の恋 高岡すみ子
ほそながき鏡の掛かる鳥の恋 大木あまり 雲の塔
やはらかく山河はありぬ鳥の恋 井上弘美
切株は天与の椅子よ鳥の恋 永井敦子
収容所アウシュビッツに鳥の恋 仙田洋子 雲は王冠
唐寺の反りの深さや鳥の恋 中尾杏子
喰へば糞るこの鳥にして鳥の恋 依光陽子
嗽ぐ水に塩気や鳥の恋 綾部仁喜 寒木
嘴を触れ身を触れ合ひて鳥の恋 疋田佳子
国引の山に雲捲く鳥の恋(神西湖) 角川源義 『神々の宴』
塀の上に朝日子笑ふ鳥の恋 遠藤梧逸
太陽は古くて立派鳥の恋 池田澄子
尖塔の開かずの窓に鳥の恋 鷹羽 狩行
屋根石に円光あるや鳥の恋 佐野良太 樫
山里の橋は短し鳥の恋 三橋敏雄 畳の上
巣の中の日月星や鳥の恋 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
散るはずも無き花びらや鳥の恋 長尾きよか
本堂に金銀の蓮鳥の恋 和田耕三郎
松風にうはずるこゑの鳥の恋 原裕 青垣
母恋ひの句碑に夕日や鳥の恋 石黒孝子
浦瀬戸の渦の転生鳥の恋 摘松シヅ
湧き水の砂盛り上がる鳥の恋 矢島栄子
畦草の大きく揺るる鳥の恋 高橋千恵
白日の水輪拡げて鳥の恋 木村幸子
白鳥の恋の水輪のほぐれおり 和知喜八 同齢
秋燈や円卓螺鈿の鳥の恋 関森勝夫
空濠のきれいに掃かれ鳥の恋 矢野文子
職人の座布団薄し鳥の恋 大木あまり 火球
自転車の車輪とまらず鳥の恋 仙田洋子 雲は王冠
良寛の文字の自在や鳥の恋 井口千枝子
花頭窓ぴつたり閉めて鳥の恋 吉原文音
行く水は水を誘ひ鳥の恋 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
許されぬ恋などはなし鳥の恋 鷹羽狩行
跳べば跳び走れば走る鳥の恋 河原敬子
逢曳や塔の上では鳥の恋 滝佳杖
野の梅を散らす卍の鳥の恋 小林康治 『潺湲集』
電線の揺れを共にす鳥の恋 正木ゆう子 悠
青空を各自真上や鳥の恋 池田澄子 たましいの話
風切をたたみきれざり鳥の恋 亀井美奈美
風呂敷につつむ額縁鳥の恋 田中裕明
風狂の空ほうほうと鳥の恋 白澤良子
鳥の恋テニスコートに落ちきたり 森田智子
鳥の恋大空に痕残したり 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
鳥の恋峰より落つるこそ恋し 清水径子
鳥の恋巌の凹み浅からむ 菅藤良子
鳥の恋既決未決の箱ふたつ きりぶち輝
鳥の恋本の名を決めかねてゐる 田中裕明 花間一壺
鳥の恋港の電話故障中 神戸由紀子
鳥の恋空縦横に広がりぬ 加藤瑠璃子
鳥の恋粉ふるひには大き穴 如月真菜
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