町並み


アーケード空地アスファルトアドバルーン石畳ウインドウインドウ受付駅前エスカレーターエレベーター屋上会社階段回転扉街灯街頭●街頭宣伝●街路樹飾窓看板銀行皇居交差点 交叉点●興信所●高層ビル紅灯小屋盛り場雑踏 雑沓サンドイッチマン自動ドアシャッター●出版社●娼家●証券会社●昇降機白壁スクランブル交差点疎水地下チンドン屋●電光掲示板●電光ニュース海鼠壁並木ネオン非常階段非常口ビルビルの谷広場●保険会社●歩行者天国●ポスト堀割摩天楼マンホール目抜き廊下ロビー


●アーケード
石のせし雁木につゞくアーケード 南雲つよし
アーケードの中へ転がる玉霰 川村甚七
●空地
「ちょうのはか」「きんぎょのはか」で咲く空地 八木三日女 赤い地図
いなびかりみなとみらいに空地あり 太田良一
うちひさす空地縁どり諸葛菜 八木林之介 青霞集
うつぼ草レール撤去の空地かな 草野駝王
お隣の空地の蘖郁々と 平方ひで
これだけ揃うと薄気味悪い空地の猫 山上清子
コスモスが空地に咲きて愛されず 土屋鶴子
人体に空地のありて雪の降る 鳴戸奈菜
売惜む空地久しや枯葎 飄亭
失はれゆく空地あり赤とんぼ 遠藤忠昭
子供等の空地とられて懸莨 山口青邨
年々に空地へりゆく祭かな 久保田万太郎 草の丈
径としゆききする空地の草枯れ シヤツと雑草 栗林一石路
忘れゐし空地黄となす泡立草 山口波津女
望月の空地はなれぬ本屑の香 野澤節子 黄 炎
末枯れの空地の奥に富士を置き 阿部みどり女
水張りしコップに空地の赤のまま 高澤良一 ぱらりとせ
浅茅生ふ空地は風と日の棲み家 小林やす子
片附けて元の空地や御ン旅所 坊城としあつ
病院の空地のありて土筆萌え 高浜年尾
祭太鼓空地々々に打ちひびく 榎本冬一郎 眼光
秋はまづ街の空地の猫じやらし 森澄雄 四遠
空地ことしは何もつくらず草枯るる 栗林一石路
空地で刺さる媚薬壜掘る墓掘人夫 赤尾兜子
空地の草のしつとりと露の東京の朝 シヤツと雑草 栗林一石路
空地突切る毒消し売の夕ぐれ 梅林句屑 喜谷六花
節分の空地に鬼の面外す 白石不舎
茶袋の種蒔きちらす空地かな 尾崎紅葉
蒲公英や路地の空地は皆鋤かる 宮坂静生 青胡桃
虫棲めり空地よりやや家寄りに 川口比呂之
術後のわれ冬の空地の草でよし 栗林千津
製糸廃れ花火の空地ばかりある 木村蕪城 寒泉
赤まんま空地に捨てゝある枕 秋元不死男
遠き記憶も荒地野菊よ港の空地 松崎鉄之助
鉄削る黍の空地を職場とし 秋元不死男
銀杏散る空地珍らし路地の中 長谷川かな女 雨 月
鞄かかえなおし空地をゆくは父 五十嵐研三
駒鳥や空地の寺に蕎麦食へば 石塚友二
●アスファルト
ぴしゃぴしゃと梅雨の五反田アスファルト 高澤良一 随笑
アスファルトかがやき鯖の旬が来る 岸本尚毅
アスファルトに椎の実撥ねて真昼なり 内田光佳
アスファルトに死す冬の蝶乾ききり 大高翔
アスファルト切れて熔岩道赤蜻蛉 行方克己 無言劇
アスファルト罅に吹き出す夏の草 村本治美
アスファルト隆まりて紺桐の花 香西照雄 対話
アスファルト驟雨に冷えて灯をうつす 川島彷徨子 榛の木
人が咳犬が咳きをるアスファルト 川口重美
葛咲くや雨駈けてゆくアスファルト 西村和子 かりそめならず
街去なむ爛れ初めたるアスファルト 石塚友二 光塵
●アドバルーン
アドバルン冬木はづれに今日はなき 吉岡禅寺洞
アドバルン北風はらみ下ろさるゝ 阿部みどり女 笹鳴
アドバルン墜つ少年のくに空位 仁平勝 東京物語
アドバルン魂ぬけ揚る雪もよひ 山口青邨
アドバルーンのない空がちらす 日暮の粉雪 吉岡禅寺洞
夏雲に置いてゆかれしアドバルン 栗原昌子
思想展いで来て春のアドバルーン 岸風三楼 往来
東京じゅうで雪解けてるよアドバルン 池田澄子
秋風にアドバルーンや凹みつつ 京極杞陽
●石畳
かなかなや山に入りゆく石畳 細田恵子
けさはけさの落葉はじまる石畳 下村ひろし 西陲集
さくらもち店の中まで石畳 岸 洋子
ひや酒やはしりの下の石畳 其角
やや暑し弾痕に続く石畳 香西照雄 対話
ゆるやかに落ち石畳瀧の影 古舘曹人 砂の音
デイゴ散る島の墳墓の石畳 深見けん二
ビール馬車幻と過ぎ石畳 楠本憲吉
一切の枯れてたしかに石畳 池田秀水
一葉落つ絵描き広場の石畳 小原菁々子
三人で鯰食べる気石畳 石田 素
三月やモナリザを賣る石畳 秋元不死男
人絶えて桜蕊降る石畳 長門美熙子
低き風は秋のはじめの石畳 長谷川双魚 風形
僧が掃く追儺会果てし石畳 仁科翁童
六波羅に若水を汲む石畳 松本澄江
冬鵙や風が磨ける石畳 大岳水一路
初雀トコトコトッと石畳 高澤良一 宿好
古都首里 にふみみがかれし石畳、ひえびえとして風ふきとほる 嶋袋全幸
叱られて帰る霰の石畳 桂信子 黄 炎
土筆生ふ半蔵門の石畳 吉原千恵
夕風に暑さ残りし石畳 小川濤美子
外つ国の夜寒雨降る石畳 佐手恒子
夜ざくらやなほ奥宮へ石畳 飯野燦雨
大学の石畳にも燕来ぬ 香西照雄 対話
大寒の 音が先立つ 石畳 田中お福
実梅落ちはずむが見えて石畳 高濱年尾 年尾句集
家々をつなぎて露の石畳 瀧 春一
小鳥来る雨の洗ひし石畳 片山由美子 水精
御田植の素足のもどる石畳 数合信也
捨猫の群るる白夜の石畳 岩崎照子
撒水車去りて古城の石畳 山村千恵子(円虹)
文化の日小銭とび散る石畳 飯田龍太
新涼の靴音を待つ石畳 西村和子 夏帽子
春潮が寄す水神の石畳 松井利彦
晩涼や蝉落ちまろぶ石畳 木下夕爾
月破れて ここには かたき石畳 富澤赤黄男
木の芽吹く姫街道の石畳 寺島初巳
木下闇昔へ曲る石畳 川崎慶子
栴檀の実がよごしたる石畳 石橋秀野
梯梧散る島の墳墓の石畳 深見けん二「余光」
椿落つ直哉旧居の石畳 高橋克郎
欅若葉して石畳冷え込めり 高澤良一 素抱
海棠の静かにちるや石畳 吟江
滝谷寺椿落ち継ぐ石畳 中條睦子
熊野みち石畳より華鬘草 三好かほる
玄関の白障子まで石畳 茨木和生 遠つ川
玄関へ松葉牡丹の石畳 星野椿
琴平参道さくら蘂降る石畳 吉野義子
盧溝橋春陰深き石畳 田中英子
石畳かがよひゆくは春着の子 木下慈子
石畳つぎ目つぎ目や青草む 一茶
石畳径ひろひに髪涼し 石川桂郎 高蘆
石畳朝儀に参ず蟻ならむ 高澤良一 ぱらりとせ
石畳洗ひ流るゝ水澄めり 高木晴子
石畳雀のたごにひびきけり 下村槐太 天涯
石畳電柱の根をかこみ冬 香西照雄 対話
石畳飛花着地して石のいろ 高澤良一 随笑
神迎ふ出雲の国の石畳 有馬朗人
秋の日の貌のごとくに石畳 吉田鴻司
秋冷や石畳ゆく馬車の音 野崎ゆり香
秋時雨ありしをとどめ石畳 稲畑汀子
秋暑し鹿の匂ひの石畳 木村蕪城
秋風の吹きとどまらぬ石畳 岸田稚魚
羽抜鶏歩む王家の石畳 品川鈴子
羽抜鶏遠出に似たる石畳 吉田鴻司
聖教殿へ霜一枚の石畳 毛塚静枝
船が出る松葉牡丹の石畳 遠藤梧逸
花ぐもり兵士の征きし石畳 渡辺志ま
苔の花出湯にみちびく石畳 照山とし子
菅公の梅石畳直進す 高澤良一 素抱
萩刈れば現れし被爆の石畳 宇川紫鳥
落葉掻石畳より手をつけむ 高澤良一 随笑
蔵址や雨の石畳実梅落ち 及川貞 夕焼
蘗や石畳高く沖見えて 下村ひろし 西陲集
蜂光る琉球王の石畳 細川加賀 生身魂
蜥蜴出づ後醍醐陵の石畳 国枝隆生
蝉声のまつしろな石畳かな 石田郷子
蟹歩く熊野古道の石畳 井上啓子
蹄よくひゞく白夜の石畳 平松三平(かつらぎ)
郭公や水の底まで石畳 廣瀬直人「矢竹」
銀杏の落ちて汚せし石畳 小川凡水
門松や藍師の青き石畳 藤江駿吉
閑散と鳩と落葉と石畳 高澤良一 燕音
陽炎やカスタネットの石畳 仙田洋子 橋のあなたに
雲梳きし日の冷やかな石畳 岸田稚魚 筍流し
露打つて影のととのふ石畳 渡辺恭子
青梅雨のあを冷えてくる石畳 竹花美代恵
飲み逃げの身に入む夜の石畳 石塚友二 光塵
鶯やわが影を行く石畳 青木久美子
鶯や山門もなき石畳 比叡 野村泊月
黒猫の掠めて春の石畳 小池文子 巴里蕭条
あしたばや岬へ抜ける石だたみ 日守むめ
ふいに影伸び短日の石だたみ 中戸川朝人 星辰
下駄ひきて初金比羅の石だたみ 村沢夏風
信心の石だたみ蟻湧くごとし 宇佐美魚目 天地存問
冷酒やはしりの下の石だたみ 其角「句兄弟」
初詣吾子とかぞえる石だたみ 北見亮市
千歳飴袋引き摺る石だたみ 吉田郁代
夕涼の風を踏みゆく石だたみ 山田弘子 こぶし坂以後
宵闇やひとにしたがふ石だたみ 鈴木しづ子
戛々と応ふ夜寒の石だたみ 千代田葛彦
手毬つく六波羅蜜寺石だたみ 山田弘子 こぶし坂
月高し池舟あがる石だたみ 飯田蛇笏 山廬集
木犀や夕じめりたる石だたみ 芥川龍之介 蕩々帖〔その一〕
栴檀の実に風聞くや石だたみ 芥川龍之介
沈丁や根岸の路地の石だたみ 藤岡筑邨
独楽もたぬ子も来て跼む石だたみ 石崎静女
石だたみ崩えて青栗一つ落つ 林翔 和紙
神馬の瞳冬撒かれゆく石だたみ 北野民夫
萩咲くや馬籠に古りし石だたみ 遷子
葉桜といふ奥行の石だたみ 山田弘子 懐
蓑虫が泣いてあるいた石だたみ 千代田葛彦 旅人木
蜩に立ちつくすのみ石だたみ 林翔 和紙
門松に風吹き下る石だたみ 広瀬直人
雀子や飯台直す石だたみ 義首 俳諧撰集「藤の実」
青胡桃蚕飼ひの村の石だたみ 宮坂静生 青胡桃
餅搗のこころ浮遊す石だたみ 飯田龍太
馬場裏や夜の新樹の石だたみ 宮坂静生 青胡桃
黐の花こぼれて月の石だたみ 伊藤柳香
●ウインド
すいつちよん来たり肉屋のウインドに 辻桃子
ウインドに映れる我等夏の雨 西村和子 夏帽子
ウインドに落葉のやうに靴ちりばめ 西村和子 夏帽子
ウインドに黄葉を飾り大ホール 土屋孝子
ウインドのハムにもリボンクリスマス 西村和子 かりそめならず
ウインドの新角帽や桃の春 河野静雲 閻魔
ウインドの毛皮嘯くものとして 竹中弘明
ウインドの氷小豆に誘はるゝ 副島いみ子
ウインドの銀器に映る街師走 西村和子 かりそめならず
ウインドは廻り舞台よ雛占め 依田栄子
縄飛びにウインド聖樹燈をとどかす 中戸川朝人 残心
花器あふれるウインドに招かれ明るい僕 阿部完市 絵本の空
鬘屋のウインド小振や都鳥 北野民夫
●ウインドウ
ウインドーの長崎切手みどり透く 伊藤京子
ウインドー飾る毛皮にパリーの灯 池辺弥生
●受付
中元や老受付にこころざし 富安風生
受付に僧ひとりゐて賀状書く 茨木和生 野迫川
受付のロビー華やぐ初句会 長崎小夜子
受付も菊に埋もるる菊花展 川村ひろし
受付を濡らして秋の山の雨 鈴木鷹夫 大津絵
犬一匹受付に寝て時雨寺 市川冨士子
生駒聖天受付の大火鉢 辻田克巳
祭寄付受付すずかぜ来るところ 高澤良一 寒暑
鷺草を置いて受付無人なり 戸田富美子
●駅前
かき氷のみよく売れる駅前店 八木下ヨネ
トラックで売る駅前の青みかん 井口朝子
余呉の駅前もうしろも大青田 浜崎民子(築港)
冬の駅前犬過ぎ人過ぎぬけがら過ぐ 加藤楸邨
初売の蜜柑積まれて小駅前 葛西十生
少年液化す宮沢賢治の駅前で 高野ムツオ
年内かわきがち駅前に川を蓋ぐ 竹中宏 句集未収録
新橋の驛前夜寒のサンドヰッチマン 高澤良一 寒暑
暮早し駅前にして暗き灯も 高濱年尾
檸檬盛つて夜は酒售(う)る駅前茶房 鈴木栄子
芒生ふ駅前仮バスターミナル 高澤良一 素抱
退職す駅前噴水にも別離 成瀬櫻桃子 風色
駅前がさびれ燕の子沢山 寺島ただし
駅前で天地みている鶏と 阿部完市 鶏論
駅前に始まる古道花楝 茂里正治
駅前に溜まる自転車納税期 池田秀水
駅前に犬橇一屯ろ汽車著到 高濱年尾 年尾句集
駅前に自転車あふれ日脚伸ぶ 大町 莞子
駅前に茄子苗売りのこぼせし土 田川飛旅子 花文字
駅前に草屋一軒竹の春 平瀬 元
駅前に街の未来図春を待つ 富田初代
駅前のいまも種屋の秋簾 廣瀬直人
駅前の一の鳥居の十三夜 山本洋子
駅前の一樹に集ふ夏帽子 嶋田麻紀
駅前の寒さ貧しさ映画ビラ 右城暮石 声と声
駅前の屋台整ふ星祭 新津栄子
駅前の昼の懈怠に花散れり 太秦女良夫
駅前の木のそこかしこ聖樹の灯 高澤良一 燕音
駅前の筍飯も旅の味 高橋悦男
駅前の自転車サドルに赤とんぼ 高澤良一 随笑
駅前の自転車置場干菜吊る 房川喜三男
駅前の蚯蚓鳴くこと市史にあり 高山れおな
駅前の酒場の女水打てる 宮武寒々 朱卓
駅前や雉子売りあるく人の中 河野静雲 閻魔
駅前をぶらぶら歩く夏休み カコタミミズク
駅前を承知のさくら咲きはじむ 五十嵐研三
驛前に一の鳥居や牛祭 菅直桑
●エスカレーター
エスカレーターは銀の遁走曲ぞ寒に入る 鳥居おさむ
エスカレーター上昇われら見知らぬ人 立岩利夫
エスカレーター伏せ灯に春の歌舞伎客 高井北杜
エスカレーター旅の盆僧すれちがふ 山岸治子
エスカレータ新春一家つらなれり 草間時彦
冬蜂と我とエスカレーター天にゆく 加藤楸邨
師走人堰きてはエスカレーターヘ 谷野黄沙
時の日のエスカレーターすれちがふ 横山房子
海へ下るエスカレーター雲の峰 三浦加代子
長き長きエスカレーター百合抱いて 浦川聡子
●エレベーター
ぎゆうぎゆうのエレベーターに寒さ言ふ 宇佐美ちゑ子
エレベーター「私」のフェード・アウトかな 杉浦圭祐
エレベーターが二十一階の大きな落日 金子美代
エレベーターつちふる街を垂直に 玉城一香
エレベーターとまり冷たき扉が開く 越央子
エレベーターどかと降りたる町師走 高浜虚子
エレベーターに女ゐて青い夜を降りてつた シヤツと雑草 栗林一石路
エレベーターの二人聖樹をかけのぼる 加藤貞子
エレベーターの顔の中のひとつの顔 住宅顕信 未完成
エレベーターガール長身モードの秋 高澤良一 燕音
エレベータービヤガーデンをささへあげ 原田孵子(年輪)
エレベーター一気に下りて町薄暑 山下美典
エレベーター万歳乗せて昇り来し 飯島正人
エレベーター冬銀河より降りてくる 福田花仙
エレベーター古い時間も降りてくる 藤田踏青
エレベーター待って映るわたしはみつめるじゅごん 金子弘子
エレベーター開き馥郁と雪の街 奥坂まや
エレベーター開く海底夏休み 横山節哉
五月雨や灯して透明エレベーター 長崎小夜子
噴水にエレベーターの灯がのぼり 森早和世
多佳子忌の高階に泛くエレベーター 桂信子
妻とエレベーターの急行に乗る春の宵 橋本夢道 『無類の妻』以後
展望エレベーター動けば燃ゆる海紅豆 小笠原須美子
戦さあり寒夜無人のエレベーター 対馬康子 純情
春寒の自分を探すエレベーター 棚橋泰
極月や神父と出遭ふエレベーター 実渕真津子
毛虫の季節エレベーターに同性ばかり 岡本 眸
病棟の夜の影冷ゆるエレベーター 津田登志
病院のエレベーターに乗るビール 紅谷順子
着ぶくれの楸邨先生とエレベーター 川崎展宏
秋の夜のひとりに開くエレベーター 施 慶琳
空をゆく花粉の見ゆるエレベーター 大野朱香
花の雨エレベーターのなか濡れて 宮津昭彦
行く年の無人に閉まるエレベーター 景山万年青
行く年をエレベーターに乗合せ 温亭句集 篠原温亭
賞与出しエレベーターの一家族 高木利夫
鉱山のエレベーターに見ゆる滝 西本一都 景色
隙間風エレベーターの扉より 関森勝夫
雛人形エレベーターより抱かれて 住素蛾
雪の速さで降りてゆくエレベーター 正木ゆう子
鮎食べてエレベーターにて昇りけり 五島高資
麦秋や逝きたるははとエレベーター 西村純吉
●屋上
いわし雲ビル屋上の観覧車 竹澤 聡
もうそんな頃かや屋上ビアガーデン 高澤良一 素抱
バレンタインの日や屋上へ富士を見に 奈良文夫
事務の日暮れ屋上に呼び合い共に染まり 金子兜太
人去つて東風の屋上に遊ぶ扉 田川飛旅子 花文字
今日も立つ屋上毛虫に喰はれし木 沢木欣一
冬の日や屋上の吾を見ぬ人等 香西照雄 対話
冬近き連山屋上の水を飲む 桜井博道 海上
凍てきびし屋上ネオン雲に映え 飯田蛇笏 雪峡
初雪の厚く残りし大藁屋 上野泰 佐介
初鶏を屋上に聞く町暮し 久世久美枝
北緯四十二度屋上の雁渡 平井さち子 鷹日和
卒業を見下してをり屋上に 波多野爽波 鋪道の花
南風や屋上に出て海は見ゆる 高屋窓秋
原爆落とされし日の屋上の望遠鏡 池田澄子
地につく耳で 屋上園の犬の 嗟嘆 伊丹公子 陶器の天使
夏きざす屋上に飼ふ兎にも 児玉輝代「摘心」
夏帽に屋上園の花芭蕉 石原舟月 山鵲
夕焼を見に屋上へ車椅子 山田弘子 螢川
寒茜屋上に旗折りたゝむ 林 徹
小走りやむナース帆船となる屋上 角田重明
屋上から大根の葉が墜ちてきた 金子兜太
屋上で罌粟を蒔き扶養家族なし 池田澄子
屋上につまさき立ちて雲雀見る 八木三日女 紅 茸
屋上にサルビヤ炎えて新聞社 広瀬一朗
屋上にバケツ置き去る冬銀河 五島高資
屋上に上れば天も虫時雨 塚越杜尚
屋上に交換手あり鳥渡る 岸風三楼 往来
屋上に出づを試歩とし風寒し 岸風三樓
屋上に大利根ながめ卒業す 永田由子
屋上に宿名かゝげて夏の海 鈴鹿野風呂 浜木綿
屋上に布団叩けば鴨渡る 三枝幸江
屋上に御用納めの日の鴉 高澤良一 さざなみやつこ
屋上に洗濯の妻空母海に 金子兜太
屋上に満たして春来る伊予言葉 加倉井秋を 『真名井』
屋上に潦あり天の川 池田澄子
屋上に稲荷の社ビアガーデン 可知あきを
屋上に立てば秋風四方より 深見けん二 日月
屋上に肉積まれゆき記者たち書く 金子兜太
屋上に苔咲く無欠勤永し 庄中健吉
屋上に落ち目の人とビール飲む 内田美紗 浦島草
屋上に見し朝焼のながからず 加藤秋邨 寒雷
屋上に象がいる長い夏休み 小柳慶子
屋上に鉄のにほひの花菫 岡武十六夜
屋上のさくらは空に色まぎれ 瀧春一 菜園
屋上のひまわり護憲派の彼に 諸角せつ子
屋上のタンクに夕日冬ぬくし 林原和枝
屋上のバレー 首に被爆のウオッチ垂れる 室生幸太郎
屋上のラジオ体操爽やかに 小原菁々子
屋上の五月哀しい眼干す 森田智子
屋上の児らの畫冬の甍のみ 中島斌男
屋上の土なる性の紙子かな 野村喜舟 小石川
屋上の墓石売場を飛ぶ電波 夏石番矢 猟常記
屋上の気球炎天の海遠望 長谷川かな女 花 季
屋上の狂人を眼に寒曇り 長谷川かな女 花寂び
屋上の白布飛びたつ妻の夏 大井雅人 龍岡村
屋上の花咲き遠き海ねむる 瀧春一 菜園
屋上の茅花ほほけて吹きなびき 楸邨
屋上の萩を見に立つ林火の忌 中戸川朝人 尋声
屋上の解放感や新社員 牧野寥々
屋上の鈍器 空席 東京地図 上野敬一
屋上の顔夕焼けて生きて居る 宮坂静生 青胡桃
屋上の風を肴にビール酌む 高澤良一 素抱
屋上の鸚鵡が月を見ておりぬ 対馬康子 純情
屋上は青年のものいわしぐも 大牧広
屋上へあと一息の蔦若葉 中村和子
屋上や酷暑はげゆく空の紺 阿部みどり女
屋上より樹頭見下ろすクリスマス 津田清子 礼 拝
屋上より落下地点を思ふ冬 倉橋羊村(1931-)
屋上ヘスリッパで出て大文字 茨木和生 往馬
屋上去る孤島を日永にのこすごとく 宮津昭彦
屋上噴水教師はかなし巡視の眼 宮坂静生 青胡桃
屋上園妻の手が冷え晩夏なり 細川加賀
屋上園孔雀交める防空裡 宮武寒々 朱卓
屋上園春の黄塵降りかすみ 石塚友二 方寸虚実
屋上園涼しき恋をみて涼し 藤木清子
屋上園灼けて花かげうばはれぬ 原田種茅 径
屋上園雨避け居れば香は花柚 及川貞 夕焼
愚直な太陽屋上で太るサボテン達 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
指先に幼年の耀り 屋上園 伊丹公子 ドリアンの棘
散る柳大粒の唾屋上ゆ 香西照雄 対話
春愁の屋上園は水噴ける 岸風三楼 往来
晝餉の芋屋上に食い了りたり 石橋辰之助
曙や屋上の駅永遠に 攝津幸彦
東京のビルの屋上午祭 板谷芳浄
梅雨屋上に汝が青年母子草 古沢太穂 古沢太穂句集
死をさそふ人工芝の屋上は 田川飛旅子 『山法師』
海のこと言いてあがりし屋上に風に乱れる髪を見ている 岸上大作
満園の花や屋上喫茶店 五十嵐播水 播水句集
病臭を逃る屋上沖寒し ふけとしこ 鎌の刃
病院の屋上濡れてクリスマス 岸田稚魚
秋日和屋上へ行く母の試歩 山根きぬえ
稲荷狐と目が会う迂闊 ビル屋上 森 早恵子
立春の屋上に在るにわたずみ 寺井谷子
脱皮できない老人8人雨の屋上 崎原風子
花現れし春蘭いだき屋上より 軽部烏帽子 [しどみ]の花
藍問屋廃れし町の種物屋 上崎暮潮
藍色になりゆく屋上岐阜提灯 阿部みどり女
蘗の屋上園祠運河見ゆ 宮武寒々 朱卓
虫すだく闇に屋上遊園地 二村典子
螺旋階登り屋上の鳩に逢う 三谷昭
重陽の屋上にこそ運ばれめ 相生垣瓜人 明治草抄
開襟少年空港ビルの屋上駈く 加藤かけい(天狼)
霧さぶく屋上園の花に狆 飯田蛇笏 霊芝
革命歌屋上にわき雁かへる 加藤楸邨
風がたたく屋上の土聖夜きて 桜井博道 海上
鳥雲に屋上風見鳥残る 扇田久子
鴨引くや猫悉く屋上に 相生垣瓜人 微茫集
黒松の霜待つ屋上園斜に 石塚友二 方寸虚実
●会社
会社てふ寒き胃袋のなかに栖む 宮津昭彦
冬夕焼会社勤めも大詰めに 高澤良一 宿好
北風強し製菓会社の旗緊まり 田川飛旅子 花文字
寒鴉製菓会社・の屋根ありく 田川飛旅子 花文字
此頃の会社つとめや夏羽織 夏羽織 正岡子規
蛇の目傘会社の影を纏ひけり 攝津幸彦 未刊句集
銀座底冷え外資会社にストの旗 北野民夫
鰻食ふ会社勤めを諾ひつ 清水基吉
●階段
あまたミサイル空の階段見失う 穴井太 原郷樹林
うつうつと石の階段柳絮とぶ 小池文子 巴里蕭条
きれいな空へ無限の階段年つまる 横山衣子
ぎしと梅雨箱階段の三段目 鈴木鷹夫 千年
くずざくら外階段を降りてくる 栗林千津
こおろぎの闇へ階段おりてゆく 山本千之
たてかけしごとき階段鮎の宿 片山由美子 水精
とんとんと上る階段年忘れ 星野立子
ねぎまの鉄砲階段がよく見えて 大坪重治
まず階段また階段や遠霞 田中朋子
まつくらな中に階段熱帯夜 吉田汀史「一切」
れんこん屋の急な階段蜆汁 田中冬二 俳句拾遺
アパートの外階段や木瓜の雨 神田綾美
ラセン階段下りるロダンの男根 三浦北曲
一日は無職のわが家の階段からくれる 橋本夢道 無禮なる妻抄
一歩づつ階段を消し消えてゆく 津久井理一
七月の海階段の小窓にも 茨木和生 野迫川
下校時の闇の階段滝の音 東江万沙
二次会の階段狭き年忘れ 斉藤 節
二階への階段暗し鱧尽くし 森田智子(樫)
二階まで軋む階段遍路宿 塩野邦江
人参をくふ階段のあかるさに 飯島晴子
今年竹階段二だんずつ登る 梅田玲子
冬霧に短かい階段とび降りる 横山白虹
初髪の尻階段をのぼりゆく 柳家小三治
加茂川に水の階段通し鴨 佐藤康典
古へに続く階段冴返る 心峙 大島豊信
地に埋没してゆく階段手すりの青空 上月章
地へ沈む階段 誰の背も 月影 伊丹公子 時間紀行
地下室へ降りる階段日脚伸ぶ ふけとしこ 鎌の刃
地下街へ続く階段蝿生まる 橋高辰男
地下階段の冷々として風知草 長谷川かな女 雨 月
大年の階段に腰かけてゐる 和田耕三郎
子と駈けて階段初夏を掻き散らす 雨宮抱星
学校の階段怖い夏休み 太宰真依子
守宮など出る頃階段脇の壁 高澤良一 素抱
守宮出る家となりしか急階段 高澤良一 随笑
守宮出る頃の階段脇の壁 高澤良一 素抱
寒泳の急階段を降りてゆく 長田 等
川蜻蛉戻る夕暮れという階段 吉田透思朗
師へ運ぶ燠階段の闇に赤し 香西照雄 対話
恋の猫島の階段踏み外す 生川春枝
拭き了へし階段に腰かけて秋 岡本眸
擦り減る階段突き抜け風にもまれる鳥 赤尾兜子
春の月階段に掛けあるは鞍 中田剛 珠樹以後
晩夏の月のぼる医院の裏階段 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
木の芽田楽階段多き伊賀の宿 八牧美喜子
木の階段石の階段開山忌 塩川雄三
杉板の厚き階段鮎の宿 茨木和生 遠つ川
東風強し駅階段の旅装群 徳永山冬子
楽屋への階段急に良夜かな 宮武寒々 朱卓
水へつゞく階段つばめが翻える 穴井太 土語
氷き日の階段教室なつかしき 瀧澤伊代次
涼しさや天守へのぼる木の階段 相馬沙緻
湖に天使の階段白鳥来 高澤良一 素抱
灯の暗き階段席の夜学かな 前田白雨
灯台の石の階段春寒し 中谷厚子
無限階段のぼりつめれば鳥の色 大下真利子
無限階段ひとりでのぼる虫の闇 山田径子
狩宿の階段ころげ落ちしひと 辻桃子
白壁高高と爽か大階段 池内友次郎 結婚まで
白足袋や箱階段の黒き艶 今泉貞鳳
着ぶくれて否応なしの外階段 加藤正尚
秋寂ぶと鉄の階段鳴らしけり 内田美紗 誕生日
秋燈にある階段の上り口 波多野爽波 鋪道の花
空へゆく階段のなし稲の花 田中裕明
立春や目の前に階段のあり 佐藤和枝
箱階段下りる足音新豆腐 桂信子 遠い橋
船宿の外階段のしぐれけり 行方克己 昆虫記
花びらの階段に散り昼の客 桂信子 草樹
若き猫霧の階段を見上げる 金子皆子
萩月や箱階段の小抽斗 杉戸由紀子
落日のもっともしみる木の階段 穴井太 天籟雑唱
蟻上る階段上は他人の室 長谷川かな女 花 季
裏白や鉄階段の子の住居 辻 男行
見えない階段見える肝臓印鑑滲む 堀葦男
護符いくつ貼る階段の途中の空 林田紀音夫
迷路めく階段冬の夜の新居 皆吉司
遺書一枚外階段を降りてくる 渡辺誠一郎
酔うてまた階段降りる雪の夜 対馬康子 吾亦紅
陸橋のらせん階段樟若葉 森田たえ
階段がやたらとひびき鴨の宿 三村純也
階段がポインセチアの鉢の数 清水忠彦
階段が土間へすとんと狩の宿 見学 玄
階段が暗くて怖い花の館 後藤比奈夫 めんない千鳥
階段が無くて海鼠の日暮かな 橋間石
階段で四、五日迷う春の寺 西川徹郎(1947-)
階段にズボン脱ぎ捨つ雪の夜 皆吉司
階段に二段目があり夕の鵙 大野龍児
階段に及ぶ解体桐の花 汎 馨子
階段に坐る少女や梅雨に入る 西田 弘
階段に拾ふくちびる福笑 鳥居真里子
階段に泥足乾く涅槃かな 角田竹冷
階段に砂のあがれる藜かな 山西雅子
階段に雨くる鳥羽の僧正忌 夏井いつき
階段のうへした共に焜炉おこす 川島彷徨子 榛の木
階段の上のくらがり年忘 藺草慶子
階段の下に声かけ春の月 長谷川かな女
階段の下の夜明の醤油瓶 金子 晉
階段の他人が武器の音たてる 林田紀音夫
階段の壁が遊び場守宮の子 高澤良一 随笑
階段の真中は奈落額の花 岬千恵
階段の裏にわれある夜食かな 小澤實
階段の裏みて裏みて棺おりる 上月章
階段の途中にて寒明けにけり 中尾寿美子
階段の途中に座る句読点 今川知巳
階段の途中はながい秋だった 津沢マサ子(1927-)
階段の長さを仰ぐ小暑かな 宮川みね子
階段の頭注意の夜長かな 石田勝彦 秋興
階段はのぼり専用芒原 吉田千賀子
階段は二段飛ばしでいわし雲 津田このみ
階段は姉妹で蘆見るところ 鈴木鴻夫
階段は子等の遊び場春の風邪 安藤アヤ子
階段をきつちりと踏み年新た 小檜山繁子
階段を上る音煖炉燃ゆる音 高木晴子 晴居
階段を恋猫追つて登るかな 長谷川かな女 牡 丹
階段を手さぐり梅雨の日吉館 大島民郎
階段を来る薔薇色の家族計画 仁平勝 花盗人
階段を河原菊まで運び去る 攝津幸彦 鹿々集
階段を濡らして昼が来てゐたり 攝津幸彦(1947-96)
階段を秋の途中と思うべし 鳴戸奈菜
階段を突き落とされて虹となる 夏石番矢 猟常記
階段を見上ぐる大暑来りけり 肥田埜勝美
階段を足で探れり春の闇 萩山栄一
階段を降りまたの日は柩に寝る 林田紀音夫
青山椒階段ふんで妻もたらす 沢木欣一
飢えるも自由か駅の階段に寒気さけ 古沢太穂 古沢太穂句集
魯迅忌の雨たまる階段に背をつらね 古沢太穂 古沢太穂句集
鱧食べに箱階段を上りけり 三宅福子(日矢)
麦秋となるはらわたも階段も 安井浩司 霊果
黄昏の階段上がる花鳥諷詠 津田 栞
黒南風や階段にある息づかい 二村典子
●回転扉
うすものの透けて回転ドアのなか 中村祐子
ひとりずつ回転ドアにある寒気 大脇みや
仮の世の回転扉夏蓬 高野ムツオ
初春や回転ドアの内と外 熊谷貴志子
回転ドア軽々と出る夏近し 堀 政尋
回転扉ひらりひらりと黒炎天 澁谷道
回転扉寒燈散らし落着きぬ 河野南畦 『花と流氷』
回転扉木枯の身のつまづき入る 原田種茅 径
回転扉銀行貨幣を量りこぼす 片山桃史 北方兵團
夏来る回転ドアの向こうから 佐伯和子
煖房や人を舞はしむ回転扉 井沢正江
秋虹の消ゆるにはやし回転扉 白石水可
空中に回転扉曼珠沙華 磯貝碧蹄館
菊の鉢回転扉に抱き悩む 吉屋信子
貝寄風やかまえて回転ドアに入る 相川玖美子
鰯雲回転ドアにはさまれる 金城けい
●街灯
はやばやとともる街燈冬めける 富田直治
一本の氷柱街燈の笠より垂れ 高濱年尾 年尾句集
冬の雷街灯ぐらりねんざする 林 恒子
初富士の暮るゝに間あり街灯る 深見けん二
初花のふるるばかりや街灯り 深見けん二
女に捨てられたうす雪の夜の街燈 尾崎放哉
妄動のひそみ居る街灯の寒し 新居ッャ子
時雨るるや街燈に泛く奈良格子 宮崎幸子
晩夏の蛾娼婦かげひく街燈に 西島麥南
短夜の街燈駅へつづきをり 原田種茅 径
街灯が灯るチユウリツプの真上 有馬朗人 母国
街灯のいつぽん暗し鉦叩 逢坂幸子
街灯の丸く光りし無月かな 宗廣貞芳
街灯の如く梔子香りけり 俵谷武美
街灯の濡れてともりぬ厄日過ぎ 片山由美子 天弓
街灯の灯る寒さの一つづつ 深見けん二
街灯はあまたのクルス鳥渡る 対馬康子 愛国
街灯は夜霧にぬれるためにある 渡辺白泉(1913-69)
街灯もポストも踊りさうな阿波 蔦三郎
街灯りてわかさぎの眼のごとし 飯田龍太
街灯映ゆ雲に五位啼き道頓忌 宮武寒々 朱卓
街燈のひとり灯れる白夜かな 久保田万太郎 流寓抄
街燈の影の二重に暦売 米澤吾亦紅
街燈の灯る寒さの一つづつ 深見けん二
街燈の独楽の子北風に連れ去られ 石原八束 空の渚
街燈は夜霧にぬれるためにある 渡辺白泉
街燈は高きにともり鳥帰る 桂信子 緑夜
雪明りの街燈が灯りそめた シヤツと雑草 栗林一石路
●街頭
十二月街頭神を説く処女 福田蓼汀 秋風挽歌
外套やさゞめき後に街頭へ 青峰集 島田青峰
少年の街頭暮金みどりの日 田中珠生
菊さくや十二街頭の塵の中 菊 正岡子規
蒸気時計塔 噴く 街頭音楽士 弾く 伊丹公子 アーギライト
街頭にはじまる暮色雪もよひ 中原 歌子
街頭に栗茹でる湯気冬近ずく 田川飛旅子 花文字
街頭売りサフランを買ふ五六球 高澤良一 素抱
間延びせし街頭放送走り梅雨 脇坂啓子
鷹鳩と化して街頭デモの列 高橋悦男
●街頭宣伝
●街路樹
かつと炎天街路樹稚し横浜市 田川飛旅子 花文字
こずゑまで電飾されて街路樹あり人のいとなみは木を眠らせぬ 小池光
みごもつた日雇女 街路樹 黄葉する 吉岡禅寺洞
冬眠のまま 植えられて 街路樹とされている 吉岡禅寺洞
十一月街路樹の色ゆたかなる 作山 和子
厄日過ぐ街路樹に縄ぶらさがり 池田秀水
大学生繊し蓑虫街路樹に 川口重美
小雪や街路樹彩を競いける 中野稔子
戦災を知る街路樹や蝉時雨 丸山文子
新緑の街路樹幹を敵と知らず 斎藤玄
木の葉飛ぶ街路樹の果て空があり 坂井建
枯れやまぬ街路樹指環ひとの手に 寺田京子 日の鷹
楊梅の街路樹中華街近し 高澤良一 素抱
港区の街路樹ドッグウッドかな 高澤良一 随笑
病永かりしよ街路樹幹より芽 加倉井秋を 『真名井』
船形の灯や街路樹の闇の上 鎌田松緑
芽吹く街路樹子に木琴を購ひ帰る 伊東宏晃
蓑着て街路樹へ大雪掻く人たち 橋本夢道 無禮なる妻抄
虫売が街路樹に吊る灯はうれし 加藤楸邨
街路樹として花掲ぐ山法師 高澤良一 素抱
街路樹となつて満開花水木 清水幸子
街路樹にくくりべつたら市の幡 今井千鶴子
街路樹にくくれるポスト出水跡 五十嵐播水 埠頭
街路樹に仰ぐ日ふるふ余寒かな 飯田蛇笏 山廬集
街路樹に方寸の土冬萌ゆる 三森鉄治
街路樹に旧正月の鸚鵡館 飯田蛇笏
街路樹に泰山木を咲かす国 稲畑汀子
街路樹に結ふ闘牛の大幟 山下美典
街路樹のくろがね黐に雨の鵙 高澤良一 素抱
街路樹の剪定終る空のあり 鈴木ひろ志
街路樹の夏や巷には木だまなし 米沢吾亦紅 童顔
街路樹の夜も落葉をいそぐなり 高野素十
街路樹の夾竹桃の雨を来し 児玉寿美女
街路樹の小雨短夜ほの白む かきね草 藤井紫影
街路樹の影定まりし暑さかな 戸田暮情
街路樹の枯木のパントマイムかな 高澤良一 宿好
街路樹の楊梅雌雄異株なり 田村梛子
街路樹の燃ゆる色としななかまど 石田幸子
街路樹の芽吹く蘇州を手秤に 荒井まり子
街路樹の落葉をはいている みごもつた けわしい顔 吉岡禅寺洞
街路樹の裾の白粉花江東区 藤田湘子
街路樹の鈴掛に巣をつくりたる雉鳩よおまへは東京が好きか 山田富士郎
街路樹の風を切り売り風鈴屋 石川寿夫
街路樹の高きに透けて鴉の巣 廣川昂臣
街路樹を落ちし葉が樹を遠ざかる 右城暮石 声と声
街路樹乏しき葉の風に向ひ勤めに出る 人間を彫る 大橋裸木
街路樹抜根されをり九月湿る胸 友岡子郷 遠方
街路樹落葉今週はお金持ち 橘川芳子
街路樹落葉異国の厚い新聞買ふ 有馬朗人 母国
防空水槽街路樹これに映る 石塚友二
鶴は病めり街路樹の葉の灼けて垂り 鷹女
●飾窓
しろき息女優がのこす飾窓 宮武寒々 朱卓
をみならに春立ち急ぐ飾窓 林原耒井 蜩
年の瀬の夜となる早さ飾窓 立子
梅雨の飾窓カレーライスの皮に皺 香西照雄 対話
浴衣着し身のすずやかに飾窓 太田鴻村 穂国
羽子板は横顔ばかり飾窓 田代よし子
菊の飾窓虻摶つことをくりかへす 原田種茅 径
颱風禍鉢木色澄み飾窓 宮武寒々 朱卓
飾窓に帽子の咲く木巴里祭 宮脇白夜「緑酒」
飾窓に押されし花菜目をつぶる 田川飛旅子 花文字
飾窓の中に梯子や梅雨の漏り 宮武寒々 朱卓
飾窓夏蒲団欲し就中 石塚友二 方寸虚実
餅花を隅に垂らして飾窓 高濱年尾 年尾句集
●看板
お辞儀する工事の看板街薄暑 田村百合江
ぎつしりと金看板や寒の雨 川端茅舎
この暑さ町に看板ごてごてある 鈴木しづ子
しぐれる漁港「めし」の看板立てっぱなし 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
すげなきは酢の看板と冬の月 支考
ぬり立の看板餅や東風が吹 一茶 ■文化十二年乙亥(五十三歳)
めしといふ看板ありて道頓忌 草間時彦
ろうそくの絵看板より雪卸す 岩崎照子
上絵師の看板色なき風に長し 長谷川かな女 花寂び
乙鳥は金看板をよごすかな 野村喜舟 小石川
乳房と拳銃ばかりの看板東京涸れ 楠本憲吉
京振りの掛看板に飾かな 大谷句仏
仁丹の看板のこる野の錦 高澤良一 寒暑
仁丹の看板健在植田中 高澤良一 燕音
冬枯に看板餅の日割哉 一茶 ■文化二年乙丑(四十三歳)
南薫と看板黒し柿若葉 長谷川櫂 古志
占ひの看板へくそ葛かな 吉村玲子
右書きの看板はずす花曇 伊勢芳子
右読みの「めしや」の看板さくら二分 井上論天
名画座の看板古き朧月 市ヶ谷祥子
商ひの看板古りて年の市 曽田ハツ
城壁に看板立てて苗木市 平澤弘美
夏草や看板の字は逆から書く 田川飛旅子 花文字
夕立に看板の美女抱き入るる 右城暮石 上下
夜の雷看板多き街にはげし 成田千空 地霊
妻という一枚看板冬木立 石川桂子
建売りの看板目立つ冬はじめ 天野美代子
料理屋の看板吹くや春の風 春風 正岡子規
春風や紅看板の吹きながし 井月の句集 井上井月
朝寒や看板残る氷店 正岡子規
木枯や千金丹の看板に 田中冬二 行人
枯野中コイン洗車の大看板 金子佳子
浮寝鳥看板こけし茶店かな 清原枴童 枴童句集
海贏打つや虎蔵来るの絵看板 福島壺春
火事注意の看板かかげ山眠る 金元喜代子
熊笹に立てる看板たにし飯 京極杞陽
燕や酢の看板を抜けて行く 也有
牛肉の看板赤き柳哉 寺田寅彦
瓢箪の看板は何梅の花 梅 正岡子規
看板に山鳥つるや焼鳥屋 中山稲青
看板に町の未来図合歓の花 松田雄姿
看板のぽつりと示す登山口 山内 梓
看板の何も出て居ず種物屋 加倉井秋を
看板の傾きてゐる雀の子 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
看板の団子淋しき柳哉 一茶 ■享和三年癸亥(四十一歳)
看板の大羽子板の歌右衛門 中村吉右衛門
看板の未来図褪せぬ草いきれ 榮 猿丸
看板の糖尿病に雁木かな 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
看板の背骨西日に灼かれゐぬ 羽部洞然
看板の裏に親子が入りきり 坂間恒子
看板は住職の筆走りそば 藤本青舟
看板は鰯のように酔う娘 仁平勝 東京物語
看板や芝居の前の春の雪 獨吟 岡本綺堂
矢鱈赤き看板灼けて物価高 猿橋統流子
秩父颪看板に鳴る足袋屋かな 冬葉第一句集 吉田冬葉
素麺の看板ちかし削りかけ 素丸
絵看板潮噴く鯨が泳いじょる 高澤良一 寒暑
草枯れて看板の脚しかと立つ 伍賀稚子
蒙古医の看板かかげ花野中 田村了咲
袖看板の夏日くらくら電脳街 鈴木 烱
軍配の看板大きくちやんこ鍋 倉田静子
避暑客に掲ぐ看板「神戸牛」 高澤良一 燕音
雨あびて看板の雪ちとばかり 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
●銀行
にわとりの黄の澱み銀行休行日 山本奈良夫
偽善者の如銀行の聖樹かな 西村和子 夏帽子
冷房に背を剥がされて銀行出る 河合凱夫 飛礫
古町の小さき銀行暮早し 轡田 進
啓蟄や銀行前の沢庵売 沢木欣一
回転扉銀行貨幣を量りこぼす 片山桃史 北方兵團
大輪の菊銀行は根っこなし 森田智子
奇異な雨の大暗黒を銀行占む 堀葦男
山中に銀行ありし櫻かな 久保田万太郎 流寓抄以後
師走はや銀行よりの干支届く 井上美智子
年寒し銀行ばかりやたら建ち 久保田万太郎 流寓抄以後
慇懃に金貸す銀行出て寒し 相馬遷子 雪嶺
時雨きてどんぐり銀行閉店す 岡 汀子
漁夫の膚銀行を出るひっそりする 八木原祐計
白濁の銀行の性閉店後 鈴木六林男
相距つもの銀行と法師蝉 飯田龍太
短日の郵便局へ銀行へ 嶋田摩耶子
硬質の音量あふれ 春の銀行 伊丹公子 山珊瑚
第一銀行夜は手相見の春灯し 三好達治 路上百句
裏庭蒼い銀行の夕暮を持ち帰る 金子兜太 少年/生長
銀行がここにありしか柳の芽 永井龍男
銀行に入る蝶の見本を見るために 長岡幸子
銀行に口座開きて入学す 堀之内和子
銀行に強き妻なり日傘さし 高澤良一 素抱
銀行に泥を運んでいる燕 小林雪枝
銀行に落葉掃きたる竹箒 品川鈴子
銀行のくろがねの扉に虫売れり 宮武寒々 朱卓
銀行のたつた二枚の障子貼る 横溝養三
銀行の今日感謝デー花氷 元島八重
銀行の前に犬居り納税期 加藤石雲
銀行の前無数に除夜の店宥す 河野南畦 『焼灼後』
銀行の前草市の荷を開く 池内けい吾
銀行の秩序を雀ら遠巻く 和田悟朗
銀行の窓の葭戸や日の盛り 増田龍雨 龍雨句集
銀行の裏に鶏出て白穂の田 飴山實 『おりいぶ』
銀行の角曲りけり寒詣り 阿片瓢郎
銀行の軒に巣燕子を増やす 平野照子
銀行の鈍光浴びる粘る赤子 徳弘純 非望
銀行の鉄扉の前に草の市 近藤弘子
銀行の鎧戸借りて飾売 石川 矢
銀行の青い空気を吸うて みんなロボット 津田露色
銀行へ怪しき身なり花粉症 高崎和音
銀行も民家の構へひなまつり 宮坂静生 雹
銀行も茶舗も本屋も盆休み 辻田克巳
銀行も郵便局も雪卸す 佐藤五秀
銀行も雁木の一戸町雪解 皆吉爽雨 泉声
銀行をよごして砂糖黍しがむ 山口誓子
銀行一つ国境に雨冷ゆるかな 吉野義子
銀行内部猛禽類的高貴さ満つ 上月章
銀行街しぐれて艶歌通りけり 長谷川双魚 風形
雪がほんぶりになると三時の銀行の黒いシャッター 伊藤雪男
麗かや銀行三時には閉めて 鈴木栄子
鼠棲む百合が社章の銀行に 田川飛旅子 『山法師』
●皇居
今われ皇居にあり春灯の下にあり 高濱年尾
冬霞皇居は水をめぐらせる 大谷碧雲居
初旅や皇居の松を振り出しに 杉原昌子
千代田区をとぶは皇居の通し鴨 小野草葉子
友引の日暮皇居の水澄めり 鈴木鷹夫 春の門
定家忌へまかる左手の皇居かな 山口誓子
悴みて瞑りて皇居過ぎゐしか 石田波郷
振りあほぐ鴨に皇居の櫻かな 高澤良一 鳩信
新緑や皇居名残の霊柩車 渡辺水巴 白日
梅の門賀名生皇居と扁したり 大橋桜坡子
梅匂ふ賀名生皇居のありし跡 中御門あや
椋鳥あまた皇居の中に盆栽園 北野民夫
歳晩の皇居の松を仰ぐかな 長谷川かな女 雨 月
母老いて五月の皇居拝し得ず 萩原麦草 麦嵐
皇居てふ不思議な島の曼珠沙華 和田知子
皇居にも深落葉道陛下の道 誓子
皇居めぐる子の日の松のたぐひなし 長谷川かな女 雨 月
皇居前ペンペン草に巡査立ち 吉浜博太
皇居前広場の雨後の蟇 橋本榮治「逆旅」
皇居前手を振り歩く日永人 高澤良一 素抱
皇居前東西南北日永人 高澤良一 素抱
皇居拝して去る帰還兵日短き 渡邊水巴 富士
皇居辞し新樹に集ふ祝ぎ衣 藤田貞子
秋の夜の皇居につゞく沼澤地 横山白虹
蒲公英が何処にも咲いて皇居内 三谷貞雄
藻の花よ皇居にもこの山の池 瀧井孝作
貸ボート皇居は蒼き島となり 伊藤鶴子「未来図合同句集」
逢ひしのち松の股より皇居見る 嶋田洋一
雪解鳥皇居におちて盲かな 萩原麦草 麦嵐
●交差点 交叉点
きらきらとスクランブル交差点秋 川崎展宏 冬
シグナルの変り夏めく交差点 風間 圭
スクランブル交叉点赤春の月 石寒太 翔
スクランブル交差点真中に風邪の神 原清水
ダリの裸婦見て風死ぬる交差点 田口風子
プラタナス散る貧と富の交差点 吉原文音
マスクした顔が集いて交差点 由岐中陽子
一枚の青田は風の交叉点 加藤あけみ
交差点のまん中に来て秋澄めり 辻美奈子
交差点落花吹出し口となる 稲畑廣太郎
交差点踏み出す半歩街師走 小川濤美子
別の夜の見ゆる雪夜の交差点 田嶌恒子
別辞あり雪の構図の交差点 対馬康子 吾亦紅
四日朝雨止み日比谷交差点 加藤あきと
大綿のひとつが四条交差点 東浦津也子
師走もつともスクランブル交叉点 岩岡中正
日傘さして亡き母が往く交差点 長谷川治子
春雨やスクランブルの交差点 高井スミ子
東京に綿虫の飛ぶ交差点 山田閏子
満身創痍の散水車月光の交叉点に立ち上りたり 高瀬一誌
秋の灯やドラマの中の交差点 武石花汀
秋日傘スクランブルの交差点 江口さち子
聖夜スクランブル交差点の楽 長田等
行く年を尾行しがまかれ交差点 熊谷愛子
誰もゐぬ沼は蜻蛉の交差点 三浦明美
●興信所
●高層ビル
ビル高層友ら耳立て内部の滝 仲上隆夫
一驟雨高層ビルを壮とせり 高澤良一 ねずみのこまくら
寒夕焼高層ビルの玻璃弾く 井澗道子
春の宵高層ビルに迷い犬 伊藤真理
木の葉散り高層ビルは灯の柱 大島民郎
秋思ふと高層ビルの玻璃の壁 池田佳子
雷神の喝に高層ビル竦む 稲畑廣太郎
音もなく高層ビルの造り滝 金堂豊子
高層ビル札束のように完成す 峠谷清広
鰡飛べり高層ビルに囲まれて 満田春日
●紅灯
はだれ雪モンマルトルの紅灯に 荒木忠男
テレビ塔紅燈帯びて去年今年 百合山羽公 寒雁
對岸に紅燈ありて涼しさよ 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
川へだつ障子ぞ更くる紅燈忌 桂樟蹊子
柳青し紅燈七十二青楼 青柳 正岡子規
秋風も紅燈趣味もそれとなく 高澤良一 鳩信
紅灯忌川面にうつる二階の灯 中野あぐり
紅灯忌比叡の僧もきてゐたり 勝間公子
紅燈に水惹かれゆく秋の暮 澤田 緑生
紅燈のちまたにゆきてかへらざる人をまことのわれと思ふや 吉井勇
紅燈の丸山ちかき寝酒かな 上田五千石
麦笛や基地の紅燈はやともる 澤田 緑生
●小屋
あしおとかあらぬしぐれの小屋根越 室生犀星 犀星発句集
あらせいとう積みて海女小屋廃れをり 田中敦子
いち早く小屋がけ出来て年の市 高浜年尾
いとど飛ぶ轆轤小屋にも窯場にも 鈴木真砂女 夕螢
うさぎ小屋に春を陰気な兎たち 上野美智子
うさぎ小屋覗いてゆけり卒業子 永島理江子
うしろより霧を噴きゐる登山小屋 深見けん二
お化け小屋呼び込み男の甚平着 高澤良一 寒暑
お日待の芝居小屋組む刈田跡 猪俣千代子 秘 色
かまつかや寝台朽ちし外気小屋 小島千架子
からつぽの鶏小屋一つ松の花 三加茂和雲
くろかみを枕にのべし吹雪小屋 平畑静塔
この小屋を埋むる雪の尾根に来し 福田蓼汀 秋風挽歌
この焦土愛すれば小屋建てて棲む 中台春嶺
こほろぎや峡に無人の湯治小屋 木村芳雄
さなぶりに灯してありぬ牛小屋も 鏑木登代子
さびしいぞ越冬小屋のマヨネーズ 須佐薫子
じつくりと時代に遅れ登山小屋 仲寒蝉「海市郵便」
すがもりの小屋の戸叩く五十雀 田中豊季子
つと揚る詩吟や月の瓜小屋に 西山泊雲 泊雲句集
ともしびも蚊帳も露はに西瓜小屋 八木澤高原
のぞかれし小屋を炭焼いたく恥ぢ 戸田銀汀
のっけから神の留守なる家鴨小屋 沢田とよ子
のどかさや五器に飯ある乞食小屋 古白遺稿 藤野古白
はつ雪やおしかけ客の夜番小屋 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
ひるすぎの小屋を壊せばみなすすき 安井浩司(1936-)
ぶつぎりの馬鈴薯匂ふスキー小屋 林翔 和紙
ぼうたんを活けて織部の絵付小屋 篠田法子
まつさきに鳥追小屋を焼きにけり 瀧澤伊代次
まはりより苔這ひ上り岩魚小屋 大木格次郎
むささびの夜ごと飛立つ丸太小屋 竹内扶佐子
もうもうと寒天小屋の居沈めり 阿波野青畝
もろこし棲む大きな牛小屋小さな家 八木三日女 赤い地図
ゆふすげや音つつぬけに小屋の壁 堀口星眠 営巣期
よもすがら水湧く音や岩魚小屋 長谷川櫂 蓬莱
わが通る果樹園の小屋いつも暗く父と呼びたき番人が棲む 寺山修司
わくら葉のこぼれし音か流刑小屋 吉田紫乃
アイヌ小屋丸太の梁に鮭燻し 榎 美幸
キャンプ小屋内にて妻とすれ違ふ 加倉井秋を
クマゲラのノック嬉しや丸太小屋 津田清子
ゲレンデの医務小屋くもる湯気立てに 石垣青☆子
コスモスや豚小屋へ又子供達 西山泊雲 泊雲句集
サングラスはづし光太郎小屋の闇 蓬田紀枝子
シーサーの大屋根小屋根灼けゐたり 小元 洋子
スキー小屋若さ着ぐるみ蒸発す 津田清子 礼 拝
トタン小屋影を四角に草紅葉 舘岡沙緻
ボート小屋ボートとともに塗りかへぬ 加藤三七子
リラ咲くや野にこぼれ建つチーズ小屋 有働 亨
一人ゐて湯の花小屋の家根替ふる 軽部烏帽子 [しどみ]の花
一本の槲に小鳥牧の小屋 田中冬二 俳句拾遺
一泳ぎしてくればしたし葭簾小屋 川島彷徨子 榛の木
一番茶摘みて畑小屋水もなし 石川桂郎
七畳小屋へ雁寒と申すべく 島谷征良
七畳小屋闇に影なし柿落つや 及川貞
七輪の炭赫々と氷下魚小屋 千原瀟湘
万日の小屋もみえけり百千鳥 嵐竹 芭蕉庵小文庫
乙鳥に乙鳥いろの朝鮮人参小屋 高澤良一 ぱらりとせ
乙鳥や小屋の〔博〕奕をべちやくちやと 一茶 ■文化九年壬甲(五十歳)
亀鳴くや阿波に巳之助傀儡小屋 古舘曹人 樹下石上
二の小屋に行者まどろむ虎鶫 羽田岳水「胡笳」
亡き犬に犬小屋覗く寒さ哉 寒さ 正岡子規
人ありと見せる艸履や田番小屋 一茶
人の居る炭焼小屋をのぞきけり 富安風生
人はいざ鶯鳴くや樵夫小屋 尾崎迷堂 孤輪
今様の凧上りけり小食小屋 一茶
仮小屋に秋山欠けて峙ちぬ 高濱年尾 年尾句集
仮小屋の中の草喰む祭馬 中戸川朝人 星辰
仮小屋の柱になりし樗かな 楝の花 正岡子規
休漁の海女小屋を抜け松納め 岩田和子
佐保姫の砧をかくす舟の小屋 星野紗一
作小屋に雨月の酒の届きけり 古住蛇骨
俳小屋に夏座布団の散らかりて 高濱虚子
俳小屋の主なき遍路笠ひとつ 山田弘子 こぶし坂以後
傀儡師ものの怪抱いて小屋に入る 小林一鳥
僧正のいもとの小屋のきぬたかな 尚白
優曇華や産小屋に吊る力綱 加古宗也「八ッ面山」
元日の恋文持ちて杣小屋に 萩原麦草 麦嵐
元日の薪小屋にこゑみそさざい 小池文子
八荒の*えり小屋は戸を半びらき 関戸靖子
内干しの玉葱小屋の猛暑かな 藤田あけ烏 赤松
冬をはる尾長が紙漉く小屋に来て 皆川盤水
冬凪や閉して並ぶ海女の小屋 秋元草日居
冬川原広やかに建ちぬ芝居小屋 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
冬支度まづ犬小屋の向き変へて 続木 一雄
冬終る尾長が紙漉く小屋に来て 皆川盤水
冬近き薪は肉色霧巻く小屋 大井雅人 龍岡村
冬近し雲送りつぐ風車小屋 斉藤夏風
冬麗の影重ね合ふ湯華小屋 古賀まり子
凩や鉋屑舞ふ普請小屋 寺田寅彦
凩や開墾小屋の豆ラムプ 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
出作り小屋開く日群れて福寿草 茂里正治
初冬や干葉に塞がる小屋の口 篠原温亭
初富士に後ろ向なる渡舟小屋 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
初荷とて花苞編めり海女の小屋 笹本落葉子
初雪や網代の小屋の高鼾 ぶん村 十 月 月別句集「韻塞」
剪定夫野風呂をたてて小屋泊り 西本一都 景色
割木小屋籾殻小屋も秋山家 山田弘子 初期作品
北岳小屋八時消灯星月夜 田上悦子
十勝野のあるうま小屋の夕茜 細谷源二 砂金帯
南風や潮待ち並ぶ四ツ手小屋 楠目橙黄子 橙圃
友招く錦木紅葉今盛り 小屋 貞子
古るまゝに葛がくれなり岩魚小屋 水原秋桜子
古幟かゝげ入りける製茶小屋 長谷川かな女 雨 月
台風一過空つぽのあひる小屋 石崎四郎
君亡くて霜伏す小屋根連ねたり 森 かつみ
吹雪く夜の雷鳥小屋の灯に啼くか 石橋辰之助 山暦
味噌つきしことを知らせに山の小屋 萩原麦草 麦嵐
商もほどほどにあり葭簀小屋 小久保薫子
喞筒小屋覗けば去年の巨草みゆ 安井浩司 阿父学
四国三郎源流近し岩魚小屋 石原義輝
四温なり小屋より牛の尻見えて 大熊輝一 土の香
囮鮎売る小屋忽と生まれけり 佐宗欣二
土用波舟小屋に舟はみだして 加藤憲曠
地の窪に地の窪に小屋昆布干す 森田峠 三角屋根
地上まで氷柱さがりて無人小屋 有賀玲子
地下足袋を脱ぐ涼しさや牧の小屋 青柳志解樹
埋火や火を警むる秣小屋 埋火 正岡子規
堤防の下に小屋掛け白子干す 岸本隆雄
塩田小屋かまどの煤にいとど跳ぶ 鬼頭房枝
声高に海苔漉き小屋へ回覧板 赤松シゲ子
夏炉燃えお助け小屋と今も呼ぶ 岩崎照子
夏草にサーカス小屋の杭を打つ 小西魚水
夏草や海に傾く艀小屋 大野紫陽
夏雲や舟小屋のいまがらんどう 猿橋統流子
夕日向のみの犬小屋寒の入 香西照雄 素心
夕浪の無情に高き葭簀小屋 百合山羽公 寒雁
夕焼寒う杣小屋の大きな鋸 人間を彫る 大橋裸木
夕立の来さうな烏骨鶏の小屋 山尾玉藻
夕菅や開拓すてし小屋のあと 中村信一
夕霧のひかるむしろや芝居小屋 霧 正岡子規
夕露の光るむしろや芝居小屋 露 正岡子規
夜潮満つ香や舟小屋に恋の猫 慶伊邦子
夜芝居の小屋をかけたる樗哉 楝の花 正岡子規
夜鷹鳴き霧の吹き入る行者小屋 羽田岳水
大屋根の氷柱小屋根に届きをり 坂本山秀朗
大沢小屋目細遠鳴き日暮れつつ 岡田日郎
大綿や湯の町に建つ芝居小屋 矢崎てる女
大霜に楽がぬけ出て森番小屋 野澤節子 黄 炎
天草小屋羽目一面に波響く 川村紫陽
天草撰る坐り仕事や小屋の前 松本たかし
女手に犬小屋つくる葦平忌 横山房子
奴隷小屋ありし大地に冬の雨 仙田洋子 雲は王冠
妹に蛞蝓溶ける登山小屋 萩原麦草 麦嵐
家畜小屋竹馬の友とすれ違う 畑中 憲
家鴨小屋の白濁も見え鉄路の音 金子皆子
寒声や乞食小屋の娘の子 一茶
寒天小屋の匂ひなか〜馴染まざる 松尾緑富
寒天小屋出づる人影湯気曳きて 原 柯城
寒天小屋土間のくぼみを炉としたり 村上冬燕
寒天小屋寒天煮ずば乞食小屋 加藤かけい
寒天小屋棚に一枚男櫛 辻田克巳
寒天小屋男炊ぎの米こぼす 大橋敦子 匂 玉
寒天小屋裏漢のものの干しありぬ 大石悦子 群萌
寒天小屋覗き見て見ぬ顔をする 橋本美代子
寒天小屋隙間だらけの戸が重し 大橋敦子 勾 玉以後
寒月下幹影印し小屋傾ぐ 香西照雄 対話
寒満月湯小屋の棟に鹿の角 福田蓼汀 秋風挽歌
小さきラジオひとつの小屋の旱かな 石川桂郎 四温
小屋がけに無駄火焚くなり夕雲雀 柑子句集 籾山柑子
小屋がけのあともそこらに崩れ簗 福井圭児
小屋に人上つてをる下に焚火ある 京極杞陽 くくたち上巻
小屋に寝て深山の月を瞼にす 相馬遷子 山國
小屋に春呼んで雪割草ひと鉢 石川桂郎 高蘆
小屋ぬちに田舟乾ける深雪かな 猿橋統流子
小屋の上銀河懸ると思ひ寝る 福田蓼汀 山火
小屋の中楮を洗ふ水流れ 田畑比古
小屋の戸に枯野の道の曲りけり 柑子句集 籾山柑子
小屋の梁細目や秋蚕上蔟す 和久田隆子
小屋の灯赤し雪渓を来しわが頬に 岡田日郎
小屋を出てあるく簗番鷭の月 橋本鶏二 年輪
小屋を組む磧八十八夜かな 猪俣千代子 秘 色
小屋乗せて組む大いかだ秋の潮 赤松[けい]子 白毫
小屋傾ぎ十日戎の箕をかぶる 古舘曹人 砂の音
小屋入りや田植了へ来し木偶つかひ 小澤満佐子
小屋出でし鶏も闊歩や天高し 太田嗟
小屋掛けてゆるゆると老い西瓜売 鍵和田釉子
小屋掛けて牛市あての粕汁屋 浅賀渡洋
小屋掛けて茶市商人白地売る 下村ひろし 西陲集
小屋掛けのこぼれ役者が秋刀魚焼く 務中昌巳
小屋掛けの蕎麦屋一軒雪間草 岡本菊絵
小屋棲みに凛々と梅咲きめぐる 殿村莵絲子 花寂び 以後
小屋涼し花火の筒の割るゝ音 其角
小屋牛に干菜を食はす冬至かな 森澄雄
小屋組の真竹のあをし一の酉 塩谷はつ枝
小屋芸人先づは新樹に肌着干す 鍵和田[ゆう]子 未来図
小屋裏の夕ベいつまで目細鳴く 田上悦子
小屋隅に私用の小闇夏炉もあり 香西照雄 対話
小屋頭突く牛や颱風圏にあり 中島斌雄
小春日やもぬけの殼の犬の小屋 初川トミ子
小綬鶏の鳴く少年の隠れ小屋 中西しげる
小諸なる虚子俳小屋のやまかがし 宮坂静生 樹下
小鳥小屋飛騨街道も一目なり 松本たかし
小鳥来る嘉門次小屋の炉辺かな 西本一都 景色
尾瀬小屋の布団新しほととぎす 林田潤子
尾瀬沼の畔りの小屋に夏炉焚く 遠藤幸子
屋根低き物置小屋や桐の花 桐の花 正岡子規
山の小屋下界にはたた神が鳴る 志賀自朗(天狼)
山本の小屋を覗けば添水哉 正岡子規
山羊小屋に山羊の瞳のひそけきを我に見せしめし若き父はや 大辻隆弘
山負ひて鶴嘴小屋も輪飾す 石田あき子 見舞籠
山里や木小屋の中を蕗の川 飯田蛇笏 山廬集
山頂の小屋秋風につぶれたる 岡田日郎
山頂へ小屋の灯連ね富士涼し 伊藤いと子
山頂小屋天水桶に氷張る 成宮弥栄子
岩小屋に紅葉時雨をやりすごし 福田蓼汀 山火
岩稜に張り付き涼し北穂小屋 岡田日郎
岳人らみな小屋を出て虹仰ぐ 田上悦子「北岳」
岳烏さわがしき夜のスキー小屋 石橋辰之助 山暦
峠小屋きのふで閉ぢし野紺菊 星野恒彦
崖に倚る菊人形の小屋高し 菊細工 正岡子規
崖下の首括り小屋に西日炎ゆ 石原八束 『秋風琴』
崩れ簗崩れ番小屋在りにけり 草間時彦
市小屋に火ぶせの札や秋の風 維駒
帰省して村に与せず小屋棲ひ 竹下しづの女句文集 昭和二十三年
庄吉の小屋の前なる茸筵 比叡 野村泊月
強霜や野猿にもある仕置小屋 関森勝夫
後の月誰が鹿小屋の廻り番 水田正秀
思ひ羽を飾りて根雨の鳥見小屋 朝妻 力
恋の猫わがホ句小屋をのぞき鳴く 小原菁々子
愚かにも麦畑の小屋焼けにけり 尾崎迷堂 孤輪
懸煙草小屋の高窓ふさぎけり 遠藤孝作
戸口まで煤けてをりぬ岩魚小屋 神場さとる(橡)
拓地小屋呑んでなだるる枯尾花 斎藤由秋
採氷夫けもの引き連れ舟小屋に 新谷ひろし
撫し子や壁落ちかゝる牛の小屋 撫子 正岡子規
放牧の馬と昏れゆく昆布小屋 松村蒼石 雪
断崖にして浸蝕の鵜捕り小屋 東野庭子
新じゃが匂ふ塩焼小屋の厚き煤 沢木欣一
新藁の敷かれて仔牛の保育小屋 中村和子
新藁を積上げ匂ふ農具小屋 石上幸子
日々刈りて蘆原とほくなりし小屋 戸田銀汀
日もすがら小屋の牛鳴き残暑煮ゆ 中勘助
早苗饗は木小屋であるといふ案内 高木晴子 晴居
昆布小屋に寒気と父と籠りいし 鈴木青光
春の小屋ささくれてゐるシテ柱 吉原文音
春の山薪小屋建てゝかくれけり 柑子句集 籾山柑子
春の海のたり密航監視小屋 渡利佳子
春泥となる葭小屋のまはりかな 山本洋子
春浅し海女小屋にあるランドセル 河西ふじ子
春潮に向けて護符置く海女の小屋 長浜聰子
春潮や藁の戸を吊る鵜獲小屋 古舘曹人 樹下石上
春雨や埴生の小屋のさゝめ言 春の雨 正岡子規
春駒やよい子育し小屋の者 炭 太祇 太祇句選
昼顔やきのふ崩せし芝居小屋 昼顔 正岡子規
昼顔や舟小屋のなか砂白く 長谷川櫂 天球
時雨つつ竹真青なり四畳小屋 藤田湘子 雲の流域
晝顔に馬をつなげり砂鐵小屋 橋本鶏二
晩涼の蒼き樹海へ小屋煙 福田蓼汀 秋風挽歌
暖かや湯の花小屋の茅囲ひ 坂口三千代
月さして浜小屋ひとつ影を置く 谷中隆子
朝霧や一人火を焚く普請小屋 霧 正岡子規
木がらしや廿四文の遊女小屋 小林一茶 (1763-1827)
木の葉やく寺のうしろや普請小屋 焚火 正岡子規
木曽は秋薪小屋の猫薄目して 坂本礼子
木枯や二十四文の遊女小屋 小林一茶
木枯や鎖だけある犬の小屋 伊藤きぬ
木槿咲く年に一度の芝居小屋 加藤泰子
木樵小屋額の花枯れ水澄めり 瀧春一 菜園
朴若葉影絵のごとく霧の小屋 河野南畦 湖の森
杉葉もてもさと葺いたり小鳥小屋 松本たかし
杣小屋におとろへ動く牡丹かな 萩原麦草 麦嵐
杣小屋に椿の落花杣老ゆる 熊谷哲太郎
杣小屋に煙ひとすぢ斧始め 鈴木初男
杣小屋に隠し醸せる濁酒 目黒一栄
杣小屋の噴き立つ釜や雪の果 野村喜舟
杣小屋の掟三行そぞろ寒 檜 紀代
杣小屋の昼をぐつぐつ牡丹鍋 近澤杉車
杣小屋の灯とも狐火とも見ゆる 小川界禾
杣小屋は山の窪地に蚊吸鳥 人見幾生
杣小屋へ山吹草の雪崩咲 辻田克巳
杣小屋をゆすぶりに来る狸かな 平松竃馬
松隆とたつ月明の外気小屋 角川源義 『西行の日』
柊を挿して寒天小屋閉ざす 野崎ゆり香
柊挿す薬師寺見ゆる農具小屋 礒江沙知子
柚子光る養鶏小屋は廃屋に 櫻井満子
柳ちるや鉄瓶たきる渡舟小屋 月舟俳句集 原月舟
柴差のさしある小屋へ牛帰る 大城幸子
校庭の隅の鶏小屋雪残る 本庄登志彦
根小屋までうち下したるなづなかな 中村史邦
桃の花舟大工小屋の障子染め 石原八束 空の渚
桜蕊降る犬小屋に犬の貌 能勢真砂子
桜蕊降る舟小屋の真暗がり 高村 のぶ
梅雨晴や太鼓打ち出す芝居小屋 梅雨晴 正岡子規
椎榾の小屋の保温に岩木焚く 茨木和生 倭
楮晒す小屋を流れぬ冬の水 長谷川かな女 雨 月
樵小屋水音細く冬に入る 栗原澄子
橇立てて月の出おそき湯華小屋 渡辺 立男
機小屋の木端屋根打つ青胡桃 谷渡末枝
残雪に隅々見せて硫黄小屋 河野南畦 湖の森
残雪や固く閉ざされ火薬小屋 加藤知世子 花 季
比良颪*えり編小屋を吹き歪め 小林七歩
水仙や朝寝をしたる乞食小屋 素牛 俳諧撰集「藤の実」
水涸れて橋番小屋の冬ざれぬ 寺田寅彦
水番の小屋に置かれし聖書かな 倉富あきを
水番の小屋のラジオの英会話 荻野鷹生(運河)
江戸川や蘆刈小屋の残るまゝ 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
河鹿鳴く炭焼小屋の夜明哉 寺田寅彦
沼古りし芦の茂や四手小屋 子規句集 虚子・碧梧桐選
沼古りし蘆の茂や四手小屋 芦 正岡子規
波暮れて牡蠣打小屋に灯の点る 藤井すみ子
泣き声ののち牡蠣小屋の灯りけり 戸塚時不知
流刑小屋砧聞こえし夜もあらむ 三村純也
流刑小屋語るくさぐさそぞろ寒 山田弘子 こぶし坂
浜小屋に小舟おさまり注連飾る 加藤憲曠
浜小屋に残る手鏡磯開き 畑中次郎
浜小屋を網もて覆へる暑さかな 加藤憲曠「島の越」
浜木綿や磯小屋の火の暮れ残り 末永 てる
浜菊や流人小屋めく鵜捕り小屋 嶋崎専城
海一日あをく葭簾小屋かわける 川島彷徨子 榛の木
海女が住む埴生の小屋も土用干 高橋淡路女 梶の葉
海女小屋に人の声して海羅干し 市川翠洲
海女小屋に啓蟄の日の荒莚 角川春樹 夢殿
海女小屋に干されて細き命綱 小西麗子
海女小屋に年越す護符の釘を打つ 平川とおる
海女小屋に日脚伸びしを知らす鳶 町田しげき
海女小屋に無用の用の秋簾 小田実希次
海女小屋に甲乙丙の稲穂かな 攝津幸彦
海女小屋に軍鶏が顔出す花曇 梶原宇良
海女小屋の在りし地の焦げ鳥雲に 奥谷亞津子
海女小屋の扉口に飾るほんだはら 根岸 善雄
海女小屋の木枕にある秋西日 綾部仁喜 樸簡
海女小屋の榾火に交じる男衆 野島美津子
海女小屋の窓は全開金盞花 池田祥子
海桐咲き吹抜小屋に舟大工 北野民夫
海苔小屋をのぞき火の番返し来る 江口竹亭
涸沢小屋雪より起す五月来ぬ 望月たかし
混浴の小屋廃れあり梅雨のあめ 石川桂郎 高蘆
温泉の小屋を出でし裸や柿若葉 田中王城
湯けむりに湯小屋包まれ秋小寒 高澤良一 寒暑
湯の小屋の前は海峡青蜜柑 梅村達子
湯治小屋嘗て十六芒原 高澤良一 寒暑
湯畑の小屋をとんぼが押してゐる 攝津幸彦 鹿々集
湯華小屋かしぐ廂も菖蒲葺く 山野邊としを
満月や火の気のほしき小屋籠 石川桂郎 四温
溪流に洩れ日の揺れる岩魚小屋 由良つや子
漁具小屋の影うずくまる虎落笛 石川博司
漁小屋の一枚窓や冬の浪 楠目橙黄子 橙圃
漉小屋へひとりの幅の道下る 嶋田麻紀
炉に招じ小屋のどぶろく出して来る 小原菁々子
炎える昼牛小屋までの水こぼす 桂信子 遠い橋
炭を焼く生活の小屋にラジオ鳴る 坪井耿青
炭小屋にひそむ子二人かくれんぼ 高橋淡路女 梶の葉
炭小屋に根瘤みがきて「変木屋」 加藤知世子 花寂び
炭小屋に行く道除雪してあらず 茨木和生 野迫川
炭小屋の柱としたり山桜 瀧澤伊代次
炭小屋は粗末なるもの炭橇も 徳永玄子
炭焼きの小屋に白粥ふつふつと 辻岡紀川
炭焼の小屋に白粥ふつふつと 辻岡紀川
炭焼の小屋の岩波文庫かな 松重幹雄
炭焼の小屋の柱の懸鏡 清崎敏郎
無住小屋に道標あり山清水 大谷恵教
無造作に腸置かれ狩場小屋 池田由起
煙立つ長蔵小屋に岩つばめ 権太 郁子
熊の胆の少し売らるる霧の小屋 北見さとる
熊突が小屋にある時の眼鏡かな 小杉余子 余子句選
燒跡に小屋かけて居る寒さ哉 寒さ 正岡子規
燕来て草に影置く人夫小屋 古賀まり子 洗 禮
燭点し瓜番小屋に扉なし 町垣鳴海
父の日の隙間だらけの農具小屋 宇都宮 靖
牛小屋と壁一重なり施餓鬼棚 加藤康人
牛小屋にラジオ鳴りをり文化の日 武田忠男
牛小屋に出水の跡のまざまざと 棚山波朗「料峭」
牛小屋に寒波来てゐる大きな目 中村菊一郎
牛小屋に板の翼の扇風機 茨木和生 野迫川
牛小屋に牛のたくらん蚊遣かな 蚊遣 正岡子規
牛小屋に牛のつぐなる霜夜哉 霜夜 正岡子規
牛小屋に牛の新角山笑ふ 皆吉爽雨
牛小屋に牛ゐて曇らざる稲田 原裕 葦牙
牛小屋に牛寝て新婚蒲団干す 宮坂静生 青胡桃
牛小屋に牛形据うる朧めき 石川桂郎 含羞
牛小屋に町は盡きたり稻の花 稲の花 正岡子規
牛小屋に輪飾りをして耕耘機 柿村新樹
牛小屋のもつとも匂ふ夕立来る 清田松琴
牛小屋の三寒四温大尿り 鈴木築峰
牛小屋の壁にもかけし初暦 大隈米陽
牛小屋の夜からからと唐辛子 中拓夫 愛鷹
牛小屋の小戸を外しぬ出水急 三星山彦
牛小屋の屋根を野分にさらはれつ 寺田寅彦
牛小屋の梅雨の臭ひに堪へおはす 志城柏
牛小屋の氷柱を舐める牛の舌 浅川たけし
牛小屋の牛が貌出す花南瓜 柴田白葉女 花寂び 以後
牛小屋の牛が顔出す草の花 嶺 百世
牛小屋の牛に流れぬ石鹸玉 福島鼓調
牛小屋の牛に見られて独楽を打つ 大串章
牛小屋の留守に鹿鳴く紅葉哉 紅葉 正岡子規
牛小屋の盆灯かぶる一眷族 萩原麦草 麦嵐
牛小屋の藁敷きかへて亥の子かな 岡本高明
牛小屋の金具ひびけり星月夜 隈元一子
牛小屋は暮れつゝ山火いろめきぬ 五十崎古郷句集
牛小屋も灯りてうれし井華水 村山たか女
牛小屋をガレージがはり草いきれ 茨木和生 遠つ川
牛小屋を少し離れて韮畑 加藤宵村
牛群れて牛小屋ぬくし寒夕焼 相馬遷子 雪嶺
牡牛ゐて小屋軋まする梅雨驟雨 相馬遷子 山国
牡蛎小屋といへど客ある掛のれん 野村怜子
牡蠣小屋の暗きに赤子目をひらき 岸田稚魚
牧小屋を今日の宿とし天の川 野見山朱鳥
物掛けて板壁見えぬ海女の小屋 安田千枝子
犬の躯が充ちし犬小屋落葉する 内藤吐天 鳴海抄
犬小屋にへちま大きくぶらさがる 仙田洋子 橋のあなたに
犬小屋に入る児のゐて良夜かな 森 かつ子
犬小屋に扉のなくてクリスマス 土生重次
犬小屋に毛布の覗くクリスマス 石黒哲夫
犬小屋に猫来て眠る木の芽時 遠井雨耕
犬小屋に飼はれて羽抜鶏なりし 森元豊年(阿蘇)
犬小屋のブリキの屋根に一葉哉 寺田寅彦
犬小屋の中真暗や林檎咲く 阿部みどり女
犬小屋の屋根にもこぼれ柿の花 冨田みのる
犬小屋の屋根も明るう明月に 高澤良一 寒暑
犬小屋の板一枚の日除かな 小林澄子
犬小屋はいつもからつぽ柿の花 木村 さだ
犬小屋も葭簀の端に入れてやる 深野敦子「沖歳時記」
犬小屋より晩秋の吾が家を見る 夜基津吐虫
犬小屋を覗いてゆきし初雀 石田郷子
狩小屋の夜明なりけり犬の鈴 一茶
狩猟小屋銃窓に向き椅子二つ 笹原紀子
独楽木地師小屋へ雪虫の橋懸 石川桂郎 高蘆
独活小屋の掘つ立てぶりも春めけり 橋本榮治 越在
独活小屋の昼間の闇でありにけり 湯川雅
玉葱を一とまづをさむ小屋と聞く 鳥井春子
玉葱を吊るだけにある小屋傾ぎ 多田羅初美
瓜小屋にひとり肌ぬぐ月夜哉 月夜 正岡子規
瓜小屋に人あるさまの草履哉 瓜 正岡子規
瓜小屋に伊勢物語哀れかな 村上鬼城
瓜小屋に音なきよるの蛍哉 蛍 正岡子規
瓜小屋の月にやおハす隱君子 蕪村 夏之部
瓜小屋の月に臑抱き男かな 西山泊雲 泊雲句集
瓜小屋や溝のせゝらぎ枕元 西山泊雲 泊雲句集
瓜小屋や莚屏風に二間あり 村上鬼城
瓜小屋をめぐりて月の小溝かな 西山泊雲 泊雲句集
生徒らのしめ縄飾るうさぎ小屋 小野寿子
産小屋に吊られし黴の力綱 中山嘉代
産小屋に径はとだへし合歓の花 原裕 新治
産小屋に星の穴ある時雨寒 古舘曹人 砂の音
産小屋に煮炊きの跡や草の絮 桜井天留子
産小屋に背戸はなかりき冬の梅 古舘曹人 砂の音
産小屋に藁塗りこめて時雨寒 古舘曹人 砂の音
産小屋に顔を入れたる嚏かな 森田公司
産小屋の十坪に足らぬ隙間風 斉藤夏風
産小屋の寒き梁より命綱 中川志帆
産小屋の月日を返す時雨傘 古舘曹人 砂の音
産小屋の遺れり十薬咲くところ 富田潮児
産小屋は鍋釜伏せぬ油蝉 細川加賀
産小屋も墓も磯なる枯岬 古館曹人
産近き牛小屋で聞く除夜の鐘 乾佐知子
畑中に雪隠小屋の霞みけり 霞 正岡子規
番小屋に寝させてあるや日射病 宗田千燈
番小屋に昼は人なき火鉢哉 正岡子規
番小屋のすそにくる汐鮭の秋 井沢正江
番小屋も須磨の浦なる月明り 中川宋淵 遍界録 古雲抄
番犬が坐してまどゐの登山小屋 岩瀬 木蘭
疾く鎖す橋番小屋や寒の雨 会津八一
登山小屋丑三つ時を飯炊ける 福田蓼汀 山火
登山小屋地獄谷より湯を引きて 渡会 昌広
登山小屋男くさき灯ともしけり 長沼紫紅
白塗の門番小屋や桐一葉 寺田寅彦
白浪が見えて胡麻の花が暑い牛小屋 内島北朗
白鳥小屋尖塔持てり雪の晴 中戸川朝人 星辰
盆東風や艾草のにほふ海女の小屋 古川京子
目刺の香灯一色に素木小屋 香西照雄 対話
短夜や磧に灯る晒布小屋 野村喜舟 小石川
石工小屋毛布を張りし窓に梅 西本一都 景色
破れ小屋に瓦斯火目守りぬ春嵐 石川桂郎 四温
破魔弓や埴生の小屋の蜑が窓 松根東洋城
磐石に乗つかけてあり小鳥小屋 松本たかし
磯小屋に桜貝買ふ御前崎 河合佳代子
祖母谷の小屋の自慢の茸汁 町野好子
神棚に征露丸置き猟夫小屋 後藤青峙
秋しぐれ今や田を守る小屋がくれ 椎本才麿
秋風や土間も地熱の湯華小屋 斎藤朗笛
種牛は小屋で留守番赤のまま 石田勝彦
稲架小屋は壁なす早稲の香に満てる 堤高嶺
穂高小屋ザックに止まる岩ひばり 横森今日子
穂高小屋銀河に倚りて灯を点す 岡田 貞峰
積る落葉縄文小屋の屋根低し 大塚隆右
穴出でし蛇農小屋へ入りにけり 松下智恵子
穴釣の小屋滑り出す疾風来て 根岸善雄
穴釣の釣場を移る小屋曳きて 根岸善雄
穴釣りの小屋の灯れる阿寒かな 葛西節子
窯守の仮寝の小屋へ雪女 高野千代
立春大吉護符あたらしく金魚小屋 原 好郎
竹の小屋に横たへし身やいとど跳ぶ 石川桂郎 四温
笹小屋の風の笹音蝌蚪目覚む 大山クニ子
筍や藪をはなれて小屋の前 筍 正岡子規
篠小屋に石梨食うて擁かるゝ 萩原麦草 麦嵐
簗一つ打てば掘立小屋一つ 堀部克己
籾殻が小屋からあふれ竹落葉 香西照雄 対話
紅梅の一枝とどく楮小屋 野崎ゆり香
紙漉小屋の裏のぬかるみ梅眠る 鈴木鷹夫 渚通り
絶壁の忍路(おしょろ)の浜の鰊小屋 国松ゆたか
網小屋に飯噴いてをり島の秋 田沢公登
綿入や産小屋二代さかのぼる 斎藤夏風
綿虫や足音を待つ小屋ぐらし 石川桂郎 四温
緑陰に炭焼く杣の仮眠小屋 谷法幸
編みかけの毛糸を棚に海女の小屋 近藤巨松
美しき凧上りけり乞食小屋 一茶
老犬の小屋より出でず花木槿 林 久子
老犬寝がちその小屋塗りて年用意 及川貞 夕焼
耕牛へ牛小屋くらき口ひらく 青柳志解樹
胡桃・栗・花咲く小屋よ栗鼠呼んで 八牧美喜子
自在鉤に吊る蚋いぶし岩魚小屋 岸原枯泉
舟となるはずの木が夏小屋となる 依田明倫(俳句研究)
舟小屋に日の差しこめる仏生会 永野佐和
舟小屋に薺花咲く五月雨 佐野青陽人 天の川
舟小屋に藁火の匂ひ良寛忌 本宮哲郎
舟小屋のうしろ日蔭の花南瓜 上村占魚
舟小屋の中見えてをり秋の暮 木村里風子
舟小屋の柱は丸太初明り 川上季石
舟小屋の舟を離さぬ夕芒 長谷川秋子
舟小屋の魔除に吊りし花芒 茨木和生 遠つ川
舟虫や砂上に易々と小屋組まる 平井さち子 完流
船つきの小島を控へ鯡小屋 岡野知十
船小屋にのさばりかへる女郎蜘蛛 島田宣子
船小屋のありて枯野の水添へる 瀧春一 菜園
花ミモザ樹下に犬小屋黒い犬 成瀬正とし 星月夜
花冷えや輪中に古りしポンプ小屋 後藤和朗
花桃のただなかの小屋倒れさう 長谷川櫂 天球
花葵仔犬の小屋をこゝに置く 星野立子
花蜜柑がくれに小屋に子を産みに 加倉井秋を
花蜜柑隠れに小屋に子を産みに 加倉井秋を 『真名井』
茱萸噛んでみな産小屋のはらからぞ 本田静江
草茂る舟小屋葛の蔓も延び 村上冬燕
荒東風や松葉をかぶる鵜獲小屋 古舘曹人 樹下石上
荒波や風垣高き塩煮小屋 不破幸夫
菊の香や踏切小屋の赫きに 野村喜舟 小石川
菊咲くや大師の堂の普請小屋 菊 正岡子規
菖蒲葺く小屋より田舟卸しけり 河前 隆三
菜の花ひといろの野小屋へ骨休めに来る 人間を彫る 大橋裸木
菜の花や小屋より出づるわたし守 中村史邦
葭小屋に声かけてゆく梅見かな 山本洋子
葭小屋の小窓ひとつやつづれさせ 奥田 滋生
葭簀小屋犬が筋斗うち戯れ 下村槐太 天涯
葭雀や弁當すみし作事小屋 井上井月
蓆戸の下に足見え藺小屋かな 高野素十
蓮池の寺をぬければ芝居小屋 中村吉右衛門
蓼の花小屋一杯の舟作る 堤 京子
蔦若葉小屋の破れを包みけり 桜堂治子
薔薇園の小屋の中なる電話鳴り 深見けん二
薪小屋と母家の間や天の川 小澤碧童 碧童句集
薪小屋にぶらんこ下がる小春かな 大森桐明
薪小屋に雀よく来る一茶の忌 森山暁湖
薪小屋の上に盆墓すこしあり 大峯あきら 鳥道
薪小屋の戸口にかゝる毛皮かな 大橋櫻坡子 雨月
薪小屋へ雪崩咲きたる山吹草 勝又一透
薪積みて小屋人気なき谷小春 福田蓼汀 秋風挽歌
藁に葺く鶏小屋牛小屋桃咲けり 中戸川朝人 残心
藁小屋に湯の花ねむる虎落笛 大島民郎
藁小屋に鳶口を挿す松の内 古館曹人
蚊ばしらや名月纖き牛の小屋 幸田露伴 拾遺
蜑小屋に赤子が泣けり夜の根釣 戸川稲村
蜑小屋の屋根に石置く鮭颪 花木研二
蜑小屋も花圃もわかたず魚を干す 和田ゑい子
蜑小屋を風の素通る磯開き 村岡 悠
蜘蛛の囲の待たむ七畳小屋如何に 石川桂郎 高蘆
覗き窓一つある小屋海苔を漉く 右城暮石 上下
観察小屋窓を覗けば鴨ばかり 高澤良一 宿好
誰が弾く三味線かかる夜なべ小屋 木村蕪城 一位
誰もゐぬ月の光の葭簀小屋 長谷川櫂 天球
誰も居ぬ船小屋のあり蘆枯るゝ 江口文男
論文了へただ明るきは夜番の小屋 香西照雄 対話
議論はじけおりえごの香に灯洩らす小屋 赤城さかえ句集
谺も不在雪渓垂らし針の木小屋 宮津昭彦
豚小屋に潮のとびくる野分かな 篠原鳳作 海の旅
豚小屋の屋根に垂れたる熟柿哉 寺田寅彦
豚小屋の軒につえたる熟柿哉 寺田寅彦
豚小屋も夜は寝沈む天の川 遠藤梧逸
赤かぼちや開拓小屋に人けなし 西東三鬼
赤腹のキヨロンと覗く搾乳小屋 松崎鉄之介
走り根の閾露ぐむ市子小屋 成田千空 地霊
走り梅雨太薪けむる牧の小屋 皆川盤水
起し絵を小屋に見かけし渡舟かな 雑草 長谷川零餘子
踊花金毘羅小屋に歌舞伎来る 渡辺恭子
踏まれず雪団結小屋に婆らは居ず 古沢太穂
身ひとつを入れ風除の四手小屋 福田蓼汀 山火
辺戸人の牛小屋に柴差しゐたり 松永 麗
辿りゆく嘉門次小屋や葛の花 吉田百合子
運動具小屋にもつとも西日かな 加藤 朱
郁子の実の垂れし人なき山の小屋 荒 久子
醤油くむ小屋の境や蓼の花 其角
野水仙海女の掛小屋閉じしまま 土屋恒代
野菊晴舟小屋あけて風通す 飯塚雅子
野鍛冶小屋筍掘りが来てをりぬ 大石悦子 群萌
金毘羅の神饌田小屋あと薺萌ゆ 水田千風
金鳳花群れて垣なき牧夫小屋 松本みどり
針供養芝居小屋より女来て 寺崎治郎
銀河の尾しぶく小屋にて交信す 小林樹巴
門松の立つ白鳥の餌付小屋 山崎羅春
開け閉てに鳴く笹小屋の扉や地虫出づ 河村 翠
開墾小屋の孤影に陸稲照り映えぬ 滝春一
阿佐ケ谷や小屋の裏には春の疊 内田百間
除雪夫の小屋に湯気立つゴム合羽 山崎羅春
陸奥湾の霧押し寄せる侫武多小屋 古市文子
隅作りゆく霧や牧の小屋々々に 久米正雄 返り花
隙多き寒天小屋の夜は如何に 久保佳子
隙間風藻屑で塞ぐ海女の小屋 福田邦子
雁小屋のあらはになりぬ別れ霜 白雄
雁装束掛けて番小屋 片時雨 伊丹公子 時間紀行
雑魚寝する海女小屋さそり居りにけり 中島達夫
雨あがるまでのにぎはひ登山小屋 阿部子峡
雨漏りにランプを移す鮭の小屋 田中冬二 行人
雪に棲み小屋番祈ることありしと 岡田日郎
雪の樹々春日とゞかざる小屋を置く 石橋辰之助 山暦
雪やんでゐたりしスキー小屋につく 波多野爽波 鋪道の花
雪代の激ちのかかる狐小屋 宮坂静生 春の鹿
雪代をひきて炊ぎの出作小屋 石川文子
雪原や小屋に刃物を閉じ込めて 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
雪女郎の夏やすらぎの硫黄小屋 河野南畦 湖の森
雪山の虚ろに炎立つランプ小屋 原裕 青垣
雪沓の揃えてありし木地師小屋 田口風子
雪渓のさやぐ音のみ小屋泊り 堀口星眠 営巣期
雪解川轟きゐたり流刑小屋 岡田加代
雪解風紙漉小屋をゆさぶりぬ 森重昭
雪雫したたる小屋に馬の顔 鈴木ヒサ子
雪靴のまま産小屋にのこさるる 古舘曹人 砂の音
雲取小屋朝一片の雑煮椀 渡辺立男
雷に小屋は焼れて瓜の花 蕪村
霧流るる百軒洞小屋ゆふべ来ぬ 岡田日郎
霧深しと言ひ小屋番と犬と戻る 岡田日郎
露ほとびやぶれかぶれの蓆小屋 成田千空 地霊
霾やひよこ固まる小屋の隅 田中俊尾
霾るやひよこ固まる小屋の隅 田中俊尾
青田波ポンプ小屋へと寄せにけり 大野信子
風化してゆく篠小屋の月見草 萩原麦草 麦嵐
風花にやがて灯りぬ芝居小屋 松本たかし
風除や蜑の小屋よりやゝ離れ 高浜虚子
駒鳥や土間に餅売る行者小屋 南野和歌子
魚油燻る木具小屋出でず冬の蠅 長谷川かな女 花 季
魚津八月見て舟小屋の裏ばかり 宮坂静生 樹下
鮒鮨はむかうの小屋にいのこづち 榎本 享
鮭のぼる気配満たして拝み小屋 加倉井秋を
鮭小屋の仮寝の夜具か片まくり 大畑善昭
鮭小屋の戸に砕けたる氷かな 雉子郎句集 石島雉子郎
鮭小屋の舟の出ぬ日は炉を焚きて 高橋 卯木
鮭小屋へ鮭のにほひの靴を脱ぐ 岡田史乃
鮭小屋を眺めて下る夜船哉 会津八一
鮭番の小屋が芒の中にあり 長谷川櫂 天球
鰻選る涼しき小屋のなまぐさき 百合山羽公 寒雁
鳥追小屋歳神の座を切株に 八牧美喜子
鳩小屋に秋夕焼を賜はりぬ 石田波郷
鳳凰小屋五月の星の渦の中 渡辺立男
鴈小屋のあらはになりぬ別霜 白雄
鵙の贄閉ぢし田小屋の戸の釘に 太田嗟
鵙高音農機具小屋に真昼の日 田野井一夫
鵜の小屋に燈明一つ年は逝く 松井慶太郎
鶏小屋につららの太りゆく月夜 根岸善雄
鶏小屋に兎も四五羽夏休 生駒清三
鶏小屋に篠つく雨の盆休み 松本貴好
鶏小屋に飼はれて犬の夏痩せぬ 宮坂静生 青胡桃
鶏小屋に鶏ををさめて旱星 今瀬剛一「大祖」
鶏小屋に鶏閉ぢ込めてたばこ播く 佐藤安憲
鶏小屋のことにかまけて三日かな 高浜虚子
鶏小屋の屋根の古注連嶺嶺そそり 木村蕪城 寒泉
鶏小屋の屋根より乗りぬ竹馬に 増澤和子
鶏小屋の端に結びて鳴子縄 柳澤みはら
鶏小屋の網から逃げし寒雀 村上光永子
鶏小屋の脇にしつらふ鼬罠 岩島畔水
鶏小屋の鶏うごきゐる萩月夜 本庄登志彦
鶏小屋の鶏の名覚え一年生 本庄登志彦
鶏小屋の鶏は口開け暑に耐ふる 富田範保
鶏小屋の鶏を攻めゐし血ぶくれ蚊 大熊輝一 土の香
鶏小屋まで来て豆撒きの終りけり 石鍋みさ代
鶏小屋も麦打つ埃舞ふあたり 松林尚志
鶏小屋や二百十日の恙なく 野村喜舟 小石川
鶏小屋をここにうつして瓜の花 中村吉右衛門
鶯も笠着てあがれ小屋のやね 立花北枝
鶺鴒や屋根に石置く筏小屋 小波
鷹番や小屋の住居も冬籠 笑工 選集「板東太郎」
鹿小屋の声はふもとぞ庵の客 内藤丈草
鹿小屋の火にさしむくや菴の窓 内藤丈草
鹿小屋も修復次手や秋の風 中村史邦
鹿小屋や花は山田の鵺(ぬえ)の声 水田正秀
鹿小屋を葺く刈萱をたばねけり 古川芋蔓
黒百合小屋五月五日の布団干す 渡辺 立男
鼻曲り鉈木地小屋の時雨くる 石川桂郎 高蘆
●盛り場
盛り場に隣る鳥居や神の旅 浜崎壬午
盛り場の片陰を母死せる齢 橋間石「無刻」
盛り場の裏くらがりに春の星 福田蓼汀
●雑踏 雑沓
うつつや冥き無言の雑踏地蔵盆 成田千空 地霊
ゆく年の娼婦雑沓にまぎれぬる 岸風三楼 往来
ポインセチア雑踏の踏む力かな 瞳 一如
中国の雑踏に買ふ栗小粒 犬伏幸枝
八月の雑踏に来てわが耳へもっとも近き死者を呼び出す 田島邦彦
古書街の雑踏というわすれもの 高橋比呂子
夕暮を負い雑踏のひとりたり 鳴戸奈菜
懐手して雑踏を逆らへる 浜田和子
日記買ひ夜の雑沓に紛れけり 星野 高士
春の雑踏少年龍を思い立ち 和田悟朗
桃売の夜の雑踏ににほふなり 辻桃子
桜餅買ひ雑沓に流されぬ 宮坂静生 青胡桃
梅雨の雑踏よりチェーホフ祭に加はる 伊藤敬子
棕梠の日の雑踏に喉乾きけり 柏原眠雨
歳晩の雑踏故人まぎれぬる 山口青邨
母の日の来る雑踏裡塩を買ふ 殿村莵絲子 雨 月
水仙の香の雑踏の中にあり 石田郷子
氷塊を挽く雑沓の中に立ち 右城暮石 上下
父の日の余りし刻を雑沓へ 友永佳津朗
白日傘すぐ雑踏に紛れけり 中里 孝
盆僧の羅硬し雑踏裡 殿村莵絲子 花寂び 以後
祭馬ひいて天満の雑沓に 土山紫牛
竪機の音かと 雑踏を抜ける風 伊丹公子 山珊瑚
羽子板市の雑踏にゐて首寒し 永方裕子
羽根折れ天使みた 教会バザーの雑踏で 伊丹公子 陶器の天使
船頭帽子かぶつて冬夜の雑踏へ来た 人間を彫る 大橋裸木
蒸鮓の浪速の湯気を雑踏に 藤村克明
赤い羽根つけ再びの雑踏に 小島左京
足袋脱ぐや汝が肩埋めしかの雑踏 香西照雄 対話
転勤雑沓駅の硝子は耳で埋まる 寺田京子 日の鷹
追儺会のこの雑踏に鬼もゐる 塩川雄三
野いばらは聖母の龕や雑沓に 小池文子 巴里蕭条
雑沓に時たま売れてゆく暦 牧野愛子
雑沓の中に草市立つらしき 高浜虚子
雑沓の吉兆にふれ傘にふれ 田畑美穂女
雑沓の名残り猶あり夕月夜 中口飛朗子
雑沓や街の柳は枯れたれど 高浜虚子
雑沓を出て碧空の寒さかな 中島月笠 月笠句集
雑沓を見て傘役の日向ぼこ 西本一都 景色
雑踏が祇園祭となりにけり 稲畑汀子
雑踏と別に空あり揚花火 稲畑汀子
雑踏におのれを暗く暦売 鷹羽狩行 六花
雑踏に人影交錯して冬へ 谷口えい子
雑踏に托鉢の鐘白露かな 松浦都也
雑踏に捨てし愁ひや柳散る 鈴木真砂女
雑踏に童女の手套踏まれづめ 品川鈴子
雑踏に紛れきれざる寒さかな 片山由美子 風待月
雑踏のお閻魔さまへ汗かきに 山口青邨
雑踏のなかにあがる手黄落期 千葉皓史
雑踏のみるとみらいの松の内 小山耕吟
雑踏の三社祭が動きゐし 稲畑汀子
雑踏の中の孤独や春愁い 井上かつ枝
雑踏の更に雑踏初戎 新子禎自
雑踏の渦くぐり抜け日記買ふ 佐藤美恵子
雑踏へ花売車押し入れよ 香西照雄 対話
雑踏へ鵙の鋭声がきらきら降る 坂戸淳夫
雑踏も潮のにほへり一の酉 蓮尾あきら
雑踏やラムネの泡と空の色 永方裕子「麗日」
雑踏や佞武多を惜む人々に 佐藤静良
雑踏や桐の一葉に敲かれし 鈴木六林男 王国
雑踏や街の柳は枯れたれど 高浜虚子
雑踏をゆく牡蠣提げし右手冷え 佐野美智
雑踏を一直線にパナマ帽 山田一男
雑踏を出て来し胸に赤い羽根 長田等
雑踏を夫にかばはれ初戎 上野美代子
雑踏を抜け寺町へ蕪村の忌 大山清治郎
雑踏を抜け敗戦の日の画廊 門 みのる
雑踏を見てゐる屋根の師走猫 猿橋統流子
雑踏を足で見ているはつなつ 金城けい
雑踏を顔の流るる羽子板市 片山由美子 風待月
雨の雑踏雨衣より垂れ労働者の手 鈴木六林男 桜島
雪ながら初金毘羅の雑沓に 池田光枝
雪祭去り雑沓を持ち去りし 嶋田摩耶子
香奠懐ろにして冬夜の雑踏を抜ける 人間を彫る 大橋裸木
駅雑沓どこかで栗のはなさける 『定本石橋秀野句文集』
骨董もならべ雑踏初金毘羅 小川濤美子
●サンドイッチマン
サンドイツチマン道頓堀に師走来る 越智協子 
台風過サンドイッチマン歩みそむ 森田峠 避暑散歩 
新橋の驛前夜寒のサンドヰッチマン 高澤良一 寒暑 
日脚のぶサンドイッチマンマッチ呉れし 有働亨 汐路 
月夜の人ごみのサンドウヰツチマンにぶつかつた 人間を彫る 大橋裸木 
鰯網干しありサンドヰッチマン通り 高濱年尾 年尾句集 
●自動ドア
両手の荷 自動ドアにおじぎして 近藤三知子
初雪を払へば自動ドア開く 斉藤博子
夏やせの遅れて開く自動ドア 小俣由とり
夏期講座開閉しげき自動ドア 渋川 絢
夏立つやわがために開く自動ドア 浦川哲子
子燕を真上に菓舗の自動ドア 庄司栄子
極月や犬にもひらく自動ドア 三田きえ子
緑さすモデルルームの自動ドア 高田敬子
自動ドアはじかれ出でて炎天下 渡辺 立男
自動ドア一寒行に開きたり 肥田埜勝美
自動ドア付けて老舗のさくら餅 八巻絹子
自動ドア祭のサンバ繰り出せる 品川鈴子「真澄」
自動ドア過敏にあくや君子蘭 星野恒彦
自動ドア閉ぢて寒雲また映す 松倉ゆずる
自動ドア開きひらりと黄葉入る 小池尹子
自動ドア開くたびにクリスマスツリー在る 阪倉研伍
風船かづら小犬に開いて自動ドア 長崎小夜子
●シャッター
シャッターを閉ざし神輿の冬籠 太田常子
休日のシャッター灼ける問屋街 西村和江
初売のシヤツター一気に押しあぐる 沢田早苗
朝晩を仕切るシャッター文化の日 折原あきの
朝涼し新居のシャッターすべりよく 野本礼子
雪がほんぶりになると三時の銀行の黒いシャッター 伊藤雪男
●出版社
●娼家
いま獲れし鮃のとどく娼家かな 皆川盤水
くだら野や頼めて来ぬる灯は娼家 庄司瓦全
この頃の師走さびれや娼家の灯 富田木歩
ひまはりを植ゑて娼家の散在す 鈴木しづ子
七夕の竹も田中の娼家かな 松原射石
冬かもめ明石の娼家古りにけり 石原八束 『秋風琴』
冬鴎明石の娼家古りにけり 石原八束
凩に詠唱さるる夜の娼家 松澤昭 神立
初潮にものを棄てたる娼家かな 日野草城
娼家の灯寒鰡つりにはやともり 吉川葵山
娼家見ゆ陽を蝕みて生くる日々 三谷昭 獣身
春を待つ漁港の娼家はなやぎぬ 西島麦南 人音
橇用意して娼家ある深雪かな 森川暁水 黴
沙魚釣るや噂に高き江の娼家 雑草 長谷川零餘子
町寒く機屋と灯る娼家あり 森川暁水 黴
白魚舟娼家の沖にかゝりけり 鬼城
籠の蟲の聲洩れ来るや娼家の灯 富田木歩
花烏賊を釣る灯陸には娼家の灯 堀井春一郎
葉鶏頭墓地のみ残し娼家満つ 肥田埜勝美
蟻地獄娼家のごとく並びたる 西山誠
行人の螢くれゆく娼家かな 木歩句集 富田木歩
道中の娼家の鏡かがやける 平畑静塔
鰒の座に娼家の通夜の鉦きこゆ 西島麦南 人音
●証券会社
●昇降機
さつき闇巫女あらわれる昇降機 市原正直
ひとり乗る真冬の奈良の昇降機 原田喬
八階へ春晝遅々と昇降機 吉屋信子
初髪の残り香ほのと昇降機 渡辺 笑子
参観の昇降機あり梅雨の城 宮武寒々 朱卓
受験子をひとり乗せたる昇降機 横山房子
古書市の黴の香に開く昇降機 深谷雄大
啓蟄や釦で呼ぼう昇降機 町田しげき
少年の蝉鳴き出づる昇降機 山岸治子
数へ日の奈落へそそぐ昇降機 藤井照子
新社員交へて今朝の昇降機 高澤良一 ももすずめ
昇降機うなじの線のこみあへる 篠原鳳作 海の旅
昇降機けぶる氷柱のせ来る 藤田宏(澪)
昇降機しづかに雷の夜を昇る 西東三鬼(1900-62)
昇降機一基はビヤガーデンのため 池田秀水
昇降機又も軽羅の人や吐く 久米正雄 返り花
昇降機吸はれし闇のむらさきに 篠原鳳作 海の旅
昇降機吸はれゆきたる坑にほふ 篠原鳳作 海の旅
昇降機城より高く日脚のぶ 石原英子
昇降機夏帽の人と灯り去る 池内友次郎 結婚まで
昇降機春の驟雨の音にひらく 石田あき子 見舞籠
昇降機来て止まりをり夜業果つ 大枝涓二
昇降機空で降り来し日永かな 吉屋信子
昇降機聖誕祭のとつくにびとと 山口誓子
昇降機脚にまつはる吾が子呂と 篠原鳳作 海の旅
昇降機花火の空へ上りゆく 丸山了
昇降機菊もたらせし友と乗る 石田波郷
昇降機降り玩具のピアノ鳴らす梅雨 宮武寒々 朱卓
春雨に人どこか濡れ昇降機 深川正一郎
朧夜の体臭のこる昇降機 黒瀬としゑ
死者入れて音なし月夜の昇降機 古賀まり子
煖房や扉あけてやすむ昇降機 山口波津女 良人
矢の如くビヤガーデンヘ昇降機 後藤比奈夫 初心
秋の暮昇降機より配膳車 小林幹彦
立春の一気に上がる昇降機 岩岡中正
色あふれ成人の日の昇降機 斎藤道子
花の夜や思はぬ客と昇降機 河野南畦 『硝子の船』
街おぼろ硝子張りなる昇降機 北元 多加
●白壁
あしかびや白壁のぼる水陽炎 神蔵 器
あたゝかに白壁ならぶ入江哉 暖か 正岡子規
ざぶざふと白壁洗ふ若葉かな 一茶
つるし柿陽の白壁に老婆溶け 大井雅人 龍岡村
のどかさや昼は白壁夜は灯 長閑 正岡子規
ほほけた草を刈つてしまつた白壁 人間を彫る 大橋裸木
もう鳴かぬ蟲白壁は日を溜めて 松村蒼石 雁
タイプの音ひびく白壁薄暑来ぬ 大井雅人 龍岡村
トマト炸裂教会の白壁に 今井 聖
今日も生きて虫なきしみる倉の白壁 尾崎放哉
倉敷の白壁家並柳絮とぶ 中林健人
厠蔵白壁に年あらたまる 下田稔
吾れに白紙蛾に白壁のしろき夜が 鷹女
夕焼のにじむ白壁に声絶えてほろびうせたるものの爪あと 前川佐美雄
大寒の空の白壁日もすがら 阿部みどり女
家成りて春の白壁鏡なす 高橋克城
春立てり野の白壁の暗き方 千代田葛彦 旅人木
枝蛙居たり塔頭の白壁に 尾崎迷堂 孤輪
毛虫焼く焔の首尾を白壁に 中戸川朝人 残心
洗濯屋白に疲れぬ白壁冴え 香西照雄
浴衣着て四角白壁部屋ごもり 林翔 和紙
渋濯屋白に疲れぬ白壁冴え 香西照雄 素心
満月を上げ白壁の蝋屋敷 清水美和子
燕や白壁見えて麦の秋 麦秋 正岡子規
独楽抱いて帰る白壁が痛い 村上雅子
畳畳と照る白壁や朱欒割く 小池文子 巴里蕭条
白壁がこんなに続くのも愛か 大西泰世 椿事
白壁が廻る廻るよ秋の風 阿部みどり女
白壁と冬空の壁人死せり 阿部みどり女
白壁にあをじ映れる光琳忌 石寒太 あるき神
白壁にかくも淋しき秋日かな 前田普羅
白壁につゝじ咲たる庄屋哉 つつじ 正岡子規
白壁にひたと影置く枇杷の花 阿部みどり女
白壁にひゞく蘇州の水砧 森田峠 逆瀬川
白壁にわが影折れて島小春 植田桂子
白壁に影歩ませる冬日かな 山下芳男
白壁に月さやかかる野分かな 岡本松浜 白菊
白壁に氷遠にとまれる蝿を見き 白泉
白壁に消えも入らずに毛糸編み 平畑静塔
白壁に濁の一点寒波来る 橋本榮治 麦生
白壁に白服うつる真田町 田中三二良(屋根)
白壁に秋逝かんとす武家屋敷 山田弘子 初期作品
白壁に蜂がぶつかる藤の花 鈴木鷹夫 渚通り
白壁に蜂つきあたりつつ入日 桂信子 黄 瀬
白壁に蜻蛉過る日影かな 黒柳召波 春泥句集
白壁に見失ひけり歸り花 帰り花 正岡子規
白壁に雨のまばらや初嵐 西山泊雲 泊雲句集
白壁に雪ちりかかる都かな 闌更
白壁のあれば水影枯柳 世古諏訪
白壁のかくも淋しき秋日かな 前田普羅
白壁のそしられつゝもかすみけり 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
白壁のふゑる町あり年のくれ 年の暮 正岡子規
白壁のままに倉古る寒造 榎本冬一郎
白壁の一閃二閃夏つばめ 村上良三
白壁の倉を見当てに水見舞 今村野蒜
白壁の割れ一筋に仏の座 古屋村木
白壁の囹圄白息紛れやすく 香西照雄 素心
白壁の影をひき据ゑ蓮開く 西村公鳳
白壁の日は水のよな深雪かな 佐野良太 樫
白壁の焔硝蔵や雲の峯 寺田寅彦
白壁の町を旅してサングラス 森田峠 逆瀬川以後
白壁の白あふれだす春の暮 岩井三千代
白壁の白暮れのこり鴎外忌 若井新一「雪田」
白壁の眩しき蔵や夏きざす 渡辺喜久子
白壁の蔵にいかりの子蟷螂 雨宮抱星
白壁の蔵の高窓枇杷熟るる 松尾照子
白壁の蔵囲みをり秋桜 須藤繁一
白壁の街に売らんと鴎鳴かす 山中葛子
白壁の里見くだしてかんこ鳥 一茶 ■文化九年壬甲(五十歳)
白壁は女泣く場所卯浪みえ 福田甲子雄
白壁は秋空のある窓に厚し 池内友次郎 結婚まで
白壁へ影が月から一本の電話線で 渡辺砂吐流
白壁へ歩みて消えてしまふ冬 鈴木鷹夫 千年
白壁や子供がすさみ筆始 黄口
白壁や青葉明りの秋篠寺 大河内京子
白壁をすばやく過ぎし秋弱日 岸田稚魚 筍流し
白壁をキャンバスにして蔦紅葉 大澄利江
白壁を映す外濠鴛鴦泳ぐ 高井のぶを
白壁を汚さぬやうに燕の巣 鷹羽狩行
白壁爽か大時計の秒針が赤 池内友次郎 結婚まで
白壁高高と爽か大階段 池内友次郎 結婚まで
秋の日の白壁に沿ひ影とゆく 林火
秋ふかし白壁をゆく手話の指 奥村比余呂
竹馬が倚る白壁のうらの湖 民郎
老鴬や白壁の蔵残りをり 小山ナオ子
薔薇咲いて白壁フェリス女学院 稲野博明
藻の花や白壁落し角櫓 藻の花 正岡子規
虹の根に白壁光る青田哉 青田 正岡子規
見返れば白壁いやし夕がすみ 越人
起絵のむかし白壁ばかりの村 神尾季羊「権」
遠足や白壁沿ひの朝の道 大野林火
●スクランブル交差点
きらきらとスクランブル交差点秋 川崎展宏 冬
スクランブル交叉点赤春の月 石寒太 翔
スクランブル交差点真中に風邪の神 原清水
師走もつともスクランブル交叉点 岩岡中正
春雨やスクランブルの交差点 高井スミ子
秋日傘スクランブルの交差点 江口さち子
聖夜スクランブル交差点の楽 長田等
●疎水
あぢさゐの花の下ゆく疎水かな 酒井露酔
三井寺へ疎水をたどる薄暑かな 石田玉枝(蘭)
冬はじめ疎水うづまくところかな 角光雄
哲学の道も疎水も十三夜 高野良
夢殿をめぐる疎水や花あやめ 松本山雀
安積野の疎水の迅し花大根 遠藤アサ子
家々に疎水の恵み冬籠 芦澤一醒
枝垂桜垂れて疎水の水にまで 山口誓子
水迅き疎水へ紅葉しぐれかな 槙尾登代子
疎水ここに来て溢れけり銀杏散る 長谷川かな女 花寂び
病葉の散り込んでゐる疎水かな 行方克己 無言劇
立秋の疎水那須野を真つ二つ 久保利弘
色鳥や明治のままの疎水橋 桂樟蹊子
落葉一枚呑みて疎水の漲れる 角光雄
●地下
うぐひすや坑より暗き地下御堂 田村了咲
こおろぎに父の地下たび温みもつ 館岡誠二
この穴や地下女将軍より蝉出づる 川崎展宏
どこまでも地下なり雪の解ける街 対馬康子 愛国
はばたき痩せるわが踏む地下の暖流鳴り 隈治人
りら冷や旧姓呼ばれる地下茶房 明才地禮子
わが咳の谺 始発の地下ホーム 中道量子
ゑのころや地下には死者の円き背が 安部保男
ガイガーカウンター地下教室に梅雨たまる 久保田月鈴子
クリスマス愚者の楽園地下にあり 福田蓼汀
サラダ食む落葉の地下と思ひをり 鳥居おさむ
トナカイのソテー白夜の地下酒場 松本澄江「西施桜」
ハープひく男の指や地下の夏 皆吉司
ピカソの胸毛 消えて 梅雨蒸す地下シネマ 伊丹三樹彦
リラ冷えや地下の茶房にランプの灯 内山美江子
一駅分地下掛歩く無月かな 能村研三
乗初の洛中洛外地下をゆく 大橋麻沙子
予備校の地下談話室九月尽 天谷 敦
井戸浚へ地下百尺の土青し 岸霜蔭
人間の宿泊禁ずと地下余寒 沢木欣一
人間蒸発紙の桜が地下にあふれ 寺井谷子
何の風か湧く 電流あおい地下画廊 伊丹公子
冬の地下人固まりしまま眠る 金子如泉
冬光に押され炭坑夫は地下ヘ 対馬康子 吾亦紅
冬夕焼沁み入る地下の茂吉かな 堀井春一郎
冬銀河地下を流るる水の音 志村宗明
冴え返る地下に赤き燈強き酒 成田千空 地霊
凩に追ひ落されて地下のバー 白鳥 峻
列柱に水音おぼろ地下宮址 澤田緑生
初晴や地下より出でし盲導犬 漆崎とし子
反動をにくみ地下の酒屋台の酒に脳天しびれ 橋本夢道 無礼なる妻
向から冬の我れくる地下鏡 河野南畦 『風の岬』
啓蟄の人に四角な地下出口 辻田克巳
啓蟄やサラリーマンは地下を出づ 岩崎照子
啓蟄や五十米地下に駅 柳澤二重
啓蟄や地上も地下もキック・オフ 吉原文音
啓蟄や地下の出口のABC 田口 圭
土工地下を出て箸を突込む日の照るめし 橋本夢道 良妻愚母
土用蜆地下の売場を濡らしけり 蓬田紀枝子
地下といふ地下はキャバレー街の春 田村了咲
地下におちて風折えぼしなにの葉ぞ 山口素堂
地下に温泉が流れて潟に鳰潜る 公鳳
地下のビュッフへ螺旋涼しき鉄の階 上野さち子
地下の人さゝげていでぬ初蹴鞠 田中王城
地下の壁 敏感すぎて囁けず 高柳重信
地下ばかり歩きて疲る花のあと 西村公鳳
地下へ降りゆく胎内に目を湧かせ 八木三日女 落葉期
地下りに暮行野邊の薄かな 蕪村遺稿 秋
地下を出て地下より暗し秋の暮 藤田湘子 去来の花
地下一尺蟻の卵の旱かな 野村喜舟 小石川
地下二人ちやうどまゐりぬ梶の鞠 四明句集 中川四明
地下出でし電車滂沱の梅雨の中 大橋敦子 手 鞠
地下出るに街洗はれて十六夜 西村公鳳
地下墓室(カタコンベ)出でマリーゴールド眩し 久根美和子(岳)
地下壕へ長磴手摺りの手が冷え来 奈良文夫
地下売場燭煌煌と桜鯛 古賀まり子
地下女将軍へ一切の蝉落つる 川崎展宏
地下宮の闇が口あき紅牡丹 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
地下工場寒き奥処に歯車あり 細谷源二 鐵
地下工場寒水通ふ管太き 細谷源二 鐵
地下工場鋼鉄の階幅広き 細谷源二 鐵
地下深く深くなる貝つんぼの海 八木三日女 赤い地図
地下深く街ありホットウイスキー 小島健 木の実
地下茶房夢の眼に追われる怒り 鳴戸奈菜
地下蔵にワインの眠る良夜かな 後藤浩子
地下街を地下に落葉の街を行く 金箱戈止夫
地下迷路梅雨瞑しとはおろかなこと 稲垣きくの 黄 瀬
地下階段の冷々として風知草 長谷川かな女 雨 月
地下電車地へ出て赤し妻へ初日 香西照雄 素心
地下駐車出で月涼し銀座裏 加藤隆一
大いなる地下の墓場や蝶二つ 有馬朗人 天為
大寒や柱ばかりの地下の駅 松村多美
大阪も梅田の地下の冷しそば 有馬朗人
天なる母地下なる母の枯蓮 齋藤玄 『玄』
天明の世が地下にあり鳥雲に 内山芳子
寒夕焼ガソリン地下に充満す 前山松花
扉の奥の地下へしたたるれんげの蜜 穴井太 天籟雑唱
手品師の指いきいきと地下の街 西東三鬼
手花火の終りのしづく地下に潜る 攝津幸彦 未刊句集
早稲の香や灯して続く地下工事 豊田美奈子
早蕨や地下錯綜の上に立ち 和田悟朗
春浅き黒人霊歌地下よりす 上田五千石
春筍の地下一尺にあらんとす 相生垣瓜人
春陰や放射線室地下の奥 織田美奈子
春霜や異教の民の地下砦 上田聡子
昼暗き地下にて一人冷酒飲む 清水昇子
曼珠沙華地下に束ね持つ手あるかに 福田蓼汀 秋風挽歌
曼珠沙華地下に血脈あるごとし 福田蓼汀 秋風挽歌
月鉾の通り灯が洩る地下工事 岩根冬青
梅雨さとき葭党地下の日の森に 古沢太穂
梅雨の地下笑ふ吾ゐて恐ろしき 岩淵喜代子
梅雨寒の地下に拝がむ涅槃像 大久保太市
極月の背骨ゆるめる地下理髪 大西やすし
歳の市を抜け厚肉を地下にたぶ 高井北杜
歳晩の灯や地上より地下に混み 川村紫陽
死に場所に士官と兵の差がありて掘り分けられし暗き地下濠 古屋正作
満月や地下千丈の瀧の音 鳴戸奈菜
炎帝の待ち伏せにあふ地下出口 原 幸子
熱燗や反戦を説く地下酒場 尾関乱舌
町の端に地下出づ電車寒夕焼 大橋敦子 手 鞠
石筍にはるかなる時地下清水 玉城一香
祇園囃子聞えず地下のがらんどう 沢村越石
神の旅どこまで地下に水の音 杉野一博
秋の蜂とまる洞あり地下酒場 小長井和子
秋霖や新宿長き地下歩廊 石塚友二 方寸虚実
窓の景子になく暑き地下電車 大橋敦子 手 鞠
立春の海峡の地下冥く過ぐ 前山松花
竜胆を濃く束ねをり地下売場 猪俣千代子 秘 色
絵本抱き地下より帰る大都会 対馬康子 愛国
羊寝し地下一坪も風の香に 小池文子 巴里蕭条
艶笑劇場(バーレスク)地下の「戦艦ポチヨムキン」 高橋龍
花馬酔木地下にある街思ひけり 林桂 銅の時代
芽に折れるジャズ地下に無頭児双頭児 八木三日女 赤い地図
菩提の実教会地下の核シェルター 渡辺祥子
萩こぼれこの地下をゆく天竜か 林翔 和紙
落葉敷く闇の地下より話声 福田蓼汀 秋風挽歌
落葉期地下急ぐいつのまに鱗生え 八木三日女 落葉期
薬屋の地下の怪談かきつばた 桑原三郎 春亂
蝕甚の月下しづもる爆心地 下村ひろし 西陲集
蟻の列ここより地下に入りゆけり 山口波津女
蟻出づる地下迷宮の装衣とも 橋本榮治 麦生
蟻地獄この地下黒部本流ありし 福田蓼汀
観梅や地下三尺の火山弾 堀江君子
豆の花白ばかり胸に不毛の地 下村槐太 天涯
赤い口ひらひら地下の語り継ぎ 穴井太 ゆうひ領
酒を届けてボイラー祭は地下二階 鈴木栄子
鈴虫のひるも鈴振る地下茶房 福島富美子
鉦叩水琴窟は地下に鳴る 吉年虹二
降つてますかと梅雨入りの地下に聞く 茂里正治
雨避けし地下はミユンヘンビヤホール 岸田稚魚 『萩供養』
雲海やホテルの地下にバスの駅 澤田 緑生
霧こめし地下鋪に黄楊の櫛を買ふ 宮武寒々 朱卓
髪壺の幾百地下の梅雨いきれ 加藤知世子 花 季
鳥あざやかに頭をかすめ去り旅は地下ヘ 八木三日女 落葉期
黒人悲歌地下の酒場へ月の階 宮坂静生 青胡桃
黴大事大事に地下のワイン樽 藤田輝枝
●チンドン屋
チンドン屋しづかに狂ふ大夏野 攝津幸彦「攝津幸彦全句集」
チンドン屋すずむヒタと世寂かになし 中村草田男
チンドン屋吹かれ浮かれて初嵐 吉屋信子
チンドン屋春の曲吹く夕霙 有働亨 汐路
チンドン屋春泥に音乱れけり 山田節子
チンドン屋枯野といへど足をどる 楸邨
乗り合はす仕事始のチンドン屋 杉山岳陽
仲春や斜めに歩くチンドン屋 渡辺佳子
春二番成瀬巳喜男のチンドン屋 攝津幸彦 未刊句集
昨日診し風邪患者なりチンドン屋 瀧澤伊代次
片蔭にチンドン屋夫妻しずかな語 西東三鬼
雪の日のルオーの原色チンドン屋 加藤知世子 花 季
ちんどん屋の頭をかすめゆく夏燕 杉山三知子
ちんどん屋通るが見えて更衣 藤田あけ烏
ちんどん屋風をまとひつ春の町 高田馴三
冬晴れの火の旗ちんどん屋に会いぬ 寺田京子 日の鷹
秋空に音を投げ出しちんどん屋 石井龍生
●電光掲示板
●電光ニュース
春星へ電光ニュースのぼりゆく 浦川聡子
電光ニュースの炎がこぼれ未婚の会 寺田京子 日の鷹
電光ニユース消えて黄砂の街残る 中西徳太郎
●海鼠壁
なまこ壁に触れたる汗のひきにけり 石川桂郎 四温
なまこ壁繕ってある冬構 高橋悦男
五月雨や雨の中より海鼠壁 芥川龍之介
冬浅し曲りてもまた海鼠壁 芝山吉宣
松とれし下田や遺る海鼠壁 貞弘 衛
●並木
いちょう並木さんさんと散り寄る辺なき 穴井太 原郷樹林
お練りある林檎並木に榊幣 西本一都 景色
かけ稲や大門ふかき並木松 炭 太祇 太祇句選後篇
この並木小鳥の影の稀にさす 加藤楸邨
この並木破蓮ひかる田も沿ヘり 加藤楸邨
この並木稲刈る音をはなれざる 楸邨
この並木野があり青い榧の実売り 金子皆子
とっつきの桜並木の端のさくら 高澤良一 燕音
まだ冬の桜並木に靴ひからす 横山白虹
アカシヤの一列並木ありしかな 京極杞陽
ガソリンカー跳ねはね枯れし並木去る 石川桂郎 含羞
チューリップツリー並木を南風馳せ 高澤良一 さざなみやつこ
フエニクスの並木ここまで枝拂 八木林之介 青霞集
プラタナス並木一直線に夏 片山由美子「風待月」
ポプラ並木刈られて街が後退さる 河野南畦 湖の森
ポプラ並木枯葉と踊る恋人たち 千葉ちひろ
一月の桜並木は黒衣たり 中山洋子
七夕の入江奥まで並木うつす 中戸川朝人 残心
七竃釧路駅裏並木なす 野見山ひふみ
並木にまぎれた 記憶の末端 天道虫 伊丹公子 山珊瑚
並木にもわれにも凍のゆるみし影 下村槐太 天涯
並木座を出でて並木の秋思かな 斎藤一也
並木新緑花道めきて別れけり 原子公平「浚渫船」
並木植生常植や豊の秋 多田 三恵子
並木涼しゆつたり坐してゲーテ像 鍵和田[ゆう]子 未来図
並木頭ら霧飛べり駅に鳩鳴いて 久米正雄 返り花
二月はや幹の艶めく並木かな 桑島啓司
人日の田に出て遠し松並木 黒木久枝
冬休み並木きらきらと空に倦む 西垣脩
凍空へ銀杏並木の槍ぶすま 内田園生
刈り込まれ並木の空が寒くなる 堤高嶺
初花を待てるばかりの並木かな 松田美子
天景にかれ添ふ並木一すぢに 細谷源二 砂金帯
官庁の和らぐ並木橡の花 坂巻真砂世
山門や青田の中の松並木 青田 正岡子規
已が葉を根に積み冬を待つ並木 阿部みどり女
市に入る国道並木芽を吹きし 内田百間
戸隠や小栗鼠小走る朴並木 中勘助
播磨路の松並木よりたつ雲雀 鈴鹿野風呂 浜木綿
旅よ我並木はなべて実を宿し 斎藤梅子
旅人に並木はづるゝ帰雁かな 尾崎迷堂 孤輪
日もめっきり春めき並木の木偶ノ坊 高澤良一 素抱
旧道の葉桜並木のこるダム 右城暮石 声と声
春めくや菰はづさるる松並木 結城洋子
春塵や欅並木に映画館 西本一都 景色
暮れかねて並木のやうに仏たち 小島千架子
有明の並木かくれや時鳥 時鳥 正岡子規
朧なる枝くねりゐる並木かな 原田種茅 径
東海道松の並木に懸大根 文人歳時記 吉屋信子
松並木雲雀の空を振分けに 岸田稚魚
松納めて桜並木は月夜なり 渡辺桂子
栗鼠の春並木の果に塔光り 有働亨 汐路
桜並木と忌中の刺身透きとおる 西川徹郎 家族の肖像
桜並木一番端がさびしがる 小泉八重子
桜並木輪となり湖を囲ひたる 嶋崎専城
梓川柳の並木紅葉せり 比叡 野村泊月
椿並木に紋服の列通る 中戸川朝人 星辰
楡並木今朝は縫ひゆく秋の蝶 金箱戈止夫
海暗く灯に青々と並木あり 瀧春一 菜園
甘酒や東海道の松並木 竹冷句鈔 角田竹冷
白玉や雨の過ぎたる御油並木 織田敦子
真清水も並木も神のしらしけり 高田蝶衣
禁煙禁煙大杉並木涼し 石川桂郎 四温
秋耕や胡藤黄なる遠並木 楠目橙黄子 橙圃
立春の雨美しき並木かな 薗田秀子
米倉へ欅並木の青あらし 須賀井せつ子
芒野や本街道は松並木 青峰集 島田青峰
菩提樹の並木あかるき白夜かな 久保田万太郎「流寓抄」
葉桜の並木つゞけり曲りても 立子
虫食ひの並木通りや四旬節 木場田秀俊
蝉や秋釜に音なき並木茶屋 立詠 選集「板東太郎」
螢火の燃えつゝ越えぬ稲架並木 石塚友二 光塵
街ゆがむ落丁めきし枯並木 河野南畦 湖の森
郭公やポプラ並木を行き行きて 高濱年尾 年尾句集
釜無の蔦木の宿の柿並木 田中冬二 俳句拾遺
鈴懸の並木ウイグルのメロン売り 金子皆子
鈴懸並木の果ての一点 乳母車 伊丹公子 機内楽
雨止むや欅並木に蝉時雨 羽根井芳夫
雪解のはねとぶ泥や松並木 西山泊雲 泊雲句集
露ひぬ間雨が洗ひし並木かな 晴子
青空より枝おろされてユリ並木 高澤良一 寒暑
馬車道の楡の並木の良夜かな 伊東宏晃
●ネオン
いぶせき陽落つとネオンはなかぞらに 篠原鳳作 海の旅
うそ寒し昼のネオンの骨欠けて 吉田不可止
うたひめにネオンかはたれはつしぐれ 飯田蛇笏 雪峡
はてしなき闇がネオンにみぞるゝよ 篠原鳳作 海の旅
びしよ濡れネオン梅雨の長靴欲かくす 田川飛旅子 花文字
をだまきのネオンの墓場春の霜 宮武寒々 朱卓
タイ購へばネオンの温み秋惜しむ 宮武寒々 朱卓
ネオンさす狭き事務所や夜食とる 小田道知
ネオンともり人水族と化しにけり 林原耒井 蜩
ネオンなき菜館ならぶ夜の若葉 大島民郎
ネオン冬出逢つて話す広告マン 田川飛旅子 花文字
ネオン坂一遍功徳の花菜風 脇坂啓子
ネオン射すたび 詐欺めいて 路上の梨 伊丹公子 メキシコ貝
ネオン点け勝手に夜にしてしまふ 川島水鶏
ネオン眼を射て高価なる冬百貨 飯田蛇笏 雪峡
ネオン秋街の晩貌泣くばかり 飯田蛇笏 雪峡
ネオン見て柿よ柿よと子供かな 岸本尚毅 舜
ネオン赤き露の扉にふれにけり 木下夕爾
ラテン語やとろんとろんとネオン痩せ 阿部完市 証
一字だけつかぬネオンや猫の恋 栗林明弘
人待てば年のネオンは媚びるかに 岩田昌寿 地の塩
冬夕焼ネオンがさきに夜創る 長岐靖朗
冴ゆる夜やネオンの一字欠けしまま 青木不二子
凍てきびし屋上ネオン雲に映え 飯田蛇笏 雪峡
凍て空にネオンの塔は畫きやまず 篠原鳳作
凍て空にネオンの蛇のつる〜と 篠原鳳作
凍空にネオンの蛇のつる〜と 篠原鳳作 海の旅
古町にネオン一点ビールの酔 香西照雄 対話
吐く唾に降誕祭のネオン映ゆ 宮武寒々 朱卓
売られる映画館のネオン息づく赤青緑黄 栗林一石路
夏燕街のネオンにひるがへる 林 康子
夕ばえてはやきネオンに地が凍てぬ 飯田蛇笏 雪峡
夕立やネオン浮かべる水溜り 玉澤淑子
夕霧にネオンせはしき街となる 阿部みどり女
天の川寂たりネオン昇降す 林原耒井 蜩
女等昼寝ネオンの骨に蝉が鳴く ねじめ正也
子規の忌の月を上げたりネオン坂 黒田杏子 花下草上
安宿のネオン音出す芙美子の忌 岩田岩雨
寒鴉とほきネオンのはやともる 木下夕爾
岐阜城のネオン灯りて鵜舟来る 新倉美紀子
年のネオン遠目夜空は戦火に似る 岩田昌寿 地の塩
幾重にもネオンの滲む時雨かな 上月ひろし
文学もかなしネオンの赤き夏 下村槐太 天涯
旅来し妻春夜ネオンは火の如し(別居一歳に余りしが) 細川加賀 『傷痕』
春水の暮れつつネオンとらへつつ 亀井糸游
春燈として車燈点きネオン点き 嶋田摩耶子
昼の蟲骨格見するネオン管 田川飛旅子 花文字
昼ふかきネオンの骸にしぐれゐる 篠原鳳作 海の旅
晝深きネオンの骸にしぐれゐる 篠原鳳作
曾根崎のネオン見て過ぐ近松忌 冨田みのる
枯柳更けてネオンに触れ易し 山田佐人
柳散る一枚は赤のネオン一枚は青の 山口青邨
梅雨夜空ネオンがほしいままにせり 波多野爽波 鋪道の花
森疎なり神にちかぢか冬ネオン 鍵和田[ゆう]子 未来図
水のシンポジウム果てたるネオン街 石田よし宏
河豚鍋や水面のネオン雨に痩せ 石川 桂郎
油虫ネオンの赤き夜に会ふ 右城暮石 声と声
海をみだらに染めるネオンを截る艀 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
点滅のネオンを探る返り花 中沢一枝
短か夜のネオンに近き目覚めかな 林原耒井 蜩
短日のネオン流るゝかき料理 高木晴子 花 季
空涼しネオン疲るるさまもなく 岩崎照子
笑うキリストの主題ありきや冬のネオン 田川飛旅子 花文字
紅ばらにネオンの雨が大粒に 柴田白葉女 遠い橋
美しきネオンの中に失職せり 富澤赤黄男
聖誕歌ネオン真下に闇溜めて 平井さち子 完流
肝吸に隣のバーのネオンかな 鈴木鷹夫 千年
芭蕉枯れて水面はネオン散らしけり 五島高資
花火空ネオンあくまで照らすなり 林原耒井 蜩
花街のネオン師走の雨に濡れ 本宮哲郎
虎ケ雨濡れてネオンのなまなまし 清崎敏郎
蚊喰鳥ネオンは語りはじめたる 山田弘子 懐
賭博市の質屋の春のネオン赤 吉良比呂武
賭場並び春のネオンを競ひをり 吉良比呂武
近松忌ネオンの花が水に咲く 桝井順子
送火を終へたる遠きネオンかな 石川経子
道頓忌原色ネオン映す堀 檜 紀代
遠きネオン雲丹食べて父蘇る 渡辺祥子
都會のネオンが こゝの貝殻までは 映らない 吉岡禅寺洞
雪はらむ夜空はふくれネオンばかり 岩田昌寿 地の塩
雪降るや僻地のネオン赤がちに 有働亨 汐路
青きネオン赤くならんとし時雨る 竹下しづの女句文集 昭和十二年
顔そむる飾窗ネオン夜の凍て 飯田蛇笏 雪峡
鴎舞ひ白夜のネオン淡かりし 広瀬河太郎
●非常階段
使はれぬ非常階段椎落葉 大西一冬
初雀非常階段落ちるなよ 小笠原和男
北風まとも非常階段のぼるとき 加藤康人
医師達の非常階段カンナ咲く 対馬康子 吾亦紅
捨菊や非常階段裏見えて 草間時彦
秋暑し非常階段檻に似て 横山白虹
●非常口
かなぶんの叩くホテルの非常口 露口美穂子
たましいを抜かれバケツと非常口 鳴戸奈菜
はつなつの非常口よりピアノ出す 浦川聡子(炎環)
刈田へと明るく開く非常口 寺井谷子
初富士のほのとありけり非常口 岩崎恒子
夜濯やビルに灯れる非常口 樋口芦笛
幕裏に非常口あり菊人形 鎌田眞弘
年詰る廊の端なる非常口 白井爽風
料峭の野に出づ宿の非常口 和田耕三郎
枯れ始むまでは開かない非常口 対馬康子 吾亦紅
桜蘂降るそれだけの非常口 小泉八重子
流氷の岸につながる非常口 水口圭子
真夏日や逃げても逃げても非常口 角川春樹
老鴬の谷へ通ずる非常口 後藤比奈夫 花びら柚子
薄氷をなめて猫くる非常口 石寒太 炎環
蚯蚓鳴くあたりに非常口灯る 五島高資
診に走る雪中赤き非常口 瀧澤伊代次
誰彼の余命や花の非常口 栗林千津
非常口どこより出ても鳥雲に 対馬康子 純情
非常口に緑の男いつも逃げ 田川飛旅子(1914-99)
非常口ばかり目につく松の内 野村畝津子
非常口より出でて夜桜見にゆかな 嶋田麻紀
非常口小さすぎると冬将軍 丸山佳子
非常口昼も点りて冴返る 久川久枝
非常口灯る就寝蛇は穴に 篠田悦子
非常口皿積みあげて馬肥ゆる 宮辺 潔
●ビル
あきさめのビル街ふかくわがゆける 藤木清子
いわし雲ビル屋上の観覧車 竹澤 聡
かねやすもビルとなりたる秋暑かな 鈴木しげを
ざらつく胃壁冬陽に晒す官庁ビル 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
すっかり春我等がビルも霞に入る 高澤良一 ぱらりとせ
べつたら市へ裏口開けて問屋ビル 奈良文夫
べつたら市ビルのあはひの夕日どき 草村素子
サイダーや金属光のビルの駅 平林孝子
ノイローゼ高ビルの谷に秋を凄み 藤森成吉 天翔ける
ビルからビルヘ 鴉声直線 午後4時の 伊丹公子 時間紀行
ビルから人間も神様もこぼれている 鹿又夏実
ビルとビルとのすきまから見えて山の青さよ 種田山頭火(1882-1940)
ビルとビルの隙八重葎魚籃坂 六本和子
ビルと云ふ直方體の夕おぼろ 高澤良一 ももすずめ
ビルになる大きな穴や初しぐれ 小野たけし
ビルに囲まれたばこ屋の蔦紅葉 青木梢
ビルの便所で見た顔と葬式の日に出会う 仲上隆夫
ビルの影みな劃然とうまごやし 木下夕爾
ビルの影水底に秘め芦芽組む 市野沢弘子
ビルの影踏絵の如し冬の朝 落合冬至
ビルの日曜黄落はげしく市電過ぐ 河野多希女 琴 恋
ビルの根に すばやい守宮 蘭匂う 伊丹公子 ドリアンの棘
ビルの灯を淡しとおもふ桜の夜 片山由美子 風待月
ビルの稜初金毘羅の燈を囲み 有馬籌子
ビルの窓に大坂城と春の雲 高濱年尾 年尾句集
ビルの窓ビルばかり見え秋の暮 石崎 晋象
ビルの花壇東京陽炎生まれけり 松山足羽
ビルの街曲り上手に初つばめ 斉藤恵鼓
ビルの裾だらだら祭つづきけり 杉本寛
ビルの谷間の風はどこへ帰るのか カズ高橋
ビルの間に残る一軒布団干す 中村和子
ビルの間に火星を挟む西鶴忌 佐野まもる
ビルの間に迷ひ落ちたるはたた神 斉藤葉子
ビルの間の老舗さきがけ松立つる 和田暖泡
ビルの間を侏儒めく歩み年惜しむ 杉本和子
ビルの霜雲とびちりて光り盈つ 飯田蛇笏 雪峡
ビルはみな角を失ひ霾れる 山田弘子 こぶし坂
ビルは灯を枯木は風を並べけり 岩垣子鹿
ビルは無番地枯るる柳を郵便夫 皆川盤水
ビルを出て遅日の街にまぎれ入る 井本農一
ビルを組む大暑の影をおきつ放し 浜 芳女
ビルを跨いでくる夜ぼくがやさしくなる 津根元潮
ビル住みの目線は城と霞む空 安田みさを
ビル壊す男ら日の丸弁当なり 五島高資
ビル巨体冬雲遠く寄らしめず 細木芒角星
ビル底に蝦散らし食ふ後の月 石寒太 翔
ビル影は地に貼りつきて原爆忌 大東 晶子
ビル投影みだして進む藻刈舟 栗原蕎村
ビル映る池に番の残り鴨 加瀬ゆきえ
ビル暗く運ぶ氷塊朝を告げ 大井雅人 龍岡村
ビル朧どこにでもある中央区 中田 美子
ビル棲みの昼夜灯してカラジウム 河野絢子
ビル毀つための後退シャベルカー 土方鐵
ビル番に傘借る退社震災忌 亀井糸游
ビル空へ伸びて名城末枯るる 山田弘子 こぶし坂
ビル街に残る黒塀ちちろ鳴く 秦野淑恵
ビル街に焼藷屋来て三時どき 井熊秀男
ビル街に行きどころなき銀杏散る 久米谷和子
ビル街の日々暑く征歌日々おこる 瀧春一 菜園
ビル街の日替りランチ春めきぬ 伊東 白楊
ビル街の炎暑闘魚となり抜ける 新江たか
ビル街の細き横丁夏来たる 成瀬正とし 星月夜
ビル街より海近からむゆるゆると昭和晩期を渡るかりがね 篠弘
ビル谷間に基地を捜すたんぽぽの絮 小山君子
ビル谷間山鉾ずんと空晴るる 坂井信彦
ビル谷間羽化するごとく月のぼる 藍不二子
ビル陰に薄っぺらなる夏至の月 塚田采花
ビル陰の深きを行くも冬至かな 田淵定人
ビル風の中の一角花御堂 高木聡輔
ビル高層友ら耳立て内部の滝 仲上隆夫
プール児童の叫喚返すビルの壁 鍵和田[ゆう]子 未来図
ボーナスやビルを零れて人帰る 辻田克巳
メーデーやビルはすこしく傾きぬ 清水昇子
一人また一人ビル出て晩夏かな 植松紫魚
一匹の蟻がビルより降りて来る 葛西たもつ
一驟雨高層ビルを壮とせり 高澤良一 ねずみのこまくら
七月や彼方のビルを真帆と見て 岡田貞峰
七草を売る丸ビルの花屋かな 清水 浩
両岸にビル建ち並ぶ都鳥 岡安仁義
丸ビルの低くなり天高くなり 稲畑廣太郎
丸ビルの北窓開くことも無く 稲畑廣太郎
丸ビルの壁の割れ目に名草の芽 稲畑廣太郎
丸ビルの夜業の灯又一つ消ゆ 稲畑廣太郎
丸ビルの店子も減りて去年今年 稲畑廣太郎
丸ビルの最後の初句会となり 稲畑廣太郎
丸ビルの灯火失せて夕霞 稲畑廣太郎
丸ビルの花屋に隣り日記買ふ 久米正雄 返り花
丸ビルも白く覆はれ夏深し 稲畑廣太郎
丸ビルをうろゝゝ出初くづれかな 高浜虚子
丸ビルを七十二年見し夏木 稲畑廣太郎
丸ビルを離れ夏めく日となりぬ 稲畑廣太郎
五月きぬビルは真白き艦のごと 金尾梅の門
京橋のビルの座敷や葛ざくら 森 総彦
仲秋や丸ビル天に伸び切つて 稲畑廣太郎
冬の虹ビルの高さに来て消ゆる 稲畑汀子
冬日が 陰影を與えて ビルを墓石とした 吉岡禅寺洞
冬雲やビルが動いている東京 高林菊次
冴返るビルを映してビルの窓 小林月子
凍つる夜のビルの壁画の未来都市 和田耕三郎
凧上げてビルの谷間の校舎かな 啓又
包帯した指たててゆくビルの内部 五十嵐研三
十まで算(よ)める子にビルの窓多すぎる 小原敏代
十六夜の照らすビル群人類の秋が音なく近寄ってくる 中川菊司
原宿早朝 半壊ビルに 蝶など来て 伊丹公子 時間紀行
取り壊すビルの空翔け初燕 三村純也
名月やビルすれすれに浮かびくる 大倉園子
向日葵にビルは裏側もて聳ゆ 古舘曹人 能登の蛙
君が香やビル街に一つ秋の星 梶川祐子
四月五日永遠に丸ビル閉さるる 稲畑廣太郎
地蔵盆路地なくなりしビルの街 稲垣芳子
夕焼けビルわれらの智慧のさみしさよ 阿部完市 無帽
夕焼と木枯を濾す硝子のビル 田川飛旅子
夕立に気づかぬこともビル暮らし 川俣藍子
夕顔や人間の影ビルの影 落合冬至
夜濯やビルに灯れる非常口 樋口芦笛
大阪の冬日やビルにひつかかり 京極杞陽(きよう)(1908-81)
天地無用のビルにて蟹が茹で上がる 夏石番矢
妻のゆうれいビルにぶつかる自転車は 西川徹郎 死亡の塔
寒き會議いづこかビルの奥毀す 中島斌男
寒夕焼高層ビルの玻璃弾く 井澗道子
寒鴉ビルの一角掴み鳴く 中村居月
小伝馬町ビル雑然と雁渡る 轡田 進
川に映ゆビルの林や初夏の朝 峰山 清
工事中テントはためくビルは海になる 段証尚子
幕張のビルの谷間に穂草刈る 海野 勲
引鶴やビルの真ん中素通しに 西川知世
思想の赤馬 白馬が 乱立したビルの空をいく 吉岡禅寺洞
我らビルに囚われ鳥の渡る日も 守谷まもる
打水やビルの谷間の小待合 清水基吉(1918-)
打音のビル耳にみどりの昆虫いて 金子兜太
放蕩やビルに前世の落花生 攝津幸彦
新しきビル全館に夜業の灯 山口恵子
新海苔やビルに老舗の暖簾かけ 黒米松青子
新緑もビルも流れて子を産みに 森田智子「全景」
新豆腐ビルの谷間に商へり 堀之内和子
施工帆布の諸羽搏つビル眼鏡青め 堀葦男
日脚伸ぶ吾が家に重きビルの影 小塚 勇太
日雀来るビルの谷間の薄日差し 野田しげこ
春の宵高層ビルに迷い犬 伊藤真理
春の月仰ぎ丸ビル最後の日 稲畑廣太郎
春の雪ビルの一角灯しをり 金尾梅の門 古志の歌
春惜み丸ビル惜みつつ移転 稲畑廣太郎
春昼のビルを港に飛行船 田中櫻子
春雷やこのほど建ちしビル九層 久保田万太郎 流寓抄以後
春雷や灯りてビルうら若し 奥坂まや
春風や伸びゆくビルの安全旗 藤本朋子
暮早きビルの画廊に商談す 山田弘子 螢川
朔太郎忌ビルの狭間に一風樹 吉田銀葉
朝日がビルにあたりだし 枯木も色めいた 吉岡禅寺洞
朝焼けて異次元界のビル見ゆる 仙田洋子 橋のあなたに
木の葉散り高層ビルは灯の柱 大島民郎
未完のビル昆虫に似て夜の枯木 大井雅人 龍岡村
東京のビルの屋上午祭 板谷芳浄
梅雨晴れ間ビルからビルヘ靴光る 吉原文音
梅雨深しビルは窓枠より亡び 和田耕三郎
梅雨霽れ間ビル立体を欠きて並む 宮武寒々 朱卓
植樹祭とビルの高さを眼前に 中村草田男
武者ねぶたビル押し分けて罷り出づ 阿久津凍河
歳晩のビル耿耿と新聞社 稲田眸子
歳末のビルに灯ともる美容院 吉屋信子
殴られて壊れるビルや三鬼の忌 高野ムツオ
母等老ゆ蛇の存在ビルから見え 阿部完市 絵本の空
水の秋ビル工事の人空をあゆみ 鍵和田[ゆう]子 浮標
水の面に夕日のビルや浮寝鳥 関口謙太
江東にビルふえにけり鯊の秋 富岡桐人
海彦のうしろの正面ビルかげろう 諸角せつ子
湿舌やビルは窓々灯をつけし 岩崎照子
炎天を来てビルといふ影の箱 塙告冬
煙霧濃き聖樹担がれビルに入る 殿村莵絲子 牡 丹
燕ほどの自由もなくてビル勤め 菖蒲あや あ や
片陰を拾ひてビルに吸はれたる 稲畑汀子 ホトトギス汀子句帖
生き物の足裏乾けりビルの街 森田幸子
生姜市抜け来て白いビルの胴 菖蒲あや あ や
生涯を終へしビルにも風光る 稲畑廣太郎
矢狭間よりビルの林立冬霞 小林迪子
秋思ふと高層ビルの玻璃の壁 池田佳子
秋惜しむビルの谷間のカフェテラス 林 康子
秋晴の盆地のビルを人翔びたつ 福田甲子雄
秋風や昼餉に出でしビルの谷 草間時彦
秋風や酔歩掴みしビルの端 米沢吾亦紅 童顔
稲荷狐と目が会う迂闊 ビル屋上 森 早恵子
稲雀たるべき頃のビル雀 茨木和生 木の國
竜天に登りぬビルの谷間より 天岡宇津彦
粘土のビルによこたわり居り白い時間 阿部完市 絵本の空
絶え間なく砂のながれる北のビル 穴井太 ゆうひ領
総ガラスのビル夕焼の立方体 星野明世
聖路加のビルに日のさす梅雨晴間 青木政江(酸漿)
艟艨のごとくビルあり霾れる 森田峠 逆瀬川以後
花八ツ手ビル解体をにぎやかに 斉藤夏風
芽吹くものビルの谷間に遅れけり 山田一男
葉柳や四角四面のビルばかり 近風昧
蔦若葉もえて小暗きビルの口 山田弘子 こぶし坂
薬屋のビル立ち並び神農祭 田上悦子
蛍売りがきてくらくするビルの裾 田邊香代子
蝌蚪の穴にビル傾けてガラス拭 古舘曹人 能登の蛙
解体ビル死屍のごときを吊る暑し 上井正司
解除後も焼ビルその根が僅かに萌ゆ 赤城さかえ句集
谺せずビル高階のつくり滝 船坂ちか子
軍艦と呼ばるるビルやいなびかり 上谷昌憲
造成地にビル建つまでの秋夕焼 寺岡捷子
遊船にマンハッタンのビル櫛比 保田白帆子
運河春風ビルの窓より花買はれ 神尾久美子 掌
道修町のビルの植込み笹子来る 松崎亭村
遺伝子に取り組むビルや盆の月 野村洋子
還らざるものよ野に寝せ怒声のビル 隈治人
銀紙はおしゃべりビルに月おぼろ 江田立美
閉されし丸ビル大扉街薄暑 稲畑廣太郎
開襟少年空港ビルの屋上駈く 加藤かけい(天狼)
雁帰る神田もいまはビルの町 山本歩禅
雨ほそしビルの扉つよく押して入る 藤木清子
雲から飛んだ娼婦が燃えるビルから見え 阿部完市 絵本の空
雷神の喝に高層ビル竦む 稲畑廣太郎
霧深く山を覆ひぬビル灯る 阿部みどり女 笹鳴
青北風や光るほかなきビルの窓 宇咲冬男
青嵐ビルの鉄骨吊られ浮く 中井啓子
靴音をビルより落とし後の月 富川三枝子
音もなく高層ビルの造り滝 金堂豊子
馬が来る 涙にじませ ビルを負ひ 鷲巣繁男
高層ビル札束のように完成す 峠谷清広
鬼やんまビルの谷間を水平に 田口美喜江
鰊来る地上のビルに汚職の髭 金子兜太
鰡飛べり高層ビルに囲まれて 満田春日
鰯雲恋の丸ビル消えにけり 北見さとる
鳥帰る墓場のやうなビルの街 鈴木由江
鴉がいる差押さえのビル反り返る 神山宏
●ビルの谷
ノイローゼ高ビルの谷に秋を凄み 藤森成吉 天翔ける
ビルの谷間の風はどこへ帰るのか カズ高橋
ビル谷間に基地を捜すたんぽぽの絮 小山君子
ビル谷間山鉾ずんと空晴るる 坂井信彦
ビル谷間羽化するごとく月のぼる 藍不二子
凧上げてビルの谷間の校舎かな 啓又
幕張のビルの谷間に穂草刈る 海野 勲
打水やビルの谷間の小待合 清水基吉(1918-)
新豆腐ビルの谷間に商へり 堀之内和子
日雀来るビルの谷間の薄日差し 野田しげこ
秋惜しむビルの谷間のカフェテラス 林 康子
秋風や昼餉に出でしビルの谷 草間時彦
竜天に登りぬビルの谷間より 天岡宇津彦
芽吹くものビルの谷間に遅れけり 山田一男
鬼やんまビルの谷間を水平に 田口美喜江
●広場
ときどき明るい広場で炸裂する少年 阿部完市 絵本の空
まり投げて見たき広場や春の草 春の草 正岡子規
クローバー広場をよぎる明日へと言ふ語 細見綾子
コンコルド広場の広さ椿落つ 皆吉司
コンコルド広場の釣瓶落しかな 石原八束(1919-98)
サングラスかけ駅広場ひきしまる 高井北杜
パスハの夜広場は星斗みどりなり 飯田蛇笏 春蘭
メーデーがはらみ来るものを広場に待つ 榎本冬一郎
一葉落つ絵描き広場の石畳 小原菁々子
人民のための広場を夏つばめ 鷹羽狩行
佐渡奉行所あとの広場のクローバー 富田直治
元旦の広場の雀かくれもなし 榎本冬一郎
児等の広場天は煙突の上にある 中台春嶺
公園の広場を蝉のまっしぐら 高澤良一 寒暑
冬光は広場円形たるために 対馬康子 純情
出航のあとの広場に涼みけり 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
十億の民の広場の雲の峰 高橋真佐子
噴水の広場を通り絵を運ぶ 久保武
執拗なヘリコプター死者の広場があり 林田紀音夫
夏燕故宮広場の凧もまた 加藤耕子
大時計止まりし広場冴返る 山村達也
太陽の広場悲しきはだしの子 高木晴子
屋根根のなき遺跡より出で春広場 対馬康子 愛国
広場に裂けた木 塩のまわりに塩軋み 赤尾兜子
広場に裂けた木塩のまわりに塩軋み 赤尾兜子
広場の砂利隙間なしメーデー歌充満 内藤吐天 鳴海抄
広場より出ず鳥獣の寒の飢え 対馬康子 吾亦紅
広場凍て飛行機のわだち深くのぶ 細谷源二 鐵
日曜広場 ドラムひとつを楯として 伊丹公子 山珊瑚
旧約の広場をのぼる雀の香 攝津幸彦 未刊句集
昆布乾す岬広場に星近し 高井北杜
映画散じ一樹秋めく月の広場 野沢節子
春潮を広場のごとく船往き来 本井 英
暮れ遅き町の広場の時計鳴る 高木晴子 花 季
月が出て月がまんまる恋猫広場 横山白虹
本丸の跡の広場の出初かな 加藤覚範
枯芝の道は十字にある広場 対馬康子 吾亦紅
楡若く露けき広場ありにけり 久米正雄 返り花
毬一つ広場に残り冬に入る 高橋よし
水の広場石の広場や紅葉敷く 中戸川朝人
泉居前広場の雨後の蟇 橋本榮治 逆旅
灯の海の広場にあるや朧月 池内友次郎 結婚まで
燕帰る駅の広場の土砂降りに 中拓夫 愛鷹
独楽を打つモスク広場の大理石 山田弘子 こぶし坂以後
生きるもののあつまり 広場をたそがれにする 吉岡禅寺洞
癲癇を目守る広場の春夕べ 徳弘純 麦のほとり
白雨中胸に広場をもち歩む 村越化石
皇居前広場の雨後の蟇 橋本榮治「逆旅」
石けりの記憶の広場落葉踏む 橋本日出子
秋思かな広場にゲートボール跡 宮内容子
耳たぶばかり咲いている広場 鹿又英一
肩冷ゆるまで愛の広場に酢を流す 攝津幸彦
葉牡丹に午後の人出の駅広場 若倉文子
蜥蜴の眼乾く広場の 祭笛 伊丹公子 メキシコ貝
造り滝市民広場へひびき落つ 山根きぬえ
雄叫びの騎馬像灼ける駅広場 西川孝子
雨あしの広場にしぶきユッカ咲く 飯田蛇笏 春蘭
雪の広場かなしきものは粧わず 和田悟朗 法隆寺伝承
青蔦広場の糸取唄は労働歌 鈴木栄子
革命の広場静かに夕焼けて 小島左京
音合せ始まる夏至の広場かな 坂本宮尾「木馬の螺子」
風が風吐く 墓地裏の広場 藤江まこと
風花やコント広場に訃報聞く 小池文子 巴里蕭条
飛行機工場寒林にとどく広場あり 細谷源二 鐵
食卓は話題の広場さくらんぼ 山田弘子 こぶし坂
駅広場銀杏黄葉に旅の人 戸田 利枝
魔にもなれずマント来て立つ広場かな 寺山修司 花粉航海
●保険会社
●歩行者天国
●ポスト
あるといはれたポストゐた落葉ためてゐた シヤツと雑草 栗林一石路
ここのポストの親しくなりし緑したたる シヤツと雑草 栗林一石路
この避暑地ポストの多きことうれし 森田峠 避暑散歩
ごみをかぶる柳の下のポストかな 寺田寅彦
たのまれて竹馬の子のポストまで 黒田杏子 花下草上
たんぽゝや国境近く木のポスト 殿村菟絲子
なまぬるきポストの口や原爆忌 内田美紗 誕生日
ぬりたてのポストに落とす雪便り 石寒太 翔
まるで陽炎兄逝きし日のポスト 神野園子
ポストある茶店で書いて避暑便り 千原草之
ポストから玩具出さうな夜の雪 渡邊水巴
ポストが口あけている雨の往来 住宅顕信 未完成
ポストにも注連結ふ島の郵便夫 壺井 久子
ポストの腹あいて降誕祭の街 大石雄鬼
ポストの頭冬日てらてら虚実古り 木村蕪城 寒泉
ポストまでハガキを出しにお元日 荒井英子
ポストまで今年はじめて外にでて 永田耕一郎 雪明
ポストまで同じ木のある夜寒かな 森 ゆきお
ポストまで夜更け螢を見に出づる 上野さち子
ポストまで手紙を庇ふリラの雨 藤間綾子
ポストまで歩く時間や三ケ日 横山芦石
ポストまで無月の下駄を鳴らしけり ト部純栄
ポストまで百歩ばかりのそぞろ寒 竹内しげ
ポストまで通ふ日多し三月尽 馬場利春
ポスト一つ雪かきわけし底に立つ 永田耕一郎 海絣
ポスト迄寒の満月上るころ 鳥居曼珠子
ポスト開函四月の雪は何の意ぞ 磯貝碧蹄館 握手
メーデーにはポストとともに佇つ他なし 加倉井秋を 午後の窓
乗鞍のみじかき夏のポストかな 大庭三千枝
五六戸のためのポストや山眠る 水本祥壱
元日のポストの口が閉まらない 松田秀一
元町の丸いポストよ黍焼く香 吉田紫乃
凩やポストの腹のひらかるる 松尾隆信
切干や村にのこれる丸ポスト 福原満恵
労れて戻る夜の角のポストょ 山頭火
友に会はん春塵かぶる駅のポスト 桜井博道 海上
友の地図のポストまだ見ず薔薇の垣 中戸川朝人 残心
塗り替へてポスト肩張る十二月 反町和子
夜のポストつぎつぎ谺が投函される 佐孝石画
夜霧重し口あくポストが眼を閉ぢて 磯貝碧蹄館 握手
大方はポスト色あせ柳散る 波多野爽波 鋪道の花
天高し町のポストに蝶もつれ 皆吉爽雨
奥阿仁駅しぐれ真赤な箱ポスト 田村九路
宵闇やポストあるべき此辺り 数藤五城
寒星や出した手紙はまだポスト 内田美紗 浦島草
山のポストに甚平の子が背伸びして 中村明子
山蔭やしぐれの道の函ポスト 石塚友二 光塵
年の夜やポストの口のあたたかし 宮坂静生 春の鹿
手を入れしポストの口の春の闇 橋本榮治 麦生
文落す夜寒のポスト音返す 大橋敦子
新宮の九月の灼くるポストかな 黒田杏子 花下草上
日の出前五月のポスト町に町に 石田波郷
旱魃やポストに犬の尿短か 宮坂静生 青胡桃
春の夜の船のポストを尋めあてぬ 横山白虹
春の日やポストのペンキ地まで塗る 山口誓子
春の灯の届くポストを覗きけり 安済久美子
春の雨郵便ポストから巴里へ 浅井愼平
春愁はポストの朱さかへりみる 原裕 投影
春愁を赤きポストに投函す 田中冬二 冬霞
春星や今日三度目のポストまで 内田美紗 誕生日
春風と五分あるけばポストです 大塚駒女
昨日見し山のポストを霧に探す 馬場移公子
暮遅し門燈をつけポストを見 星野立子
松落葉踏みつゝ行けばポストあり 下田椎羊
枯野の陽果てしポストに口がある 河合凱夫 藤の実
柄長鳴き牧のポストが賀状まつ 望月たかし
柳絮飛ぶ橋のたもとのポストかな 黒沼草生
梅雨昏し船内ポスト灯れる 五十嵐播水 埠頭
汗かいて歩めり常にポストは赤 奥坂まや「縄文」
海水着着てポストがあるので曲る 加倉井秋を 午後の窓
温泉の町のはづれのポスト木の実降る 原田青児
炎天のポストは橋のむかふ側 鈴木しづ子
燕の巣フェリー乗場の赤ポスト 渡邊路美
男は他郷の赤いポストにあこがれる 大西泰世 世紀末の小町
眼打つ雨あたゝかしポストまで 川崎展宏
着膨れてポストが遠くなりにけり 細川加賀 『玉虫』
祇園会の真只中のポストかな 黛まどか(1965-)
神の留守ポスト真赤く立てりけり 藤岡筑邨
稲妻に夜の湖畔のポストかな 波多野爽波 鋪道の花
素足にて出る元日のポストまで 梅本初子
緑蔭に母を待たせてポストまで 池村 惇子
花風の埃に赤きポストかな 島村元句集
落し文森のポストに入れて来し 宮脇白夜
薇を干すところ過ぎポストあり 加倉井秋を 午後の窓
薫風の島のポストに落す文 星野椿
藁屋根と赤いポストや秋黴雨 長山登良雄
街灯もポストも踊りさうな阿波 蔦三郎
街路樹にくくれるポスト出水跡 五十嵐播水 埠頭
賀状投函村のポストをひびかせて 渡辺柳風
逆しまにポストをのぞく枯蟷螂 尾沼チヨ子
連翹や塗られて手紙待つポスト 月舟俳句集 原月舟、長谷川零餘子編
避暑便り今日まだポストにあるだらう 森田峠
郭公や山のポストに日が当り 矢崎ちはる
金が送れない手紙もちポストをさがす シヤツと雑草 栗林一石路
長安に落葉はじまる青ポスト 中村明子
雀隠れ母の散歩のポストまで 古賀まり子 緑の野以後
雁木みち潜るポストに逢はんため 古賀光利
雷過ぎてポストの口はあたたかし 川崎展宏
馬柵に結ふ白きポストや小鳥来る 小路智壽子
鳩の巣のごときポストを菊に立て 阿部みどり女
●堀割
堀割になれてうつむく薄哉 薄 正岡子規
堀割に台風避くるマストふゆ 亀井糸游
堀割に映る梅雨の灯逢はず辞す 桂信子 女身
堀割に鎮もる鯉や冬柳 楠見稲子
堀割に開く折戸や杜若 青峰集 島田青峰
堀割に露のしたゝる巖かな 露 正岡子規
堀割に風のうつむく薄哉 薄 正岡子規
堀割の波立つことのなき薄暑 片山由美子 水精
堀割の道じくじくと落葉哉 落葉 正岡子規
堀割ややふ鶯の両かわに 鶯 正岡子規
堀割や蘆の穗がくれ捨小舟 芦の穂 正岡子規
堀割や遥かに見ゆる春の海 春の海 正岡子規
堀割をのぞけば霞む人夫かな 霞 正岡子規
堀割を四角に返す蜻蛉哉 蜻蛉 正岡子規
木立暗く堀割濡れて露の音 露 正岡子規
真直に堀割遠き柳かな 柳 正岡子規
草枯や堀割崩える二三間 草枯 正岡子規
掘割に映る梅雨の灯逢はず辞す 桂信子 黄 炎
掘割の美しき町オーバ脱ぐ 森田峠 避暑散歩
掘割の花へ吹き上ぐ風上々 高澤良一 鳩信
掘割やなく鶯の両かわに 鶯 正岡子規
掘割や藪鶯を両の耳 鶯 正岡子規
校庭を掘割ながる水あふひ 有働亨 汐路
深川に掘割いまも水の秋 山田陽洞
●摩天楼
喝采に代へて吹雪の摩天楼 櫂未知子 貴族
夕焼を頭より脱ぎつつ摩天楼 鷹羽狩行「翼灯集」
崑崙の舌に濡れてる摩天楼 冨岡和秀
指先も宝石も冷え摩天楼 仙田洋子 雲は王冠
摩天楼 貝より始まる終末論 夏石番矢
摩天楼と叫びて聖夜乾杯す 殿村莵絲子 花寂び 以後
摩天楼の頂に秋来てゐたり 長谷川櫂 虚空
摩天楼ま上またたく枯野星 加藤耕子
摩天楼より弾かれて春の服 増田 守
摩天楼より新緑がパセリほど 鷹羽狩行「翼灯集」
摩天楼より春の雪みだれ降る 市ヶ谷洋子
摩天楼を流れ下るや大夕立 長谷川櫂 虚空
摩天楼影絵めくなり菜種梅雨 大高霧海
摩天楼揺れてくるなり初明り 秋本敦子
摩天楼最上階の夜学かな 仙田洋子 雲は王冠
摩天楼涼風とゆく女かな 仙田洋子 雲は王冠
摩天楼硝子音階初明り 仙田洋子 雲は王冠
摩天楼肩そびやかせども雲の峯 今泉貞鳳
摩天楼驟雨に蛇のスープ飲む 仙田洋子 雲は王冠
摩天樓吹雪にかくれニューヨーク 保田白帆子
春の月隠れてをりし摩天楼 嶋田言一
水打つていくつも摩天楼があり 岸本尚毅 舜
静脈のように時雨れる摩天楼 五島高資
鷹舞えり翼の中に摩天楼 対馬康子 吾亦紅
●マンホール
マンホールあたりが生家雪間なる 松山足羽
マンホールに水奔騰すクリスマス 宮坂静生 雹
マンホールの底ひびきけり夜も雪解 有働亨 汐路
マンホールの底より声す秋の暮 楸邨
マンホールの水音寒夜は火の音す 寺田京子 日の鷹
マンホールより首出して白息す 北野春彦
マンホール木の葉が辿りつきて落つ 岡本圭岳
マンホール湯気立つは貴種流離かな 五島高資
マンホール薔薇の紋章もて塞ぐ 伊藤由貴江
マンホール身軽に踏んで四月馬鹿 的場秀恭
四日はや工夫首出すマンホール 浅賀渡洋
夏休み終わるを知らぬマンホール 二村典子
寒念仏マンホールの蓋踏み鳴らし 諏訪寿子
星流れ痴のマンホール踏めば鳴る 宮武寒々 朱卓
春浅し一緒にのぞくマンホール 根津芙紗
月明きマンホールより鉄の棒 須藤 徹
東京に千の満月・マンホール 高澤晶子
柿噛りつつマンホール見てをりぬ 加倉井秋を 午後の窓
残夏光マンホールより人のこゑ 岩田昌寿 地の塩
虎杖の花の散りこむマンホール 岡本 眸
踏みあてて鳴るマンホール雪卍 高井北杜
雪解水マンホールより溢れけり 新 純子
●目抜き
冷まじや目抜き通りに犬の糞 関森勝夫
阿波踊目抜きにかかりハイヤットサ 高澤良一 寒暑
●廊下
あたらしき廊下をとほる恋の猫 仙田洋子 雲は王冠
あてどなく廊下往来や春の雨 西山泊雲 泊雲句集
うか〜と東をどりの廊下行く 高濱年尾 年尾句集
うなぎ焼くにほひの風の長廊下 きくちつねこ
お水取果てし廊下に応と遇ふ 稲増雁来
お涅槃に近づいてゆく廊下かな 岸本尚毅 舜
お涅槃の長き廊下を走り拭き 百瀬ひろし
げんげ咲き胸底という長い廊下 塩野谷 仁
こがらしや廊下のしたの村雀 越中-夕兆 俳諧撰集「有磯海」
ざらつく廊下子に春の咳付き纏ひ 田中英子
たんぽぽの絮舞ふ松の廊下跡 沢田弥生
つややかな廊下に立ちて水を打つ 岸本尚毅 舜
ぬれ足で雀のあるく廊下かな 正岡子規
はたた神渡り廊下でつかまった 渡辺のり子
ふくろふが夜の廊下を歩きけり 角川春樹
まつすぐな廊下明りに入学す 塩谷きみ子
みぎひだり廊下まちがへ彼岸婆々 河野静雲 閻魔
一人出て一人の廊下大試験 森田峠
七草の雪降る渡り廊下かな 長谷川櫂 古志
上の廊下はじまるここに山荷葉 福田蓼汀
上堂の僧等ねむたき蓮廊下 河野静雲 閻魔
下駄であがる宮の廊下や散松葉 散り松葉 正岡子規
人の家に廊下探しぬ春の闇 長谷川かな女 雨 月
人並ぶ寮の廊下や五月雨 五月雨 正岡子規
人日や廊下の艶に日のあそび 今野福子
僧に尾いて足袋冷え渡る廊下かな 楠目橙黄子 橙圃
僧寝ねたり廊下に満つる梅の影 夜の梅 正岡子規
元旦の廊下に落とす玉子かな 鳥居真里子
冬の夜や柾目の廊下つぎつぎと 横光利一
冬籠朝日を拝む廊下かな 会津八一
冬至冷え湧き出す廊下は闇の舌 神矢みさ
分校の廊下飛び交ふ雪ぼたる 佐藤 哲
初雪は渡り廊下を濡らすのみ 岩田由美 夏安
十三夜廊下暗きに寺箒 松山足羽
十薬や渡り廊下のスニーカー 中町恵美子
口切やあくびしに出る廊下口 口切 正岡子規
吹き上げて廊下あらはや夏暖簾 高浜虚子
吾妻のくせ月はけさうし舟廊下 調賦子 選集「板東太郎」
団扇取つて廊下舞ひ出る酒興かな 団扇 正岡子規
夏めくや廊下に映る脛二本 高橋千代美
夏山に温泉の廊下の折れ沈み 高木峡川
夏山を廊下づたひの温泉哉 夏山 正岡子規
夏足袋や温泉宿の廊下山映る 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
夕立や廊下あまりに長すぎる 渡辺誠一郎(小熊座)
外湯まで渡り廊下や火蛾の宿 吉田ひろし
夜の秋の長き廊下を人来たる 石塚秋竹女
夜を寒み鼬の荒るる長廊下 会津八一
夜学の灯洩れ合ふ寮の廊下かな 五十嵐播水 播水句集
夜学子にあるとき暗き廊下かな 高柳重信
夜学果つ廊下真つ先駆けてくる 永井龍男
大覚寺畳廊下の秋のこゑ 高澤良一 宿好
大試験始まつてゐる廊下かな 徳竹芽萌子
大風の落花の廊下掃きにけり 増田龍雨 龍雨句集
太陽が廊下を渡るクリスマス 鴇田智哉
姑の部屋廊下のつなぐ夏のれん 稲畑汀子
子役者の来て手鞠つく廊下哉 尾崎紅葉
学校の廊下に拳大の雪 富沢葦生
学校の廊下をおもう寒露かな 三浦ミヨ子
学校の渡り廊下の干菜かな 上原富子
実むらさき松の廊下の跡にかな 奥村香都子
宿坊の廊下軋むや春の宵 内田八重子
寄せて居る厠廊下の十夜婆 河野静雲
寒参うぐひす張りの長廊下 文田多加子
小廊下や布子の児等が目白押し 西山泊雲 泊雲句集
山桜渡り廊下のある母校 古本ふみ子
山茶花や渡り廊下のひかりをり 木下ひでを
市役所の渡廊下も年木積み 早川紀水
年の灯やとほく廊下のつきあたり 久保田万太郎 流寓抄
廊下から手燭をうつすもみち哉 紅葉もみち<木+色> 正岡子規
廊下から海ながめたる夜寒哉 夜寒 正岡子規
廊下にも一夜たちこめ冬の霧 原石鼎 花影以後
廊下の柿廂の柿に日は一つ 阿部みどり女
廊下の燈寒泉の梅咲きにけり 渡邊水巴 富士
廊下まで匂ふ楽屋の菖蒲風呂 片岡我当
廊下まで夏の落葉の散らばりて 岸本尚毅 選集「氷」
廊下